ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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「エヘヘ、ねぇ? 気持ち良い?」
「まぁ、気持ち良いかと訊かれりゃ気持ち良いと答えるしか無いんだけどな」
穢れた精霊との闘いから約七日が経過しているけど、ユートとロキ・ファミリアとヘファイスト・ファミリアの上級鍛冶師達は未だに地上には出て居らず、第一八階層の“迷宮の楽園”に於ける第一七階層への連絡口に程近い南端部の森で天幕を張ってのキャンプをしていた。
理由は第五九階層での闘いの後の地上への帰還真っ只中、劇毒とさえ云われている猛毒を吐いてくる“
離脱こそ出来たものの、“対異常H”以下にて、この毒を浴びた者達は軒並み倒れてしまう。
ユートは発展アビリティ“対異常”こそ持ち合わせていないが、ハルケギニア時代に水の精霊神との契約をして以降は基本的にその手のデバフは受け付けなくなっていた。
とはいえ、アルコールも弾くから酒の味こそ判るけど酔えないのが困りもの。
「ティ、ティオナさん!」
「何? レフィーヤ」
「な、な、何をしてるんですか!」
「何って、ユートの
岩場に腰掛けているユートの下半身に於いて、凄まじいまで自己主張をしている部位をティオナの褐色肌な手が、その全体を揉みしだいたり撫で回したりとマッサージをしている。
レフィーヤはそれを見咎めて叫ぶけど暖簾に腕押し、全く以て効果が無い上に周りもティオネは兎も角として、ロキ・ファミリアの女性陣は顔を紅く染めて視ているばかり。
ヘファイストス・ファミリアの椿・コルブランドは慣れているのか、或いは感性として特に何とも思わないのか? 平然と視ている。
「ってか、何で僕は女性陣と仲良く沐浴をしているんだろうな?」
「今更ですか!?」
「レフィーヤ、良いツッコミだ」
「嗚呼! もう!」
綺麗な髪の毛をワシャワシャと掻き乱しながら叫ぶレフィーヤ。
抑々の始まりは第一八階層に着いて天幕を張ったり治療したりと、忙しく動き回るロキ・ファミリアのメンバーを手伝っていて汗も掻いたという事で、近場に在る湖で沐浴をしようという話になったまでは良かったのだけど、其処でティオナが『ユートも一緒に入ろうよ』と引っ張ったのだ。
勿論、他者に触れさせるのは疎か肌を見せるのも厭うエルフのアリシア、好きな男が居るというリーネは大反対をしたものだったが、悪戯好きなエルフィは賛成派に回り、アイズも特に反対をしなかった上に団長LOVEなティオネも視るくらい好きにすれば良いと反対せず、結局は引っ張られるが侭に沐浴をする事になっていた。
レフィーヤは一応だけど反対派だったのだが、何しろティオナとの情事を視た事があっただけに忌避感は余り無く、寧ろユートの裸を『見たい』とか私の肢体を『見て欲しい』なんて欲求すらを持て余しているくらい。
原典ではアイズの肢体を良い視点で見つめて、椿から『神ロキの同類』呼ばわりされていたけど此方側では、エルフらしからぬ思考に頭を埋め尽くされている様だ。
実際、真っ赤に成りながらユートの硬い部位をチラチラと視ているし、実はティオナがちょっとばかり羨ましいとすら思っている。
ティオナがアマゾネスらしい思考で雄を求めているのは解るし、天真爛漫な性格と相俟って割と背徳感が溢れるのは胸が絶壁だからか?
