ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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 思った程に進まなかった。





第64話:白兎達の第一八階層入りは間違っているだろうか

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「毒にヤられた団員も居るけれど、今宵は此処まで進出を果たした新たなるファミリアとの交流会と洒落込みたい。特にヘスティア・ファミリアはユートのアテナ・ファミリアとは同盟を結んでいるそうだし皆、仲良くして貰えると僕としても嬉しい限りだ!」

 

 ロキ・ファミリア団長のフィン・ディムナから宣言をされては、まさか一団員に否やを云えよう筈も無かったから表面上は振る舞われた酒の杯を掲げて同意を示す。

 

「ふむ、ドワーフの火酒を樽に一杯飲まないと僕は酔えもしないんだよな。アルコールの入ってるジュースと変わらないのは残念無念また来週」

 

 チビチビと飲んでも意味が無いから乾杯後には一口で杯内の酒を飲み干した。

 

 酔えないからには食事を愉しむしか無かったから自身のストレージ一杯に入った食材を、料理が得意な女性陣――といっても毒にヤられていなかった者に限られたが――により調理された物を、ガツガツと食べ続けて消費をしていく。

 

「ふむ、あのLV.2のヒーラーの娘が今回のを主導したらしいけど中々に美味いね」

 

 少なくとも普通の料理としては良い味わいを出していたし、見た目も可愛らしさが有るから欲しいくらいだけどロキが赦すまい。

 

(確かリーネだったかな)

 

 それにベートを見る目が優しいというべきか、今はこの場に居ないけど普段からそんな目で視ている辺り、どんな感情を持っているのかがありありと見て取れる。

 

「然し、オレとエルフナインは冒険者じゃないんだがな? 良いのかね」

 

「どうせ地上に戻ったらアテナ・ファミリアへと入るんだし構わないだろう」

 

 尚、ヘスティア・ファミリアとフィンは説明をしたものの、現在のベルのパーティ構成はベルがヘスティア・ファミリア、ラブレスとリリがアテナ・ファミリア、ヴェルフがヘファイストス・ファミリアだから実はベルだけしか所属してない。

 

 冥衣を解除したヒタチ・千草はいつもの格好でヤマト・命とアルコールの入ってない飲み物を、ヴェルフとカシマ・桜花には原典みたいな蟠りが無いから、普通に会話をして武器の整備を頼んだりしていた。

 

「そうだ、ユート」

 

「どうした? フィン」

 

「例の槍なんだが」

 

「ああ、貸したヤツな」

 

 【ファイアーエムブレム】世界に存在している槍の神器――グラディウス、その謂わば贋作というか模造品たるグラディウス・レプリカを先の闘いにて貸与している。

 

 ユートがグラディウスを視て鍛ったレプリカではあるが、素材は同じ金属を用いて技術も聖衣という神代の神器を鍛えられるし、魔界の名工から薫陶を受けてもいただけに真作に迫るだけの逸品として完成をしていた。

 

 それは剣の神器――メリクルや弓の神器――パルティアや斧の神器――オートクレールも同様、必ず“レプリカ”だと銘打って真作と贋作を分けている辺り、ユートにも拘りみたいなものが有るのが理解を出来てしまう。

 

 実際、“偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス・レプリカ)”なんかにも同じくレプリカと銘打っているから判る事。

 

「あれ程の輝き、あれ程の性能、そしてまるで手に吸い付く様な手応え……グラディウス・レプリカと云ったかな、ヘファイストス・ファミリアやゴブニュ・ファミリアの最上級鍛冶師の作品ですら御目に掛かれない素晴らしい槍だったよ」

 

 暗に椿・コルブランドすら越えているのだと、フィンはグラディウス・レプリカを大絶賛。

 

「ほほう、手前を越えるとな? 確かにフィンが最後に使っておった槍は見事であったな」

 

 それを聴いた椿・コルブランドがニヤリと笑いながらユートに近付く。

 

「出来れば見せて貰いたいものよの」

 

「やれやれって感じだな」

 

