ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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 本来は前話でこの噺の三分の一くらいまで進めて引きをする予定でした。

 新章ですが可成り短いと思います。





第5章:闇派閥
第65話:暗黒期へと遡るのは間違っているだろうか


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「少し、昔語りをしましょう」

 

 リュー・リオンは生まれ育った森の排他的な、自分達を貴種の如く気位を持ちながら他者を見下すエルフらしいエルフを嫌い、飛び出してしまって迷宮都市たるオラリオへと辿り着いた。

 

 種族ま容姿も無関係に尊敬が出来る仲間というものを期待したが、結局の処でリュー・リオンは同胞以外では肌も晒す事が出来ずに覆面を被り、差し伸べられる手を悉く打ち払ってしまう。

 

 排他的で鼻持ちならないエルフを嫌って里を抜けた筈が、リュー・リオンは自らの心に壁を作って変わる事が叶わなかったのだ。

 

「所詮は私も里のエルフと変わらない……という事だったのでしょうね」

 

「それを理解しているだけマシだと僕は思っているんだけどね。それに……さ」

 

「あ……」

 

「ほら、振り払われない」

 

 ギュッと小さな、それに毎日の素振りで昔なら掌にマメを作っては潰していたから少し硬くて、シル・フローヴァみたいに柔らかいとは云えない手をユートに握られ、リューは頬を仄かに染めて小さな声を上げるものの振り払う事はしない。

 

「前にも言いましたが貴方で三人目、男性という意味では最初の一人です。とはいっても実は二人目にクラネルさんが居るんですが……」

 

「まぁ、ベルならな。僕がオラリオに来ていなかったらベルこそが最初の一人だったかもね」

 

「クス、そうかも知れませんね」

 

 握られた手が温かく心地好くて、アリーゼともシルとも異なる感触にリューの心臓が早鐘を打っており、モンスターが現れて御開きになってしまったデートを思い出す。

 

「デートをした時に軽くお話をしましたが、私はギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に載っています」

 

「聞いたな。元アストレア・ファミリアに所属をしていた冒険者、二つ名は“疾風”でLV.4まで至った第二級冒険者に位置していた。闇派閥への復讐から闇派閥の連中のみならず怪しいと視たなら証拠も何も無く屠り、結果として賞金すら掛けられてしまったんだったか?」

 

「はい」

 

 視線をユートから外すリュー。

 

「汚泥と血に塗れた汚らわしいエルフだと云えるでしょう、そんな私が……貴方の手を取って安らぐ資格など有るのでしょうか?」

 

「そういった意味なら僕も大して変わらないし、何ならリューより血で濡れた手なんだがね。ベルとは違ってそれこそ戦争で敵兵を手に掛けたり、盗賊共を殲滅したり、戦神アテナの名の下に敵対する神の闘士を『愛と平和を護る為』にと謳いながら殺したり……何て事を日常茶飯事にしていたくらいだからな」

 

「ユート……」

 

「因みに、大概の聖闘士は『地上の愛と正義』を護るとか言っているな」

 

「貴方は言わないと?」

 

「僕はやってる事が暴力に対して暴力で返すって解決法で正義を謳うのもなぁ……ってね」

 

「……神エレンいえ、エレボスも似た様な事を言っていましたね」

 

「エレボス……ね」

 

 確かエレボスもギリシア神話体系の神だった筈だと思い出す。

 

(混沌の海から産まれた暗黒神、僕が【ハイスクールD×D】の世界で喰った夜の女神ニュクスとは兄妹で、神話的には二柱が交わってアイテルとヘーメラーを産んだんだったな)

 

 尤も、あの世界のニュクスはユートと敵対した上で敗れた為に、ユートの権能である“闇を祓いて娶る美姫(プリンセス・アンドロメダ)”によりユートの女と成り果てた。

 

 “童貞を殺す神衣”? 童貞な一誠と木場祐斗には兎も角としてユートに効く筈が無く、敢え無くぶっ飛ばされましたとさ。

 

 尚、神話と違って子供を産む処か初めての経験だったので愉しめたのと、完全にメス堕ちさせてしまって神域に在るから【閃姫】契約は不可能だったけど、あの世界から出た際に付いて来させられるくらいに成っていたりする。

 

 とはいっても、それは無限の龍神オーフィスや龍天如リリスも同じ事だったが……

 

「貴方との逢瀬に応じながら結局、最後まで進む事が出来ないのも七年前に有ります」

 

