――――後、2話で絶対三巻は終わらせます!!
楽しんでもらえたら、嬉しいです
夜の帳を照らし、夜天にそびえ立つ雷樹の霊気を横断歩道橋で見つめていた鏡は、不敵で獰猛な笑みを浮かべる。
「ほお。そのクラスの鵺を祓うか…。
これはますます、夜行の転生って噂に真実味がましたな」
鵺と直接戦い、春虎たちの戦いを一部始終を見ていたからこそ鏡は断言する。あの霊災である鵺は、奇跡だけでは雛鴉に祓えるような代物では無い。
いくつかの幸運に、大人達、そして正体不明の何者かの手があったとしても、明らかに春虎達の手に余る存在だった筈だ。
しかし、彼らは見事鵺を修祓して見せた。それを可能にした根拠を探すなら、あの噂しか無い。
「ククク。おもしれぇ。それにアレが衛宮か。視た感じだと、魔術ってのは霊気そのものを創出するに等しいな。
確かに陰陽術には無い考え方とアプローチだが、アレが全部じゃねえだろ。まだまだ秘めてやがるな」
それと同時に、鏡は初見の魔術の分析を行う。陰陽庁にて魔術の扱いは限りなく禁忌に近い。唯一知る者である言峰も場を乱さない為か、進んでは使わないし口も堅い。
数年前までもう一人いたらしいが、その正体も調べても出てこなかった。
今回視た魔術は、テロで用いられたであろう防御と鵺を祓った術のみだが、術の根幹そのものの系統が違いすぎる為、鏡は魔術にもいくつかの種類があると考察を深める。
グツグツと鏡の奥底から炎の如く燃え上がり始める、好奇心という名の闘争心は、
「折角、ウザってぇ監視の目がないんだ。此処はいっちょ、揉んでやる「こんな夜更けに怖い笑い声上げてどうしたん、鏡君」ッ!!」
瞬間,燃え上がり始めた炎が冷や水をかけられた様に、鏡の表情が固まる。鏡の頬を冷たい汗がツゥーと流れる。
十二神将たる自分が、興奮していたとはいえ簡単に背後を取られるという失態に焦々したのではない。まるで世間話をするようにかけられた声に、鏡は己の最大の失態を悟った。
彼に安易に背後を取られる意味を鏡は骨身に染みて知っている。
大抵の存在を己が喰らうべき餌と判断する
今間違いなく、自分の首元に刃が突きつけられている。
「これはこれは、大友先輩じゃないですかー。
そういう先輩こそ、こんな時間に散歩ですか?」
だが、その動揺を表には出さない。声音を整え、普段と変わらぬ口調で世間話に興じる。既に先手は取られている。これ以上、無様な隙を晒せば、巻き返しは効かない。
寧ろ、この危機をどう脱するか会話の中から糸口を見つけるべく、鏡は自分が不利な戦いに身を投げた。
「いやなに、僕な。
実は今、教師やってんねん」
――――ッ!!陰陽塾…
その授業、俺も是非受けたいっすね」
「いや~~。それが教師っていうのも苦労が多くて大変やねん。
何なら、昔みたいに現場仕事していたほうが楽な気がするくらいや。
今も、コワイコワイ塾長の命で時間外労働中や」
「ハハッ!!天下の
「堪忍してほしいわ。
ただでさえ生徒にもの教えるのに大変やのに君みたいな犬っころの面倒なんて見てらへん」
「ッ。…犬ですか。
何ならその犬と一緒に走り回った頃に戻りますか?
大友先輩が戻ってくるのは大歓迎ですよ」
見え透いた挑発。乗る理由などないし、乗ってしまえば更に掌で踊ることになる。理性は必死に押しとどめるが、鏡伶路の本能がそこに足を置かれることを否定する。
暗に示す挑発で返す。その表情に冷たい炎が再び灯り始める。
「う~~ん。それも一瞬考えたけど、やめとくわ。
案外、教師っていうのが性に合ってるのかもしれへんと思い始めたところや。
―――それにこんな足じゃ、キミみたいなのと仕事するのは草臥れそうで嫌やな」
トンと後ろから杖の先で背中を叩かれる。
「はっ!
