ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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「おい、ベル」
「何? ヴェルフ」
赤毛の青年ヴェルフ・クロッゾに話し掛けられて、ベルは振り返りながらその言葉に応える。
「いつまで入口で待ってりゃ良いんだ? ダンジョンに行かないのかよ?」
「そうですよ、ベル様? それにラブレス様は遅刻なのでしょうか?」
疑問に思ったのは小人族の少女――リリルカ・アーデも同様らしい。
ヴェルフはヘファイストス・ファミリアの鍛冶師、リリルカ――リリはアテナ・ファミリアのサポーターという立場。
勿論、二人は冒険者として戦う事も可能である。
特にリリはユートに何度も抱かれ、スキル【
流石にこれだけ上がっていれば、リリも能力の違いがよく判るもの。
本来であれば小人族は、身体能力が極めて低い。
俊敏はそれなり程度で、力や魔力はヒューマンにも劣るだろうし、精々が器用の値は有るかなといった処でしかなかった。
リリも手先の器用さなら自信はあるが、大剣を振り回す自分なんて想像すらも出来ない、
リリが識る小人族で活躍している冒険者といえば、筆頭がロキ・ファミリアの首領たるフィン・ディムナが挙がる。
次がフレイヤ・ファミリアの【
四兄弟で一組の二つ名を頂戴し、一人ではLV.5ながら四人が組めば実力はLV.6に匹敵するとか。
だがそれだけだ。
万は居る冒険者の中で、僅かに五人しか識らない。
広い世界にまで拡がってみても、この五人の名前しかリリは挙げようがないくらいなのだ。
元より身体能力が低く、しかも千年前に神々が降りてきて知った事実により、矜持すらも失って種族全体が腐れている。
小人族が信仰してきたのは女神フィアナ。
然し、そんな女神は存在しない事が判ってしまう、
今まで信じていた対象が根刮ぎ否定されたのだ。
他ならぬ神々によって。
ガリバー兄弟はどうあれフィン・ディムナの場合、ユートが聞いた話の通りなら一族の復興の為、自らが小人族の英雄となって立とうとしたと云う。
リリを後継者の為に紹介して欲しいと言われたらしいが、其処ははっきりと断わったと聞いてちょっと嬉しくなり、その日の晩には大サービスをした。
ヴェルフの場合は造った盾が役立たずに終わったと聞いて、相当に悔しかったらしく改宗こそしないが、アテナ&ヘスティア・ファミリア同盟にくっつく形でダンジョンに降りている。
まあ、ユートは兎も角としてベルみたいな駆け出しとか、幼い時分から経験を積んでいるもののLV.1でしかないリリ、ラブレスみたいな実力はあるけれどLV.1という、装備品のレベルが今のヴェルフでも間に合う装備を団員に提供する名目もあった。
ヴェルフ自身も今までは十一階層までしか降りてはいないし、LV.も未だに1でしかないから発展アビリティの【鍛冶】を得てはいない。
当面の目標はランクアップをして、発展アビリティを発現させる事。
発現すればまず間違いなく【鍛冶】が出るから。
ヴェルフはラキア王国の没落した鍛冶貴族で所謂、【クロッゾの魔剣】を鍛つ事で発展した家の出。
没落したのはクロッゾ家が魔剣を鍛てなくなってしまったからだが、ヴェルフだけは背中の【神の恩恵】と関係無く魔剣を鍛てた。
だけど魔剣は儚い。
使い手を残してあっさり砕け散るのだ。
だからヴェルフは魔剣を鍛たないし、決して頼ろうともしていなかった。
ヴェルフの作品は隅っこに追いやられ、不遇な扱いをされているにも拘わらず意地を貫いて。
まあ、魔剣を鍛てるのに鍛たないヴェルフが鼻に付くという事か。
それと恐らくもう一つ、ユートはこれを疑っていたりする。
ヒトがウラノスの考案した【神の恩恵】を受ける様になって千年、エルフからしてもそれは可成り永い時が流れたと云えよう。
当時、生きていた存在はもう居ないであろう時間。
ヒトは慣れる生き物で、【神の恩恵】が当たり前にもなっていた。
少なくともこの
故にだろう、この都市の冒険者は恩恵に頼り過ぎているきらいがあった。
嘗て、神々が降臨をする前の【古代】に於いては、
それだけ【神の恩恵】が浸透していると云えばそれまでだが、この傾向は余り良いものだとはユートからすればは云えなかったし、ある意味ではこれを弱体化とも呼んでいる。
そして何より神々から与えられた事実が、ある一つの信仰にすらなっていた。
それが故に背中の恩恵に無い能力が認められない。
魔法みたいな如何にも解り易い現象すら、冒険者達は有り得ないと思うのではないだろうか?
