ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】   作:月乃杜

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 ダンまちは、半分くらいを書いて放置していました……





第71話:噛ませ犬がその所以を発揮するのは間違っているだろうか

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 案内も終了し、その間にキャロルとエルフナインから彼方側の事も教えて貰えたので、後は眠るだけという状態だからだろうか? 久方振りとなるキャロルとエルフナインとの情事にリリも加えて更にノイントも入っての大乱交が行われた。

 

 流石に天幕を仕切るエーアストやその他仕事を任されているナンバーズは来なかったのだけど、基本的にノイントは日照りが続いていた場合の潤い係も兼任していたからこそ。

 

 尚、キャロルとエルフナインは本来だと肉体が雌雄の無いホムンクルスのモノを使っていたが、ユートが錬金術で人体錬成をして新しく創り上げた肉体は普通に女性体、故にこそ【閃姫】と成ってこうしてこの場に居るのだ。

 

「ユート様って本当にお好きですよね」

 

「敢えてナニが? とは野暮だから訊かないけど確かに好きだよ」

 

 彼女の小人族としての小さな肢体を、ユートの本来の身長たる一九〇cmの肉体で包むが如く抱き締めながら言うと、その温もりが恥ずかしかったのか或いは諸に見えるバッキバキに反り返ったJr.に照れたのかリリの頬が林檎の如く染まる。

 

「リ、リリ自身を言われた訳ではありませんのに誑しが居ます……」

 

 シンダーエラで獣人に変身をしていたら尻尾がフリフリと喜びに満ちて振られていただろうし、ぺたりとケモミミが照れから倒れていたのではないかと思うくらいには恥ずかしがっていた。

 

 誰も居ない場所限定ではあるが、リリはキスをしたいな……とチラッと視ながら考えた事があるのだけど、すぐに自分を見下ろす形で見つめられるとチュッと唇を重ねられて驚いた事もある。

 

 元より願望器と呼ばれるモノの中身を飲み干した上で、それを扱う肉体を得た事で他者――取り分け女性の願望が偶に響くらしい。

 

 男? 知らんがな。

 

 未だに満足をし切って無いであろうユートのJr.の先端の敏感な部位を、リリは優しく撫で上げて更なる硬化+巨大化したのを見て自分の手によりそうなった満足感に気を良くして、触っていた部位に小さな舌を這わせてユートを愉しませる。

 

 性的にある程度の満足をしたその後には例の事を話し合い始めた。

 

「前世の記憶の喚起ですか?」

 

「そうだ。君は前世で英雄と呼ばれるに相応しい存在だったみたいだ。まぁ、可成り若い時分に謀殺されてしまったんだけどな」

 

「そ、それはまた……」

 

「別にあの頃なら普通だったし、現代でも単純なモンスターとの闘い以外で命を落とす連中ばかりじゃないだろ?」

 

「それは……そうですね……」

 

「君は前世でも小人族(パルゥム)で、フィアナ騎士団を率いていた団長だったらしいね」

 

「は? それってつまりはリリの前世とは詰まり女神とさえ謳われたフィアナその人と――いう事ですかぁ?」

 

「イグザクトリー」

 

 フィアナ騎士団の名前の由来は団長の名前で、後に二代目騎士団長が引き継いだ後も変わらない侭に率いられ、小人族の誉れとして神格化までもされていったのである。

 

 つまり、フィアナ騎士団が神格化されたと云うよりは騎士団長フィアナ本人が神格化された存在であり、それを鑑みれば神時代に移り変わる際にフィアナなる神が存在しなかったからと自棄になる必要性は無かった筈だ。

 

 フィアナを誇り、自らを律して強く成れるのだと自信を持てば良いだけの話なのだから、ロキ・ファミリアの首領たるフィンの様に。

 

「どうやらフィンの前世とも関わりが深かったみたいだ」

 

「フィン様とはロキ・ファミリアの?」

 

「ああ。全く違っているリリとは異なり性質も余り違わなかったみたいだな」

 

 笑える事に、ティオネとよく似たアマゾネスらしき女性にロックオンされているのも同じだ。

 

 例えばこれが何らかのゲームなら単純にスターシステム的なあれこれ、つまり昔の物語に現代の人間が演じる形を取っているとも考えられる。

 

(若しかしたら在るかも知れないな。前々々世の世界に行ってみるか?)

