ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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深層域の第五八階層。
砲竜と呼ばれるドラゴン以外にも飛竜が飛んでいたりと、竜種が数多く見られる階層なのかも知れないとユートは辺りを見回す。
『これならアレを使えば存外簡単ではないか? とはいえアレを使うと私の力は使えなくなるのだがな』
「確かに……ね」
ユートは【白龍皇の鎧】を解除する。
ユートはカンピオーネだ。
正確にはユート・スプリングフィールドだった頃に【ハイスクールD×D】世界で消滅し掛けて、それを救うべく真の上司たる【朱翼の天陽神】たる日乃森シオンに連れられて【カンピオーネ!】の世界に降り立ち、既に幾らか神氣を獲ていたからパンドラにその場でカンピオーネに転生させて貰ったのである。
因みに幾つか世界観が混ざる混淆世界だったのだが、【風の聖痕】が大きな位置を占めていたので八神和麻を筆頭に仲良くしていた。
カンピオーネへの転生はどれだけ死に掛けている肉体でも修復される為、転生をした時点で来た目的そのものは達成しをていたのだけど基本的に【最後の王】との決戦まで残ったし、後にまだやり残していた【風の聖痕】のイベント――本来ならメインヒロインな神凪綾乃が高校生になってから起きるそれを消化すべく再び行っている。
本来ならというのは主人公たる八神和麻には、愛して止まない恋人たる翠鈴がユート介入で生きているから、綾乃へと興味を全く移さなかったのでヒロインに成れる訳が無かった。
【カンピオーネ】の特徴として幾つか挙げられるのは、何と云っても矢張り神から簒奪した権能を扱える事であろう。
簒奪した神によって様々な権能を得られるし、仮に全く同じ神を弑逆したとしても同じ権能を得るとは限らない辺りが面白い。
次に挙げるのは権能を扱うに相応しい肉体へと転生時に改造される事。
骨は鋼鉄みたいに強靭となり、筋肉も可成りの強化をされ、皮膚もまるで強化ゴムみたいなしなやかさと硬さを兼ね備えたモノと成る。
簡単に云うと何処かの格闘技のチャンピオンに挑んでも勝てるくらい強くなる筈だ。
【刃牙シリーズ】を識るならこう云えば解り易いか? そこら辺のモブ程度の能力しか無かった人間が行き成り範馬勇次郎並になる……と。
別に勝てるとは言っていない。
まぁ識らなけりゃイミフだけど。
只人とカンピオーネではそれだけ隔絶した差が付いてしまう。
勿論、元々の能力も影響されるが……
そしてやはり高いMPと魔力強度を得る事で、例えるならばポップが大魔王バーン並に成る様なものである。
ユートはこれを水場に例えていた。
一般人が水溜まり、魔術師がプール、カンピオーネが湖――カスピ海くらい――で神が海だと。
その規模を鑑みれば解るだろう、如何に頑張ろうが
そんなカンピオーネとしてユートは神々など、力を持つ存在の力の根源を簒奪する事により得た権能はそれなりに有するが、その中には特定の敵を弱体化する権能なんてのも在った。
即ち竜蛇の類いである。
ユートの場合はその元々の太陰体質上からか、力さえ取り込めば自動的に――パンドラの力に頼らずとも、果ては【カンピオーネ!】世界の中で無くとも権能を得られた。
竜蛇の弱体化を招く権能は【カンピオーネ!】世界から【ハイスクールD×D】世界へと還って、【
本来の【聖書の神】が決して持ち得ない筈であろう『悪意』、それを堕天使となったサマエルは一身に受けて半龍半堕天使のキメラみたいな姿に堕とされ、理性も奪われて本能で龍を喰らうだけの云わば怪物に成り果てていた。
それを喰らい力と成したユートは骸骨神により危険視されたが、知った事では無かったし何より三大勢力の幹部陣の全てがそれを受け容れた上、他の神話体系――選りに選ってギリシア神話体系も含めて――もハーデスの味方は殆んど居なかったのだからどうしようもない。
