「しかしペンダントが見つかって良かったよ。」
「そうだね。みんなにお礼言わないとだね。」
ペンダントが見つかり上機嫌な楽と、これからは楽と千棘の口喧嘩が減ることに安堵している宗次郎は帰りながら今日の事を話している。
「そういえばさっき小野寺が『約束の女の子』に見えたんだよなぁ。」
「小野寺さんが?まぁ確かに雰囲気は似てるかもね。」
「来週会ったら小野寺に駄目元で聞いてみっかな!」
「小野寺さんの事もいいけど、ちゃんと桐崎さんにもお礼言いなよ?」
「わかったっつーの!俺だって一応感謝してんだから!」
「だったらいいけどね。喧嘩しないように見張っとくよ。」
こんな会話をしながら家に着くとすでに空には赤みが差していた。
「もうメシの準備しなくちゃいけねぇなあ。」家での食事当番である楽が靴を脱ぎながら呟く。
「手伝おうか?」と家の掃除当番である宗次郎が尋ねる。
宗次郎も料理は上手い。和食においては楽よりも上手ではあるが、それ以外の料理は挑戦すらしないため結局は楽が作る事になっている。
「いや、この時間だったら全然間に合うから大丈夫だ。それより宗次郎は今日も修行か?」
「手伝わなくていいなら修行しようかなとは思ってるよ。」
「わかった。メシが出来たら呼びに行くよ。」
「はーい!じゃあまた後でね。」
そう言って2人は自分の部屋へ別れていく。
宗次郎は制服を全て脱ぎ、修行用の袴を羽織る。上は薄い水色で下ははっきりとした紺色、これは瀬田宗次郎として生きていたあの頃を彷彿とさせるものだった。初めてこれを見たときはかなり驚いたが、同時にこの服が欲しくなり自分の父親にねだって買ってもらったのだ。それ以来父親はあまりねだらない宗次郎の行動に感激し、色んな袴や着物を買い与えてきた。完全なる親バカである。そして部屋に飾っている刀を手に取り少し離れの小屋に向かう。
その小屋の中には畳が敷きつめられており、サンドバッグが十数個吊り下がっている。普段はこの場所はヤクザ達が武術の練習しているが、この時間になると宗次郎1人が使うことになっている。そして今もここで修行をしている宗次郎の姿がある。
「はあっ!せいっ!」
縮地で畳を削りながら移動し、サンドバッグに蹴りをかましている。縮地の速度から繰り出される蹴りはサンドバッグを大きく揺らし、中身が少し出てしまっている物もある。袴の袖で汗を拭き取り部屋から持ってきた刀を見る。
「ふぅ……。最後に『あれ』をやって終わりにしよう。」
そう言うと刀を手に取り、かつて自分の中で唯一自分で名前を付けた技の構えをとる。大きく息を吐き、宗次郎に1番大きなサンドバッグが目に入る。途端宗次郎の姿が消え、その場の畳が一瞬で駄目になる。
大きな音が聞こえた瞬間サンドバッグが中身の砂を振りまきながら壁に叩きつけられる。
「まだまだ甘いな……。掃除が大変だよ。」
自分でやっておいて肩を落としている。彼の手には幕末を戦い抜いた男が持っていた不殺の象徴である刀『逆刃刀•真打』が握られている。
「どういった縁なんだか……。でも少しだけ緋村さんの意志、分けてもらいますね。」
この刀は一条家の蔵に保管されていて見つけた時は目を疑った。今のような平和な時代にはこの刀が望ましいと思い、これも父親にねだるとあっさりと許可してくれた。以来この刀を振るい続け、すっかりと宗次郎の手に馴染んでいた。刀を脇に差して箒で飛び散った砂をかき集める。そうしていると小屋の扉が勢いよく開く。
「なんかすげー音が聞こえたけど……、お前またやったのか!」
「ごめんね。でも僕はまだまだ未熟だなぁ。」
「何を目指してるんだお前は……。」
