IS学園の中心で「ロマン」を叫んだ男   作:葉川柚介

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第48話「第七王女ってことはウルトラでセブンな感じ?」

「おい一夏、真宏。酒とつまみを出せ」

「千冬さん、こたつに根が張ってる上に亭主関白が過ぎますよ」

「まったく、仕方ないなあ」

 

 大晦日、織斑家の居間にて。

 そこには、どてらにこたつという鉄壁の装備でぬくぬくとした千冬さんが俺と一夏をアゴで使う光景があった。

 

 なんやかんやでIS学園に入学し、世界で二人しか確認されていない男性IS操縦者として勉強に訓練に戦闘にと明け暮れ、いろんな人と出会ったりたまに死にかけたりなどしつつ、ようやくたどり着いた一年の終わり。

 俺はなぜか、織斑家にお呼ばれしていた。

 

「しかし、俺はなんで今日呼ばれたんだ?」

「千冬姉が言ってた。『この日に真宏を放っておいたら、絶対に笑ってはいけないIS学園とか開催しそうだから目の届くところに置いておく』って」

「……………………………………そんなことするわけないじゃないか」

「嘘をつけ。タイの代表候補生にコンタクトを取っていたことはすでに調べがついているぞ」

「なっ、なぜそれを知ってるんです千冬さん!?」

 

 ち、違うんです千冬さん! IS学園に興味があるという、現役時代に「肉体凶器」の異名を取ったムエタイ選手を母親に持つ代表候補生にちょっと見学に来てみません? と言ってみただけで!

 

「まあいい。それより酒のつまみだ。何がある?」

「俺が作っておいた白菜の塩漬けでいいかな。あと、ちょっと早いけど真宏がおせち用に作ってきてくれたかまぼこで板わさとか」

「……いいな。早く頼む」

 

 こたつでゆさゆさと体を揺らす千冬さんはちょっとかわいい。

 ちなみに、ここ数年来俺と一夏はおせちの一部を分担して作って交換している。

 今年は一夏が栗きんとんと黒豆、俺がかまぼこと伊達巻を作ってみた。かまぼこにはIS学園の隅にある絶好の釣りポイントで釣って来た魚とか使ってあります。

 

「……あの、教官。私はここにいていいのでしょうか?」

「いまさら何を言う。というか、お前が庭先に張り付いたまま年の瀬を過ごせるか。ほら、さっさとそのホットミルクでも飲んでおけ。あと今はプライベートだから教官はやめろ。私の名前は千冬だ」

「は、はいっ! 千冬!」

「さんをつけろよデコ助野郎!」

「なぜそこでお前がキレるんだ、真宏」

 

 そして、織斑家のボディーガードを(勝手に)務めていて回収されたラウラもこたつに潜り込んでいる。一夏特製のホットミルクをちびちび飲んで体を温めながら千冬さんと一緒にいる姿はとても幸せそうでも、ツッコミは止まらないんだ。許せ。

 

「はい、千冬姉。酒はぬるめの燗にしておいたよ」

「肴はあぶったイカです」

「さっきのつまみリクエストはどこに消えた」

 

 一夏と二人、台所で年越しそばと千冬さんの摘みを用意しながらの年末。こういうのも悪くないな。

 

「それはそうと真宏、更識はどうしたんだ更識は。てっきり更識の家に連れて行かれていると思っていたんだがな」

「いやー、そうなるかもなと思ってたんですけど、簪直々にやめといたほうがいいって言われまして」

 

 そして、そうなったのには理由がある。

 簪から、年末年始は会えないと言われたことだ。

 

 簪といえば、更識家のお嬢様。

 対暗部用暗部として歴史も古く、格もなんかすごいとかすごくないとかそんな感じ。年末年始ともなれば親族の挨拶やらなにやらで当主の刀奈さんはもとより簪もそれはもうてんやわんやの大変なことになるらしい。

 だがそれは逆に俺一人増えたくらいでは大して変わらないという意味でもあり、実家に招待すること自体は可能だと言われた。

 が、その場合。

 

「下手すると、更識家の人たちに婚姻届け書かされることになりそうだから今年はマズいんだそうです」

「……そうか、楯無さんの家だもんな、更識家って」

 

 隣で一夏がうんうんと頷いているが、簪からこの話を聞かされたときは俺も全く同じことを思って納得した。

 ので、今回は遠慮させてもらったわけだ。せっかくの学生時代なわけだし、そういうのはもうちょっと先の楽しみに取っておきたいしね?

