ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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「さて、万能薬はアイテムストレージに容れたから、団長から頼まれたお仕事も終わりね。これからどうしようか?」
ティオネが訊ねると……
「あ、ティオネ。私はちょっと武器の整備に行きたいけど構わない?」
「ゴブニュ・ファミリア? 私も行くよ、大双刃の刃が劣化しちゃってさ」
アイズと妹のティオナが神ゴブニュが主神をしているファミリア、ゴブニュ・ファミリアの工房に行きたい旨を伝えてくる。
「良いわよ。ユートから得たステータス・ウィンドウで報酬も仕舞えたしね? 私とレフィーヤも付いていきましょう」
「あ、はい!」
レフィーヤが頷く。
予備武器なら未だしも、自分達が普段から使っているメインウェポンは自己管理が当たり前。
武器の劣化や破損には、自己負担で対応をしる。
寧ろ、自分の武装を誰か任せにするなど冒険者としては有り得ない。
アイズのデスペレートは
何しろ、あのヴィルガの溶解液をしこたま浴びたのだから、刃が相当に劣化をしているのも無理は無い。
ティオナの大双刃とは、
本来なら不壊属性を持たないコレは、ヴィルガとの戦いで溶けてもおかしくはなかったが、ユートによるスキル【
あのスキルはユートが識る聖剣の能力を、武器に対して一つだけ一時間に限り附与が可能で、デュランダルというシャルルマーニュ十二勇士のローランが使った剣の能力を与えた。
よって、一時的に不壊属性が宿っていたのだ。
大双刃を買い換えともなれば、きっと億単位の借金を背負っていただろうが、単なる整備レベルなら安く済むであろう。
素材のアダマンタイトがユートの識る【神金剛】であれば、高がモンスターの溶解液で溶けたりはしなかったろうが、所詮は硬いだけの金属でそこまでの高い能力は望めないのだ。
北と北西のメインストリートに挟まれた区画、路地裏深くに存在する石造りの平屋、それこそがゴブニュ・ファミリアの拠点。
武器防具といった装備品の整備製作を行うファミリアであり、ユートが防具の製作を頼んだ【ヘファイトス・ファミリア】に比べ、知名度や勢力などは見劣りするのだが、造り上げられた武具の性能という面に於いて劣るものではない。
「そういや、ユートの剣って何処のファミリア製? ヘファイトス・ファミリアかな? それともゴブニュ・ファミリア? ひょっとしてもっと別のファミリアだったりする?」
「自家製」
「なんだそっか……って、自家製というと自分で造ったって事?」
「そうだよ」
質問したティオナだけでなく、アイズもレフィーヤもティオネも驚く。
「エリュシデータもダークリパルサーも、形や銘とかは他から持ってきたけど、造ったのは僕だよ」
後に【黒の剣士】に譲渡される二振り、それこそは【黒の剣士】が嘗て揮った剣そのものの形である。
勿論、ゲームSAOに於いて登場した【クリスタライト・インゴット】なんて存在しないから、ダークリパルサーの素材は全く別の金属を用いている。
エリュシデータは
早い話がはぐれメタルというDQなモンスターを、
ユートがプチッと毒針にて急所を突いて殺した後に、地面にドロリと溶け消える前に拾って、保存した物を特殊な方法でインゴット化してから、鍛冶で鍛え上げて武具に変えている訳で、商品名【はぐれメタル鋼】として、ダークリパルサーを造ったのだ。
類似品に【メタスラ鋼】や【メタルキング鋼】などが有り、【プラチナキング鋼】が最高品となる。
神の金属にこそ劣るが、神秘金属としては良い品というのがユートの評価。
何処ぞの魔界の名工辺りは嬉しそうに受け取って、最高品質の武具を次々に鍛え上げていったと云う。