当然だろう、勝手に封印を解いてテロリストに平然と貸し出す骸骨と理性と知性を持つユート、どちらの手に【龍喰者】が在るのを善しとするかは瞭然なのだから。
況してやユートは
とはいっても、厄介なサマエルを内包していながらユートを慕い最終的には後継者を育て上げ、ユートに付いて行った幹部が何人か居るけど。
セラフォルーとかガブリエルとかベネムネと、天界や冥界の美女ばかりだけど前者二人は元々が仲好くしていたから、ベネムネはトライヘキサ戦で救われたのが切っ掛けとなった。
因みにレイナーレが女性幹部として昇進をした形になっている。
閑話休題
「四人共、ドラゴン系は僕が叩くから暫く詠唱の時間稼ぎをしてくれ!」
「ああ? まぁ、やってやんよ」
「任せて、ユート!」
「構わないわ」
「私、ユートさんに近付けさせません!」
四人が頷いたのを見て聖句を唱える。
「呪え、呪われよ我が怒り以て竜蛇を呪え赤き堕天使……神の毒。我が悪意にて全ての竜蛇を呪え呪え呪え呪え呪え……呪い在れ!」
それは正しく竜蛇に対しての悪意。
「【
「「「「っ!?」」」」
ユートがその権能に与えた名前を唱えた瞬間、世界がドロリとした禍々しくも静脈から流れ出る血流の如く紅黒い世界に反転をした。
人間に悪影響を及ぼしたりしない結界だけど、余りに重苦しくて吐き気を催したり息が止まり掛けたり、本当に悪影響が無いのか問い質したい程に三人は苦しそうにしている。
だけれど、諸に悪影響を受けているのであろうヴァルガング・ドラゴンやワイバーンからしたら堪ったものではなく、ブレスを吐き出す事は疎か空を飛んだり地を歩くのも億劫となる程。
上空からボトボトと墜ちてくるワイバーンに、地を這うかの如くなヴァルガング・ドラゴン。
その力は一〇〇分の一にまで弱体化する上に、再生などは決して出来なくなってブレスや飛行も不可能となり、更にはユートが闘うのに限って云えば一〇倍の能力を出せてしまう。
正しく竜蛇への悪意しかない結界。
但し、ユートも龍因子を持つ能力など一切合切が使用不可能となる諸刃の剣。
「フッ、ティオですら墜ちる権能をお前らが如き雑魚が敵うと思ってくれるなよ? これを喰らえ……そして死ね!
ユートによる
ユートの魔力量は膨大で魔力強度も強大な為、流石に大魔王バーン程では無いが一段階くらいなら強大な呪文が放てる。
それを応用して小さな呪文に分割した。
そして集中豪雨の如く降り注がせる事で完成と成すのが
これの良い所はどの攻撃呪文にも応用が利くという事で、即ち
実は以前――とある世界に疑似転生をした際には小さな呪文そのものを数百発くらい用意して放っていた豪雨だが、それだと消費MPが一番小さなメラですら五〇〇発も用意したら一〇〇〇の消費をしてしまう。
だから逆に考えてみた、いっそ大呪文を分割したらどうだろうか?
つまりはメラガイアー、バギムーチョ、ギラグレイド、ジゴデイン、ドルマドン、イオグランデ、マヒャデドスの最大呪文を分割し小型化をして撃ち放つのだ。
目論見は大成功を収めて一〇〇にも届かないだろうMP消費で同じ規模、寧ろ単純な威力だけなら勝る程の豪雨呪文となってしまった。
何とも頼もしい結果。
イオラ級のイオという見た目の呪文が雨霰と降り注ぐのを、砲竜も飛竜も避けるでもなく耐えるでもなく等しく喰らって死んでいく。
「マ、マジかよ?」
「凄いよユートってば!」
「やってくれるわ、団長が居なかったらティオナみたいにアマゾネスの本能が昂ったわね」
「あ、あんな大規模殲滅魔法を!?」
威力は中級に過ぎなくても魔力強度が高いからダメージ加算が大きく、ドラゴンだとはいえども弱体化していては死亡をする事は必至。
ズドォォォォォォオオオンッッ!