 

 

「さあ、そば出来たぞー」

「かき揚げもありますよー」

 

 そして、そばをこたつに運んでいく。

 織斑姉弟とラウラと俺。何とも奇妙な4人が卓を囲み、過ごす年の瀬。

 うん、こういうのもIS学園っぽくていいよね。

 ずるずるとそばを啜って除夜の鐘を聞く、波乱万丈だった1年からは打って変わって落ち着いた年越し。来年は、さてどうなることやら。

 

 

「もう白騎士事件の惨劇から10年だし、この国が3つくらいに分かれて混沌を極める時期ですかね」

「お前は何を言っているんだ」

 

 

◇◆◇

 

 

「と、いうわけで篠ノ之神社の初詣も終わったし、あとは真宏の誕生日パーティーだな!」

「忘れてなかったのか、一夏」

「当たり前だ。こんなに覚えやすい誕生日はそうそうなかろう」

「確か、真宏が自分で決めたって言ってたよね。なんにせよ、おめでとう」

「うむ、めでたい。……ところで、パーティーの食事の用意は本当に真宏に任せてよかったのか? ここは普通私達が準備するところだと思うのだが……」

 

 そして一夜明けて、相変わらず飲んだくれている千冬さんを家に残して初詣にやってきた。

 年末年始は帰省しているセシリアと鈴、そして刀奈さんと簪は相変わらず不在ながら、篠ノ之神社で舞を披露する箒とシャルロットも合流して中々どうして華やかだ。

 なかなかの人出でにぎわう神社の中を散策し、おみくじなどしていると、そろそろ俺の誕生祝いの段になった。みんなよく覚えてるなあ。俺なんてよく自分の誕生日忘れそうになるのに。

 

「気にするなって。みんなに祝ってもらえるだけでもすごく嬉しいから、このくらいお返ししないと」

「ちなみに、何を用意したんだ?」

「聞きたいか?」

「真宏、すごく楽しそうだね。……ロクなことにならない気しかしないよ」

 

 ぞろぞろと家に向かいながら聞かれ、ついつい浮かれてしまう。

 フフフ、期待するがいい。正月気分とみんなが誕生日を祝ってくれるということでテンションの上がった俺は結構いい肉を買ってある。ここにいるのは食欲旺盛な高校生揃いだし、みんなが喜べるものといえば……!

 

「夜は焼肉っしょ! あっはっは!」

「一夏! 真宏に先頭を進ませるな!」

「わかった。真宏こっち来い」

「真宏の家に着いたら即座に室内をクリアリングするぞ、シャルロット」

「うん。もしかしたら篠ノ之博士あたりが忍び込んでるかもしれないね」

 

「……あれー?」

 

 と、思っていたのになんか厳重に護衛されました。解せぬ。

 

 

◇◆◇

 

 

「さあ、年が明けた。が、今年もバリバリ鍛えていくからな。覚悟しろ」

「はい!」

 

 その後の正月休みはごくごく平和に過ぎた。

 誕生パーティーはさすがに匂いが着くからシャルロットたちには着替えてもらって盛大に肉を焼いてしこたま食った。その途中に簪から携帯にメッセージが、ついでに宅配でプレゼントが届いたし、翌日の1月2日には簪と刀奈さんが振り袖姿で俺の実家に来てくれて大いに眼福を楽しませてもらえたのは新年早々からしこたま嬉しい。

 

