東京レイヴンズ~英霊を従えし陰陽師~   作:スペル

11 / 21
いよいよ、原作三巻突入
楽しんでくれたら嬉しいです!!




原作三巻
第十夜 星に迫る影


東京の某所にある釣り堀。料金を払って都会にいながら海の魚を釣れる場所に、一人の男がいた。ヨーロッパ地方の血を感じさせる野性味を隠せない顔つき、青い髪を一本にまとめている。アロハシャツという明らかに場違い感のある服装の筈なのに、不思議と違和感なくその東京という場所に溶け込んでいる。

男は口笛を吹きながら、微動だにしない浮きを見ている。まるで機械のような正確さで男の持つ釣り竿は微動だにしない。何も知らない素人からすれば、何ともない光景だが、釣りを知る者達からすればそれを維持するのにどれだけの集中と筋力が必要か察する為、男は通い出して数日にも拘らず、常連たちも一目置く存在となっていた。

事実、男のバケツには多くの成果が入っている。

 

「おっと」

 

素早いスナップで竿を引く。上がってきた獲物から即座に針を剥がし、再び流れる様な動作で投げ入れる。男の持つ竿はリールもない、何世代も前のモノだ。しかし男は己と竿が一体になるそれがとても気に入っている。否定するわけでは無いが、男の中では今時の電動リールなるものは邪道だと考えている。

そんな気分よく釣りをする男。

そこへ

 

「釣れてるかね?」

 

男の気分を害す声が届く。声の主もまた一人の男。年は男と同い年だろうか、白髪の髪に鷹を連想させる鋭い目(今は比較的穏やか)。顔つきは少々日本人離れしているが、確かに東洋の血を感じさせる。服の上からでも鍛えられているのがよくわかる。かけられた声に「ボチボチだ」と視線も動かさずに告げる。鷹の目の男は「そうか」と告げると、男の横に荷物を降ろし、釣りを始める。それを見た男の眉が僅かに上がる。

 

「何しに来やがった」

 

「やれやれ、連れないな。折角旧知の知り合いが尋ねてきたというのに」

 

やや挑発的な言葉にも、鷹の目の男は自分のペースを崩さない。それは逆に気に食わないのか、男は舌打ちを鳴らす。

 

「なに、心配はいらないさ。仕事は終わらせた(・・・・・・・・)。それで暇だったのでね。そろそろ時期(・・)だと思い、一度顔を見ようと思ったわけだ」

 

「そうかよ」

 

事務報告のようなセリフにも男は不貞腐れた様に答える。何というか仲が悪い悪友のような関係にも見える。事実、二人の付き合いは長く深い。

 

「それでどうなんだ?」

 

「まあほぼ当たり(・・・・・)だ。兆し(・・)はまだ見えてねえが、時間の問題だろ」

 

「そうか」

 

世間話をしながら二人は釣竿を引き魚をボックスに入れる。しかしその声音は明らかに違うナニカを含んでいる。

 

「そういえば、向こうの家(・・・・・)はどうだ?」

 

「そっちも順調だな…‥まあ少々変則的(・・・)になってるが、間違いはねえな」

 

「尚更、確証と言う訳か」

 

鷹の目の男は「やれやれ、忙しくなりそうだ」と告げると、来たばかりだというのに荷物を片付け始める。

 

「手は出すんじゃねえぞ…‥まだその時(・・・)じゃねえ」

 

気配が消える直前、視線も何も動かさず男は警告する様に告げる。それを破れば、手を下すという明確な意思をのせて。対する男も「わかっているさ。だが、別の人間を助けて結果的に手を出す形となったのなら、仕方はあるまい」と不敵に返す。

 

「たっく、相変わらずのタヌキが」

 

独り言のように男が呟く。既にその場所に彼の姿はない。そんな中一人の常連が、一つのコーヒーカンを持ちながら男に問いかける。

 

