三巻、今回で終わらなかったよ…‥…次で、必ず終わらせよう
楽しんでもらえたら、嬉しいです
四季が準備を終えたとほぼ同時期、もう一つの勝負が決着がついていた。
「言峰さん!!これは…」
「ふむ。どうやら、初めから
黒鍵を駆使し、己らにかけられた魔術を斬り裂いた言峰は、木暮と共に駆け出し、六人部の繰り出した式神を切り伏せると同時に、六人部が霊気が乱れ、そのまま息を引き取った。
その事態に木暮は驚愕するが、言峰は冷静に状況と事態を解析するように考え込んでいる。
「木暮よ、人員を数名此処に呼べ。ただし最低でも一人、陰陽医の資格、もしくは心得のある者を呼べ。人員が来るまで、六人部の死体はお前が守護せよ」
「わかりました!!それで、言峰さんは…」
言峰の言葉に頷く木暮。そんな木暮の問いに対して、言峰は少し先を視ながら…
「私は、先行して行った彼らの援護と保護に回る。本来なら、二人で行くべきなのだろうが、六人部の死体に何かしらの術や、六人部の仲間に回収られるわけにもいくまい。そう考えると、鵺に魔術が施されていることも考えれば、私が行くしかあるまい」
淀みなく反論すら、不可能なほどの正論を口にする。言峰の言葉に、木暮は自分の無力さを噛みしめるように刀をきつくに握りしめる。
「……わかりました。言峰さん、あの子たちをお願いします」
「ふむ、木暮よ。己の無力さを悔いることはない。そんな暇があるならば、強くなるために精進せよ。お前はまだ、若いのだからな。今は、私たち
言峰はパンパンと木暮の頭を叩くながら兎歩を使い、その場を離れた。言峰が場を離れると同時に、木暮もまた本部へと連絡をつける。
「無事でいてくれよ、みんな…」
陰陽庁でも屈指の実力者である言峰が行くのだ。不安などを覚えるのは、むしろ彼に対する侮辱でもある。しかし魔術の行使という、今までにない事態に、木暮は言いようのない不安を振るえなかった。
木暮が言いようのない不安を振るえなかったその瞬間、東京の夜空の上で金色の竜と暗き鵺に銀色の子狐に三点の鴉天狗が、そして白色の白馬が未熟なる鬼と雛鳥が、一堂に会していた。
――――恐れるな…これから先に待ち受ける全てに
天を駆ける雪風の上で冬児は、今まで無理やりに抑え込んでいた
『それを手放すな。大丈夫だ、君は一人ではない』
瞬間思い出すのは、顔すら思い出せない誰かの言葉。ああ、確かにこれは得難いものだ。そして、だから自分は大丈夫だと確信できる。
内側から、沸き上がる鬼の叫びと闘争。自我を喰われんとする中で、その言葉は不思議と
――――感謝するぜ、どっかの誰かさんよぉ
もう迷いはない。沸き上がるその全てを受け入れたうえで…
――――さあいま、獲物をくれてやる
今、自分が放ちえる全てを込めた錫杖を…
「春虎ぁっ!!!」
先にて戦う友へと、全力で投擲した。
声が聞こえた。聞き間違えるはずのない、悪友の声。振り向けば、雪風に跨る冬児の姿。なぜという疑問が頭をよぎるが、その疑問を全て頭の隅へと追いやる。
槍のように投擲された錫杖の只ならぬ気配を察した鵺は、その射線から身をひるがえすが…
「北斗っ!!」
それこそが冬児の狙い。まるで吸い込まれるように春虎の手に錫杖が収まる。春虎の声の意味を理解した北斗が、その姿を見て自分のすべきことを理解したコンが鴉天狗たちが動く。
北斗が春虎を乗せ、
「うおおぉぉっ!!」
冬児からのパス。その錫杖に込められた思いに答えるように、春虎の常人以上の霊気が錫杖を介して呪力となり、錫杖が螺旋を纏った牙と化す。それは、春虎が春より取り組んできた訓練の集大成でもある。
鵺が頭上の力を察して逃走しようとするが、そうはさせぬとコンと鴉天狗が逃がさない。そして北斗が頭上の春虎ごと、鵺に向かって強襲を仕掛ける。
「喰らえっ!!」
