ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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魔法やスキルの検証も、出来ないもの以外は終わらせたし、上層のモンスターイジメも飽きてきた。
それに魔石の値段だって上層では二束三文らしい、そろそろ中層と呼ばれるであろう階層へ──十二層より下へと向かおうと新しい階段を降りていくユート。
「アルマジロ?」
ハード・アーマードと呼ばれる鉄鼠的モンスター、見た目にはアルマジロと似ている。
アニールブレードを揮って斬り付けると……
ガキィッ!
「──何?」
その硬い表皮で受け止めてしまった。
「成程、硬さがウリか? 確かに振り下ろした程度では斬れないか。なら!」
アニールブレードを背中の鞘に仕舞い、手刀を作って闘氣を籠めた。
「
小宇宙を籠めたオリジナル程ではないが、ハード・アーマードくらいならアッサリと両断してしまう。
「ふむ、此方も問題は無さそうだね」
クイクイッと手首を二度スナップして呟いた。
威力に関しては可成りの弱体化は否めないのだが、小宇宙だろうと闘氣であろうと纏えば使える。
これなら他の技にしても使えなくはないだろうし、いざとなれば切札にもなってくれそうだ。
「ドラゴン?」
小型のドラゴンである、インファント・ドラゴン──は
然しながらドラゴン……龍喰者の力を持ち合わせるユートは龍という属性に対して、絶対的なアドバンテージを持っていた。
「恐いか? ドラゴンである以上は異世界の存在だとはいえ、貴様はこの脅威に抗えはしないだろう!」
『ギエェェェェッ!』
あっさりと首を落とされてしまい、魔石を抜き取られた瞬間に灰化して鱗の付いた皮膜と、牙や爪をドロップアイテムとして残す。
第一三層まで降りて歩いていると、一角ウサギ的なアルミラージが数匹、手には
「ニードルラビットの上位個体か?」
ドラクエで云えば一角ウサギとアルミラージ。
更には炎を吐き出してくるヘルハウンド。
更にはダンジョンワームと呼ばれ、ダンジョン内の地中を往く蚯蚓型。
普通の冒険者なら油断も出来ない息を吐かせぬ程のモンスター、モンスター、モンスターの軍勢。
中層まで降りると上層など及びも付かないとは聞いていたが、成程これは確かに恐ろしいまでに湧出してきてくれる事を鑑みれば、中層ともなれば凄まじいのだろう。
普通のレベル2パーティなら下手をすれば全滅必至な中層の湧出に期待して、ユートは愉しそうな表情をしながら武器を揮う。
ユートは強い性欲を持っているが、それには及ばぬものの戦闘中毒や戦闘狂と呼ばれない程度に、戦闘欲求も持っている。
血に酔えば性欲が弥増す事もあり、出来る限り抑えてはいるのだが……
アルミラージが石斧を揮って飛び掛かれば、ユートは拙い武器の振り回しなど意にも介さず躱して首を刎ねてやり、ヘルハウンドが吐き出した炎は効かないから目隠し代わりに喰らってやると、自分を見失ってしまったヘルハウンドの脳髄を
ダンジョンワームなど、出てくる前にアバン流刀殺法の大地斬で床ごと叩き斬ってやる。
マザードラゴンに喚ばれてハドラーといざ戦わん、そんな状況の勇者アバンと大魔道士マトリフと武神のブロキーナ翁の許へと降り立ったユートは、その戦いに加わって【凍れる時の秘法】を使って凍結をされてしまうアバンとハドラーを見守り、その後の一年間をロカとレイラ夫妻の所で、魔の森の中心に存在しているネイル村で世話になり、ハドラーとの最終決戦には連れていけないと言われ、代わりに武具を進呈した。
魔王戦以後、ネイル村に住み着いたユートはマァムと共にアバンと再会して、アバン流殺法を習う。
これがユートがアバン流刀殺法を使える理由だ。
ファンタジーではよく見る様なモンスターを相手にしつつ、ユートは遂に最初の中継地点の第一八階層がそろそろで一六階層にまで降りて来ていた。
