ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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「サポーター?」
「はい、サポーターです。ああ……若しかして混乱をなさっておいでですか? 事態は至って簡単ですよ、貧乏なサポーターが冒険者様のおこぼれに与りたく、自分を売り込んでるだけですので」
とっても〝良い笑顔〟でニパッと笑う。
フードを被っていたから判り難かったが、声の高さは元よりゆったりめな服の上からでも判るなだらかながらも有る脹らみ、フードから垣間見える顔立ちなどから、この少し小さな人物が少女だと判断が出来た。
身体は小さいまでも脹らみが判る胸、きょぬーではないにしてもそれなりには女の子な体付きである。
クリーム色の服装が某・最終幻想に出てくる白魔道士っぽいが、きっと
「それで、如何でしょう? 冒険者様……サポーターは要りませんか?」
成程、サポーターというのはユートもアドバイザーであるギルド職員のエイナ・チュールから聞いてはいたが、この子の背負っている巨大なリュックサック、バックパックと呼ぶらしいのだが……これにモンスターから抉り出した魔石や、同じくモンスターが死んだ際に遺すドロップアイテムを詰めて歩くのだろう。
基本的に戦闘に参加はしないで、戦闘が終了をした後に死んだモンスターから魔石を得る。
それ故にか口さがない者は『冒険者に寄生している愚図』みたいに罵るとか、悪い場合だと肉壁にしかねないらしい。
専門職としてサポーターを選ぶというより、得られた【神の恩恵】のステイタスが小さ過ぎて戦闘職をやれなかったり、冒険者の時に怪我をしてサポーターに身を窶すしかなかったり、どうあっても卑下されている職業らしい。
単純に自分でバックパックを背負って戦うよりは、専門のサポーターに任せれば戦闘にバックパックという重石が無くなり、やり易くはあるのだろう。
最初は兎も角としても、モンスターを斃していけばいずれ冒険者が背負う程度のバックパックは一杯で、それでも充分に重石の役回りを果たすのだから。
まあ、【神の恩恵】による効果で力も大幅に上がるから背負えなくはないし、サポーターが居ないのなら必須な訳だが……
ユートはニッコリ笑っている
「だが断る!」
あっさり断った。
「──へ?」
「僕には必要が無い」
「い、いえいえ! 冒険をなさるならバックパックを専門的に背負うサポーターは必須です! それとも、冒険者様が自らバックパックを背負って闘うお心算なのですか?」
「さぁね? それを教える意味は無いだろ。別に君は着いて来ないんだし」
踵を返すユートに慌てたのか、少女はすぐ駆け出し追い越して遮る様に立つ。
「ま、待って下さいって! 絶対にサポーターの存在は必要になりますから! ですので兎に角、一度は雇ってみるべきですよ!」
必死過ぎる説得行為。
「僕には必要が無いと言ったぞ」
「ですから、そう! 荷物持ちだと思えば!」
「要らん」
飽く迄も必要無いという姿勢を崩さずユートが歩を進めると、尚も必死になりしがみ付いてまで止めようとしてくる。
何故に其処までする程に必死なのか?