 ストレージから出したのは一振りの鞘に納まっている細身の武器――刀。

 

「これは?」

 

「偽・贄殿遮那。つっても、本来のオリジナルである贄殿遮那は紅世の王と呼ばれる存在を相槌に据えて、自身の存在をミステスという存在に落とし込む程に存在の力を捧げて鍛え上げた刃だし、贄殿遮那には鞘なんて無かったから担い手となっていた天目一箇やシャナは抜き身で持っていた」

 

 故に造り方は似ていてもオリジナルとは相当に異なる偽・贄殿遮那、自在法が存在しない世界で似た特性を持たせるべく魔法や超能力や鬼道といった能力に対する不干渉が有った。

 

「ま、所詮それはレプリカだよ。形と能力を似せただけの……ね」

 

 椿・コルブランドは目を輝かせながら偽・贄殿遮那を視ている。

 

 ふと見遣ればヴェルフもユートの造った所謂、モドキでしかないレプリカに目が釘付けと成っており、モノとしては矢張りモドキでしかないにしても作り自体は自身を処か、ヘファイストス・ファミリアの団長たる椿・コルブランドですら越える腕前で鍛造された刀だから仕方が無かった。

 

 事実として椿・コルブランドが絶賛しているからには、ヴェルフとしても鍛冶師として無視など出来る筈も無いのだから。

 

「それでフィン、買い取りたいというのだろうけどさ、どうやってグラディウス・レプリカのお金を用意する心算でいるんだ? 前に呼ばれた際の戦闘で一〇億ヴァリスを個人資産で出していた。多分あれってフィンの全財産だったと思うけど、それって実は違ったのか?」

 

「いや、間違い無く全財産だったさ。だけれど、君がガレスとリヴェリアとも闘ってくれたから、二人も三億ヴァリスずつ出してくれたんだ」

 

 今、フィン達がLV.7なのはフィンの一〇億ヴァリスを対価にした闘い有ってこそだ。

 

 その恩恵は計り知れず、二人もフィンに全額を負担させるのは偲び無いとして三分の一よりは少ないけど支払いに宛てた。

 

「という事は実際に支払ったのは四億ヴァリスって事、詰まりは六億ヴァリスは個人資産としての貯蓄が残されてるんだな」

 

「ま、まぁね」

 

「本当は魔剣的な効果は無いけど、本来の仕様とは異なる機能も付けていて雷神の剣より高くしようなと思ったが……六億で譲ろう」

 

「ほ、本当かい!?」

 

「嘘など言わないさ。地上に戻ったら支払いをして貰うからな?」

 

「勿論だとも!」

 

 フィンは小人族な上に恩恵もLV.7に至っているから、見た目が子供に見えてしまうけど実際は一四歳からロキに恩恵を貰って約三〇年も年月が経ったアラフォー、然しながら今のフィンは瞳を輝かせて欲しかった玩具を手に入れた子供の様に他者の目には映る。

 

「ソイツの銘は仮称グラディウス・レプリカだ。本当の銘は持ち主になったフィンが付けな」

 

「え、僕がかい?」

 

「それと柄の部分に魔法陣が有るだろ?」

 

「確かに有るね」

 

 柄に刻み込まれた魔法陣。

 

「血を垂らして自身の名前と共に魂の契約を捧げる事で、完全にフィン専用の槍と成ってマイスターである僕とマスターのフィンしか扱えなくなる仕組みでね、仮に盗まれたり紛失しても完全破壊されない限りはフィンの意志で召喚可能だ」

 

「っ! それがさっき言ってた?」

 

「そう、オリジナルには無い仕様だ」

 

「そうか……」

 

 ギュッとグラディウス・レプリカを抱き締めるフィン、そんなフィンを視ていたティオネの瞳はハートを宿していたと云う。

 

 ユートとしては【DQ~ダイの大冒険~】に於ける、ヒュンケルが闘う意志を漲らせた時に飛来した鎧の魔剣を再現したかったというのがある。

 

 一応、ユートが造った黄金聖衣はそんな領域に在るから契約云々関係無く飛んで来るが……

 