随分と弱気じゃ無いですか。
心配しなくても、介護ぐらい僕でも出来ますよ」
「いや~~遠慮するわ。
キミに介護されるほど落ちぶれてはいないねん」
――――此処までか「そうですか。それじゃあ、今度
どうにも流れを読ませず掴ませない。これ以上は危険であると判断し鏡は退くことを決める。しかし只では退かない。宣戦布告の挑戦状を叩き付けるのを忘れない。
だが、その言葉が出た瞬間大友の口が不適に弧を描く。
「いや~。それは無理やろ。
なんせ君はこれから、僕が今、
それも古文書引っ張りださな
「はあ!!
ありえねえ!!
幾らアンタでも、この短時間で俺に気取られずに呪詛を仕込むなんて――――」
大友からの衝撃の言葉に鏡は、先程までの冷静さを欠き、大友へと振り替え様とするが、それよりも早く、ドンと背に突きつけられた杖の先が強く強く押しつけられる。
「その通り。
今のは嘘…ブラフや。只し、99%のな。
残りの1%はほんまかもしれへん。
言っている意味分かるな、鏡君」
「ッ―――――!!」
「何のために僕が君をエゲツナイ現場に同行させたと思ってるん?
僕という人間を君の骨の髄まで知らしめるためやで」
声音も抑揚も変わらない。ただ発せられる言葉の重みだけが違う。
「君はバカやない。
この僕の言葉が100%と嘘やと確信ができない限り、君は僕の言う通りにしか動かれへん。
当然や。この僕相手に、1%もリスクを背負う意味をきみはよく知ってる」
背中に押しつけられた杖がカンとコンクリートの地面を叩いた。それが決着の合図だった。
「良いぜ今回は退いてやるよ。
だが呪詛を解呪したら、覚えてろ。
いの一番に、アンタを喰いに行ってやるよ」
「お~こわっ。
ま、ゆっくりと頑張り」
勝負は決まったが、それでもただ負けを呑むなど許されない。屈辱と怒りに染まる鏡の言葉を大友は柳のように受け流す。
そんな二人に近づく足音が二つ。
「お~い!、陣に鏡!!
此処にいたのか」
殺伐とした空気を風ように吹き飛ばすような朗らかさで小暮が二人の前に現れた。小暮の登場に大友は完全に霊力をなぎ、鏡も分が悪いと判断し感情の一切をかみ殺す。
「おお、ゼン。
そっちも無事に終わったか」
理由も聞かず、事件の終結を断言する大友の台詞には、それだけ小暮に対する信頼が見て取れる。そんな大友の信頼を察した小暮はバツが悪そうに視線を逸らす。
「いや…逃げられた」
「はあ?」
「いや!正確には捕まえられなかったんだ。あいつ、自分に自殺用の術を仕込んでいたみたいでさ」
大友のマジかコイツというような視線を受けた小暮は慌てて弁解するが…
「アホ――。
はあ~~。そんなんやから、お前は何時も何時も――――」
「小暮さんって、昔もツメが甘かったんですか?」
「そうやん。
昔なんかは―――」
「待て待て待て!!
オマエらさっきまで仲悪かったよな??
何でこのタイミングだけ仲良くなってるんだよ!!」
自分の黒歴史をばらされるのは困ると小暮が慌てて大友の口を塞ぐ。対する大友も、そこまで弄る気は無かったのかここまでと、口を紡ぐ。
逆に鏡は、大友が話さないことを察して残念そうに舌打ちを零す。
事件も解決し、気が緩み出す三人。
「大友よ、余り小暮を責めてやるな。
その場には私もいたのだ。
君の言う通り、基本的なことも疎かにしていた身としては耳が痛い」
「言峰さん!!
なんや、ゼンのドジで逃したかと思ったんですけど、言峰さんがいてそうなら向こうが上手やったって事ですね」
「そう言って貰えると助かるよ」
「おい、陣!
俺と対応が違いすぎるだろ!!!」
「いや、当たり前やろ。
自分、最近テレビによく出てるからって、調子にのってるんと違う?」
「乗ってねぇよ!!」
二人のやり取りは普段のテレビでも塾でも見られない友人ゆえの気安さが見て取れた。その微笑ましいやり取りを鏡はくだらないとそっぽを向き、言峰は年長者として口を開いた。
「二人とも、なれ合いは後にしたまえ。
まずは、塾生達の元へ――――ッ!!」
「「「っ―――――!!!」」」
瞬間、実力者4人が一斉に春虎たちの方に視線を向ける。それを視た瞬間、4人は先手処か数手も取られている事に気がつく。
その黒いリムジンが雛鴉の元に辿り付いた光景を最後に、4人の視界から雛鴉達が消えた。
結論から述べるなら、4人が辿り付いたとき、全てが終わっていた。