「なあ兄ちゃん?この辺に白髪の兄ちゃんがいなかったか?さっきまで此処にいた筈なんだが」

 

辺りを見渡しながら常連は「壊れたリールを直して貰った礼をしたいんだよ」と告げる。話を聞いた男は、空いている方の手に顎を置き、不貞腐れた顔をしながら

 

「帰った」

 

と短く告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終了のチャイムが鳴る約五分前。四季は自分の回答の見直しを終え、ゆっくりと息を吐く。本当は身体も伸ばしたいが、流石にそれはと自重する。暇になったので解答用紙を裏返し、視線だけで辺りを見渡す。凛は完全に満点の自信があるのか鼻歌を唄い、京子も自信ありとあくびを零し、天馬は最後まで問題と向き合っている。冬児は未だに問題に取り組んでいる。そして夏目は何処か顔を青くしながら、自身の前の席に視線を向けている。夏目の視線を追った四季は、うわっという顔をする。二人の視線の先には、最早虫の息というべき姿の春虎の姿。これは完全に望み薄だ。

 

――――大丈夫か?

 

そんな事を考えている間に、終了のチャイムが鳴り響いた。解答用紙を前に回しながら、四季、凛、冬児、天馬、京子の四名の視線は、机を涙で濡らす春虎を捉えている。それを見た凛と京子は呆れたというわんかりにため息を、四季と天馬は乾いた笑みをこぼし、冬児は面白そうに笑っている。そんな中、一人夏目は春虎にどこが出来なかったのか、そしてなぜできないんだと問いかけているが、完全に燃え尽きた春虎には効果がない。

近くに凛が来ることを視界に納めながら、四季は最近できた友の先を案じると同時

 

「もういい…‥全力は尽くした。だから、あとは実技で挽回するっ!!」

 

そんな春虎の決意の声が届いた。その決意を聞きながら、四季はふとを窓の外を見る。もう既に春虎と冬児が転塾してから半年が過ぎていた。

そして一回生から二回生に上がる為の、進級試験が行われていた。

 

 

 

 

 

アリーナで行われる模擬戦を見ながら凛は「ホント、よくやるわね」と呆れた声を漏らす。左側にいる天馬は応援を、そして凛の右側に居る夏目はハラハラしながら、春虎と京子の一戦見つめている。発端としては、半年前の起きた夏目を巡る夜光信者との一戦が原因だ。あれ以来、力不足を痛感した故にこうして放課後をアリーナを借りて自主練をしていると言う訳だ。まあ今回は、来たる実技に向けてという意味合いもあるが。

そんな事に意識を裂いていた凛だが、ふと隣から「やった!」という歓喜の声が届く。その声につられ、アリーナに視線を向ければ春虎が京子の式神『黒楓』に錫杖を付けている。勝負ありだ。

 

「春虎君って本当に筆記は最悪だけど、実技はなかなかよね」

 

「ホントだよね。僕なんか、もう抜かされてるよ」

 

「あら?そう言えないわよ。何たって彼、未だに呪力の変換は錫杖頼みだし、簡易式の扱いまだまだだから、総合的にはまだ天馬君の方が上の筈よ」

 

「遠坂さんの言う通りだぞ、春虎!!自力で変換できないと意味がないぞ。実技では呪具の使用は禁止されてるんだからな」

 

ガミガミと自分の式神に欠点を述べる夏目。その姿を見て天馬は「クス」と笑みをこぼす。

 

「な、なんだよ、天馬君。何がおかしいのさ」

 

「だって‥‥春虎君が勝った瞬間に腰浮かせてガッツポーズして『やった!』って言ってたんじゃない。それも顔を真っ赤にさせて」

 

「本当よね。もしかして夏目君て、ツンデレなのかしら」

 

天馬と凛の指摘に夏目は顔を真っ赤にしながら慌てて否定する。その際、夏目の土動揺を春虎がたしなめるという一幕があったが、比較的に賑やかな雰囲気がそこにはある。

 

