IS学園の中心で「ロマン」を叫んだ男   作:葉川柚介

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第55話「反撃」

「こなくそおおおおお!」

 

 気合の叫びとともに、両手のマシンガンを撃ち尽くした。これにて残弾ゼロ。度重なる酷使によって砲身が焼付いているためもはや弾の補給があったとしても二度と使うことはできず、残る武装は近接格闘用のナイフのみ。

 一方、敵。

 バグはいまだ大量に健在で、彼女のラファール・リヴァイヴの足元を埋め尽くす勢いだった。これまでもさんざん倒しまくり、今も元気に大地を踏みしめ行進しているバグ共の足元には彼女が破壊したバグの残骸がひしめいているはずなのだ。全く見えないが。

 

「ナイフ一本……不安だけど、この国はいつぞやあの強羅と打鉄の子が守ってくれた国なんだから。私一人だからって、弱音は吐いてられないわよねっ」

 

 不安な要素は数えきれないくらいある。だがそれでも、これまで最前線で孤軍奮闘してきたラファール・リヴァイヴの操縦者たる彼女は諦めない。

 その心に浮かぶのは、かつてファントム・タスクによって世界中がミサイル攻撃の脅威にさらされたとき、この国へミサイル迎撃の手伝いに来てくれた二人のIS学園生だ。

 学生の身でありながら気合一発、どんなミサイルも撃破してくれた強羅。強羅のみならず自分も的確にサポートしてくれた、やたらと情報処理速度の速い打鉄操縦者の女の子。それまで縁もゆかりもなかったこの国にやってきて、全力で守ってくれた彼らの頑張り。自分が今さらこんなところで無駄にするわけにいくものか。

 思いを込めたのならば、振るうナイフは鋭く速くなる。かのブリュンヒルデもかくやとばかり、一振りするたびにバグが切り裂かれては散っていった。

 

 だがどんな猛者とて無限に戦えるわけではない。ラファール・リヴァイヴの性能が許す限りの高機動を駆使しているが、近接戦闘は多数を相手にした場合、効率的とは言い難い。倒した以上の数が押し寄せて、それまでの比ではない速度で前線が押し込まれていってしまう。

 

「この……! 私を無視するな! いっそ全部私を狙ってきなさいよ!」

 

 どれほど叫べども、敵は眼中にないとばかりに背後の街へ向かって進軍を続けている。まだまだ市街までの距離はあるが、それでも市街にたどり着くころには地平を埋め尽くすほどになっていそうなほどの数を、自分たちが巻き上げた砂煙で全容が見えなくなるほど大量のバグを倒しつくすことができるのか。

 現実的な思考が、無理だと囁く。それでも、と悲壮な覚悟が鎌首をもたげる。

 

 諦めて引き下がるか、がむしゃらに突撃するか。どちらにしろ楽しい結末を迎えられそうにはない。

 彼女の心に浮かぶのはそんな未来予想ばかりで。

 

<<ラファール、下がれ!>>

「!?」

 

 プライベート・チャネルではない通常の無線を通して聞こえてきたその叫びに、自然と体が従ったのは、孤独な戦いの終わりが嬉しかったからかもしれない。

 

 PIC特有の鋭い動きでバックステップをしたラファール・リヴァイヴをかすめるように、空から降り注ぐ無数の弾丸。弾丸が抉ったのはラファールがどれほど斬りつけても突き崩せる気がしなかったバグの密集地帯だ。

 ごく普通のバルカンの一斉射だが、通常兵器でも十分破壊が可能なバグであれば、こうして格闘一辺倒のIS以上の破壊をもたらすことができる。

 

「なっ……空軍機!?」

<<その通り。後方にまで入りこんだバグの掃討が終わったので援護に来た。少々頼りないかもしれんがね>>

 

 ラファールの上空で機首を引き起こし、高度を上げ始めているのはこの国で制式採用されている戦闘機の編隊であった。5機の戦闘機が一定の距離を崩すことなく上空から地上のバグへと襲い掛かり、機銃掃射を敢行したのだ。

 一糸乱れぬその統率、アクロバットチームですらそうはできまい。

 

 10年前に起きた白騎士事件と、その後ISが台頭したことによる通常兵器予算削減により時代遅れもいいところの機体を使っているが、この機動を見てそうと信じる者はいまい。それほど見事な動きだ。性能を限界まで引き出し、機体のすべてを生かす操縦がそこにある。

 

<<バグ相手ならば我々でも十分戦力になる。共に戦おう、インフィニット・ストラトス。――ようやく、追いついたぞ>>

「……はいっ!」

 

 その一言に、どれだけの思いが籠っていたか。戦闘機隊の隊長の声には抑えきれない喜びと誇らしい響きが滲んでいるのを、ラファール・リヴァイヴの操縦者は感じた。

 

<<……いくぞ、諸君。減り続ける予算と人員にもめげず、無茶な動きするんじゃねえよとレンチを振り回して我々を追い回しながらも常に機体を最高の状態に保ってくれた整備員達のために。我々パイロットと膝を突き合わせ、気合で何事も解決しようとするんじゃねえよバカと罵りながらも戦術を考えてくれた幕僚達のために。多忙極まるスケジュールを必死に縫って、いいから早く飛び立て早く飛び立てと急かしながらも訓練飛行に滑走路を開けてくれた管制官達のために。……そして何より今日まで我々を支えてくれた家族と、家族が暮らす祖国のために! オールウェポンフリー、オープンコンバット!>>

<<Yeah!>>

 

 負けてはいられない。ラファールの操縦者は、そう強く思った。

 縦横無尽、かつて空の王者として君臨していた戦闘機たちは今も変わらずその翼を翻して空を舞う。

 兵器としてみれば、戦闘機よりISの方が確かに勝っているかもしれない。だが誰かを守るために戦う気持ちが、10年に渡ってその心を守り通した誇りが、他の何かに劣っているなどあり得るはずがなかった。

 

 彼女は誇りに思う。こうして彼らと共に戦えることを。

 10年の時を経て、ISと戦闘機が再び同じ空を、今度は命を預ける戦友として飛ぶことができたことを、天に感謝した。

 

 

 地球は危機に瀕している。侵略兵器のバグはいまだ際限なく湧いて出て、都市圏にまで魔の手を伸ばすのは時間の問題だ。

 しかしこの星に生きる人々はまだ諦めていない。

 

 弾が尽き、ブレードが折れてなお拳一つでバグを押しとどめるISがいる。

 正確無比の砲撃で、バグを一歩たりとて都市に近づけさせない砲兵がいる。

 縦横無尽に走り回り、同じ地上の土俵でバグを圧倒する戦車がいる。

 10年間の時を経て、その間ずっと鍛え上げた力と技で空を制する戦闘機がいる。

 

 彼らがいる限り、負けはない。

 事実世界のあちこちでバグの侵攻が止まり、むしろ押し返し始めてすらいる。

 

 

 反撃が、はじまったのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

――……

 

