ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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アイズ・ヴァレンシュタインがベル・クラネルに、ユートがレフィーヤ・ウィリディスに修業を付ける。
ロキはまぁ、仕方がないと許容をしたのだが……
『何でヴァレン某とベル君がそんな話になるんだ!』
とか言って大反対。
ベルがダンジョンで生き残る為の術を得る機会を、主神が我侭で叩き潰す心算かと問われて無理矢理だが納得したらしい。
まぁ、ユートが殺気混じりに言ったんだが……
その際、神殺しの殺気を【
アイズの修業はベルにとって必ず良い結果を齎らす筈だと、【神の恩恵】を鑑みて確信していただけに、邪魔をするなどヘスティアでも許さない。
ロキ・ファミリア遠征まで原典より時間もあるし、それまでにどれだけアイズの技術を修得が出来るか、それがベルの真骨頂を魅せる唯一の手段だ。
「ほわぁぁぁっ!?」
先程からアイズがユートから渡された木刀により、ベルを幾度となくぶっとばしていたりするが、LV.も技術も素の能力も丸っきり低いベルが、アイズに勝てる訳はないのだから仕方がないといえば仕方がない話である。
「余所見なんかしてるとは余裕綽々だな?」
「ふぇ?」
モミモミ。
「ひゃわぁぁぁっ!?」
決して大きくはないが、慎ましくも膨らむおっぱいを揉まれて、涙目になりながら悲鳴を上げる修業中なレフィーヤ。
ベルみたいな痛い目には遭わないが、胸を揉まれる羞恥心と絶妙な匙加減による快感に、へたり込んでしまう事既に十数回。
木刀で吹き飛ばされる度にアイズの膝枕で数分間、僅かなり眠りに落ちて休むベルと同じく、レフィーヤも揉まれる度にトイレへと駆け込んで湿って潤う下衣を変えていた。
アイズは理論的に教える教導は苦手で、だから戦おうといった感じで模擬戦を続けつつ、ベルの悪い部分を指摘する形だ。
憧れの『アイズさん』にいつまでも格好悪い処を見せたくないと、指摘された部分は即修正をして頑張っているが、元々がユートの知っている修業法アバン流スペシャルハードコースを施していただけであって、型なんかは殆んど自己流のベルだけに、アイズからの修業で自己流の型を洗練させていく形になる。
単純な能力は【神の恩恵】でじゃんじゃん上がり、型なんて無くてもある程度は戦えたのも理由。
というか、ユートが教えられるのは【緒方逸真流】であり、アバン流は飽く迄も本人からやり方を聞いていたに過ぎない。
スペシャルハードコースは漫画でダイが三日間だけ受けたアレだが、取り敢えず一週間という限られた中で試しにやらせた。
取り敢えず、覚えがダイより悪かったベルは大地斬と海波斬を覚えるのがやっとで、空裂斬は未だに修得には至っていない。
魔法に関しては世界が違うから、その世界に縛られたベルには扱えない訳で、ファイアボルトの練度を上げるべく兎に角、撃って撃って撃ちまくらせている。
勿論、インストール・カードを使えば修得は可能ではあるが、まだランクアップしてないから使わせる訳にもいかない。
取り敢えず、ファイアボルトを撃ちまくって中層のモンスターを屠れる程度な魔力も上がり、今やその値もSSS1215と他とも遜色無いSSS評価を得ていたのに驚いた。
流石は【
「あの、ユートさん」
「どうした?」
「替えの下衣が無くなっちゃったんですけど?」
「用意が悪いな」
「十枚以上がですか?」
「たったの十枚か其処らで足りるとでも?」
「うぐっ! 昨日は足りていました!」
「だが集中力が足りない」
「うっ!」
呻いた辺り、レフィーヤにも自覚は有ったらしい。
昨日はベルの修業前。
今日からベルは修業中。
同じ場所での修業なだけにレフィーヤは嫉妬から、ベルの方へと憎々し気な目を向ける事十数回。