「七年前……ね。確か闇派閥との大抗争が起きたのがその年だったか」

 

「はい。そして元ゼウス・ファミリアの“暴食”と元ヘラ・ファミリアの“静寂”が襲って来ました。都市内で“暴食”を相手にしたのは“猛者”、私達はダンジョンの此処……第一八階層で“静寂”と闘う事になりました。更にエレボスが深層域から誘き出したモンスター、彼が名付けた“神獣の触手(デルピュネ)”の相手を我々アストレア・ファミリアとロキ・ファミリア――“九魔姫”と“重傑”と“剣姫”が闘う事になってしまいました。『死の七日間』と呼ばれた忌まわしき日々でした」

 

「“静寂”のアルフィアのLV.は?」

 

「LV.7です。恐るべき音の超短文詠唱により我々は翻弄されるしか無かった」

 

「音……ね」

 

 目には見えない上にそれはさぞかし疾い攻撃であろうと、音速や雷速や光速というのに造詣が深い聖闘士でもあるユートは思った。

 

 音速――音が出す速度とは実に三四〇m/sであり、相手との距離が三.四mを離れていた場合は一秒間に一〇〇発もの攻撃を叩き込める。

 

 見えなくてそんな速度ではアストレア・ファミリアのメンバーも苦慮したろう。

 

「しかも応用力の高い魔法でした。しかも彼女は視ただけでだいたいの動きを真似る事が出来るのだとかで、“暴食”の動きを真似て剣を扱うなんて事も出来てしまいます。“剣姫”の剣を取り上げて攻撃をされた時には驚愕しかなかった」

 

「ふーん」

 

「ふーんって、驚かないのですね」

 

「いや、僕も出来るから」

 

「はい?」

 

「視た動きを真似るのは僕にも出来る。完璧を期するなら訓練は必要だけど模倣するだけならな」

 

「そ、そうですか……」

 

 だとしたら、ユートが闇派閥でなくて良かったというべきか? 或いは当時に彼が居たのならばアルフィアとの闘いも少しは良くなったか? などと益体も無い事を考えるリュー。

 

 いずれにせよ“才禍の怪物”と名高いアルフィアと似た事が出来る才に憧憬を禁じ得ない。

 

「然し、“暴食”は当時に“猛者”が斃したのは間違いありませんが……“静寂”がどうなったかは私にも判りません」

 

「“静寂”のアルフィアはガレスかリヴェリアが斃したんじゃないのか? 七年前ならアイズもまだLV.3が精々だろうからLV.7を相手にしても実力経験共に足りないだろうしな」

 

 今はLV.4なリューを含めて、アストレア・ファミリアのメンバーもLV.3くらいだったらしいし、当時にLV.5だったあの二人が力を合わせたなら或いはといった処だろう。

 

「実は闘いにとある人物が加わって、自身が斃した彼女を連れ去ってしまって……」

 

「へぇ?」

 

 LV.7を単体で斃せたなら本人もLV.7かそれ以上、然し当時にLV.6だったオッタルは“暴食”のザルド相手に闘っていて余裕など全く無かっただろう。

 

 聞いた話だけど殆んどの迷宮都市産冒険者達はLVが現在の1少なく、七年前の暗黒期を境目にランクアップを果たしていたらしい。

 

 リューも当時はLV.3、現在のLV.4には“静寂”のアルフィアとの闘い於ける経験値からだとか、更にアリーゼ・ローヴェルやゴジョウノ・輝夜やライラといった仲間達もランクアップしていた。

 

 ロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアなども同じくで、LV.5だったフィンやリヴェリアやガレスがLV.6に成って、LV.3であったアイズがLV.4に、フレイヤ・ファミリアだったら“猛者”オッタルが遂にLV.7に至る。

 

 それだけ“死の七日間”が過酷に過ぎたのだと、リューは当時を思い出して身震いをしていた。

 

「あの闘いの後に我々に捕らえられたエレボスはアストレア様の手で送還されました」

 

 エレボスはバベルの最上階――屋上にて送還される事を望み、その通りにアストレアにより傷を受けて自動的に“神の力”が発動して、神々により決められたルールの通りに送還されたのである。

 

「だけど……え?」

 

 伏せていた顔をリューが上げるとユートの後ろに黒い穴がポッカリと口を開けていた。

 

「ユート、後ろ!」

 

「っ!? 時空障壁が崩壊している?」

 

 黒い穴――正しく光も逃さぬブラックホールの如く吸収を始め、ユートですら抗えぬ程の吸引力により穴へと吸い込まれていく。

 

