ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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 第50話のアレンとの戦闘で魔法を使わせるといった程度に書き足しました。





第62話:奇跡の殺戮者が奇跡を提示するのは間違っているだろうか

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 その余りの額にベル――ヘスティア・ファミリアとタケミカヅチ・ファミリアは茫然自失。

 

 ロキ・ファミリアでさえ一〇人も蘇生させたらファミリアは火の車、少なくとも現時点でソレである彼らにも支払い能力は低いだろう。

 

「ふ、巫山戯るな!」

 

 堪らず叫ぶ大男。

 

「じゅ、一〇億ヴァリスだと? 俺達のファミリアが何十年ダンジョンに潜らず生活が出来ると思っていやがる!?」

 

「慎ましやかに生きれば数人でも生涯を暮らせるんじゃないか?」

 

「そんな大金なぞ誰が支払うか!」

 

「はぁ? まさか値切る以前に無償奉仕しろとか巫山戯てんのはお前だろう、冗談は顔だけにしろって話だな」

 

「なっ!」

 

 まるで不細工な人間でも視るかの如く……よりも酷く、ユートはカシマ・桜花と呼ばれた大男をGでも視た表情で睨んだ。

 

「桜花殿は黙っていて下さい!」

 

「し、然し命! 一〇億ヴァリスなんて支払える訳が無いだろう?」

 

 言外に自分達が貧乏ファミリアだと言っている訳だが、だからといって『支払うか!』なんて叫ぶなどマイナス査定は必至である。

 

「確かに一〇億ヴァリスなんで私達のファミリアでは支払えませんが、キャロル殿が態々連れて来られたのならば手段は有る筈です! 仮に手段が余り言葉に出せないモノだとしても!」

 

 顔が赤いのはカシマ・桜花に対して怒っているから……のみでは無く、余り言葉に出せないモノの意味を自らが考えてしまったから。

 

 ヤマト・命は花も恥じらう乙女であり処女でもあるが故に、ユートの目の前で命じられるが侭に両脚をM字に開いて大事な部位を晒しながらも、両手で真っ赤になった顔を隠しているあられもない姿を思い切り考えてしまったのである。

 

 それはもう、御股がジュンとなるくらい恥ずかしい妄想であったと云う。

 

 ちょっとだけ湿ったのは内緒だ。

 

「まぁ、確かに蘇生するに当たって報酬はお金とは別なモンで支払って貰う事はあるがな」

 

「それでは!」

 

「サーシャの神友たる神タケミカヅチの眷族でもあるからには多少、融通を利かすくらいはしても良かったんだよな……その男の態度が悪くなければの話だけどさ」

 

「うっ!」

 

 ユートも人間だし機嫌次第な処もある訳だが、カシマ・桜花とやらはすっかりユートの御機嫌を損ねたらしくて、それを指摘されたヤマト・命も思わず息を呑んでしまう。

 

 そして恨みがましい目でカシマ・桜花を睨むと流石に拙いと思ったらしく、ジャンピング土下座でユートへの謝罪を敢行してきた。

 

「申し訳無い!」

 

 ユートの識る由も無い原典に於いては謝らないて言い張っていたカシマ・桜花、然しながら仲間の一人にして唯一のランクアップ者……詰まりは副団長と呼んで差し支え無いのが彼女。

 

 団長とはいえ無視も出来ない。

 

「取り敢えず、キャロルはどういう意図で此奴らを連れて来たんだ?」

 

「それはだな」

 

 キャロルは遠い目をしながら語る。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 砂沙美が暴れては地球が困る、それが故に嘗ては【準閃姫】ながらも今や誰憚る事も無い押しも押されぬ【閃姫】の長なユーキは、仲間と云える【閃姫】達を殆んど総動員して探索に乗り出す。

 

 一応、前世ではその世界の“世界神”謹製というスマートフォンで連絡を試みたのだったけれど、急な事過ぎてそこら辺がおざなりにされてしまっていたらしく、何とスマホはユートの部屋に置き去り状態であったと云う。

