ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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第44話:ユートの捜索活動は間違っているだろうか

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 ベル一行が和気藹々と戦っている最中に、ユートはアイズ延いては彼女を追うレフィーヤ達との合流を目指して駆けていた。

 

 脚は逸い方だから割かしあっという間に一二階層、琥珀色の鱗を持った四M程の怪物が往く手を塞ぐ。

 

「インファント・ドラゴン……ね。邪魔だ!」

 

 食えないドラゴンなぞ、そこら辺の蜥蜴にも劣る。

 

 ちっこい蜥蜴は論外ではあるが、両手で抱えられるくらいの大きさなら蜥蜴もちゃんと食えるし、それなりに肉が美味いからだ。

 

 オラリオ産のドラゴンは魔石を抜いたら灰化して、肉がドロップをするなんて事も無かった。

 

 ユートの権能【この素晴らしい世界に祝福を!】、これは常時発動型な権能であり、だからといって何処かの【幸運男】みたいな、常に豪運な訳では無い。

 

 “運”が左右するであろう事象に対し、一定以上の補正を与える権能である。

 

 例えば運が良ければ会いたい時に会えるレアモンスターとか、運が良ければ落とすドロップアイテム。

 

 ユートが他の冒険者から見れば、驚く程にドロップアイテムを手に入れられるのもこの権能の仕業。

 

 ギャンブルをすれば大抵は勝ってしまう。

 

 尤もギャンブルの場合、“運が仕事をしない状況”も有り得る為、必ずしも勝つとは限らなかったり。

 

 兎も角、余りにも邪魔でしかないインファント・ドラゴンの鎌首を叩き落としたユートは、後ろで灰化する死骸には目も呉れず目的の一八階層を目指す。

 

 尚、後で確認をしてみたらインファント・ドラゴンの魔石以外、牙と爪と鱗がドロップアイテムとなってストレージ内に在った。

 

 ユートとしては血や眼も欲しいけど、眼はまだありそうだが血は流石に無理かと諦めている。

 

 眼も無理っぽいが……

 

 元来、竜とは全てが有用な素材と成るのだ。

 

 だけどこの世界に於けるモンスターという存在は、魔石を喪えば力が最も高い部位をドロップアイテムとして遺す以外、全てが灰となって消えてしまう訳だ。

 

 その後もヘルハウンドやアルミラージ(ベル)など、中層のモンスターが現れては屠られていく。

 

「今度はミノタウロスか、ホントに面倒臭いな……」

 

『ブモォォォッ!』

 

「喧しいわ!」

 

 【迷宮の武器庫(ランドフォーム)】から調達したであろう、天然武器(ネイチャーウェポン)の斧を手に振り翳したミノタウロスに対し、ダークリパルサーを揮って首を叩き落とす。

 

 その生命を喪った瞬間、魔石がユートのアイテムストレージに格納された為、筋肉質な巨体が灰化して崩れ去った。

 

 ダンジョン内に存在している岩やや木の枝などは、【迷宮の武器庫】と称されるモンスターの為の武具置き場である。

 

 人型に近いモンスター、ゴブリンやコボルトやミノタウロス、果てはベル……アルミラージもその武器を携えている場合が多い。

 

 大剣や短刀や戦斧など、様々な武器をダンジョンのモンスターが持っているのはそれが理由だ。

 

「くっ、変な処で権能が働いているな……」

 

 モンスターが現れては、ユートにドロップアイテムを貢いでいるが、いい加減で急いでいるので勘弁して欲しい処だ。

 

 当然、上層より中層だし中層より下層に行けば行くだけドロップアイテムの質も魔石の質も上がる。

 

 ユートがストレージ内のドロップアイテムを売却したなら、すぐにも数千万ヴァリスは貯まるだろう。

 

 深層まで降りた場合は。

 

 事実、単独探索(ソロ)でアタックして一億ヴァリスを稼いだ事もある。

 

 何しろ獲物はモンスターばかりではなく、鉱物やらダンジョン産の食べ物もあるのだから。

 

 宝石の生る樹やソイツを守護する木竜――グリーンドラゴンは、ある意味では美味しい獲物だし。

 

 ユートの“幸運”が地味に効いて、毎回の探索の度に他の冒険者が見付けられなかった宝石樹を入手し、それを貯蓄している。

 