〔逝っちゃえハートの全部で! なーんちゃって……ですよ、優斗さん〕

 

 まるで六魔穴に吸われるアリババ神帝みたいに……というのはちょっと遠慮したい、何故ならアリババ神帝はその後にワンダーマリアの魔洗礼により、ゴーストアリババという悪魔のヘッドに変えられてしまうから。

 

「ユート!」

 

「よせ、リューも吸われる!」

 

「ですが!」

 

「心配要らない、すぐに帰るから」

 

 某か確信を得たのか、ユートは笑顔を向けながらはっきりと言い切る。

 

 ユート黒い穴に吸収されたら即座に閉じてしまって、リューは絶望感から表情が無くなってガクリと膝を付いてしまった。

 

「ユート……私は……こんな事なら貴方に初めてを捧げてしまえば良かった! あんな益体も無い()()なんか放っぽり出してしまえばっ!」

 

「え? じゃあ、今晩辺りにどう?」

 

「……へ?」

 

 声がした方を振り向けば、其処には特に怪我をした様子も無いユートが立っている。

 

 強いて云うなら装備品が変わっているくらい、何故だか黒いコートみたいな服を着ていた。

 

「ユ、ユート?」

 

「そうだが?」

 

「な、何で……」

 

 最早、リューの頭が追い付かなくなってしまったのか頭から煙を出す勢いで気絶する。

 

「ありゃりゃ、参ったねどうも」

 

 そんな可愛らしいリューの姿を視てしまっては下半身が元気になるが、取り敢えずお姫様抱っこに抱えてやるとロキ・ファミリアのキャンプへと戻るのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 場所的な移動は誤差の範囲内。

 

 然しながらユートがちょっとした既視感を覚えたのは、空中に投げ出されて真っ逆様に落ちてしまったからである。

 

 思えばよく同じ事は起きた。

 

 例えば【聖闘士星矢LC】で黄金聖闘士である蟹座のマニゴルド、彼との出会いからして今とは可成り状況が似ていたと云える。

 

「正邪の行進……否、正邪の決戦だ。嗚呼、そうだ――これが見たかった!」

 

 それは彼の邪神が身を震わせる程の光景であり両の腕を広げ、満面の笑みを以て本懐を遂げたのだと叫んでいた。

 

「過去と現在を繋ぎ、そして未来へと至る眷族の物語(ファミリア・ミィス)が! これこそ……え?」

 

 ゴチーンッ!

 

「うごっ!?」

 

「あがっ!」

 

 ユートが真っ逆様に落ちた先には黒衣に白髪の女性が居り、頭と頭でごっつんこをしてお互いに頭を抱えて悲鳴を上げている。

 

「ど、どうなったんだ? 何でこんな場所……ってか、此処はまさか……一八階層? 燃えているが間違い無い」

 

 それはユートにとって見慣れた第一八階層に似ているが、其処は燃える大地でおかしなモンスターが蠢いていた。

 

 ハッとして周りを見遣れば見知った顔が幾つか存在するが、緑の髪の毛のハイエルフやドワーフは兎も角として金髪金瞳の……大導師を思わせる容姿の幼い剣士――否、“剣姫”の二つ名を持った冒険者アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 竜にも似た怪物と戦闘中だ。

 

「過去……か」

 

 瞬時に理解をしたのはユートが既に幾度と無く過去へと戻る現象を体験してきたから、先程に於ける落下にて感じていた既視感とはゴッチンコもそうだけど、過去へと跳ばされた事によるものであったのは間違い無い。

 

「あの腐れ邪神が!」

 

 時間と空間に干渉してしまえる権能を持ちうる邪神、それは旧支配者の中に在って唯一封印を免れた存在――這い寄る混沌ナイアルラトホテップを意味している。

 

 となれば、下手にユートの姿を晒す訳にはいかないと未だに混乱する中で聖衣石を使って魔力でも使える黄金星聖衣を喚ぶ。

 

「我が身を鎧え、星双子座(スタージェミニ)よ!」

 

 オリヴィエというかヴィヴィオにも与えている星聖衣の双子座だが、ユートが造った魔導具であって本物の聖衣では無いから複数が存在した。

 

 バケツの様なマスクを装着していれば取り敢えず顔は見えなく出来る。

 

 バサリと水色で裏打ちされた純白のマントを棚引かせると、ユートは頭を抱えながら未だに何処か涙目な女性へと向き直った。

 