その度に揉まれて濡らして下衣を替えて。
間抜けの極みである。
「レフィーヤ、真面目にやらないなら追い出すぞ?」
「うぐっ! 済みません」
流石に反省はしたらしいのだが、やはりベルにムカつくのは止められない。
「君は並行詠唱を舐めているのか?」
「そ、そんな事は!」
「いちいち気を散らして、それで並行詠唱が出来るとリヴェリアから習ったか? そんな莫迦な教えをされていたのかな?」
「ち、違います!」
「なら、君は今何をしている心算なんだ?」
「へ、並行詠唱の練習……です……はい」
「僕には背中の恩恵と関係無いスキルに【教導B】というのが有る」
「背中の恩恵と関係無く? そんな事が……」
「信じられないか? 僕の居た世界に恩恵など無い。だけど素でLV.5くらいなら普通に居たぞ?」
「それは……」
ユートがそれだ。
闘氣や魔力などで強化をせず、純粋な身体能力だけで
樹雷の皇族や側近レベルがそれに当たった。
況してや、樹雷皇家など【皇家の樹】からエネルギーを受けて強化が可能で、それが謂わば高いレベルの恩恵みたいなもの。
凄まじいエネルギーを、外部から供給されて更なる強化が成され、個人レベルで解り易く云えば第三形態フリーザ並になれる。
飽く迄も第二世代以上の【皇家の樹】ならだが……
そういう意味ではやはり遙照とも互角に戦り合えた魎呼は、流石の頂神の愛娘といった処だろうか?
最終形態やゴールデンはどうか判らないが、
「その僕らに恩恵と関係無くスキルが有ったからと、それがそんなにもおかしな話かな?」
「それは……」
「効果は才能が僅かにでも有れば、そしてやる気さえ持っていれば時間は掛かっても必ず開花する」
ゴクリと固唾を呑む。
「1に2を掛けたら2だ。だけど其処に0が在ったら0でしかない。才能が無いかやる気が無いか、どちらかが0なら開花しない」
「うう……」
「レフィーヤは才能こそ有るが、やる気が見当たらないんだよな。ベルがそんなにも気になるか?」
「そんな事は!」
「じゃあ、ベルを見てないで修業に専念しろ」
「は、はい……」
こうして修業は続く。
「ぎゃびりぃぃぃん!?」
「アハァァァン!?」
少年の悲鳴と少女の嬌声を朝露の時間に響かせて。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダンジョン内での修業、それは魔石やドロップアイテムも手に入り、一石二鳥な実戦型の修業である。
「……」
「……」
「どうした、二人共?」
「いえ、何と云うか」
「何でユートさんが斃したら一〇〇%でドロップアイテムが?」
ベルもレフィーヤも余りの不可思議現象を受けて、茫然自失となってしまっている様だ。
「僕には神の権能が幾つか宿っている」
「え゛?」
「神の権能……ですか?」
「様々な神だ」
「あ、そういえばあの時のアレがそうでした!」
レフィーヤは見ていた。
生死を司る冥王ハーデスの権能、それでヘルメス・ファミリアの死亡者を蘇生させた事実。
権能は呪力と呼ばれるの中でも最上位、神氣に近い小宇宙によって行使される特殊な能力。
最早、神氣そのものとも云えるレベルである為に、仮に死の世界に入ったとしても自意識を喪わない。
所謂、
それだけにこの世界では下手に使えたりしない筈だったが、魔力を代わりにするスキルが背中の恩恵に宿った為に、多少の劣化こそあるが行使可能となった。
結果として再々転生する前に行った世界の幸運を司る女神――エリスを完全に手に入れて抱いた際に神氣を獲た為、それが権能へと変化をしている。
自らの氣と相手の氣を混ぜ合わせ、陰陽の理による合一法で擬似的に一つと成ったそれで、エリスの神氣を獲たのだから当然だ。
以前に関わったスパロボ世界Xで、機械的にそれを可能としたシステムが在った訳だが、あのシステム――カップリング――と似た様な感じだろうか?
