真・恋姫✝無双 狐来々   作:teymy

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なんとマジ恋ほったらかしでこっち書いちゃいました!テヘペロ!
サブタイですが、最初は「あてのない旅」とかだったんですが、なんだか水曜日の旅番組を思い出してこうなりました。
こうなるとタイトル変えたくなりますね!ゲヘレロ!


黄巾の乱
第一話 我々はこれからですね、あてのない旅に出かけます


芙陽が光の中を抜けると、一面に広がるのは荒野であった。

 

視界を遮るものなど何もなく、遠くに険しい山や森が見えるだけであった。

芙陽が立っているのはどうやら荒野を突き抜ける道の上であるようだ。

 

道と行っても現代日本のように舗装されているわけではない。

長年人が歩いてきた場所だけが色違いになっている程度の、道としては心もとないものだ。

 

「…む。尾が……?」

 

ふと、自分の中にある狐としての姿に違和感を感じた。

現在は人の姿となっているが、本来の姿である狐の体は常に把握している。その本来の姿に変化があった。

九本あったはずの尾が一本しか存在せず、一回り太くなっているのだ。

 

「力が衰えたようには感じぬ。…神格がついたかの?」

 

狐の妖は尾の本数で力の大きさ、存在の格が一目でわかるようになっている。

しかし、それは"妖であれば"の話で、尾が一本であっても大きな力を持つ狐もいる。それが『善孤』に分類される、天に仕える狐たちだ。

芙陽は天に仕える気など更々なかったのだが、いつの間にか善孤となっていた。この現象の原因には心当たりがある。

 

下っ端といえど管輅に従い行動したのだ。それを『天の意志に従う』と解釈すれば、この変化にも説明は付く。

しかし、天に仕える善孤にはもう一つ特徴があった。毛並の色だ。天にいる動物たちは白い体毛を持つ者が多い。狐もそうだった。

だが芙陽の体毛は未だ太陽のように金色に輝いている。

 

「フム…今回は天に従ったが、まだ意志が薄いとして中途半端な存在になってしまったか」

 

芙陽は考察を重ねながら己の掌を見る。天に属する者なら使える筈の『神通力』。自身に感じる神通力は微々たるものしか感じなかった。

しかも、妖力は九尾の頃のまま。何ともおかしな体になったものだ。

 

「ま、妖力が使えるのならどうでも良いの。さて…ここが、三国時代の中国大陸…。いや、後漢末期やもしれぬが」

 

確認するように呟く。

ふと腰に重みがあることに気付いた。

 

「おぉ、いつの間に。管輅め、やるの」

 

ケラケラと笑いながら腰につるされた野太刀を確認する。少しだけ刃を鞘から抜いて、その鋼に触れてみる。

 

「フム、良い刀じゃのう。ちと重いが、人の身では扱いづらいかもしれんの」

 

持ってみた感想としては、頼りがいのある刀であった。一般的な野太刀の形をしており、刃渡りは三尺ほど。現代の数字では約90cm。

通常の太刀より長いが、背の高い芙陽からすれば普通の太刀のほうが短く感じてしまうため、野太刀の長さは丁度良いくらいだった。

問題はその重さ。おそらく馬三頭分ほどの重さはあるだろう。普通の大人でも持つことすら難しい。まして、この野太刀を振り回せるものなど、人外である芙陽にしかできるものではない。

 

「銘は無し…そうじゃの、儂がつけてやろう。お主は『(とことわ)』。いつまでも変わりなく、儂の刃となっておくれ」

 

嬉しそうにそう名付けた芙陽は刀を腰に戻し、再び辺りを見回す。

先程から人が近づいていることは気付いていた。近くに3人。少し遠くにも3人。

近くの3人は中肉中背な髭の男、小さいが目つきの悪い男、そしてデブだった。芙陽を見かけると嬉しそうに近づいてきて、鼻息荒く迫ってくる。

 

「よう姉ちゃん。こんなところに一人でいちゃ危ないぜぇ?」

 