「じゃあ、何か正月らしい遊びでもしましょうか。福笑いとか?」

「カルタならありますよ。コレです」

「……ねえ、どう見ても特撮ヒーローの描かれたカードなんだけど」

「読み札には各種ヒーローの名乗り口上や決め台詞が書かれています。それを読み上げますんで、該当するヒーローの札を取ってください」

「それどう考えても私が圧倒的に不利よね!?」

「……真剣勝負だよ、お姉ちゃん」

「簪ちゃんがいつになく本気!?」

 

 そんな感じで、特に襲撃されたりもしない極めて平和な休みだった。

 

 気になったことといえば、東欧の小国であるルクーゼンブルク公国の第七王女様が急に来日したとニュースでやっていたことくらいだろうか。

 あの国、生前のじーちゃんがニュースとかやたら気にしてたような覚えがある。もしかしたらじーちゃんはあの国の人だったのかもわからんね。

 なんにせよ、かの第七王女様はISの専用機持ちにして代表候補生でもあると聞く。と、いうことは。

 

「それはそれとして、今日から特別留学生としてルクーゼンブルク公国第七王女(セブンス・プリンセス)殿下がIS学園に滞在される。貴様ら、失礼のないようにな」

 

 こうやって、IS学園に大なり小なり関わるってことだしね!

 

 

「大義である、織斑千冬」

 

 教室の扉が開き、可愛らしい声で傲岸不遜なセリフが良く響く。

 廊下から転がり出てくるレッドカーペットを踏みしめて姿を現したのは、御年14歳という前情報からの予想を裏切らない一人の少女。

 豪奢なドレス、丁寧に手入れされているだろう長い髪、男装黒服のメイドをぞろぞろと引き連れて毛ほども臆さぬ王者の風格を備えた小柄な王女様が入って来た。

 

第七王女(セブン)……」

第七王女ね(セブン)……」

第七王女だ(セブン)……」

第七王女よ(セブン)……」

 

第七王女(セブン)! 第七王女(セブン)第七王女(セブン)! どいつもこいつも、何故そうまで繰り返す!?」

「失礼しました。あいつらは基本的にアホなので無視してください」

 

 そしてさっそくIS学園のノリの洗礼を受けたアイリス王女。幸先いいですね。

 

 ちなみにその後、いつものアレで一夏がお世話係に任命されていました。強く生きろよ、一夏。

 

 

◇◆◇

 

 

「真宏ォ! 一夏が例の王女とデートするみたい! 監視するから付き合いなさい!!」

「いきなり人の部屋のドアをブチ開けるなり何言ってるんだ、鈴」

 

 それからの数日は、まあ大体いつもの感じだった。

 一夏がアイリス王女の世話係として振り回され、一夏と接する時間が減った分と反比例して増大するヒロインズのストレス。それが「王女と一夏のお忍びデート」などというIS学園の休日的な火種を持ち込まれたらそりゃあ爆発するというものだ。

 

「それより、鈴。改めて、あけましておめでとう。正月はどうだった?」

「ああうん、あけおめ。まあ中国は旧正月の方が盛大だから、普通よ。従妹の乱にも久々に会えたけど……って、それどころじゃない!」

「別にいいじゃないか。鈴たちもそのうち適当な口実で一夏とデートすればチャラだろ」

「そうなる前に一夏が王女の国に連れ去られたらどうするのよ! あの王女ならやりかねないわ。これが権力ってやつね……!」

「心配しないでも、そんなことになったら千冬さんがキレるって相手もわかってるだろうから気にしなくていいと思うんだけどなあ」

 

 とまあ、俺の理性的な反論なんざ馬耳東風もいいところで、ヒロインズ総出で行われる恒例の一夏デート尾行大会に参加させられたのでしたとさ。

 もー、今日はこれから、最近話題の怪し過ぎるバーチャルユーチューバー「たばね17さい」の動画見ようと思ってたのにー。

 

 

「遅いぞ一夏! こんなところでわらわを待たせるから、何度もここの生徒に間違われたではないか!」

「いやあ、これは申し訳ない」

 