 打鉄・蓮華の能力<仙里算総眼図>には弱点がある。

 敵の思考を読み未来を見通す、などとオカルトに片足突っ込むような現象を起こす能力だが、当然タネはあるのだ。

 それは、複雑にして力任せな演算による未来予測に他ならない。傾向分析と高速演算により、相手の過去の行動をもとに思考形態を推測し、その後の行動をシミュレートする。物理演算や天気予報の延長にある技術に過ぎない。

 

 だが現在の技術ではスーパーコンピューターですら戦闘行動と並列して行うことなどできないこの演算、それを可能にするのは、マルチロックミサイルの制御を可能とする打鉄・蓮華の優秀な演算能力と、それを使いこなす簪の実力、そして人間的直感である。

 

 簪だけでは、分析の速度が足りない。

 打鉄だけでは、無数に存在する可能性の中からありうる未来を正しく選ぶことができない。

 打鉄の分析力を簪が正しく、そして素早く導くことによってはじめて未来の予知が可能となる。

 

 そして、そのつながりこそが弱点でもある。

 簪の直感が未来の可能性を見つけたとしても、演算が間に合わなければ未来は見えない。打鉄の演算がどれほど早かろうとも、簪の直感が的を外せば相手の行動は予想外のものとなる。二つが噛み合わなければまともに効力を発揮することなど、夢のまた夢。

 

 ISTDがついたのは、まさにその隙である。

 行動アルゴリズムの切り替え。妙に武装が少ないと思っていたら、このISTDはこんな手段を取ってきた。拡張領域を犠牲にしてまでもほかのISTDの行動パターンを積み込み簪に挑んできたのは仙里算総眼図を封じるためだったのだ。

 先ほど見せたのは、それまでの慎重な機動から一転して捨て身の踏みこみ。それまでの行動から予測して、まさかそんな手に出るとは予想しておらず、演算が狂った打鉄と驚愕にとらわれた簪は相手の行動の意図を読みきることができなかったため、敗北した。

 

「く……ぅ……!」

 

 ISTDはゆっくりと近づいてくる。簪を中心に円を描きながら半径を徐々に狭める。

 ブレードを下段に構えた所作に隙はなく、しかしこうして剣士の動きを惜しげもなく晒し続けているということは、おそらくまだ他にも戦闘アルゴリズムを隠し持っているのだろう。仮に今の思考を読んだとしても、また切り替えられれば元の木阿弥になってしまう。

 

 傷つき倒れ、ダメージは大きい。自身最大の武器は封じられたに等しく、勝算はない。

 

 たった一つの方法を除いては。

 

 

「……はっ!」

――!

 

 簪は倒れた体勢のまま薙刀<夢現>を投擲した。腕力のみしか使えないとはいえ、ISのパワーアシストがあっての物。弾丸もかくやという速度で飛んだ薙刀は正しくISTDがとどめを刺すべく動き出そうとした瞬間であり、出鼻をくじかれて回避したため距離を取らざるを得なかった。

 簪もまた、その隙にISTDから離れている。ブレード一本の間合いには多少遠いが、しかし困るほどのものではないとISTDは判断。イグニッション・ブーストでの接近と同時に思考パターンを変更。鈴と戦っている機体の、中国武術に似た動きをするアルゴリズムへ。超加速状態から無理矢理機動をジグザグに変更し、トリッキーな動きで簪へと迫る。

 

 近接武装を無くし、ミサイルも荷電粒子砲も反応できる速度ではない。頼りの仙里算総眼図はこのアルゴリズムの変更によって使い物にならない。この動きの変化はISならばとらえられるだろうが、だからと言って対応できるようになるわけがないのだ。

 

 そう確信したISTDの戦闘電脳は。

 

「――知ってたよ」

――!?

 

 ブレードを振り下ろす瞬間の手首を掴まれ、気付いたときにはブレードを奪われ天地が逆さに投げ飛ばされていた。

 

 全身を床面に打ち付け、跳ね返った直後にすぐさま体勢を立て直し、全速で距離を取る。

 

 警戒を最大限に見据える先には簪。奪ったブレードを片手に握り、こちらに静かな視線を向けてくる。演算補助用のキーボードを浮かべることもなく、ただぼうと見つめてくるだけの、簪の目。

 

 それは、人の目ではなくなっていた。

 きらきらと光のラインが明滅する瞳孔はまるで何かの回路のようで、その目が放つ光の色はただの人が持つものではありえない。

 あとついでになぜか左目が義眼になったかのようにキュイキュイ駆動音をさせている。

 

 

「あなたは強い。私でも、打鉄でも勝てない。――だから、私『達』が相手になる。……並列分散リンク、スタート!」

 

 打鉄の演算速度だけでも、簪の直感だけでも足りないのならば、その二つを合わせればいい。

 人の頭脳にISの演算能力を持たせることと、ISに人の閃きを授けること。この二つを同時に可能とする、二身一体という幻想を現実に変える禁断の法。それが<並列分散リンク>だ。

 

 これは文字通り、通常ISが担っている演算の一部を人間の脳を使って分散して処理するリンクを形成することを指す。これにより簪の思考速度はISのそれに同調し、打鉄の思考は簪のそれを学んで急速に閃きを、世界の真理を理解することができるのだ。

 

「ISのシステム上に仮想構築したアナリティカルエンジンの調子もいい……行ける!」

 

 ISTDがまた戦闘パターンを切り替えた。無手とはいえ無人機の出力は通常のISを上回る。簪がブレードを奪ったことによる攻撃力の差も十分埋められると判断しての接近戦で、しかし両腕は構えを取ることなく接敵の瞬間までどんなアルゴリズムに従って攻めるかを悟らせない。

 

 ――が、そうして飛び込む瞬間のイグニッション・ブーストの精度と速度と進入角度の無駄のなさは軍人特有のものだと瞬時に読み取った簪から見れば、ラウラを真似た軍隊格闘で攻めてくることはお見通しだ。

 

 くるりと優雅に一回転。ISTDが伸ばした手刀は空を切り、簪との動きの調和はまるであらかじめ定められた殺陣のよう。しかしそれが演技ではないことは、ぱっくりと裂けたISTDの腹部装甲が証明している。

 仙里算総眼図の完成。それも、ISTDはこの交差でそれを悟った。今の簪と打鉄は、完璧だ。

 

 

(まずい……頭が、痛い……っ!)