「キヒヒッ、アニキ!さっさとやっちゃいましょうぜ!」

 

「美人さんなんだな。楽しみなんだな」

 

「なんだか昼間っから流れ星が落ちたと思ったら、コイツは幸運だぜ!」

 

「フム、そういえばいつの間にか女体になっとったの。流れ星云々はわからぬが」

 

「何訳わかんねぇこと言ってやがる!大人しく身包み剥がれときゃいいんだよ!」

 

どうやらこの3人は追剥のようなものらしい。

 

「お、コイツ剣なんて持ってやがるぜ。高く売れそうだな」

 

「おい姉ちゃん、そいつこっちに寄こしな」

 

「そんで服も脱ぐんだな。興奮してきたんだな!」

 

一目見ればわかるほどの美人である芙陽を目の前にして欲望を滾らせる男たちに、芙陽はため息をついた。

 

「お主らのような阿保は久しぶりに見たのう…」

 

芙陽の呟きが聞こえたのか、男たちが激高した。

 

「調子に乗るなよアマ…動けなくしてから犯してやっても良いんだぜ?」

 

そういって小さな刃物を取り出す中心の男、アニキ。

 

隣にいる小さな男も同じように刃物を取り出すが、デブだけは何故か棍棒だった。

 

「久しぶりに人でも喰うかの…?」

 

 

その言葉の直後、小さな男の腕が無くなった。

 

 

「……え?」

 

理解できずに自分の腕があった場所を見るチビ。戸惑っているうちに、腕の付け根からは滝のような血が噴き出した。

 

「う、うわあああぁぁぁあああ!!!?」

 

意味もないが肩を押さえて崩れ落ちるチビ。

 

他の二人はそんなチビが理解できなかったことを、今やっと理解しようとしていた。

彼らが見たのはいつの間にか刀を抜いていた芙陽。右手には抜身の刀・常を持っており、左手には…

 

「ぐむ。……うわマズっ」

 

チビの腕だったもの(・・・・・・・・・)を持ち、あろうことかそれを口に運んでいた。

 

「これじゃ大した栄養にもならんの。喰うのはやめじゃ」

 

左手の肉塊を投げ捨てニタリと笑う芙陽に、男たちは戦慄した。

 

この女は普通じゃない。まして人間ではない、化け物である。

 

そう理解した瞬間、蹲るチビを置いて走り出した。

 

「おや、仲間を置いて逃げるか。まるでか弱き獣じゃの」

 

ケラケラと笑い、地面をひと蹴りして男たちに近づくと、それぞれ一太刀ずつ入れた。

 

「ぐっ、がああ!!」

 

「うがあぁ!!痛いんだな!痛いんだな!!」

 

信じられないほどの激痛に、二人とも転げまわる。

 

「見苦しいの。これ以上辛い思いをすることもなかろう」

 

芙陽はそう言って、男二人の首を切り落とした。

 

最後の一人、チビの元へ戻ると、既に息も絶え絶えであり、息苦しそうに芙陽を見つめるだけであった。

 

「覚悟はできておるようじゃの」

 

「あ、あぁ。もう、ひ、ひと思いにやってくれ…」

 

なんとか言葉を紡ぐ様子のチビに、芙陽は刀を構えた。

 

「何か言い残すことはあるかの?」

 

「ね、…姉さん、に。……す、すまねぇ」

 

「確かに聞き届けた。あの世で達者での」

 

チビの言葉を受け止め、首を切り落とす。

懐から懐紙を取り出して、刀に付いた血を清め、鞘へ納めた。

 

そして、物言わぬ亡骸となった3人に向け、黙祷を捧げる。願わくば、次に生を得たときに平和な暮らしが出来るようにと。

 

と、そこで"遠くの3人"が芙陽の元へたどり着いた。男たちが芙陽に近づいた時点で急いできたようだ。

3人とも少女であった。うち2人は体力がないのか肩で息をしている。

 

「そこのお方。無事であるか!」

 

一人元気であった青い髪に白い着物のような服を着た少女が赤い刃の槍を携え声を掛けてくる。

 