事実、ユートの魔法に対して随分と驚いていた。
ヴェルフの魔剣を鍛つという能力は元々、彼の先祖が精霊を救った際に死に描けたのを救われた精霊が、自らの血を与えて生かした事に由来する能力。
その人物の子孫は魔剣を鍛てる様になり、ラキアに仕える様になってから魔剣を王国に卸していた。
まあ、やり過ぎた結果が力を喪うという愚かに過ぎる顛末な訳だが……
だからヴェルフは魔剣を鍛てるとはいえ、他者からは疎まれ僻まれていた。
幸いなのは魔剣を鍛つという能力が、彼の背中――恩恵に刻まれていた事。
だからまだマシなのだ。
若しも、この迷宮都市に【神の恩恵】由来ではない生まれ付き、某かの能力を持つ者が居た場合はそれが目には見えないあやふやな能力だと、きっと誰からも信じて貰えないとか不遇を味わっているのだろう。
ユートは確信すらある。
「ごめん、二人共。だけどラブレスさんもまだ来てはいないし、ユートさんから待つ様にも言われてて」
「ユート様から? それなら仕方がありませんね」
あっさり言うリリ。
「おいおい、リリスケ……お前なぁ」
ヴェルフからすれば呆れるしかなかったと云う。
「済まない、待たせたな」
話をしていたらユートがラブレスと共に現れた。
ユートは全くの軽装に、何やら木櫃を背中に背負っている。
ラブレスはヴェルフ印の胸当てや腰アーマーや籠手や脚当てといった、一通りの装身具を身に付けた上で黒に赤の裏打ちが成されたマントを羽織っていた。
腰に佩くのはヴェルフ製のスピア、サブウェポンにラブレスというナイフ。
様はいつものダンジョン探索の格好だ。
スピアは普通に鋼鉄製、ヴェルフが鍛った短槍ではあるが、一応は長く伸ばす事も可能に出来ている。
多少の脆さは鋼の硬さを少し増してフォローした。
ラブレスはこいつを器用に使い、斬ったり突いたり様々に活用をしている。
尚、背中の特製バッグには馬上槍……ランスが納められており、大型のモンスターには此方を揮う。
そして鎧の名前だけど、ヴェルフが名付けようとしたら止められ、ラブレスが自ら名前を付けた。
【アネス】……と。
ラブレスが身に付けている武器防具の種類や名前、これは彼女と縁が深い処から選ばれている。
ラブレスは云わずもがな本人の名前だし、スピアとランスは幼馴染みの男女の名前であった。
ヴェルフ製のアーマー、【アネス】とは嘗て二つに分けられた半身が、きっと一緒になったであろう少年に――食おうと飼っていたペットの名前だが――名付けられたモノ。
記憶は殆んど喪っているにせよ、決して忘れていないものも確かに在った。
尚、マントはユート製で名前は【ホーリー】。
スピアが人間へと化けて少年やアネスと同行していた頃、旅の
また、ラブレスとは関係無くリリのバックパックにもユート製のアイテムが入っている。
【フラッグ・オブ・ヴァラー】と呼ばれる魔導具であり、通称【シャクマ】と名付けられていた。
その性能は地面に突き立てたら、登録したパーティに半径一〇〇
とはいっても、ユートが普段からやっている呪文を旗に付けただけだが……
バイキルト。
スカラ。
ピオラ。
フバーハ。
打撃力を二倍、防御力を数値的に直して四分の一だけプラス、俊敏値をステイタスの値から四分の一だけプラス、炎と氷属性の攻撃を半減という割と壊れ能力を持っている。
元ネタはユートが前世に経験したゲームからだが、ちょっと能力には差違というのがある。
それは兎も角、一〇〇Mとはいえ探索で常にバフを掛けられているのは心強いものがあり、リリとしても上手く活用をしていた。
全員が背中に背負っているバックパックも、ユートにより製作された逸品。
元々はリリのバカでかいバックパックを見てから、ずっと考えていた物だとはユートも言っていた。
リリ自身は背中に刻まれたスキル――【
一定以上に掛かる荷重に対して補正が掛かるから、どれだけ重くなったとしても一定以上には感じない様になっているからだ。
とはいえサポーターとして荷物を預かる身であり、戦闘には全くの不向きな事には変わりない。
理想としては荷物をわざわざ降ろしてから参戦するより、背負った侭で参戦が出来た方が良かった。
ステータス・ウィンドウを与えれば済む話だけど、幾ら同じファミリアだとはいっても無償で渡したら、場合によってはてんやわんやになりかねない。
だからコレだ。
同盟内のファミリアのみに配備した装備品扱いで、バックパックに登録をした者以外では取り出せない――盗り出せない――システムもあって、可成り便利に活用をしていた。
元ネタは様々であるが、大元となったのはソフィーという少女が、錬金術にて造った特製バックパック。
ユートが初めて錬金術に触れた時に出逢った少女、ユート自身はステータス・ウィンドウが在ったから、特に必要を感じてはいなかったのだが、それを持たせていないベル達には必須なアイテムだった。