 

 失せモノ捜しに役立つ“導越の羅針盤”に関してはユートが所持をしていて、ミレディとメイルとリューティリスの三人では新たに造るというのもちょっと不可能だった。

 

 ユートが居ればオスカーやナイズやヴァンドゥルやラウスも喚べるが、そのユート本人を捜したいアイテムを造るのが主旨では意味が無い。

 

 という事で、ユーキはゲートを用いて殆んど全ての【閃姫】を動員して捜しに行かせた。

 

 勿論、行かせていない者も居る。

 

 戦闘能力が皆無から殆んど持たない者達、喩えば【ゼロの使い魔】のカトレア、喩えば【マリーのアトリエ】に於けるシア――は闘えるけど――やフレア、【天地無用! 魎皇鬼】では砂沙美を向かわせるのを拙いと判断して彼女も行かせなかったし、 阿重霞が実は懐妊を確認されていたから行かせるなんてとんでもないと御兄様や御義母様や御義父様に止められた。

 

 阿重霞も流石に数百発では足りないくらいにヤりまくって、漸く授かった子供なだけに仕方が無いと諦めて留守番している。

 

 尚、男の子なら優砂(ユーザ)と名付ける予定で、女の子ならば阿瑠慧(あるえ)とする予定だ。

 

 それは兎も角、最初は謂わば原典組合――【戦姫絶唱シンフォギア】組とか【ゼロの使い魔】組とか――みたいな形でゲートを抜けたのだけど、キャロルはすぐにも仲間に提案を出した。

 

「人海戦術で捜そうってのに纏まって動いていたら意味が有るまい?」

 

「ふむ、それはそうだな」

 

 頷いたのは誰であろう、サンジェルマン。

 

 原典では消滅してしまったけど、此方側に於いては消滅したのは撃った某国大統領である。

 

 敵側だったとはいえきちんと話せる美女を死なせる心算は無かったし、数百年の人生の中で普通に男との経験も無い様だったから【閃姫】契約に何ら支障も無かった。

 

「それで、どう分ける心算な訳だ?」

 

「そんなもん、オレとエルフナイン。サンジェルマンとお前らの三人、響達はそれぞれに二人組を作れば問題もあるまいよ」

 

 サンジェルマンの仲間だった二人、プレラーティとカリオストロも原典では消滅していたけれどサンジェルマンが生きているからには、この二人も当然ながら普通に生きていた。

 

 実はこの二人はサンジェルマンとは異なって、嘗ては虚飾と快楽に耽るとか嘘に塗れた詐欺師だったりな“男”だったが、サンジェルマンとの出逢いにより人として完全な肉体――女性と成ってからはそれを改めたらしい。

 

 元男だとはいえ数百年も前の事ではあったし、ユートは前の姿を知らない上、基本的に元男ならTS転生者なレンや可愛らしい服を着たいからと女物な服を着ていたギャスパー、更には任務として女装をさせられていた黒羽文弥を【千貌】の力で女性化させたりと、女の子に成った男を抱いた経験は幾らか有ったから特に問題も無かった。

 

 まぁ、女物な服を着るのに相応しい肉体として女性化を喜んで受け容れたギャスパーとは違い、黒羽文弥は父親からの命令で黒羽家一堂にて襲撃した結果惨敗してしまって、無理矢理に念能力の“修得之札”を押し込められて女性化させられただけであり、彼女を作って童貞を捨てる前に処女を散らされた辺り可哀想な話ではある。

 

 しかも完全にメス堕ちさせられた。

 

 それは扨置き、元男故に男との経験などしたいとも思わなかったプレラーティとカリオストロではあったが、生命を救われた事で心情的な変化も在ったらしくサンジェルマンと共に平伏したのと同時に抱かれたのである。

 

 因みに、原典的にキャロルは【戦姫絶唱シンフォギアGX】の闘いは行っていない。

 