「ならず者に後れを取るほど弱くはないが、救援に来てくれたのかの?有難いことじゃ」

 

ケラケラと笑いながらそう返す芙陽に、少女は一瞬呆気にとられたものの、すぐに笑みを返してきた。

 

「いらぬ心配だったようだ。かなりの使い手とお見受けいたす」

 

「なに、長年の鍛錬と経験が実を結んだだけじゃよ」

 

芙陽が槍の少女と話していると、息を整えた眼鏡の少女が周囲を見回して驚いていた。

その後ろで小さな人形を頭に乗せた少女も同じように見回している。

 

「こ、これを貴女一人でやったのですか?」

 

「お強いですね~」

 

驚愕と感心を露わにする少女二人に笑っていると、槍の少女が芙陽の口元に血が付いていることに気付いた。

 

「お主、怪我をしておるではないか」

 

「ぬ?怪我などしておらんよ」

 

「いや、口元に血が付いておるよ」

 

「うむ?…おお、これは儂の血ではないよ。返り血のようなものじゃ」

 

「そうか……って舐めるな!汚い!」

 

「不味いのう」

 

「当たり前ですよ…」

 

「不思議なお方ですね~」

 

ケラケラと笑いながらそんなやり取りをして、芙陽が切り出した。

 

「儂は芙陽という。お主らの名を聞きたい」

 

槍の少女がまず答えた。

 

「私の名は趙雲。字は子龍。槍を極めんと旅をしている」

 

芙陽は内心で驚いていた。趙雲。聞き覚えのある名であった。

 

(管輅め…なにが『ちょっと変わってる』じゃ。いきなり結構な狂い違いに出会ったぞ)

 

ここが三国時代であることはわかっていた。そして現れた趙雲を名乗る少女。

 

(もしや後ろの二人も聞き覚えのある英傑かの?)

 

そう思って二人を見ると、それが名を聞かれたのかと勘違いした眼鏡の少女が答えた。

 

「私は戯志才(ぎしさい)と言います」

 

(戯志才?どこかで聞いた名じゃの…?)

 

思い出そうとするが、その前に最後の一人、人形の少女が名を名乗ったため、取り敢えず考えるのは後にした。

 

「程立といいます~」

 

(程立…後の程昱か。何故趙雲と一緒におるのだ?)

 

「ふむ。戯志才に程立よ。お主らは武術を嗜むようには見えんの。何故趙雲と旅を?」

 

「私たちは軍師志望なのですよ~」

 

「士官先を求めて星…趙雲に護衛を兼ねて動向してもらっているのです。突然空が光り、流れ星が落ちたので様子を見に来たのですが…」

 

ふむ?と一つ疑問に思った。話の内容ではない。先程の男も言っていた流れ星についても気になるが、戯志才の趙雲に対する呼び方だ。

 

「戯志才よ。そのせい、だったか?それは趙雲のあだ名か何かかの?」

 

その瞬間、趙雲がとてつもない殺気を放ち槍を突き付けてきた。

 

「貴様!我が真名をあだ名などと申すか!!」

 

「真名?…なんじゃ、真名とは?」

 

「…は?真名を知らない?」

 

戯志才が驚いていた。

 

「芙陽さんはこの大陸のお人ではないのでしょうか~?」

 

程立は何かを悟ったように聞いてくる。

 

「うむ、そうじゃの。北西の海を渡った先の島国から来た…というところじゃの」

 

「そこに真名の習慣はないのですか~?」

 

「ないのう」

 

それを聞いて趙雲は槍を納めた。

 

「芙陽。真名とはこの大陸では大切なものだ。その人の本質を表した名として誰しも持っている名だ。本人から真名を伝えられない限り友人で会っても、たとえ目上の立場の人間であっても不用意に呼ぶことを許されぬ。斬られても文句は言えぬほど無礼なことなのだ」

 

「なるほどの。忌み名のようなものか」

 