尚、ティオネも強い雄という事で認めているからか
無論、御触りは赦さないけど。
エルフィはレフィーヤと同室の少女で、仲の良い彼女が懸想をしている男に興味津々だったからこそ、恥ずかしいという思いを押し殺してまでもティオナの発言を支持した。
そして思った事――『ナニあれ? あんなのが入ったらレフィーヤが壊れちゃう!』だったり、『私も壊れちゃうな』だったりする。
当然ながら後者は冗談混じりに。
抑々が他派閥であり本来ならば色恋に走るのも禁じられる事、ティオナの一件はユートのスキルの検証の為だったのとアマゾネスという人種だったから、つまりはちょっと違う派閥の雄に目を向けても目立たない種族な為だった。
これでレフィーヤだったりしたら目立つ事この上ないのだろうが、今やそんな彼女も普通にヤっていそうな雰囲気を醸し出している。
雰囲気だけは……だが。
ユートがロキ・ファミリアに移籍すれば或いはとも考えられる……か? ロキの性格からして難しそうだけど、移籍そのものが実際には現実的では無いのをエルフィは知っていた。
“アテナの聖闘士”という言葉が在る。
この迷宮都市が存在している世界に於いては、デメテル・ファミリアの眷族が“ペルセフォネ”と呼ばれているみたいなもので、アテナの眷族であるユートは“アテナの聖闘士”と名乗っていた。
とはいえ、天界に居た頃からサーシャは自分には“聖闘士”という子供が存在する……と、ずっと言い続けていて当たり前だが地上に行った事も無い筈の彼女を信じる神は、神友で嘗ての世界観では天帝ゼウスの姉で伯母に当たるヘスティアと、同じく自身の子を孕んだメティスを喰らった父親に当たるゼウスくらい。
この世界では似て非なる故に違いも多く在り、ヘスティアは伯母では無いしゼウスとて父親では無く、デメテルにペルセフォネなる娘は存在すらしていない。
この世界のペルセフォネはデメテルの眷族の事を指しており、つまりは
神友のヘファイストスですら肯定はしてくれても信じていなかった、自らを“アテナの聖闘士”だと名乗るユートが現れるまでは。
扨置き、ユートはアテナ・ファミリアの眷族で敵対関係では無いものの他派閥なのは違いない、レフィーヤがユートにどんな想いを抱いているのか判らないでもないけど、ティオナの時みたいに
簡単に関係を持ったりは叶わないであろう。
まぁ、エルフィからしたらレフィーヤのソレを見ているだけでも愉しいから構わないのだ。
取り敢えず、レフィーヤの視線がアイズへ向かうよりユートの硬い部位に向くのは間違っているだろうか? 何だか白濁として粘り気の強い液体が放たれてビチャッとレフィーヤの顔を汚したりしていたけど……
尚、流石に気絶したのでリーネとアナキティが支えて湖から連れ出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「この小さなのがアノ穢れた精霊だった者……という事か?」
リアス・グレモリーを思わせる紅く輝く髪の毛を持ち、その瞳も紅玉と見紛う程の紅色をしている約三〇cmの小さな少女――ルベライトと名付けられた精霊である。
愛称はルビー。
その主な属性は火、だけど本来は火の精霊だったであろう彼女はモンスターに喰われた後に混ざりに混ざって、他の属性もある程度には扱えてしまうらしい。
記憶も嘗ての英雄を補佐していた頃の思い出は最早皆無で、穢れた精霊――“
「フィンからしたら危険な存在と映るのかな? 僕から見ればもう危険性は無いと思うがね」
「……モンスターだった存在、しかも本体からは切り離されたとはいえ遂七日前までは命懸けでの死闘を繰り広げた相手だからね」
「反転していた属性は再反転させた。僕の念能力の一種である“
「念能力とは?」
「魔力とは異なるエネルギーの氣力、その亜種だと思えば正解だけど……君らには氣力の事も説明しないとならないか」
最高幹部の三人も他の幹部も頷く。
「魔法を扱う魔力は理解してるな? ガレスみたいに魔法を扱えない者でも」
「勿論じゃ」
「氣力とは生命エネルギーを根元とする。つまり魔法を使い過ぎれば精神枯渇で気絶をするけど、氣力を使い過ぎたら普通に死ぬと思ってくれ」
『『『『っ!』』』』
その場の全員がハッとなり目を見開いた。
尚、今この場には毒妖蛆の劇毒を消す特効薬を買い占めに走るベートは居らず、三人の最高幹部とアイズ、ティオネ、ティオナの第一級冒険者とユートのみである。
因みに、その気になればユートが毒妖蛆の毒を消すのは解毒呪文を二重に使えば可能であるし、素材を消費して解毒剤を錬金術で調合する事なども出来なくは無いが、所詮は他派閥だから下手に甘えるのは良くないとフィン達は協力を断った。
