ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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 四ヶ月振りに……





第41話:ベル君の修業は間違っているだろうか

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 久し振りの更新だ。

 

 ベルはウキウキと少しばかり浮わついていた。

 

 上半身は裸となって俯せに寝転び、腰には小柄ながら胸部の装甲が素晴らしい幼い顔立ちの少女が乗っかっている。

 

 仰向けだったら角度次第でヤバい絵面だが、当然だけどそんな理由でやっている体勢ではない。

 

 ステイタス更新。

 

 オラリオの冒険者なら、当たり前に行われる事。

 

 主神に刻まれた神聖文字による【神の恩恵】だが、これは謂わば冒険者にとって能力値を意味する。

 

 数値化されてない経験値(エクセリア)を、訓練やら実戦やらで貯めていく事によって、基本アビリティの数値が上がっていく。

 

 ゲームみたいに自動的なLV.アップはしない為、こうして主神の手ずからでステイタスの更新が必須となっている。

 

 だからこそベルの腰にはヘスティアが乗っていた。

 

「さあ、久々にイクぜ? ベル君!」

 

「御願いします神様」

 

 プツッと針で指を刺したヘスティア、その人差し指から神血がプクリと溢れ出てきて、それを使ってベルの背中のステイタスへ干渉を始める。

 

 書き換えるとは云うが、神々が行っている行為とは飽く迄も、既に書き換わる準備が出来た数値の有効化によるプラスアップ。

 

 それと可能性の発掘だ。

 

 前者は更新すれば普通に書き換わり、それが反映をされて恩恵を受けた人間の身体機能を引き上げる。

 

 後者はスキルや魔法などが発現をする事が可能か、LV.アップした場合では発展アビリティが出ているかなど、取捨選択を多少なり行ったりも出来た。

 

 実際、ユートがアテナ――サーシャによる更新を受けた時には、幾つかの発展アビリティが顕れてたからその中の一つ、【反英雄】をユートが選択して有効化もしている。

 

 発展アビリティは複数が出ても、一回のランクアップに一つしか有効化が出来ない仕様だから。

 

「ようっし、完了」

 

 良い汗を掻いたと謂わんばかりに額を腕で拭う。

 

 

 

ベル・クラネル

所属:ヘスティア・ファミリア

種族:ヒューマン

LV.1

力:SS1085

耐久:SS1010

器用:SS1072

俊敏:SSS1184

魔力:G263

 

《魔法》

【ファイアボルト】

・速攻魔法

 

《スキル》

【憧憬一途】

・早熟する

・懸想が続く限り効果持続

・懸想の丈により効果向上

 

 

 別の意味で汗が出た。

 

(マ、マヂかい?)

 

 その数値の上がり具合、そして何よりヘスティアの目を惹くのが……

 

(SSSって何だよ?)

 

 最近、魔法を獲たばかりのベルだから魔力の数値は低いのだが、軒並みSSの中でも一際綺羅星の如く煌めく俊敏の値。

 

 元来、アビリティ数値はS999を上限とする。

 

 つまりはこれ以上は上がらない、カウンターストップ……所謂カンストだ。

 

 それが上限を超克されたSSである。

 

(明らかにベル君のスキル――【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】の効果……だよなぁ)

 

 他には考えられない。

 

(これ、ランクアップ可能になる頃にはオールSSSとかにならないよな?)

 

 絶対にアテナやミアハなど神友以外、これを知られてはならないだろう。

 

 基本的に神々とは享楽に飢えている。

 

 何しろ地上に降臨してきた理由が――『遊びに来た』だったくらいだ。

 

 他ならないヘスティアも元々はそうなのである。

 

「取り敢えず終わったぜ」

 

「あ、はい」

 

「じゃあこれね、ベル君のステイタスの写しだ」

 

 ベルはドキドキしながら受け取って読む。

 

 スキル以外はちゃんと写され、【憧憬一途】というスキルは書いてない。

 

「……へ? これって」

 

 前回、魔法が発現した時の更新から少し経っていた訳だが、その時から相当なアップしたものであるし、何よりもSSSというのはベルとて驚愕だった。

 

「この侭だったら、ランクアップする頃にはいったいどんな数値になるんだい? ベル君、恐ろしい子!」

 

 ランクアップをすると、数値そのものはI0に戻ってしまうが、今までの数値が無かった事になるという訳ではない。

 

