ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

67 / 74
 今回は話し合うだけの噺。




第66話:アルフィアとの話し合いは間違っているだろうか

.

 気絶をしたアルフィアの肢体を温水で濡らしたタオルにて拭いてやり、綺麗に清めてから簡単に着せれる白いワイシャツと彼女にサイズが合ったショーツを穿かせてやる。

 

 とはいえ、アルフィアは可成りの美女だったからちょっとユートのJr.が奮起していたから少し困ってしまい、已むを得ないから拠点として使ってる星帝ユニクロンで働く茶々号に相手を頼んだ。

 

 ガイノイドという括りにはなっているけれど、茶々号は基本的に生身の人間と変わらない。

 

 違いは流石に孕まないという点。

 

 はっきりと云えば人造人間18号と同じレベルな肉体であり、某・自慰人形何かとは訳が……モノからして全くの別物だ。

 

 皮膚の柔らかさも内部の温かみも全てが人間のソレと変わらない。

 

 また、茶々号にも意志は有るから嫌なら拒む事も出来るのだけど、マスターだからでは決して無くて好意を持つから受け容れていた。

 

 終わった後は頬を赤らめながら笑顔を向けて、一礼をしてからベッドメイキングを始める。

 

 正しく玄人の仕事で、手早く丁寧にベッドが整えられていくのは見ていて圧巻だ。

 

 全てを終えた茶々号は自らを清める為に部屋に備え付けのバスルームへ、小一時間も経った頃には身体は疎かメイド服もビシッと決めていた。

 

 これから夕飯を作るのだろう。

 

「目覚めてるな? アルフィア」

 

「ああ」

 

 ムクリと起き上がるアルフィア、眠りに就いて少しは体調も良くなったらしく死人みたいだった顔は溌剌では無くとも、充分に生きた人間である事が判るだけの表情ではある。

 

「身体に違和感は無いな。まだ犯していなかったのか? よもや不能……」

 

「んな訳があるか! 意識の無い女を抱けるか。ヤってる最中に気絶したのなら兎も角」

 

「……」

 

 ジト目になるアルフィア。

 

「まだ死にたいとか思うか?」

 

「……無いな」

 

 驚く程に妹の許へ逝きたいという負の思いが消えていた。

 

「上手く作用しているみたいだね」

 

「何をした?」

 

「僕が異世界から来た異邦人だとは言ったな? その異世界で僕は神を弑逆して権能を簒奪するに至っている」

 

「神を殺した?」

 

「ああ。少なくともこの世界の神みたいなおかしなルールの無い、つまり全知零能なんかでは無い神を……な」

 

 どちらの神が強いのかとかの議論はこの際だから扨置いて、全知零能で降臨をした此方の世界の神は肉体的に視ると人間とまるで変わらない。

 

 ユートが殺したのはそんな縛りの無い状態だった“まつろわぬ神”、一種の災害が人の形を執って顕れた様な存在であるけど、その正体はといえば遥かに続く神話から抜け出した神々。

 

 故に神話が書き換わればその在り様も変化をするし、何なら既に現世に現界をしている神とは別に同じ名前で性質も性格も違う神が現界するなんて事だって有り得る。

 

 それが【カンピオーネ!】という世界に顕れている“まつろわぬ神”であり、円環の理により斃された暁には斃した人間に神氣が吸収される事で、人間の肉体は神の権能を扱い得るモノへと作り替えられ、王者――チャンピオン――カンピオーネと呼ばれる存在に進化をしていた。

 

 また、ユートはその生まれ付いた特性によって【カンピオーネ!】世界から離れていても超常的な存在を斃し、そのエネルギーを喰らう事で権能を簒奪する事が出来る様に成っている。

 

 故にこそ、再誕世界で既に喰らっていた神々の神氣などから権能を獲得していたし、今回に於いてリュー・リオンの願いを叶える為に使われている権能――【万能の杯より溢れ出る(グレイテスト・ジ・ホーリーグラール)】は再誕世界に混淆をしていた【Fate/ZERO】の第四次聖杯戦争に勝ち抜き、あの悍ましい悪意の泥を喰らい尽くしていたのが権能へと変化したモノ。

 

 万能の願望器という設定が頭に有ったからか、他人の願望を叶える能力として発露していた。

 