驚いていると自分達が落ちてきた穴から何かが再び落ちて、凄まじいまでの重低音が地響きと共に鳴り響いて思わず目を向けると……
「よぉ、生きとるかひよっこ共にユート」
其処には巨大な戦斧を肩に担ぎながらも此方を視る【重傑】ガレス・ランドロックが居た。
「って、ドラゴン共が全滅じゃと!?」
「成程、ユートが某かしたのじゃな」
「まぁね。ドラゴンにとって僕は最悪の相性ってやつなのさ」
「何とまぁ……五一階層の
手にした『カドモスの表皮』なるドロップアイテムが二枚、ディアンケヒト・ファミリアに売却をしているそれはユートの常時発動型である権能――【
「おっと、どうやら来たらしい」
「む、新種じゃな」
ロキ・ファミリアでは新種で通っているのは、芋虫っぽい巨蟲のモンスターで名前はヴィルガ。
「うぇ、五七階層への階段が~」
以前に自分の武器を溶かされたからだろうか、凄く厭そうな顔をしてヴィルガを視るティオナ
「見事に埋まってますね」
「団長の邪魔でしかないわね」
「フン、邪魔なら取り除くまでだろうが。やる事は同じだ」
レフィーヤは出入口がヴィルガで埋まってしまって困り、ティオネとベートはそんな巨蟲に対する殺意がマシマシである。
「フィン達が来るまでは凌ぐぞ、良いな?」
攻撃力重視の得物を右手で右肩に担ぎ上げて、不壊属性『ローラン』の斧を左手に持って瞑目をするガレスはロキ・ファミリア幹部に言う。
「『ヴィルガの表皮』や『ヴィルガの溶解液』、ギルドでは買い取ってくれないんだよな」
本来は斃せば当の巨蟲自身の腐食液で溶けて無くなるヴィルガだけど、ユートの権能やアイテムストレージの機能によりドロップアイテムとして入手が出来る。
「ふむ、では征くぞ!」
ガレスが音頭を取って六人が進む、階層を降って来た無数のヴィルガに向かって。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
果たしてこの階層に来てからどれくらい闘っていたろうか?
ヴィルガは新たに湧いた砲竜を襲う連中も居る中で、普通にユート達の方へと向かってくる個体も矢張り存在していた。
「ヒュゼレイド・ファラーリカ!」
ヴィルガに放たれる火の魔法、MPがどんどん削られていくレフィーヤに疲労が見て取れるが、それは溶解液を吐かれる緊張感でストレスを感じるベート達も同様。
「レフィーヤ!」
「はい?」
ユートに呼ばれたレフィーヤが素直に振り向いたのを見て……
ズッキュゥゥゥゥゥンッ!
「んんっ!?」
ディープに舌を絡めるキスをした。
「何を盛ってやがんだ!?」
忙しい中で行き成りラブコメを始めたのを視たベートがキレる。
ヌルリと唇が離れる際に唾液が絡み橋を架けており、余りの突然過ぎる感覚に真っ赤になりながらトロンと蕩けた瞳のレフィーヤ。
「未だ【閃姫】じゃないレフィーヤではエネルギータンクを使えないからな」
「っ! 精神力が回復した?」
「口移しでディバイド・エナジーを使ったんだ。戦闘中に
「それは確かに助かりましたけど、キスなんてする必要あったんですか?」
戦闘中の仲間の居る中でキスをされてしまい、レフィーヤは羞恥に晒されて長い耳まで真っ赤になっていたのだが、それでも訊くべき事は訊こうというのかユートに質問を投げ掛ける。
「普通にディバイド・エナジーをやるより口移しの方が抵抗やロスが小さいんだよ。当たり前だが仲好く無い相手や男にはやらんがね」
というより、レフィーヤとキスをしたかっただけというのが大きいかも知れない。
(レフィーヤも大分、受け容れ易くなったもんだよな。エルフの性質を初めから気にしていなかったとはいえ、だからといって身持ちは普通に堅かったからな)
この世界のエルフ族は種族全体で基本的に肌を晒すのを忌避しており、同性異性に拘わらず素肌での接触を厭う方向性にある。
然しながらレフィーヤはそういったエルフが持つ特有の性癖に染まらず、勿論ながら下手に肌を晒したりする訳では無いにせよ、異性が相手でも肌を触れて忌避したりはしていない。
キスなんて肌の触れ合い云々を差し引いてみても有り得ないが、其処はレフィーヤがユートに対してLoveの方向で好意を持っているからこそ許されたに過ぎなかった。
そうでなければひっぱたかれる以前に魔法を撃たれて処されていたであろう。