 理由は簡単、【戦姫絶唱シンフォギア】世界は【ソードアート・オンライン】世界と習合をしていて、彼女が動く頃には響達がSAOに囚われていた時期だったからだ。

 

 結果としてユートと天羽 奏とセレナ・カテンツァヴナ・イヴを相手にする事になり、目的であった呪歌を手に入れる事も叶わなかった。

 

 何やかんやで目的とは異なる願いを得た事で、最終的にエルフナインと共に投降をする。

 

 戦力にして呪歌を得る手段だった自動人形が斃されてしまっていたのも手伝い、チフォージュ・シャトーの起動すら侭ならなかったのもあった。

 

「んじゃ、あーしらは向こうに」

 

 サンジェルマン組として別方向へと向かったのとは真逆の方へ、キャロルとエルフナインは他の連中と離れてユート捜しを行う。

 

 それから暫くは探索を行っていたけど成果は上がらず月日は流れ、そんなある日に契機となるであろう連絡がキャロル達に入った。

 

『此方、ユーキ』

 

「何だ?」

 

『兄貴が念能力を使った。“勇者王新生”に於けるファイナルフュージョン承認シグナルのお陰で、兄貴が居る世界の座標とその世界の主軸となるであろう原典も判明したよ』

 

「それは何よりだが、オレらにそれを伝えて来たって事は?」

 

『そう、キャロル達が一番近場だねぇ』

 

「ふん、ならば捜し回った甲斐もあるというものだろうさ。座標をエルフナインに渡せ、受け取ったらすぐにも向かうぞ」

 

『うん、お願いするよ』

 

 こうして座標を得たキャロルとエルフナイン、二人は【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか】の世界へと降り立つ。

 

「って、何処だ此処は?」

 

「多分ですがダンジョンじゃないでしょうか? 原典名が【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか】ですし」

 

「多少のズレは仕方が無いにしても、まさかこんな場所に出るとはな」

 

 何階層かも判らないがダンジョン内であるというなら、恐らく今現在のユートはダンジョン探索の真っ最中なのだろうとは考えられた。

 

「あ、向こうから幾つか生体反応です。二つの勢力による争いですね……どうやら逃げている方でしょうか、一人分の反応が消失」

 

「チィッ、エルフナイン! 魔物か? それとも人間による同士討ちか?」

 

「其処までは流石に判りません」

 

「……だったな」

 

 判るのは方角と生体反応くらい。

 

 だけどそれはすぐに判明する事になる、何故ならばエルフナインの言っていた方角から数人の駆ける人間と、それを明らかに追い掛けていると見られる大量のモンスターの姿が現れたから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 キャロルとエルフナインがダンジョンに顕れた少し前に遡る。

 

 タケミカヅチ・ファミリアは赤貧なファミリアではあるが、今日も元気に主神に見送られながらダンジョンへと潜っていく。

 

 先日、仲間であるヤマト・命がランクアップを果たした事もあって、今日はもう少し奥を目指しても良いのでは? 何て冗談混じりに言い合う。

 

 友人のヒタチ・千草は未だにLV.1、それを云えば他の仲間も全員がLV.1でしかなくて、唯一のLV.2だったのが団長の“武神男児(マスラタケオ)”であるカシマ・桜花だったのだけど、漸くヤマト・命もランクアップして意気揚々としていた。

 

 きっと浮かれていたのだろう、だからこそ皆が忘れていたのかも知れない……ダンジョンでは何が起きるか判らないという現実を。

 

「キャァァッ!?」

 

「千草殿!」

 

 カシマ・桜花、ヤマト・命に次いで戦闘能力が高いのは実はヒタチ・千草だったのだが、そんな彼女が数匹の群れで現れた人間の子供程度の大きさで、天然武器(ネイチャー・ウェポン)の石斧を手にした二本の角を頭に持つ兎型のモンスターであるアルミラージの投げた石斧により、大きなダメージを受けてしまった。

 

 倒れ込むヒタチ・千草。

 