 

 一転有利に立った簪はしかし、自らの先行きのなさをもまた悟っていた。

 並列分散リンクは人をISに、ISを人に近づける。打鉄が人を学ぶのはいいとして、簪が、人の身がそれに耐えられるはずがない。脳細胞は一片残らず酷使されて、悲鳴を上げ始めていた。

 

 腹部の傷から潤滑油とスパークする火花を散らしながらも幾度となく攻撃パターンを変えて迫りくる無人機。その全てを寸前で見切りながら簪の脳は限界を超えて稼働する。

 彼我の位置、ブレードの重さとスラスターの熱容量。吹き荒れる空気の流れとISTDの中枢回路を流れる電子の囁き。

 五感の全て、脳細胞と知性の全てを打鉄・蓮華とともに注ぎ込み、簪の読みは深みを増す。装甲の損傷など気にするな。ただこの敵に勝った時に自分が立っていればいい。

 

 声を上げる余裕すらないが、振るうブレードに力はいらない。この武器の最善の扱い方はもうわかっている。一瞬ごとに一瞬先を見通して、黒い旋風となって簪の首を狙うISTDに一手ずつ確実に斬りつければ、勝利はこの手の中に入ってくるのだから。

 

 最後の一瞬は、簪の読み通り。

 無茶な加速ですでに何度か斬りつけられた脚部が吹き飛ぶのも構わず背後を取ったISTDの胸部中枢を、脇の間から背後に突き出したブレードで貫いた。

 

 ISと、それに等しいISTDの戦いの決着とは思えないほど静かな一撃。しかし貫かれたのはISTDのコア。ISTDの動きも構造も何もかも読み切った簪は、ただの一刀でその命脈を断ち切った。

 

 

◇◆◇

 

 

「かは……ぁ……」

 

 腹部を貫通したブレードは、日本刀に似た反りのある片刃のもの。無重力空間だからこそ隻腕のISTDの頭上に掲げられたところでそれ以上深く刺さる心配はないが、ISが痛覚遮断をしてくれていてなお体の奥まで響く激痛に、楯無の体は貼り付けにされたも同然だ。

 

 ISTDが右腕を犠牲にした爆発によって、ミステリアス・レイディのアクアナノマシンが含まれた水は吹き飛ばされている。爆発の衝撃で水に含まれるナノマシンの動作に支障をきたしたのか動かそうにも反応する気配はなく、そうなってしまえばこのISは手足をもがれたに等しい。

 攻防一体のワンオフ・アビリティ<アクアネックレス>は装甲を兼ねるアクアナノマシンの集合体たる水があってこそ初めて意味を成す。今の状態では、何の能力も使えはしないのだ。

 

 ISTDもまた、そのことを正しく理解している。腕一本を犠牲にするのに十分なだけの効果を上げたと認識し、だからこそ楯無の体からこぼれて周囲を漂う血の珠のただなかで勝ち誇って血の赤に染まっている。

 あとはとどめを刺すばかり。今の楯無を相手にするならば、腕一本でもたやすいことだ。

 

――……!?

 

 しかし、違和感に気が付く。

 それも、飛び切り悪い未来が予想される違和感に。

 

 楯無の体から流れ出たこの血液は、なぜ風もないのにいつまでも周囲を漂っているのか。

 

「……またまたやらせていただきましたァん」

――!

 

 その答えは、腹に穴が開いているはずの楯無が、平然とした口調で教えてくれた。

 

 気づいた時にはもう遅い。頭上にブレードを掲げる左腕のみならず、体も足も首すらもまるで動かない。即座に自己診断。表面上は損傷など一つもないが、関節部に異常な負荷を確認。

 

「無駄よ。こんなこともあろうかと、私の血の中にもアクアナノマシンを仕込んでおいたの。――この身を流れる血液の、一滴一滴全てが私の武器よ」

 

 ISTDの装甲表面を伝い、楯無に操られて内部にしみ込んだ血液がその場で針状に変化して硬質化。内部機構を破壊するには至らないものの、要所要所に生じた血液針はISTDの動きを封じるに十分な強度を持たされた。

 

 これが楯無捨て身の奥の手。大量失血による命の危機を勝機に変える大技だ。

 

「あなたたちISTDは死を恐れないだろうけれど、人間だって死の恐怖に震えるだけじゃないってことを教えてあげるわ。……見なさい、人間の魂を!」

 

 楯無の、文字通り血を吐きながら叫びに応えたのは周囲を漂う楯無の血の塊。軟体のように形を変えていた血液の粒が突如としてシャボン玉のように膨らみ、ISTDと楯無を取り囲んだ。全方位くまなく包囲され、左右上下どの方角を向いても逃げ場などまるでない。

 そして血のシャボン玉はその場で急速に自転運動を開始。遠心力に従って円周が引き伸ばされ、しかし割れることはなく平らに変形していく。徐々に加速する回転に伴い変形の度合いも大きくなり、ついには薄い円盤となったシャボン玉。その縁の鋭さたるや、まさしく刃物。

 それが、無数。縦に横にとそれぞれの角度で、ISTDを睨む。まして体は動かないのだから、絶望的だ。

 

――!!

「逃げようとしても無駄だから、あきらめなさい。これが私の、シャボンカッターよ!!」

 

 体は動かず、包囲に隙もない。身を捨てる覚悟をもって楯無を追い詰めたISTDは、命をも捨てる覚悟を戦う前から決めていた楯無の前に敗北する。

 全身を血の円盤が無数の細切れに変えていくのを感じながら、ISTDはそう自らの敗因を悟るのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「くっ、この……!」

 

 ラウラと戦っていたISTDは、暴れようとするラウラを抑え込むべく全力でTICを操作する。ラウラ自身のプラズマ手刀でその首を切り落とさせるべく、ラウラの体とシュヴァルツェア・レーゲンの機体にかかる慣性を操り人形にするように指先一つで命令を下す。

 プラズマ手刀の切れ味は、ISTDも身に染みている。人の首くらいならばわけなく落とせる、無抵抗の相手に使うには威力過剰なほどの武器だ。ラウラはIS自体のパワーとAICを自身にかけることによって抵抗しているが、出力はISTDの方が上。徐々に首筋へと迫るプラズマの光に照らされた肌が青白く、放散される熱量にちりちりと焼けていく。

 

 TICによって強制的に動かされているのは右腕のみ。しかし左手も足も顔すらも、自分の意思では動かすことはできない。AICによって自分自身の慣性を停止していても、それを上塗りするようにTICによる慣性が生じて体が動かされてしまう。

 打ち消し合いは果てしなく続き、しかしわずかにTICの出力が強くラウラの喉元に光刃が触れるのはもうすぐで。

 

 しかしラウラは、勝利を諦めてはいなかった。

 

「……間に合った!」

――!?

 

 ISTDは、機械らしく合理的な判断を旨とする。AICに対抗するためTICを開発したことも、最適のタイミングまでその力を隠し続けてきたこともそのためのものだ。だからこそ強く、だからこそ人が持つ理不尽なほどの勝利への執念は理解が及ばない。

 

 ましてこの激戦の只中で、ISを脱ぎ捨て生身での格闘を仕掛けるなどという戦法は、まるきり理解の外である。

 

 

 ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンの機体自体にAICをかけてTICに対抗する中で気が付いた。TICもAICも、源流をたどればISの機動制御に利用されているパッシブイナーシャルキャンセラー、PICと同じく慣性を操作する技術であり、異なるのは対象が自分か相手かということだけ。

 その点TICとAICはきわめてよく似ており、それらの力は相殺しあうものだったのだ。

 

 ラウラはその時点でAICの対象をシュヴァルツェア・レーゲンの機体全体のみに切り替え、自分自身の体を影響範囲から外した。同時、ISの装甲の中でかすかにだが動く指。

 AICをISの機体のみに適用することで、自分の体はTICから逃れられることが証明された。

 

 あとは、TICを十分に相殺できたタイミングでISをパージ。それだけで、身一つながら自由を取り戻し、絶体絶命の窮地を逃れることができた。もちろん、一瞬ながら躊躇いはあった。この場でISを脱ぎ捨てるなどという真宏のような真似が成功するかどうか。

 だがラウラは決断した。たとえわずかでも勝利の可能性がある選択を。

 

 とはいえ、手持ちの武器はナイフ一本。ISスーツ姿で飛び出した直後、さっきまで首のあった空間をプラズマの刃が通り過ぎるが、ラウラ自身がいなくなればそこにあるのは装甲の襟元のみ。

 体に遅れた髪の毛の先がいくらか焼かれたが、そんなことはどうでもいい。ISTDまでのほんのわずかな空間を飛びぬけ、ラウラはその手の護身用ナイフをISTDの手に、突き立てた。

 

――ウォォオオ!!