第一級冒険者【重傑】のガレス・ランドロックの力と耐久はオラリオでも一、二を争う程だからドラゴンが相手でもその超が付くくらい前衛特化型の彼ならば、尻尾をふん捕まえ振り回して他のドラゴンにぶつけるなんて離れ業も可能ではあるのだがどの道、そう何度も出来る事では無いからユートが砲竜や飛竜などを落としてくれたのは、正直に言って有り難かったらしい。
レフィーヤの魔法で腐食液を飛ばす芋虫を潰しつつ、弱ったドラゴンをヒリュテ姉妹やガレスやベートが順次斃していく。
ユートはユートで魔法を使って芋虫を屠りつつ剣で砲竜などを斬っていた。
上ではフィンを中心に、アイズやリヴェリアを攻撃の中核としてロキ・ファミリアの第二軍達がサポートをしている形で下を目指す。
LV.5の第一級冒険者たる椿・コルブランドも攻撃部隊、LV.4の二軍――【
尚、ナルヴィとクルスも第二級冒険者であるからには二つ名が在る筈だが、ユートは特に親しい訳でも無い上に大して話した事も無かったから、この二人の二つ名は知らなかったりする。
この最中に巨蟲を操る謎の黒ローブとの戦闘になったが、ラウル達の活躍もあって上手く撃退をした事は後にアリシアから聞いた。
レフィーヤだけではなくアリシアまでも? とか思うかも知れないが、元よりユートはエルフに隔意を持たないからか何時しかエルフに好かれ易くなっていたし、何より真祖樹との契約によってエルフが好むフェロモンでも出ているかの如く、故にこそリュー相手に手を繋ぐ事すら出来る。
第五八階層では芋虫が他のモンスターを襲撃しつつ、何故か更に下へ向かう階段を目指して移動をしていた。
ユートな竜系モンスターを弱体化させたのが、謂わば裏目に出てしまった形であろう。
「奴ら、モンスターを喰らっているけど強化種に成った感じはしないな」
「確かにのぉ、あれだけ喰っておれば強化されようものじゃがな……」
芋虫――ヴィルガは見る限り砲竜などを襲っては喰っているのに通常は強化種という形に所謂、進化する筈がそんな様子を微塵にも見せない。
(モンスターがモンスターを喰らうという現象、然し……ダンジョンでは本来なら有り得ないともされている。何故なら全てのモンスターとは即ちダンジョンを母とするダンジョンの子供だから)
神々の子供とされる地上のヒト種は互いに相争う事を平然とするが、ダンジョンのモンスターは普段だと決して同士討ちをしないとか。
ヴィルガは操られている上に人工的に産み出されたモンスターだから除く。
(モンスターの排除対象はヒト種の筈、それでもモンスター同士が喰らい合う背景が有るのだとすれば、例えばそのモンスターがヒト種の魂を内包していたのだとしたら?」
一度でも喰らえば箍が外れてしまうのだろう、だけど最初の一匹はヒト種の魂を内包しているならば? ユートが思い出すのは知能を持って接してきたリザードマンのモンスター。
(彼らの目的は地上に出て明るい陽の下に人間達と暮らす事。ならば知能を持つとはいえモンスターがどうしてそんな夢を持った? ダンジョンが顕れてどれだけが過ぎたか、バベルにより蓋をされてかれこれ千年が経つという。ダンジョン産のモンスターが転生して新たなモンスターに成るのは間違い無い、ならば幾千幾万もの人間が殺された
ユートがダンジョンに潜る理由の一つとなっているのが彼ら、知能を持ったモンスターに関する考察にあるとも云えた。
この世界には神々が普通に存在してあの世にしても神々の各系列で創られており、あの世を支配する神によって各々が管理運営をされている。
ハーデスも居ればアヌビスも居る、だからこそユートの創造した冥界がこの世界に干渉をする事が叶わない為、地縛霊や浮遊霊としてこの世に残る魂以外にはコンタクトも出来ない。
だから人間の魂が果たして十全に昇天しているか判らないし、故にこそ赤いリザードマンのリドという
リド達の夢や欲求は人間だった頃の『地上へ帰りたい』という、死ぬ前に抱いていた原初の記憶に他ならないのではなかろうか?
問題は仮に嘗ては人間だったのだとしても今はモンスター、地上の人間は基本的にモンスターを憎んでいる場合が多いから上手くは往くまい。
(怪物祭はその為のもの……か)
ガネーシャ・ファミリアが催す祭ではあるが、ギルドからの指令だという事もあったらしいのはアテナ――サーシャからも聞いた。
(少なくとも神の中でガネーシャは肯定的に捉えている。他にも神の協力者が居る可能性が高いけど誰だろうな?)