まぁ、手間だし素材も居るしとユートにしたって態々やりたい訳でも無い、当たり前だがユートも“治療まっすぃーん”になんぞ決して成りたくも無いのだから。
ガレス曰わく――『不壊武器に魔剣が三〇以上でトドメに特効薬の買い占め、鍛冶大派閥に武器素材も譲らんといかんし、こりゃファミリアは暫く火の車かのう』だとか。
オマケにユートから“雷神の剣”も購入しているとなれば、正しくロキ・ファミリアの財政状況は火の車であろう。
「生命力か、なら妄りに教えてくれとはちょっと言えないな」
アイズが身を乗り出しているのをフィンが牽制するかの様に呟く。
「取り敢えず、ガオファイガーへのファイナルフュージョンである“
「へぇ?」
「念能力には基礎に“纏”と“絶”と“練”と“発”っていう四大行が在り、他にも応用技が幾つか存在しているんだが……四大行の内の“発”以外を確りと修めたら、最終的には“発”――アイズで云う処の“リル・ラファーガ”みたいな必殺技を身に付けるって寸法だ。当然、僕の“勇者王新生”は“発”に該当している」
「ふむ……」
ある程度は構うまいと話すユート。
「そして“発”には六性図、属性の相性ってのが在るんだが……それによって覚えられる念能力は変わってくるんだ。例えばアイズが仮に念能力を得た場合は強化系だろうな。魔法ですら付与魔法である“エアリアル”なんだしね」
「聴くに、某かを強化する能力かい?」
「正解。肉体や武器や防具といった主に身に着けるなり自身の肉体なりを強化する。単純明快なだけに実は一番癖が無いし強さの値も計り易い」
アイズのエアリアルも自身に付与するのが一番に相性が良い使い方だ。
「六性図というからには六系統が存在していて、六角形を形成してそれぞれの角に系統を当て填める訳だけどね、強化系を一番上の角に持ってきた場合はこうなる」
地面に六角形を書いて六系統を
「系統は六性図で離れている程に修得が難しくなってきる。さっきのアイズが強化系だった場合の喩え話なら両隣の変化系と放出系は八〇%の威力や精度や修得率、更に離れた具現化と操作系なら六〇%、特質系は名前からして特殊な系統だと判るだろうが……コイツは〇%か一〇〇%になる。通常なら一番離れた場合は四〇%だけどな」
ティオナは早くに理解を諦めている、ティオネもちょっと付いて来れてない、アイズは何とか喰らい付くも頭から煙を上げていた。
アイズも勉強は苦手なのだ。
「で、君は?」
「具現化系寄りの特質系。二次創作あるあるな感じの『ぼくがかんがえたさいきょうのねんのうりょく』って感じだが、そうなっているのもきちんとした理念に基づくからな~」
特質系というだけでもそうだが、ユートの場合だと正しく二次創作主人公万歳な能力。
「六性図に関しても絶対じゃないって証左になるんだが、僕は具現化系を一二〇%としてその他を一〇〇%とする特質系。それと念能力には覚えられる技能に容量制限が在り、容量を越えてしまうと能力は発現しない処かパンクして使えなくなってしまうかもな」
これを某・道化師は『
ユートが明らかに普通なら容量超過していそうな念能力を扱えるのは、通常転生に加え度重なる疑似転生により魂の格が向上していたから。
記憶の有る無しに拘わらず、転生をしている者はその生に於いて大幅な強化が成されている為、端からは天才だ麒麟児だ化け物だと持て囃したり蔑んだりする。
勿論だがそういう傾向が有るというだけに過ぎないので、血筋や努力やその他諸々に要因が多分に存在はしているが……
ユートの場合は大体が魂の格の向上が原因で、普通の平均的な容量持ちの念能力者の容量が大体で一〇〇ギガバイトだったとして、ユートの場合は一〇〇テラバイトでもおかしくないであろう。
尚、ユート・スプリングフィールドな前世より柾木優斗な今生の方が当然容量は上だ。
念能力について大体の事を話したユートは取り敢えず、主に心の埋へ黒い炎を宿す程に力を渇望しているアイズに向かって口を開く。
「アイズ、念能力では無いけど似て非なる力には興味が有るかな?」
「……似て非なる?」
「これはアイズだけじゃ無い、フィンやガレスやリヴェリアでさえ可能な事だ」
精霊剣士だけで無く槍騎士、斧戦士、魔導士と様々な職業でやれるパワーアップ法。
まぁ、この世界に職業だの天職だのシステムは存在していないけど、何処ぞのVRーMMORPGでのとあるプレイヤーみたいに『気持ち的にナイトやってます』な感じだろうか?