 例えば力:A840だった場合、潜在数値となってちゃんと残るのだ。

 

 つまり、ランクアップ後はI0+840となる上、ランクアップをした時点で今までより能力は上がる。

 

 実際にはもっと複雑なのだろうが、単純に数値化をしたら力:I0+840+ランクアップ分の100というくらいにはなるかも知れない。

 

 そうでなければ今まではゴブリンにすら勝てなかった人間が、恩恵を受けただけで勝てる様になりはしないであろう……

 

 流石に楽勝とはならないにせよだ。

 

 数値に出てないだけで。

 

 事実として、最近になってウダイオスの単独討伐に成功し、ランクアップを果たしたアイズ・ヴァレンシュタインは、LV.6へと更新しただけでLV.5の頃より身体能力が上がり、肉体的な擦り合わせを必要と今現在は考えている。

 

「神様、魔力って使えば使う程に上がるんですよね」

 

「そうだよ。実際にベル君の魔力値は魔法を覚える前の一回目の更新では0だった筈だろ?」

 

「はい」

 

「だけど今、君の魔力値は確かに上がっている」

 

「ファイアボルトを結構な頻度で使いましたから」

 

「そう、使ったから上がったんだよ」

 

 ベルはギュッと右手を拳にして握り締めた。

 

 顔は笑顔。

 

「そういえば、ユートさんはどうしたんでしょうね。ランクアップしたのは聞いたんですけど……」

 

「同盟関係だし、元はボクの派閥だから色々と融通をして貰ってるからなぁ」

 

 独自に動き回っているのは知っているが、今現在の細かい動きまでヘスティアも知らなかった。

 

「あ、それで訊いてみたかった事が」

 

「うん? 何だい? ボクのスリーサイズなら上から……」

 

「って、わああああっ! 何を言おうとしちゃってるんですか、神様!」

 

 女神の暴挙で頬を真っ赤に染めたベルが、慌てながら口を無理矢理に塞ぐ。

 

「おい、ベル……明後日のダンジョンたんさ……」

 

 其処へやって来たのは、明日からの予定を訊くべく訪れた赤毛の男。

 

「ヴェ、ヴェルフ……」

 

 ヴェルフ・クロッゾの目の前で展開されてたのは、兎の如く草食系男子の筈のベル・クラネルが、主神の背後から羽交い締めにしながら口を塞いでいる姿。

 

「ああ、ベル? 昼間っから主神を襲うのは感心しないぞ? 取り敢えずお楽しみは鍵くらい掛けてヤれ」

 

 そう言いながら回れ右、ベルの部屋を辞した。

 

「ちょ、待っ! 誤解! ヴェルフ! それは誤解だからぁぁぁぁぁっ!」

 

 そんなヴェルフをベルは大慌てで、俊敏を活かして追ったものだった。

 

 一応、誤解は解けたので一安心であったと云う。

 

「それで? スリーサイズじゃなけりゃ何かな?」

 

「まだ僕はランクアップをしてませんが、ユートさんがランクアップして新しく発展アビリティを得たと聞きました」

 

「ああ、発展アビリティ」

 

 勿論、ヘスティアもソレの存在は識っている。

 

 ユートがランクアップ前に改宗したし、ベルはまだだから未だに発展アビリティを目にした事はないが、いつかは自分のファミリアをと思っていて、ニート神だった頃もそこらはきちんと勉強をしていたのだ。

 

「【反英雄】という名前のアビリティらしいてすが、それってどんなものなんでしょうか?」

 

「いや、ボクも初めて聞いたよ【反英雄】なんてさ」

 

「その……良くないものだったりは?」

 

「発展アビリティはその子がどんな生き方をしたか、それで発現をするとか変わってくるらしい。とはいっても彼が悪党宛らな生き方をしてきた訳じゃない……と思うけどね」

 

 ベルは英雄志望。

 

 強く願望を持っているが故に、英雄に反するという【反英雄】なんてのには、ちょっと抵抗感があった。

 

「ヘス、明後日のラブレスとリリの探索だけど……って……あれ? 居ない?」

 

 外でサーシャがヘスティアを呼んでいるが、少し奥の方にある本来の部屋の前にいるらしい。

 

「ああ、サーシャ。ボクは此方だよ」

 