サーシャは気付いているみたいだけど特に協力者という感じではないし、ロキ・ファミリアとかフレイヤ・ファミリアは有り得ない。
(ヘファイストスも違う、最近までファミリアすら持たなかったヘスティアも無い。性格的にならミアハは協力しそうだけどカツカツな生活をしていた彼にそんな余裕も無い。ああ、ヘルメスなら有り得そうだよな)
色々と思惑は有りそうだが……
(ウラノスに渡りを付けるしかないか)
あのメイジが独力でやっているとは思えない、ならば神の協力者――というよりそちらが黒幕的な存在であろうが、ウラノスこそそうではないかとユートは考えていた。
「ウィン・フィンブルヴェトル!」
「む?」
第五七層に上がる階段から迸る程の冷気が吹き荒ぶ、その勢いに押されてしまって巨蟲共がこの階層に凍り浸けとなって吹っ飛ばされてくる。
「フィン達が来たみたいだな」
ユートが呟く。
「アイズさん!」
「リヴェリア!」
「団長ぉぉ~っ!」
降りてきたアイズ、リヴェリア、フィンを見てレフィーヤもティオナもティオネも嬉しそうだ。
「喜ぶのは後だ! 残存するモンスターを掃討するぞ!」
フィンからのオーダーを受けて揃った第一級冒険者による掃討戦が始まる。
殲滅力の高いリヴェリアが魔法で減らしつつ、火力のあるアイズが個別に破砕していった。
「アイズさん、大丈夫でしたか!?」
「うん、平気。皆も大丈夫そう?」
「ユートも居たし、ガレスも居たからね」
レフィーヤの質問に答えたアイズが逆に問う、それに応えたのはユートに組み付くティオナ。
LV.7に到達したガレスと、そんなガレスと更に足踏み状態なリヴェリアとフィンをオラリオ最高峰にまで押し上げたユート、この二人が居たから安心感は半端なく高かったらしい。
「それにしても、パーティは二分されてしまったが第五八階層は攻略が出来たな」
「ふん、初見じゃなけりゃどーとでもなるっつーんだよ!」
リヴェリアが辺りを見回しながら言うと胸を張ってベートが答えた。
「ユート、どうしたの?」
「いや、確か第五九階層から先は『氷河の領域』だと聞いていたんだがな。嘗て最強を誇ったとされるゼウス・ファミリアですらまともに進めなかった程の極寒……の割には階段から冷気が伝わって来ないなと思ってね」
組み付いたティオナの質問、ユートは下へ降りる階段を見つめながら訝しい表情となる。
「そうだな、ゼウス・ファミリアの誇張だったとも考え難いし……」
フィンも階段に手袋を外した素手を翳しながらユートの言葉を肯定した。
「フィン、どうする?」
「用意していた耐寒装備は無し、総員は速やかに食事と回復を。そして装備品の確認へと移れ! 半刻後に出発をするぞ」
この先は最早、誰もが……神々でさえ目撃をした事が無いであろう『未知』の領域である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
降りた第五九階層は『氷河の領域』処か蒸し暑さを感じる密林だった。
前進をすると天井にはあのモンスターの卵? ぽい、第二四階層でも見たそれが所狭しと並んでぶら下がっている。
そして開けた場所に巨蟲共が跪く兵隊の如く、自らの魔石を女王へと捧げている姿が。
「あれは『宝玉』の
「寄生したのは『
ガレスもリヴェリアも驚愕する。
「チッ、そういう事かよ。ヴィルガは初めっから強化種に成らない様に調整されていたって訳だ。そして溜め込んだ力を『宝玉』の女体型モンスターに喰わせる役割って事だな」
「拙い、つまりアレこそが強化種か!」
ユートの推察にフィンが叫んだ。
それを顕すかの如く女体型モンスターの先端が変異を始め、何とも見た目には美しい長い髪の毛を棚引かせる女性の姿を取り……
「そ、そんな……まさか!?」
アイズはその姿に目を見開いて呟く。
「アリア!」
女性はアイズを視て嬉しそうに叫んだ。
「アリア、アリア、アリアッッ!」
アイズ……では無く
上半身の見た目だけなら可成りそそる容姿をした正に絶世の美女、流石は完全たる高次元知性体の神々により生み出された存在――精霊。
だが然し、その在り方は反転している。