「ぐぅっ!?」

 

 短く貧弱で、人間の力しかないとはいえラウラが勝算もなしに危険な賭けに出るはずがない。このナイフはれっきとしたISの装備で、ISの装甲すら切り裂く振動ナイフだ。生身の人間が使うのでは十全の能力を発揮することはできないが、それでも複雑であるがゆえにもろい装甲継ぎ目を狙って押し込めば、繊細な機関であるTICの力場発生装置を破壊することは可能である。

 これでISTDは、TICを使えない。

 

 ISTDはとっさにラウラを振り払う。ISならば腕一本であろうとも人間を軽々投げ飛ばすなどたやすいことだ。

 対するラウラに抗う術はない。腕の一部とはいえ破壊できただけで、生身の人間としては大殊勲。TICがなかろうとも人ひとりを血祭りに上げる程度のことは造作もない。

 

 しかしそれは、あくまでラウラが今も身一つであった場合の話。

 

 ラウラは一人ではない。いつでもだ。

 

「――今だ、シュヴァルツェア・レーゲン!!」

――!?

 

 自分に向けられた熱線砲など見もせずに、ラウラの眼帯を外した金色の左目はその向こう、自分が脱ぎ捨てたシュヴァルツェア・レーゲンを見ていた。

 

 その声に呼応して、ISTDは自分の背後の動体反応を検知。

 とっさに振り向くが、遅い。振り向ききる前に顔面を貫く衝撃になすすべもなく吹き飛ばされる。

 

 ISTDを殴り飛ばしたのは、当然今も宙を漂うラウラではない。

 主を失い、がらんどうの胴体を抱えるシュヴァルツェア・レーゲンである。

 

「クラリッサから教わった変わり身。確か、ゲルマン忍法のウツセミ=ジツと言っていたな。それと完成型のVTシステム……くーからもらっておいて正解だったか」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンから伸びたワイヤーブレードを掴んで手繰り寄せ、ラウラは再びISを装着する。ちなみにこのワイヤーの巻き上げ機構、日本のドウグ社なる会社が作っているらしい。

ともあれクラリッサが開発した謎の技の概念を覚えていたからこそ窮地を脱することができ、似たような生まれの縁でそれなりに連絡を取ったりのやり取りがある束の娘枠であるくーからVTシステムの一部を譲り受け、シュヴァルツェア・レーゲンにインストールしておいた。

 因縁のあるシステムであるが、いざというときに擬似的な自動操縦が可能となることに気づき、万が一の時のために仕込んでおいたのだ。多分、世界レベルのスキャンダルの元になったこのシステムがいまも、しかも篠ノ之博士製の完全版がシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていると本国の連中が聞いたら泡を吹いて卒倒するだろうが。

 

「さあ、今度こそ終わりだ!」

 

 ラウラは、ISTDにとどめを刺す。殴り飛ばされた勢いで壁に叩きつけられたISTDのもとまでイグニッション・ブーストで接近。跳ね返った体を再び壁に押し付けると同時、右手を後ろへ引き絞る。その手に生じるのはプラズマ手刀……ではない。

 AICの性質を、今その身に感じたTICを基に変質させたもの。慣性を停止させるのではなく操ることを目的とした特殊力場が手刀の先に延びていく。これは、一つの物体に対して一方向ではなくてんでバラバラに慣性を与えるものだ。微細化された物質の一部一部が全く別の方向へと向かう力をかけられる。

 そんな物理現象が起きれば、どうなるか。

 

「はああああああ!」

――!!?

 

 わずかにゆらゆらと歪んで見える手刀が振り抜かれて、わずかな間。その後ISTDは、そしてその向こう側のロケットステイツの壁面は。

 

――ウ、ウォオオオオ!?

 

 ISTDが、壁が、その向こう側の宇宙空間まで貫いて、まるで内側から引きちぎられたかのごとくズタズタに砕け散った。

 

 

◇◆◇

 

 

 至近距離からの全武装一斉発射により、ISTDはシャルロットを仕留めた。そう確信できるだけの手ごたえはあった。

 セカンドシフトを果たしたとはいえ、第二世代ISであるラファール・リヴァイヴ・アルカンシェル。ISTDの武装で倒し切れぬ道理はない。

 ロケットステイツ内の広間を力なく漂うシャルロットの姿を見ればその確信が間違っていないのは明らかと断言できる。甚大なダメージを与えたうえ、そもそもラファールの武装は一つとしてこの身を傷つけるだけの力を持っていないのだから、もはや逆転の目などありはしないだろう。

 ゆえに、とどめを刺すべく近づくISTDがシャルロットの首を掴んで引き寄せるその動作に警戒はなく。

 

「……舐めないでよね」

 

 腹部に左腕のとっつき<フルコース>が突き立てられてすら動じることはなく。

 こうしてとっつきの威力を甘く見たのが、ISTDの敗因だ。

 

「はぁあっ!!」

――!?

 

 一瞬のうちに叩きこまれた15度の衝撃に、なすすべもなく吹き飛ばされた。

 

 

 <フルコース>による15連釘パンチ。それも、威力はISTDの予測をはるかに凌駕するものであった。そうでなければ、こうも無警戒に食らう理由がない。

 とっつきの威力が上がっていた理由。それは、とっつきの形状が変わっていたことによる。

 パージされたシールドの下に隠れていたとっつきこと<フルコース>と、その射線を支えるレールとなったブレード<ルージュ>、そして後方に接続され杭を通常以上に加速させるエネルギーランチャー<ブラウ>。この三つの装備が、合体していた。

 

「……ようやくわかった。アルカンシェルになったラファールの願い。パラレルスイッチの本当の使い方。こうすれば、よかったんだ」

 

 超威力のとっつきをぶちかまして、シャルロットの左腕は芯までしびれている。窮地を脱しはしたものの、機体に蓄積したダメージは大きく、敵はいまだ健在。おそらくこのままならば相手に打ち込めるのはあと一撃が限界で、わずかでも仕損じればその瞬間に再び敗北するだろう。

 できるのか、自分に。ラファール・リヴァイヴに。この最終決戦に駆け付けた仲間達の多くのISと異なり、第二世代に過ぎないこのISで。そう思う気持ちは確かにあった。

 

 だがもはや迷いは晴れた。このラファール・リヴァイヴ・アルカンシェルの勝利はゆるぎないと確信している。

 勝利はすでにこの手にある。堂々と左腕を掲げ、シャルロットは高らかに言い放つ。

 

「僕のラファールがISとして中途半端かどうかはともかく、これだけは覚えておいて。――僕のとっつきは完璧だ」

――!?