 何故かユーキ――ハルケギニア時代から傍に居る義妹兼【閃姫】が、【Fate/stay night】に付いて教えてくれた際に『聖杯とは万能の願望器』という設定をしつこいくらいに繰り返していた為、ユートの中の方程式になってしまったくらい。

 

 但しユートが願いを恣意的に叶える場合は兎も角として、不特定多数だった場合はそれこそ何を措いても叶えたいという、切なる願いでなければ反応しないから大概はユートの望みを相手は聴いてしまう。

 

 それこそユートから『抱かせろ』と言われれば悩みこそすれ、最終的には願いを叶える事を優先して抱かれるのだから。

 

 存外とユーキはこの事を知っていた節があり、問い詰めたらユートが何処かしらのタイミングでカンピオーネに転生するのは、ハルケギニアに来ていたアイーシャ夫人から聞き知っていたとか。

 

 実際にも不特定多数からの願いで引っ張られた世界で出逢った三人、それは【コードギアス】の世界の各国トップクラスの美女だった。

 

 容姿は元より政治的にも。

 

 切り捨てた兄を、婚約者とか宣っておきながら切り捨てた男性を、兄で父で出来たら結ばれたならと夢想した男性を……救いたい。

 

 そんな願いを掛けてきた。

 

 それに引っ張られて三人が集まって開いていた御茶会に落っこちたのである。

 

 流石にごっつんことはいかなかったのだけど、三人の美女が酷く混乱していたのは間違い無い。

 

 それは扨置き説明する。

 

「アルフィアが気絶をした理由は、僕との濃厚なキスが原因だったわけだけどね。あれも神殺しで得た権能なんだよ」

 

「権能……確か神が神足らしめる力を権能と呼ぶとバんんっ、ヘラから聞いたな」

 

 彼女が怖いもの知らずなのは間違い無い様で、自身の元主神を割と悪口レベルで呼ぼうとした。

 

「僕の世界でペルセウス。神の血筋でアテナより武具を授かり、ゴーゴン三姉妹の末妹メドゥーサを討ち果たした後に帰還時、エチオピアの美しき王女アンドロメダの容姿を神を貶す形で褒め称えた王に対し、国を亡ぼされたく無ければ王女を海の獣に生贄として捧げる命令を出され、阿呆な王は泣く泣くアンドロメダ王女を生贄に……それに遭遇したペルセウスがメドゥーサの生首を使って海獣――ティアマトーを石化してアンドロメダ王女を自らの妃としたって神話がある」

 

「ほう?」

 

「僕はその神話から顕れた“まつろわぬペルセウス”を討って権能を簒奪したのさ」

 

「? 神が子を成したというのは世界が違うからで納得したが、ペルセウスとやらは神では無くて神の子の筈ではなかったか?」

 

 当然の疑問だろう。

 

「神話にも二種類以上、裏や表や側面や中心といった多面性が在るもんでね。ペルセウスの神話もさっき言ったのとは別の側面もあるのさ。例えば女神アテナとメドゥーサは同一神格、更にアテナの父親はゼウスで母親は智慧の女神メティスで、実はこれは三位一体を意味しているんだ。娘である処女神アテナ、母親であるメティス、女王であるメドゥーサというね。これを紐解けば女系社会から男系社会への移り変わりが見て取れる」

 

「ゼウス……だと?」

 

 ゼウス・ファミリアとは仲良く喧嘩しなみたいな関係、だから狒々爺で好々爺な主神ゼウスとも謂わば知り合いであった。

 

 よくセクハラされたものである……が、その都度で“福音(ゴスペル)”ッてぶっ飛ばしている。

 

「女系社会の頂点としての女王メドゥーサだが、これが零落してゼウスが妻とした母親メティスに移り、更にメティスも身籠もって王権を奪われんとメティスを呑み込み、頭から生まれた処女神として娘のアテナが誕生をした。男系社会に成って女王メドゥーサは単なる怪物として退治された。他なら無いアテナによる依頼で……ね」

 

「胸糞悪くなる話だな」

 

「その主人公ペルセウスもそうだ。怪物メドゥーサを退治した彼は美姫と名高いアンドロメダ王女を娶るべく、海獣ティアマトーを討ったというのが一般的な神話だ。だけど実は討ったティアマトーこそが助けたとされるアンドロメダ王女の事。神話上でティアマトーも海水を司る女神であり、淡水――地下水を司るアプスーの妻。神話の謂わば乗っ取りと書き換えで美談化しているんだ」