『グモォォォッ!』
「ミノタウロスか!」
石造りのハンドアックスを振り翳すは、筋肉質にして牛面な巨体を持つ魔物。
ミノタウロスだった。
それが数にして十ばかり現れて襲い来る。
武器もハンドアックスだけでなく、中には石造りの大剣やらグレートアックスを持つ個体も存在した。
アルミラージも持ってはいたが……
「ネイチャーウェポン」
迷宮にはモンスターの為の武器庫や食糧庫が在り、必要ならモンスターも武器を手に取るし、食事だってしているという訳だ。
「中々に面白いね……」
ニヤリと口角を吊り上げると、ユートは片手直剣のアニールブレードを手に、ミノタウロスへと突っ込んで行った。
ハンドアックス持ちが、そんなユートに反応をして攻撃してきたが、あっさりと躱して懐に飛び込んで、その素っ首を叩き落とす。
首を喪っては生きていられない、灰化して崩れ去ったミノタウロスA。
アイテムストレージにはそのミノタウロスの魔石、そしてドロップアイテムの【ミノタウロスの角】が納められた。
大剣持ちが仇討ちでもなかろうが、両手で振り上げて襲ってきたものの──
「ホリゾンタル・スクウェア……だったかな?」
平行に四角形を描く剣の軌跡がミノタウロスを斬り裂いて、やはりこの四撃で終わったらしく灰化した。
ソードスキルをユートはSAOで使えなかったが、仲間が使っているのはよく目にしていたから完全なる見様見真似。
アニールブレードを地面に刺して掌を突き出す。
「
ユートが詠唱をすると、目の前に顕れる魔法陣──というかルーン。
生み出されるのは複数の炎の塊……
「喰らえ、
幾つもの炎弾がミノタウロスを襲い、それに巻き込まれた数体が焼かれた。
本来は対人用といっても良いくらいな魔法だけど、ユートは四大元素に関わる魔法ならば、威力が大幅に上がるが故にかミノタウロスみたいなタフネスであっても割とイチコロである。
一撃とはいかないけど。
「魔法の基本ルールまでは侵せないから、空が見えないと使えない
元々が使い勝手が良いのに加えて、四大元素だから威力が増大だからだろう、原典以上に使える感じだ。
「
毒──とは放射能の事なのだろう、きっと。
探索を進めると行き成り
「【嘆きの大壁】……か。ただ一種類のモンスターさか生まない。そのモンスターとは即ち!」
総身が七
「ドライアス!」
太陽の勇者が欲しくなる名前を叫ぶユートは、はて? と首を傾げる。
「いや、違ったか? 確か──そうだ! 『叩いて砕け』だったな」
知り合いの少女がへちゃ顔で──『あんなのと一緒にしないで〜!』と叫んだ気もするが、ユートは全く取り合わず第一七階層に顕れる最初の階層主……
ギョロリと人の頭程にもある赤い眼球がユートを睨み付け、まるで威嚇でもするかの如く……
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!』
けたたましい咆哮を迷宮に響かせた。
それを契機に戦闘が開始される。
「ふふ、SAOのイルファング・ザ・コボルドロードを思い出すね」
最初の迷宮の孤王と最初のボス、位置的には似ている境遇なモンスター。
だけどあの時とは違った部分がユートにはある。
「SAOではシステムへと規定された能力しか使えなかったが、今の僕は小宇宙こそ使えないけど他の能力は使える! さあ、顕れろ──ナハト、アージェントリッター!」
金色のコインを投げて、大気中の魔力から創成されるのは、此方風に云うならば三
頑丈そうな蒼い駆体を持つナハトと、白い駆体を持つアージェントリッター。
アージェントは本来だと【ヴァイスリッター・アージェント】が正式名だが、長いのでアージェントリッターと呼んでいた。
ナハトも【アルトアイゼン・ナハト】らしい。