 

 そんなこと言ってない、というISTDの声が聞こえたような気もしたが構わない。ラファール・リヴァイヴが、そしてこのとっつきが無敵であることを証明することしか、今のシャルロットは考えていないのだから。

 

「……そうだよね、お父さん」

 

 ただ一つそれだけが、わざわざわかりやすすぎる偽名でシャルロットが喜びそうな装備を送ってくれる父への孝行になるはずだ。とりあえずこの戦いが終わったら、いい加減正体に気付いてないふりするのはやめにしよう。

 

 

 ともあれ、シャルロットは勝負に出る。

 パラレルスイッチにより左腕の<フルコース>を中心としてさらに<ノワール>と<ベール>を追加展開。大斧<ベール>が変形してブレードを左右から支えるガイドとなり、レーザーランチャー<ノワール>は<ブラウ>とともにとっつきに更なる加速を与える発射台となる。

 

 これにて、完成。シャルロットの左腕すべてを覆うようにして現れた巨大な合体兵装。これこそが、ラファール・リヴァイヴの真の武器。とっつきを愛するシャルロットの心の具現。

 パラレルスイッチによる同時並列的に存在させることによる合体武器<オートルート>である。

 

――!

「逃がさない!」

 

 さすがにその武器の恐ろしさは見ただけでも理解できたのだろう。慌てて回避しようとするが、遅い。先ほどの一斉射撃で武装を使い果たしたISTDには、逃げる暇もリロードの隙も与えない。

 ISTDが先のフルコースの一撃で叩き付けられ、めり込んでいた壁から機体を離したときにはすでに、自分の体並みに巨大な武器ごと左腕を振りかぶるシャルロットはISTDのすぐ目の前まで迫っている。そしてそのまま、殴りつけてISTDを再び壁に叩きつけ。

 

「この形を見つけるまで一週間かかったけど……」

――!!

 

 がっつん、と全身が揺れるISTD。無慈悲に突きつけられたのは左腕の延長のごとく伸びるブレード<ルージュ>の切っ先。さらにそこから根本へ視線をたどっていけば、ブレードの刀身から弾丸が逸れぬよう支え、さらなる加速を与える大斧<ベール>が折れ曲がってガードレールのように囲い、左肩の部分に<ブラウ>と<ノワール>が控えてエネルギーをフルチャージ。打ち出される弾体の加速と威力がどれほどのものになるか、計算してもしきれるものではない。

 そして何より、その奥に鎮座する<フルコース>改め<ジョーヌ>の図太い鉄杭。

 

 もがけど逃げられず、左腕を突き出したまま前髪の影で顔が見えないシャルロットに対して、ISTDがもし人のような感情を抱くとすれば、その正体はただ一つ。

 

「撃つのは、一瞬だ!!!」

――!!

 

 恐怖、であろう。

 衝撃が全身を叩き、胴体は跡形残らず消し飛んで。

 

 ISTD一機ごときでは収まらない破壊力はそのまま壁を貫き、第四ロケットステイツの壁面と宇宙空間までの間にあるすべての構造材を残らず消し飛ばし、直径2m以上の横穴を作り出した。

 

 

◇◆◇

 

 

――……

 

 分離していた装甲を呼び戻して再結合。人型を取り戻したISTDはセシリアの姿を確認する。攻撃の余波で吹き飛ばされ、ロケットステイツからはるか離れた位置まで流れて行ったブルー・ティアーズ・セラフ。絶対防御があるため宇宙空間を漂っていても命に別状はないだろうが、あれだけのダメージを負い、さらに今も距離を離し続けているセシリアに戦線復帰の目はないだろう。

 まして、ISTDは頭部のブリリアント・クリアランスを破壊しておいた。あれはブルー・ティアーズの狙撃補正機能を担う中枢だ。仮に意識を取り戻し、武器が稼働できる状態にあったとしてももはやISの補佐を受けた狙撃はできない。そうなれば、ブルー・ティアーズの能力は半減するに等しい。

 ISからの補助無くして超遠距離狙撃の成功などはあり得ない。もはや勝利はゆるぎなかった。

 

 少なくとも、ISTDが知る人間の能力に即して考えるならば。

 

 しかし、その予想を覆してこそのセシリア・オルコットである。

 

――!?

 

 セシリアと真逆の方向から熱線砲を貫くレーザー。咄嗟に熱線砲をパージして距離を取るが爆発の余波に煽られISTDは体勢を崩した。

 ビットによるレーザー射撃、と即座にその攻撃の正体は知れた。セシリアが、既にはるか数kmもの距離を離されながらなおビットを遠隔操作して、攻撃に転じてきたのだ。今のブルー・ティアーズのビットは自律行動が可能。簡単な命令であっても常と遜色なく動くことが可能だからだろう。

 ISTDは振り向きざまに周囲のバグに迎撃を命令。4機中2機が反転の最中にレーザーに貫かれて大破したが、残ったものだけでもビットを相手にするには十分だ。

 

 光学的に確認されたビットは一機のみ。高速で迫ってきてはいるがそれだけではなんら脅威に値せず、ISTDはバグを操って的確にビットを撃破する。こうして反撃に出たということは、セシリアはまだ戦う力を残しているということ。やはり徹底的に止めを刺さねばならないと認識を改めながらバグのレーザーがビットを貫いたのを確認し。

 

――爆発するビットの向こうからさらにもう一機のビットが姿を現すのを見て、自分が罠に落ちたことを悟った。

 

 一機と思えたビットは、その実一機だけではなかった。一機目のすぐ背後に隠れ、まったく同じ軌道で追随してきたビットがいたのだ。速度は変わらず速く、すでに近くまで接近されている。迎撃は間に合うかどうか、微妙なところと見えた。

 必要とされる迎撃演算処理速度があまりにも速すぎてビジー状態になりかけるISTDは、人間で言うならば焦りにかられたままに迎撃を続ける。鬼気迫るほどの速さで迫るビットに迫られればそうもなる。

 

 辛うじてもう一機を撃破したが、さらにその爆炎の中からもう一機が現れた。もはやバグの射撃は間に合わず、レーザーのチャージが間に合わず特攻をかけてきたビットを両手で掴んで無理やり止めて。

 

 それこそが狙いであったかのように、胸部装甲のど真ん中に筒先を激突させてきた4機目のビットの存在を知った。

 

 激突と同時に4機目は自身に搭載されたジェネレータをオーバーフロウさせ、砲身の限界を超えた最大出力でのレーザーを発射。というより自分ごと爆裂し、ISTDの胸部に大穴を開けた。

 

 しかし、それだけならばISTDはまだ動くことができる。ダメージは甚大だがコアさえ砕かれなければ装甲を分離して戦うことも、新たなバグを呼び寄せて使役することも可能なのだ。

 

 だがその際の障害となるのは、セシリア。

 はるか彼方に遠ざかり、狙撃補正機能を失い、いまやISTDを攻撃する手段はないと思われるセシリア・オルコット。

 

 まさか、と思う。だが可能性は低くとも、これだけ距離が離れていてなお正確に戦況を理解してビットを操ったセシリアなのだ。侮ることなどできはしないとハイパーセンサーのその様子を伺い。

 

「BTセレインアロー!」

――!?

