ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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これ程に上がった能力、ヘスティアも驚愕して絶叫をするしかない。
「何がどうなってるんだいこれは!? ついこないだまでベル君の基本アビリティはH評価すら無かった。なのにF評価に俊敏に到ってはD評価ぁぁっ!?」
躱すタイプだからだろう耐久は低いが、それにしても大きく上がっている。
「えっと、神様?」
「あ、ああ……ごめんよ、ベル君。余りにも現実離れしてたもんだからさ」
「は、はぁ……」
そこまでなのかと何だかいまいち他人事みたいな、現実味が沸かないベル。
以前、ステイタス更新をしたのがミノタウロスに襲われた直後、それから日数もそれなりに経っており、ベルもその日数を遊んでいた訳でもなく、修業やそれに準じたダンジョンに於ける実戦経験の獲得、ユート曰く低い能力値の侭で強い敵と戦えば、それらの分だけ獲られる
元々の能力がヘスティア・ファミリアに入って半月程度で低く、それから行き成り第十層でインファント・ドラゴンと戦わされて、更に第七層でキラーアントと延々と戦い、遂先日に到っては本来なら有り得ない中層たる第一五層で戦闘。
メインで戦っていたのがユート、サブがラブレスで自分はオマケに過ぎなかったとはいえ、それでも戦って経験値を獲ていたのだ。
苦労に見合うだけのリターンが無ければ心が折れ、二度とは立ち上がれなかったかも知れない。
何処か現実味が無かったベルの頭に、徐々にだけど今のステイタスが染み渡ってきて、顔を真っ赤にしながら『報われた!』と涙すら流して羊皮紙を抱き締めてしまう。
「ぶっちゃけ、今のベル君はソロで七層くらいはイケるくらいだと思う。おめでとうベル君、ユート君からの虐めにも等しい修業に克ち残った君の勝利だ!」
「か、神様……ありがとうございます!」
感極まったベルは……
「ふえ? ベ、ベル君?」
ヘスティアに抱き付く。
茹で蛸の如く真っ赤になったヘスティア。
「そういえば、ユート君はどうしたんだい?」
ちょっと惜しみながら、それでもベルから離れて話を進める。
ヘスティア的にはこれからベッドインでも良かったのだが、流石に其処までをベルに期待するのは酷というものだろう。
ダンジョンに出会いを求めて来たにしては初心で、今だってステイタス更新で感極まったから抱き付いたに過ぎない。
冷静ならまず不可能だ。
「ああ、何だか用事があるみたいで別れて来ました」
「そっか、最後の更新……正確には最初で最後の更新をしておきたかったけど、仕方がないのかな?」
実はユート、全く更新をした事がなかった。
つまり未だに初期値。
まあ、アテナ・ファミリアに改宗をしたらその際に更新もされようが、彼女としては自分も一度くらいは更新しておきたかった。
改宗自体はアテナであるサーシャが引っ越してから行う予定で、彼女の引っ越しは
つまり、ユートは未だにヘスティア・ファミリアに所属の侭であった。
そんなユートだったが、リリルカ・アーデと一ヶ月くらい振りに再会を果たしており、楽しく話をしていた訳だが──
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何故かソーマ・ファミリアの主神ソーマの目の前にリリと共に立ち、不敵なる表情となって相対中だ。
「お、お久し振りです……ソーマ様」
主神に頭を下げるリリ。
「うむ、誰だったかな? 我がファミリアにも団員はそれなりに居ってな、一人一人を覚えてはおらん」
随分な言い種であるが、そもそもリリは一団員に過ぎない身分な上、冒険者ではなくサポーターに過ぎなかったし、何よりここ最近はステイタス更新に訪れてもいなかった。
何より、主神ソーマとは酒造りにしか興味を示さない超暇神で、団員の顔を覚えるくらいならリソースを酒造に割くし、ファミリアそのものがソーマにとっては酒造りの為の組織。
ユートが見るに、ソーマは今でさえ早く酒造りへと戻りたいと考え、視線など御座なりでしかない。
リリルカ・アーデを──団員を視ていなかった。
「随分と前に死にました、アーデ夫妻の娘でリリルカ・アーデと申します」
「そんな事もあったか?」
何年も前だとはいえど、仮にも自らのファミリアの団員、それを忘れていたのだから業が深い。
だけどリリは思い出していた、嘗て両親が死んだばかりの頃にひもじい思いをしていた時、じゃが丸君を恵んで貰った事を。
あの時の男性とソーマの顔がダブる。
きっと余りにもひもじそうで、自分の本拠に居るから団員の一人だと考えて、単なる気紛れだったのだろうけど、施しをした。
偶々、目に入ったから。
それでも、当時のリリはそれで生き延びたのだ。
