一条宗次郎として過ごすことになって数年、ついに羽姉との別れが訪れた。彼女は最後まで笑っていたが、帰る直前になってぼろぼろと涙を溢して離れたくないと駄々をこねていた。いつもは誰よりも大人ぶっていた彼女は、実は誰よりも寂しがりで子供らしい部分があるということを知っていた宗次郎は、
「また会えるよ!絶対!」
彼女の頭を撫でながら言い、それを見た楽も、
「いつでも帰ってきな!羽姉!」
彼女の頭をもみくしゃにした。
「も、もう、やめなさ〜い!」
頬を赤くしながら髪を直していた彼女はいつものお姉さんの顔になっていた。そして、
「2人とも元気でね!楽ちゃん、宗ちゃん!」
大きく手を振る姿を最後まで見届けた2人は、
「早く会えるといいね…」
「会いに行くのもありだよな!」
「ふふっ!確かにね!」
再会の話で盛り上がりながら羽姉の送別会の片付けをしていた。
さらに年月が経ち彼らは中学3年生となり、受験生として勉学に励んでいた。
「楽は凡矢理高校にしたの?」
「あぁ、この辺じゃ偏差値もまあまあだしそれなりの大学も狙えるしなー。地方公務員だったら無理に頭の良い高校に行かなくてもなれるって先生に言われたんだ」
「なるほどね。良いと思うよ!」
「宗次郎こそいいのか?お前ならもっと上の学校に行けるだろ?」
「僕は別になりたいものがあるわけじゃないし。楽しく学校に通えればいいから。それに僕は一応楽の護衛だからね!」
「一応ってお前……」
2人で進路の話をしていると男が近づいてきた。その男は擬音としては宗次郎のような『ニコニコ』ではなく『ニヤニヤ』がぴったりと合う
笑顔で話しかけて来た。
「いやぁ〜。実に夢のない兄弟ですなぁ〜。せっかくの高校生活を台無しにするつもりですかぁ?」
「なんだよ集、俺はちゃんと公務員という夢がだな………」
「お前堅すぎだろ……。本当にヤクザの息子かっつーの!」
「普通だけど、ヤクザとしては普通じゃないよね」
「お前さっき良いと思うって言ってたじゃねぇか!」
「そだっけ?」
宗次郎の発言に楽が振り回されるのはいつもの光景だ。話しかけてきた男は面白おかしく、楽の進路を茶化してきた。彼の名前は舞子集。楽の昔からの親友であり、宗次郎が楽の家に住むことになってからは宗次郎とも親友になった男である。ヤクザの息子だからと言って楽達を遠ざける者がいた中で、楽達に壁を作らずに話しかけてきた少ない者の1人だった。彼はそういうことを全く気にしない性格で誰とでも話せるので交友関係はとても広い。宗次郎はそんな彼を少しだけ尊敬している。
「でも集も凡矢理でしょ?なんか理由があるの?」
「そうだそうだ!お前こそ立派な夢があんだろーな⁉︎」
「ふっふっふ!よくぞ聞いてくれたな……。そうさ、俺にはちゃんとした理由があるのさ!」
「「なになに?」」
「それはな………。凡矢理高校の女子のレベルが高いからだ!必ず俺は美女と付き合ってあんなことやこんなことを……むふふふ……!」
「………。聞いた俺が馬鹿だった………。」
「同じく………。」
宗次郎はこんな男を『少しだけ』尊敬していることをちょっぴり後悔しながらジト目で集の事を見ていた。集はどんな妄想をしているのかはわからないがニヤニヤと幸せそうに笑っていたため、その目には全く気が付いていなかった。
「でもまあこれからもまた一緒だね!よろしく!」
「そうだなぁ!楽しみだぜ!」
「そういうのは受かってからだぞ。」
「「堅っっっ‼︎」」
楽の堅すぎる発言の後、昼休み終了のチャイムが鳴り響き男3人の進路の話は終わったのだった。
「(そうかぁ……。凡矢理高校かぁ……。……よしっ!)」
その話を近くで聞いていた者が大きな決断をしたことをまだ誰も知らない。
女の子と絡ませていきたい(切実)