ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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 風邪を引いてしまいました……





第70話:情報の摺り合わせは間違っているだろうか

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 ユートはお姫様抱っこでリューを抱き上げて、ロキ・ファミリアやヘスティアやヘルメスといった連中が居る場所にまで戻ると、何かしら言いたげな者達を黙殺してリューを寝かせてやる。

 

「彼女、“疾風”はどうしたんだい? 敵に襲われたとも思えないけど」

 

「ちょっとした事故だよ。リューは戦闘時以外だと割りかしポンコツだからね」

 

「ポンコツエルフ……ね」

 

 フィンは苦笑いを浮かべた。

 

「そんな事より、さっき動いた結果だがどうやら闇派閥の残党が一八階層で蠢いているみたいだ」

 

「闇派閥!」

 

 フィンだけでなくヘスティアを除く全員がピリピリとしだす。

 

「イ、闇派閥(イヴィルス)って何だい?」

 

「ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが凋落をした一五年前から蠢く腐れ組織。邪神と呼ばれるヘスティアやヘルメスの御仲間の神が率いていてね、七年前にはエレボスが主導をして闇派閥を率いていたんだ」

 

「エレボスが!?」

 

 降臨してから未だ一年弱なヘスティアは当然ながら知らなかったらしい情報、エレボスというのは領土的にヘスティアとは同郷に近い。

 

 というのも、エレボスはヘスティア達が地球でギリシア神話体系の神々なのと同様の神であり、名前は『地下世界』を意味する原初の幽冥を神格化した存在である。

 

 名前が同じなだけあり差違も有るには有るが、似たり寄ったりな部分も当然ながら有った。

 

 司る権能も同様だ。

 

「確かに七年前になるかな? エレボスが天界に強制送還されてきたみたいだったけど……」

 

「正義の女神アストレアによって強制送還されたからな」

 

「アストレアに?」

 

「ああ。神々は下界に降りる際に厳格なルールを敷いている。“神の力”を使ってはならないというのもその一つ。故に神々は下界では全知全能から全知零能……肉体的には人間と変わらない強さへと成り下がる訳だな。まぁ、武神みたいに素でもLV.5クラスの力を持った神も居る訳だけど。それは兎も角としてだ、神々は致命傷を負ったら勝手に“神の力”が発動してしまうからそれによる強制送還が成される。だけど神を殺すのは重罪だ云々以前に神威を受けると下界の者は抗えない、だからこの手の事は同じく神でないと出来ないって訳だね。七年前に刑を執行したのがアストレアだったんだよ」

 

「そういう事なんだね」

 

 詳細というには穴だらけのガバガバな説明ではあるものの、ヘスティアにも今の説明は理解する事が出来る程度には解り易かった。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「どうした? ヘルメス」

 

「ユート君はどうして七年前の詳細な出来事を知ってるんだ? 君がこの地に来たのは遂最近だった筈だろう」

 

「……あの時、バベルの頂上でアストレアに送還されたいと願ったエレボス。居たのは全部で四名だったな? 送還対象のエレボス、執行者となったアストレア、友神を見送ると言って憚らなかったヘルメス、そして七年前の第一八階層へ突如として現れた双子座のサガ」

 

「まさか……」

 

「双子座のサガ。それは地球と呼ばれる世界にて戦女神アテナの下に集った聖闘士という戦闘集団にして、その最高峰の一二人である黄金聖闘士の一人の名前だ。因みに双子座というのは地球から夜空を見上げた星々の並びを星座という形に見たものの一つ。その中でも太陽の周りを巡る一二の黄道一二星座の名前を与えられるのが黄金聖闘士って訳だね。そして僕が居た世界こそが地球で、僕はサガから双子座の位と黄金聖衣を引き継いだアテナの黄金聖闘士・双子座の優斗。エレボスを強制送還した際に居たのはサガの名を名乗っていた僕だよ……ヘルメス」

 

「それはおかしい。確かに双子座は兎も角としてサガという名前は偽名だと判ったが、君が最近にこの世界に来たというのに嘘は無かった。だが今の君の科白にも嘘を感じない! どういう事だい?」

 

「それこそリューが気絶している理由なんだよ。僕は遂先頃、とある邪神によってカオスの歪みを越えさせられて七年前に跳ばされた」

 