 

 今や前世とは【魔法先生ネギま!】や【聖闘士星矢】などが取り巻く再誕世界、前々世というのは【ゼロの使い魔】を主体としたハルケギニア時代を云い、元々の生きた世界は既に遥かなる過去の前々々世と呼べるくらいのものだった。

 

 思えば遠くに来たものである。

 

 前々々世に行く手段は存在する、前世のとある世界で得た“導越の羅針盤”が指す侭に光鷹翼を以て時空の壁を破り次元の海を越えれば良い。

 

 事実、今世の地球に来て津名魅や鷲羽と出逢った事で二枚だけだが光鷹翼を使える様になった事により、今までは全く戻れなかったハルケギニアに驚くくらい簡単に戻れたのだ。

 

 こんな能力に加えて概念魔法の産物たるアーティファクトの“導越の羅針盤”、これにより本来ならばユートの能力では到れぬ場所にも到れる。

 

 ユートはすっぽりと納まるリリの頭を無意識に撫でながら続きを話す。

 

「恐らくは何らかのの魔眼持ちらしくて常に顔にはバイザーを着けていたが、間違い無くリリだろうという顔立ちをしていた」

 

「ではその方の記憶を喚起すると?」

 

「そうなる」

 

「リスクは?」

 

 矢張り思い至ったらしい、当然だが記憶の喚起には嫌な予感がビシバシと降り注いだみたいだ。

 

「リリがアイデンティティを喪失、リリでは無くなる可能性が高い」

 

自己同一性(アイデンティティ)の喪失ですか」

 

「前世の記憶が喚起されるからには前世の人格が表層に顕れる事になる。それに乗っ取られてしまえばリリはリリで無くなってフィアナと化す」

 

 或る意味でフィアナが甦るという事だろうが、ユートとしてはそんなものは求めていなかった。

 

「単純な強さは彼方側が上、下手したら二度とはリリとして存在しなくなるからな。強さを求めるにはハイリスク且つハイリターンだ」

 

 ユートの場合は疑似転生にせよ真の転生にせよ一時的な仮想人格が幼少期を過ごし、それに覆い被さる形でユートの人格が再形成されている。

 

 ハルケギニア時代は仮想人格では無くて徹頭徹尾でユート本人だったが……

 

「どっちの道、この場で出来る事じゃないから。本拠地(ホーム)に戻るまでによくよく考えて決めなさい」

 

「はい、判りました」

 

 リリは頷いて考え込んだ。

 

 自分が自分では無くなるのは恐怖も感じるが、嘗ては生まれ変わって新しい自分に憧れてみた事もあったから、実の処は然して強い恐怖に怯えていた訳でも無かった。

 

 とはいえ、今はそれなりに幸せだとも感じてはいるので自分で無くなるというのも実際は困る。

 

(自分でない自分、リリでありながらリリでは無いフィアナ騎士団の初代団長……)

 

 未だに答えは出ていない。

 

 紅の魔眼の狂気、それを覆い隠す仮面が無ければ実生活すら危うかったフィアナ、視界の全てが紅く染まり、紅を憎む程の狂気は凶気と成って、それは二代目(ディム)に継承までされた。

 

 小人族の光――フィンを名乗ったディムの瞳、それもフィアナの死後に紅く染まったのである。

 

 正確にはディムの未成熟だった魔眼に、彼女の魔眼を精霊馬フィネガスに願って統合した様だ。

 

 来世であるフィン・ディムナは、彼も神の血により与えられたステイタスに載る程に強烈な呪詛の如く、自己強化狂化魔法(ヘル・フィネガス)を会得してる。

 