趙雲の話を聞いて納得する芙陽。そして内心では真名について説明しなかった管輅を呪いながら、趙雲に謝罪した。

 

「趙雲。すまなかったの」

 

「むう。悪意は感じられなかったゆえ、今回は許す。気を付けられよ」

 

「ふむ。代わりに儂の秘密を一つ、教えてしんぜよう」

 

「ほう、別に対価を要求するつもりも無かったが、其方の秘密は興味深い」

 

そう言って芙陽を見つめる3人に、ニタッと意地の悪い笑みを零すと、いきなり芙陽の体に変化が現れた。

 

ばさっっと音を立てるように急に現れた獣の耳と尻尾(・・・・・・)

 

「「「……」」」

 

それを見て唖然とする3人の少女に、満足げにケラケラと笑う芙陽。

 

「き、貴様、妖の類か!?」

 

再び槍を突き付けてくる趙雲に溜息を禁じ得ない芙陽は、冷静にさせるため、一瞬でその槍を奪い取った。

 

「落ち着かんか」

 

「!?」

 

いつの間にか手元の槍が奪われ、力の差を見せつけられた趙雲。

最悪の状況に、戯志才と程立にも緊張が走る。

 

「確かに儂は妖じゃが、こうして話もできる。お主らを喰おうなどと思っておらぬよ」

 

「それを信じろと申すか?」

 

「信じる信じないはお主らの自由じゃよ。まぁあくまで向かってくるのならば一捻りにして喰ってやるがの」

 

そう言いながら槍を趙雲に返す芙陽。

 

「…星、信じますか?」

 

「信じるも何も、こやつがその気なら我らは今頃揃って腹の中だ。手を出すわけにもいくまい」

 

「星ちゃんの言う通りですね~」

 

「わかってくれたかの?」

 

「あぁ。失礼した」

 

「良い。こちらも悪戯が過ぎたようじゃしの」

 

ケラケラと笑う妖に幾分緊張が緩んだ3人は、取り敢えず芙陽について聞くことにした。

 

「先程口元についていた血はもしかして~」

 

「クフフ…お主の想像通りじゃよ。じゃが余りに不味かったのでな、喰うのはやめじゃ」

 

「おぉ~やはり好みの味があるのですか~」

 

「その耳は…狐ですか?」

 

「そうじゃよ。儂は古の時代より生まれし狐の妖じゃ。本来の姿は…ほれ」

 

ポンッ、と煙が吹き出し、一瞬のうちに美女の姿から大きな狐の姿に変わる。

その大きさは芙陽の屋敷にいた際の姿よりも大きく、頭の位置は少女たちの頭上にある。寧ろこちらが本来の大きさであり、屋敷では不便であるため小さくなっていたのだ。

口は開けば人の頭など一飲みにしてしまうほどだったが、程立はそれに動じず芙陽へ近づいた。

 

「おぉ~。大きいですね~」

 

「カカカっ。あまり近づくと喰うてしまうぞ?」

 

「話が違いますよ~」

 

「服や剣は消えたのだな」

 

「服は儂の妖術で作っておったものじゃ。刀は…刀も同じ扱いじゃの」

 

「カタナ?」

 

「儂の剣じゃ。儂の国ではこの形の剣を刀と呼ぶ。切れ味重視じゃの」

 

そう説明しながら人間の姿に戻る芙陽。しかし今度は男性の姿になった。

 

「お主…男なのか?女なのか?」

 

「儂らにとって性別はあまり意味を成さぬよ。勿論性別のある者もおるが…。

 儂は長く生きておるからの。本来の性別は忘れてしもうた」

 

「繁殖はするのですか~?」

 

「こら風!下品ですよ!」

 

「カカカッ、儂も元は唯の獣。繁殖は可能じゃよ。勿論相手は選ぶがの。性別はあまり気にせぬから、気に入った相手の異性として過ごせば良いしの」

 

「適当ですね~」

 

「年寄りは細かいことを気にしなくなるものじゃよ」

 

「とてもそうは見えませんが…」

 