あの特製バックパックに比べて、小振りで大容量なやはり壊れ性能。
全員に持たせているが、用途は万が一バラけてしまった場合、リリが一極して荷物を持っていたら詰むというのと、各自が武器などを保管しておく為だ。
荷重もバックパックの分しか掛からない。
リリのスキルが無意味になった瞬間でもあったが、他者を運ぶ事になった場合には有効だからマシか。
「で、結局は俺らって何で待たされたんだ?」
ユートが櫃を降ろす。
「ベル、今からこいつに着替えて来い」
「へ?」
渡されたのは一着の上下一組の黒いインナー。
「これは?」
「勿論、防具だ。普通の服を渡しても仕方ないだろ」
「は、はぁ……」
「違和感があれば言えよ。調整をするからな」
「判りました」
ベルは一旦引っ込むと、服を着替えに行く。
「ベルの武具は俺担当なんだけど……」
「悪いな。けどヴェルフは衣服系の防具なんて造れたりするのか?」
「うぐっ、造れねー」
衣服は流石に鍛冶の範疇からは外れている。
少し経つとベルがソッと扉を開いて現れた。
「どうだ?」
「あ、はい。キツくないし緩くもない。丁度良くって肌触りも悪くありません。動きも阻害されないし……凄く軽いです」
「そりゃ良かったな」
ユートも満足気に頷く。
「けど、何でインナーを? 僕が着てたのも悪い品物じゃなかったのに……」
「それは特別製なんだよ」
「は、あぁ……」
ベルの目には違いがよく判らなかった。
「見た目的にはさっきまでベルが着ていたのと大差は無いが、中身は全くの別物と云っても過言じゃない」
「と、云いますと?」
「服の生地は
「え、ミスリルで?」
「魔力の通りが良いからねミスリルは」
「高かったんじゃ?」
「ん? 前にちょっとした
「デート? って、何ですかユート様」
「……これも神語なのか。男女が逢う約束をして出掛ける事……かな?」
「え゛? だ、誰と!?」
リリではないのは確か。
「フィルヴィス」
「フィルヴィス……様? それってまさかディオニュソス・ファミリアの団長、フィルヴィス・シャリア様の事でしょうか?」
「そうだが?」
「……【
「リリ、それ以上は流石に僕も許さないぞ?」
「ごめんなさい……」
リリは素直に頭を下げ、言い過ぎを謝罪した。
「えっと、【
「ん? ああ、LV.2になったら
「ユートさんの二つ名って何ですか?」
「僕がランクアップしてからまだ神会は開かれていないからね、当然ながら付いていないな。次に開かれたら付けられるんじゃね?」
「そうなんですか」
どうにも瞳を無垢な輝きで光らせているベル。
自分が二つ名を授かるのを幻視しているらしい。
「続けるぞ?」
「あ、はい!」
「内側……ミスリル糸の服の表と裏の間にゴライアスの皮を鞣し革にしたモノを挟んである」
「ゴライアスって確か……一七層の階層主の?」
「そうだ。最初の探索で、僕が斃したゴライアスからドロップした」
「
ソロのユートがと思えば信じ難いが、実際に到達した階層は五一層だと聞く。
一七階層にゴライアス。
二七階層にアンフィス・バエナ。
三七階層にウダイオス。
四九階層にバロール。
嘗てゼウス・ファミリアが潜った五九階層までに、現状にて確認をされている階層主がこの四体となる。
尚、階層主ではないけど第一二階層のレアモンスターたるインファント・ドラゴンが、ある意味で階層主的な扱いをされてたり。
「で、ゴライアスの鞣し革の裏にアンフィス・バエナの鱗を張り付けた。そいつも魔導具にしてある」
「アンフィス・バエナ?」
「二七階層の階層主だよ」
「……それも?」
「斃した。あいつ、移動するから参ったわ」
階層主は基本的に一ヶ所に配置され、其処から動く事はないとされているが、アンフィス・バエナは例外的に移動型の階層主。
その姿は双頭の竜。
インファント・ドラゴンといい、喰えないのが残念だとユートは思った。
「アンフィス・バエナの鱗で造った
本来の竜はただの鱗でさえ強力な魔力を含むけど、アンフィス・バエナの鱗はドロップアイテム。
そもそもがモンスターの中でも強力な部位こそが、死んだ後にも残りドロップアイテムとなる。
だからドロップアイテムは高値が付くのだ。
高がゴブリンの牙でも。
「す、凄いんですね」
「紙装甲の侭で行かせて、死なれても困るしな」
グサッ! ヴェルフの頭にナニかが突き刺さる。
「くっ、俺の
恐らくユート製インナーにも劣る金属鎧。
とはいっても、ユートの造ったインナーは魔導具。
対抗するなら【
「にしても、発展アビリティの【鍛冶】も【神秘】も無しに、本職顔負けな技能とかどーなってんだよ? アンタは……」
「別にそれらが無くても出来るのは、ヴェルフ自身が証明しているだろう?