 

 そこに、ビット2機をつなげて弓状にして、こちらを狙うセシリアを見た。叫びの意味はさっぱりわからなかったが。

 

 

「シューーーーートッ!!」

 

 

 放たれたのは光の矢。ビット2機とブルー・ティアーズ・セラフのエネルギーを結集して編み上げられた高出力レーザーだ。

 宇宙空間をレーザーが飛翔する速度はまさしく光速。撃たれたと認識してしまった時点で、回避する暇はない。

 あれだけの距離で、ただハイパーセンサーの望遠があるだけで、弓のような形で、狙撃が成功するはずがない。それがISTDの、宇宙の虚空5kmを隔てた距離を考慮に入れた計算結果だ。

 

 しかしその解は間違っている。

 なぜならば、セシリアがこれまで狙撃に費やした血と汗と時間、そしてこの一撃にかける必殺必中の気合を勘定に入れていなかったからだ。

 気合を計算に入れるなど、強羅か簪でもなければやらないことだが。

 

 そのミスの代償はISTD自身のコアで贖われた。突撃を仕掛けたビットが砕いた胸部装甲の奥のコアと、背面装甲。そしてISTDの背後にそびえるロケットステイツをまとめて貫通し、コアを正確に蒸発させたBTセレインアローのレーザーが、その証明である。

 

 

◇◆◇

 

 

 ISTDの拳は確実に入った。しかし相手は万象縮地を操る鳳鈴音。いついかなる瞬間に彼我の間合いが無になるとも知れず、ISTDは警戒を厳にしたまま一定以上の距離を近づかない。

 それでも万象縮地に対しては有効な対策とは言い難いのだが、今の鈴が相手ならば十分だろうとも思われた。

 

 鈴が寸剄を叩き込まれたのは装甲がない直接の肉体部分。絶対防御があるとはいえ無傷ですむような威力ではなく、ISの生命維持が追いついているかどうかすら微妙なところだ。壁に叩き付けられたISもまた無残なもの。全身の装甲はひび割れ、両肩のアンロックユニットも半壊状態で、おそらく衝撃砲もまともに撃てはしないだろう。

 とどめはいっそ刺すまでもなく、こうして余計な動きをしないか見ているだけで遠からずその命が尽きる。ISTDの見立てではそう結論付けられた。

 

「私を、舐めるな!」

――!!

 

 しかしその予想はわずかに外れた。ISTDのボディを叩く不可視の衝撃。内部構造が露出するほどにダメージを受けていた龍砲が放つ衝撃波だ。

 

 とはいえ、鈴が必死に無茶をしての反撃ではあるがISTDの予想を超えるものではない。衝撃は柔軟に受け流し、10mほど後方へ押し流されこそしたもののすぐに機体姿勢を整え反撃の算段を取る。

 おそらく衝撃砲は今の砲撃の負荷で完全に沈黙したはず。ならばあとは遠距離攻撃手段がなくなり、機体の損傷も激しい鈴を確実に仕留めればそれで済む。

 

「ふんっ!」

――!?

 

 そう思っていたのだが、ISTDの算段は右の貫き手を左の衝撃砲に突き刺す鈴の姿を見て、瓦解した。

 

 

 このとき、ISTDにはまだ勝利の目があった。一も二もなく不可解な行動を無視して鈴に挑みかかれば、かろうじて間に合っていたかもしれない。だが鈴がこれまで見せた格闘能力と万象縮地はISTDに警戒を抱かせるに十分なものであり、ほぼ機能を停止した武装とはいえ自ら破壊する意味を図ろうと様子を見たのは自然な成り行きのもの。

 

 そしてこの瞬間においては、何よりの悪手だった。

 

 

「ヤン管理官……最終装備、使わせてもらいます!」

 

 

 衝撃砲の中から鈴が鈍く輝く宝珠を引きずり出したその時点で、ISTDの敗北は決定したのだから。

 

 

――龍砲<極>モードへ移行

 

 システムのナビゲート音声が響くのと同時に、宝珠は光と暴風を放ち、ISTDをさらにたじろがせた。

 

 

――エネルギーライン、全段直結

 

 最終装備。

 それは、甲龍最大の特徴である龍砲が放つ衝撃砲の究極形。

 空間に圧力をかけ、その反発を衝撃波として放つ龍砲の内部には、常時高密度に圧縮された空間が存在している。通常はその圧縮空間をある種の媒介として周辺の空間に圧力をかけ、衝撃波を生成しているのだ。

 

 

――ランディングギア、アイゼン、ロック

 

 床につけた甲龍の脚部が変形して床をフックが噛む。新たに腰部に展開された装置がワイヤーを射出して、さらに全身を固定する。

 

 こうして現れつつあるのは、その圧縮空間内に保存されていたものだ。ISの量子展開と異なり、データ化するのではなく空間ごと圧縮して龍砲の中に隠されていた、究極の装備。鈴もこの決戦に挑む直前、ヤン管理官から直接聞かされるまで知らなかった、甲龍最後の切り札。

 

 

――チャンバー内、正常加圧中

 

 この武装は展開と同時に攻撃対象と自機とをつなぐ質量断層を形成する。質量を持つものであればなんであろうとも抜け出ることはかなわない、隔絶空間の檻。エネルギーチャージの間に攻撃を受けることも逃げられることもない、絶対勝利への架け橋だ。

 

 

――ライフリング、回転開始。

 

 腰部から伸びる固定脚、両腕を取り込む形で現れた二つで一組で龍頭の意匠を施された砲身、背中から砲身へと接続されるジェネレーター、砲撃を安定させるための空中浮遊式ライフリングビット。それらの全てが展開を終え、機能を余すところなく発揮し始めている。

 

 背部のジェネレーターが火花を散らし、敵に突きつけた砲身の間の空間が歪んで見える。ランディングギアがきしむほどの衝撃がすでに全身を縦横に揺らし、気を抜けば体が引きちぎれそうにすら思う。

 というかなんだこれ、本気で痛い。使い手に異常なほどの負荷がかかる武器なんて強羅の専売特許じゃなかったのか。というかこんなものを使っていると真宏に知られたらものすっごく羨ましがられそうだ。

 

「……終わりに、するわよ!」

 

 だがそれでこそ、甲龍の切り札。

 万物全てを空間ごと粉砕してのける、あらぶる龍の咆哮。

 

 

――撃てます

双頭龍(シャントウロン)!!!」

 

 吐き出された破壊そのものとしか見えない奔流は動きを拘束されたISTDへと一瞬で迫り。

 

 ISTDの全身各部余すところなく全てを破壊し、それでも一向に収まらず背後の壁、その向こうのへ機材全てを抉り壊し、宇宙空間まで突き抜ける、破壊の柱を顕現させた。

 

 

◇◆◇

 

 

 箒は、この敗北が悔しかった。

 紅椿は姉がくれた最高のIS。現行のあらゆるISの能力を上回るものとして作ってくれたものだ。……強羅辺りを見るに、そもそも防御力でアレを上回っているのかとか、最近セカンド・シフトを果たした他の仲間たちのISを見るにその地位が今も揺るがないかは疑問の余地があるのだが、昔から何かと身内に対してはダメな部分も多く見せていた姉のこと、気にはしない。