「どうするの?」
「アイズは魔法……エアリアルを使っているから多分だけど解り易いと思うんだが、魔法では無く魔力その物を放出は出来るか?」
「魔力その物?」
「こんな感じに」
ユートはまるで【ドラゴンボール】みたいな氣を放出するみたいな形で、炎が勢い良く噴き出すといった風情で魔力を放出して見せる。
「……やった事無い」
「ちょっと初めてでは難しいか」
この世界の人間は千年前の英雄達はどうなのか伺い知れ無いが、少なくとも神時代と呼ばれている現代では背中の“
主神より恩恵を与えられ、モンスターを斃して
魔法は背中の恩恵に魔法スロットが有ったならば発現もするが、無ければ魔法は絶対に発現しないから諦めるより他に無い。
但し、質の良い魔法王国アルテナの
だけど考えてみよう。
抑々にして魔法を発現させて魔法を使うという動作をしないと魔力の値はI0評価を変えられない訳だが、魔法が発現してI0で撃ったとしてもダメージは普通に入るのだ。
ならば魔力I0とはいったい? という話になってくるが、エルフみたいな先天的な魔法使いも存在しながらも彼ら彼女らもまた魔力I0評価、最初はそれがステイタスの通常数値である。
つまり元々の能力は数値に反映されていないだけで+されるし、魔力値も恩恵を与えられた時点で実は潜在的には持っているという事。
それはそうだ。
喩えばガレスみたいな力自慢で丈夫な事この上ないドワーフ、彼もロキから恩恵を与えられた時には力の評価はI0だった。
だからといってガレスがパワーダウンしている訳では無く、外に出るゴブリンすら斃せなかったヒューマンでさえ恩恵を得ればダンジョン内でのゴブリンやコボルとを斃せる訳で、つまり恩恵を得れば数値とは別に潜在的には一段階は強く成っているという事。
誤解を覚悟で極論すれば、能力値の評価というのは確かに数値が=で強さに直結をしているが、
実際の数値は潜在的に持つ本来の能力と能力値を合算して初めて成り立つ。
生命力たるHP、精神力たるMPは特に表示されていないのもそれを確定させていた。
だからこそ管理も難しくて、
早い話が、魔力値そのものは魔法を扱えない筈のガレスにもどのなの程度かは兎も角としても、実は存在しているのに魔法を使えない……使わないから評価も能力値も伸びていないだけだ。
若し本当に能力値が0なら魔導書で魔法が発現してもダメージが出ない。
それが無いからにはそういう事である。
「アイズ、君の身体を使わせて貰えるか?」
「……え、それはちょっと」
何をするかは判らないが、自分の身体を他人に預けたいとは確かに思わないだろう。
「あ、それってアイズじゃないと駄目なヤツ? 私なら構わないんだけどさ」
「ティオナでも構わない」
「んじゃ、ちゃちゃっとやっちゃお」
ニカッとまるでおバカみたいな笑顔を向けて来るティオナに、ユートも苦笑いを浮かべながら互いに立ち上がって正面から向かい合う。
「始めるぞ」
「了解」
ユートは両手で素早く印を切った。
「心転身の術!」
ユートが行った【NARUTO】の世界、その中に山中一族の少女たる山中イノが存在する。
彼女やその一族に伝承される秘伝忍術が今回でユートが使用したモノ、視ればだいたい理解してしまえる魔眼なだけに秘伝忍術といえど模倣してしまい、当然ながら山中イノからは可成り怒鳴り散らされてしまった。
それは兎も角、精神を放出して相手の肉体へと憑依するこの忍術を使えば大概、普通に乗っ取ってしまえるけど弱点も幾つか在る。
二重なり多重人格には通じない。