「なっ! カオスの歪みを?」

 

「それにより、第一八階層でアストレア・ファミリアがアルフィアと、アイズとリヴェリアとガレスが“神獣の触手”と闘っていた現場に落ちた」

 

 確かに黄金の鎧を身に纏う騎士が最初に目撃をされたのはあの現場だ。

 

「あれが……ユートだった?」

 

 アイズもそうだが、リヴェリアとガレスも驚きに目を見開いている。

 

「今、この場に居る僕は云ってみれば七年前から暮らしていた僕でね、先程まで此処に居た僕とは厳密に云えば別人に等しい。勿論、同一人物なのは保証するけど、違いは七年間の蓄積が有るか無いかって処だろうね」

 

「七年間……か」

 

 フィンが難しい表情となる。

 

「だとしたら、君ならアストレア・ファミリアの壊滅を止められたのではないかな?」

 

 全員がハッとした表情に。

 

「無理だ」

 

「何故だい?」

 

「この世界線でアストレア・ファミリア壊滅というのは既に起きた事、万が一にも仏心を出して救ったりしたらその時点で僕はこの世界線に戻れなくなり、アストレア・ファミリアが救われていてルドラ・ファミリアが消滅した別の世界線に移動をしていただろう」

 

「ほとけごころ? せかいせん?」

 

「仏心は慈悲の心、世界線とは幾つも存在している世界そのものを横線に喩えたもんだ」

 

 因みに縦軸は時間軸を意味している。

 

「そこら辺は神であるヘスティアやヘルメスの方が詳しいだろう?」

 

「まぁ、確かにね」

 

「ユート君が行った事は決して間違いでは無いんだよ“勇者(ブレイバー)”、下手に世界へ手を出せば彼は此方に戻れなくなる処だった」

 

 ヘスティアもヘルメスも頷く。

 

「仮にフィンが混沌の歪みを越えて両親が子を成す前に殺害したとしたら、親殺しを……殺害をしたフィンはどうなると思う?」

 

「歴史が変わって僕が消滅する……という訳では無さそうだね」

 

「歴史は変わらない。変わった歴史が新たに創られるってだけだ」

 

 ユートが一本の線を引いて両親在住とフィンの誕生と書き、更に別の線でカオスの歪みを越えたフィンと書いて両親の殺害と書く。

 

 また別の線を引いてフィンが誕生しない世界と書いて〆括った。

 

「成程、こういう話になるのか」

 

 頭が良いだけにこんな杜撰に過ぎる説明を受けただけで理解したらしい。

 

「アストレア・ファミリアの壊滅は墓参りと共にリューから聴いていたからな」

 

「え? リューさんですか?」

 

 よく解って無いベルが首を傾げる。

 

「恐らく大半の人間やヘルメスからしたら知っているんだろうが、リュー・リオンは嘗てアストレア・ファミリアで“疾風”のリオンと呼ばれていたLV.4の元冒険者だ」

 

「元……?」

 

「あの酒場には訳ありが集まっているみたいで、シル・フローヴァを除く殆んどがLV.3~4の元冒険者、或いは冒険者では無く迷宮都市外からの流入者みたいでね。酒を奢って話を聴いたけどルノア・ファウスト――正式な冒険者じゃなかったけど異名持ちで“黒拳”と、同じく“黒猫”のクロエ・ロロがLV.4だな。それにアーニャ・フローメルは元フレイヤ・ファミリアで“戦車の片割れ(ヴァナ・アルフィ)”の二つ名を持ったLV.4、副団長のアレン・フローメルの妹だそうな」

 

「そ、そうだったんですか!?」

 

「聞き出せるまで仲良くなるのは苦労したけど、割りと酒好きだったらしくて神ソーマの作ったって失敗作な神酒には可成り揺れていたな」

 

 ユートは嘗ての事件で神ソーマの酒を失敗作と成功作な神酒をせしめているし、それを飲んだから既にレシピも頭に浮かんでいるから量産可能。

 

 流石に仲間の情報は教えてくれなかったけど、寧ろ彼女達がそのくらいに仲間思いなのが良い。

 

「シルさんだけは普通って事なんですね」

 