 ディムが異母姉(フィアナ)の魔眼を統合し、故に来世では彼女(リリルカ・アーデ)が魔眼を持つ事も無かったみたいだけれど、当人は魔法という形でバッチリ受け継いでいたのは何よりの皮肉か、恐らくだがそれは()()()同じ事が起きているのだとユートは視ていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 キャロルとエルフナインとも肉欲的な交流を再び行ったユート、其処へファーストナンバーズの二番目たるツヴァイトが声掛けをして来る。

 

「主様、ヴェルフ・クロッゾ様より伝言を戴いております」

 

「ヴェルフから?」

 

「はい。神ヘスティアが何処かの愚か者によって拉致されたとの事です」

 

「は? 神を拉致って……」

 

 英雄が尊ばれた英雄時代が終幕して、神時代が始まった千年前から神々への畏敬は弥増していてユートみたいな神殺しは御法度、当然ながら殴る蹴るはファミリア次第で有るにしても交流の一環みたいなもので、ユートが知る限りロキ・ファミリアでもアイズが御触りしてくるロキを吹っ飛ばす事は割と有るらしい。

 

 だけど他派閥が拉致誘拐となると話は全く変わってくるであろう。

 

「相手は?」

 

「其処までは聞いておりませんが、先日の事になりますけどフィアットがオグマ・ファミリアの男に神ヘルメスが接触していたらしいと」

 

「オグマ・ファミリア……そういやベルに絡んで来たモルドってのがオグマ・ファミリアだった筈だな」

 

 これは酒場でランクアップについて盛り上がっていた最中、モルド率いる三人組がベルに絡んで来たという報告をヴェルフから聴いていた。

 

 “豊穣の女主人”でベルのランクアップ祝いとして食事会を愉しんでいた処、モルド一味がベルのパーティメンバーになってやると上から目線にて叫び、その対価にシル達を自分達に寄越して愉しませろとか的外れな事を宣ったとか。

 

 どんな愚者だと言いたくなる。

 

 勿論の事ながらモルドの一味は悉くぶっ飛ばされ終わった話な訳だが、ベルのパーティが一八階層に来ていたのを発見した連中からしたら良い面の皮だったのだろう。

 

 ベル本人はどうでも良いのに。

 

 尚、この一件は本来だとロキ・ファミリアが離れてから起きた筈だが、どうやら幾つか積み重なった出来事が絡まった結果として早くに起きてしまったらしい。

 

「愚か者は所詮愚か者……か」

 

 ユートはやれやれと(かぶり)を振る。

 

 取り敢えず、拉致されたヘスティアはリリの鼻で捜して貰えば直ぐにも見付かるであろう。

 

 彼女の“シンダー・エラ”は自分では無い自分に成りたいという願望から発露した魔法で、余程の変化を求めなければ基本的に色々と使える魔法。

 

 例えば尻尾と耳だけを変化させて獣人系のヒトへと変わるのは十八番で、リリはよく犬人族(シアンスロープ)の姿へと変わって……昔は悪さをしていた。

 

 犬人族の鼻はヒューマンの何倍も良く利く為、ちょっとヘスティアの持ち物の臭いを嗅いで捜せば本当にあっという間で、兎にも角にもヘスティア捜索はリリにお任せしてユートはベルが呼び出しを受けたと知ってそちらへ向かう。

 

「で、ヘルメスはよっぽど送還されたいらしい。こうやって僕の邪魔をするからには僕に殺されて権能を強奪される覚悟くらい出来てるよな?」

 

 恐らくはオグマ・ファミリアや其処と仲の良いファミリアの人員だろうが、数十人規模で此方への邪魔をしに来ていた。

 

「だけどツメが甘いな」

 

 ユートが敢えて視線を反らすと、これを隙と見たのか連中が襲い掛かって来る。

 

 ドガァァァッ! 凄まじいまでの音を鳴り響かせて襲撃者達が吹き飛ばされていた。

 

 いつの間にかユートの前に冥界の鉱石も斯くやな漆黒の闇色な鎧兜を装備した、前髪で目元が隠れている小柄な少女が立っていたのだ。

 