 周りからしたらギャグにしか見えない光景で、何故かモンスターですら茫然自失である。

 

「貴様、何者だ?」

 

「LV.2の上級冒険者にして双子座の黄金聖闘士……サガだ」

 

「セイント? 聞いた事も無い。それにLV.2だと? 其処の小娘共より下ではないか」

 

「フッ、実力は有りそうだが他者を見る目を養ってはいない様だな」

 

「ほう?」

 

「私が神より恩恵を得たのが一ヶ月程度前に過ぎないからLV.は確かに低い、だがそれ以前よりそこら辺の冒険者より実力が有ればLV.を超克しているとは思えぬか?」

 

 嘘と真実を混ぜ合わせたもの。

 

 基本的にユートは嘘など吐かない、然しながら基本は基本で応用という意味で嘘を吐く場合も。

 

「ならば見せて貰おうか。貴様が単なる()()か否かをな!」

 

「その前に此方は名乗った。お前も名前が有るならば名乗ったらどうだ?」

 

「ふん、存外と私も知られていないか。我が名はアルフィア。元ヘラ・ファミリアのLV.7であった“静寂”と呼ばれる者だ」

 

 態々、元の所属やLV.や二つ名まで明かしたのは此方の態度を見極める為なのだろう。

 

「そうか、では始めようか」

 

 当然ながら敵対的な相手に態度は変えないし、これだけ若くて美女なら斃した後は御楽しみ。

 

 まぁ、ロキ・ファミリアや後ろの少女達を鑑みれば流石に露骨な事は出来ないし、何より明らかに一桁歳なアイズ()()()の情操教育上に良くないから、ヤろうとしてもリヴェリアやガレスに間違い無く止められる。

 

 勿論だけど少女達からも。

 

 何しろ、リューが居るからには彼女達は正義なんて野暮を標榜するアストレア・ファミリアで、敵対していたとはいえ倒れた女を性的に貪るなど決して許しはしまい。

 

(まぁ、良いか)

 

 ユートが動かんとすると……

 

「【福音(ゴスペル)】!」

 

 一言、アルフィアの形が良くぷっくりした唇が動いてたったの一言で魔法が発動。

 

 パンッ!

 

 それは見えない一撃、それは余りに疾い一撃、総じて避ける事も防ぐ事も難しい、その名は音、音をその衝撃と共に放つ魔法だった。

 

 然しユートはそれをあろう事か拳を一振りするだけで掻き消す。

 

「なにぃ!?」

 

 流石に驚愕を禁じ得ない様だ。

 

「【福音】!」

 

 パンッ!

 

「我がサタナス・ヴェーリオンを先程砕いたのはマグレでも何でも無いという事なのか」

 

 超短文詠唱とは名ばかり、魔法名を唱えずとも詠唱式だけ唱えて放てるならそれはベルの使っている速攻魔法“ファイヤーボルト”と同じ。

 

 とはいってもそれならアイズの“エアリエル”も詠唱式――『【目覚めよ(テンペスト)】』だけでも発動しているから、そういった意味であるのならばユートは既に似た様な事例を視ていた。

 

「音による衝撃波、ならば同じく音による衝撃波で砕けぬ道理は無い!」

 

「貴様もサタナス・ヴェーリオンと同じ音の魔法を使うだと!?」

 

「違うな、間違っているぞアルフィア! 私がやったのは単に高速で拳を揮ったに過ぎん!」

 

「……は?」

 

 ポカンとなる美女顔、そしてそれは何だか矢鱈と格好付けた男神も同様だったし、何なら傍観者に成っていたアストレア・ファミリアのメンバーもマヌケ面を晒している。

 

「聖闘士は最下級の青銅聖闘士でもマッハ1の、と言っても解らぬのか……貴様の魔法が放たれる速度で動けるのだ。況んや、最上級に位置している我ら黄金聖闘士は光速――光と同等なのだ!」

 

 小宇宙を燃焼して黄金聖衣を纏っていたらという但し書きは付くけど。

 

「ひ、光? 何を言っている?」

 

「まぁ、解らないよな」

 

 秒速三四〇mとか理解していない、アルフィアが阿呆なのでは無くて物理学やら何やらが進んでいないからだ。

 

 或いは、迷宮都市とは異なる場所にそういった学び舎が存在するのかも知れないが、少なくともユートはそんなモノを知らなかった。

 

「クッ、ならばこれで!」

 

 それはユートが落ちて来なければアストレア・ファミリアに使っていた魔法。

 