「あれ…?そう言えば冬児と四季は、どこ行ったんだ?」

 

ふと辺りを見渡していた春虎は、先ほどまでいた二人の友の姿が見えない事に気がつく。その疑問に答えたのは、夏目といい合っていた天馬だ。

 

「二人とも塾長に呼ばれて、塾長室に行ったよ。塾長の式神の三毛猫に呼ばれてね」

 

「わざわざ塾長室に呼び出し。なんか心当たりあるか、京子?」

 

「さあ。私は特に何も聞いてないわ。けど、お祖母様の事だから、もしかしたら二人によくないモノを読んだんじゃないかしら?」

 

「よくないモノ?」

 

「そ。お祖母様はは国内屈指の星読みだから」

 

「星読み?」

 

「占いの事よ、春虎君。塾長は、対象の少し先の未来に何が起きるか予知にも近い占いが出来るのよ」

 

「やっぱりアンタ、もう一回一回生をやり直した方が良いんじゃないかしら?」

 

余りの無知に京子は呆れた様に呟く。

 

「うるせえ。でもまあ‥‥塾長のやる事なら心配ないか、大友先生ならともかく」

 

「二人とも落第直前のアンタに比べて、心配する要素はないわね」

 

京子の指摘に春虎は苦汁の顔をする。その後、夏目による実技試験の対策が行なわれた。

 

 

 

 

 

塾長室の前。そこに四季はいた。最初は冬児と共にたのだが、塾長に席を外してほしいと頼まれ部屋から退室してここで待っているのだ。呼ばれた理由として思い浮かぶのは、やはり自分の家柄だろうか。塾長は高名な星読みだ。自分について何か伝えておくような読みが出たのかもしれない。

時間にして数分後、扉か冬児が出て来る。

 

「お疲れ、で塾長は何だって?」

 

「生憎、堅く口止めされたよ」

 

「それもそうか」

 

入れ替わる様に部屋に入る四季。その間際、四季は先に帰って良いぞと告げる。冬児は「助かる」と告げて歩を進める。少し様子のおかしかった友人は、そのまま見えなくなった。

部屋に入った四季は、そのまま塾長が座る机の前に立ち止まる。

 

「あらいらっしゃい。其方のソファーに掛けてらっていいわよ」

 

「‥‥わかりました」

 

イスから立ち上がり、ソファーに腰掛ける塾長に続き四季もまたソファーに腰を下ろす。

 

「それで何の為に俺を呼んだのでしょうか?」

 

「あら?早急ね。余り物事を早く知ろうとすることは、賛成できなわよ?ゆっくりとでしかわからない物事だってある訳ですから」

 

四季の言葉に塾長である美代は、笑みを浮かべながら受け流す。

 

「ただお話がしたいんですよ」

 

「話しですか…?」

 

余りにも予想外の言葉に四季は一瞬呆けたよ顔をする。

 

「ええ、聞きたい事は一つ。貴方が土御門夜光と衛宮式に対してどんな印象を持っているとか言う事よ」

 

瞬間、四季の顔が僅かに堅くなる。美代はそれを察していながらも、先ほどと変わらない口調で「どうかしら」と問う。

 

「土御門夜光についてですが、俺は…‥少し陰陽に優れた普通の人としか思えないのですが」

 

今度は美代の眉が僅かに上がる。「失礼だと思うんですけどね」と四季は告げる。事実、四季は夜光と言う名にそれ程何も感じていなかった。

その言葉を聞いて美代は小さく「本当に似てる(・・・)わね」と呟く。

 

「それじゃあ、貴方の先祖については?」

 

「その前に一つ。塾長は俺の先祖と会った事があるんですか?」

 

「ええ、夜光と一緒に一度だけですが」

 

当然のように発せられた言葉に四季は驚き息を呑む。それでもしばし考える素振りを見せたと一言

 