北斗が噛みつき、完全に動きが止まった鵺に向かって春虎が錫杖を振り下ろす。その牙が鵺にあたる直前……
「その
赤いサングラスの老人が楽しそうに笑い呟くと同時に、六人部より鵺に取り込まれた札が効力を発揮する。
「チィ。読みの逃していたか………多少難易度が上がったが、彼には超えてもらしかないか」
そして春虎たちから遥か先のビルの屋上で、紅い外套を身に纏い弓で構えた、鷹の目の男は、
不安が無いわけではないが、先ほど見せた技量ならばギリギリ突破できるだろうと、あたりをつけ、信じると決める。
「ほっほぉ。さて、どう動く?衛宮よ。先ほどのよりも強力だぞ」
自身に向けられる殺意をその身で感じ流れらも、老人は子どもの声音で愉快そうに笑う。一度は視れた実力。本来ならば、それで目的は達したと考えてもいいのだが、そんな常人の思考を彼は持っていない。
もっと混乱を、もっと試練を。その血が目覚める事を望み、老人は次に期待する。
入った。春虎は、錫杖を振り下ろしながらそう確信する。鵺の動きを北斗とコンに加え三匹の鴉天狗が止めているのだ。春虎がそう思っても無理はない。
ただしそう思うには、今回の事件において重要なファクターである魔術の存在を、興奮がゆえに一時的に忘れてしまっていた。もしくは、彼が何もいなければ、その通りになっていただろう。
「なにっ!!??」
ガキン!と甲高い音を立てながら、錫杖が見えない壁に阻まれたように弾かれ、大きく体勢を崩す。
「春虎様っ!!」
「「「わわぁ!!??」」」
「—————!!??」
コンが春虎の身を支える。そして連動するように、攻撃を仕掛けていた北斗と鴉天狗たちも弾かれる。
そして鵺自身も自分の身に起きた変化に戸惑いながらも、今がチャンスとばかりに怒号を響かせる。その声は確かな力となり、コンを春虎を空中へと吹き飛ばす。
「なぁっ!!??」
「「春虎(様)っ!!」」
空から落下する春虎の姿に遠くから見ていた冬児が体勢崩したコンが叫ぶ。そして鴉天狗たちや北斗も目を大きく開きまずいという表情を見せる。
―――――ヤバい、死ぬっ!!
落下する。しかし自分には、打てる手がない。そう思い、来るであろう衝撃に備えるように目をつむる。
その瞬間、ポンと優しい衝撃が春虎を襲う。
「えっ?」
驚き目を開ければ、大型の鳥を模した簡易式が春虎をその背に乗せていた。
「一体……」
誰がと。疑問を口にするよりも早く…
「春虎ぁぁああああっ!!」
陰陽塾で初めて友人となった四季の声が届いた。
冬児が錫杖を春虎に投擲する直前、地上では準備を終えた四季がその時を計っている。そしてその隣に、少し遅れてなバイクに跨った夏目が合流する。
「冬児っ!!??」
「いいタイミングだ!!」
上空を見つめていた四季と夏目は、冬児の登場に驚くがそれ以上に安堵が心に広がる。だが、春虎の行動を見た四季の顔色が変わる。
「あのバカ!!完全に忘れてやがる!!」
「
弾かれ、空に落下する春虎に夏目が声を荒げる。
――――クソ、イチかバチかだ
集中しているからこそ、維持できている
言峰に託されていた簡易式に呪力を流し込み…
「春虎を助けろ!!」
命令を出す。瞬間、四季の前に聳え立っていた力が拡散する。
「そんな…」
突破口が霧散した事実に、夏目が体が震える。
――――どうする?今からじゃ、間に合わない
元々、ギリギリだったのだ。今から新たに精製する余裕は、四季にはない。打つ手なし。自分の無力さに身体が、包まれかけた瞬間…
―――――たわけ!!強大な呪力が目の前にあるのに、貴様は何をしている
「え?」
聴こえたのは、叱咤激励に近い声。身に覚えのない声。なのになぜだろう、心の底から湧き上がる何かは?そして同時に沸き上がったのは、その言葉。
――――強力な呪力が、目の前に?それってどういう…っ!!