 確かにシル・フローヴァ以外を元冒険者みたいに言ったが……

 

(寧ろシル・フローヴァこそが普通とはかけ離れいるんだよな)

 

 その中身が明らかに神域に存在をしているであろう“超越存在(デウス・デア)”だったからこそ。

 

 神殺しの魔王(カンピオーネ)であるユートに幾ら神威を隠したとしても、神である事を確実に隠せる訳では無かったという事である。

 

 とはいえ、それを詳らかに明かしてしまうとか面倒だからやらないけど。

 

(それにシルって、神話でフレイヤが名乗っていた偽名の一つだしな)

 

 この世界では地球の神話に通じる名前がそこらかしらに存在し、フレイヤ・ファミリアが闘いに使う“戦いの野(フォールクヴァング)”も神話上で女神フレイヤの館の名前だった筈だ。

 

 尚、伴侶=オーズと呼ぶ辺り男神にオーズというのは居ないみたいである。

 

 因みに、『カオスの歪み』とか呼んで時間移動に対する忌避感から見るに、少なくとも時間の神であるクロノスは存在していないのだろう。

 

「まぁ、あの酒場は女将からしてLV.6らしいから普通じゃないんだろ」

 

「うぇ!?」

 

 当たり前だけど知らなかったベルは驚愕しつつも打ち振るえていた。

 

 元フレイヤ・ファミリア団長で“小巨人”の二つ名を持つミア・グランド、全盛期ではオッタルでさえも敵わなかった剛の者だ。

 

 今はLV.の差からミア・グランドも勝てないと思われるが……

 

 余り個人情報を明かすのも良くは無いけれど、現代日本なら未だしもこの世界に個人情報保護法なんて存在しないし、リュー達の情報はロキ・ファミリアならある程度ながら把握している筈。

 

 アイズもクロエ達の詳細は知らずとも、何となく強いというのは感じていただろうから。

 

「うっ!?」

 

「目が覚めたか、リュー」

 

「ユ、ユート? どうして、あの黒い穴は何なのですか!? 何故普通にこの場に居るのです?」

 

「落ち着け、ぽんこつエルフ!」

 

「はぐっ!?」

 

 頭にチョップをされて悲鳴を上げる。

 

「だ、誰がぽんこつエルフですか!」

 

「今、正にぽんこつだったろうが。ちゃんと教えてやるから落ち着け」

 

「わ、判りました」

 

 ユートは先程、ロキ・ファミリアやヘスティア・ファミリアやヘルメスやタケミカヅチ・ファミリアの面々にした話を改めて伝えてやった。

 

「七年前の一八階層で現れた双子座のサガが貴方であったと?」

 

「そうだよ。だけどリューは酒場で会った際には僕を知らなかった。つまりリューは七年前に僕と会った事は無かった筈なんだ。だから即顔を隠せる双子座の黄金聖衣を纏って、僕の先代――正確にはカノンが先代に当たるが――の双子座のサガの名前で活動をしたって訳だな」

 

「ゴールドクロス?」

 

「金綺羅金な鎧だったろ?」

 

「確かに……」

 

「戦女神アテナの擁する戦闘集団である聖闘士、その中でも謂わば幹部的な存在が黄金聖衣を身に纏う黄金聖闘士。合計で一二人、封印が成されたのを含めれば一三人が存在していた」

 

「過去形ですか?」

 

「今の黄金聖闘士は……否、聖闘士そのものが僕しか居なくてね」

 

 正確にはユートの冥界に嘗ての黄金聖闘士達が居るから、彼等にユートが造った黄金聖衣を渡してサーシャに引き合わせればフルメンバー+αが揃うのだが、この世界には神と神が管理をしている“あの世”が存在するから喚べない状態だ。

 

 牡羊座のムウ&シオン。

 

 牡牛座のアルデバラン。

 

 双子座のサガ&カノン。

 

 蟹座のデスマスク。

 

 獅子座のアイオリア。

 

 乙女座のシャカ。

 

 天秤座の童虎。

 

 蠍座のミロ。

 

 射手座のアイオロス。

 

 山羊座のシュラ。

 

 水瓶座のカミュ。

 

 魚座のアフロディーテ。

 

 彼らには黄金聖衣では無く冥衣を与えた上で、ユートの冥界のエリシオンに住まわせている。

 