「売買詐欺だけはするなよ?」

 

「しないよ!」

 

 売った後に戻ってくる槍、正しく詐欺だったからやらかすなと釘を刺しておいた。

 

 和気藹々? と食事を愉しんで宴も闌といった頃に凄まじい音が第一七階層との連絡口から響いてきて、何事かと向かうと何故だかヘスティアとヘルメスがリュー・リオンやアスフィ・アル・アンドロメダやナァーザ・エリスイスを率いてやって来たのだ。

 

「何をやってるヘスティア? それにヘルメス。リューとアスフィとナァーザまで!」

 

「だって、ベル君がちっとも帰って来なくてさ。某かが有ったんじゃないかって思ったら居ても立っても居られなくって!」

 

 ヘスティアが言い訳する

 

「サーシャは?」

 

「サーシャは君を信じれば大丈夫だって言って取り合ってくれないんだ、だから彼女は一緒には来てないんだよ」

 

「それが正解だ」

 

「うぐぅ!」

 

 ぐうの音しか出ない。

 

 ナァーザも一応はダンジョン恐怖症みたいな、謂わばPTSDを発症していたのをユートの治療によって克服では無いが、取り敢えずダンジョンに入ってもフラッシュバックしたりしなくなっているとはいえ、未だ確実に症状が出なくなったと御墨付きが有る訳でも無いので下手に連れ回さないで欲しかった。

 

 少しずつ少しずつ慣らしていくべきだからこそベルのパーティにも入れて無かったのに。

 

 まぁ、仕事は調合の発展アビリティを活かしたポーションの作製が有るから退屈はしない。

 

「ゴライアスがそろそろ再湧出していた筈だが、アスフィやリューが斃したのか?」

 

「いえ、何故だか“女神の戦車”が待機をしていまして……彼が闘っている隙に此方へ」

 

「ああ、成程な」

 

 アレン・フローメルの事情を知るというより、云ってみれば災厄の根源こそがユート。

 

「アレン・フローメルの現在のLV.は1だから必死にランクアップを狙ってるんだな」

 

「? 彼がLV.1ですか?」

 

「ああ。裏切りの概念を宝具化した短剣で刺してやって、フレイヤとの眷族契約を破棄させたから恩恵を貰い直したんだろうね」

 

 ニィッと口角を吊り上げるユートに対し恩恵を持つ全員がドン引きである。

 

「序でに僕や今のベルやリリ達がやっている方法も教えたからな、LV.2くらいなら恐らくだけど一週間以内だと思っていた。残すは偉業としてゴライアスを斃しに来たって処だろ」

 

「うん? ベルやリリスケ達がやってるやり方って何だ? ひょっとしてステイタスを効率良く上げる方法とか確立してんのかよ?」

 

 ヴェルフが食い付く。

 

 ヴェルフ・クロッゾLV.1、今やリリにまで追い抜かれて少し焦りを覚える鍛冶師見習いで、実はヘファイストスに淡い恋心を抱いている事をユートに看破されていた。

 

 ユートが提供――といっても販売をしているという意味だが、黒鍛鋼(ブラックメタル)と呼ばれる魔導金属を安く仕入れているソレをヘファイストスはいたく気に入っており、黒鍛鋼製の鎧や盾や剣をガンガン鍛えている彼女をヴェルフは一度だけ見る機会に恵まれ、そんなヘファイストスに性的な興奮を覚えたヴェルフは大事な部位を硬くしたのだとか。

 

 他にも魔導金属としての真銀(ミスリル)、黒鍛鋼の青バージョンたる青鍛鋼(ブルーメタル)、この世界のオリハルコンに近い日緋色金(ヒヒイロカネ)、色違いの青生生魂(アポイタカラ)など様々な魔導金属をユートが保有している事を知って、それこそ日参して売って欲しいと頭を下げにいっているのをヴェルフは知っている。

 

 尚、この世界のオリハルコンやアダマンタイトやミスリルは特性こそ高いものの、通常金属へとカテゴライズをされている金属だった。

 