実はこの少女がユートをターゲットにしようと考えたは、ユートがヘスティアとヘファイストスの所へと
行った帰りの事だった。
何しろ女神と思しき少女と若い少年が、ヘファイストス・ファミリアのホームから出てきたのだ。
何かしら高い買い物でもしたのかも知れないと観察をしていた少女、見た目に明らかな少年だったからか初心者だと判断をした。
まあ、ダンジョン初心者なのは間違いない。
そのユートが路地裏へと移動し、真新しい片手剣を振り回しているのを見て、少女はそれがヘファイストス・ファミリアで造られた剣だと考える。
ヘファイストス・ファミリアの武具は初心者レベルならまだしも、熟達な鍛冶師が打った場合は物によっては数千万ヴァリスが当たり前なのだから。
絶好のカモがネギを背負っている様にみえたのか、口元をニヤリと吊り上げてしまう程。
気配は消したがバレたらしく逃げたが、ようやっと接触が出来たのに逃がして堪るかと必死になった。
少女は金が欲しいから。
全てを振り切るその為、ただそれだけの為に。
「なら、なら! 一日だけ様子見という感じで雇ってみて下さい! それでお役に立てたら今後も雇って頂くという事で!」
辟易するとはこの事か。
実際にユートはサポーターを必要とはしないから、それは侮辱や蔑みとは異なって真実からだ。
それならば力の無い彼女をダンジョンに連れ歩くという行為、そんなのは無駄を通り越して危険なだけ。
確かに何度もダンジョンには行ってそうなのだが、ユートは可成り下に降りる予定だし、着いて来るのは困難を窮める。
ユートはその戦闘スタイルから護りながらというのは無理ではないにしても、難しいのが現状でもあったが故に、せめて戦闘能力が無いと連れていく意味を見出だせない。
「なら、君が勝てばそれも良いとして……敗けたならどうするんだ?」
「え? 敗けたらですか? それは……」
賭けに敗けてお金を払うのは業腹だし、かといってそうなってしまうと支払えるモノは無い。
勝てば良いという事で連れて行かせるのも難しい、少女は答えに窮していた。
「ふぅ、そうだな。それじゃあ一晩を付き合って貰うとするかな?」
「へ、え?」
一晩を付き合う。
幾ら小さく見えてもそれは種族的な特徴であって、決して幼女ではなく普通にユートの世界で云えば女子高生くらいの年齢な少女、当然ながらその意味する処は彼女にもすぐに解る。
顔を朱に染めて眉根を顰めてしまうのも当たり前、誰とも繋がった事の無かった少女としては、ユートを睨むのも仕方がない。
一方のユートは遊郭での春姫とのあれやこれやで、取り敢えずは寝ている間にヘスティアから弄られていた下半身の違和感も無くなったが、それでも生娘だった春姫には可成りの手加減をした為か、ついつい少女にそんな提案をした。
別に断ってきても構わないが、ヤれるならラッキー程度のものでしかない。
少女の腹に一物が有るのは理解していたし、ならばユートが遠慮をする必要性も無いだろう。
後は互いに腹の探り合いとどう出し抜くか?
まあ、其処までの話にはならないだろうけど。
フードの下に覗く顔……其処から鋭い眼光で睨みながらも、少女が悩んでいるのが判るくらい小さな百面相をしていた。
そして暫くしたら瞑目、更に諦感の篭った栗色の瞳を開いて……
「判りました、その賭けを受けさせて頂きます!」
はっきりとそう答えた。
賭けの内容は至って簡単なもので、少女はユートと共にダンジョンへ潜って、ユートの斃したモンスターから魔石やドロップアイテムを速やかに確保、同時に戦闘の補助も行う事。
それを確りとやれたなら少女の勝ちで、賞金としてその日の稼ぎにプラスして五万ヴァリスの支払いと、更にユートの剣を副賞という事で所望してきた。
少女的には調子に乗り過ぎたかと、場合によっては少しくらいはマケる心算もあったが、ユートは不敵に笑みを浮かべて了承する。
勿論、後でごねたり出来ない様にエイナを通じての契約書を作成、エイナ・チュールは良い顔はしなかったものの、ある程度の事情を聞いて下手に新人冒険者が被害に遭っても……とでも考えたらしく、ほんっとーに仕方無く契約書を作成してくれた。