 実は青銅聖闘士や白銀聖闘士も冥界を住まう場にする忌避感が無いなら……と、何人かを住まわせていて家賃はユートが必要とした時の戦力となり働いて貰うという。

 

 元青銅聖闘士や白銀聖闘士達には、青銅聖衣や白銀聖衣を与えていた

 

 つまり、氷河は水瓶座(アクエリアス)では無く白鳥星座(キグナス)として青銅聖衣を纏って闘うのだ。

 

 ムウとシオンの二人には聖衣造りをして貰っているから、比較的に造り易い青銅聖衣や白銀聖衣を造って貰っているから容易く与えられる。

 

 素材さえ豊富ならば修復の要領で製作も可能、これは再誕世界にてユートがある程度の形を造った上で、矢張り修復の要領で形を整えていったという経験があってこそだった。

 

 黄金聖衣は太陽の光を取り込ませないと真なる輝きにならないから造っていない。

 

 実際、聖域の双子座を貰い受けた代わりに置いていったユート謹製な双子座の黄金聖衣の場合、輝きが黄金聖衣というより寧ろ海闘士(マリーナ)海将軍(ジェネラル)鱗衣(スケイル)といった感じだ。

 

 海将軍の鱗衣は正しく()()といった感じの色合いだったけど、黄金聖闘士の黄金聖衣は名前の通り()()という豪華絢爛な太陽が燦然と煌めいているかの如く色をしている。

 

 まぁ、どちらかと云えば黄金聖衣は金メッキっぽいからそう見ると安っぽいが、いずれにしても黄金聖衣の方が鱗衣より煌びやかだった。

 

 素材の所為では無い。

 

 海将軍の鱗衣は純神剛鋼故の金色、黄金聖衣は神剛鋼とガマニオンと銀星砂の合金製となっている訳だが、ユート謹製な双子座の黄金聖衣が鱗衣と変わらないなら矢張り長い期間で太陽光を吸収した設定だからだろう。

 

 なので、ユートは黄金聖衣を一三個の全て造った後に太陽へぶち込む暴挙に出たが、太陽光と熱をたっぷり吸って黄金という色に燦然と輝いたのは良かった。

 

 ヘルメスとしては嘗てアテナが言っていた事を語る――然も人間であるが故に嘘を吐いていないと解るだけに、天界では余りにも信じられなかった話をもう一度訊いてみるのもアリかと考える。

 

 その後も小さな話し合いはした。

 

 その中に千草の所属は矢張り変更するべきだという話になり、暫定的に彼女はアテナ・ファミリアの一員として扱う事となる。

 

 単純なLV.とかスキルとかいう意味で団長のカシマ・桜花が一番強く、二番手がヤマト・命、そして団栗の背比べのレベルでヒタチ・千草こそが三番手の能力だったらしいから、彼女の移籍に対するトレード的な意味で武具を渡してタケミカヅチ・ファミリアの底上げを行う事になった。

 

 また、所属はアテナ・ファミリアでもアテナはタケミカヅチと友神という事もあり、千草さえ望むならアテナ・ファミリアの用事が無い時であれば遠征などを手伝うのはアリとする。

 

 本来のレフィーヤとベルの関係と違う事から、追い掛けっこが始まったりはしなかったにも拘わらず、離れた場所での稽古をしていた際に闇派閥のモンスターに引っ掛かる二人。

 

 これに関してはユートが即座に対応をした為、二人切りでモンスターの体内に……なんて事にはならず、ユートが共に対処をしたので被害といえばレフィーヤの戦闘衣が溶けて、ユートに半裸を視られてしまったくらいであろうか?