 真の意味での魔導金属、それを鍛える機会を得られたのならば鍛冶師としては狂うしかない。

 

 因みに、神鍛鋼(オリハルコン)神金剛(アダマンタイト)は名前こそ同一だけど神秘金属にカテゴライズされる。

 

 聖衣は神鍛鋼と星銀砂とガマニオンの合金製、鱗衣は純粋な神鍛鋼製、神金剛は楚真など一部の神々が纏う鎧に使われていた。

 

 ヘファイストスが鍛冶に狂うのも当然の帰結であり、若しこれが椿・コルブランドに知られでもしたら同じ事が起きそうだ。

 

 それは兎も角、ヴェルフはヘファイストスに対して確かな恋慕の情を持っていて、彼女が億年を在り続ける超越存在で恋人も居ただろう事は理解もするし、所詮は恩恵無しならば百年も生きれば上等なヒューマンでしかない自分。

 

 仮に、本当に仮に鍛冶の腕を認めさせて恋人の座をゲットしたとしても、超越存在である彼女にとっては僅かな寄り道程度の事でしかない。

 

 それでも永遠を在り続けるであろうヘファイストスの胸に残り続ければ……と、ヴェルフ自身は思っているけど如何せん鍛冶の発展アビリティを持たない見習い鍛冶師、せめてLV.2へと至り発展アビリティを獲得して上級鍛冶師に成って、自らの武具に“Hφαιστοs”のロゴを赦されなければ一〇〇%有り得ないと自嘲している。

 

 せめてロゴを赦され、更に鍛冶師として某かの偉業を残さなければ決して有り得ない夢物語。

 

 だけどユートは違う。

 

 フィンに売ったグラディウス・レプリカにしてもそうだ、レプリカなどと云っても単にガワだけ似せた贋作などとはモノが別物だ。

 

 武器としての威力は原典と変わらず、更に別の機能をもプラスしているのだから既に真作グラディウスをも鍛えられる腕前という事で、それこそがユートの鍛冶師としての腕が椿・コルブランドをして『主神様にも迫る』と言わしめる。

 

 それはヘファイストスも認めていた訳であり、眷族として男としてヴェルフ・クロッゾ個人だとしてもこれが焦らずに居られようか?

 

 況してや、いつだったかユートが鉱石の納品にやって来た翌朝に何故だか主神の神室から現れたのは疎か、ヘファイストスも何だか気怠げな表情で笑顔を魅せながら見送っていたのを偶々ではあるが見た事がある。

 

 いつものシャツはボタンが外れていて淫靡にも映るヘファイストス、ヴェルフは自分の工房に帰って思わずあられもない彼女の姿で抜いたもの。

 

 そして自己嫌悪に陥るのであった。

 

「確かに知っていると言うか、僕が聞いた恩恵の理論などから推測して可能だろうと自分で試し、それで上手くいったからベルとリリにもLV.2にランクアップしてからやらせている手法だな」

 

「マ、マジかよ! だったら俺も知りたいんだが駄目なのか? 同派閥じゃねーし同盟も組んでねーから無理か?」

 

「そんな難しい事じゃ無い。否、実践をするのは難しいんだけどな」

 

「? どういうこった?」

 

「評価Iの数値が0の時から一切合切の更新をしない。ランクアップをしたら兎に角、モンスターを殺して殺して殺しまくる。そして出来れば単独で階層主を討ち果たす。それだけだ」

 

「ハァァッ!?」

 

 ヴェルフは意味が解らない、更にはそんな事を実践するなどモノ狂いの類いだと叫んだ。

 

「実際、アレン・フローメルは現在がLV.1で恐らくフレイヤから更新をして貰わず闘い続け、今日はゴライアスが再湧出をしたから挑んだっていう事なんだろうな」

 

「確かに“女神の戦車”は単独でしたね」

 

 アスフィ・アル・アンドロメダが先程の光景を思い出して頷く。

 

「けど本当にランクアップすんのか?」

 