「私も武器を補充しようかしら?」
ティオネの武器はククリナイフのゾルアス、投剣のフィルカ。
武器の性質上、数を揃える必要性があるから予備を幾つか持っており、今回の遠征ではヴィルガを相手に可成り喪い、ステータス・ウィンドウが無ければ一旦は本拠地に戻って、すぐにゴブニュ・ファミリアへと赴いて製作を依頼しなければならなかった。
ステータス・ウィンドウのお陰で報酬──一千万ヴァリス相当の万能薬を持ち運ぶ必要が無いからこそ、アイズ達と共に行ける。
何しろ、フィルカなんて投剣という性質上で使い捨ての武器だ。
単純な戦闘なら拾ってから再利用も可能だろうが、今回はブラックライノスの群れに投げたり、ヴィルガに投げたりしていた。
フィルカが踏み潰されるは溶けるは、喪失する理由に事欠かない。
三つの槌が刻まれているエンブレム、それがゴブニュのファミリアを示している紋様だろう。
「ごめんくださーい!」
ゴブニュ・ファミリアの拠点に着いて、ティオナが元気よく挨拶をしながらも扉を開けると……
「いらっしゃぁい……っていうか、げえええっ!? 関羽……じゃなくて【
「バカな、ティオナ・ヒリュテだとぉぉぉぉ!?」
「いや、あのさぁ……私の二つ名で『げえええっ!?』とか、それは止めてくんないかな?」
ジト目なティオナ。
「どうしたんだ?」
「ああ、あの子はよく武器を壊しては此処の連中へと心労を掛けるからね」
ティオネの言葉を肯定するかの如く……
「親方、クラッシャーが! 【壊し屋】が現れましたぁぁぁぁっ!」
「くそ、今日はいったい何の用だ!?」
戦々恐々とするゴブニュ・ファミリアのメンバー。
それこそ、先日に見掛けたミノタウロスに追い詰められる白髪の少年の様に、まるで恐怖の象徴でも視るかの目であったと云う。
「ティオナの大双刃は知ってるでしょ?」
「ん、あのバカでかい」
「此処のファミリアが数日は不眠不休で鍛え上げたらしいし、またぞろ壊された日にはキレたくもなるわ」
「成程な」
あれは斬るより正に叩いて砕く武器で、大きさなど相当だから必要となる金属の量もそれに比例する。
それを不眠不休で鍛え上げたのに、簡単に壊されては堪ったものではない。
ユートも鍛冶はするし、その気持ちは解らないでもなかった。
「くっそ、また壊しやがったんだな?」
「え、ちが……」
「ああ、そうさ! そうに決まっている!」
「ええ……?」
「どうせ、不眠不休で鍛えたあのウルガもモンスターに溶かされたとか言って、また新たに造れとか言うんだよな? そうだよな! ドチキショォォォッ!」
「まだ何も言ってないんだけどなぁ……」
最早、悪夢の如くだ。
「取り敢えず、あれは放っておくしかないか」
ユートはアイズを連れ、奥に居るであろうゴブニュの方へと向かう。
「何をしに来た?」
「剣の整備をお願いにきました……」
無言で手を差し出すのは白い髭を伸ばす短身だが、鍛え上げられた筋肉を持つまるで細身のドワーフといった風情の老身、彼こそがこのファミリアの主神たるゴブニュ本神である。
腰に佩いていたデスペレートを、鞘に納まった侭でアイズが渡すと、スラリと抜き放ってゴブニュは刀身をマジマジと眺めた。
「ふん、また派手に使ったものだな。刃がやけに劣化しとるが何を斬った?」
「何でも溶かす液とその液を吐き出すモンスターを、可成りの数……」
「まったく、不壊属性といえど切れ味は鈍る。元に戻るまでに時間が掛かるな。代剣を出してやるから暫くはそいつを使っていろ」
アイズの顔色が悪くなるのは遠慮しているからか?
「生半な武器ではすぐにも使い潰すだけ。素直に甘えておけ。ほら振ってみろ」
渡されたのはデスペレートと比べても細身な剣で、不壊属性のデスペレートを鑑みれば頼り無い。
そんな剣を腰に据えて、鞘走らせると抜刀!