「落ち着け命! 治療を急ぐんだ! 中衛は一人が上がって千草の穴を埋めろ!」

 

 すぐに団長としてカシマ・桜花が指示を出すが、ヒタチ・千草の受けた傷は余りにも深い……深過ぎた。

 

「アルミラージを近付けないで桜花!」

 

 仲間の一人が叫ぶ。

 

「ああ、俺も前に出るから行くぞ命!」

 

「は、はい!」

 

 然しそんなタケミカヅチ・ファミリアのパーティをアルミラージだけで無く、ハード・アーマードやヘルハウンドやライガーファングなどゾロゾロとモンスターが現れて囲んで来た。

 

「くっ、拙い! “怪物の宴(モンスター・パーティー)”か!」

 

 ユートならばモンスターハウスとか呼びそうなダンジョンの仕掛け、その中でも場合によってはパーティを全滅させかねない罠。

 

「桜花殿、撤退を!」

 

「くっ! 総員、撤退だ!」

 

 幸いだったのは未だ一三階層、若し一五階層にまで進出をしていたらミノタウロスが居た可能性もあったのだから。

 

「千草殿の様子は?」

 

「どうにも芳しく無いな、果たして手持ちの回復薬で間に合うかすら際どいぞ……此処は一二階層まで一旦引き返してから落ち着いて治療を」

 

「うぉっ! 拙いぜ、追ってきてるモンスターが増えてやがる! 放火魔まで来やがった!」

 

 サポーターを兼任する少年が叫ぶ。

 

「畜生! 急げ!」

 

 此処で不運だったのがカシマ・桜花はヒタチ・千草を負ぶっていた事、そして厄介にもアルミラージの一匹が個体として優れていた事。

 

 別の世界線では起きなかった不幸が起こってしまったのがこの世界線で、アルミラージが石斧を投擲して来てソイツが真っ直ぐにヒタチ・千草の背中を貫いたのだ。

 

「あぎぃぃっ!」

 

「千草!」

 

「千草殿!?」

 

 悲鳴を上げたヒタチ・千草は、カシマ・桜花の背中でグッタリと力無く臥してしまい……徐々に冷たくなっていくのが判る、判ってしまった。

 

「クソッ! クソクソクソが!」

 

 触れている肌の温もりが消えていく。

 

 細い通路のド真ん中に二人の少女が立ち尽くしているのを見付た。

 

「あれは?」

 

「おい、突っ込むぞ……彼処へ」

 

「なっ! 待って下さい桜花殿! そんな事をしたらあの人達が!」

 

「俺は……誰とも知らない奴らの命より、お前等の方がよっぽど大事なんだ!」

 

「ですが……」

 

「命、お前達、胸糞が悪いってなら後で好きなだけ幾らでも罵ってくれて構わない!」

 

 タケミカヅチ・ファミリアのメンバーはグッと奥歯を噛み締めながら走り抜ける。

 

「ヘルメス・トリスメギストス!」

 

 四重の結界が放たれてタケミカヅチ・ファミリアのメンバーがぶつかった。

 

「ぐわっ!?」

 

「くっ!」

 

「キャァァッ!?」

 

 ガンガンと結界を殴ってもビクともしないし、後ろからはモンスターが迫って来ている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何だ此奴らは」

 

「ダンジョンアタックしているパーティじゃないんですか?」

 

「あの後ろのモンスターは?」

 

「……どうやらボク達へと擦り付ける心算だったみたいですね。所謂、モンスタートレインによる

MPKというやつでしょうか?」

 

「フン、なら見捨てるか」

 

「そ、それは……」

 

 あっさりと見捨てる心算なキャロルに対して、エルフナインとしては矢っ張り捨て置けない。

 

 キャロルには冷酷非情な判断を平然と出来る、然しエルフナインにはそれが無理だったからだ。

 

「情報を得る為にも助けましょう」

 

「チッ、まぁ構うまい」

 