 

「敵の女を斃して娶るペルセウス……お前が言っていた権能というのは!」

 

「正解。その名を【闇を祓いて娶る美姫(プリンセス・アンドロメダ)】っていうんだよ」

 

「フッ、私の精神的な変革はその為か。全てを終わらせて未来の英雄共の礎と成った後は肉体を灰にして終わる……そんな末路を考えていたのに今は死にたいと思えん」

 

 この権能は洗脳して強制的に性の奴隷へと変える……とか、よく見るニコポやナデポ的な権能とは違うから仮に洗脳解除をしても治らない。

 

 単純に考えの優先順位の上位が入れ替わるだけでしかなく、その空いた上位にユートの存在が入っているから相対的に好意を持ち易くなる。

 

 事実として今のアルフィアはユートへの想いで熱に浮かされた感じは見えなかった。

 

 とはいえ、“才禍の怪物”と呼ばれる才能の権化たるアルフィアは苛烈な女帝でもあり、それが今はナリを潜めているのだから権能は効いている。

 

「さて、僕の事に関しては少しずつ理解して貰うとして……だ。今はアルフィアの事だな」

 

「私? 何を知りたいと? ゼウスの様にスリーサイズとかが知りたいのか?」

 

「それも興味は有るけどね、君が寝ている間に髪を一本だけ拝借した」

 

「髪? そんなものをどうする」

 

「髪の毛の一本だけでも遺伝情報の塊だからね、君の病に関しても判る事は有るだろうと思った。遺伝病の一種で恐らく身内に同じ病に罹患していた者が居たんじゃないか?」

 

「ああ、双子の妹メーテリアがな」

 

「そういや双子……か、それで」

 

 確かに遺伝性だから双子なら同じ病に罹っていてもおかしくは無い。

 

「それと思っていたより面白い事が判ったんだ。君には三親等内の身内が居るんじゃないかな? 妹のメーテリアだったか、彼女には息子が居る筈だよな?」

 

「な、何故知っている!?」

 

「アルフィアの遺伝情報と僕の知り合いの少年の遺伝情報に近似値が有ったからだよ」

 

「遺伝情報?」

 

「と言っても伝わらないよな」

 

 勿論、莫迦にしている訳では無い。

 

 その手の勉強をしていないアルフィアに通じないのは当たり前、ユートだって小学一年生の時に因数分解を求められても理解は出来なかった。

 

 求められた事は無いが……

 

「そうだな、アルフィアをアルフィア足らしめている設計図で判るか?」

 

「何となくだがな。要するに髪の毛をどうにかすれば私を構成する何やかんやが判る。親族であればその設計図とやらも似ているといった処か? つまりお前の知り合いの設計図と私の設計図には類似性が有り、それが似ていれば似ている程に近しい親族という事だな」

 

「理解が早い。そして近い事を親等と呼ぶんだ。三親等なら曾祖父母、甥や姪、おじやおば。つまりアルフィアと彼は三親等内の血縁者だね」

 

「そうか……」

 

 何故か浮かない表情。

 

「どうした?」

 

「いや、あの子から御義母さんと呼ばれるのなら未だしもオバサンと呼ばれたく無かったからな」

 

 事実はそうでも二四歳と若い身空、女心というのは矢張り複雑怪奇なのだろう。

 

「話は戻すが、アルフィアの病をどうにかしないといけないな」

 

「どうにかと言われてもな、不治の病だと言っただろう? しかもメーテリアとは違って私の場合はスキルにまで顕れている呪いにも近い病だ」

 

「スキル?」

 

「“才禍代償(ギア・ブレッシング)”というスキルでな、能力の常時限界解除の代わりに戦闘時や発作時には複数の状態異常を併発して、その発動中は半永久的に能力値や体力や精神力を低下させ続ける。忌々しい事にな」

 

「スキル……何だ、それなら簡単じゃないか! すぐにも治せる」

 

「ハァ?」

 

「僕の能力の中の一つにはとある世界で修得をした念能力というのが有ってね、その念能力の中に僕が直に殺した乃至は性的に絶頂させた相手の魂を掌握し、魔法やスキルを模倣や簒奪をする事が出来る“模倣の極致(コピー&スティール)”ってのが存在する」