あれも二人の人間の意識を無意識レベルで一体化、擬似的にとはいえど一人の人間みたいにする。
ユートのは相手が女性体限定だが、あちらは男同士でナイスカップリングとか云っていたけど。
まあ、後にヒナ・リャザンが加わって3Pになったりした訳で、口に出したらディオに怒鳴られた。
それは兎も角……
エリスから獲た権能――【この素晴らしい世界に祝福を!】という、常時展開型の権能によりある意味で幸運になっていた。
何処かのラッキーな男みたく、道を歩けばお金を拾うとかでは勿論無い。
全体的に見て幸運。
モンスターを斃せば必ずドロップするとかだ。
ギャンブルをすれば相手がサマ師でも無い限りは、普通に運勝負なら敗けたりする事は有り得ない。
チェス盤を引っくり返して見れば、ユートが敗けるならそれは相手がイカサマをしている証明となる。
その場合、ユートは権能の聖句を唱えるだろう。
『この素晴らしい世界に祝福を!』……と。
因果をすら操作する恐るべき権能となるから。
「ほら、僕が片付けていては僕の経験値にしかならないんだ。さっさと戦え」
「は、はい!」
とはいってもLV.1のベルはまだしも、LV.3なレフィーヤであればこんな中層の中でも浅い階層の第一三階層では物足りないだろうか?
「ヘルハウンドが五匹……殺れ、レフィーヤ!」
「ちょっ!」
放火魔とさえ呼ばれて、【
とはいっても、ユートの識らない原典でも実際には最初にベルのパーティが身に着けただけで、他は全く見ない死にアイテム的な扱いだけど。
詠唱をする。
「アルクス・レイ!」
火属性なヒュゼレイド・ファラーリカだと、向こうが耐性を持っていて殺り切れない可能性があるから、単体攻撃ながら威力もある此方でヘルハウンドを攻撃した模様。
絶対耐性ではないから、斃せない訳じゃあない。
生き残ったら反撃を喰らうからである。
この世界のモンスターが使うのは基本的に魔法で、ヘルハウンドの吐く炎とてヴェルフ・クロッゾが使う魔法、ウィル・オ・ウィスプが有効となる。
あれは敵の魔力を乱し、
ユートの
ヴェルフが居てもそんな再々、使っていけるものでもないから魔導具として扱える物を造った。
それが例の旗である。
魔剣の造り手としての彼は何だか複雑そうだけど、ユートの知る魔剣の類いは剣としても魔法具としても良い物が多い。
この世界の魔剣は剣としては五流、魔法具としては三流の代物ばかりだった。
例外がヴェルフ・クロッゾがヘファイストスに命じられ、唯一造ったとかいう魔剣――火月であろう。
ユートが視た処で剣としては他と変わらないけど、魔法具としてなら一流とも云える力を宿す。
使ったら一撃で壊れそうな脆さだったが……
だから魔剣ではないが、魔導具に少し拘りみたいなものがあるらしい。
因みに、魔剣を持っていたベートに剣として扱うかと訊けば――『んな、莫迦な使い方をするかよ!』とか言われてしまう。
何の為に剣の形をしているのだろうか?
ユートは吹雪の剣で魔法の効果を発揮。
ヒャダルコ級の攻撃力を発揮し、ヘルハウンド数匹を纏めて始末した。
ユートのステータスウィンドウが自動的に、魔石やドロップアイテムを回収してヘルハウンドは灰化。
正にサポーター要らず。
朝は修業で昼はダンジョン行き、夜も夕飯を食べてから修業をしていた。
そんなある夜中。
珍しくヘスティアが見学をしていた日の事。
バイザーで顔を隠している連中、数人からユート達は襲撃を受けていた。
「何だ、コイツらは?」
主にアイズが狙われているらしく、一番の実力者らしき小柄であるが筋骨隆々で橙色の癖毛に猫耳に尻尾の男が、業物だと思われる銀色の槍を揮っている。
アイズと互角くらい……LV.6だろう。
他にも身長が低い四人、剣や槌や斧や槍をそれぞれが手にしていた。
コイツらも以前のアイズと同じくらいの実力か? 一人一人がLV.5くらいだと思う。
他にはベルやユートへと向かって来るが、LV.はアイズに向かう五人に比べるべくもない。
恐らくはLV.1程度でしかないのでは?
