ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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第52話:白兎の危機は間違ってるだろうか

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 ロキ・ファミリアによる遠征の当日、ユートは集合場所である白亜の塔の下へ既に来ていた。

 

 ロキ・ファミリアの面子は未だに(まば)らだし、取り敢えずは知り合いとの会話に勤しむ。

 

「早いな、レフィーヤ」

 

「お早う御座います」

 

「お早う」

 

 いつもの冒険者スタイルなレフィーヤは、頭に銀色に輝くバレッタを身に着けており、手には長い魔法杖を持っている。

 

「早く来ればユートさんと話せるかと思いまして」

 

「何か話しでも?」

 

「フィルヴィスさんを御存知ですよね」

 

「【白巫女(マイナデス)】の二つ名を持つLV.4。所謂、第二級冒険者だね。戦闘スタイルは魔法剣士、腰に佩く細剣を揮いながらも短文詠唱の魔法を扱う。ディオニュソス・ファミリアの団長でもあるな」

 

「はい。そのフィルヴィスさんに先日、並行詠唱を習いまして。何とかモノに出来ましたよ!」

 

 胸を張る様に言ってくるレフィーヤ、そんな彼女の頭を撫でながら優しい口調で誉めてやる。

 

「よく頑張ったね」

 

「はい!」

 

 普通は見も知らぬ異性から頭を撫でられたら嫌悪感しか沸かないであろうし、況んやエルフがそんな事をされたら刺されてもおかしくない話。

 

 レフィーヤはエルフ特有のそれが薄い上、ユートに対して好意らしきものを懐くが故に、まるでアイズにされたみたいに頬を朱に染めながら目を細めていた。

 

 若しアイズが……

 

『レフィーヤ、スゴいね』

 

 とか言いながら微笑みを浮かべ、レフィーヤの頭を撫でたら興奮で有頂天になっていたのは間違いない。

 

 現に今のレフィーヤは、『はにゃ〜ん』となって嬉しそうにしている。

 

 何処の桜ちゃん?

 

「やあ、ユート」

 

「フィンか。荷物は纏めて置いてくれるかな?」

 

「了解したよ。あ、これはウチからの荷物のリスト。きちんと調べてあるから、これを参照して欲しい」

 

 こういう時に荷物の中身の食い違いが、時に厄介な擦れ違いを引き起こす。

 

 ユートは纏められた荷物をストレージ、【ロキ・ファミリア】とフォルダ分けをした部分に仕舞い込み、中身のリストと実際に仕舞った荷物を調べていく。

 

「間違いない様だね」

 

 リストと実際の荷物には差違も無く、仕舞った荷物は基本的にユートが持ち運んで行き、必要に応じて出す事になるだろう。

 

 まあ、基本的には食糧と水とキャンプ用品。

 

 ダンジョンに入ってからは魔石やドロップアイテムも預かり、自分が斃して獲た物以外はロキ・ファミリア・フォルダへと格納していく事になる。

 

「では、出発しよう!」

 

 団長のフィンから受けた檄に応え、ロキ・ファミリアが出発を開始する。

 

 何があるのか?

 

 何が起きるのか?

 

 ロキが、ウラノス達が、フレイヤが注視をする中での遠征が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「雷神の剣は誰が持つ?」

 

「私ですよ」

 

 エルフのアリシアが手にした雷神の剣を見せる。

 

「クロッゾの魔剣をエルフは嫌うと聞いたんだが?」

 

「これはクロッゾの魔剣とは別物でしょう?」

 

「まぁね。魔剣の全てを嫌う訳じゃないのか」

 

「魔剣に思う処は実際にありますよ。だけど言ってる場合でもありませんから。何より、リヴェリア様から見せられたあの威力と耐久はダンジョン遠征に役立ちますからね」

 

「成程、ベギラゴンの威力を見たのか」

 

 正確にはベギラゴン並の熱量を噴き出す剣であり、本当にベギラゴンを放っている訳ではない。

 

「他にもああいう魔剣とか持っているの?」

 

「有るっちゃ有るね」

 

「そうなんだ……」

 

 やはり気になるらしい。

 

「例えば【吹雪の剣】なら名前の通り、吹雪を起こして攻撃が出来るな」

 

 精々がヒャダルコ級でしかないが、MP消費無しと考えれば良いのだろう。

 

 ゲームでは手に入るのが終盤、高がヒャダルコでしかないとはいえ剣として考えれば威力もある。

 

「この【王者の剣】なら、凄まじい鎌鼬を伴った竜巻が十字状に動いて、敵を切り刻んでくれるな」

 

 つまりはバギクロス。

 

「これらも壊れない魔剣というの?」

 