楽が小屋の中の状態を見て『瞬天殺』を繰り出したのだと理解した。楽やヤクザ達も1度だけ見たことがあるが、あれは人間の出来る技じゃないと感じヤクザ達ですら身を震わせていた。その日から宗次郎は護衛も任された弟となったのだった。
「もうご飯出来たの?」
「いやまだだけど親父が話があんだってさ。」
「父さんが、わかった。掃除してからいくから先に行ってて。」
「俺も手伝うよ。待ってる間が暇になっちまうからな。」
「ありがとう!」
2人で部屋の砂をかき集め終わり、父親の部屋へと向かう。
「失礼しまーす。」
「入るぞー。話ってなんだよ?」
そう言い部屋に入ると自分達の父親が椅子に座ってなにか考え事をしていた。子供が入ってきた事に気づくと、
「おぉ来たかおめぇら。この前大事な話するっつったろ?実はギャングとの抗争がいよいよ全面戦争に移りそうなのよ。」
「なんだと⁉︎大丈夫なのかよ戦争って……。」
「手伝いますか?」刀を掴む宗次郎。
「いや、この戦争を回避する方法が1つだけあってな。それをおめぇらどっちかにやってもらいたい。」
「「方法?」」
「向こうのボスとは古い仲でな。あいつにもおめぇらと同い年の娘がいるんだが……。どっちかその子と恋人同士になってくれねぇか?」
「はぁーーー⁉︎こ、恋人だぁ?なんでそんな……。」
「なに、フリだけでいいからよ。2代目同士が恋仲だったら水差す訳にもいかねぇだろ?なんだ彼女でも出来たのか?」
「うっ……、それはだなそのー。」
「わりーがこっちも命かかってんでな、泣き言言ってもやってもらうぜ?どっちがやんだ?」
楽は挙動不審に宗次郎と父親を交互に見ていた。
「僕は構わないですよ。」
「宗次郎!お前本当にいいのかよ!」
あっさりとした宗次郎に詰め寄る楽。
「今の僕には特定の人もいないし。でも少し聞きたいことがあります。」
「なんだ、宗次郎?」
「互いの組のボスが旧知の仲だと言うことを表明すれば良いだけではないですか?」
「そ、そうだ!それが1番手っ取り早いじゃねえか!」
「それがそうもいかねえのよ。ウチのモンはそれで納得出来るが、向こうははっきり言って規模が違う。複数あった組織を武力で無理矢理1つの組織にまとめあげた組だからな。」
「つまり派閥があると言うことですか?」
「そうだ。奴の組は穏健派と過激派に別れていやがる。旧知の仲だって事を知れば穏健派は静かになるだろう。しかし過激派がどうなるかわからん。そこで2代目同士が恋仲になれば明確な証拠として過激派も派手には動けなくなるって訳だ。」
「そうですか……。わかりました!やらせていただきます。」
「よし、じゃあ入ってくれ。」
「「(え⁉︎もう来てるの⁉︎)」」
奥の襖へと向かうとなにやら話し声が聞こえる。
「だからまだやるって決めたわけじゃ……!」
「でも彼らなかなかイケメンらしいよ?」
「え⁉︎いやいやでもまだ心の準備が……。」
「「(嫌な予感がするんだけど。)」」気持ちの中でハモる兄弟。
「さぁこの子がお前の彼女になるーーー。」
そう言って勢いよく襖を開く。するとそこには最近ずっと見てきた綺麗な金髪をした女の子があたふたとしていた。開いた襖に気付いたのかこちらを見ると、完全に固まり3人の時間は止まった。父親の声が遠く聞こえる。
「こちらがその桐崎千棘お嬢ちゃんだ。お前達2人には明日から3年間恋人同士になってもらう!」
「お、お前……。ギャングの娘だったのか?」
「あんた達こそ……、ヤクザの2代目って!」
「「なんでぇーーーーーっ⁉︎」」
そんな2人の言い合いを横目にひたすら呆然としていた宗次郎であった。