夜と宵の名を与えられた二機が、ユートの命令に従って魔力フレアを噴き出しながらブースターを使い、敵であるゴライアスへと向かって駆け出す。
スパロボ系統のゴーレム
当然、あの頃は原始的とも云える拙い技術でしかなかった訳で、今現在は外面は変わらないものの中身は別物レベルになっている。
投げたコインが謂わば、ゴーレムの核みたいな物であり、その内部には小さな外観とは思えないくらいの膨大な術式が織り込まれ、半自立型ゴーレムを生み出す召喚器となっていた。
丈夫に出来ているから、簡単には壊れない筈。
この召喚器もマチルダ・オブ・サウスゴータに嘗て渡した物より小さく高性能となっており、使い勝手や使用する精神力も低くなっている事から、これならば結構使える人間も増えているだろう。
まあ、あれから何百年も経つから性能向上はしていて当たり前、寧ろ変わらなければ単なる怠慢だ。
ナハトが牽制にと左腕に装備された五連チェーンガンを連発をして、アージェントリッターが空中からのパルチザンランチャーBで攻撃する。
どちらも実弾攻撃な為、ゴライアスの皮膚へと食い込む弾丸。
五連チェーンガンは飽く迄も牽制用で威力も低かったが、アージェントリッターのパルチザンランチャーBモードはそこそこに強力でゴライアスも堪らず悲鳴を上げている。
然し、パルチザンランチャーBモードもある意味で囮に過ぎず、本命はナハトが頭の角で切り裂くダレイズ・ホーンを急接近して喰らわせ、更には右腕に装備したリボルビング・ブレイカーをジャンプ一番、腹に照準してBANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! と撃ち込む。
弾丸による衝撃がバンカーに伝わり、比較的柔らかい腹をぶち抜いて追撃──レイヤード・クレイモアを肩から連弾してぶち込んでやると、直ぐ様に後ろへとバックステップで退いて、アージェントリッターによるパルチザンランチャーXモードが撃ち込まれた。
ゴライアスはこの連撃には堪らなかったか、轟音を迷宮内に響かせながら後ろに倒れ込んでしまう。
その間にユートが何をしていたかと云えば……
大地の底に眠り在る凍える魂持ちたる覇王
汝の蒼き力以て我等の行く手を遮るものに
我と汝が力以て滅びと報いを与えんことを
「
呪文を詠唱していた。
ゴライアスを中心に据えて五芒星を描いて、蒼白い雷撃を降り注がせる。
スレイヤーズ系に於ける覇王グラウ・シェラーの力を借りた呪文、強力な雷撃はゴライアスをして威力が大きく、生命力の高さから死んでこそいないが立ち上がる事が出来ずにいた。
すべての力の源よ
輝き燃える紅き炎よ
盟約の言葉によりて我が手に集いて力となれ
「喰らえよ、
炎でありながら燦然たる煌めきを持つ光球、幾つものそれが一気にゴライアスへとぶちかまされ、皮膚を肉を焼いていく。
『ゴガァァァァァッ!』
ピクピクと痙攣してはいても灰化しない。
「へぇ、デカイだけあってタフネスな事だ」
先制攻撃からゴーレムと連携しての連続攻撃。
ゴライアスに何もさせず一方的に潰しに掛かって、それでも一応は生きている事に感嘆をする。
流石のユートも完全なるソロでは、ゴライアスとの戦闘で攻撃を受けただろうと考え、ゴーレム創成により手札を増やした訳だが、これだけ生命力が高いなら時間も掛かっただろう。
「だけど終わりだ」
ゴライアスの体内で最も高い魔力を秘めた位置──それを【
途端にゴライアスは灰と化し、序でにドロップアイテムも残して消える。
「よし、還れ!」
その命令に従って瞬時に魔素へと還り、核のコインがユートの手に納まって、それをアイテムストレージに戻し、ユートは中継地でありモンスターを生まない第一八階層に足を踏み入れるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第一八階層、ダンジョンに幾つか存在しているだろうモンスター生まない階層の一つで、情報収集の結果から街すら存在していると聞き驚いた記憶がある。