つまり、優雅や瑠韻を内包しているユートには通用しない……と言いたいが、優雅は眠っている状態で瑠韻は未だ誕生していない頃だった。
実はそれでも通用しなかったのだが、その際に山中イノは何だか赤くて恐ろしい某かに追い出されたのだと供述している。
失敗すれば暫く意識が体外で浮遊する羽目に陥る為に危険で、肉体がお留守に成るから護衛無しで使うのはリスキーだという事も。
ティオナには効いたらしく、既に彼女の意識は追いやられてユートが動かしていた。
『うわ、何これ!?』
「今のティオナの肉体は僕に主導権があるから、君は指の一本すら動かせはしないだろう」
『う、うん』
ユートの意志に従ってティオナの右手がグッパグッパと閉じたり開いたりする。
「そろそろ始めたらどうよ?」
『『『『っ!?』』』』
ユートは普通に起きていた。
「おっと、俺は優斗じゃねーよ」
「そうみたいだね。君の一人称が『僕』では無い上に話し方も別人みたいだ」
「俺は優雅、優斗ん中に存在する人格の一つさ。とは言っても普段は眠っているだけだがよ」
フィンはすぐに優雅がユートとは別人であると気付いたらしい。
「それじゃ始める。ティオナ、今から僕がやる事を感覚で覚える様にしろよ」
『え、うん。判ったよ』
ティオナの中に居るユートはグッと腰を落として中腰に、両の腕を曲げて腰に据えると全身へとまるで力を行き渡らせるかの様に魔力を練る。
氣力とは使うべき路が違うだけで実際に遣るべき事は変わらない、ユートは自分の肉体で実演をした時と同じ様に魔力を全身から迸らせた。
シュンシュンシュンシュンッ! 炎が揺蕩うが如く揺らめきつつも魔力は全身を包む。
「よし、上手くやれたな。とはいっても矢っ張りというべきか、魔力を通すべき路が可成り塞がっていたみたいで調律に時間が掛かったけど」
チャクラにせよオーラにせよ、氣力は氣力で路を以て生き物の全身を巡っているものだ。
それは魔力も霊力も変わりない。
然るべき路を通して全身を巡らせるのが必要、それが経絡より吐き出され端からは噴き出して見えている。
「魔力をオーラの代わりにする……“纏”」
ピタリ……と勢い良く魔力が噴き出しているのが停止をして、“纏”の言葉の通りにまるで全身へと纏わせるかの如く動きも止まった。
「術式を介し魔法として変換をする前段階となる純魔力、それを使っての身体強化をする訳だけど当然ながら無理に噴き出したら自らを傷付けるのがオチだ。故に無理無くゆっくりで良いから肉体に馴染ませる様に魔力を全身に巡らせて纏う」
『何となくだけど解る気がする』
魔力を溶かしたプラスチックでも溶かした金属でも良いから喩えると、魔法とは金型みたいな物を喩えれば解り易い事だろう。
金型という術式に当て填める事で形を定義し、それを金型から外す事により魔法は造型となる。
だけどそれは多少の変化は付けられても金型を逸脱したりは出来ないとも云えた。
ユートが教えたのは念能力の定義を基型とした純魔力の運用法、オーラでは無く魔力を使っての念能力だと思えば理解も叶う。
念能力を識っていれば……だけど。
魔力式念能力は術式という金型を用意し造型を行うのでは無く、溶けた金属を自由形で固めた物を自分の形式で形作っていく行為に等しい。
容量として造り出せる数には限りが有る上に、下手くそな事をすれば誰からも見向きされやしないオンボロが出来上がるが、自分自身のインスピレーションの侭に形を決められる自由度が高い。
オーラでは無く魔力であるが故に本来の念能力とは似て非なるモノになるが、実際に前世に於いても【魔法少女リリカルなのは】の世界で過去や空白期などで、主要人物達に同じ鍛練をやらせて明らかに原典よりパワーアップさせている。