 亜空間から引き出されるのは巨大なる竪琴で、これこそがキャロルにとっては武器であり防具。

 

「ダウルダブラ!」

 

 キャロルがダウルダブラを一弾きすると琴線が彼女の身体を覆っていき、それは魔女っ子を思わせる帽子とローブの様な形へと姿を変えた。

 

 これこそダウルダブラ・ファウストローブで、嘗ては複数のシンフォギアを相手に大立ち回りをする予定だったが、何しろ響達……装者がSAOに閉じこめられていただけに闘いは天羽 奏などの本来は居ない人間と闘う事に。

 

 結界を解除するとエルフナインも無銘でしかないが、量産型のファウストローブを纏って自分達を殺害しようとした連中の前に立つ。

 

 歌を唄い上げる事です出力も上がる。

 

 思い出を焼却すれば詠わずとも出力は上がるのだけど、今更そんな無理繰りな出力アップなんてのは望まない。

 

 唄うのは“殲琴・ダウルダブラ”だ。

 

「な、何だ?」

 

「唄い始めた?」

 

 琴線を器用に操ってモンスターを殲滅していく様は、タケミカヅチ・ファミリアのメンバーから視ると矢張り異常に映るのか真っ青になる。

 

 追い掛けて来ていたモンスターは三〇匹にまで増えており、これは彼らの知る由の無いα世界線での“怪物の宴(モンスター・パーティー)”より多い数。

 

 そんなモンスターが見る見る内に細切れにされていき、或いは燃やされたり吹き飛ばされたり押し潰されたりして三分もしたら全滅していた。

 

「す、凄い……」

 

 ヤマト・命はその闘い振りに恐怖以上の感動すら覚えて見つめている。

 

「いったい何処のファミリアの?」

 

 どうやら、冒険者の一角だと勘違いをしたらしくファミリアが何処なのかと考えていた。

 

「さて、貴様らに訊ねよう。何故にオレ達を害そうとしたのかをな」

 

「うっ、それは……」

 

 言葉に詰まってしまうヤマト・命、彼女自身は決してキャロルとエルフナインを害そうとか考えていた訳では無いが、カシマ・桜花を止めなかった時点で同罪だと云って差し支えは無い。

 

「あれは俺が出した指示だ。そして俺は今でもあの指示が間違っていたとは思っていない」

 

 だから俺は謝らないと言外に云っているのかも知れないが……

 

「ぶはっ!」

 

 ヤマト・命の拳がカシマ・桜花の後頭部へ突き刺さっていた。

 

 更に無理矢理に土下座をさせる。

 

「何を莫迦な事を言っているのですか! この場は謝る一択ですよ!」

 

「ちょ、痛いぞ命!?」

 

「巫山戯た事を言ってないで土下座で謝意を示して下さい!」

 

 ポカンとなるキャロルとエルフナイン。

 

 冒険者は自分ばかりか仲間の為に、こういった行為はいつか自分が加害者になるかも知れない、それが故にかこの手の行為――“怪物進呈(パス・パレード)”は悪意が無い限り一定の理解を払わねばならない。

 

 実際にカシマ・桜花に悪意が有った訳で無く、見知らぬ他人と仲間の生命を天秤へと掛けた上で仮に恨まれようと、憎まれようとも罵倒など覚悟してキャロル達を犠牲にしようとしたのだ。

 

 それは、一種のカルネアデスの板的な非情なる判断だったと云えよう。

 

 問題はタケミカヅチ・ファミリアのメンバーは知らない事だけど、抑々にしてキャロル・マールス・ディーンハイムとエルフナインは冒険者なんかでは無かったので、その()()()()()を得られないという事だったりする。

 

 否、エルフナインは理解してくれそうだけれどキャロルはどうだろう?