「何千年も生きとるんじゃ。見た目はある程度で止めておる」

 

「な、何千年って…」

 

「クフフ…儂から見ればお主らも、死にかけの老婆もただの小娘じゃよ」

 

「流石に傷つきますね~」

 

「さて…儂の話も良いが、少し聞きたいことがある」

 

「なんでしょう~?」

 

「まず場所じゃ。ここはどこかの?」

 

「は?……陳留の近くですが、わからないのですか?」

 

「陳留…曹操の土地かの?」

 

「良く知ってますね~」

 

「唯の知識じゃよ。それで、漢王朝はどうなっとる?」

 

「どう…とは?」

 

「まだあるかの?」

 

「まるで漢王朝が無くなってしまうかのような言い方ですね」

 

「気にするな。黄色い布を付けた盗賊団の話を知っておるかの?」

 

「黄色い布?…聞いたことは無いですね…」

 

(となると…やはり後漢末期かの。趙雲も劉備に会っていないようじゃし)

 

「どうしました?」

 

「いや、よくわかった。なに、ちょっとした世情調査じゃよ」

 

首を傾げる3人だが、そこで芙陽は出したままの狐耳をピクリと動かした。

 

「何か来るの…大人数、軍勢じゃな」

 

「おそらく陳留の刺史、曹操殿でしょう。この辺を視察に来るという情報がありました」

 

「む。遭遇すると面倒だな、向こうに街がある。そこへ行くか」

 

「そうしましょう~」

 

「儂もついて行って良いかの?」

 

芙陽の提案に、3人は顔を見合わせたが、すぐに結論は出た。

 

「人柄…人?まぁ性格は穏やかなようですし…私は構いません」

 

「私もその強さが気になるのでな、賛成だ」

 

「食べないでくださいね~?」

 

「クカカッ、お主ら次第じゃよ」

 

ケラケラと笑いながら3人に付いていくことにした芙陽だった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

近くの街に入った芙陽達は、取り敢えず食事を取ることにした。

しかし、芙陽は路銀など持っていない。食べなくても平気なのだが、皆が食べている間ボーっとしているのも詰まらない。

そこで、飯店の場所だけ決めておいて、路銀を手に入れることにした。

店の前まで来ると、いつの間にか女の姿になっていた芙陽が切り出す。

 

「飯はここで良いかの。なら儂は少し稼いで来るから、待っとれ」

 

「稼ぐって…どうするつもりですか?」

 

「あまりやりたくはないが…効率的じゃよ」

 

そういうと芙陽は一人歩き出した。刀は趙雲に預け、歩幅を小さくして静かに歩く。

ゆっくり、静々と歩くその姿は、どこか気品を感じ、家柄の良い娘のように見えた。

趙雲は何故芙陽があんなことをしているのかわからなかったようだが、軍師を目指す二人はその行動の意味に気付いた。

呆れながら芙陽を見ていると、大柄な男たちが芙陽に近づき、囲み始める。困ったように周囲を見回す芙陽だが、関わり合いになりたくない民たちは見て見ぬふりをした。

 

「あ奴ら…!」

 

「星、落ち着きなさい。芙陽殿があの程度の男に後れを取ると思いますか?」

 

「は?……あぁ、そういう事か」

 

ようやく趙雲も芙陽の意図に気付き、そのまま静観する。

か細い声で周囲に助けを求めた芙陽だが、男たちに腕を取られ、裏道へと連れ去られて行った。

 

「助けたほうがいいでしょうか~?」

 

「なんだ?芙陽なら心配ないだろう?」

 

「いえ、あの男の方たちの方ですが~」

 

「「………」」

 

趙雲と戯志才は程立の言葉に顔を青くした。芙陽の人柄は先程からある程度理解している。だが、あくまで芙陽は妖、しかも肉食の狐なのだ。あの男たちが喰われないとも限らない。

程立の心配は当然であった。

 

どうするべきか迷っているうちに、ニコニコと笑顔の芙陽が戻ってきた。片手にはジャラジャラと音のする袋を持っている。

趙雲と戯志才は取り敢えず、芙陽の口元に血が付いていないことに安堵した。

 