基本的に冒険者のやる事は自己責任だし、アドバイザーが過度に干渉も出来ないからだ。
賭けをする階層が第一層である事を条件に加えて、エイナから契約書を受け取ったユートは、互いにサインをして契約成立を確認、ダンジョンへと向かう。
また、サインに関してはユートはまだ字を書けないから代筆をエイナに頼む。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダンジョン、それは天然自然の迷宮に思えるけど、実はそうではない。
何故ならダンジョンに現れるモンスターは、そもそもダンジョンが産み出しているのだから。
このダンジョンを封じる蓋こそ、摩天楼──バベルの造られた目的。
そも、この世界はダンジョンとモンスターによって蹂躙を受け、人間や亜人が力を合わせて何度も何度も封印を敢行してはきたが、全てに於いて失敗。
精も根も尽き果てつつあった地上人の許、天上より神々が〝暇潰し〟と宣って降臨をしてきた。
そう、決して変わる事の無い神々は天上での生活に飽々しており、そんな中で地上の生活に興味を持ったのか、或いは
尤も、神々の降臨により救われなかった種族も若干在ったのだが……
ユートの目の前を歩いている
お陰で種族全体が腐っていき、元より種族全体からして力が低い事もあって、小人族の冒険者は比較的に少なく、少女の様なサポーターになる者も居る。
ユートにはどうでも良い話でしかない。
ダンジョンという薄暗いながら、光源を持っているが故に全く見えない訳ではない場所、その第一層には当然の様に弱いモンスターしか存在しなかった。
とはいえ『ダンジョンでは何が起きるか判らない』とも謂われ、比較的に上の階層でありながら下の階層のモンスターが迷い込む事も偶にはあるし、弱くても徒党を組んで怒濤の如く押し寄せる場合もあるから、決して油断は許されない。
「ゴブリンにコボルトか、この辺りがドラクエ的に云えば、『スライム相当だけどな』って処か?」
現れたのは正に雑魚モンスターの代名詞、
コボルトは銀を腐らせるとされ、
実際にドイツで、コバルトの冶金が困難な事からかコボルトが坑夫を困らせるべく魔法を描けたとされ、やはりコボルトが語源。
まあ、ユート的に蘊蓄なんて関係無い。
目の前に現れて道を阻むならば、ただ敵として斬り裂くのみである。
「リリは下がっていろ」
「判りました」
冒険者に成り立てで何を偉そうに、なんて思いながらも素直に下がる。
因みに、二人は自己紹介もまだだったと気が付き、契約書のサインで一応は知っていたが、ダンジョンに入る前に改めて名乗った。
少女の名前はリリルカ・アーデ、驚いた事に偽名とかではないらしい。
『何てマジカルな名前』
とか呟いたら……
『誰が白い魔砲少女なんですか!? リリカルではなくリリルカです!』
とか怒鳴られたのは完全なる余談であろう。
閑話休題
斬っ! 斬っ!
ユートは鋼を鍛えただけの剣──アニールブレードを片手にゴブリンとコボルトを一閃二閃と斬り捨て、死骸を見遣った。
リリがすぐに魔石を取り出すべく動くが……
「──え?」
あっという間に灰に還ってしまった。
「ユ、ユート様? 若しかして魔石ごと斬ってしまわれたのですか?」
モンスターは死んでしまっても死骸は残るのだが、例外として魔石を砕いたり抜いたりすれば灰化する。
中にはモンスターの一部が残り、それがドロップアイテムと呼ばれるものの、こうして二匹が灰化したと云う事は、魔石も斬ったと云うに他ならない。
「いや? 魔石には傷一つ付けていないが……というより、魔石が稼ぎの一部になるのに斬ってどうする」
「それは……でも、それならどうし──っ!」
「気付いたみたいだね? そう、魔石やドロップアイテムはちゃんと手に入れているけど、そのやり方に関しては他の冒険者と大きく異なる。サポーターが要らないとはこういう意味だ。だから精々、夜の事を考えておくんだね」
青褪めるリリに何でもない風に言う。
「また出たな」
もっと下ならまだしも、こんな上層階ではそんなに苦労する程にモンスターも現れないが、それでも次々に
斬っ!