「え? ベルの部屋から? ごめんね、昼間からお楽しみの最中だとは思わなかったから。二時間くらいで済む? 部屋で待ってるからシャワーを浴びてから来てね?」

 

 そう言ってサーシャが離れていく足音が響く。

 

「ち、違くて! 致したいってのは無きにしも非ずだけど、ヤってないから! ボクは処女(むじつ)だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ヘスティアの絶叫が本拠地内な響いたと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「処女神が妄りに男の子と二人切りにならない!」

 

「はい……」

 

「そりゃ、アルテミス姉様とは違って私達の場合は、単純に男神に興味が持てなかっただけ。好んで処女(ひとりみ)だった訳じゃないんだけど……」

 

 ヘスティアもアホロン……もとい、アポロンの顔を思い出して嫌な顔になる。

 

 天界に居た頃、あの優男から求婚されたのを思い出してしまったのだ。

 

「そ、そうだよね。ボクとサーシャとアルテミスは、三大処女神とか呼ばれてはいたけど、男嫌いなアルテミスは兎も角として、ボクらは天界の男神に興味が無かったに過ぎないよ」

 

 実際のギリシア神話でのアテナとヘスティアだと、天帝ゼウスに頼んで永遠に処女である事を約束させるくらい、普通に処女神然としていたりするが……

 

 尚、サーシャがアルテミスを“姉様”と呼ぶのは、地球に於ける関係で沙織が呼んでいた通りだからで、この世界で姉妹かどうかは扨置くものである。

 

「それにしても、ボクらって結局は地上人(こども)に恋しちゃったのかな?」

 

「あ……う……」

 

 サーシャの顔が真っ赤に染まる。

 

 サーシャにとって仲好しと呼べた男は過去に三人、兄のアローンと幼馴染みのテンマ、そして冥王との闘いが激しくなり始めた頃に現れたユートだ。

 

 最初は先代がした様に、牡羊座のアヴニールを疑ったのと同じく、ユートに対して疑念を懐かざるを得なかった。

 

 それはアヴニールの友として、前聖戦――ユートから見たら前々聖戦――を闘った者として、教皇セージも矛盾点に疑念を持つしかなかったから。

 

 何故なら、アヴニールの時代が一九九〇年代であるという二百数十年後だと云うのに、ユートも同じ時代――より十年程の未来――から来たのだと云う。

 

 アヴニールが嘘を吐いていないなら、教皇や聖闘士は疎かアテナでさえ冥王軍に殺され、唯一の生き残りが彼だった筈。

 

 なのに同じ時代の聖闘士であり、しかもアテナが生きているとかアヴニールの話と違い過ぎたのだ。

 

 然しながらセージとしては別の可能性も考えた。

 

 つまりアヴニールが時間を遡行した事で、未来が変わったのではないか?

 

 その結果、未来での彼がどうなったかまでは計り知れないが、牡羊座の名前が違った事から聖闘士にならず冥王とも関わらず、普通に生きて死んだのか或いは存在すらしないのか?

 

 どちらにせよ、彼は本懐を果たせたのかも知れない……という期待。

 

 そしてユートが騙りかも知れないという疑念。

 

 だからこそ積極的な排除も出来ず、簡単に受け容れるのも難しかった。

 

 まあ、その疑念も死んだ魚座のアルバフィカに代わって本来の星座と違う聖衣を纏い、聖戦に参戦をしたユートを見て晴れたが……

 

 幼馴染みとはいっても、青銅聖闘士で余りに身分が離れてしまい、会うに会えなかったテンマの代わりとはいわないが、ユートが傍で護っていたけどその扱いがアテナというより少女、一人の人間のサーシャとしてだったのが嬉しかった。

 

 蠍座のカルディアも似た扱いだったが、年齢差から寧ろ妹の感覚だったからかまた違ったのである。

 

 アローンは実兄であり、テンマは幼い頃から知っていたからか、関係性としては少し近過ぎた。

 

 アテナとそれを守護する聖闘士の関係になったのも拍車を掛け、結果としてはユートが唯一の恋愛関係に発展し易かったのがユートのみとなる

 

 更に悪い事に本来ならば天界の本体と一体化をする――座に居る英霊本体と降りた英霊みたいな関係――筈が、何故か本体と切り離されてこの世界のアテナとして何億か何十億か最早、知らないくらい存在をしてきた為、唯一の知り合いとしてユートが顕れた事実は福音ですらあった。