 地劣星エルフの千草、ユートの率いる冥闘士の一人として甦生した元タケミカヅチ・ファミリアのヒタチ・千草で、地星の一つである地劣星に当たるエルフの冥衣を与えられている。

 

「我が愛する冥王様に、何をしていますか!?」

 

 その怒りは主様を攻撃した愚者に対してのモノであり、極東時代からのヒタチ・千草であるのなら有り得ないくらいの感情が諸出しだ。

 

 人格的な変化は無い、実は冥衣が本体だとも云われる冥闘士ではあるものの、決して根幹的な魂が変わる訳では無いのだから。

 

 ユートの見解では、恐らくユート自身の手にする権能――神々より簒奪した神を神足らしめている能力――と似たモノ、事実として彼女を冥闘士にしているのも冥王ハーデスから簒奪した権能には違いないので、恐らくはそうなのだろうと考えた訳だが、嘗て鋼の英雄神ペルセウスを弑逆した時に簒奪した権能、それが敵対した女を斃した後に権能で味方に変えるモノ。

 

 あれは優先順位の変遷が主な権能だったけど、今回のヒタチ・千草の変化もこれに類するのだろうと考えていた。

 

 事実としてだが【スーパーロボット大戦OG】の世界に於いて、シャドウミラーの居た世界でのカトライア・F・ブランシュタインを甦生してみた際に、驚くくらいに低姿勢だったのは元からの正確性だとは思うけど、普通に『旦那様』だとか『御主人様』だとか『我が主』と言えるのだ。

 

 しかも、愛する夫たるエルザム・V・ブランシュタインが死んでいるとはいえ、股を開くのも割とあっさりしてくれるくらいには従順。

 

 これまでにもハーデスの権能で生き返らせるのはしてきたし、何ならそんな連中と似たり寄ったりな反応だから最初は気付けなかった。

 

 その効果は優先順位の変動。

 

 鋼の英雄神ペルセウスを弑逆して獲た権能とも同じくな効果で、愛する相手よりユートの優先順位が上がる事により順応を示すらしい。

 

 結果として、カトライア・F・ブランシュタインは悦びと共にユートに抱かれて満足していた。

 

 だからこそユートは、システムXNのリュケイオスで転移した世界の彼女を、疑問に思われても決して甦生をさせようとしなかったのだ。

 

 扨置き、若しかしたらいつものキョドった性格の裏にはこんな激しさを持ち合わせてたのかも知れない、そんなヒタチ・千草だったけど流石に殺害をする程にはキレていなかったか、気絶をさせるだけに留めている様だからユートも安心している。

 

 これが闇派閥が相手なら遠慮無く殺ってるが、流石に敵対していても闇派閥では無い連中を相手に殺すのは遣り過ぎだろう。

 

「なぁ、ベルは大丈夫なのかよ? あんたは師匠みたいな事をしてんだしよ、判りそうだろ?」

 

「シチュエーション次第だな」

 

 ヴェルフから耳打ちをされて静かに答える。

 

「シチュエーション?」

 

「連中が形振り構わず例えば一〇対一で闘いを仕掛けて来たら、今のベルのLV.から同じ程度の連中が二人とか三人ならどうとでもなるんだが、流石に五人を越えるとツメの甘さも相俟って不覚を取るし、人間を相手にモンスターみたいには殺せないだろうからどうしてもな」

 

「そりゃそうか」

 

 ヴェルフは不憫そうな表情で、ユートが斃した連中を視ながら呟く。

 

 生きてはいる、確かに生きてはいるのだろう、だけど冒険者としては最早どうあっても終わっていた、殺されてしまっていたからだ。

 

 それは【機動戦士ガンダムSEED】でキラ・ヤマトが不殺的に、MSの手足やメインカメラを斬り落としたり撃ち抜いたりしたみたいなもので、流石にメインカメラ=頭を落としたら死ぬからと狙わないが、何の躊躇いも無く腕や脚をぶち抜くユートに対してオグマ・ファミリアなど敵対をしてきた冒険者共は、恐れ戦慄して動きが既に止まってしまっている。