 それにセーブポイントを魔導具で造り、転移をしているから一時間で数百万を稼げていた。

 

 今回、それを使わなかったのは飽く迄もレフィーヤ達を追う為に、追い抜かない様にする措置である。

 

 若し、原典となるラノベを識っていたらレフィーヤを追い抜いてでも先行し、アイズの救助に向かっていたのだろうが、識らないのだからどうしようもない。

 

 暫くして漸く第一八階層のリヴィラの街に着く。

 

「ボールス!」

 

「あん?」

 

 ユートは筋肉質で眼帯を着けた男を呼ぶ。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインはこの街に来たか? 或いはベート・ローガでもレフィーヤ・ウィリディスでもフィルヴィス・シャリアでも構わん!」

 

「何だ、てめえは?」

 

 どうやらすっかり忘れているらしい。

 

 というより、ユートの事はアルビオンの姿が強過ぎて素顔は忘却したのか?

 

 行き成りガンくれてきたボールス・エルダー。

 

 ヒューマンの男であり、派閥は知らないがリヴィラで唯一のLV.3とか。

 

 この街の顔役だとも聞いているし、アイズやベートが訪ねた可能性は高い。

 

 ユートの失敗。

 

 それは深刻だと言われたこの依頼、自分の尺度で計ってしまった事にある。

 

 事実、ユートが一人だけならどうとでもなる事件でしかなく、それが油断に繋がってしまった。

 

 アイズもランクアップをしたし、普段から偉そうに雑魚を見下ろすベートなら簡単にくたばらないと。

 

 彼の言いたい事もやりたい事も理解は出来たから、強い言葉を紡ぐだけの実力と矜持はあるから……と。

 

 フィルヴィスもLV.4になったと、ギルドからの情報公開で知っていた。

 

 こうなると唯一LV.3なレフィーヤが危ないが、第一級冒険者が二人も居るなら問題も無かろう。

 

 優雅が三〇階層で【宝玉の胎児】を手に入れた際の脅威度、ソコから計っての判断でもあった。

 

 それにレフィーヤはあのリヴェリアの後継者候補、魔力だけで云えばLV.3の中でも群を抜いている。

 

 それにサモン・バーストはリスクもあるが、極めて強力な魔法でもあった。

 

 だからユートは判断を間違えたのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 取り敢えず一発、殴って思い出させてやってから、酒場に情報を捜すべく入ってみるユート。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインは此処に来たか?」

 

「来てないな。アンタみたいに捜しに来たのは三人ばかり居たが」

 

「! レフィーヤ達か」

 

 やはり出遅れている。

 

「お前もロキ・ファミリアなのかよ?」

 

「はぁ?」

 

 振り向けば両脚を喪って頭に包帯を巻いた男。

 

 否、よくよく視ればそこかしこに傷だらけの冒険者で溢れ返っていた。

 

 ユートはそいつらを冷めた表情で見つめる。

 

「二四階層は地獄だよ! てめえらがちんたらしてるから! 何が最強派閥だ! どうしてくれるっ!? こんなになっちまったら、もう冒険者を続けられねーじゃないか!」

 

「そうだ!」

 

「あの狼人もエルフも! 何の償いもしねー!」

 

 要するに連中は二四階層で地獄とやらを見た冒険者であり、ロキ・ファミリアに意味不明な賠償を求めているらしい。

 

「知った事かよ」

 

「な、なにぃ!?」

 

「僕はそも、ロキ・ファミリアじゃない。レフィーヤ達に冒険者依頼をした奴から依頼された追加戦力だ。それに冒険者は自己責任、実力不足でそうなったのを他人の所為にするな!」

 

「なっ!?」

 

 断じられた名も知らない冒険者が絶句する。

 

「それに暗黙の了解なんだろうが、ダンジョン内では基本的に他派閥には極力、関わらないんだろうに! だいたい冒険者に危険は付き物。引き際をミスったら死ぬのなんざ常識だ!」

 

 当然ながら連中に賠償を恵んでやる気は更々無い。

 

 ユートは自分にとっての必要事に金は惜しみ無く使うけど、こういう“無駄”でしかない事に使う金など一ヴァリスも無いのだ。

 