「襲撃者風情が、随分と舐めてくれるもんだね」
ベルにしても既に魔力すらSSSに到達、他は全てがSSS評価は変わらないにせよ、数値は1500にも達していた。
要するにLV.1でありながら、LV.2と遜色の無いパラメーター。
ランクアップをしたなら、今までとこれからで肉体の擦り合わせが必要なくらい上がり、単純にランクアップしただけでもこれまでのLV.を凌駕する。
事実、ランクアップしただけで数値がI0でしかないアイズも、LV.5だった頃より遥かに能力値が上がっていたから、何百というモンスターを斬り殺して調整をしたくらいだ。
今のベルならば平均的なLV.2に準じる程。
これだけ上がったのも、ユートの修業を迷わず熟していたからだろう。
LV.1はベルでも簡単に斃せていた。
況んや、ユートに向かってきたLV.1はベルに斃されるより酷く、刹那の刻に両腕両脚を粉砕されてしまった挙げ句、胸元が陥没する一撃を喰らって昏倒をさせられている。
「雑魚いな」
所詮はLV.1であり、ベル程にパラメーターも高くは無い。
さて、アイズは?
やはり苦戦は免れない、猫男はアイズと同じLV.であり、小人族らしき四人はそれより一つ下のLV.5。
しかも四人一体の戦闘法でLV.6クラスの戦闘力を発揮し、謂わばLV.6の二人を相手しているのに等しい状態だ。
パラメーターはまだ碌に上がっていないアイズは、確実に不利な戦闘を強いられていた。
此方に注意を払う余裕もあるのか、猫男が舌打ちをしながらアイズに言う。
「おい、警告だ【剣姫】。俺達の……あの方の邪魔をしたならば殺す! 奴らにこれ以上は関わるな!」
「それは……どういう?」
「遠征だろうが何だろうが行ってしまえってんだよ! 人形女が!」
「まさか、貴方達は!?」
それには応えず猫男が指差しで指示を出すと、倒れたLV.1を引っ張って小人族と共にこの場からの離脱を試みてみるが……
「うわっ!?」
「な、何だこりゃ?」
「ぐわっ!」
「ちょっ!?」
何かにぶつかって弾き飛ばされてしまう。
「壁……だと?」
猫男は其処に見えざる壁が有るのに気付いた。
「愚かな。まさか逃げられると本気で思ったのか? とある世界の大魔王の格言を教えてやる。『大魔王からは逃げられない』」
流石にユートは大魔王とまではいかないけど、こう見えても神殺しの魔王とまで呼ばれた者。
逃がしてやる義理立ては一切合切存在していないと云う訳である。
「高がLV.1か2の分際で吠えやがるのか?」
銀槍を構えながら猫男は怒声を抑えて言う。
「フッ! 高がLV.6か其処らでまさか僕に敵うとでも思ったか?」
鼻で笑いながら応えた。
「なら、死ね!」
「余り強い言葉を使うなよ……弱く見えるぞ」
某・A氏の科白で挑発をしてやると……
「貴様っ!」
意外と……でもないか、猫男の性格は短気らしくて怒鳴ってくる。
残りの小人族の四名も、凄まじいまでの連携をして襲撃をしてきた。
「ユート!」
「ユートさん!」
「ユートさん!」
「ユート君!」
アイズとレフィーヤが、同じくベルとヘスティアが叫ぶ。
「動くな!」
特に加勢しようとしていたアイズだったけど、ユートからのその言葉に足を止めてしまった。
「コイツらは僕が片付けるから……」
手にしたのは鉄扇。
「【緒方逸真流狼摩派鉄扇術】……さすれば一手、我が舞いを馳走しようか!」
「舐めるな!」
「此方の科白だよ!」
ユートの鉄扇は猫男の持つ銀槍、小人族の剣や槍や斧や槌を代わる代わるのらりくらりと躱す、当たった瞬間に軽く引く事で打点をずらす訳だ。
派手にクルクルと動き回る割に付け入る隙が無くて、攻撃が当たらない事で次第に猫男も小人族四人も苛立ちが募る。
「隙あり!」
カッ!
逆に隙を突いて斧使いの小人族、その持ち手の手首に鉄扇を軽く触れさせる。
「な、にぃっ!?」
ガラン!