「芙陽殿…食べてはいないですよね?」

 

「失敬な奴じゃな。殺してはおらんよ」

 

「しかし良い策ですね~。星ちゃんもやってみては~?」

 

「儂だって態々弱者を演じるなどしたくないんじゃよ。恥ずかしゅうてたまらんわ」

 

「私とてそのような行いはしとうないぞ、風」

 

「まぁ、そんなことより飯じゃ、飯」

 

路銀を手に入れた芙陽は、呆れる趙雲と戯志才の視線を逃れるように店に入っていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

さて、食事を終えた4人は、店の隅の席を陣取り、小声で話し合っていた。

というのも、食事中に聞こえてきた"ある噂"が原因だ。

 

『管輅って奴の占いじゃ、真っ昼間に流れ星が現れた時、天の御使いが大陸に平和をもたらす為に巨竜を倒しに来るらしい。なんでも、その御使いってのが金色の毛並を持つ獣なんだそうだ』

 

この話を聞いて噴き出したのが戯志才だった。丁度水を飲んでいたのだが、器官に入ったらしくむせてしまっていた。

趙雲、程立は目を見開いた後、心当たりのある『金色の毛並を持つ獣』に目を向けた。

 

「まぁ、儂の話に聞こえるの」

 

ここに来て最初に出会った男も戯志才も、流れ星を見て芙陽の元へ来たらしいことを言っていた。

巨竜というのはこの先にある暴君・董卓の事を指しているのか、それともその先の戦乱の事か。何より噂の根源は芙陽も良く知るあの娘だ。芙陽自身をこの世界に送ったのも管輅である以上、この話の『天の御使い』は芙陽以外の何物でもなかった。

取り敢えずは店の隅に移動して、聞かれないように小声で話し合っているのが今の状態である。

 

「で?芙陽殿、心当たりは?」

 

「管輅とやらも知っておる。まず間違いなく儂の事じゃろ」

 

あっけらかんと言う芙陽。これでも様々な呼び名で呼ばれてきた芙陽だ。

 

「今更呼び名が一つ増えたところで気にはせん。呼び名如きで儂が行動を変えることもないしの」

 

「つまり、平和のために戦うとかはしないのですか~?」

 

「儂は暇つぶしにこの世界(ここ)へ来ただけじゃ。面白いことがあれば首を突っ込みもするが、誰かのために苦労するなど御免じゃの」

 

「民が苦しんでいることに特に何も思わないのですか?」

 

「それは人の都合じゃ。藁にも縋る想いで頼まれたとて、儂は藁でも神でもない。人の事は人が解決したらいいじゃろ。

 というか、儂に頼って平和を手にしたとしても結果は見えておる。儂が疎ましくなって再び争うのがオチじゃ」

 

長く生きてきたからこその芙陽の言葉に、戯志才も反論はできない。

戯志才も『平和のために力あるものが戦うべき』などと言うつもりはない。今の言葉も芙陽が"天の御使い"についてどう思っているかが気になっただけの、唯の質問であった。

戯志才にとって平和とは、"天の御使い"などと言う不透明な存在に縋って施されるものではいけないと思っていた。平和とは、自分たちが最後まであがき続けた結果として掴み取るべきものだというのが、戯志才の考えである。

 

芙陽としても、この時代の民がどんな暮らしをして、どんなことに怯えているのかは理解している。先程芙陽が、演技とはいえ助けを求めたにも拘らず誰一人として介入しなかったことからも実情がうかがえた。

唯でさえ苦しいこの時勢、態々他人を助けるような余裕はない。上に立つ者が下にいるものを助けないのなら、自分たちでその身を守らなければならないのだ。

その考えは間違っていないと芙陽は思う。

誰かが立ち上がらなければいけない。時代を嘆くだけでは平和は訪れない。しかし、立ち上がるにも力が必要になる。戦う力、守る力、考える力、人を集める力が必要なのだ。そして、力が無いのが"民"である。たとえそれらの力があっても、『立ち上がる力』が無いのが"民"なのだ。ならば道は『生きるために足掻く』ことしか残されていない。それを責める権利など誰も持ってはいない。