 鈴に引きずられ、箒たちが密集している校門付近の物陰にたどり着くと、ちょうど一夏がアイリス王女に合流したところだった。

 ちなみに、この場には簪もいた。俺も同行させるからには一応簪も同伴させなきゃ、という気を使ってくれたらしい。だったら俺を抜きにするという方向にその辺の気遣いを発揮してもらいたいんだけど。

 ともあれ、こうしてのこのこと出てきてしまったからには一夏たちの様子を観察して楽しもう。

 一夏が王女殿下に対して割と砕けた感じで話しているのは、お忍びだから普通に話せとでも言われたのだろう。まるで勝気な妹をかわいがる兄のようで、見ていて大変に微笑ましい。

 

「しかも! 中学生に間違われたのじゃぞ! このわらわが!」

「それは仕方ないのではないかと。IS学園には、うちの姉とほぼ同じ年なのにIS学園の制服来てちょくちょく忍び込んでくる中学生くらいにしか見えない専用機持ちがいるので」

 

「さーて今日もIS学園の生徒にグレネードの洗の……げふんげふん、営業しますよー! あ、一夏くんにアイリス王女、こんにちは!」

 

「……アレか」

「アレです」

 

 そして、そんな二人の横をニコニコと楽しそうに横切っていくのは、IS学園の制服姿で生徒に変装したワカちゃん。今日も元気にIS学園の生徒にグレネードの良さを布教しに行くのだろう。時々こうして潜り込み、千冬さんに追いかけ回されているのを見る。

 そんな未知との遭遇で毒気を抜かれたか、なんかきゃいきゃい言っていたのから一転しておとなしくなった王女は、一夏と共に近所のショッピングモールへと向かっていった。

 自転車二人乗りで。

 

「ああっ、なんですのアレ! 羨ましいですわ!」

「セシリアってああいうのしたことなさそうだよね」

「私もないぞ! おのれ一夏……!」

 

 そんな青春マンガ御用達のシチュエーションを目の当たりにして、物陰から火サスの嫉妬に狂った女の目を向けるセシリア達。うーん、いつも通り。安心するね。

 ……ん? でも待てよ? 箒の様子が変だ。妙にボーっとしてる。

 

「どうしたんだ箒、具合でも悪いのか? なんか、火星から来た謎の遺伝子でも組み込まれてるみたいな目をしてるけど」

「……いや、何でもない。というか一体どういう目だそれは」

 

 そりゃあもちろん、人外化が進むヒーローとかによくありがちな、時々赤く光る目だよ?

 

「まあいいや。実は束さんが別の星から来たヤベーイ人で、箒の体乗っ取ろうとしてたりするかもしれないから気を付けろよ」

「……バカげた話だというのに、相手があの人だと全く否定できないのが困る」

 

 

 ――と、適当に流していたのが後に面倒なことにつながるなんて、さすがにこの時点では想像もつかなかった。

 

 

 

 

 その後、ショッピングモールに着いた一夏とアイリス王女は微笑ましいデートを楽しんだ。ウィンドウショッピングをしてみたり、アイスを買い食いしたり、そもそもの目当てだったらしい服を買いに行ったり、蕎麦屋で食事を取ったり。

 

 

 ……そして、蕎麦屋に入ったきりいつまで経っても二人が出てくることはなく。

 不信に思ってバレるの覚悟で店内に踏み込んだ結果、一夏とアイリス王女の姿は見当たらず。

 まさか店の人に聞く限り俺たちの尾行に気付いてこっそり裏口から出て行ったというわけでもないようで。

 それどころか店の人たちは一夏とアイリス王女がいつの間にいなくなったのか誰一人把握していないということまで発覚するに至り。

 

「いかん、これ多分誘拐だ」

「なにぃー!?」

 

 そういう事態だと断定せざるを得ないなこりゃと判明したのでしたとさ。

 