Fate/stay nightなどで云えばオルタナティブ化だろう、例えば美味しい料理に舌鼓を打っていた高潔な騎士王がジャンクフード大好きな憎悪にでも駆られた目をした黒騎士王に成るみたいな。
人間達に合力し、その末に敗れてモンスターに喰われ死した挙げ句の果てにこうして再利用をされている精霊を憐れんでも意味なんかは無くて、今は単純明快に一つの脅威として闘い斃してしまわねばならない存在であったと云う。
「神々の子とモンスターの融合、正しく地上に於ける可能性だけどウラヌスは喜びと哀しみのどちらの度合いが大きいかね?」
下界の可能性を見出すべく下天したウラヌス、だがその可能性の一つはまさかの“穢れた精霊”とでも呼ぶべき存在、完璧な美貌を持った女性体な上半身が“死体の王花”から不気味に迫り出して、まるで子供の様な無邪気に過ぎる瞳をキラキラとさせながらアイズをアリアと呼んでいた。
「アリア、 アリア! 会イタカッタ会イタカッタ会イタカッタ! 貴方モ一緒ニ成リマショウ」
其処に浮かぶは狂喜。
「新種のモンスター達は言ってみれば触手に過ぎなかったという訳か。女体型をあの最終形態とでも云うべき姿へ昇華させる為の!」
フィンが青褪めながら言う。
「貴方ヲ食ベサセテ?」
最早、名前すら喪われた穢れた精霊が狂喜とも無邪気とも取れる完璧な美貌から、腹を空かした餓鬼にも等しい笑みで口をパッカリと開いた。
「総員、戦闘準備だ!」
フィンは普段使いの槍と不壊属性の槍で二槍流にしながら指示を出し、アイズもデスペレートを握り締め、ティオナとティオネも同じく椿謹製な不壊属性ローランの武器を手に構えを執る。
美貌……という意味ならアイズも負けてはいないのだが、あの精霊の言葉を受け止めるなら恐らくアイズも精霊――アリアなる存在と近しい。
事実、ユートが観察をしていたら穢れた精霊の『アリア』呼びに表情を変えていた。
(精霊は神々と同じく子を成さないとは聞くが、一応はヴェルフみたいな例も存在しているしな)
或いは子を成す事に性行……成功した精霊が居てもおかしくは無い。
ヴェルフ・クロッゾ――先祖が精霊を助けた事でその生命を失い掛けた際、精霊が自らの血を飲ませる事によって生命を繋いだのだが、それにより魔剣鍛冶師の力を獲得している。
その力は子々孫々に受け継がれたけど、それに溺れたクロッゾの一族は強大なクロッゾの魔剣を鍛ち続けていき、エルフの故郷すらも焼き尽くしてしまった挙げ句の果てに魔剣鍛冶の力を喪う。
何の因果かはたまた祟りか、魔剣鍛冶を望まぬヴェルフ・クロッゾに再び力が宿っていた。
そんなヴェルフも或る意味で精霊の子、正確には初代クロッゾが精霊の子でヴェルフはその子孫という形となるのだろう。
「フフッ」
穢れた精霊は自身こそが上位存在だと云わんばかりに指示を出し、それに応えるかの如く纏めて群れにて動き始めるヴィルガ。
「フィンよ、儂も前衛に上がるぞ!」
「当然やる事ぁいつもと変わらねえ! 要するにぶっ殺す!」
ガレスとベートが駆けると同時に……
「レフィーヤ、狙いはあの女体型だ! すぐにも詠唱を始めろ! ラウル達は魔剣を使ってアイズ達の援護を!」
レフィーヤ達へ指示を飛ばす。
「わ、判りました!」
「了解っす!」
リヴェリアが雷神の剣を二軍組に渡すと自らの武器たる杖を構えた。
「リヴェリア、詠唱は待て」
「どうした?」
「親指の疼きが止まらない、何かが……そうだ……何かが来る!」
ティオナとティオネの攻撃が触手とも触腕とも取れる太い蔦で防がれる。
「重いっ!」
「どんだけ魔石を喰らったのよ!?」
二人が愚痴った。
「【火ヨ来タレ】……」
そしてフィンの懸念は当たる。
「モンスターが詠唱じゃと!?」
その不可思議に驚愕のガレス。
「リヴェリア、結界を張れ! 砲撃だ、敵の詠唱を止めろぉぉっ!」
先ずはリヴェリアへの指示、故にそれに従って九魔姫は自らの魔法を詠唱し始めた。
「【舞い踊れ大気の精よ光の主よ】」
レフィーヤが魔法を、ラウルやクルス達も手にした魔剣から篭められた力を解き放つ。
「ヒュゼレイド・ファラーリカ!」
「い、一斉射っ!」
