トシさーん。
手を振れば、元気いっぱいに負けじと振り返してくる。
お父さんより12歳も上で、今年で50歳らしいけどトシさんの方がよっぽど若い。
あの大きな手の振り方、顔をくしゃあと歪めた満面の笑み、褐色の肌に麦わら帽子……
もしかしたら僕より若くて無邪気かもしれない。
「トシさん、ひさしぶり」
「よお来たな聡。泰史もあがりな、すいか切ったけえ」
「縁側っ。縁側で食べようよっ。トシさんっお父さんっ」
「ほんまに聡はすいかの種飛ばす好きやなあ」
「聡は種飛ばすためにすいかを食べてるようなもんだからね。この前なんかベランダですいかの種を美咲と飛ばし始めて風子に叱られてたよ」
「なんや、もう美咲もすいかの種飛ばせるようになったんかいな」
「兄貴、触れてほしいのはそこやない……」
普段、僕と同じ標準語を話すお父さんはトシさんの家に来るとたまに関西弁になる。
いつも真面目そうな感じで淡々と話すお父さんが、関西弁の独特なイントネーションで喋っているのを見るとそれだけで別人のように思える。僕は関西弁を喋るお父さんが正直結構好きだったりする。
「まあ、遠いところから車に乗って疲れたやろ。はよう荷物置いて涼んできい。泰史は今日泊まって帰るんか?」
「いいや、明日も仕事。すいか一切れだけ食べたらあっちに帰るよ」
「ほう、ならすいか一玉持って帰るか? 家帰って風子さん達と食べんさい。」
「ありがとう、美咲が喜ぶわ」
くしゃあと笑うお父さんを見て、笑った顔はトシさんとそっくりだなあと思う。
僕と美咲が笑ってるとき、僕たちもあんな風に同じ顔になってるのかな。
美咲……あぁ、来て早々もう軽いホームシックだ。
ああ、いけないいけない。せっかくの楽しい夏休みなんだ。
大好きなトシさんの家でお泊りの夏休みなんだ。
さみしいなんてあるわけないっこの先に待ち受ける楽しみに全力でぶつかっていくのみっ。
僕は真っ先にある楽しみにかぶりついた。
すると、しゃり、といい音がしてあまあい汁が出てくる。
こんなすいか食べたことないっ。
スーパーで買ったすいかとは大違いだ。
「おいしいっ」
「お、もう食べとんか。」
「調子のって食べすぎると腹壊すぞ。ほどほどにしとけよ」
「すいかで腹壊すなんて泰史やあるまいし大丈夫やろ」
「……あれは俺だけじゃなくて兄貴だって一緒に腹壊してたでしょ」
「なんや、覚えとんか。懐かしいなあこの町のすいかチャンピオンは結局誰やったかいな」
「誰だったかなあ……って、聡っ! もう地面すいかの種だらけじゃないか」
「ねぇトシさん。落ちてる種、これ全部すいかになるの?」
「いいや、ここの土じゃあすいかは育たんなあ」
あえてお父さんをスルーすれば、諦めたようにため息をついて二切れ目のすいかを手に取った。
一切れ食べたら帰るんじゃなかったっけ。
どうやらトシさんのすいかが好きなのはお父さんも同じらしい。
「よし。スイカ食べて一息ついたら、トシさんが林につれっててやろう」
「やったあ」
「持ってきた虫よけスプレーをちゃんとつけてから行けよ」
「まったく泰史は口うるさいの」
「うん、お母さんより口うるさいよ」
「そのお母さんが、聡は蚊に刺されやすいから持ってけっていったんだからな」
なんだ、そうなのか。
僕は走って荷物のある部屋へ飛び込んだ。
リュックから虫除けスプレーを取り出してまんべんなく腕と足にかけたら、また走ってトシさんの元へ戻った。
「トシさんっ行こう! お父さん、トランクから虫取り網とかご出して!」
「はいはい」
無事、虫取り網とかごを手に入れると、お父さんは用が済んだからと帰っていった。
「じゃあ行こう、トシさん」
「おお、その前にこれ被ってきな。」
トシさんが僕の頭に乗せたのは麦わら帽子。
ちょっと大きいけど、子供用のつるつるした感じじゃなくて、触るとざらっとして少しちくちくするこの感触がたまらない。
「ありがとう、トシさん」
「構わんよ」
お揃いだね、なんて女々しいことはわざわざ口にはしないけどトシさんと一緒で嬉しいのは確かだ。