「本日はお願いがあって、ソーマ様の貴重な御時間を割いて頂きました」
「まったくだ。早く済ませてくれ……」
「じ、実は同行された方に誘われまして……リリを雇いたいと仰有られ、それを受けたいと思っています。つきましては、改宗も込みでとの事でして……それをソーマ様に認めて頂きたく面会を望みました」
「改宗……か」
それも、ソーマに代わりファミリアを取り仕切る男──【
ザニスはソーマ・ファミリアの団長で、LV.2とランクは低いものの謂わば最古参の一人。
ソーマが、ファミリアの運営に興味を持たないのを良い事に、好き勝手をしている独裁者でもある。
ザニスが居ては話が拗れるだけだとリリは判断し、彼が所用で出ている今の内に済ませる心算だった。
ユートの提案に乗ったのは理由がある。
元々、ファミリア脱退は目的の一つでもあったし、その為に犯罪行為にすらも手を染めていた。
別にユートの所属しているファミリアに入りたいという訳でもないが、此処に来るまでの会話からその気になったリリは、実の処は御安いのかも知れない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの、どうしてリリを? リリは単なる荷物持ち、サポーターに過ぎません。戦闘能力なんて雀の涙程度にしか……はっきり言って自衛がやっとですよ?」
「リリが可愛いからだよ」
「──へ?」
思わず間抜けな声で応じてしまう。
「前に抱いた時、十回くらいはヤっちゃっただろ?」
「そ、そうですね……」
その時の事を想起したらしく、モジモジとして曖昧な返事をする。
初めてだった。
十五年間、碌に触られた事も無い自らの肉体だが、それをあんな好きに貪られた訳で、しかも中盤からははしたない嬌声を上げて、自分で股を開いてしまって濡れそぼる秘部に、ユートの分身を納めて激しく動いてしまった程。
もう『赤ちゃんがデキるかも……』とか、後の事は考えられなくなった。
激しく淫らに乱れてしまったものだ。
アレを思い出すと女の疼きを感じてしまい、お腹の奥がジュンと熱くなる。
「相手が処女だと普通なら二〜三回くらいで留めるんだけど、リリが余りに可愛かったから十回とか遂々、ヤってしまったんだよ」
「う゛……」
こんなに女として持ち上げられたのは初めてだし、それであんなにされたとか言われては、複雑な心境ではあってもちょっと嬉しいかもとか思ってしまった。
この際、何人もの女性とヤっている発言はリリ自身の心の平穏の為、全力でのスルーを決め込んでいる。
「ふ、ふんだ! ど、どうせ他にも沢山の娘に同じ事を言ってるのでしょう?」
だけども女の甘い疼きが子宮を直撃していたリリ、思わずユートに対して本音が漏れてしまった。
「まあ、そうだね」
ムカッ! 言い知れない苛立ちを感じる。
「そ、其処は御世辞でも嘘でも『君だけだよ』とか、そう言われればリリは内心で喜びますよ?」
勿論、そんな解り易過ぎる御世辞で喜ぶ程にリリは世間知らずではない。
況してやユートは先程、複数の女性と蜜月な関係──まさか百人を越えるとは思わないにせよ──を築いていると自白したばかり。
そんな嘘をリリが喜べる筈も無かった──
「けど、御世辞も嘘も言った事は一度だって無いよ」
──その筈だったのに。
リリは茫然となった表情ながら、顔を真っ赤に染めて今の科白を反芻して……
「あう……」
胸を高鳴らせた。
嘘でも良いなんてそれこそ大嘘だったリリだけど、真面目な顔で微笑みを浮かべながら『御世辞も嘘も言わない』なんて言われて、唯でさえ胸がドキドキしていたのに、不意討ちみたいに言われた所為か『嬉しい』と感じてしまう。
沢山の中の一人であると公言されたのに、ニヤケるのが止められなかった。
「〜〜っっ!」
今なら『これから宿屋でしけ込もう』だとか誘われたら、ひょっとして断らずにのこのこと付いて行ってしまうかも知れない。
冒険者が嫌いで、自分の初めてを奪ったユートなんか大嫌いとか思っていた筈なのに、何とも御安いものだとリリは自身のチョロさに頭を抱えたい。
パッと手が握られる。
──え? 本当に今から宿屋ですか!? なんて、頭の中が御ピンク妄想だったリリだけど、ユートはと云えば真面目言う。
「【ソーマ・ファミリア】の本拠に着いたぞ?」
「へ? あ、はい!」
目的を履き違えていた事に驚愕し、ブンブンと首を横に振って気合いを入れ直して本拠を睨む。
「往きましょう!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
このファミリアを纏めるのはLV.2の上級冒険者──【
そして団長である以上、決して弱くてはならない。
基本的にソーマ・ファミリアの団員は殆んどの者がLV.1で、何人か幹部級がやっとLV.2である。
何が言いたいか?