これはもっと過去、【ハイスクールD×D】の世界や【魔法先生ネギま!】な世界観でもやらせていたし、必ずしもオーラである必要性は無いのだと鍛練方法としては割と秀逸に思ったものだ。
「次は魔力を体内へ完全に閉じ込める“絶”だね、これをすれば発展アビリティの“精癒”が無くても徐々に精神力が回復するし、モンスターが魔力を目当てに此方を捜している場合も隠れる事に適した技術。だけど普段でも垂れ流している魔力での防御さえ出来なくなるから、敵からの攻撃を受けたら致命傷を負うリスクも有るんだ」
これはオーラでも同じ事が云える訳だけれど、この世界では謂わば魔力がオーラの代わり。
オーラは持たない――調べたら肉体的な戦闘が重視な筈のティオナでさえも精孔が殆んど閉じていた――代わりに、この世界では魔力が同じ効果を果たしているのだと見た。
「で、通常以上の魔力を生み出す“練”」
これをやると擬似的な【ドラゴンボール】とかが出来る、実際に孫悟空が界王拳でも使っているか超化でもしたみたいに迸る魔力。
矢張りというか、リヴェリアがこれには目を見開きながら驚愕の表情となっていた。
純粋な魔導士なだけにこの技術は目を見張るものが有ったのだろう。
「最終的に魔力を自分なりの形にするのが四大行の最後で“発”だね」
だからティオナの身体ではやれない。
「僕のは余り参考にならない。僕の場合は魔力じゃなく普通にオーラで“発”をしているから」
飽く迄も似て非なる力なのだ。
『そうなんだ……』
「若しティオナが上手く魔力で念能力擬きを出来る様になれば、背中の恩恵にスキルとして発現をするかも知れないな」
『そうなの?』
「サーシャから聞いたんだが、恩恵に発現をする魔法やスキルってのは多分に個人のあれやこれやが関わってくるらしい。特にスキルは当人さえも知らない遺伝性の病すら引き出すマイナスな部分も出るんだとか。事実、魔法の詠唱にもそういった個性が出るそうだしな。アイズのエアリアルにしても血筋による魔法なんだろう」
アイズが目を見開いた。
ティオナから離脱して本体に戻ったユートは、更にアイズを見遣りながら説明を続ける。
「あの赤毛や穢れた精霊だったルビーがアイズを『アリア』と呼んでいた。恐らくアリアというのは風に属する精霊で……アイズの母親だろう」
肩を震わせるアイズに、フィンとリヴェリアとガレスは瞑目をしつつも否定はしない。
「精霊アリア……私が知ってるのは迷宮神聖譚に詠われる英雄アルバートに寄り添った大精霊なんだけど、そんなアリアが実は子供を作っていたってのが判んない。だって精霊は神様と同じ子供は産めない筈だもん」
解放されたティオナは座り込みながら自身が知る物語から話す。
「余りそういうのを暴くのは良くないんだろう、だけど赤毛やルビーの発言からティオナ達だって既に疑念を抱いていた。ならば取り敢えずそこら辺だけは答えて貰えないか?」
「……ああ、その通りだ。アイズは精霊の血を受け継いでいる」
観念したのかリヴェリアが言う。
「本来であれば血に
確かに他者との相違など誰かに吹聴したい事では決してあるまい、リヴェリアとしても話さずに済ませられるのならば……と考えていた。
「ごめん……なさい……」
「アイズが謝る必要なんて無いよ!」
「そうよ、
アイズの諦念にも似た謝罪だったが、そんなものは要らないとティオナもティオネも明るい笑顔を見せて言った。
「うん?」
「ユート、どうしたの?」