 

「まぁ、時代とは常に動く"生き物"のようなものじゃ。いつまでもこのような状況が続くわけではない」

 

「時代が動く…と?」

 

芙陽の言葉に難しい顔をしていた戯志才が顔を上げた。

 

「そもそも一部の者が私腹を肥やすような時代が長く続く訳がないじゃろ」

 

「噂のように誰かが平和へ導くのですかな?」

 

「その平和へ導く者を『英雄』などと呼ぶが…英雄など都合よく現れるわけないじゃろ。民からの不満を溜めに溜めた現王朝が少しでも隙を見せてみろ。あっという間に皆で寄ってたかってすぐに引き摺り下ろされるぞ」

 

「では芙陽さんの言う『英雄』とはどのような者を指しますか~?」

 

「その"隙"を見逃さず、ここぞという機で立ち上がり勝利する者を英雄と呼ぶ」

 

「その…現王朝が倒れたとして、すぐに平和が訪れると思いますか?」

 

「そんな訳ないじゃろ。王朝が倒れるということは、上に立つ者がいなくなるという事じゃ。今度は誰が頂点に立つかの群雄割拠の時代じゃよ」

 

「ふぅ、争いは収まらぬか…」

 

「当たり前じゃ。そもそも漢王朝が高祖劉邦が築いたにも拘わらずこのザマじゃ。人の歴史は争いの歴史よ」

 

そう言って芙陽は、湯飲みに入った茶を飲み干した。

 

「いやはや、勉強になりましたね~」

 

「はい。流石と言うべきか」

 

「年の功でありますかな?」

 

いつの間にか敬語のようなもので話すようになった趙雲にケラケラと笑いを返す。

知らないうちに『芙陽の世情講座』になっていたが、話すべきはこれからどうするか、である。

 

「で、儂としてはしばらくお主らの旅に付いていきたいんじゃが」

 

「私としては構いませぬよ。鍛錬に付き合って頂くことになりますが」

 

ニヤリと笑って趙雲が言う。

 

「構わぬよ。其方のお主らはどうじゃ?」

 

「芙陽さんの話は勉強になりますからね~」

 

「私も賛成です。またお話をさせていただきたい」

 

「クカカッ、決まりじゃな」

 

取り敢えずの方針が決まった芙陽は愉快に笑った。

 

「それではこれから旅を共にする仲間、真名をお預けいたしましょう」

 

「良いのかの?」

 

「えぇ。芙陽殿は信頼に足るお人だと確信いたしましたので。これからは星とお呼びください」

 

「私も風と呼んで下さい~」

 

「お主もか」

 

「私も真名をお預けします。その前にまず、申し訳ありません。戯志才と言う名は偽名です。女の旅は危険ですからね」

 

「ほう、では本来の名は?」

 

「姓を郭、名を嘉。字は奉孝。真名は稟と申します」

 

(郭嘉かい。なんで戯志才を名乗ったんじゃ、別人じゃろ)

 

「ふむ。では星、風、稟。改めて、空孤・芙陽じゃ。よろしく頼む」

 

 

時は後漢時代。戦乱の幕開けとなるこの時代に空孤・芙陽は降り立った。

 

新たな世界への旅立ちに、狐がケラケラと笑っていた。

 




芙陽の大きさは大きな馬より少し大きいくらいだと思ってください。
あれです、もののけ姫のモロです。屋敷Verがモロの子供の山犬くらいですね。
曹操が芙陽に苛められて涙目になりながらフワフワの体に抱き付いて頭ぐりぐりしてる姿を想像して鼻血出しました。誰か首トントンしてぇ~!

誤字、脱字報告、感想などお待ちしております。


2015.6.30 刀の銘を修正『常』の読み 『とことよ』→『とことわ』
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