手首が折れてしまい斧を手落としてしまう。
「ば、莫迦な!?」
信じられないとばかりに動きを止めた。
「莫迦は貴様だ!」
メキョッ!
「ギッ!?」
鉄扇で殴り首の骨をへし折る。
斧使いはガクリと膝を落とし、恐らくは主神の名前だろう言葉を呟いて俯せとなり倒れ伏した。
「先ずは一匹」
即死させた訳ではなく、飽く迄も意識を奪ったに過ぎないが、下手な動かし方をしたら死ぬと思われる。
下手に時間が経過しても死ぬダメージ。
謂わば瀕死状態……HPの数値を一桁にした感じであろうか。
「貴様、我々にここまでの事をして只で済むと思うなよ?」
「済むだろうな」
「なにぃ!?」
「まさか、弱小ファミリアなら泣き寝入りするとでも思ったか? 生憎と僕は、ヘスティア・ファミリアでもロキ・ファミリアでも無いんでね。何よりお前らを閉じ込めているのは結界。時空間をずらして異界化をさせた様な空間だ。この場で何をしようが現実世界に何ら影響は及ばん。建物を破壊しようがどうしようが一切……な。その上でお前らの主神は――フレイヤは襲撃したら返り討ちに遭ったから抗争だとか抜かす、ぱーぷりんな女神なのか? ヘスティアみたいに」
「キィサッマァァァァッ! 我らが女神を愚弄するというのかぁぁぁぁっ!」
キレた。
完膚無き迄にプッツンとキレてしまった。
「待て、激しく待つんだ! 襲撃者君! そこでキレるとか、それは君の主神がボク並と言われたのがそんなになる理由なのか!?」
甚だ不本意だと遺憾の意を発するヘスティア、よく見れば他の三人も可成りキレている。
フレイヤ・ファミリア……その団員は基本的に主神への愛を持ち、主神から愛される事が至上目的。
貶されればそりゃキレる。
これがロキ・ファミリアなら、団員はきっと苦笑いをしながら認めるだろう。
愛すべき家族であれど、狂信者ではないのだから。
「ふん、怒りでパワーは上がったみたいだけど雑になっているぞ?」
「がっ!?」
「げはっ!?」
「ぐふっ!」
「これで【
フレイヤ・ファミリアと知れれば、この四人の小人族が何者かは判る。
連中の武器を交い潜り一瞬にして三人の首筋に鉄扇を当ててボキッ! とヤってやった。
「チィッ!」
「そして、フレイヤ・ファミリアでアイズに匹敵する猫男――【
「くっ!?」
「嘗て、アーニャ・フローメルが【
正確にはシル・フローヴァを除いた殆んどが、基本的にはLV.4とかの神よりの恩恵を持っているらしく、あの酒場で暴れるのは御法度の扱いである。
ミア・グランドに至ってはLV.6、フレイヤ・ファミリアの元団長だとか、リューからこっそり教えて貰っていた。
それを知ったのは同僚、ルノア・ファウストやクロエ・ロロが店に働く理由となった事件で、その名前がそうだと知ったらしい。
すぐ判らなかったのは、ミア・グランドが
確かに可憐なというより肝っ玉母ちゃんだ。
「奴とは既に縁を切った。あの様な愚図なぞ俺は最早知らん!」
「ま、良いさ」
槍使いが疾いのは英霊であるランサーを相手にして判っていたが成程、この疾風の如き疾さならばベート・ローガ――否や“エアリアル”を行使したアイズにさえ勝るだろう。
「だが、微風の様に軽過ぎる。速度自慢がしたいならせめて、雷速くらいには至ってみせろよ!」
「テェメェ!」
事実を言ったらキレられた。
「だったら轢き殺してくれる!」
ザザッと下がったアレン・フローメルは魔力を漂わせ口上を口ずさむ。
「【金の車輪、銀の首輪、憎悪の愛、骸の幻想、宿命は此処に】」
「詠唱式、魔法……つまり切札か」
ユートはニヤリと口角を吊り上げた。
「【消えろ金輪、轍がお前を殺すその前に、栄光の鞭、寵愛の唇、代償は此処に】」
その詠唱式は長文、ならば邪魔をするのは容易い事だったがユート的にはしようと思わない。
「ユート?」
動かないユートにアイズが首を傾げる。
「ユートさん! 早く詠唱を潰さないと危険ですよ! “女神の戦車”が!」
「問題無い」
レフィーヤの叫びに答えるユート。
(舐めやがって!)