ザニス・ルストラも偶にダンジョンへ赴き、少なくともステイタスが追い付かれない様にしているのだと云う事。
そして、今日がその日。
「ザニス様が本拠に居ない今がチャンスです!」
ザニス・ルストラを評するなら、それは厭らしい男であろうか?
別に女性にセクハラを働く訳ではなくて、性格的な厭らしさではあるが……
リリが曰く、ソーマ・ファミリアの主神ソーマは、趣味の酒作りにしか興味は無くて、ファミリアの運営は団長のザニスに丸投げ。
これ幸いとザニスは好き放題し放題、私利私欲の為に
ザニス・ルストラとは、正に欲望一直線な男。
「然し、高がLV.2程度で団長とか……ソーマ・ファミリアの底が知れるな」
とはいえ、ロキ・ファミリアの団長──【勇者】のフィン・ディムナを基準にするのはきっと間違いで、況してやフレイヤ・ファミリアの団長──【猛者】のオッタルを基準にするのはもっと間違っていよう。
何しろ、片やLV.6で片や最強のLV.7だ。
ユートは識らないけど、大抵のファミリアの団長はLV.3くらいである。
中にはそれこそザニスと同じLV.2で団長というのもあるだろうし、そもそもアテナ・ファミリアだとLV.1のユートが団長を務めるのだから。
ソーマ・ファミリア本拠にやって来た二人、早速だけどソーマに会うべく彼の部屋へと向かった。
「本日はソーマ様に御願いがあって参りました」
「俺は忙しい。聞いてはやるが手短にしろ」
リリからすればこいつは謂わばラッキー。
ソーマは完全な趣味神、趣味の酒作り以外には全く以て関心を示さないというのに、今回はどんな風の吹き回しかは知らないけど、話は聞いてくれるらしい。
これ幸いに改宗の話をした訳だが……
「ほう、我々の〝同士〟を引き抜きたいと?」
聞き覚えのある声が背後から響く。
「……っ!?」
その声に思わずリリが振り返ると……
「随分な話の様だ」
「ザ、ザニス様!?」
ザニス・ルストラがニヤニヤしながら立っていた。
「ど、どうして? 今日は確かダンジョンに降りる日の筈では!?」
「なーに、ちょいっとお前の姿を見てなアーデ」
しまった! リリは舌打ちしたくなるのを何とか堪えつつザニスを見る。
「珍しく男と愉しげに手を繋いでいたから何事かと思ったら、まさかソーマ様に退団の話をしているとは。よもやその男に誑らかされでもしたのか?」
「なっ!?」
紅くなるのを止められないリリを冷ややかに見て、ザニスは自分の考えが正しいと理解した。
「ほう? そこの男、どうしてアーデを欲する?」
「別に、うちのファミリアと同盟を組むファミリアに新人が居てね。サポーターを付けたいから知り合いのリリを選んだだけだ」
「成程?」
ユートは間違っても自分自身のリリを欲した理由を伝えず、建前だけを冷静に口に出してやる。
建前も理由といえば理由だが、ユートがリリを手に入れたい本音は女として。
だけど、それを正直に話そうものならザニス・ルストラは間違いなく足元を見てくるだろうから、ユートは建前のみを伝えたのだ。
「ソーマ様、私が交渉をして構いませんな?」
「……任せる」
雑事に興味は無いと謂わんばかりに頷くと、自らの作業に戻るソーマを見て、リリは悲鳴を上げたい。
ソーマだけなら或いは、交渉を面倒臭がり二つ返事で認めたかも知れないが、相手がザニスではもう駄目かも知れないからだ。
「まあ、退団を認めるのは吝かではない」
「本当ですか!?」
「然しだ、本来ならアーデが稼いだであろう金額一部でも支払って貰わねばな」
要は金を出せと云う。
ユートからすれば想定の範囲内だが、問題は脱退金の金額だった。