 

「チッ、まぁ良い。折角の情報源だからな。壊してしまっては助けた意味が全く以て有るまい」

 

「じょ、情報源……ですか?」

 

「そうだ。取り敢えずはフム、お前達の取った行動について話して貰おうか」

 

 キャロルに言われタケミカヅチ・ファミリアは代表でヤマト・命が話をした。

 

「ほう? 成程、私欲によるものでは無かったと言いたいのだな」

 

「は、はい。仲間を殺されてしまい、パーティとしての体裁を保つのも難しい有り様でしたから。悪い事だと判りつつも……」

 

「まぁ、良かろう。それでそやつが死した娘か。エルフナインよ、ユートから受け取った神代魔法の中でもお前は昇華魔法と魂魄魔法に適正が有った故、今なら魂魄を保護出来るのではないか?」

 

 この二人に限らず何人か興味を持っていた者にユートは、“修得之札(インストール・カード)”で神代魔法と呼ばれている強力な魔法を覚えさせていた。

 

 この二人の場合、同じホムンクルスから造られた肉体を持っていたにも拘わらず神代魔法の適正が異なり、キャロルが“生成魔法”と“変成魔法”でエルフナインが“昇華魔法”と“魂魄魔法”だ。

 

 他は適正という意味では大した事が無かったので修得してはいない。

 

 別に数が限定されている訳では無かったけど、あれを挿入すると男なら極度の熱で熱い思いをしなければならず、女性であれば性的な熱によって絶頂にも似た快楽を味わってしまう。

 

 正確には絶頂にイクにイケないもどかしい感覚を延々と……である。

 

 未通だった昔なら兎も角、ユートに散々っぱら絶頂の良さ――通常のモノより数倍の快感――を知ってしまったキャロルは、あんなもどかしさを甘受する事は出来なかったのだと云う。

 

「確かにボクは魂魄魔法を扱えます。少し診せて貰いますね」

 

 仰向けに寝かされたヒタチ・千草の遺体を調べていくエルフナイン。

 

「確かに未だこの人の魂は消滅していませんね。いえ、神様が存在する世界ならあの世が在る訳ですから昇天していないと言うべきでしょうか」

 

「そうだな、忌々しいものだが神とやらが存在しているなら……」

 

「“奇跡の殺戮者”は止めて下さいね」

 

「チッ、判っているともさ」

 

 或る意味で奇跡に救われたキャロルとしては、『奇跡は殺す皆殺す』とは言えなくなっていた。

 

「若しかしたらですが、この方を今なら生き返らせる術が有るかも知れません」

 

『『『っ!』』』

 

 目を見開くタケミカヅチ・ファミリア、死者の蘇生など彼らの知識や常識的には有り得る筈が無いからだ。

 

「ボク達の捜し人なら可能です。然し彼はいつも言っています。『僕は蘇生まっすぃーんに成る心算は無い』……と。従って対価は必ず要りますので覚悟はしていて下さい」

 

 そしてエルフナインが調べた結果、捜している件の人物は今の階層より更に五階層は下であるという事で、カシマ・桜花がヒタチ・千草の遺体を再び背負って第一八階層へと向かう。

 

 その最中の第一五階層で白髪に深紅の瞳を持つ見るからにアルミラージっぽい少年、赤毛に着流しで背中に大剣を背負った青年、白いローブを着て自分の身長より大きなバックパックを背負った小人族の少女、黒髪をショートボブにして何故か虫っぽい羽根が生えてレオタードを着た少女というパーティと出逢った。

 

 即ち、ベル・クラネルとヴェルフ・クロッゾとリリルカ・アーデとラブレスである。

 

 タケミカヅチ・ファミリアが本来、怪物進呈をする相手がベルの率いるパーティだったのだが、原典よりベルとリリがくなっているのとラブレスの存在、これによりタケミカヅチ・ファミリアより先に進んでいたから、キャロルとエルフナインにお鉢が回って来たらしい。

 

 また、怪物の宴でモンスターの数が多かったのもそんな影響が出たからだろう。

 

 原典との相違点が小さな部分で変化をしてしまって、本来ならば死ななかったヒタチ・千草の死という事象が発生したのかも知れない。

 