「壊れないな。少なくとも魔法の力を解放したくらいで自壊したりはしない」

 

 この世界の魔剣とカテゴライズされるモノは基本、何度か使っていけば自壊をしてしまう。

 

 それは量産品だろうが、ヴェルフ・クロッゾが鍛つ【クロッゾの魔剣】だろうが変わりない。

 

 ユートがリヴェリアに売った【雷神の剣】にせよ、【吹雪の剣】や【王者の剣】にしても全てがDQ由来の物ばかりで、この世界の魔剣とは別格である。

 

 そもそも、明らかに武器として使えなさそうな剣、この形の意味が不明だ。

 

 少なくとも彼らは魔剣を剣として使わない。

 

 まあ、普通に使って壊れたら大事だからだろうか、魔剣というのはバカみたいに高いのだし。

 

「はぁぁっ!」

 

 斬っ、斬っ!

 

 ブルーパピリオを斬り、その羽根がアイテムストレージへと格納される。

 

「何で稀少(レア)なブルー・パピリオがこんなに?」

 

「ひょっとしたら翅とか手に入ってるの?」

 

 ボヤくティオネとは別にティオナが訊いてきた。

 

「ああ、今までに出てきた全部のブルー・パピリオが落としていたからね」

 

「うわぁ、それって希少なブルー・パピリオの中でも更に稀少なドロップだよ。割と高値で売れるんじゃないかな?」

 

「そうだな」

 

 そもそもブルー・パピリオとは、【稀少種】に数えられるモンスターであり、他の【稀少種】よりは遭遇し易いのだが、やはり普通に探索をして見付けるのはちょっと面倒臭い。

 

 青い透き通った四枚翅、淡く輝く鱗粉を撒きながら飛翔する様は、冒険者達が思わず動きを止めて見惚れる程だとか。

 

 当然ながら簡単に出逢えないモンスターで、時たま落とすドロップアイテムはそれなりに高価で取り引きをされていた。

 

 美しさからだけでなく、あの翅から零れる青い鱗粉には、モンスターの傷口を治療する作用があるのだ。

 

 つまり回復薬を作る素材となる訳である。

 

 一枚で約二〇〇〇ヴァリスくらいだろうか?

 

 ユートのアイテムストレージ内には、既に遭遇をしたブルー・パピリオの翅が斃した数だけ格納された。

 

 ブラッドサウルスの卵とブルー・パピリオの翅で、ナァーザは【調合】という発展アビリティを駆使して二属性回復薬を造る。

 

 但し、ダンジョン三〇層で遭遇するブラッドサウルスは卵なんて産まないし、ドロップアイテムにも当たり前だが存在しない。

 

 そも、ドロップアイテムとはモンスターの躰の一部でも特に発達した部位が、魔石を失っても灰に還らず残った物を指す。

 

 卵を産まないモンスターが卵をドロップする筈もなくて、ならばどうするかと云えばセオロの密林に棲み着いたブラッドサウルスから奪って来るのだ。

 

 地上とダンジョンという二つが可能性を拡げた。

 

 遠征前に、ナァーザから二属性回復薬(デュアルポーション)の素材として、採って来て欲しいと閨にて御強請りされていたから、ユートとしては売る心算なんて更々無い。

 

「にしても、何でブルー・パピリオばっかり出て、しかも軒並みユートへ向かうのかしら?」

 

 ティオネは合点がいかないらしく、先程からブルー・パピリオを斃していたのがユートのみで、その理由がユートに連中が突っ込んで逝くからだった。

 

(多分、僕がブルー・パピリオの翅を欲したからだ。まあ、ナァーザの普段見る表情とは全然別物なアレを魅せられたらなぁ)

 

 やる気満々ともなろう。

 

 先ずは閨だからヤってる最中で、感じて瞳を潤ませながら頬を真っ赤に染め、上目遣いで強請ってくる。

 

 いつものナァーザを識るが故に、凄まじい破壊力に満ちた御強請りだった。

 

 勿論、たっぷりと性欲の解消をさせて貰った上で、御強請りもきちんと聞いてやったのだと云う。

 

「雰囲気がおかしいな」

 

「雰囲気って?」

 

 ユートはその空間に限るにせよ、可成り高い精度の探知を可能としている。

 

 大気さえ有るならばそれが出来る能力、風の精霊王と契約した【契約者】の力を持つが故に。

 

「四人……か?」

 

「え? あ、誰か来る」

 

 言われてアイズも気付いたらしい。

 

「冒険者だろうな。モンスターに追われている訳じゃないから【怪物進呈】とかにはならないが、随分と慌てているな……」

 