「ほう、今回は違うな」
「違う?」
「何故かは知らんが、今日に限って無駄な力が入ってはおらん」
「っ!」
ドキン! 胸が高鳴る。
先日に出逢ったあの白い兎みたいな少年のお陰か、何だかアイズは世界が拡がったみたいな錯覚を覚え、我知らず感謝を籠めた。
「それで、ユート。お前さんは何の用事だ? 先達て頭に声が響いてきたが」
「うん、その件で御礼を」
「ふむ?」
「ゴブニュが許可してくれて助かった。お陰で犠牲も出さずロキ・ファミリアのメンバーを護れたよ」
「そうか、それは何より」
ゴブニュとて一端にファミリアを持つ身、他の派閥だとはいえ
「取り敢えず、趣味には合わないだろうけどお土産。ファミリアの皆で食べてくれると嬉しいかな?」
ホールケーキを五つばかり寄越して言う。
「まあ、疲れた日には甘いものを欲するであろうし、有り難く戴こう」
折角の手土産を邪険にするのもあれだし、ゴブニュはそれを受け取った。
「それと、こいつを」
「インゴットか? 見た事が無い金属だが……」
ヘファイストスにも見せた黒鍛鋼インゴット。
「ヘファイストスはこいつ一本に、五十万ヴァリスという値段を付けた」
「ほう、五十万か」
「十本を進呈するから……試しに幾らか剣でも打ってもっと欲しくなったら言うと良い。その時には一本を五十万ヴァリスで売る」
つまり五百万相当。
ヘファイストスも言う、武器にして良し防具にして良しの黒鍛鋼、ユートとしては決してこれで儲けようとは思わないが、無料での提供は有り得ない。
故に、ヘファイストスが付けた価格で売る訳だ。
玄人から見た誇りを懸けての値段設定で。
徒に高くも、だからといって莫迦みたいに安くも無い値段設定であるが故に、ユートはこの価格で譲ると決めたのである。
「楽しみにしているが良い……店頭に並ぶ時にはこれが何百倍にも価値を持った武具にしておこう」
「それは確かに楽しみだ」
買うのか否かは兎も角、どれだけの物に仕上げるかは楽しみだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
更には何故だかミアハが紙袋を持って歩いてた為、ユートは回復系アイテムの素材をお土産の代わりに渡すと、序でに食材を幾らか譲っておく。
ミアハ・ファミリア……ディアンケヒト・ファミリアと同様に薬品系ファミリアであり、然し彼方と違って団員は団長だけの貧乏なファミリアらしい。
何とかかんとか作っているポーションやハイポーションで食い繋ぎ、ディアンケヒト・ファミリアからの借金返済に右往左往をする経済が火の車だとか。
お金を渡してもダメダメだろうから、ユートは食材を渡したのである。
用事も終わり、ユートはティオナに引かれるが侭に【豊穣の女主人】と銘打たれた看板の店に入る。
遠征の後には盛大な酒宴を開催し、皆を労うというのがこのロキ・ファミリアでの習慣だ。
「ミア母ちゃん、来たで」
ロキも既に星が出て明るくない夜空の頃、この店に扉を開けて入ってきた。
「お、ユートも来たな」
最初から呼ばれていたからティオナに引かれずとも来たが、彼女としては愉しくて仕方がないのだろう。
何しろ、ティオナは姉のティオネと共に淫蕩を地で往くアマゾネスからしてみれば変わり者だった。
アマゾネスは基本的には女しか生まれず、他種族と交わらねば子孫を残せない種族である。
その所為か現代日本風に云えば肉食系女子の極み、良さげな男を見付けたなら取っ捕まえ拉致って種付けをさせる程。
ティオナもティオネも、そんな
今でこそティオネは団長──フィン・ディムナに対してお熱だが、ティオナは未だ恋すら知らなかった。
そんな彼女が、何故だかユートのスキルの実験へと積極的に関わり、それ以後もまるで恋する乙女の如くユートの傍を堪能する。
それだけユートを気に入ったのだろう。
ユート自身もこれだけの好意を前面に押し出されて気付けない様な、鈍感系な主人公レベルなアンポンタンではないし、何より夜中に部屋に忍んで来られたらもう決定的。
ユートが知る某・娼館のアマゾネスとは決定的に異なるティオナが、自分に対しては素直に性を押し付けて来るのだから。
まあ、実際に娼館に於けるサンジョウノ・春姫以外にも抱ける娘が居るのは、ユートからしても嬉しいから文句など無い。
リリルカ・アーデは抱いて以後は見ないし……
閑話休題
「おっしゃ! みんな遠征御苦労さん! 今日は恒例の宴や、飲めぇぇっ!」
あちこちで上がる乾杯の声声声、ユートも挨拶なぞ今更だと謂わんばかりで、肉にかぶり付き度数も値段もバカ高い酒を煽る。