「ステイタスは基本的に誰が受けても誰から貰ってもI評価で数値は0……当然だ、“神の恩恵”を得てから何の実績も得ていないのだから評価なんか最低、経験値を得た御褒美の数値も有る筈がないんだからな。闘って或いは某かを成して経験値を得る事で“神の恩恵”が御褒美に数値を上げてくれる、それが一定量を越えたら評価がHに上がってくれるんだ。詰まり99を越えて100に成れば」

 

 詰まり数値の100とはH評価の数値0と同様、数値が200に成れば評価もGへと上がる。

 

「最終的にS評価と成り、数値も999まで上がってカウンターストップ……カンストだ」

 

「かんすと? 何だそりゃ?」

 

「さっきも言ったカウンターストップの略だよ。カウントされていた数値がストップする……あ、多分だけどこの世界だと所謂処の神語になるか」

 

 普段、ユートが何気なく使っている言葉の端々にこの世界では下界で使われず、天界の神々が使っている言葉回しというものが多々在った。

 

(まぁ、999がカンストなのは普通ならと注釈が付くけどな。ベルはスキル“憧憬一途”の効果で、カンストを超克するからな。オマケに番外となる僕のスキルで上げられる数値は計算外に当たるみたいだし、恐らくこっちも999だから総計1998までは上げられるって事だな)

 

 このユートのスキルの余剰的な数値は経験値に影響を及ばさない為、幾らでも上げてオッケーというのが嬉しい処でリリを抱いて数値を足してやっていた。

 

 とはいえ、割とすぐに遠征に戻ったから大した数値には成っていないが……

 

「これは飽く迄も喩え話、数値に関しては全くの検証無しだから適当だと思って欲しい」

 

 ユートはそう前置きをすると、それを聞いていた全員が一様に頷いたのを見て話し始める。

 

「アイズ辺りは判ると思うが、ステイタス更新をすればする程に上がる数値は基本アビリティが上がるのに比例するかの様に下がる。何なら一日中を第五〇階層で闘い続けても上がった数値は僅か10にも満たない何て事もザラにある」

 

 アイズが激しく頷いた。

 

 フィンやリヴェリアやガレスも頷く辺りから、三人も数値の微々たる上昇に悩んでいたらしい。

 

 そして実感が湧かないのが“憧憬一途”を持っているベルであろう。

 

 何しろヘスティアが曰わく、これは進歩じゃなく飛躍だと言わしめる程に数値がバグっているかの如く上がり、初期段階でも200オーバーかと思ったら、ちょっと油断するとあっという間に600オーバー800オーバーは当たり前の世界だ。

 

 LV.5の後期とはいえ、碌にステイタスが上がらず悩んでいたアイズを嘲笑うスキル。

 

「仮にゴブリンを一匹、LV.1で全ての数値が評価I0だった場合は経験値が10だとしようか」

 

「そう……なの?」

 

 コテンと首を傾げるアイズ。

 

「仮にだ、仮に! 飽く迄も喩え話だって前置きをしただろうが」

 

「あ、うん」

 

 流石はロキも認める天然さん。

 

「で、詰まり完全初期状態でゴブリンを一匹狩れば経験値が10入る。その後に更新を入れたら次にゴブリンを一匹狩ったら半分になるとしようか」

 

 アイズがうんうんと頷いた。

 

「更新をする毎に半分になるとして、五回の狩りで合計は幾つになる? 因みに小数点以下は四捨五入とする」

 

「う゛……」

 

 アイズが黙り込んでしまったのを見て溜息を吐いてしまうリヴェリア、勉強が苦手で嫌いだから算数も咄嗟には出来なかったらしい。

 

 無論、簡単な四則演算であれば出来る筈だけど小数点や四捨五入とか単語が入ってきた時点で、アイズは考えるのを止めた的なテロップでも流れたかの様にピタリと止まってしまう。

 

「アイズ、お前だって少しずつ計算すれば判る筈だぞ?」

 

「リヴェリア……」

 

「最初の狩りで10、二回目で5、三回目は2.5に成るが四捨五入なら3。四回目も1.5だが四捨五入をして2、五回目は普通に1だ」

 