現れたゴブリンを斬り、再び灰に還す。
「やっぱり弱いな。魔石も安く叩かれる程度なんだろうし、本格的に探索するなら下の階層だろうな……」
現れる頻度も問題だ。
枯渇の心配は無いといった処で、再湧出にはそれなりに時間も掛かる。
「確か、エイナは第七階層からのキラーアントが危険だとか言っていたか」
半端に殺さずにいると、特殊なフェロモンを出して仲間を呼ぶという。
ユートからすれば歩き回らなくて済むという程度の認識で、探索を始めたならすぐにキラーアントを求めようと思っていた。
それから現れたモンスターも基本的に一撃必討で、死んだ瞬間に魔石を喪ったモンスターは灰化をして、ドロップアイテムも同じく姿を見せてはいない。
戦闘補助をしようにも、第一層では一度に何匹も現れないし、一撃だから何も出来ない侭で半日が過ぎ、ダンジョンから出る時間になってしまう。
お金を確実に支払わせる為にギルドを通して契約書を作ったが、完全にリリを縛る鎖となっていた。
ファミリアに知られては拙いし、ギルドを通したからには当然ながらリリも逃げられない。
最早、覚悟を決めるしか他に無かった。
「さて、賭けは僕の勝ち。それで異存は?」
「あ、ありません……」
「なら行こうか?」
「はい」
リリは自分を虐めるから冒険者が嫌いだ。
取り分け、ユートを好きになる事は無いだろうなと思いつつ、重たい足取りで機械的に着いていく。
着いた先にはリリでは泊まり様がない高そうな宿、確かに防音やら何やらを鑑みれば安宿は無い。
部屋も高級そうなベッドにフカフカな布団、オマケに風呂まで部屋に常備されているときた。
身体の汚れは互いに落として、薄暗い部屋に二人きりでベッドに腰掛ける。
リリは両手を取られて、ベッドに押し倒された。
耳を甘噛みされるのが擽ったく、顔を赤く染めながら声を我慢しようと口を噤んでみたが……
「ひゃん!?」
行き成り舐められて驚いたからか、結局は声を上げてしまった。
その日、リリは強烈なる快楽に酔い痴れる。
リリが所属するファミリアの主神ソーマが作り出す神酒並か、或いはそれ以上の快楽がリリを襲った。
夜中、リリはこっそり起きてユートの荷物に手を付けようともしたが、腰が抜けてしまって動けずにいた上に、ユートに抱き締められて身動ぎも不可能。
ユートはおかしい。
普通、恩恵を受けたばかりの初心者ならダンジョンで右往左往し、モンスターの一匹にも苦戦を強いられる筈が、何の苦も無く斬り捨てていったのだ。
まるで第一級冒険者でもあるかの如く、モンスターとの戦闘に慣れていた。
しかも、魔石やドロップアイテムも独自に手に入れているらしく、リリの出番は全く無い。
「ハァ、やっぱり冒険者なんて……嫌いです!」
それでも何故か心地好さを感じながら、ユートの腕に包まれて目を閉じる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの、これは?」
「十万ヴァリス」
「いえ、そうではなくて……どうしてこれを?」
「昨夜の代金?」
思わず赤くなった。
「リ、リリは娼婦ではありません!」
「けど、リリだって処女の安売りはしたくないだろ? 恋人だったなら兎も角、賭けに敗けて差し出したとかね、だからリリの処女の代金だよ。寝た行為自体じゃなくて……さ」
「……そんなのって、単なる御為ごかしです」
「かもね。けど、リリのを貰えたのは嬉しかったし、愉しい一夜だったからね」
「判りました、受け取らせて頂きます」
昨夜の行為でも思い出したのか、リリはプイッと顔を逸らしながら十万ヴァリスの入った袋を受け取る。
「じゃ、僕は行くよ」
ポンポンと軽くリリの頭を叩き、ユートは出口へと向かうとその侭出ていく。
リリはユートを呆然と見送りながら考えた。
ヘファイトス・ファミリアの剣──誤解だけど──は手に入らなかったまでも十万ヴァリスはそれなりの稼ぎ、とはいえ処女を散らした代金としてはどうなのかとも思うが、どうせ自分の処女なんてユートに奪われずとも、この先で無体に散らされていた可能性だってあるし、それ以前に生命すら喪いかねないと考えれば妥当かも知れない。
「リリは……リリは冒険者なんて嫌いです。取り分け貴方は……大、嫌い……なんですから!」
頭がごちゃごちゃだ。
だからこそ、既に居ないユートが出ていった出口に向けて、リリは潤んだ瞳に真っ赤な顔で力のあらん限りで叫ぶのであった。
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リリは52の飛躍ポイントを手に入れた……