 例えば、ナァーザを手に入れる為にディアンケヒトへ借金を支払うのは良い。

 

 だけどコイツらに賠償? とやらを支払うのは無駄以外の何物でもなかった。

 

「こりゃ、時間の無駄だったな。こんな事なら当てずっぽうで三ヶ所を回った方が建設的だったかもね」

 

 そう言って絶句している連中を放っておき、ユートは酒場の外に出るとさっさと一九階層へと向かう。

 

「さて、問題は二四階層の食料庫は三ヶ所で、離れているから一ヶ所で間違ってもロスが酷い事……か」

 

 走りながらモンスターを叩き斬り、マルチタスクで思考を同時に行う。

 

「運の要素が強いなら……上手く働くか?」

 

 エリスを抱いて得た権能――【この素晴らしい世界に祝福を!】……が。

 

 二〇階層、二一階層……

 

 どんどん踏破していた。

 

「だけど、くそっ!」

 

 苦虫を噛み潰したみたいな表情で叫んだ。

 

「アイズは疎か、後発だったレフィーヤ達にも追い付かないとか!」

 

 若しやすればレフィーヤらは追い抜いたか? とも思ったのだが、正規ルートを走るユートが追い抜くなら三人はソコを通らなかった事になる。

 

 正規ルートとは安全面、距離などが考慮されて設定をされている筈。

 

 ならば意味も無く外れた道は往かないだろう。

 

「っ!?」

 

 ルームに入った途端に、壁には無数の罅が。

 

「まさか、こんな時に……モンスターハウスか!?」

 

 オラリオ風に云うなら、【怪物の宴(モンスター・パーティー)】だ。

 

「チィッ! こんな時に当たりを引かなくても!」

 

 普段ならバッチコイ的な状況だったけど、急いでいる今は道を塞ぐだけで厄介な出来事だった。

 

 ルームの向こう側こそが目的地の最短ルートであるからには、ユートとしては外れて遠回りは避けたい。

 

 モンスターを殲滅なり、取り敢えず道を作るなりの戦闘行為と、回り道をした場合の時間差というリスクを鑑みて決めた。

 

 ユートはダークリパルサーとは逆の手に、もう一降りの黒剣……エリュシデータを出して二刀流となる。

 

「ジ・イクリプス!」

 

 嘗て、SAOでキリトが使っていた怒涛の二七連撃ソードスキル。

 

 勿論、アシストなぞ無い完全に見よう見まねな技。

 

 兎に角、今は手数が欲しいから二刀流で二七連撃。

 

 目論見の通りにモンスターは斬り刻まれて、次々とその身を灰に変えていく。

 

 こういう様を視てると、SAOでモンスターやプレイヤーがポリゴン片に変わったあれを思い出した。

 

閃熱呪文(ベギラマ)!」

 

 放射状ではなく収束してビームみたいなベギラマ、それで薄くなったモンスターの壁に完全な穴を穿つ。

 

 極大呪文に比べて出すのが早い為、剣で壁を薄くして使う呪文も此方を選んだという訳だ。

 

「抜けた!」

 

 そして遂に二三階層をも踏破して、目的地の二四階層にまでやって来る。

 

「問題はどの食料庫に向かったか……だけど」

 

 アイズは最近になってからLV.6となったから、目的地に着くまでに大量のモンスターを斃し、肉体と認識の齟齬を解消しようとした筈だとユートは思う。

 

 ならばその往く先には、モンスターの灰が在る筈。

 

 問題は今現在だとそれが見当たらない為、其処へと辿り着く前に当てずっぽうで進むしかない点。

 

「やってみるか」

 

 ユートは目を閉じると、一気に身体を回転させる。

 

 そして止まったら自分から見て真っ直ぐ前を。

 

 “幸運”の使い方。

 

 様はギャンブル的な状態を作り出せば、それで良い方向に進めるという考え。

 

 普通の冒険者なら危険が無い方向が当たりだけど、ユートの場合は全くその逆こそが当たり。

 

「神殺しが神頼みとはね、随分と皮肉が利いてる」

 

 天に運を任せるやり方。

 

 ユートは天運ではなく、寧ろその質は破凰が……

 

「見付けた!」

 

 大量のモンスターの灰、そこら辺の冒険者では幾らパーティを組もうが殺られるしかない数、アイズなら一人で殺し尽くせる量でしかないだろう。

 