「まあ、この界隈だと割とよくあることだよな。一夏は昔誘拐されたことあるし。人生2度目だな。はっはっは」

「笑ってる場合じゃないわよ! セシリア、学園に連絡お願い!」

「わかりましたわ」

「私たちはとりあえず手分けして探すわよ! 下手に騒いで民間人を巻き込むわけには行かないから、ショッピングモールには伝えずに……って、真宏どこ行くの!?」

「もちろん、二人が捕まってる場所だ。……この誘拐犯アホだろ。なんでIS操縦者を誘拐するのにIS引っ剥がさないんだ?」

「……………………あ」

 

 というわけで、どういうわけかISへの対処を一切していなかった誘拐犯の皆さん、踏み込んだ時には白式を展開した一夏にボコボコにされていましたとさ。

 

 なんか、王女殿下は麻痺毒でも食らってたのかIS展開したままのたうち回ってたけど、ISを持たせたままにしておく理由は謎のままだった……。

 

 

◇◆◇

 

 

「で、その辺の責任を問うために一夏をルクーゼンブルク公国に連れて行く、と」

「当然だ! 王女のお傍にいながら誘拐を防げないなど……!」

 

 その後。

 諸々の始末は警察やら大使館やらの人たちに任せて、騒ぎが大きくならないうちにIS学園へ引っ込んだ俺たちを待ち構えていたのは、近衛騎士団長(インペリアル・ナイト)のジブリル・エミュレールさんだった。

 アイリス王女救出に一応加わったということで俺たちも事情聴取を受けてるわけなんだけど、ジブリルさんてば一夏に対してめっちゃ怒ってる。まあ確かに、王女様のお付きの任を受けていた一夏がついていた上でのご覧の有様。王女の身を守る責任者としてはまあ致し方のない対応だと思う。

 

「まあそう言わずに、ジブリルさん。確かにいろいろありましたけど、そもそも実行犯はそちらのメイドさんだった上に、救出したのも織斑くんたちです。それでチャラってことにしておきません?」

「甘い! 昔から甘すぎるぞ真耶!」

 

 そして、なんとこちらのジブリルさん、山田先生と同期でIS学園のOGらしい。

 ……が、なんというか見つめ合う視線にそれ以外のナニカを感じるんですが。具体的に言うと元ダリル先輩とフォルテ先輩っぽいというか、スコールさんとオータムさんぽいというか、いまにもやけぼっくいしそうなアトモスフィアというか。まあ、IS学園ならそういうのもよくあることですよね!

 

 だけど、それはそれとしてこの状況はよろしくない。

 もし万が一この流れで一夏がルクーゼンブルク公国に連れていかれて……なんてことになるとシャレにならん。いろんな意味で。

 

「はい! 発言いいでしょうか!」

「なんだ、神上真宏。お前からはもう事情を聞いた。これ以上用はないが」

 

 なので、ちょっと口を挟ませてくださいな。

 いやいやそちらにとっても悪い話ではない、というか悪い話にならないようにしますんで。

 

「いえね、一夏の身柄について。いろいろと思うところはあるでしょうけど、落としどころって大事ですよ。もし本気で一夏を国に連れて帰ろうというなら……」

「……いうなら?」

 

 だって、もしうっかり一夏をどうにかした場合。

 

「……国家解体戦争不可避、とだけ」

「………………………………あー」

 

 それはもう、世界がひっくり返ること請け合いだしさ。

 IS学園に通っていたことがあるというだけあって、ジブリルさんも心当たりがあるのだろう。

 

 かつて、最初のISが引き起こした「白騎士事件」から10年。世界を滅ぼす力を秘めたISコアを巡って新たな戦いが勃発している今日この頃。白騎士の操縦者が誰なのかは今もってわかっていないことになっているけど、まあ諸々の事情からして一番それっぽい人の顔が浮かんだに違いない。

 

 そう、もしどこぞの国が一夏に下手なちょっかい出した場合、割と真剣にその国は壊滅させられかねない。

 そしてそんな事態になったらここぞとばかりにファントム・タスクに鞍替えしたアーリィさんが出てくるし、結果として勃発するお祭り騒ぎに我慢しきれなくなったワカちゃんまで加わってそりゃあもうしっちゃかめっちゃかの大騒ぎになること請け合いだ。