 

 男神なんかに興味も無かったから、普通に処女神として在り続けていたに過ぎなかったサーシャとして、そんなおバカな肩書きには矜持など露程にも無い。

 

「ベルの訓練をするけど、そっちに居るんだろ?」

 

「あ、ユート」

 

 ユートが入ってきたら、ちょっと顔を紅くしながらサーシャが口を開く。

 

 神としてではなくヒトとして、アテナでは決してなくサーシャとしての万感の想いを籠めて。

 

「ベル君なら訓練室に行ったよ?」

 

「ほう、やる気満々だな」

 

「それでさ、ボクらも見て構わないかい?」

 

「ベルの修業を?」

 

「勿論さ」

 

 ヘスティアの申し出に、ユートは少しばかり難しい表情となる。

 

「駄目かい?」

 

 小首を傾げる仕草が中々にあざとい。

 

「良いか駄目かで云うと、別に構いやしないけど……余りお勧めはしないな」

 

「どうして?」

 

「僕が明後日に向けてベルに施す修業は、第一に更新をしてパワーアップするというものだ。その為にも、実力差のある相手と闘って貰う。当然ながらそんなのはリンチでしかない」

 

「うっ!?」

 

 ズタボロのボロ雑巾と化すベルを見たいのか?

 

 そう言っているのだ。

 

「アドバイザーのエイナに『冒険者は冒険してはいけない』と、口を酸っぱくして言われているだろうし、だから“冒険をしないで”ステイタスを上げる訳だ」

 

 確かにギリギリを見極めて叩きのめせば、冒険せずパワーアップも叶うかも知れないが、痛い事には変わりはなかったし何よりも、当たり所が悪ければ死ぬ。

 

 そういう修業だ。

 

 ダメージを受ければ耐久が上がるし、魔法を放ったら魔力が上がる。

 

 それを生命の心配無しにやれる修業。

 

 但し、極めて死に等しいまでに傷付くだろう。

 

 だからこそヘスティアは見ない方が良い。

 

「ヘス、私もやめた方が良いと思うよ」

 

「サーシャまで?」

 

「修業とはいってもベルが実戦宛らの闘いをするし、その結果として腕がひしゃげて脚が曲がっちゃいけない方向に曲がり、まるで死んでるみたいな感じに倒れてしまう。ヘスが乱入とかしても構わずユートは攻撃を加えるよ?」

 

 数十億年もアテナとして暮らし、ヘスティアやロキやヘファイストスなどとの交流からか、すっかり言葉遣いが変わってはいても、やはりサーシャはサーシャなのだろう。

 

 そしてサーシャはアテナとしてではなく、飽く迄も神友としての立場で苦言をヘスティアに言っていた。

 

「そうかも知れないね……けどねサーシャ、ボクらは普段だとダンジョンに潜れないから、ベル君の闘いなんて見る機会も全く無い。けど一度は見るべきと思うんだ。サーシャはユート君の闘いを見た事は?」

 

「あるよ」

 

 仮初めなれど魚座の黄金聖闘士として、志し半ばで落命をしたアルバフィカに代わり、ユートが冥王軍と闘う姿をサーシャは見守っていたのだから。

 

(そういえば、双子座として闘う姿を実際に見たのはアスプロスが死んでから。一回こっきりだったっけ)

 

 神聖衣を纏うテンマと、双子座の黄金聖衣を纏ったユート、その二人が並んでアテナの聖衣を纏いアテナとして立つサーシャの護りとなって闘う。

 

 もう一度見てみたいが、残念ながら異世界で小宇宙が封じられるらしいから、聖衣を持っていても纏えない状態だろうし、ちょっとサーシャは残念に思った。

 

 所変わって訓練室。

 

 ユートが【創成】により造った地下本拠の中でも、一際に広く高く創られている上に、ユートが仮に全力で暴れても簡単には崩れないくらい頑丈だ。

 

 ある世界で、全宇宙一硬いとされるカチカッチン鋼にて固めているし。

 

 尤も、弱体化していた筈の天津飯でも砕けたが……

 

 嘆きの壁の素材を使う手も考えたが、地獄の底の更に奥深く第九獄ジュデッカの更なる深奥という、陽が間違いなく射さない地でもないと活用が叶わないのが頂けない。

 