幾条幾重にも魔法がぶつかる。
「【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ】」
然し欠片にも、爪の先程度にも穢れた精霊がには痛痒をまるっ切り与えてはいない。
その可憐な声はまるで唄うかの如く下位存在たる自意識を持たない小精霊へと指示を出してて、その精霊部分の美しい上半身は舞い踊るかの様に華麗に動いていた。
「【紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ】」
「【森の守りの手と契りを結び】……」
「【突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命】」
驚愕に打ち震えるリヴェリア、その穢れた精霊が唱えていたのは超長文詠唱だったのだ。
「【大地の歌を以て我等を包め】」
「【全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ
しかも疾い、其処まででは無い筈のリヴェリアの詠唱と明らかに互角以上の速度。
「【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ
間に合うか?
「【大いなる森光の障壁となって我等を守れ――我が名はアールヴ】!」
アイズもヒリュテ姉妹も前衛としての働きが出来ず詠唱を潰す処か近付く事すら困難、それ故にフィンは即座に見切りを付けて命令を叫んだ。
「全員、リヴェリアの結界まで下がれ!」
モンスターに堕ちても精霊は精霊。
「【ヴィア・シルヘイム】ッッ!」
「【ファイアー・ストーム】」
半球状の結界がリヴェリアを中心に展開され、仲間達が背後に回って結界の内部に退避。
逆に穢れた精霊はそのぷっくりとした形の良い唇を“う”の字を紡ぎ、両掌の上に小さく儚い輝きを灯す蝋燭の如き炎に息を吹き掛ける。
小炎は放たれて地上へと落下、地面へと辿り着いたその瞬間――轟っ! 文字通りの
地上のヒト種族が【神の恩恵】を授かってからコッチ、赦された魔法の数は基本的に一~三つまでだと定められている。
背中の【神の恩恵】に魔法スロットが存在し、それを埋める形で魔法が発現していくからだ。
魔法に秀でたエルフ族ならその三つのスロットを持つ者も当然居るだろう。
事実としてハイエルフのリヴェリア・リヨス・アールヴ、そしてレフィーヤ・ウィリディスの背には三つの魔法スロットが存在していた。
然しながらロキ・ファミリア幹部のリヴェリアと弟子であり、彼女の後釜であるとリヴェリア本人が認めるレフィーヤはその枠に囚われない。
三種の魔法に三段の位階、都合にして九つもの魔法を操るリヴェリアという規格外、そして誰が使いどんな魔法か理解していれば“召喚”という形で魔法を使える矢張り規格外なレフィーヤ。
正しく規格から外れた存在だ。
神々から与えられた二つ名には、リヴェリアが【
魔法国家たるアルテナを揺るがす二人の規格外ではあるが、そんなリヴェリアが使う結界魔法を僅かな――時間にして数秒と保たず罅割れさせる穢れた精霊の炎。
「ガレス、アイズ達を守れぇぇっ!」
驚愕しながらも叫ぶリヴェリア、それに応える様にガレスがデカい楯を前面に押し出して防御をするも、結界と同じく……正確には結界より早く破壊された楯、ガレス・ランドロックは自らの肉体を以て最後の楯と成した。
全員が吹き飛び喘ぐ。
第五九階層の森が全て消し飛び、階層その物の地形すら変えてしまった魔法に誰もが戦慄するしかない。
LV.7とはいえ成り立てでしかない最高幹部達、矢張り成り立てなLV.6のアイズ、後は未だにLV.5でしかないベートやヒリュテ姉妹や椿・コルブランドに、オマケにしか成れていないLV.4のラウルやアリシア達。
(ふむ、増援を喚ぶか?)
そして結界内に居なかったにも拘わらず無傷で佇み、腕組みをしながら穢れた精霊を見上げているユートはそんな事を考えていたのだと云う。
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