 

 レフィーヤの戦闘衣は新しい物をユートが贈る約束をする事で、取り敢えず機嫌を直す事に成功をしたので良しとする。

 

 尚、ベルの戦闘衣はあのモンスターの胃液では溶けたりしない程度に丈夫だったし、ヴェルフ製の軽鎧を訓練中は脱いでいたので無事だった。

 

 訓練とはいっても食後の腹ごなし程度の謂わば軽い運動でそれに態々、それで鎧を纏うのは正しく時間の無駄だったからだ。

 

 それにベル達が着ているアンダーは、それだけでそこら辺の鎧を装着しているくらいの防御力、故に軽く汗を流そうという程度なら充分過ぎる。

 

 抑々にしてあのアンダーは聖闘士が聖衣を纏う上で、漫画なんかでもよく破れているのを考慮に入れて編み上げた魔法の服。

 

 実際、星矢達もこのアンダーに変えてから余り大きな破れ目は無くなったくらいだし、白色なのにも拘わらず汚れも付き難い代物。

 

 勿論、聖闘士や海闘士や冥闘士など神の闘士の必殺技で破れずにいられないけれど、少なくとも簡単に彼方此方が破れてしまう程に脆くも無い。

 

 仮に、本当に仮にベルが原典なあれやこれやを発揮してしまった上に、補正が無くてハーレムを形成して泣かされた女が居たとして、短刀を持ったその泣かされた女が『ベルを殺して私も死ぬ』とか叫びながら刺したとしても、このアンダーの上からなら刺さる事も無くベルは無事だろう。

 

 まぁ態々、ベルに喩えなくてもユートであっても同じ事になるだけだ。

 

 実際にベルが第九階層で闘ったミノタウロスがドロップした“ミノタウロスの赤い角”、コイツをヴェルフが鍛えて製作をした『牛若丸』の試し斬りをしたが、ベルのアンダーには傷一つ付かなかった事にヴェルフは安堵するより落ち込んだ程。

 

 所詮は“鍛冶”の発展アビリティを持ってはいないLV.1だからか、それとも素材はミノタウロスの角としては良い物でも中層の物だからか? いずれにしてもベルの第二武器たる『牛若丸』の試し斬りとしては残念な結果に終わっていた。

 

 尚、ユートが似たミノタウロスの角を素材として()った短刀は普通にアンダーをぶった斬ったのを見て、ヴェルフが更に落ち込む羽目に陥ったのは仕方が無い事なのだろう。

 

 白衣を着て顔までがっちりと隠した連中は端から視て体型すら判らず、声で取り敢えず男女の別の判断が出来る程度でしか無かったが闇派閥だというのは間違い無いと、途中でやって来たリューから聴かされている上にユートも、七年前に連中の姿を見ていたから同じ判断を下していた。

 

巨靭蔓(ヴェネンテス)……ね。連中は何故か知らないけどヴァヴィヴヴェヴォから名前を付けたがるみたいだな」

 

 あの食人花もヴィオラス、巨大花はヴィスクムと呼ばれていたし巨蟲はヴィルガだと呼ばれた。

 

 連中を闇派閥と見抜いた理由は白衣より何より自決装置である。

 

 七年前のアーディ・ヴァルマの一件からして、連中はすぐに自決装置を使いたがるのだから。

 

 仮令、小さな幼女ですらも。

 

「神たるタナトスが契約したとは云うが、転生した先に転生させる気か? それに恋人だった場合は転生後もきちんと男女別なのか? 其処までの事をあれだけの人数にやれるのか? それに抑々が現在のタナトスは地上に降臨しているんだぞ。どうやって契約を遂行するんだ?」

 

 自決が出来ず生き残った連中に訊ねてみたら、どうしてか闇派閥の連中は真っ青に成っていた。

 

 タナトス自身が居なければ、転生なんて作業が出来るとも思えなかったのが一つなのだけれど、今一つとして“死を司る神”タナトスが転生という生に属する仕事を天界でしているものか? と。

 

 死と再生は表裏一体とも考えられるだろうが、どちらかと云えば転生は冥界の神の仕事だろう。

 

 例えばハーデス、例えばアヌビス。

 

 それとも、冥界神は存在しないで死の神であるタナトスみたいなのしか居ないのか? 何て事も考えてみたけど……

 

(少なくともゼウスとポセイドンは確認済みであるからには、ハーデスくらい居るだろうと当たりは付けてみたけどな)

 

 結論はこうなった。

 

 とはいえ、矢張りローマ神話体系はギリシアと混同されているみたいであり、ヘスティアの別な側面がローマ神話体系のウェスタらしい。

 

 更にジュピターはゼウスが地上に遣わしたと思しき雷霆の高位精霊で、アルゴノゥトに合力をしていたらしい事が判明している。

 