「あ、答えは21!」

 

「そうだ。落ち着いてやれば出来るのだから少しは頭を使う事を覚えてくれ」

 

 ユートはそんな母娘(笑)の会話を聴きアイズの脳筋指数を上方修正した。

 

「さて、それを考えた上で一切の更新をしない侭で五回の狩りをした数値は幾つかな? そして、どちらがより多く経験値を得られる?」

 

「えっと、更新しなかった場合は50。だから倍以上の経験値になる……だよね」

 

「その通り」

 

 頷いてやるとアイズがパンと柏手を打ちながら笑顔を浮かべる。

 

「さっきから言っている通りに飽く迄も喩え話、本当にそうなのかは僕にも検証が出来ていない。だけど更新して強くなる程に上がる数値が小さくなるからには、経験値が減っていると考えた方が素直だとは思わないか?」

 

「確かにね。成程、だから“女神の戦車”に対して更新をせずに闘えと言ったのかい? しかも偉業を達成するのに単独でゴライアスを斃せという、アレン・フローメルでなければ先ず不可能だったんじゃないかな?」

 

 フィンが苦笑いを浮かべて言う。

 

「俺には無理っぽいんだが……」

 

「時間短縮の為に単独でやらせたに過ぎないよ、ヴェルフもランクアップしたら暫くは更新しないでダンジョンアタックしてみたらどうだ?」

 

「うーん、ベルやリリスケもやってるんなら俺もやってみるかな?」

 

「因みに、アレン・フローメルがランクアップしたら第一九階層でまた闘って闘って闘い抜いて、第二七階層の階層主アンフィス・バエナを単独で殺すってのを言い含めてある」

 

 フレイヤに……だが。

 

「君はアレンを殺したいのかい?」

 

「それなら襲撃してきた日に殺したよ。奴を恨む程に被害は受けていないし、奴の魔法を簒奪してやったから寧ろ『有り難う』と言いたいな」

 

「ま、魔法を簒奪? 彼の?」

 

「そうとも」

 

 アレン・フローメルの魔法はフィンも識ってはいるが、それを事も無げに簒奪したとか言い放つユートに対して流石に驚愕を隠せない。

 

「僕の念能力の一つに“模倣の極致”というのが有ってね、あれは対象者をその手で殺害をするか或いは性的に絶頂させるかして魂を掌握、それにより刻まれた情報からスキルや魔法をコピーしたり奪ったり出来るんだ」

 

「あれ? って事は私って常に奪われるリスクを背負ってた?」

 

 冷や汗を流すティオナだったけど、ユートは笑いながらそれを否定した。

 

「簒奪は基本的に敵を殺してから行う。因みにだが模倣は精度や威力などが一段下がる」

 

 奪うのは一〇〇%に成るが、模倣は完全なモノには成らないらしい。

 

「アレン・フローメルの契約を切り裂いて恩恵をリセットしたらどうせ魔法も消える。勿体ないから一回息の根を止めて魔法を奪ってやったのさ。とはいえ、魔法やスキルは当人の資質や願望を映し出す鏡にも等しいと聞く。ランクアップしたら同じ魔法が顕れるかも知れないな」

 

 顕著なのが矢張りベルの“憧憬一途(リアリス・フレーベ)”。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインに対し冒険者としても異性としても憧れを持ち、その気持ちが正しく一途に向けられているからこそ顕れたスキル。

 

 リリの魔法であるシンダー・エラも判り易く、今の自分から変わりたいという想いが形になった魔法であり、文字通り変身をする事が出来てしまうからソーマ・ファミリア時代には割と便利に使っていた様だ……悪事に。

 

 そういう意味で云えばユートユートのスキルも

大概で、“情交飛躍(ラブ・ライブ)”は恩恵を持った女性冒険者を抱いて体内に射精をしたら、その女性冒険者へと基本アビリティの上昇が出来るというモノ。

 

 射精した場所により数値は上下するらしくて、膣内>口内>菊門という準に高くなる様だ。

 