 

「模倣や簒奪だと?」

 

 その意味に気付いたアルフィアが珍しく冷や汗を流しながら叫ぶ。

 

「お前は本当にLV.2なのか? 明らかにそんなLV.ではあるまい! 私を斃せた事実だけでLV.7は最低限で有る筈だ!」

 

「言っただろう? 僕は素で第一級冒険者と変わらんだけの力が有るんだよ。LV.にしたって僕が恩恵を得たのが約二ヶ月前くらい。寧ろランクアップの最速更新記録じゃないかね?」

 

 正確にはベルの方が僅かに早かったらしいから原典通りの渾名が付いている。

 

「フィンを知ってるか?」

 

「ロキ・ファミリアの首領だろう」

 

「彼奴はロキに出会うまで自身を限界まで鍛え抜いて、間違っても恩恵に振り回されない様にして備えていたらしい。だからフィンはLV.1当時からLV.に合わない強さを持っていたとガレスから聞いたぞ」

 

「ロキ・ファミリアと親交があるのか」

 

「というか、ロキ・ファミリアの遠征の真っ最中って訳でも無いか。帰りの真っ最中、この時間軸に跳ばされたんだよな」

 

「ほう、何階層だ?」

 

「第五九階層」

 

 アルフィアが失望感丸出しに……

 

「何だ、まだレコード更新ならずか。七年後だと云うならゼウス・ファミリアのレコードを破っても良さそうなものだがな」

 

 レコード更新が出来ていない事でロキ・ファミリアを批判する。

 

「無謀な賭けに出てファミリアを死なせたく無いってのもあるだろうし、無理して育てた連中が死ねばそれが全て無駄になるからな。育てるのってコストが掛かるから」

 

「冒険する気が無いなら冒険者など辞めてしまえとしか言えんな」

 

 自分とベルの担当アドバイザーなエイナと真逆の事を言うが、実際にユートも冒険者の在り方という意味ならアルフィアが正しいと思った。

 

 だけど無意味に冒険をするのも冒険者では無いと考えており、本当にその時が来たならばそんな時にこそ冒険をするべきだと考える。

 

 ()()()が来て冒険が出来ないのなら、それこそアルフィアが言う通り辞めた方が身の為だろう。

 

 未来の英雄に斃されて礎に成るべく『絶対悪』にまで身を堕としたアルフィアからしたならば、今現在……というか七年後のロキ・ファミリアの在り方は認められないらしい。

 

「兎に角、その“才禍代償”ってスキルを僕が奪えば病は無くなる。それとアルフィアの恩恵は破棄して貰うぞ」

 

「破棄?」

 

「この短刀、コイツは裏切りの概念が篭もっている概念兵装とでも呼ぶべき宝具。その効果は魔法的な契約事項を破壊する。“神の恩恵”も破棄が出来るのは実験済みだ」

 

「何故、そんな必要がある?」

 

「アルフィアには七年後、迷宮都市でアテナ・ファミリアに入団して貰う。だけどその際に恩恵が刻まれていたら不都合だからな。況してや嘗ての二大派閥の片割れでLV.7だぞ? 序でに言うならアルフィアは迷宮都市を恐怖のどん底に陥れた闇派閥だったんだしな。名前も姿もある程度は変えて恩恵を破棄すれば君自身の隠し子とかでも通用するだろうさ」

 

「待て、名前を変えても恩恵を刻まれたら本名が顕れるだろうし、神に訊ねられたら偽名なんてのは意味があるまい」

 

「大丈夫。僕の念能力に“人物再設定(キャラクター・リメイク)”というのが有ってね、それを使えば名前や身長なんかを割と変えてしまえるから」

 

 アルフィアの開いた口が塞がらない。

 

 変えられるとはいっても、髪の毛の色や瞳の色を自在には出来ないので瞳は虹彩異色からどちらかの色に変え、身長を一五歳の平均くらいにしてしまう程度であろう。

 

「精々が可能性から選べる程度でも意外と大金を支払ってでも依頼したいってのは有るみたいだ」

 

「成程な」

 

「先ずは病をどうにかしないと始まらないから、アルフィアとしては構わないのかな?」

 

「仕方があるまい」

 