「そりゃ……」
「だいたい、聞いた話だと【神秘】持ちはオラリオでも五人と居ないらしいし、オラリオの魔導具の全てがそいつら作じゃない筈だ。まあ、開発は【神秘】持ちかも知れないが」
【万能者】が造ったとされる魔導具は多岐に亘る。
だけど別に彼の者が量産まで担っている筈もなく、ならば量産している人間は【神秘】を持つか? といえば有り得ない。
「ひょっとしてよ、そっちのラブレスの服もか?」
「勿論、そうだが?」
「――え?」
ベルだけならまだしも、ラブレスまでとなるとリリは聞き逃せなかった。
「ず、ズルいです! 何でラブレス様だけ?」
「ああ……ゴライアスの皮が足りなかった。だから、取り敢えず最前線な二人に造ったんだよ。欲しいならゴライアスから皮を刈ってきてくれ」
「無理です!」
LV.1なリリに出来る事ではない。
「じゃあ、何だか刺激的な格好なのって?」
「皮が少なかったからな。露出が割かし増えた」
防御力は魔導具であるが故に問題無いが、見た目は露出という意味で凄い。
とはいえ、ラブレス王女として活動していた時と、大して変わらないレオタードみたいな服なだけ。
背中が開いてるデザインなのは、シャーマン一族としての羽根が在るからだ。
尤も、昔の格好の侭では当然ながらなくて、腕には籠手を脚には脚当てを着けている。
勿論、腰にはレイピアを佩く為の腰アーマーを身に付けてているし、胸アーマーもちゃんと装備済み。
ぶっちゃけてしまうと、今やハイレグアーマーという体だった。
「じゃ、四人共行って来ると良い」
「はい!」
こうしてベルはヴェルフとリリとラブレスを伴い、ダンジョンの探索へと乗り出すのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それで、何の用かな? 確か……フェルズ」
「フッ、気付かれてしまうのか。御見逸れする」
建物の影から現れたのは顔も判らぬ黒衣。
「にしても、
「嘗ては賢者を名乗っていた愚者、私の人生を表しているとだけ言っておこう」
「……用件は?」
四方山話に花を咲かせる為に来た訳でもあるまい、ユートはフェルズに用件を促した。
「君に【剣姫】を追って欲しいのだ」
「アイズを? それはどういう意味だ?」
「二四階層で、モンスターの大量発生というイレギュラーが起きた。既に冒険者が幾人も犠牲になっている非常事態、そこで【剣姫】に調査或いは鎮圧の依頼を託したのだ」
「ふーん。大量発生ね」
特に興味は無い。
犠牲者が出てるらしいが知り合いでもない冒険者、それが何百人犠牲になろうが知った事でもなかった。
「階層の最奥の
「あの宝玉の……」
モンスターの胎児が篭る宝玉、あれをどさくさ紛れに手にした“優雅”は確かにそれらしきを見ていた。
「報酬は勿論、用意をさせて貰おう」
「……」
報酬は確かに美味しかったと云える。
幾つもの貴金属や指輪、一角獣の角なんてレア物や魔導書までも在った。
単純にヴァリス金貨まで山と積まれていたし。
それが数冊とか。
「了解した。アイズを追って事件解決に手を貸せば良いんだな?」
「助かるよ。それとどうやら【
「レフィーヤとフィルヴィスが? ベートと?」
ちょっと順番が違う。
「なら、先ずはそっちとの合流だな。他には?」
「【剣姫】には協力者としてヘルメス・ファミリアに合流して貰った」
「ふむ、【万能者】が率いるファミリア……か」
ベルを送り出したユートは再びアイズと。
運命の交叉路が再びまじわるのであった。
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