リヴィラの街。
【ようこそ同業者】たる一文が示す通り、この街は冒険者が滞在して興した。
数字が書かれているが、それは何代目の街かを示しているらしい。
何しろダンジョンの中、何が起きるか判らないとすら云われる此処で、モンスターが生まれないのは確かかも知れないが、他の階層から上がって来る事は侭あると云う。
顔役がレベル3であり、他は基本的にレベル2だからだろう、モンスター共が大挙して押し寄せてきたら逃げの一手で、収まったら復興をしているのだとか。
街だから店屋も在るし、宿屋も営業中である。
とはいえ……
「うわ、高いな」
「だったら余所に行きな」
呟いただけでこれだ。
単なるポーションが一つ三千ヴァリスとか、どう考えてみてもぼったくりでしかないが、店を経営しているオッサンはニヤニヤしながら平然と地上で五百ヴァリス程度のアイテムを六倍の値段で売っていた。
明らかに客へ喧嘩を売る値段設定だが、此処は即ちダンジョンの第一八階層。
そもそも地上程に物が溢れていないし、どれだけの値段設定でも『欲しければ金を出せ』と強気で往く。
冒険者も無傷で来れるとは限らないし、そうなれば回復アイテムは必須。
武器の交換や修理だって必要になってくるだろう。
この街では、極々普通に『安く買い叩き高く売る』を地でいっていた。
当然、ギルドとは無関係で勝手に作られた換金所も在ったりするが、可成りの格安でしか買わない。
まあ、アイテムストレージを持っているユートにはどうでも良くて、周囲では喧喧囂囂とやり取りしているのを、いっそ冷めた目で観察をしている。
宿屋も必要とはしない。
特殊なテントが在るし、寝心地もこの街のベッドよりずっと良いからだ。
アーティファクト【天狗の隠れ蓑】に近い代物で、見た目よりずっと広い上に充分な生活空間が維持されているのだから。
ぶっちゃけ、ヘスティアのホームよりも良い生活が出来るテントである。
ユートは水場を捜すと、其処にテントを展開した。
取り敢えず今日は寝て、明日にでもまた街へと繰り出せば良いと考えており、明後日には第一九階層へと降りる心算だ。
寝る前に湖で身体を清めると、食事を摂ってさっさとベッドに入り眠る。
地上とは違うサイクルで時間を紡ぐから判り難いのだが、時計で確認した限り地上ではもう夜中。
一種の結界であるテントに入れば、時間も天気も気温も関係無く優雅な暮らしさえ出来る。
ユートは取り敢えず此方での朝になるまで寝た。
目を覚ましたら再び湖で眠気覚まし的に身体を清めると、朝食を摂って再び街に繰り出す事にする。
試しにダガーを手にし、店の店員らしき冒険者へと見せてみた。
「オッサン、幾らだ?」
「何だ? この玩具みてーなのは……一〇ヴァリスも出せねーよ」
「じゃ、いいや。この魔剣を一〇ヴァリス以下とか、目が腐ってんな」
「は? 魔剣だと? 莫迦言っちゃいけねー。魔剣ってのはもっと……」
「アンタの常識は聞いていない。やっぱり地上で売るのが吉だな」
指でシャーペンローリングも斯くやの短剣ローリングをしつつ、アホな値段を付けた店のオッサンにもう用は無いとばかりに立ち去っていく。
確かにユートが持っているダガーは、武器としてはドラクエ的にⅢの【鎖鎌】と変わらない攻撃力だが、柄に付けた魔宝石によってメラミくらいの火球を出せるフレイムダガーだ。
それが一〇ヴァリス以下とは、見る目が無いと考えるしかなかった。
実験的に造った代物で、使う機会も無いから売ってみてもよかったが、流石にあの値段は有り得ない。
この街の価値は余り無いと判断したユートは、予定を繰り上げて今日にも下へ降りようと決意した。
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階層主はユートが斃したから居なかった……という事にしておきます。