 今のアルフィアの格好は裸の上にワイシャツとショーツを穿いただけ、余りにもエロティカルな格好をした二四歳な美女だったからユートの下半身のJr.がガチガチに反り返っており、よく襲わないものだと自分でもその自制心を褒め称えた。

 

 だがそろそろ限界を越えた天元を突破しそうだったから、病を取り除くのと同時にこのエロ気分を解消するべくアルフィアを押し倒し、憎まれ口を利くその口を塞いでやる。

 

 それから約三時間後、流石にヨレヨレな腰砕けになったアルフィアはベッドで俯せ状態であり、すっきりした表情のユートは未だに元気が有り余って四枚のカードを弄んでいた。

 

「それは?」

 

「念能力“修得之札”で創ったカード、この四枚にはそれぞれ“才禍代償”と“サタナス・ヴェーリオン”と“ジェノス・アンジェラス”と“静寂の園(シレンティウム・エデン)”を封じてある」

 

 因みに、試しだと発展アビリティにも手を出したら普通に簒奪が出来てしまう。

 

「そういえば魔法も取るのだったか。という事は今の私は何の力も無い女……だな」

 

「まだ恩恵を破棄していないからLV.7の身体能力は顕在だけどな」

 

 この身体能力だけでもLV.5の第一級冒険者を翻弄が出来るだろう。

 

「それに恩恵を破棄したら魔法もスキルも消失するんだし、流石に魔法は勿体ないからこうやって簒奪しておいたんだ。アルフィアが再び恩恵を得たら多分だけど同じ魔法が出るだろうし」

 

「そうだな、魔法やスキルはその者がどんな経験を積んだか、どんな人生を生きてきたか、どんな思想を持っているかで決まる。それならば私は再びサタナス・ヴェーリオンやジェノス・アンジェラスを得るのだろう」

 

「その上で才禍代償はもう出ない」

 

「ああ、こんなに軽やかなのは初めてだ。出来ればメーテリアにも感じさせてやりたかったな」

 

 アルフィアのこれは正しく愛ですよ! なんてウェル博士ムーヴをしたくなるくらい、妹であるメーテリアへの愛で溢れた科白を見た事も無いくらい優しい表情で呟いている。

 

「ジェノス・アンジェラスは使い様が無いだろうけど、サタナス・ヴェーリオンはベルでも普通に使えるだろうしやるのも有りか?」

 

「ベル?」

 

「ああ……って、メーテリアの息子の事だぞ? アルフィアの甥だ」

 

「! そうか、ベルというのか」

 

 どうやらアルフィアはメーテリアの息子の名を知らなかったらしい。

 

「まさか、知らなかったのか?」

 

「直接会った訳では無いからな。遠目に一度だけ見て……オラリオへ向かったんだ」

 

「ああ、そういう……」

 

 母親の姉だと名乗り出た場合、ベルの事だから十中八九で『伯母さん』呼ばわりするだろうし、そうなれば瞬時に『福音(ゴスペル)』の科白と共にベル君は吹っ飛ばされている筈。

 

 呼ばれたく無いから会話もせずに遠目に見るだけで満足したのだと云う。

 

「って事はベルは身内が居た事も知らない侭で、祖父との二人暮らしだったって訳か。しかもベルからの話の内容から如何にもゼウスっぽいよな。ハーレムは浪漫とか言っちゃってるしね」

 

「そうか、あの糞爺が……な。ベルの情操教育によく無いのは理解した」

 

 ゼウスで間違い無いらしい。

 

 ハーレムに関してはユートも別に言う事なんか無くて、何なら本人が千人クラスのハーレム保有者なのだから言える訳が無かった。

 

「あの子……ベルの冒険者としての資質はどうなんだ?」

 

「はっきり言っても良いか?」

 

「構わん、忖度されても困る」

 

「無いな。ベルの冒険者としての資質は、はっきりと言えば全く無い!」

 

「そうか……だろうな。メーテリアは私が資質を奪ってしまったし、奴は逃げ足だけのサポーターに過ぎなかったからな」

 

 それが事実かどうかは扨置いて、アルフィアがそれこそ誠だと言うなら否定をしても意味などは無いし、どうやらその逃げ足だけのサポーターとやらには可成り御立腹らしい。

 

 まぁ、可愛い(メーテリア)を孕まされたのだから仕方が無いのだろうが……

 

「とは言え、それは飽く迄も一切の出会いが無かった場合のベルの話だよ」

 