 

 剣の腕で劣るのならばまだいい。父をはじめとして上には上がいることは幼少のころより何度となく身に染みてわかっている。いまだに道場の立会いでは千冬の太刀筋すら見えないってどういうことだ、と理不尽を感じる年頃でもあるが、さておき。

 

 何より気に入らないのは、なまじらしい剣を使っておきながら平然とそれを捨て、力のみによって勝利を収めようとするISTDだ。そんなことならばはじめから剣など使うなと、箒の心は怒りと勝利への誓いに満ちる。

 

「いいだろう。お前が、パワーを上げて物理で殴ればいいと思っているのなら、私も同じ方法を使ってやる。……生憎と、それ以外に勝てる方法もなさそうなのでな」

 

 無重力なのが幸いし、立ち上がるのにさして力はいらずに済んだ。壁に叩きつけられた背中は骨まで痛みが染みているが、体は動くし紅椿もまだダメージが動きに影響するには至っていない。これならまだ戦える。

 最後の切り札を使う余裕くらいは、あるはずだ。

 

 箒は、いまも全身を赤熱させて莫大なエネルギーを放散するISTDに、力強く宣言する。

 

「覚悟しろ、ISTD。これが私と、紅椿と……そして姉さんの最後の切り札。――内蔵、弾丸X!!」

 

 内蔵弾丸X。

 それは、この最終決戦に当たり、急遽束によって紅椿に取り付けられた特殊装備である。

 

 467個のコアとゴーレムシリーズなどの束製ISを作成することにより磨り減ったIS鉱石。もはや篠ノ之神社の地下にごくわずか、中心部分のみが残っている。

 量が減ったとはいえ、残っているのは中心部分。そこに含まれる鉱石の純度は極めて高いものとなっており、束はその貴重な鉱石から二つのものを作り上げた。

 ひとつは、黒鍵。あらゆるISコアを起動させうる可能性を秘めた世界の鍵。

 そしてもうひとつが、内蔵弾丸X。眠れるISを目覚めさせるのが黒鍵ならば、弾丸Xは目覚めたコアをさらに覚醒させる勝利の鍵だ。

 

「……いくぞ!」

――!?

 

 箒の一声。

 しかし静かなその一言の瞬間にはイグニッション・ブーストが発動していた。すぐ後ろにあった壁を大きくへこませるほどの反動を放ち、それにふさわしい瞬間移動もかくやという速度でISTDへと接近。その速度のまま二刀を振るった。

 全身から吹き出る緑色の光の残像を引いての斬撃はあまりにも速い。それでいて風を切る音すらさせないのは、一切の無駄な力が加わっていない何よりの証拠。内蔵弾丸Xによるスペックアップをあわせて考えても、箒の技量もまたこの戦いで格段の進歩を遂げていること、疑いない。

 ちなみに色々と有害な粒子を放出しているわけではないので、あしからず。

 

 だがISTDもさるもの。自壊覚悟でエネルギーをオーバーロードさせたことで機体出力とともに反応速度も上がっている。ギリギリではあったが剣の軌道を見切り、両手でそれぞれ掴み取って止めることは十分可能であった。

 

「はああああ!」

――!!

 

 確かに掴み取ることはできた。だがその後が問題だ。

 紅椿の剣速には追いついたとして、その腕力にまで匹敵しうる力があるか。

 

 答えは、剣をそらすのが精一杯で、それすら無理矢理であったため肘から捩れたISTDの両腕が示している。

 しかし箒には普段と同じく剣を振るった程度の力をこめた、という認識しかない。それだけの力を与えるのが、内蔵弾丸Xなのだ。

 

 

 内蔵弾丸Xとは、ISコアに封印された高エネルギー集積体を爆発的に開放させることで限界以上のパワーを引き出す、最強最後のミラクルマシンなのである!

 

「出し惜しみなどしない! ここで! お前は! 私が倒す!!」

 

 振りぬいた剣を切り返したときにはISTDの肘から先が消えた。引き下がろうとするのを逃さず蹴りを入れ、壁に当たって跳ね返ってきたところを今度は肩から腕を落とし、つま先から伸びるレーザーブレードで両足も斬り飛ばす。

 その様、まさに鬼神。

 

「これで……終わりだ!!」

 

 雨月と空裂を胴体に突き刺してISTDを壁に張り付け、緋宵で袈裟懸けに敵を斬る。

 ただそれだけのことなのに、内蔵弾丸Xによって増幅されたエネルギーは緋宵の刀身を覆って伸びて、天井を貫き、敵を壁ごと叩き斬る長大な刃となった。

 

 ISTDが最後に見たのは、自分に迫る光の壁。

 箒の斬撃は敵を切り裂き、壁を切り裂き、全力で振りぬいたそのあとに残ったのは、中間部から円周を半分ほど、内側から切り裂かれたロケットステイツだけである。

 

 

◇◆◇

 

 

 あちらこちらですさまじい轟音が響いてくるのが、ザ・ワンの構造物を伝わって響いてくる。

 一夏がいるのは全てのブロックをつなげるベースステイツ。大規模な爆発でも起きれば必然的に壁や床から振動がここまで届くことになる。ハイパーセンサーの分析結果によると、巨大な爆発が5方向、それぞれロケットステイツの方向から。そして小規模な爆発がエレキステイツ、ファイヤーステイツの方角から届いてきた。

 というか、ロケットステイツのほうは爆発のみならずその後もなんだかギシギシメキメキバキバキガラガラと何かが盛大にぶち壊れる音が続けて聞こえている。これはひょっとして、ザ・ワン自体が崩壊し始めているのではないだろうかという勢いだ。

 しかし、その原因まではわからない。

 

 不安はある。考えたくはないが、まさかさっきの爆発は仲間たちが。

 脳裏に浮かぼうとするその考えを振り払うように、一夏は加速する。

 

 そうしなければ、まずは自分が死ぬからだ。

 

「こんの、ふざけんなよ怪獣!」

――シギャアアア!

 

 イグニッション・ブーストで円形の壁を這うように加速。遠心力が体中の血が壁際に集まるが気にしている余裕はない。今のタイミングで加速しなければ、つい今しがた背後の壁に突き刺さった2本のかぎ爪付き触腕に壁ごと握りつぶされていた。

 

――シャギャアアア!