アレン・フローメルは詠唱を続ける。
「【回れ銀輪、この首落ちるその日まで、天の彼方、車輪の
そして完成する魔法。
「【グラリネーゼ・フローメル】!」
力在る言葉と共に駆け出すアレン・フローメルの速度は先程までの比では無い。
「
駆け出すアレン・フローメルの全身を覆っているのは蒼銀なる閃光、即ち彼の魔力光による輝きがまるで大地を照らす月明かりの如く閃く。
しかも駆ければ駆けるだけ更に速度が弥増す、それはアレン・フローメルに神々が――否、彼の
「成程成程、速度が上がるだけなら欠陥魔法に過ぎない。恐らくは速度が上がれば上がる程に威力も上がる“速度の威力変換”も付随されているな。つまり軽さを超克する魔法って訳だ」
「轢き殺されやがれぇぇぇっ!」
その蛇行は恐らくアレン・フローメル自身が、その余りの疾さ故に持て余している証明。
「僕がお前らみたいに神時代の寵児であったなら単なるLV.2、詰まりは第一級冒険者の中でも中位に位置するLV.6たるお前には決して敵わなかっただろうな」
「っ!?」
LV.を上げる――ランクアップをするという行為は詰まる処、ヒトとしての肉体を神血によって少しずつ神々へと近付ける神化の秘法。
ヒトが精霊から血を受けてその身を精霊へと近付ける事で、喩えばヴェルフ・クロッゾの一族みたいな特別たる力を発現する様に、神血によってヒトとしての可能性を……神々でさえ知り得ない未知を引き出されつつ、肉体をそんな神々へ日々近付けていくのだ。
フィン・ディムナが一〇代でロキの眷族と成ってから約三〇年近く、今や四〇代に到達していながらも若々しいのは小人族としての特性上というだけでは無く、肉体がLV.6という半ば程度とはいえ不変たる神々に近付いているから。
徐々に徐々に
日々の経験値を蓄えて、神々さえも認めるであろう偉業を達して進化を繰り返し、ユートの大体の所見で恐らくだけど切りの良いLV.12にまで到達すれば真なる神化が促される。
残念ながら神時代が始まってより千年期を経ても尚、ゼウス・ファミリアのLV.9が最大値でしか無いらしいが……
「素晴らしい、侮ったのは詫びよう。然しながら格下は格下でしかない。お前が幾ら力を注ぎ込もうが真に格上たる僕に敵うと思うてくれるな」
事実上は最大限など存在しない、だけれどこの魔法はアレン・フローメル自身の最大限界を越えられない、故に其処を限界点とした最上の一手を銀の槍へと込めた戦車の砲弾とする。
これが謂わば、アレン・フローメルという男が放てる全力全開!
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
“女神の戦車”が闇派閥にでさえ恐らくは放った事の無い最上の一撃が放たれた。
ガシッ!