 

 周囲から……

 

「う、腕がぁぁっ!」

 

「ヒィィッ! 脚が、俺の脚が無いぃぃっ!」

 

 悲嘆に暮れる悲鳴が聴こえた。

 

「所詮は万年LV.2~3程度の冒険者なんぞ、闇派閥との闘いや隻眼の黒竜との血戦などで何の役にも立たん! その上で敵対するなら害悪ですらあるんだからな!」

 

 LV.3はそれなりに強いが、LV.4以上に成れない万年となると役には立たないだろう。

 

 飽く迄もLV.3は高位の冒険者にステップアップをする為の通過点、そんな通過点で留まり続けて何ら躍進をしない連中やLV.2から動かない連中は最早、冒険者を名乗るのも烏滸がましいというのを理解していない。

 

 某・受付嬢の『冒険者は冒険をしてはいけない』とかいう戯れ言を真に受けているのかは知らないけど、冒険者とは冒険をするから冒険者なのであって、冒険すらしないのならばそれは単なるチンピラだ。

 

 それは実際に、モルド達を視ていれば判る筈。

 

 今回の事件だって正しくチンピラの所業だし、ならばチンピラならチンピラらしく叩き潰す。

 

 二度と冒険者を名乗れぬ様に徹底的に……だ。

 

「え、えげつねー」

 

「死ぬよりマシだろ?」

 

「いやいや、これってもう寧ろ死んだ方がマシじゃねーかな?」

 

 冒険者として動けない、一般人としても働けないとなれば誰かに養って貰わねば、結局は野垂れ死ぬしか無くなるのを鑑みればそうだろう。

 

「知った事じゃ無いな」

 

 苦しんで死ね、と謂わんばかりに吐き捨てた。

 

〔ユート様!〕

 

 それは渡したスマホから聴こえるリリの声だ。

 

「リリ、どうだ?」

 

〔ヘスティア様の臭いを感じます。直ぐに助け出して来ますね!〕

 

「そうしてくれ」

 

 どうやらヘスティアの事は早々に救えそうだったし、後は彼女を拉致してベルを誘き出した連中を片付ければ取り敢えず事件も終わりだ。

 

 (やや)もすると再び通話が聴こえる。

 

〔ヘスティア様を救出しました! これからどうしますか?〕

 

「ベルの所へ向かう」

 

〔判りました!〕

 

 既にモルドの仲間連中は地に伏して絶叫を上げているか、恐怖心から仲間を助けるでもユートを攻撃するでも無く遠巻きに視ているかだ。

 

 其処に老若男女の別は無く、無差別に痛め付ける為だけの不殺攻撃は冒険者として見れば、どうしようもなく終わらされている。

 

「ふん、愚かしい連中が!」

 

 相手を見下している時にはあれだけ尊大な態度を取りながら、格上だと視るやこうして恐怖心に負けて何も出来ないし何も言えない。

 

「負け犬とは(まさ)に奴らか」

 

 下らない負け犬連中など相手にする気も起きない故に、襲って来ないならば面倒臭いから捨て置くとしてベルの居る場所へと急いだ。

 

 漸く決闘? らしきをしている場所にまで辿り着いてみれば、透明化したモルドと周囲を囲む奴の仲間共がニヤニヤしてベルを視ている。

 

「ベルッ!」

 

 慌てるヴェルフをユートが制した。

 

「な、何故!?」

 

「見ていろヴェルフ、ベルは決して弱くは無い」

 

 始まる決闘? は連中からしたなら小生意気なド新人が、モルドによってリンチをされる謂わば公開処刑でしか無い……筈だった。

 

「アバン流刀殺法……空裂斬っ!」

 

 それは剣技の基礎として教えた自然体から全ての力を出して斬る技、同じく全速力にて斬る技、そして見えざる某かを斬る技として嘗て勇者と呼ばれた男が、魔王や意志持つ武器などとの闘いに極めていった奥義として、ユートがベル・クラネルに伝えていた技であったと云う。