「…‥よくわからないですね」

 

「あら、どうしてかしら?」

 

「単純に家に彼に関する資料がほとんどなくて、伝聞されたことしか聞いていないのですが、それだと俺の思っている事にはなりませんし、第一言ったら失礼かもしれないんですけど、なんかみんなが言うほど悪いようには思えないんですよ。むしろ相当お人よしだったんじゃないかなと聞く限り思えて」

 

「そう」

 

四季の言葉にお茶を飲みながら美代は小さく呟く。その後しばしたわいのない会話をした後、美代が告げる。

 

「実は、今回の実技。貴方の星が読みにくく先が見えないのです」

 

「‥‥どう言う事ですか?」

 

「貴方達の家の星はひどく読みにくいの…‥。でもよくないモノが貴方知近づいているわ。それだけは心の淵にでもとどめておいて」

 

その言葉を聞き四季は「判りました。忠告ありがとうございます」と告げ、塾長室から退室する。

一人となった美代は、先ほどの四季の瞳を思い出す。似ていた。かつて一度見た彼に。性格は似ていない、されど確かに似てるモノがある。

あの瞳は案じる目だ。自分に迫る者が、周りに影響を及ぼすことを。そして彼はその為に戦うだろう。

そういう男を美代は一人知っていた。

 

「本当に生き写し様に似てるわね」

 

衛宮の星の読みにくさの理由は判らない。全く別の術による影響か?それとも星読みの力すら凌駕する何かがあるのか?美代にはわからなかった。一度、ゆったりとお茶を飲み思い出す。

初めて彼と会った時の、そのセリフを

 

『初めましてだな、俺の名前は衛宮式。夜光の親友だよろしく』

 

言葉だけ聞けば、普通の会話だろう。しかし汗だくで道場に仰向けになりながら言われたのだ。戸惑わない訳だない。その姿を夜光は腹を抱えて笑っていたが。ある程度笑い終えた夜光は、仰向けの式に一言告げた。『手を貸してくれ』と。

その時の式の瞳を自分は生涯忘れないだろう。子供のようにキラキラと歓喜に光、同時に抜身の剣の様に鋭く冷徹な瞳。

そんな瞳を四季もしていたのだ。

 

しばし美代は昔と現代(いま)を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場所はある意味自分には似ても似つかないだなと大友は思った。かつての上司に呼ばれて来てみたが、やはり自分にはこう言った雰囲気の店は合わないなと思う。まあ、あの腹黒上司に事だから、それを踏まえて此処を選んだ可能性だってあるが。

 

「それで用って何ですか?僕、一応部長とは縁切ったつもりなんですが‥」

 

「バカ野郎。今までさんざん面倒見てやってきただろうが!その恩をたった一枚の紙きれでチャラにできると思ってんのか」

 

どんな場所でも自分の「場」とするような男にして、かつて呪捜官だった大友の上司天海大善(あまみたいぜん)は、笑いながら大友の言葉を否定する。

どうして自分の回りにはこう言ったジジイやババアしかいないのだろと大友は常思う。

しばし半年前の夏目の事件のことを出しに嫌味を言ったが、全く効果がない。むしろ自分にその嫌味が倍になって帰って来る始末である。

そんな中、知り合いの名と共にある男(・・・)の名前が挙がった瞬間、大友の雰囲気が変わる。先ほどの胡散臭い空気が嘘のように冷たい刃が顔を出した。

 

「へえ…まだ倉橋長官は、あの(ボン)安生飼いならせとらんのですか」

 

「首輪はハメた。鎖にもつないだ。狂犬から牙を折るような真似は意味がねえ。言っただろ、どこも人手不足なんだよ。それに現状では小暮と言峰(・・)の奴が頑張ってくれてるから。出番は最低限に抑えられてるがな」

 