 天秤座の武器と黄金聖闘士の小宇宙でも傷一つつかない程に強固なのは良い、だけど欠点として陽の光にとことん弱かった。

 

 なので、次点として重さにさえ気を配れば密度が凄まじいカチカッチン鋼は、素晴らしいまでの強度を持っている事から選んだ。

 

 重過ぎて鎧兜に仕立てても使えないけど。

 

 ユートがカチカッチン鋼を【創成】出来た理由とは到って単純、その世界へと関わった事があり武舞台として使われたソレを視た事があったからだ。

 

 そして始まる修業。

 

 取り敢えず簡潔に云うのなら、そもそも相手にすらならない……であろう。

 

 幾ら背中のステイタスの基本アビリティが高くて、下手をすればLV.2に成ったばかりの冒険者にすら匹敵する程、身体能力が上がっているベルとはいえ、ユートは正真正銘LV.2である上、元々の身体能力がLV.5の上位クラス。

 

 現在は推定LV.7。

 

 それが“何もしない素での”身体能力である。

 

 ユートも困った事だが、柾木に転生してからこっち神殺し――カンピオーネとしての身体能力以上には、どうにも鍛えても向上とかが見られなかった。

 

 カンピオーネの基本身体能力が、この世界に於けるLV.5の“カンスト級”だったらしい。

 

 つまり、単なる身体能力だけで成り立てだった頃の草薙護堂でも、ティオネやティオナやベートやアイズに勝てるのである。

 

 正確にはカンストして、更に向上したらこうなるというレベルだから。

 

 流石にフィンやガレスを相手に、“身体能力だけ”で勝てるか? と訊かれたら難しいのだろう。

 

 飽く迄も素の身体能力の話ではあるが……

 

 翻ってベルである。

 

 彼は所詮、LV.2にもならない駆け出しだ。

 

 身体能力の高さは成程、LV.1の中ではトップ。

 

 だけど必ずベルより弱いステイタスたる冒険者が、ベルに敗けるのか? といえばそれはまた別の話。

 

 某・魔砲少女でも魔力が遥かに高い筈の主人公達が二人掛かりで、それよりもずっと劣る魔力の御歳を召した先生に敗けた。

 

 能力が高い方が必ずしも勝つとは限らないという、つまりはそういう事だ。

 

 能力の高さだけでかつのなら余程、隔絶していないとならないのだから。

 

「暗黒の玉座もて来たれ風の精霊……」

 

「え? 魔法の詠唱!」

 

 させじと、ベルが太股に佩くホルスターからナイフを数本取り出し、ユートに向けて投げ付ける。

 

「古き御力の一つ、今その御座に来臨す」

 

「嘘!? 詠唱をしながら普通に躱した!」

 

「闇の王にして光の王、闇より出でて其を打ち砕く者……」

 

「やらせない!」

 

 スローイングダガー。

 

 先程のよりも投げる事に特化した短刀を投げた。

 

「九十九なる光の蛇にて、我が敵を打ち滅ぼせ」

 

 だが然し、平然と躱しながらも詠唱は続いていた。

 

「へ、並行詠唱……」

 

 絶句をするベル。

 

打て(スート)!」

 

 前方にルーンが展開し、ユートは魔法名を唱えた。

「……雷撃(ソールスラーグ)ッッ!」

 

 室内にも拘わらず放たれる雷撃。

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

 ベルの身体を九十九なる蛇が這い擦る。

 

 本来、この魔法の性質上から室内で使えるものではなかったりするが、ユートなら室内に雷雲を作り出して放つくらいは出来た。

 

「イヤァァァァァアアッ! ボクのベル君がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 吹き飛んだベルを見て、某・ガンダムヒロイン張りの絶叫を上げるヘスティアをサーシャが宥める。

 

「ベル、お前の魔法は速攻魔法とはいえ一瞬でも足を止めている。だけど魔法の速度に並行詠唱の技術……素早く駆け回りながら魔法を放つのは使えるだろう。今すぐは無理でも覚えておくと便利だ」

 

 その後も正しくリンチにしか見えない、一方的な闘いに近かった戦闘訓練の後にボロ雑巾と化したベル。

 

 ユートはそんなベルに、エリキシル剤を与えて快復させ、明後日のダンジョン探索に送り出すのだった。

 

 新装備を与えて。

 

 

 

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