「【祝福の禍根、生誕の呪い、半身喰らいし我が身の原罪】――」

 

 魔女による『第三の詠唱』。

 

「あれは短文詠唱じゃない! まさか、三つ目の魔法なの!?」

 

「しかもあれって……」

 

「超長文詠唱!?」

 

 リャーナ、マリュー、セルティというアストレア・ファミリアに於ける魔法の専門家、治療師と魔導士達がいち早く察知して口々に叫んだ。

 

 今までにアルフィアが使ってきたのは速度重視の音の砲撃、そして魔力無効化の付与魔法であったのに対してこれは『切札』とも云える魔法。

 

「莫迦なっ! あの男、あれ程の魔法を看過する心算なのか!?」

 

 輝夜が驚く。

 

「【禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罪】」

 

 動かないサガと名乗った男にアルフィアも苛立ちを隠せない。

 

(余裕の心算か!)

 

 詠唱中だから口には出さないだけ。

 

「【神々の喇叭、精霊の竪琴、光の旋律、すなわち罪過の烙印】」

 

 この魔法の正体にリヴェリアとガレスだけは知っていた、嘗て海の覇王リヴァイアサンにトドメを刺したアルフィアの必殺魔法。

 

「【箱庭に愛されし我が運命(いのち)よ――砕け散れ。私は貴様(おまえ)を憎んでいる】!」

 

 直に対峙するユート――サガが動こうとしないのに全員が焦りを覚える、それは大最悪と称された“神獣の触手”でさえ同じだったらしい。

 

「【代償は此処に。罪の証を以て万事を滅す――哭け、聖鐘楼】!」

 

 その詠唱が終わる。

 

 顔を照らして瞳すら灼く魔力の輝きは誰もが見惚れる美しき白では無く、魔女の荒む心象風景を映し出す“灰色の雪”であったと云う。

 

 アルフィアの病的に白い肌を露出した細い腕が天を掲げ、遥かな上空に魔力で構築されたであろう灰銀のオブジェが顕現化。

 

 正しく大鐘楼と呼べるモノだった。

 

 ゴーンゴーン! 詠唱の通り打ち振るえて慟哭を紡ぐ鐘の音色、それは終焉の訪れを示す未来とは決して繋がらぬ神聖にしてみれば破滅的、その気高く歪なそして荘厳な破壊の救世が全てを万事を消滅へと導く。

 

 アストレア・ファミリアの者が、リヴェリアとガレス……黒き暴風と化したアイズが、神獣の触手ですらも破滅に臆していた。

 

 海の覇王すら砕いた『滅界の咆哮』が灰銀の鐘の爆砕と共に放たれる。

 

「【ジェノス・アンジェラス】!」

 

 第一八階層を舐める炎を呑み込んで掻き消し、大地すら嘶く破局の濁流が破壊し尽くさんと洗い流していき、その余波でさえアストレア・ファミリアのメンバーに死を予感させた。

 

 LV.7が放つ砲撃、その効果範囲は対人戦としては広大な一〇〇Mを誇る。

 

(手ぇ出すべきなのによ!)

 

 アストレア・ファミリアの小人族のライラには必勝の策が在る、それは背中に取り着けていた盾で使えば間違い無くとまではいかないだろうが、アルフィアの必殺をどうにか出来る筈だった。

 

 だけど闘いが自分達とアルフィアから謎の男とアルフィアに移行、果たして“魔除けの大盾(アイギス)”を使うべきなのか逡巡してしまう。

 

 その刹那の逡巡が期を逸しさせた。

 

(ド畜生がぁぁぁっ!)

 

 間に合わない!

 

「確かに視せて貰ったぞ、“静寂”のアルフィアの三つの魔法の全てをな。次は我が双子座の奥義を魅せてくれる。見よ、銀河をも砕く煌めきを……銀河爆砕(ギャラクシアンエグスプロージョン)ッ!」

 

 ライラが目を閉じて顔を逸らした瞬間、頭上に両腕を掲げて十字に組んだユート――サガが両腕の間に膨大なるエネルギーを圧縮させて打ち合わせると同時に爆発、そのエネルギーの奔流により周囲に宇宙と銀河の星々のイメージを浮かべて、それが文字通りに爆砕するのが見えた瞬間に全てを押し流し破滅的な猛威を放つ。

 

 ジェノス・アンジェラスと銀河爆砕の二つによるぶつかり合い、果たして威力で押し負けたのはアルフィアのジェノス・アンジェラスの方。

 

「まさか!?」

 