 膣内で12くらい上がるが、一緒に絶頂をしたらボーナスポイントとして倍に成る。

 

 何処までもセ○クス本意なスキル。

 

 半ばユーキや這い寄る混沌なニャル子によって意識改革された結果とはいえ、女の子を抱くのが好ましく感じる様に成ったユートにとってみれば可成りラッキーだろう。

 

 罪の意識を感じず基本アビリティを安全確実に上げたい女性冒険者に対して、このスキルを用いて数値を上げる謂わば代価みたいなものだから。

 

 男の冒険者? 知らんがな。

 

 ティオナやリリを相手に検証をしてきた結果、最大値は999で本来の基本アビリティとは別枠だったから、合計で1998というのはランクアップをした後にエクストラポイントとして残る。

 

 とはいっても、リリの基本アビリティは何とかランクアップに届いたという処でしかなかった、だから実際の数値が1998にまで至ったりしない。

 

 ティオナの場合は力の数値がユートと乳繰り合うだけで無くて、訓練をしていた事も手伝ってか999にまで到達して極まっていたからスキルにより更なる上昇は嬉しかった。

 

「ああ、それとだ……アイズだってウダイオスを単独撃破とかやってLV.6に成っただろうに」

 

「っ!」

 

 アイズが顔を上げる。

 

「まぁ、僕もゴライアスとアンフィス・バエナとウダイオスとバロールは単独撃破したけどな」

 

「っ!?」

 

 更にアイズは聞き耳を立てた。

 

「そういえば君は単独で第五一階層に居たよね、その時に単独撃破をしていたという訳だな」

 

 初めてロキ・ファミリアのメンバーと出逢ったのが第五一階層、暫くは階層主が斃されてはいなかったお陰で其処までに湧出する階層主はユートが全てを平らげている。

 

 しかも強敵以外は一般人レベルに身体能力を下げており、普段はそれこそLV.2としての能力で動きを慣らしているし、ダンジョンアタックではLV.的に第二級冒険者くらいの能力と普通に持っている念能力や魔法で闘う為に、割と経験値は普通以上に稼げている感覚だった。

 

 この分ならベルがLV.3に成る前後くらいで基本アビリティもカンストしそうで、何なら一緒にランクアップをして担当であるエイナを困らせるのも面白そうではある。

 

 余りやり過ぎるとガチ泣きしそうだから程々にやるのが吉だろうけど。

 

「アレン・フローメルも今はLV.1だろうが、フレイヤ・ファミリアとして闘った経歴や肉体は喪わない、闘う為に形作られた筋肉に戦闘技術は残っているんだ。そこら辺の恩恵頼りオンリーな一般冒険者より格上なのはそういうのが有るからってのは間違い無い。LV.が第一級冒険者にまで届くってのは結論として()()()()って事だよ」

 

 そんな意味でユートはアナキティ・オータムやラウル・ノールドに注目をしていた。

 

 そして、性格はアレだけど第一級冒険者にしてLV.6だったアレン・フローメルも其処は同様だった訳で、そういう意味では今のこの場に居るリュー・リオンがLV.4なのが不思議な程ではあるが、どうやら主神とは手紙の遣り取りくらいはしていそうだけど直に会ってはいないらしい。

 

 つまりは更新自体が不可能。

 

「どうかしましたか? ユート」

 

「いや、何でも無い」

 

 リューもデート中やその後の暫くはユートには『さん』付けだったが、今では気安い間柄にも慣れてきたのか呼び捨てになっている。

 

「そうですか」

 

 取り敢えず納得しておくらしい。

 

「停滞する事を僕は許されない、歩みを停める事を僕は選択が出来ない……強く在らねば僕の価値を語る事さえ愚かしい」

 

「それはどういう事だい?」

 

「嘗て僕が殺し合った宿敵(とも)に言われた科白だよ、真なる共通の敵に敗れたからには再び同じ舞台に立つだけの資格を得ねば、奴らに対して申し訳も無さ過ぎて……ね」

 

「ふむ?」

 