 

「どうやってか透明化していたみたいだけどな、空裂斬を覚えたベルにとっては単なる道化さね」

 

 モルドの透明化の秘密、その魔力の流れを感じたベルは、その魔力へと向けて自らがチャージしてた光の闘氣をブッ放してやったのである。

 

「空裂斬は元々が闇の擬似生命体なんかを討つ技ではあるが、決して殺傷能力が皆無っていう訳じゃ無いから受けたならモルドも痛かろうよ」

 

 暗黒闘氣の生命体、岩石生命体、精神生命体、ドラゴンクエストには割と出てくるモンスターな訳だが、この世界のモンスターは核となる魔石という擬似生命を持った存在にも等しい。

 

 つまり、魔石を喪って稼ぎに成らないのを覚悟するのであるならば、実に空裂斬は特効となっている正しく必ず殺す技――必殺技となる。

 

 尤も、魔石を砕けないと意味無いのだが……

 

 尚、ユートはウダイオスやゴライアスといった巨大なモンスターが相手なら、ヘル&ヘブンにより魔石をぶち抜いてやる為に稼ぎが経験値に加えてヴァリスが可成り美味しい。

 

 仮に第一級冒険者でも、巨大で持ち運びに困るタイプの魔石は破壊してモンスターを灰化している訳だが、ユートは亜空間ポケットの一部を謂わばアイテムストレージとしており、其処に収納をしておけば良いから問題も特には無かった。

 

「あ、ベルがモルドをぶっ飛ばしたみたいだな」

 

「まぁ、モルドにはランクアップしたばっかりのベルの糧に成ってくれたんだ。だからファミリアを叩き潰すのだけは止めておいてやるか」

 

「アンタ、本当にえげつない事を考えるんだな」

 

 ドン引きしたくなるヴェルフ、ユートには可成り世話に成っているから余り云いたくは無いが、『ひょっとしたらコイツ、実は可成り邪悪なのでは?』などと思いたくなる。

 

 ベルは“神様のナイフ”を片手に、ゼイゼイッと荒い息を吐きつつ倒れたモルドを見遣っていた。

 

「僕のっ、勝ち……ですっ!」

 

 だけれどその叫びは、誇りに満ち溢れている。

 

「『世界は英雄を求めている。だから俺達は愛する子供達の為の捨て石に成るのさ』……か」

 

「何だ、そりゃ?」

 

「あの最期の刻、アストレアに送還をされる前に奴が、“絶対悪”を標榜とする幽冥の神(エレボス)が囀ずった戯れ言。善も悪も中庸も無関係に、多くの者をヒトも神も怪物すらも関係無く、全てを巻き込んだ愚かな神の正しく戯れ言……ってやつさね」

 

 エレボスは邪神だと“絶対悪”だと嘯きながら、その実は下界の子供達の事を至極愛していた。

 

 だからこそ、彼は仮令多大なる犠牲を払おうとも“暴食(ザルド)”や“静寂(アルフィア)”と共に大悪党の大敵と成って、迷宮都市の冒険者の前に立ちはだかる。

 

 “暴食”も“静寂”も、その“絶対悪”の次代の英雄の踏み台に成るという考えに対し呼応したのだ。

 

 ユートは過去へ跳ばされた際に、この世界線へ回帰する為に“遣れる事”と“遣れない事”を選ばねばならず、選択肢から外された者は見捨てるという非情に成らざるを得ない。

 

 例えば静寂のアルフィアは生命を救えたけど、暴食のザルドとは会う事すらも叶わなかった。

 

 それは兎も角、モルド一味が諦めの悪い悪足掻きを始めたと思ったら、神威をちょっとだけ解放をしたヘスティアが止めに入る。

 

「って、莫迦か!」

 

 ダンジョン内へは神が入るのも禁忌とされているのに、よもや神が居ますと云わんばかりに神威を解放するなんて余りにも御莫迦過ぎた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 モルド・ラトロー。

 