それはもう遠慮無く。
あっという間に料理も酒も無くなってしまった。
「うわ、ユートってば早過ぎるよ?」
「僕は何処ぞの自称・超絶美形主人公と同じ、女の子と食事は喰える時に……」
「キャッ!?」
行き成り抱き寄せられ、ティオナは思わず可愛いらしく悲鳴を上げてしまう。
「喰っちゃう事にしているんだよ。ま、ラーズ辺りは下品で浅ましいだけだ……なんて言うけどね」
「もう、バカだよね」
満更でもない表情で言うティオナ。
「リュー、酒と料理の御代わりお願いね!」
「ハァ、判りました」
エルフのリュー・リオンに注文をする。
遠征前に此処で食事をした事が何度かあり、彼女とも顔見知り程度には面識を持っていた。
そして、エルフだからかやはりレフィーヤやリヴェリアと似た反応。
特に、手が偶々だが触れ合った後のリューの狼狽は面白いくらいだ。
先程、どうにも面白くなさそうに睨んでいたのは、ティオナと仲好しこよしと急接近したから、無意識にムッとしたのだろう。
「団長注ぎます。どうぞ」
「ああ、ティオネ……ありがとう。だけどさっきから僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされてるけど、酔い潰した後、僕をどうする心算だい?」
「あら、他意なんてありませんよ? さ、もう一杯」
「ほんっとうにブレねー、この女だけは……」
どんどん注ぐティオネ、たじたじなフィン、ジト目なベート。
「うおおっ! ガレスー! ウチと飲み比べで勝負やあああっ!」
「良かろう、返り討ちにしてやるわい」
「因みに、勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由に出来る権利付きや!」
「じ、自分もやるっす!」
ロキの勝負宣言にガレスが応え、戯れ言にラウルや他の団員が手を挙げる。
「リ、リヴェリア様?」
「言わせておけ……」
オロオロするレフィーヤだが、瞑目しながら静かにグラスを傾けていた。
「御待たせしました」
大量の料理に酒瓶を手に現れたリューが、ユートの前に次々と並べる。
本人はテーブルのあちこちから料理をかっぱらい、勝手気儘に大量に食べてはいたけど、新たに来た料理もすぐに手を付けた。
周りの団員がアイズへと酒を勧めるが、リヴェリアに一喝された挙げ句の果てにベートに奪われる。
どうやらアイズは酒癖が悪いらしい。
皆が食い、酔って宴会も良い具合に進んでいる。
ユートもブラックホールみたいに料理を胃に収め、蟒蛇の如く酒を次々と飲み干していた。
きっと、ユートだけでも何十万ヴァリスと飲み食いしている筈。
そんな時……
「そうだアイズ! お前、あの時の話を聞かせてやれよっ!」
アイズの斜向かいに座るベートが、酒を飲みながら酔っ払い特有の濁った瞳で見つつも、御機嫌な様子で何らかの話を催促する。
意味が解らず首を傾げるアイズ。
「ほれあれだって、あれ! 帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹をお前が五層で始末をしたろ? んで、ほれ! あん時居た白髪野郎の!」
それはユートとアイズが救った少年の話だ。
あわやという処でユートの結晶障壁が護り、アイズのデスペレートが細切れにしてやった時の。
「ミノタウロスって、確か一七層で襲い掛かってきたから、返り討ちにしてやったら逃げ出した奴ら?」
「それそれ、奇跡みてーにどんどん
その余りの言い種には、アイズも表情を歪める。
「抱腹もんだったぜぇ? 兎みてえに壁際に追い込まれてよ! 可哀想になるくれー震え上がっちまって、顔を引き攣らせてやんの」
「ふむぅ? そんで、その冒険者はどうなったん? 助かったんか?」
「ああ、ユートの奴が障壁で護ってよ、アイズがミノを細切れにしたかんな!」
泣きたい顔を必死に抑えるアイズは、太股の上で拳を握り締めていた。
止めて……大切な
だけどベートは続ける。
「それにだぜ? そいつぁ……叫びながらどっかに行っちまってよ! くっく、うちのお姫様は助けた相手に逃げられてやんの!」
テーブルに着いた全員が大爆笑、ロキもアイズたん萌え! とか言いながら、大声で笑っていた。
酒の席での戯れ言とは、アイズが思っていないのにも気付かないで。
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宴会が続いてしまった。