「うわっとっと!? 光線まで出せたのかよ危ないなこの野郎!」

 

 しかも、一難去ってまた一難。残る2本のかぎ爪からは雷撃のように複雑な軌道を描く光線が放たれた。命中精度はたいして良くないようだが、着弾範囲は広い。しかも流れた光線の一筋が壁に着弾して大穴を開けるあたり威力も十分のようだ。雪羅の零落白夜シールドで大半を打ち消すことができたが、そうでなければ完全な回避は難しかったかもしれない。

 

「……ん? はっ!」

 

 その瞬間、嫌な予感。一夏はとっさに壁を蹴って自分の軌道を無理やり変え、壁から遠ざかる。

 

 一夏の勘は当たっていた。壁をぶち破ってかぎ爪が伸びてくるという軽くホラーな現象を目の当たりにする羽目になったのだから。

 一夏を追って壁に突き刺さった最初のかぎ爪。その爪が壁の中を掘って先回りしていたらしい。なんという速度、なんという予測。一夏は戦慄を抑えきれない。あのまま馬鹿正直に進んでいれば、このかぎ爪に捕らえられていた。もともと装甲が薄い白式のこと、もしそうなればあの爪で全身を引きちぎられてもおかしくない。

 

「ああ、くそっ、近づけやしない!」

 

 雪羅の荷電粒子砲を放とうとして、やめる。さっき一度撃った時は狙いを外してしまったし、ぼんやりと相手の周囲がゆがんで見えることからしてシールドバリアと似たものもあるだろう。一夏の射撃の腕では牽制にすらならず、エネルギーの無駄遣いになるだけだ。

 

「やっぱり、倒せるとしたら零落白夜だけ……でも、そのためにはまずこの触腕をかいくぐらないとな!」

 

 急停止から逆進。PICがあってなお目の前が暗くなるほどの慣性を無視してまでの無茶な機動で狙うのは、さんざ苦しめてくれた触腕。壁の中に長々伸びた分回収に時間がかかる腕を今のうちに狙う。

 

「せりゃあっ!!」

――シギャオッ!?

 

 すれ違いざまに雪片弐型と雪羅のクローで一本ずつを切断に成功。これで大分楽になる。

 はずだったが。

 

――シギャアアアアアアアッ!

「……平然とさらに触腕増やすなよ!?」

 

 切られたのならまた生やせばいいとばかり、背中から新たな触腕が4本生えた。合計6本。

 しかも、それだけではすまない。何やらあの怪獣の背中やら腰やらに生えているトゲ状の物体。その根元が緩み、ぶるぶると震えているような。なんか煙を吹いて、今にも飛び出しそうにしているような。

 

 その有様は、まるで。

 

――シギャオアアアアア!

「やっぱりそれミサイルだったかーーーーーっ!!」

 

 どこぞの強羅が大好きな全身からミサイルぶっぱする直前の様子か、という予想は見事に当たった。ISの、中でも特に高機動タイプの白式が全力を出すには狭すぎるベースステイツ中枢広間。そこが今、触腕の放つ光線とトゲトゲミサイルに埋め尽くされた。

 

 

◇◆◇

 

 

 箒たちは勝利した。だが人類の勝利はまだ遠い。

 

 

「頭、痛い……っ! 真……宏……」

 

 並列分散リンクの代償で、簪の脳は人間の限界を超える負荷に悲鳴を上げている。人とISの垣根を取り払うようなことをした結果、今の簪は自身と打鉄との境があいまいになりかけている。人に戻るか、ISに食われるか、簪はまさにその瀬戸際にいた。

 

 

「ち、血が足りない……。さすがに、技そのものが死亡フラグ過ぎたかしら?」

 

 楯無は自らの血を武器に使った結果、大量失血で顔面蒼白になっている。アクアナノマシン入りの血を操って止血はしたが、腹にブレードも刺さったままである。このまま意識を失えば、二度と目覚められないという確信があった。

 

 

「ぐっ、かは!?」

 

 ISTDを粉砕した後、ラウラはその場で血を吐いた。生身でISに匹敵する敵に挑むなど、まともな人間のやることではない。真宏は以前やらかしたというが、普通ならばISに投げ飛ばされて無事で済むはずがない。血の匂いがする唾を飲み下し、ラウラはうずくまって歯を食いしばる。

 

 

「くぅ……い、いったぁ」

 

 壁ごとISTDを打ち抜くオートルートの反動は、決して小さいものではない。空間ごと、存在ごと抉り取るような衝撃を放った左腕の合体武装はフルコースを残してほかの4種は全て砕け散り、シャルロットの左腕もまた骨まで砕けそうな痛みに悶えている。おそらくもう、この戦いの中で左腕は使えまい。

 

 

「どんな、ものですかっ」

 

 レーザーライフルは失った。ビット4機は撃墜され、2機はBTセレインアローを出力全開で放ったためにオーバーロードして機能を停止した。いまだザ・ワンから離れた宙域を漂うセシリアは、戦線に復帰しようにも動けない。

 

 

「……………………」

 

 龍砲<極>、双頭龍。最終装備の名は伊達ではなく、この装備を使ったあとの甲龍に残されたエネルギーはほとんどない。鈴自身もまた精魂尽き果て、指一本動かせそうになかった。

 ロケットステイツの壁面に空いた穴から空気とともに宇宙へ吸い出されて力なく漂うその身に、復活の兆しはいまだ、ない。

 

 

「か、体が……動かない……」

 

 緋宵を振りぬいたままの姿勢の箒。否、正確に言えば振りぬいた直後、体が全くいうことを聞かなかった。内蔵弾丸XはISコアの持つエネルギーを最後の一滴まで使い尽くすウルトラツール。束から聞いたその説明に偽りはなく、壁がえぐられ宇宙空間と直接つながったこの場で生命維持ができていることすら奇跡に近い。

 勝利の代償に、箒はもう戦えない。

 

 

 勝利は代償なく得られるものではない。だが戦いはまだ続く。人類の勝利へは、まだまだ越えねばならない道のりが数多くあるのだ。

 

 それはもちろん、真宏と強羅にとっても。

 

 

◇◆◇

 

 

『く……ちく、しょう……っ』

 

 今の強羅のありさまは、人に見せられるようなものじゃなかった。

 

 無理やり引きはがされた白鐵がぼろぼろの翼を広げてあたりを漂い、全身くまなく痛めつけられあちこちヒビの入った装甲を壁にめり込まされているのだからして。

 

 この巨人は、強い。

 強羅の持つどんな武器も通用せず、逆に相手はまるで奇跡か魔法のように次々とこちらを攻める一方だった。指を向けるだけでいつぞやの覚醒シルバリオ・ゴスペル並みの光弾が雨あられと降ってくるとかどんな冗談だ。負けるもりは今もないが、勝てる可能性もほとんどない。

 

 変わらず静かなたたずまいでこちらを見据えるあの輝く巨人。

 腕を振るえば巨体に見合った圧倒的パワーで強羅を殴り飛ばし、その体はビームをはじき、弾丸を寄せ付けず、いかなる刃も通さない。

 

 

 ザ・ワンの中心部であるコズミックステイツに待ち構えていたことからして、こいつがISを巡る全ての因縁のラスボスなのだろうが、どうやらまともに戦って勝てる相手ではないらしい。

 今の俺に勝機は見えない。はっきりしているのはそれだけだ。

 

『まだ行けるか、白鐵』

――キュ、イ……!

 

 だから無茶でもなんでも諦めずに立ち向かうのみ。もともと俺にはそれしか能がない

 

 たとえ、どれほど勝てる要素が見つからないとしても。

 その時はその時。この命に代えても、なんとかしてみせる。

 そう、決意した。

 

――キュイイイイ!?

『え、なに白鐵。……死亡フラグ過ぎる? はっはっは、いつものことだろう』


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