 ベル達は日帰りを予定していたらしいのだが、ロキ・ファミリアの遠征に同行をしているユートが第一八階層に居ると聞き、それならば一緒に行こうという話になって第一六階層から第一七階層へと降りて行く。

 

 そして第一七階層の“嘆きの大壁”、此処は基本的に階層主(ボス)たる迷宮の孤王(モンスター・レックス)のゴライアスのみしか生まれない。

 

「クソが、未だ生まれてねーのかよ!」

 

 そんな“嘆きの大壁”で毒吐いているのは、銀色の大槍を担ぐ猫人族(キットピープル)の男だった。

 

「生まれていたら轢き殺してやったものをっ! こうなりゃ仕方がねー、生まれるのを待つか」

 

 そう言って“嘆きの大壁”の傍で座り込む猫人族の男は、ジロリとベル達へと視線を送って忌々しそうに舌打ちをする。

 

 階層主の再湧出には次産間隔(インターバル)というものが有るが故にその期間は生まれて来ない、ゴライアスの次産間隔は約二週間前後であるとされていた。

 

「あ、あれは確かアレン・フローメル様? 何でフレイヤ・ファミリアのLV.6……第一級冒険者がこんな中層で暴れてるんですか!?」

 

 リリが驚愕するのも無理は無い、LV.6ともなれば中層で経験値などもう雀の涙程度にも入らない筈で、云ってみればこんな浅い階層で貰える経験値はカンストしているも同然なのだから。

 

「刺激しない様に降りよう。ゴライアスが生まれたら多分だけど巻き込まれるから」

 

「判りました、ベル様」

 

 道中、ラブレスとリリがキャロルとエルフナインにとって同じ穴の狢というか、同じ【閃姫】である事が互いの気配から理解をした事で同行した訳だが、ダウルダブラ・ファウストローブを纏ったキャロルなら普通にアレン・フローメルにも勝てると、ラブレスは彼女の……彼女達の実力を正しく認識している。

 

「皆様、今すぐに降りますよ」

 

 リリはアレン・フローメルを横目に皆を促す、それに全員が頷くとソッと第一八階層への入口へ入っていった。

 

 アレン・フローメル自身はチラッと一瞥をしてきただけ、特に追って来るでも何かを言ってくるでも無く見過ごしただけ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「これが全貌だ」

 

 キャロルは話を終える。

 

「成程。確かに僕は魂さえ保全されているならば蘇生は可能だろう。だけど無償奉仕など僕の立場からしたら以ての外だ」

 

「ぐっ!」

 

 カシマ・桜花も本気で支払いを渋っている訳では無いが、矢張り赤貧清貧……言い方は様々だったけど一言で判り易く云えば貧乏一直線であるのがタケミカヅチ・ファミリア、何しろファミリアの稼ぎだけでは立ち往かないから主神がジャガ丸くんの屋台でアルバイトをしてるくらい。

 

 本来なら、ヘスティア・ファミリアの主神であるヘスティアも今のタケミカヅチと変わらない、ジャガ丸くんの屋台でアルバイトをしているくらいに貧乏だったが、今現在はアテナ・ファミリアとの同盟(ユニオン)によって資金が潤沢だからアルバイトをする理由も無くなっていた。

 

 尚、ベルが持つ“神様のナイフ”が二億ヴァリスというのは変わらないが、そこら辺は同盟の資金を動かして二億ヴァリスを捻出している。

 

 流石に本神も渋ったが……

 

「で、キャロル。タケミカヅチ・ファミリアは支払いたくない……極論、支払い能力が無いって話な訳だけど? 代替案は勿論だけど有るよな」

 

「勿論だともさ。いつもの手だろ? 生き返ったその娘が身を以て生涯を懸け優斗に支払いをすれば良いのだからな!」

 

 目を見開くタケミカヅチ・ファミリアの面子、それは即ちヒタチ・千草を奴隷に出すに等しい。

 