「この階層の入口で幾つか気配が……これは……ベルとラブレスとリリとヴェルフ……と何でこの二人も居る? それから知らない気配が幾つか混じっているみたいだな」
「気配? それにベルって確かアルゴノゥト君の事だったよね!」
パッと顔を上げたティオナがベルという名前に反応を示す。
「へぇ、LV.2にランクアップしたのは聞いていたけど……来たのね。本当、中々に血を沸かせてくれるじゃない」
ティオネも三つ編みお下げをファサリと掻き上げながらニヤリと笑った。
「ベルが……」
他派閥とはいえ愛弟子、アイズもちょっと嬉しそうに小さく微笑みを浮かべている。
「少し迎えに行ってくる」
ユートは返事も待たずに天幕の外へと駆け出すと気配の許へと急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第一八階層の連絡口にベル・クラネルが率いているパーティ+αと、背中に事切れていると思われる少女を背負った黒髪の大男が率いているらしきパーティという大所帯が辿り着く。
「漸く着きましたね、第一八階層に」
「まったく、本来ならこんな場所まで来る予定では無かったんですが。ユートさんに怒られたらどうしてくれるのですか?」
「う、ごめんなさい」
困った表情でラブレスが言うと、ベルも矢張り困った表情となって謝る。
「大丈夫だ。手土産も持って来たしな」
「ウーンと、あれを手土産と呼んでも良いものなのでしょうか?」
まるで双子の如くよく似た二人、姉らしき方が自信満々な反面で妹らしきは苦笑い。
視線は大男の方へ向くが勿論、こんなむさ苦しいだけの筋肉質な大男が手土産では無かった。
「それにしても、ゴライアスが未だ再湧出していなくて助かりましたね」
小人族の少女リリが安堵の表情で嘆きの大壁が在る第一七階層への階段を見詰める。
「そうだな、リリすけ」
赤毛の鍛冶師ヴェルフが同意した。
「居たら居たで斃せば済む話ですよ。私ならソロでも斃せなくはありませんでしたし、何よりこの御二方が居ます」
ラブレスが見るのは双子の姉妹みたいな二人、だけど実は双子では無いと明言している。
「そうだな。オレも独力でいけた」
「ボクは……どうでしょう?」
妹らしきは頬を掻きながら苦笑い。
「久しいな二人共」
「お、ユート」
「ユートさん!」
双子っぽい少女の二人が何処か嬉しそうにしながらユートの名を呼ぶ。
「何で君らがこの世界に?」
「先頃、ユートさんは念能力の“勇者王新生”を使われましたよね? 結果、命さんを通じて祐希さんにも伝わりました。捜していたボク達ですが、一番近かったので」
「そういう事か、キャロルとエルフナインが捜しに来てくれたのか」
双子っぽい少女――キャロル・マールス・ディーンハイムとエルフナイン、でも双子では無いというのはエルフナインがキャロルのクローンとして誕生したから、意味合いとしては寧ろ姉妹というよりキャロルを母体とした娘だろう。
出来の良いホムンクルスを自らの肉体としていた訳だが、造る過程でどうしても出来損ないみたいな個体も生まれてしまう為、“廃棄ナンバー11号”として名前も付けられていた。
エルフはドイツ語で11を意味し、ナインというのは同じくドイツ語で否定を意味している。
即ち、
あんまりな名前ではあるが、当時のキャロルではそれも仕方が無かったのかも知れない。
尚、キャロルもエルフナインも肉体はユートが創り直したモノである為に、既に寿命など諸問題を抱えてはいない。
どうでも良いけど、キャロルもエルフナインも望んで女性体に成っているから【閃姫】と成ってユートに侍ている
「然しそうか、【閃姫】招喚をするのが正解だったかも知れないな」