 呑み込まれたアルフィアは悲鳴を上げる事すら赦されず吹き飛ばされた。

 

「見たか、双子座最大の拳を!」

 

 見た処か全身で浴びたアルフィアからしたなら堪ったものでは無く、聖衣という強硬な鎧を着けている訳では無い――一応は黒い衣服は防具として機能していたが――為に全身をスダズタにされて黒衣も下着も同じくスダズタに破れ去る。

 

 血塗れながら男を魅了する裸を晒して仰向けに倒れたアルフィア、大事な部位を隠すだけの力も既に喪って両目から血を流す様は泣いている様。

 

「ガフッ!」

 

 元より重病の身、それはあろう事か背中に刻まれた恩恵のスキルにさえ浮かぶ。

 

 最早、力無く地面に倒れ伏すアルフィアが背に感じる冷たい感触に身を委ねる。

 

「私の勝ちだな」

 

「ああ、ガフッ! 私の敗北だ」

 

「病か?」

 

「フッ、“才禍の怪物”と呼ばれながらも生まれ付いた病に苛まれてはこんなものか。我が双子の妹の才すら喰らった我が身の儚さよ」

 

「双子……か」

 

 成程、昔からユートは双子とは縁がある方だと思っていたけど、アルフィアも双子の姉といった立場に在ったらしい。

 

「まぁ、病に関してはどうとでもなる」

 

「な、なにぃ!?」

 

「勝ったからには貴様は我がモノ、二度と愚かな闇派閥とは縁を繋がせぬ」

 

 ユートはマントを外してアルフィアの身を包むとお姫様抱っこに抱え、アストレア・ファミリアとロキ・ファミリアと神獣の触手、更に闇派閥と共に居るエレボスを睥睨する。

 

「聞け! 私は七年後の未来よりとある邪神の力にて跳ばされた者! アルフィアは私が討ち果たした故に……七年後の未来に貰って往く!」

 

 我が耳を疑うアリーゼ達、エレボスはカオスを越えて来た未来人という言葉に驚くしかなかった。

 

「嘘は……言っていないな」

 

 神に下界の者の嘘は通じないからこそ解る為、エレボスは既にその笑いを止められない。

 

 邪神などと自ら宣うエレボスだったりするが、その実は下界の子供達を心から愛している。

 

 だが然し、邪神は邪神なのか下界を守護する為の手法は苛烈過激激烈だと云わざるを得ないものであり、即ち嘗ての最強二大派閥のLV.7であった“暴食”のザルドと“静寂”のアルフィアを以て見込みのある冒険者を篩いに掛けるという。

 

 それを成し遂げるべく闇派閥を率いて自らの事を『絶対悪』と評し、『正義』を掲げて活動をするアストレア・ファミリア……取り分け“疾風”のリオンに目を付け――というか目を掛けた。

 

 リューからしたら迷惑千万極まりない話だったろうし、殉職した親友の『正義は巡るよ』という言葉だって未だに上手く噛み砕けていない。

 

 この後に謂われる“大抗争”と“死の七日間”では迷宮都市が始まって以来で、最大限にヒトという種族がヒューマンやビーストやエルフやドワーフやパルゥムといった分け隔て無く死んだ。

 

 エレボスからしたら死んだヒト種族は篩いから零れ落ちただけ、生き残りは取り敢えず芽が出る可能性を秘めていた……とか、正しく神様視点で満足感に浸っていたのかも知れない。

 

 其処へ来て混沌の坩堝を抜けて顕れたのだと云う黄金に煌めく鎧を纏う双子座のサガ、名前には嘘を感じたから偽名なのはエレボスも理解をしていたが、彼が名乗った『聖闘士』という言葉には聞き覚えが有ったのだ。

 

(アテナ、三大処女神にして戦と技芸を司る女神である彼女が天界でも常々……言っていたな)

 

『私には聖闘士という主語を担う者達が居ます。黄金聖闘士、白銀聖闘士、青銅聖闘士……階級は様々ですが皆が皆、地上の愛と平和を守護(まも)るべく尽力をしてくれました』

 

(誰もが嘘だと断じた。彼女とは神友である筈のアルテミスやヘファイストスやタケミカヅチやミアハといった連中だって、やんわりとだが信じている様子では無かった。唯一、同じく三大処女神である炉神ヘスティアを除いては……ね)

 

 それがこんな極めつけな所に黄金聖闘士だと名乗る双子座のサガだ、しかもアテナは未だに降臨していないけど曰わく七年後の未来から来たのだとか、その言葉の意味を……重要性を理解しているのであろうか?