「と言うと?」

 

「【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか】ってね、ベルは良きにしろ悪しきにしろ迷宮都市で様々な出会いをした。それが成長を促していたし、人間として冒険者として飛躍をしていく切っ掛けも得た」

 

「飛躍とは大きく出たな」

 

「特に初期はダンジョンに出会いを求めて……何て言って主神を驚かせたけど、第五階層で出会ったアイズに淡いときめきと強さへの憧れを抱いた時に発生したスキル、こいつのお蔭もあって僅か二ヶ月足らずでLV.2にランクアップした」

 

 そんなベルだから二つ名“リトル・ルーキー”と同じく、別名的に“世界最速兎(レコードホルダー)”なんてのを都市内で呼ばれていたりする。

 

 日数的にギリギリながらユートより早かった、それが原典通りに呼ばれている理由であった。

 

 若しもこんな出会いが無かったら何処ぞの数年前もLV.2で燻っているオッサンの如く、能力値の上昇が遅々として進まずLV.2に至るまでにそれこそ数年は掛けていた筈だ。

 

「莫迦な、二ヶ月足らず……だと?」

 

 アルフィア自身が十代でLV.7にまで至っている才能の権化、だけどメーテリアやあの男の血筋で自分より早くランクアップした事実に驚く。

 

「“憧憬一途”」

 

「リアリス・フレーゼ?」

 

「ベルがアイズ・ヴァレンシュタインに出会い、ミノタウロスから救われた際に得た成長促進系のレアスキル。お陰でちょっと冒険したらあっという間に基本アビリティが総計数百と上がったよ。アイズへの想いと憧れがベルを飛躍させたのさ」

 

 本来ならば何ら冒険者としての資質を持たない筈の子供が、力強い憧憬を刻んで英雄へと至るに足る資格を手にした。

 

 だけどユートは英雄に反対派、自身も発展アビリティに“反英雄”を取ったくらいには。

 

 “耐異常”と“狩人”の複合型アビリティであり、英雄的な存在とユートが認識する相手に対しては能力値が極度に上昇し、敵対的な反存在に対しても少し能力値が上昇、人類を脅かす存在に対しては英雄的な存在より更に能力値が上昇する。

 

 例えば三大冒険者以来の陸の王者や海の覇王や隻眼の黒竜は間違い無く対象だ。

 

「スキルにせよ魔法にせよ、その人間の想いこそが力に換わったモノ。神々はそれを発掘して顕象させている。想いが良きにしろ悪しきにしろな」

 

「ベルの場合は“剣姫”への初恋と憧憬か。それで肝心の“剣姫”はどう考えている? 私が知っているのは“神獣の触手”とエレボスが名付けたモンスターに挑む姿のみだからな」

 

「少なくとも、七年後(げんざい)のアイズは七年前(かこ)に比べれば丸くなってはいる。ダンジョン狂いや強さへの渇望は変わらないけどな。

 

 鍛冶師にしてLV.5の椿・コルブランドが、アイズのデスペレートを研ぎながら『鞘を得た』と言及していた。

 

「それで、肝心要のベルに対する気持ちはどうなっている?」

 

「今の処は考えられないんじゃないかね? 強く在らねばアイズの隣には立てない……とはベートの科白だが、実際にアイズ本人も恋愛より復讐心を燃やしたいみたいだからな」

 

 とは言え、原典主人公だと思われるベル・クラネルの全てを変えたのがアイズ。

 

(多分だけど本来はベルのハーレムメンバーだったと思われる連中、殆んどが僕の方に来ちゃっているんだよな。リリ、春姫、レフィーヤは微妙かな? 恐らくリューやエイナも怪しいよな)

 

 原典となる作品そのものを識らないのだから誰がヒロインで、誰がヒロインから落ちるのか或いはハーレム化で全員が嫁なのかなど判らない。

 

「まぁ、ヤる事もやるべき事も終わったんだから恩恵を破棄するぞ」

 

「ああ、やってくれ」

 

 どうせあの闘いで死ぬ予定だったのが想定外の出来事で生き延びただけ、だから基本的にユートの言う通りにする事に決めたアルフィアは短剣を前に平然としていた。

 

「術理、摂理、世の理。その万象の一切を原初へと返さん……破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!」

 