そうすればユーキ辺りなら座標を獲得するくらい容易かっただろうし。
「おい!」
少女を負んぶしていた大男が叫ぶ。
「お前が死人を生き返らせるレアスキルを持った奴なのか!?」
そんなことをがなる大男を無視。
「あの不躾なのは?」
「タケミカヅチ・ファミリアとかいう組織の頭、負ぶってる死体はファミリアの仲間だとさ」
余り興味無さそうな表情でキャロルが言うと、事情をよく知るエルフナインが苦笑いに。
「タケミカヅチ・ファミリア……ね。サーシャの神友の一柱だったな。極東の武神の眷族の割には行儀が悪いんだな」
「うっ!?」
極東は日本にも通じる国家の筈、タケミカヅチという武神も日本の天津神が一柱だから神の名前からしても間違い無い、そして武神とは荒々しくて無作法な益荒男を容易く想像しがちだろうが、日本の武術は礼に始まり礼に終わるとまで云われており、日本神話の建御雷神自体がどうだったかまで窺い知れないけれど、少なくともサーシャが神友とする神タケミカヅチが無礼者と思えない。
「我がファミリアの長が御無礼仕りました」
片膝を付いて恭しい礼をしてくるのは見た目的にちょっと好みな少女、艶やかな黒髪を真ん中で分けて右側へサイドテールに結わい付けており、首回りを守る赤い防具に繋ぐ形で左肩に肩当てを装備して、死んでいる少女と同じ薄い菫色の着物を戦闘衣としている。
「私はタケミカヅチ・ファミリアの一員でありますヤマト・命、此方はタケミカヅチ・ファミリアの団長でカシマ・桜花と申します」
「カシマ?」
「……? あの、何か?」
「ああ……いや、何でも無い」
思い出したのはシード・カシマ、名前からしてJAPANに源流が有ると思われる【闘神都市】が存在する世界で、大会に敗れてしまいまんまと彼女をユートに奪われてしまった少年でもある。
尚、奪われた彼女であった瑞原葉月は今でも【閃姫】の一人として生きていたり。
「それで?」
「桜花殿が背負っているのがヒタチ・千草殿と云いまして、見ての通り我々の力不足から逝ってしまわれました。そんな折り……その……御二方にモンスターを擦り付けようとしまして……」
「大方、キャロルがヘルメス・トリスメギストス辺りで防壁を張って大ピンチにでもなったか? なったんだな……可哀想に」
ぷいとそっぽを向くキャロル。
「キャロル、エルフナイン」
「何だ?」
「はい?」
「僕は『人間蘇生まっすぃーん』に成る心算なんか更々無いって知ってるよな?」
「勿論、知っているともさ。オレ達がこうやって優斗の【閃姫】なのもそれが理由だしな」
顔を赤らめている辺りが嫌々では無いという事になるが、当然ながらユートは二人にも願い事を叶えるのに必要となる対価を支払わせている。
まぁ、錬金術師な彼女達は納得ずく。
とあるキャロルの切なる願いをキャロル自身とエルフナインが、自らの身を差し出す事によって叶えて貰ったという訳だ。
ホムンクルスの肉体をユートに創り換えて貰って普通に女性体、無性だった頃も何も言わなければ女の子にしか見えなかっただけに、何ら違和感も無く充分に受け容れが可能だった。
「なら、僕が蘇生をするならバカでかい対価が要るのも判っているだろ?」
「そうだな。この世界の貨幣価値は判らぬ。幾らくらいを考えてるんだ?」
「一〇億ヴァリス」
それは、ヘスティア・ファミリアやタケミカヅチ・ファミリアみたいな貧乏ファミリアにとってみれば、呻いてしまったり目を見開いてしまう程には見た事も無い大金であったと云う。
.
次回はキャロル達がダンジョンに来てタケミカヅチ・ファミリアやベル達との邂逅の回想に。