「一億だ」
「──は?」
リリは我が耳を疑う。
「私はアーデを評価していてね、彼女はきっと十億だって稼ぎ出せる。ならば、一億は妥当な線だろう?」
莫迦な、有り得ない。
自分は所詮、サポーターに過ぎない上に他の連中から搾取され続け、ノームの貸金庫に三百万ヴァリスがやっとの額。
しかも百万はユートから受け取ったもので、実質的にはこの数年間で漸く稼いだ二百万ヴァリス程度。
それもサポーターとして稼いだのではなく、冒険者を食い物にした犯罪行為で稼いだ金額なのだ。
それが十億を稼げる? 有り得る筈もない。
それに搾取されたりして確実に目減りしてるのに、これは完っ全っにザニスの嫌がらせでしかなかった。
「一割で良い」
「──ソーマ様!?」
突然のソーマの言葉に驚きを隠せないザニス。
ザニスからすればユートを恐らく良くてLV.2、下手をすればLV.1だと見ており、間違いなく一億など支払えぬと理解をした上で吹っ掛けたのに、あろう事か
「これを飲み、感想を言って尚もその娘に執心するなら一億の一割で改宗を認めて構わない」
コトリと置かれたグラスには透明な液体が並々と注がれており、先程ソーマが席を外したのがこれを用意する為だと解る。
「こいつは……」
何とも涼やかな香りが、テーブルから少し離れているユートにも芳しい。
少し前、【豊穣の女主人】で開けた神酒の失敗作とされるアレ──ソーマと似ていながら、此方の方が遥かに上だった。
「ソーマ……か。しかも、ロキが随分と飲みたがっていた完成品ってやつだな」
行き成りの事で困惑するユートだが、リリは青褪めた表情となる。
「だ、駄目です! それを飲んでは!」
「黙れアーデ、貴様はまだソーマ・ファミリアの一員だぞ? 情報漏洩は決して許されん!」
「くっ!」
見ればザニスが先程とは打って変わってニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて、まるでこれから起こる事が楽しみで仕方がないと謂わんばかりに、口角を吊り上げていた。
リリは識っている。
完成品のソーマを飲むと人はケダモノになり、それを求めるばかりになると。
何故なら、リリも嘗ては一杯の
それこそが、ユートが前に見たソーマ・ファミリアの冒険者の必死さの理由。
神酒欲しさに金金金。
リリは怖い。
神酒を飲んでユートが変わってしまい、自分を捨てるかも知れないから。
リリは怖い。
あの濁った目で神酒を求めるユートを見るのが。
リリは怖い。
結局、ユートが他の連中と同じだと失望してしまう自分自身が。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
そんな場面は見たくも無かったし、何よりもまたも神酒に未来を奪われるなど絶対に嫌だった。
「ふ〜ん……まあ、僕も飲んでみたかったし丁度良いかな? 後でロキに自慢も出来そうだし」
事情もリリの葛藤も知らないユートは、グラスを手に取ると口を付ける。
コクリ……
見紛う事無く飲んだ。
鼻を香る涼やかな匂い、失敗作なんて比べ物にもならない喉越し、清涼な後味などが渾然一体となる。
終わった。
リリは泣きたくなる。
自分が元のファミリアに戻るのはまだ良かったが、ユートまでが神酒の虜になってしまう。
そうなれば彼の所属するファミリアは滅茶苦茶だ。
「美味い、ロキが飲みたがる訳だね」
それが一口を煽った……ユートの感想だった。
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