(アルゴノゥト……ね。どうやらベルの前世であるっぽいのは、あのミノタウロスの中にそれらしき記録が在ったからな。この事からあの個体の魂は嘗てアルゴノゥトと闘ったミノス将軍か)

 

 こうなってくると何と無く似ている連中に関しては、ひょっとしたら今現在に居る者達の前世の姿である可能性は高い。

 

(夢神オネイロスの権能で視てはみたけれどな、魂の行き先までは判らないから確実とまでは云えないんだが、明らかに似ている連中ばかりだったからな。フィンとかアリアドネーとかフィーナとか……顔を隠していたけどフィアナ騎士団の団長フィアナってリリっぽかったよな?)

 

 ユートは夢神オネイロスから簒奪した権能――【夢と現とその狭間(ドリーミング・ザ・ワンダーランド)】にて、この世界の神時代より前に当たる英雄伝に語られる時代を視た。

 

 其処にはヴェルフっぽい男、ガレスっぽい男、ベートっぽい男、ヒリュテ姉妹っぽい女性達に、フィンっぽい少年、アナキティっぽい少女、ラウルっぽい青年、レフィーヤっぽい少女、リリっぽい女性、リューっぽい多分だけで女性などが英雄の一角として存在していたのである。

 

 前世だか先祖だかは伺い知れ無かった、だけど無関係とするにはちょっとアレな訳だった。

 

(とはいえだ、ヴェルフはクロッゾの子孫にして転生体なんだろうな)

 

 そう考えれば魔剣製作が一族でも唯一、赦された立場なのにも納得が出来る。

 

 魂がクロッゾ本人のモノだから、精霊の祝福が肉体のみならず魂にも作用していたのだろうと、そう考えるならコレこそヴェルフが魔剣を鍛てた理由には充分過ぎるからだ。

 

 こうなると折角の転生も余り意味を成さない、僅かながら才能に+αが有る程度でしかないから殆んどの場合が頭角を顕す前に終わり、その一生を無駄に費やすだけになってしまうであろう。

 

 ユートみたいな転生者は記憶保持者だから魂も前世から能力も引き継ぐが、記憶を持たない場合はアイデンティティが喪われてしまうのもある。

 

 事実、ヴェルフはクロッゾに可成り近い同一性を持っているけど、リリの場合は全くの別人だとさえ云えるくらいだった。

 

 転生自体は無駄に成らないが、それでも現世に於いては無意味なものに成り果てる可能性も。

 

(方法は有るけど、下手をしたら前世に呑まれて別人に成ってしまいかねないから危険だよな)

 

 丁度良いからキャロルとエルフナインとラブレスの他にリリも連れて天幕へ、ティオナは基本的に別派閥なだけに余りそういうのも良くないし、冥闘士に成った千草はタケミカヅチ・ファミリアを抜ける事に成るから、成る可く今の派閥で共に居させてやる心算で放置をしておく。

 

 ユート用の天幕は特別製、錬金術士ソフィーが使っていたテントみたいな物を更に発展させて、天幕とかテントとかより寧ろ内部はコテージだと云われても納得が出来るだろう。

 

 しかも部屋が幾つも有るし、二階や三階が有るとかテントって何だっけ? とも思える室内で、水は矢張り錬金術で造った無限に水が湧き出てくるゲヌークの壷を基に水源を確保し、風呂場も作ってあるからシャワーを浴びたりゆったりと風呂で温まる事も可能だ。

 

 一番の広さを持つユートの部屋には巨大に過ぎるベッドが鎮座しており、ベッドメイクはこの場を仕切るメイド姿で同じ顔やスタイルの女性達、それは長い銀髪でスタイルもそれなりに良いので世界を移動したばかりなど、まだその世界で女性を確保していない際には女日照りにならない程度に御相手をさせる目的の存在、ヴァルキュリーズが数人掛かりで行っていた。

 

 嘗て、神を僭称する到達者が送り込んで来ていた使徒達のファーストナンバーズ、それを複数体――万単位で手に入れていたので研究して新たに創り出せる施設も構築していて、確保をしていた魂を新たな肉体に容れて復活させたのである。

 