 三十路半ばのLV.2、神オグマのファミリアに所属する冒険者で二つ名は『噛犬(ルフィアン・ドッグ)』だとか。

 

 Ruffianはならず者とか純粋に悪党とかの意味が有る単語、これに犬を加えるとならず者な犬? と首を傾げるかもだが、漢字で『噛犬』となると寧ろ『噛ませ犬』という意味合いだろう。

 

 恐らく同じオグマ・ファミリアの仲間か或いは冒険者仲間を引き連れ、決闘と称してニヤニヤとベルを嘲笑う仕草は正しく噛ませ犬。

 

 始まる決闘(笑)、直後に地面を弾いてベルの目を一瞬だが自分から逸らし、ヘルメスとの密会で借り受けたアスフィ・アル・アンドロメダ謹製の“ハデス・ヘッド”なる魔導具で透明化する。

 

 成程、見えなくば決闘というより単なる私刑(リンチ)

 

 モルド・ラトローが選んだのは正々堂々な決闘では無く、自身をただ優位にして相手を痛め付けるだけの汚ならしい手口だったらしい。

 

 原典のベル・クラネルなら翻弄をされだろう、然しこの世界のベルはスッと目を閉じていた。

 

「何だぁ?」

 

 モルドは訝しい表情に成るが……

 

洒落臭(しゃらくせ)ぇぇぇぇっっ!」

 

 (けん)に入るには修業が足りてない、モルドは愛剣のアンダーファングを振り回しベルに襲い掛かる。

 

「ふっ! はっ!」

 

 そんな雑な攻撃を目を閉じた侭に紙一重で躱していくベル、ユートから“アバン流”を教わっていた彼は『形有る物を斬る剣』、『形無き物を斬る剣』、そして『姿無き物を斬る剣』を体得した。

 

 元より父親譲りの逃げ足の疾さが高い素早さと成り、『形無き物を斬る剣』に関しては既に素養を見せていたベルは、筋力を上げる修業をした事で『形有る物を斬る剣』を体得している。

 

 そして悪意その物を感じ取り、姿が見えない某かに攻撃を加える『姿無き物を斬る剣』に関しても一応の体得を済ませ、今は『全てを斬る剣』の体得に向けて全体的に鍛えている真っ最中だ。

 

 そういう意味ではモルドの行動は余りにも遅かったと云える、原典なら未だしも現在のベルが姿を消した程度で狼狽える筈も無いのだから。

 

「ド畜生がっ! 何で、何で当たらねぇんだ!」

 

 モルドは姿を消している訳だし、しかも肝心要なベル本人は目さえ瞑った状態なのに当たらない事に対して苛立ちを隠せず、折角その姿を消したメリットを帳消しにするくらいに叫んでしまう。

 

 気配を感じて躱すくらい出来なかったらドSな性格が滲み出るユートの眷族、即ちラブレスにいぢめ抜かれて気絶をしてしまうくらいには、ベルが打ちのめされてしまうだろうから恐ろしい。

 

 元々、ラブレスはとある世界のシャーマン一族と剛魔神族の争い、百年戦争と呼ばれた戦争の後に生まれた新時代のシャーマンの王女。

 

 ラブレスは愚者により二人に分裂させられて、悪意(ラブレス)善意(アネス)で対立をする事に成ってしまった。

 

 ユートの傍に居るラブレスは、一度はアネスと融合をした後に再度分裂させて引き取った悪意の成れの果て、記憶も力も搾り滓程度にしか持ち合わせないけれども、この世界のLV.1に成ったエルフよりは魔力が高いし、同じくLV.1に成ったドワーフよりは力が強くて、背中の羽根により自在に空を舞うから割かし強めでもある。

 

 ベルがラブレスから習っていた技というのは剛魔神を由来とする氣、シャーマンを由来とする魔力の同時運用法――即ち氣と魔力の合一法、ユートの再誕世界でいう咸卦法であったと云う。

 