 そして確かに現れたのは冒険者な風体な四人の男。

 

「げぇっ! ア、【大切断(アマゾン)】ッ!?」

 

 

 

「ティオナ・ヒリュテだとぉぉぉっ!?」

 

 

 

「ていうかロキ・ファミリア!? え……遠征か?」

 

 所謂、下級冒険者というやつだろうか? LV.1なのが丸判りなのはこんな上層で、あんなに慌てているのが何よりの証だから。

 

 ロキ・ファミリアの中でも第一級冒険者が何人も揃っているのに気が付くと、まるで関羽に遭遇した雑魚の如くリアクション。

 

「ね〜、どったの〜?」

 

「やめなさいよティオナ、知っての通りダンジョン内では、他所のパーティには基本的に不干渉なのよ」

 

 ティオネは双子の妹を咎めたが、傍に居たベートは『そんなの関係ねーっ!』とばかりに彼らを遠慮無く問い詰める。

 

「で、お前らはいったい何をしてんだ? ひょっとして御仲間を置き去りにでもしてきたのか?」

 

 その物言いにイラッとした彼らは表情を顰めたが、すぐにも恐怖を湛えた顔で叫んだ。

 

「ミ、ミノタウロスだ! あの牛の化け物がこの上層に彷徨いてたんだよっ!」

 ミノタウロスといえば、前の遠征で大量に遭遇していたロキ・ファミリアだったけど、何故か恐れ慄いて上層へと逃げ出した。

 

 あの時はベル・クラネルが襲われていたが……

 

「白髪のガキが襲われてるのを見て、俺たちは必死に逃げてきたんだよ!」

 

 またぞろベルが襲われていたらしい。

 

「そのミノタウロスを見たのは何処ですか? 冒険者が襲われていた階層は?」

「きゅ、九階層だ!」

 

 アイズは彼の答えを聞いた瞬間、遠征なんて放り投げて飛び出して行く。

 

「ちょ、アイズ!? 遠征の真っ最中に何を!」

 

 ティオネが止めようと叫ぶが止まらない。

 

「チッ、拙いな」

 

「どういう事?」

 

「確かに今日、ベルは来ていた筈だったんだがな……ぶっちゃけパーティの都合が付かなくて、リリと二人だけで上層を攻めていた」

 

 普段は組んでいる鍛冶師のヴェルフ、現在は珍しく仕事が有ったから来ない。

 

 その仕事とはベルの鎧、【兎鎧Mk-Ⅲ】の作製だ。

 

 【兎鎧改式】から新たに造った【兎鎧Mk-Ⅱ】が、改修不可能なレベルで壊れたのを機に、新しい素材を試すべく製作に没頭中。

 

 パルゥムの魔導師であるメリルは、古巣にちょっとした帰省をしていた。

 

 残していた荷物を取りに行く為に……だ。

 

 ラブレスは既にメンバーから外れていたし、ユートとの閨事で疲れ果てていたナァーザは動けない。

 

 初めてを奪われて以来、それとなくヤっている訳だけど、あの耳と尻尾をモフるとユートの分身が信じられないくらいに天元突破、結果として毎回毎回の事でナァーザが気絶をするまで解放されない。

 

 閨でのナァーザが可愛い過ぎたのがいけなかった。

 

 だからリリしか動かせる仲間が居なかったのだ。

 

 尚、萌衣奴(ミッテルト)は戦闘関連に一切合切出してなかったり。

 

「フィン、悪いがちょっと抜けさせて貰う」

 

「仕方がないな。これで君の仲間に何かあったら流石に後味が悪いしね」

 

 答えを聞くなりユートは駆け出した。

 

「うわ、疾い!」

 

「僕らも行こうか」

 

「え? 良いのかな?」

 

「団長?」

 

 フィンの判断にティオナとティオネが驚く。

 

「気になるだろ?」

 

「それは……」

 

「確かに」

 

 ユートが気に掛けているだけでもそうだが、アイズが矢も盾も堪らず駆け出したのが何より気になる。

 

 それはフィンばかりではなく、ベートやリヴェリアも同様だったらしい。

 

 その場をラウルに任せて皆が走って行く。

 

 その場の第一級冒険者が全員が行ってしまっては、ラウルとしてもこの場にて待機を余儀無くされた。

 

「どうしてこうなったっス……」

 

 誰も答え様が無いボヤきだったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何? これは……」

 

 第九階層に着いた途端、大気の繋がりからオッタルの気配を感じ取る。

 

「どうしてオッタルがこんな低層帯に居る?」

 

 オッタルは公式には未だだが、僅か四人しか存在しないLV.7の冒険者。

 

 しかも成り立てで身体の齟齬すら取れてない三人、フィンとリヴェリアとガレスとは違い、何年も今現在のLV.で動いてきた。

 

 そんなオッタルが九階層で今更?