 

「此方は位置的に北か」

 

 死骸たる灰を辿った結果として、アイズの往く先が北の食料庫と判明した。

 

「可成り出遅れた感があるけど、さて? モンスターの大量発生の原因くらいは突き止めたのかね?」

 

 食料庫の入口まで着いたユートは首を傾げた。

 

「うん? 此処が入口だったと思ったんだが……」

 

 存在しない筈のちょっと有機的な壁。

 

「まあ、門? みたいなのも在るから向こう側に通じてはいるのか? それなら……喰らえ!」

 

 両手を頭上で組んで横に腕を広げると、エネルギーが右手と左手でアーチを描く形になる。

 

「征け、極大閃熱呪文(ベギラゴン)ッッ!」

 

 先のベギラマと同じく、収束をしたベギラゴン。

 

 ゲーム的には一グループに有効な呪文が単体呪文に変わった分、その威力が上がったモノとなる。

 

「何だ、割と脆かったな。これならベギラマでもいけただろうか?」

 

 大穴が穿たれたのを見てそう洩らしつつ、ユートはアイズなりレフィーヤ達なり追い掛ける為に走った。

 

「別れ道……か」

 

 どっちが目的地か?

 

「正に運次第っと!」

 

 適当に決めて進む。

 

 更に進むと流石に気配が近いのに気付いた。

 

「これは……当たりか?」

 

 複数人の気配、だが……

 

「一つ消えた?」

 

 つまりは誰か死んだ。

 

 それが敵かアイズ側の誰かまでは判断が付かない。

 

 抜けた先の広場。

 

 其処には死が広がる地獄みたいな場所だった

 

「我が名はアールヴ!」

 

 それを唱えるは当然ながらリヴェリア・リヨス・アールヴではなく、サモン・バーストでレフィーヤが使っていたのだろう。

 

 レフィーヤの足下には、ゴツい女性が倒れていた。

 

 背中が血塗れなのは彼女がレフィーヤを護ったからと判るが、他にも複数に亘る死が充満している。

 

 ハーデスやタナトスなど死の神の権能を持つ身だ、濃厚なる死の馨りというものを感じられた。

 

 “レフィーヤへと迫る”死の気配すら。

 

 だが全ては遅い。

 

 ゾブリ……

 

「――あ?」

 

 先程まで制御されていた魔力が無制御状態に。

 

「ヤバ!」

 

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)だ。

 

 この侭では、レフィーヤの強大なる魔力で編まれた魔法が暴走してしまう。

 

 そうなればすぐ傍に居るレフィーヤは、遺体すらも残さず消し飛ぶだろう。

 

 已むを得ない。

 

 ユートは手を伸ばすと、指先を指鉄砲に構えた。

 

「BANG!」

 

 ナニかを撃つ仕草と言葉に合わせて、レフィーヤの暴発し掛かった魔力が雲散霧消してしまう。

 

 術式解散(グラムディスパーション)の応用。

 

 想子ではなく魔力によるモノという違いはあれど、相対する術式に対抗をする術式をぶつけて無効化する過程は同じ。

 

 ユートの眼は彼の眼とは似て非なるモノ。

 

 だけど似てはいるのだ。

 

 更には知恵の女神とされたメティスから権能を簒奪した際、常時発動型として【智慧の瞳(ウイズダム・アイ)】が【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】に進化をして昔より遥かにやれる事が増えている。

 

 これと組み合わせれば、術式解散(グラムディスパーション)は正に魔導師殺し足り得る力だ。

 

 問答無用で術式を吹き飛ばす術式解体(グラムデモリッション)もあったが、あれは此方よりも消耗が激しいから選んだ。

 

 ユートの瞳に映っる術式から、対抗術式を編み込んでやった方が少ない消耗で済んだから。

 

 タンッ! と、ユートはその場から縮地法で彼女――レフィーヤの傍にまで近寄ると、倒れそうになったその華奢な肢体を優しく抱き寄せてやる。

 

 その腹には後ろから刺された傷が有り、レフィーヤの戦闘衣(バトルクロス)を紅く染めていた。

 

「手ぇ前ぇ! よくもやりやがったな?」

 

 睨む相手はあの赤毛。

 