 “神の恩恵”を獲た新生ラブレス、彼女はシャーマンの魔力だけで無く剛魔神の氣も扱えるとか、正しく伝説の戦士と変わらないスペックを得ていたからこそ可能と成った。

 

 ベルより後発ながら、ラブレスはこの咸卦の氣を扱う技術によりLV.1でありながら、能力だけを視ればLV.4にも匹敵をする。

 

 これは別にLV.5に成ればLV.9に匹敵する訳では無い、上昇率は矢張りというかLV.が上がれば上がっただけ鈍るのだから。

 

 それは扨置き、紙一重のギリギリを極めて躱していくベルは見に回って見切ろうと(ルベライト)瞳を開き、目には見えぬ剣檄を頭に入れていく。

 

「クッソがぁぁぁっ!」

 

 苛立ちMAXと成った噛ませ犬(モルド・ラトロー)君がワン公みたいな叫びを上げる。

 

「無駄ですよ!」

 

 ベルの動き自体は、ユートから教えられている【緒方逸真流宗家】のモノを随時使っていた。

 

 見た目にはフラフラとしている様に見えるが、最小限の動きで最大の効果を求めるその結果だ。

 

 元より、緒方家中興の祖たる緒方優之介は後の伴侶たる“白”に与えられた修業メニューにより、鍛え始めたのが遅かったから全身をとまではいかないまでも所謂、ピンク筋で鎧っていたから体力も大幅に上がっていたものの、戦国時代の戦場で何倍もの兵士を片付けねば為らない事もあって、動きを最小限にしつつ最大の戦果を挙げねば為らない自体が多々有ったのである。

 

 ダンジョンでは、モンスターと一対一などという【ドラゴンクエストⅠ】みたいなシチュエーションが無いとは云わないが、場合によってはたった独りで“怪物の宴(モンスター・パーティー)”を処理せねば為らない。

 

 事実、フレイヤ・ファミリアのアレン・フローメルは態とその情況を作り出し、たった独り切りで嘗てのLV.を取り戻す闘いをしている。

 

 ユートが教えた、経験値(エクセリア)能力(アビリティ)へと反映させず闘い続ける事は神々すらも認める偉業であると。

 

 勿論、単なる新人冒険者がそんな事をしたなら間違いなく死ねるが、アレン・フローメルは元々がLV.6の第一級冒険者だった。

 

 ユートにより“神の恩恵(ファルナ)”こそリセットさせられてはいても、その身に宿る戦闘技術は本物だ。

 

 ユートは仕置きで彼の“神の恩恵”を消してしまったけど、アレン・フローメル本人を捨て置くには勿体無いと考えているから教えた。

 

 彼なら達成が叶うとして。

 

 まぁ、フレイヤと殺り合うのもアレだったし。

 

 今のベルは半分とまではいかないがピンク筋により鎧われており、“神の恩恵”とは別口で能力が上がっているから背中の数値以上の力を発揮も出来るし、その上でランクアップをしたばかりの筈のベルは既に多くの経験値を獲ている。

 

「アバン流刀殺法……空裂斬っ!」

 

「莫迦な!?」

 

 ハデス・ヘッドが砕かれ返す刀でベルはとある構えを執り、“神様のナイフ”を右手で逆刃に持つと腰をグッと落とす体勢と成った。

 

「アバン……ストラァァァァァァァッシュッ!」

 

「ガハァァァッ!」

 

 飛来してきた斬檄に吹き飛ばされたモルド。

 

 何故だろう? 凄く馴染む、何故だろうか? 凄くスッキリと技を出せていたのが不思議だ。

 

「僕のっ、勝ち……ですっ!」

 

 それは正しく、“世界最速兎(レコードホルダー)”などと神々から呼ばれるLV.2に至ったばかりである筈の少年、ベル・クラネルがベテランと云えば未だしも口当たりの良い、万年LV.2であるモルド・ラトローに勝利を収めた瞬間であったと云う。

 

 

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 ダンまち本編とソードオラトリア、最新刊を読んだら何故か前回と噺が繋がらないと重そうに、何と前巻を買い忘れて読んでいなかった……


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