 

「っ! そういう事か」

 

 閃きみたいなものだが、ユートは気が付いた。

 

「フレイヤはベルを気に入っている感じだ。アイズがベルに構うのが苛ついたから眷属に襲わせた訳だし。オッタルはベルを成長させる為に動いている?」

 

 だとするなら九階層へ、まるでベルを狙ったみたいにミノタウロスが現れたのも理解が出来る。

 

 否、“狙ったみたい”にではなく正しく“狙った”のだろう。

 

 ベルにとりミノタウロスとは特別なモンスターで、初めてダンジョンで死の瀬戸際にまで追い詰められ、最大限の恐怖……今でさえ消えないトラウマを懐かせた対象にして、アイズ・ヴァレンシュタインとの出会いをプロデュースしてくれた存在でもある。

 

 経験値(エクセリア)というのがユートの考え通り、ストレスを元にして計られるのだとしたら、あれとの闘争こそ最大限のストレスとなる筈だ。

 

(そういう意味では、ベルがミノタウロスと戦うってのも悪くはない……な)

 

 

 勝てれば今のベルなら、間違いなくランクアップをするだろうし、あれを乗り越えるには丁度良い相手となるから。

 

(寧ろ、オッタルの狙いは其処にあるんだろうな)

 

 ストレス云々をオッタルが考えたとも思えないし、消えない恐怖とトラウマを解消させるのが目的。

 

「となると、下手に助けるよりは戦わせるか?」

 

 オッタルが態々、こんな場所に留まる理由は此方の足止めだろう。

 

 事実……アイズの気配がオッタルと重なると同時にストップ、闘氣と魔力を漲切らせていた。

 

「やはり足止め……か」

 

 そう言いながらユートもオッタルの許へ。

 

 そして辿り着いた場所、其処には互いに剣を構えたアイズとオッタル。

 

「……ユート」

 

「ぬ、貴様か」

 

 遂、先日に会ったばかりの猪人(ボアズ)がジロリとユートを睨む。

 

「やぁ、先日振りだな? 【猛者】オッタル」

 

「何をしに来た? とは訊くまでも無いか」

 

「いやいや、存外とあるかもよ? 例えば……」

 

 スラリと【王者の剣】を腰から抜剣。

 

「戦うってのはどうだ?」

 

「ほう?」

 

 とはいえ、ユートの武器が【王者の剣】では流石にオッタルは勝てまい。

 

 エリュシデータやダークリパルサーより高い攻撃力を持ち、この世界で魔剣と呼ばれる能力で真空斬を放てる高性能、しかも材質はこの世界のオリハルコンとは別物な神代の金属である【神鍛鋼(オリハルコン)】を鍛えた代物。

 

 此方の場合は魔力の通りが良くて硬いだけの物で、とても【神の金属】を名乗れなかった。

 

 オッタルの大剣は切れ味が良い様には見えないし、重さで叩き潰す為の鈍器的な扱いなのかも知れない。

 

 材質的にも鋼鉄よりマシな程度だろう。

 

「アイズはベルの許へ」

 

「それはやらせん!」

 

「行くだけだ」

 

「っ!?」

 

 オッタルが驚愕に目を見開いてしまう。

 

「ユート?」

 

 勿論、アイズもだ。

 

「万が一、ベルがどうしても現状を覆せなかったら仕方がない。フレイヤには悪いが助けてやってくれないかな? だけど自身の脚で立ち上がる限りは手出しをしないでくれ」

 

「ど、どうして!?」

 

「ベルはもう、『アイズ・ヴァレンシュタインに助けられる訳にはいかない』からだよ」

 

「私……に?」

 

 ベルは最初の出会いからして命を助けられており、ベート・ローガに謗られて初めて気付いた。

 

 何も出来ない自分では、憧れた人間の隣に立つ資格処か、追い掛ける資格すら持ち得ないのだと。

 

 だからユートの修業を受け容れたし、辛くとも頑張ってやってきたのだ。

 

「此処が分水嶺だろうね」

 

 ユートはオッタルの気配をこの第九層で感じた際、その目的に関して考察をしてみた。

 

 フレイヤがベルを気に入っている点、ベルがボロ敗けしたミノタウロスの出現という唐突且つ、必然性の無さと因縁などを鑑みれば『だいたい判った』と言える訳である。

 

 オッタルの目的は因縁のミノタウロスを焚き付け、それを斃させる事で小さな影を払う事だと気付けた。

 

 ベルの中の小さな影を。

 

 

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