 

(七年後にアテナが降臨したのか?)

 

 アストレアに送還されたら是非ともアテナに問い質してみたいと思った。

 

 エレボス自身、これが分水嶺だったなどと全知零能たる神でありながら未だに理解をしていなかったのである。

 

 アテナ――サーシャが降臨したのは『聖闘士を見た』というエレボスの言葉が切っ掛け、彼こそ歴史を上塗りした張本神(ちょうほんにん)だったのだから。

 

「ま、待って下さい!」

 

「リオン?」

 

 ズタボロなリューが声を掛けて来たが、それをアリーゼが不思議だという表情で呟いていた。

 

 ユートとしてはアルフィアを抱き上げているから鉄板ネタは出せない。

 

「何だ? “疾風”」

 

「私を知ってるのですか?」

 

「私は何だと訊いた、疾く話せ」

 

「……わ、判りました」

 

 余計な話をする心算など無いと釘を刺されたのだと感じ、リューは少しだけ俯いたけど直ぐにも顔を上げると本題に入る。

 

「貴方が未来から来たという事は過去へと戻れるスキルか魔法を持つ筈、ならば貴方に親友を救って欲しいと頼みたいのです!」

 

 アリーゼ達が驚きに目を見開いた。

 

「無論、この様な頼み事を無償でやって欲しいと恥知らずな事は言いません。聞いて貰えるのなら私に出来るあらゆる事を厭いません」

 

「リオン、貴女……」

 

「この青二才が!」

 

 アリーゼのみならず輝夜も呟く。

 

「無理だな」

 

「……何故です!」

 

「私がこの地に来たのは時空間すら行き来が可能な邪神の仕業、私自身も一応は過去に戻る術を持ち合わせてはいるが……それは過去に私が居る事が前提条件。私は元々がこの世界の人間では無いのでね、この世界の過去に私は存在していないのだよ。彼の邪神ならば可能でもな」

 

「そ、そうですか」

 

「とは言え、私は自身の埋に願望器を内包しているのだ。“疾風”の願いが願望器を動かせる程に強いのならば、君の先程の言葉通り七年後に貰い受けに行くのを条件として叶えよう」

 

「っ! 本当ですか!?」

 

 ユートはリューの親友――アーディ・ヴァルマの死んだ日時と状況を話す。

 

「自爆テロか、よく有る手だが……」

 

 よく有って堪るかと叫びたいアストレア・ファミリアのメンバー、因みにだが神獣の触手と幼いアイズが戦闘を再開しているので時間は無い。

 

「チッ、カイロスの名に於いて……」

 

 それは自分達の時間を加速化、言い換えるならば周囲の時間を鈍化させる行為である。

 

「これは!」

 

「時間を加速化した。これを見破れるのは神であるエレボスくらいだろうな」

 

「なっ!?」

 

 全員が驚愕した。

 

「余り時間は掛けられぬ。手短に言うがな仮令、アーディ・ヴァルマを救ったとしても君らがそれを知る事は無い」

 

「それはどういう?」

 

「『親殺しのパラドックス』、アストレアに訊けばこれで通用するだろう」

 

「アストレア様に?」

 

「彼女も神なら解る筈だからな」

 

 ユートは小さな杯を取り出して渡す。

 

「これは願望器――聖杯の子機だ。それに強く願うが良い。アーディ・ヴァルマを救いたいと」

 

「は、はい! アーディッッ!」

 

「リオン、私も」

 

「アリーゼ」

 

「チッ、青二才め」

 

「私らも!」

 

「輝夜、ライラ、マリュー、リャーナ、セルティ……皆まで」

 

 今居るアストレア・ファミリアの全員が一つの想いで希う、『どうか我らが友を、アーディ・ヴァルマを救い給え』……と。

 

 この時ばかりは周囲、神獣の触手がどうのとかエレボスがどうのなど考えもしない。

 

 聖杯に罅が入って遂にはパリンと軽快な音を響かせて割れると、光が溢れ出してユートの中に在る親機とでも云う大聖杯が共鳴する。

 

「七年後の約定、違えるなよ」

 

 そう言って、アルフィアと共に消えてしまった双子座のサガをアストレア・ファミリアのメンバーは見送るしか出来なかった。

 

 その後はだいたいが本来の起こり得た歴史と些かの違いも無く、アストレアによるステイタスの更新でランクアップしたリュー達が加わった事で神獣の触手は討伐され、バベルの天辺にて最後の儀式として邪神エレボスが送還される。