これ以上無駄話をしても意味がないかと大友は本題を切り出そうと決意する。その為に先ほどから自分達を覗き見ている存在を呼ぶ必要がある。大友の指摘に天海は「…、目ざといな」と笑みを浮かべ呼びかける。

現れたのは、比較的に顔の整った男性だった。呪捜官らしい個性のない事だが、癖のない真っ直ぐな黒髪の一部が血のような朱色に染まっている。男の名は比良田篤弥(ひらたあつね)。かつて大規模なテロ「上巳(じょうし)大祓(おおはらえ)」を起こした盲信的夜光信者の巣窟だった御霊部(ごりょうぶ)の一斉摘発の尽力者だと大友は記憶していた。天海の話を聞く限り自分の後釜(・・)のようだ。

 

「でだ。漸く本題だ」

 

天海の言葉に大友は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「言っておきますけど…‥‥僕一介の塾の講師ですからね?」

 

「おうよ。そのただの塾の講師様に用があるんだよ。噂の転生者がらみのな」

 

瞬間、再び刃が大友から顔を出す。その姿に天海はクスッと笑み零す。

 

「なんだ。講師なんてガラじゃねえと思っていたが、存外板についてるじゃねえか」

 

無駄話はいいからさっさと本題を教えろと大友は静かに告げる。大友の言葉に答えたのは比良田だった。

 

「現状で双角会に新たな動きが見られます。それも超大物が動いている」

 

「大物ってまさか…‥『D』やないでしょうね」

 

比良田の言葉に大友は冷や汗をかきながら天海を見る。天海は何も答えないがその空気が全てを語ってる。

呪捜官たちの間である陰陽師を指す隠語だ。そしてその名は誰もが知っている超有名人だった。

芦屋道満(あしやどうまん)。またの名を道満法師(どうまほうし)

文字通り伝説の陰陽師。何百年と昔の人物だが、実際に存在し脅威としてマークされている存在だ。

 

「最近『D』は積極的に双角会のメンバーと積極的にコンタクトを取っています。そしてそのメンバーも特定できました」

 

「…‥それは?」

 

「かつて御霊部のトップにして『上巳の大祓』の首謀者。そして『現・十二神将』大連寺鈴鹿(だいれんじすずか)の実の父親である大連寺至道(だいれんじしどう)の右腕だった男 六人部千尋(むとべちひろ)です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大友が比良田よりその名を聞いていた独刻。一台のリムジンが渋谷駅付近に止まった。リムジンから出てきたのはおよそ高級なリムジンとは全く縁の風貌をした男。

 

「お世話になりました」

 

男は後部座席一度頭を下げる。

 

「構わん構わん。どうせ何時ぞやの詫びじゃ」

 

窓が開き、座っていた和服の老人が姿を現す。ミイラのような風貌からは想像も出来な程若々しい声だ。

 

「じゃが惜しいの‥‥お主、死ぬつもりじゃろ?祭りはまだ始まってすらないというのに」

 

「…‥‥」

 

「まあ、儂には関係がないか。ま、どうせなら派手にやってくれ。その方が儂も退屈せん。‥‥それに衛宮がどう動くか楽しみじゃしな」

 

老人の言葉に僅かに男の眉が上がる。しかし老人は全く気にした様子もない。むしろ何か期待している節がある。今回の件もある意味でその名のお蔭でこの老人を説得できたのだから、男の心境はモヤモヤしている。

 

「ええ、わかっています。ですから、どうか‥‥」

 

「わかっておる。今回は傍観に徹するよ。少なくともケリがつくまでな」

 

「…‥恐縮です。道満法師」

 

それだけ告げて男はリムジンから離れた。決意の色を瞳に宿し、今は亡き上司に告げる。

 

「見ていてください。大連寺部長」

 

そう言って歩き出した足が止まる。男の視界に陰陽塾の制服を着た一団が映っている。

 

「‥‥北辰王」

 