「ま、待って下さい!」

 

「は、ほっ!」

 

 ユートは鉄扇を出して舞い始める。

 

「舞って下さいではありません!」

 

 よくやる鉄板だったけど相変わらず不評の様でユートは肩を竦めた。

 

「ち、千草殿は……あの……」

 

 口に出せないけど視線がカシマ・桜花へと向いている辺り、普通にヤマト・命はヒタチ・千草の想いとやらを知っているらしい。

 

「駄目だな。だからこそ対価足り得るのだから、当然だが貴様が代わるなど赦さん」

 

「そ、そんな……」

 

「それとも、今此処で全てをぶっちゃけてみるのも良いか?」

 

「それはいけません!」

 

 本人の知らない場所で自分の気持ちが知られたなど、ヒタチ・千草の性格上から可成り居た堪れない気分になるのは請け合いだ。

 

 そしてキャロルも既にヒタチ・千草の想いに関しては、タケミカヅチ・ファミリアの周りの反応からだいたいを察している。

 

 唯一、その想い人たるカシマ・桜花が全く以て理解をしていないのは御約束だろう。

 

「それともこの娘は自分の人生の負債を他人に押し付けるを良しとするのか?」

 

「そんな訳! ありません……」

 

「どの道、優斗に縋らねば人生の続きなぞ歩めぬと知れ! 言っておくがオレとエルフナインも同じ様な選択をしてこの場に居るぞ」

 

「ううっ!?」

 

 キャロルの場合は大切な人間の救助だったが、それをエルフナインと共に対価として支払う。

 

 だからこそ同情はしても情けは掛けないというスタンスだし、エルフナインも錬金術師には違いないから対価を支払うのは当たり前だった。

 

「ま、本人から訊いてみよう。キャロル」

 

「応よ」

 

 魂魄魔法で保全した魂にユートが触れて本人たるヒタチ・千草に語り掛け、タケミカヅチ・ファミリアの面子に結果を伝えるべく口を開く。

 

「生き返れるならそれで構わないそうだ。曰わく『命ちゃんが身代わりになる必要は無いよ』……だとさ」

 

「千草殿!」

 

 過去にヒタチ・千草と会話などした事が無い筈のユートが、彼女の口調や命を呼ぶ時の敬称なんかを言えたという意味を理解した。

 

「希望としては僕の所の本拠に移るのは吝かじゃかいけど、ファミリアは移籍せずタケミカヅチ・ファミリアの侭で居たいそうだ。其方がそれで構わないなら此方も了承するけど、それで一歩を踏み出してみないか?」

 

「一歩ですか?」

 

「アテナ・ファミリアと同盟を結ぶんだ。現在はベルのヘスティア・ファミリアと“青の薬補”を経営するミアハ・ファミリアが同盟に参加してる。どちらも神同士が神友ってのも有るけどな」

 

「同盟……それは流石にタケミカヅチ様にもお窺いをしないと何とも言えませんが」

 

「同盟を結べばそれなりのメリットも提供が出来るから取り敢えず考えてみてくれ、神タケミカヅチに相談がしたいなら帰ってしてみれば良い」

 

「は、はい」

 

 小さなファミリア同士が同盟を結んで、大きなファミリアにも対抗が出来る様にしたいというのがユートの目論見、前なら兎も角として今現在ならソーマ・ファミリアも候補に入れている。

 

 彼の神酒は僅かながらユートに酩酊を与える事が出来たし、素材を提供して新しい酒を造らせるのも良いと考えていたからだ。

 

「それじゃ、ヒタチ・千草を蘇生する」

 

 ユートが手を掲げると漆黒の宝石の如く輝きを持つオブジェが顕れ、それがカシャーンと軽快な金属音を鳴り響かせて分解されてヒタチ・千草の肉体を覆っていくのであった。

 

 

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 内容は基本的に最初の通りですが、考えた頃には未だ千草の気持ちとか出てなかったり……

 でも変えない。

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