「それは君達にも云える事だと心得ろって話だ、お前達が追い払ったゼウスとヘラのファミリアに果たして追い縋れているのか?」

 

「「「っ!?」」」

 

「何故かな? 本当に不意に頭に過ったんだよ、嘗て殺し合った宿敵の言葉が……ね」

 

 全てを懸けて闘って、全てを以て真なる敵へと挑んだ結果としてユートは敗れた。

 

 死んで今のユートに転生しているのが今現在の立ち位置で今一度、奴らに出逢った時にユートは一発だけはぶん殴られる覚悟だったものだ。

 

「オッタルは聞く処によると七年前にLV.7に上がって、其処から一切のランクアップが成されていないらしいな。それはロキ・ファミリアに於ける首領や二大幹部も同様に」

 

「耳が痛いね」

 

「ああ」

 

「まったくじゃな」

 

 苦笑いを浮かべるフィン、リヴェリアとガレスも停滞をしていたのを気にしていた。

 

「君が現れるまで僕らはLV.6からの脱却すら考えていなかった。これは……彼らに会わせる顔が無いかな?」

 

「彼ら?」

 

「“暴食”と“静寂”。LV.7の冒険者でありながらオラリオに『失望』を以て戻った、嘗ての最強ファミリアの一角さ」

 

 それは、ゼウス・ファミリアへと所属していた“暴食”のザルドとヘラ・ファミリアに所属していた“静寂”のアルフィア、この二人はぬるま湯に浸かった迷宮都市に失望感を覚えて闇派閥という敵対する邪神が率いる組織に降り、オラリオへと襲撃を仕掛けてきたのだと云う。

 

「ザルドはオッタルに斃されたけど、そういえばアルフィアはどうなったんだろうな? リヴェリアとアイズとガレスがアストレア・ファミリアと共に対峙をして……顛末がよく判らないときた」

 

「私もアイズもあの時の闘いは記憶があやふやだったからな。ガレスもそれは変わらない」

 

「そうじゃな」

 

 ガレスも首肯する。

 

 何故かリューが身動ぎをしていたけど、確かにアストレア・ファミリアが関わっていたのであればリューも関わりが有ったのだろう。

 

 御開きと相成ってユートはリヴィラに向かうのも意味が無くて、自然が豊かなこの第一八階層を散策する事に費やしていた。

 

 前に来た時は特に寄る事も無くさっさと次なる階層を目指したから。

 

 尚、ヘルメスが覗きで捕まったりしたがベルはラブレスを相手に稽古、その為に激しく逃げ回る羽目にも陥る事が無かった。

 

「リュー?」

 

「ユート!」

 

 結果、リューの素肌を拝めたのはユートであったと云う事である。

 

「貴方に肌を見せるのは恥ずかしくはありますが……まぁ、良いでしょう。ですが流石に覗かれるのは不愉快です」

 

「済まんね、気配の赴く侭に来たら君が沐浴をしている処へ出会(でくわ)したんだ」

 

「……嘘では無さそうですね」

 

 そそくさと着替えたリューは信じてくれたみたいで矛を納めた。

 

「ユート、序でに少しお付き合いをして戴いても宜しいですか?」

 

「構わないけど」

 

 暫く歩いたら土が山の様に盛られた上に何故か武器が突き立てられた場所に。

 

「これ、墓標か?」

 

「御判りになりましたか。嘗て私が所属をしていたアストレア・ファミリアの仲間達。当時は未だLV.2の未熟でアストレア様の許に居たから助かったクロードと、アリーゼ達に逃がして貰えた私だけが生き残ってしまいました。この墓標となる武器達は遺体すら遺せなかった彼女達の代わりにこうして、アリーゼが好きだったこの地へと弔ったものです。事前に遺言みたいに聞かされていた事でもありましたしね」

 

「何があった?」

 

 リューの表情は悲痛、仲間を置いて逃げ出したというのがまるで剣となって今も尚、リュー・リオンの心に突き立てられているかの様だった。

 

 

.




 本当は例のアレのあれこれで引きの心算だったんだけど……


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