そうだ!!自分にないなら、他を使えばいい。そんな都合のよい存在が、今いるのだ。なら自分は、それを魔術に返還さしてやればいい。
だからこそ、四季はこの逆境を生んだ発端であり突破口である存在に向け……
「春虎ぁぁあああっ!!」
あらん限りの声をもって叫んだ。
自分を呼ぶ声。誰が自分を助けたのか、すぐに理解する。そして…
「思いっきり、呪力を込めた錫杖を鵺に向かって投げろっ!」
その言葉をなぜと疑問に思うこともなく。考えるよりも先に身体が動く。
「おらぁ!!」
あらん限りの力を込めて、自分にとどめを刺さんと迫っていた鵺に向かって、錫杖を投擲する。
そして「コン!!みんな、避けろ!!」今なお、鵺と戦う仲間に声をかける。春虎の声に一瞬、戸惑うがその瞳を見て、彼らは一時鵺から離れる。
錫杖が鵺にあたる直前で、何かに阻まれる。しかし、錫杖を追う形で数枚の札が、鵺と錫杖をとりかこむ。
札は回転し大きな渦となり、錫杖に込められた呪力を取り込むことで、淡い青色の光を生む出す。
『フランケンシュタインの怪物は、膨大な雷鳴よって命が稼働したとされている。なら、逆はどうだ?膨大な電気が逆に生命を吸収し、力を削ぐ可能性だってあるわけだ。そういう考えもまた、魔術には必要なんだ』
「札の効力ごと、一気に削いでやる!!」
思い出すのは、父親の言葉。今回は、その考えを利用すればいい。消すのではなく、地面に設置した札に、相手の魔術的効力を放出させる。その為に必要な呪力は、春虎が用意してくれた。
鵺も何か危険を感じているのであろうが、もう遅い。
「行け!!
四季がその言霊を発すると同時に、青い雷電が錫杖を中心にまるで巨大な大樹のような霊気を生み出し、地面に設置された札へと落雷として発射される。
眩い雷光で、その場にいた全ての者の視界が一瞬白で染まった。
眩い雷光が晴れ、視界が回復する。その中で春虎が、最初に目にしたものは…
「なっ!!全然、効いてないのか」
錫杖が腹に刺さりながらも、未だにその不気味な瘴気をほとばしらせる鵺の姿。しかし春虎が動揺している中、二人は冷静に動く。
「夏目!!」
「はい!!」
夏目は準備を、そして四季は連絡を。四季の連絡を受け上の頭上より三点の流星が走る。鴉天狗たちが、鵺を思いっきり道路へと叩きつける。
悲鳴をあげながら鵺は起き上がろうとするが、鴉天狗たちの攻撃が強力だったのか、体に大きくラグが広がってる。
そしてそんな鵺の周りに札が、現れる。
「
呪文と共に淡い光が夏目を覆い。そして呪文を唱え終えると同時、夏目は刀印を思いっきり振りかざす。
瞬間札の内側に向け、先ほどの四季とは似て非なる光が辺りを包み込む。
そして光が収まる頃、春虎が目を開けると今度こそ、鵺の姿はその場から消えていた。
次回の更新も、遅くなるかもしれません…‥…‥申し訳ないです