その呟きはか細いモノだったが、確かな羨望が合った。一瞬、男に黒髪の少年と話がしたいという欲求が込み上げる。しかしその欲求を押しとどめ、男は傍観する。その中で二人の男子が男のナニカに触れる。一人は判る衛宮の人間だ。彼を巻き込む(・・・・)事を条件に男は老人の傍観を約束させた。色々な意味で男にとって複雑な対象だった。人間らしい感情は少年を巻き込むことに心を痛め、罪悪感が募る。しかし逆に陰陽師としてはそれでいいというむしろ許せないという感情が湧く。

だが、もう一人の男子生徒は判らない。自分は何処かで彼と会ったのだろうか?男は、一団が通り過ぎるまでその場に佇んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道路を走るリムジンの中老人はこれからか起きることを想像し笑みをこぼす。

 

「さてさて、現衛宮は何を見せてくれるのかの?今から楽しみじゃ…‥」

 

かつて光景を思い出し老人は傍観する。本当ならば自分も介入したい。しかし少し前、自分の隠れ家に放たれた一本の矢文。『手は出すな』ただそれだけ書かれた分を読み、老人は全てを察する。(とき)が近づている事を、そして彼ら(・・)がまた集まり出している事を。

 

「お主はどう動くつもりじゃ…‥のう、弓兵よ」

 

ああこれだから衛宮は面白い。そう思いながら見せた笑みは、深いナニカを纏っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、寮のベットで横に成りながら四季は、なかなか寝付けなかった。不安と期待で自分が思っている以上に身体が興奮し寝付けない。参ったなと思う。これでは明日の試験に差支えが起きるかもしれない。進級が関わっているのだ、ほんの僅かな不安も残したくない。

しかし同意に悟ってもいた。これはたぶん塾長のセリフが原因だと。自分が巻き込まれるのはいい。そうなることなど、父親から聞いていたし覚悟もしている。だが、それに他が巻き込まれるのは容認できない。

 

「ふぅ」

 

零れるため息は何に対してかわからない。準備はした、対策も行った。例え疑似霊災の修復でも何ら問題はない。そういう強さを四季は父から学んだ。

それでも不安が残る。

 

「参ったな‥‥此処までメンタル弱かったけ、俺?」

 

自分の夢がかかった最初の試練というのもあるあろう。此処でしくじれば、自分の夢は潰える。

そんな中、自分の携帯がメールを受信している事に気がつく。慌てて内容を確認する。差出人は凛だった。

中身を見て、四季は笑みをこぼす。

 

「流石。凛だな」

 

書かれていたのは『くだらない心配をしてる暇あるなら、さっさと明日に備えて寝ろ、バカ!』だった。隠していたつもりだたたが、凛には筒抜けだったらしい。今までも凛に隠し事を隠せたためしはないが、今回は結構自信があったのだが。そしてふと、画面がスクロールする事に気がつく。スクロールした、最後に一文だけ添えられていた。『アンタは一人じゃないんだからね、忘れんじゃないわよ!!』

 

「ははっ」

 

そうだったと思う。そうだ。試練があるなら乗り越えればいい。危機が迫るならば、払えばいい。何時だってそうだ、自分が迷い戸惑い足踏みした時、何時だって凛が背を押してくれた。

不思議と先ほどまでの不安も興奮の消え失せた。

 

「やってやるさ。俺は絶対に超えて見せる」

 

宣言し、凛のメールに『大丈夫。心配かけてすまなかった』と送り、四季はベットに入る。数秒で四季の意識は夢に消えた。

 

明日すべてが決まる。道が続くか途切れるか。どれだけ焦ろうが、明日の今頃には答えは出ている筈だ。

そんな四季の決意を笑う様に、後『上巳(じょうし)再祓(さいはらえ)』と呼ばれる事件が、刻一刻とその時を待っていた。




どうでしたでしょうか?
良かったら、感想をお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。