 広義では英霊の宝具もまたスキルや魔法の類であると、結構無茶苦茶な論理展開で第五次聖杯戦争に参戦した際に、自らが召喚したキャスターのメディア・リリィに抑え付けさせた敵側キャスターであるメディアを犯して簒奪した捻れた短剣、それこそメディアの宝具たる破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)であり、最初の犠牲者は他なら無い葛木宗一郎との契約を破棄させられたメディア本人であったと云う。

 

 パリンという軽快な音が鳴り響きアルフィアがガクリと崩れ落ち、膝立ちから更に両手を床に付けて四つん這いで少し青い表情となっていた。

 

「か、身体が重たい……」

 

 それは無重力から一気に地球の重力に引かれたかの如く重さなのか、LV.7でしかも全盛期より絶好調な状態からの一般人化は辛いらしい。

 

「先ずは一般人に戻った感覚を戻そうか。それから恩恵を再び貰う前に肉体の鍛錬をする」

 

「肉体の鍛錬……か。前は病でやりたくとも叶わなかったが」

 

 才覚だけで“暴食”さんの剣技を真似る事は出来ても、膂力が全く足りていないから本当の意味で模倣したとは云えなかった。

 

「ある程度の鍛錬をしたらコイツを填めて鍛錬をやっていく」

 

 ユートは自分自身の左の二の腕に着けた腕輪を見せながら言う。

 

「それは?」

 

「体内のエネルギーに対しての圧力を加えつつ、重力を変えて肉体の重さの変化をさせる修業用の腕輪でね、これを使えば魔力霊力氣力念力の全てを鍛えながら精神力の増加が見込める上に、肉体もコンスタントに鍛えていける魔導具だよ。僕は自身の能力の封印に使っているけどな」

 

 ユートは基本的に能力を封印しているのだが、これもそんな封印具として機能をしている。

 

 何しろ体内エネルギーに圧力を加えていくから鍛えられるのは確かだが、そんな事をしたら本来持つ出力を得られる筈が無いのだ。

 

 これは精神力――要はMPも同様の理由により着けていた場合は五分の一も出せなくなる。

 

 アルフィアのMPが三〇〇なら一五〇以下程度のMPと成り、可成り消費量に気を遣っていかないとすぐにも息切れしてしまうだろう。

 

 掛かる重力は二倍~一〇〇倍にまで調節が利くから、慣れない状態なら三倍くらいで止めておくのが吉である。

 

「それを着ければ良いのか?」

 

「今の状態に慣れてからな」

 

 これを着けて生活をしているだけで単純に精神力や肉体は鍛えられるが、これに戦闘訓練も加えればそれこそ爆発的に強くなれる筈だった。

 

 強さを渇望しているアイズに貸与しても構わないといえば構わないが、下手にダンジョンで使われて本来の実力より小さな能力で挑んでは危険極まりない。

 

「それから念能力も覚えて貰う」

 

「念能力とはお前が使っていた“人物再設定”だの“模倣の極致”だのをか?」

 

「その基礎中の基礎からな」

 

 アルフィアが列挙したのは“発”、基本技というか基本の四大行として数えられているモノ。

 

「四大行を修めるだけでも可成り違う」

 

 普段は只垂れ流しているだけのオーラ、しかも精口が開いていないから可成り微量でしかない、然し精口を開いて“纏”をするだけでも実際に闘うには有利に成る。

 

「見えるか?」

 

「揺らめいている何かが数字の1を形作っているみたいだが?」

 

「ちゃんと見えていて何より。さっきのセ○クス

でスキルや魔法を簒奪する序でに精口も開いておいた甲斐があるってもんだ」

 

 “隠”の状態なら“凝”を使わないと見えないが、普通の状態のオーラなら目の精口さえ開いていれば見える為、どうせユートはおしえるのだからと精口も一緒に開いておいたのだ。

 

 アルフィアは現在、神の恩恵無しで髪の毛の色は白て瞳が翠の一色と成り、当人が八歳だった頃の容姿にまで戻って病は取り除かれている。

 

 これから七年間を修業に費やし、見た目的にはベルより一歳上の従姉フィア・クラネルとして、アテナ若しくはヘスティアの眷族として改めての契約を結ぶ予定となっていた。

 

 

.




 次回も似たり寄ったりでアーディ・ヴァルマとの話し合いの予定。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。