 元の使徒達は感情を抑制されていたのだけど、ユートはその抑制を解除しているから元の使徒とは似ても似つかぬ微笑みを浮かべるし、ベッドの上に呼べば容姿をふんだんに使ってユートを悦ばせる事に腐心をしていた。

 

「エーアスト」

 

「はい、主様」

 

「キャロルとエルフナインは識っているだろう、こっちはリリルカ・アーデとラブレスだ。新しく【閃姫】に成った」

 

「畏まりました。ではリリルカ様にラブレス様、この天幕の内部を御案内申し上げます」

 

 行き成りの様付けに焦るリリ。

 

「リリルカ様っ!?」

 

「はい。私達は主様とその奥方様に当たられます【閃姫】様に御仕え致しますヴァルキュリアに御座いますれば、リリルカ様と呼ばせて頂きます。尚、この私はヴァルキュリア・ナンバーズの一番を拝命しますエーアストで御座います」

 

「は、はぁ……」

 

 自分が様付けするのには慣れていたリリだったけど、まさかの自分自身が様付けをされる立場になるとは思わなかった。

 

「ヴァルキュリア・ナンバーズは全部で九人だ。一番のエーアストから九番のノイントまで居て、この天幕では御早うから御休みまで全ての世話をさせている。その気になれば風呂やトイレの世話もさせられるから活用すると良い」

 

「奴隷じゃないですか!」

 

「其処まで人権無視はしていない心算だけどな。大元が主の為なら全てを投げ打つ様に設定されていただけだしね」

 

 行ったのは主の変更と感情の抑制の解除のみであり、命令に忠実な部分は信用とか信頼を於ける者として外すのは有り得ない。

 

「だからリリも遠慮無く、着替えを手伝わせたり風呂で身体を洗わせたりしても構わない。掃除に洗濯に料理にと各種メイド能力を大幅に高めてもいるし、閨に連れ込めば充分な知識と経験で素晴らしい時間を提供してくれる」

 

「閨って……」

 

 とはいえど、ユートの貴族生活はこう見えても可成りの年数に成るからメイドがあれやこれやと世話を焼く、これを当たり前にするには充分過ぎるくらいには王侯貴族だったのだ。

 

 何なら形だけは今でも樹雷皇族の柾木本家に属しているし、眷族に当たる正木家の一人を家に迎えてもいたりする。

 

 原典では別の人物の恋人だったりするのだが、知った事かと云わんばかりに幼い頃から連れ回した為に、抑々にして原典での恋人とは初めっから出逢う事すら殆んど無かった。

 

 リリ達に男が寄るのはムカつくが、ユートとしては女同士でなら目の保養として愉しめるから、ヴァルキュリア・ナンバーズと宜しくする分には煩い事を言う心算も無い。

 

「流石にファーストナンバーズは駄目だけどさ、ノーナンバーズからなら貸し出しても構わない」

 

「ノーナンバーズ?」

 

「容姿も能力も変わらん。単にファーストナンバーズみたいな一番~九番の数字じゃないだけだ」

 

 流石に数字を当てると後になれば凄まじいまでに長くなる為、エーアストからノイントまでに当たらないのは名前すら与えていなくて、必要に成ったらその時に応じて与える形にしてあった。

 

 尚、エーアストからノイントは当時に闘って斃した本人の魂を、新しく創造をした肉体に容れて定着させているから紛れもなく当時の本人だが、笑顔を浮かべたりジョークを言ったりそれなりの個性を持ったり、少なくともあの頃に闘った時に比べたら別人である。

 

 まぁ、ノイントはカードに封印して能力を利用していたから先ずは封印から解放したけど。

 

「さて、ラブレスは初めからある程度は強いから良しとして……リリだな」

 

「はい?」

 

「強く成りたいか?」

 

「はぁ、それは成りたいです」

 

「リリならではの方法が在りそうだけど、ちょっと危険性が高いんだ。そう言ってもやるか?」

 

「っ! 強く成れるなら!」

 

 弱い自分に絶望すらしていた嘗て、今でも強くは無い事から疎外感を少し感じているリリ故に、ユートからの『強く成れる方法』に関心を持つ。

 

「魂の喚起」

 

「……え?」

 