 彼女からすれば敵を斃す行為に過ぎず、それその物は間違いではない。

 

 何より戦うならお互いに生死を掛ける。

 

 リスクは五分五分だ。

 

 一方的に赤毛を悪と断じる心算は勿論無い。

 

 だけど親しい相手と敵、どちらを支持するかに関しては私情を挟む。

 

 背後から攻撃を『卑怯』とか『汚ない』とか、そうやって罵る気持ちも無い。

 

 バックアタックは立派な戦術なのだから。

 

 そういう意味で云えば、背後を取られたレフィーヤが未熟なだけ。

 

 だからこの怒りは謂わば醜い私情、ユートは天に住ます神でも何でも無い。

 

 三度までの過ちなら赦す仏でも無いのだ。

 

 愚かで間違いだらけで、移ろい易い只の人間。

 

 神の力が在ろうと超越者に成ろうとも、ユートの心は結局……人間なのだ。

 

「またお前か……」

 

 赤毛。

 

 名前は識らない。

 

 優雅が抱いた時にも名前なんて聞いてなかった。

 

「ベホマ」

 

 時間さえ有れば完全回復すら可能な呪文。

 

 流石に一瞬でといかないのが、現実(リアル)虚構(ゲーム)の違いだろうか?

 

 負傷者の数が捜していたアイズやベートやフィルヴィスも含め、死者は兎も角として十人を越えるのを知りながらベホマ。

 

 単体回復に留めた理由もやはり現実と虚構の差違。

 

 ベホマズンを使ってしまうと、すぐ傍の赤毛にまで回復を施してしまうから。

 

 これが回復のスペシャリストたる【聖銀の乙女】――アーシア・アルジェントならば、サイフラッシュの回復版みたいに敵と味方を識別して回復をさせる事も可能だが、流石にユートは其処まで器用ではない。

 

 一応、練習はしてみたが上手くはならなかった。

 

 こんな場面でそんな拙い技術を使う気など無い。

 

 ユートはレフィーヤを抱えて赤毛から離れ、倒れ伏しているアイズの傍にまで退避をする。

 

「ベホマ!」

 

 そしてすぐにも回復呪文を施してやった。

 

 何があったのかユートは窺い知れないが、ベートも脚の片方が砕けているし、フィルヴィスも満身創痍とまではいかないにしても、傷だらけで疲労感が全身から漂っている。

 

 アスフィ・アル・アンドロメダらしき女性、その他にもルルネ・ルーイが居るからヘルメス・ファミリアだと知れる連中も、やはり傷だらけで疲労困憊だ。

 

 敵は赤毛。

 

 使うモンスターは食人花(ヴィオラス)なのだろう、そこかしこに生きた食人花がうようよとしていた。

 

「ヘルメス・ファミリア、戦闘を中断して此方に全員で集まれ! フィルヴィスはベートを連れて来い!」

 

 アスフィは乱入者が味方だと判断……

 

「全員、生きている者は集まりなさい!」

 

 命令を下した。

 

 フィルヴィスも言われるが侭、他者との触れ合いを嘗ての悲劇からより忌避する様になったが、ベートを肩に担いでユートの傍にまで退避をした。

 

 ユートは、ベホマズンによる“回復の識別”は出来ないに等しい。

 

 処が“攻撃の識別”となると話が別だ。

 

 そう、即ちユートはアレが出来るのである。

 

「消え去れ、サァァァイ……フラァァァッシュ!」

 

 放たれた攻撃エネルギーが味方と識別した相手には被害を与えず、赤毛と食人花とにだけダメージを……

 

「ぐわぁぁぁっ!」

 

 見事に与えていた。

 

 食人花は完全に消滅し、極彩色の魔石だけはユートのストレージへ。

 

 とはいえ、やはり赤毛には大したダメージも無い。

 

 すぐに立ち上がった。

 

「邪魔されては仕方がない……アリアに伝えろ」

 

「――何?」

 

「五九階層に行け。丁度、面白い事になっている」

 

 そう言って赤毛は何処かへ行ってしまう。

 

 残されたのは傷だらけの捜し人や、今回の冒険者依頼を受けたヘルメス・ファミリアの面々、食人花の灰と敵か味方かも判別が出来ない遺体ばかりだった。

 

 

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