 

 だけどアーディ・ヴァルマが生き返ったなどという話も無く、リュー達はアストレアからサガから聞いた話を以て問い質して理解した。

 

 歴史の分岐、それに伴う平行世界化、歴史の収束や世界線を意図的に増やす危険性などを。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あれか」

 

 アーディ・ヴァルマと思われる少女が小さな、幼女としか思えない娘へと近付いている。

 

 とある建物の中、白衣に顔を隠した幼女が手に短剣を持ってアーディ・ヴァルマに襲い掛かり、それを防いだ後に幼女へとゆっくりと歩み寄っているのが判った。

 

 ユート自身は透明化呪文で姿を消した上で念能力の自作応用技“然”により、気配を周囲と同化させる事で完全に姿も気配も見せない状態だ。

 

 可成り達人であろうゴジョウノ・輝夜、そして敏感なライラですらも気配の違和感に気付かない程に徹底している。

 

「ナイフを捨てて! 闘っちゃ駄目だよ! 君みたいな子に武器を持たせる大人なんかの言う事を聞いちゃいけない!」

 

 怖がらせない様にゆっくりと。

 

「私は君を傷付けたりしないよ? さぁ、此方へおいで」

 

 そんなアーディ・ヴァルマを視て邪悪な笑みを浮かべる女が居た。

 

「ヒャハッ!」

 

 ラフな美女ではあるが気持ちが悪いくらいには悪意を篭めた嗤い。

 

 幼女は涙を流しながら……

 

「…………かみさま……おとうさんとおかあさんに会わせて下さい――」

 

 呟いた。

 

 カチリと小さな音。

 

(此処だっ!)

 

 刹那の大きな爆音が幼女を中心に響き渡って、煙が晴れたその先に幼女もアーディ・ヴァルマも居なかった、爆発した跡が確かな存在を示しているのみであったと云う。

 

 唯一、アーディ・ヴァルマのモノと思われる小さな右腕が落ちていた。

 

 それは本来の世界線では無かった事、β世界線でのみ起きた意味の無い出来事であったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「やれやれ、落ち着いたかな」

 

 自作の栄養剤を飲みながら呟くのは黄金聖衣を脱いだユート、正確には星聖衣と呼称をしている魔導具としての聖衣である。

 

 アルフィアとアーディ・ヴァルマはどちらも謂わば重病や重傷、取り敢えずアーディ・ヴァルマに関してはさっさと治療用ポッドに放り込む。

 

「さて、アルフィア」

 

「何だ?」

 

 マントは剥がされて黒衣も下着も無くしているアルフィアは、巨大なベッドの上で裸体を晒した侭で寝かされていた。

 

「生きる気は無いのか?」

 

「この生まれ付きの病、不治の病として医療の神ディアンケヒトやミアハですら治せないこれで、抑々が生き続ける事自体が不可能だろう」

 

「確かに医療神が匙を投げるレベルではそんじょそこらの医者では……な」

 

「だからヤりたいなら勝手にヤれ。敗北したからには抗ったりはせん、そして好きに犯したならば早々に死なせろ。本来ならこの身を焼いて灰としてしまい、この世に遺す心算など無かったがな」

 

 それは諦観からくる科白だろう。

 

「良かったな、私は美しいとは言われてきたものの病身であるが故に男と番う事も無かったから、男なら好きだろう? 初めての女を蹂躙して征服感に酔い痴れるのは」

 

「そうだな……死に対する飽く無き欲求は妹との再会を夢見てか?」

 

「フン、死の神との契約か? エレボスが言っていたが、そんな詰まらん契約などしていないさ」

 

 死の神と聞いて思い当たるのは自身の権能の基でもあるタナトス。

 

「始めるか……『我は東方より来たりし者也て闇を祓う燦然と耀ける存在。照らし出す曙光にて竜蛇を暴き、我は汝を妃として迎えよう』」

 

「魔法?」

 

「【闇を祓いて娶る美姫(プリンセス・アンドロメダ)】」

 

「む、うぅ……っ!?」

 

 唇を奪われたアルフィアは刹那、まるで蕩けるかの如く快感が襲い来て脳を灼かれてしまう。

 

 グルンと白目を剥いて気絶して、何故だかは知らないがベッドの白いシーツを濡らすのだった。

 

 

.




 アルフィアとアーディはズタボロだけど命だけは助かりました……まぁ、治すんですけどね。


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