 流れ弾で都市が焼け、うっかりと勢いで国が滅ぶ。そんな光景がありありと脳裏に浮かび上がる。

 

「し、しかしこのままなにもなくというわけには……!」

「よい、ジブリル」

「お、王女殿下!?」

 

 それでも、事態が事態だけに全くのおとがめなしとするわけにはいかないジブリルさんが食い下がるのを、王女様がそれを止めた。

 別室で休んでいたけど、どうやらもう歩いても大丈夫らしい。足取りはしっかりしているし……なんか、その目にやたらと覚悟を宿しているような。

 

 ……あ、タッグトーナメント直後のラウラの目にそっくりな気がする。

 

「わらわは決めた。一夏を我がルクーゼンブルク公国へ正式に招く。そして正式に世話係に任じる! 一生じゃ!」

「わー大胆」

 

 予想、的中。

 事実上のプロポーズだこれぇ!? どうしてヨーロッパの小さい子はこう極端に走るかな。

 

「異議があるならこの場でのみ聞いてやろう。だが、覚悟がないなら口をつぐむがよい」

「異議あり! そんなの認められるわけないでしょ!」

 

 そして、極端に対して脊髄反射で反骨したのはやはりと言うべきか、鈴。ツインテールを逆立てる勢いで、ツンツンオールバックヘアーの弁護士のようにズビシッと指を突きつけた。

 

「ほう。貴様、名は」

「凰鈴音。中国の代表候補生! 専用機は甲龍!」

「ふん、その度胸は認めてやろう。だが、こうして互いの主張が相容れないものとなった以上、どうなるかはわかっておろうな。女同士、いざ尋常に……!」

決闘(デュエル)ですね!」

「真宏、黙ってなさい」

「その決闘(デュエル)、合意と見てよろしいですね!!」

「いいわけないでしょ黙ってなさいよ。セシリア、シャルロット、ラウラ。悪いけど真宏を縛り上げといて」

「仕方ありませんわねえ」

 

 そして、ついつい勢いに乗った結果椅子に縛り付けられる俺。

 仕方ないじゃないか! なんか美しき決闘者(ビューティフル・デュエリスト)って感じになってきたんだから!

 

「なんなのじゃあいつは。一夏と一緒に世話係にせんでよかった……」

「全くです、王女殿下」

 

 その後、鈴の挑発となんやかんやの末に決闘は王女様と近衛騎士団長のジブリルさんのタッグと、鈴と箒のタッグで1週間後に開催されることが決定するのだった。

 

 

「さーて、それじゃあ特訓しましょうか。真宏、練習台になりなさい」

「なぜ俺が」

「相手とは初めて戦うことになるから、いつも何してくるかわからない真宏の相手でもした方がいいでしょ」

「理不尽! だが受けて立つ!!」

 

 そしてそれまでの間、仮想敵扱いで鈴と箒にボコボコにされました。解せぬ。

 

『2対1は卑怯だろ!』

「それでも普通に健闘する辺りがヤバいわよね、真宏」

「セカンドシフトしているとはいえあの頑丈さは折り紙付きだからな。実質通常のISの2倍くらいはダメージを叩き込まなければならん」

『それだけのダメージを的確に叩き込んでくるところに友情を感じるなオイ!』

 

 まあでも、一夏を連れて行かれたら面白くない、というか下手すると日本がヤバいと思うのは俺も同じ。だからせいぜい箒と鈴には強くなってもらおうか。

 

『ということで、俺もちょっと本気を出していこうと思う。ワカちゃんが最近開発したこの新装備、2分間だけだが巨大ロボ的なパッケージを使える魔法のグローブで……!』

「止めるぞ、鈴! アレだけは使わせてはいけない気がする!」

「徹底的にボコってでも止めるわよ!!」


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