「なっ!?」
「言った筈だ、格上は僕でお前が格下」
いつの間にか着込まれていた黄金に燦然と夜の帳すら引き裂きめく全身鎧。
「だけどそんなお前に敬意を込めて残されていた僅か数秒間をくれてやろう」
「お、お前は……」
「名乗ろう、“
纏うは正真正銘、ユートの再誕世界に存在していた聖域の神器とも云うべき双子座の黄金聖衣、再誕世界へ代わりに置いてきたユート作の双子座の黄金聖衣では決して放てない、天より地上を照らす太陽の煌めきすら放つ真の黄金聖衣だ。
とはいえ、小宇宙を使わないと纏う事も赦されぬ聖衣は異世界で扱うには癖がある。
何故ならユートは異世界では小宇宙を使えないのだから、ギリギリで氣力と魔力を合成した咸卦の氣ならば扱えても聖衣を纏う事は出来ない。
異世界で聖衣を纏う――小宇宙を扱う方法とはその世界の神々から許可を得ねばならなかった。
そしてユートはこの迷宮都市のダンジョンにて数柱から許可を得ており、そろは僅か数秒間でしかないとはいえ残されていたのだ。
使う必要性は無かった、何処かで切札に出来たかも知れない、それでも襲撃してきた敵だとはいえ男を魅せたアレン・フローメルに敬意を評してこれを使ったのである。
数秒間故に【グラリネーゼ・フローメル】を止める瞬間にしか纏えなかったが、それだけでも別にユートからしたら問題なんて無かった。
この最大で最上の攻撃の瞬間だけで。
ユートが双子座の黄金聖衣のパージをすると、聖衣は規則正しく双貌と四本の腕を持つ上半身のみの人型――双子座の名前の通り双生児を象った姿へと戻る。
「うりゃっ!」
「うっ!?」
上空へアレン・フローメルを放った。
「ぐおっ!?」
重力に従い落ちてきたアレン・フローメルへとブリッジで再び宙へ。
「な、何だこれはぁぁぁっ!?」
ブリッジで何度も何度も弾かれる度にまじいまでの圧力が掛かり、アレン・フローメルとはいえ容易く抜け出す事が出来ない。
そして最大限に上空へ放られた瞬間にユートも追って上空へ、アレン・フローメルの首をユートの右脚がギッチリと極まり、左脚が彼の左脚を決めてしまい、股座から伸びた左腕をユートは左腕で極め、右腕は右腕でガッシリと極める。
「マッスルスパーク!」
「ガハッ!?」
苦しむアレン・フローメルにユートは更なる技を仕掛けにいく。
このマッスルスパーク二種類の技が一体と成る事で完成する奥義、両方を仕掛けてこそ完全なる技として完遂が成される
ユートはブリッジ状態でアレンの腕を自らの腕にて、そして脚を脚で固めて首は背中というか肩から地面へと落とす。
激しい炸裂音と揺れる大地。
「ゲホォッ!」
アレン・フローメルは、吐血をして完全に沈んでしまった。
辛うじて意識はある。
「敗け猫、お前の魔法は面白かった。折角だから貰ってやるよ」
「な、なにぃ?」
「死ね」
「がっ!?」
心臓へ衝撃を与えて心停止させると、ユートはアレン・フローメルの魂魄を掌握してやる。
「念能力……“模倣の極致”」
それは使い手が相手を殺して逝かせる乃至は、性的にイカせる事によってのみ行える能力。
能力の内容は相手の持つ技能や魔法を模倣するか簒奪する事、但し模倣では威力や使い勝手などが一ランク下がってしまう。
よって、今回は簒奪だ。
「“神の恩恵”絡みの魔法でも簒奪可能か、やってみるもんだね」
こうして奪ってやったたからにはもうアレン・フローメルは、先程使った魔法――【グラリネーゼ・フローメル】は行使不可能となる。
ドンッ! と再び衝撃を与えて心臓を動かしてやると……
「ガハッ!」
止まっていた息の根を吹き返した。
「ゲホッゲホッ!」
「さて、お前の魔法のグラリネーゼ・フローメルは戴いた」
「――?」
「理解が及ばないか? さっきも言っただろう、お前の魔法は面白かったから貰ってやるってな。僕の特殊能力で他人のスキルや魔法を奪えるって言えばりかいが出来るか?」
「き、貴様!」
「どうせ今からお前は恩恵を喪うんだ。そうなればどっち道、魔法も消失するだけだから勿体ないだろうに」
「っ!?」
ユートは歪んだ短剣を取り出す。
「コイツはとある闘いにて、僕のサーヴァントの本来の形として顕れた敵であるキャスターから奪ったもんだ」
「……だから何だ!」
「効果は刺した相手の契約を白紙にする……みたいな感じかな?」
「……ま、まさか!」
「お前に刺せば背中の恩恵がどうなるのかな? さあ、早速実験を始めようか」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!」
「
ブスリッ!
痛みも何も無く、アレン・フローメルの肉体にスッと短剣は突き刺さるのであった。
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