「“神の恩恵”はランクアップ毎に古い恩恵を覆う形で新たな恩恵が浮かぶ。それは古い恩恵が消えるのでは無く潜在値――エクストラポイントとしてきちんと活かされている。魂も似た様なもので転生をすると前世の記憶も全てが消えて無くなっているみたいに思える。事実、忘却のレテの川で魂は前世の記憶を漂白すると云われているしな。だけど実際には古い魂に新たな魄が覆って忘れはしても残り続ける。来世に於いて能力値が高かったり記憶力が良かったりするのは、潜在値として古い魂が新しい魄に影響を及ぼしているからだ。故に転生後にも記憶を保持している転生者というのは、成長力や成長率が殊の外に高かったり技能を覚えるのが早かったり、前世の能力を使えたりと強く成り易い傾向にあるんだ」

 

 だからこそユートも前々々世とも云えるだろう緒方優斗が持ち得た記憶から、【緒方逸真流】をハルケギニアの時代に初めから使えていた上に、芸術に高く振られていた能力に+して戦闘値が振られた事で、魔術や魔法や聖闘士としての技能へ――つまりは戦闘者としての高い適性を持って産まれていた。

 

 忘れがちだが、ハルケギニア時代の肉体も実はユートの前世での緒方家と同一のモノ。

 

 江戸時代でユートの先祖となった人物の弟が、妙法村正の召喚に巻き込まれてハルケギニアへと転移した後、生きて子を成して孫が産まれて子々孫々と受け継がれた血脈から成る。

 

 故にこそ緒方の血筋に必ず顕れる芸術家と戦闘者の割合が適用され、ハルケギニア時代には実に戦闘者として一〇〇%に振られたユートは即ち、芸術家が五〇%に戦闘者が一五〇%という巫山戯た割合と成っていた。

 

「ま、兎に角だ。今はエーアストから天幕案内をして貰って来なよ。僕はキャロルとエルフナインから情報を貰わないといけないからね」

 

「わ、判りました」

 

「では、ユート様。後程に」

 

 エーアストと共に去っていくリリとラブレスの二人、ユートはサッと腕を振るってあっという間に服装を簡易な物に着替えてしまう。

 

 所謂、【BASTARD‼-暗黒の破壊神-】に於ける超絶美形主人公――ダークシュナイダーが裸から行き成り服やマントを纏うアレである。

 

「さて、キャロルにエルフナイン」

 

「うむ」

 

「ハイ」

 

「簡単な事は外で聴いた訳だが、成る可く詳しい話を聴かせて貰えるか? 砂沙美の暴発みたいなのもあるからな」

 

 ユートが突如として消えたので情緒不安定に成った砂沙美は、あろう事か津名魅を喚び出してまでユートを捜そうとしたのは聴いている。

 

 七百年以上前、魎呼による樹雷星襲撃事件の際に皇家の樹の間で重傷を負った砂沙美は、その流れた血を以て始祖樹たる津名魅との契約を果たしており、津名魅の魂とも云うべき意識は砂沙美の中へと入り込んだ。

 

 津名魅が現界した時の姿は二五歳くらいにまで成長をした砂沙美自身のモノであり、津名魅の姿と砂沙美の身体が同じにまで成長をした暁には、津名魅の意識が砂沙美に逆流をして同体化する。

 

 既にウルトラマンジャックが郷 秀樹で郷 秀樹がウルトラマンジャックだったみたいに、砂沙美は津名魅とほぼ完全に一体化を成しているが故に、元より可成り前からでも出来ていた艦船としての津名魅の召喚は息をする様に可能。

 

 オマケに元から懐いていたユートから、自分というアイデンティティに不安を抱いていた時に慰められ、その答えの一つを導き出して貰えた事からすっかり参ってしまったらしい。

 

 原典のOVAで云うと九巻になる。

 

「では、オレ達が知る事を話そう」

 

「ボク達もそれなりに大変でしたから」

 

 不敵な笑みのキャロルと、苦笑いを浮かべているエルフナインは右目の泣き黒子以外は双子の如く似ていながら、その持ち前の性格が全く異なるが故に個性と成ってすぐにどちらか判るもの。

 

 取り敢えずユートは二人というか、砂沙美以外の【閃姫】――砂沙美は未だに【閃姫】では無いけど――の苦労話を聴かされるのであった。

 

 

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