ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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往生際が極めて悪いモルド・ラトローの一味、本人も気絶をした訳では無かったから起き上がると横一文字に付いた傷で痛む胸部、ポーションを飲んでダメージを癒しながら怒りを露わにする。
「テメェ、よくもやってくれやがったなぁっ!」
オグマ・ファミリア他、第一八層くらいで燻っていたからベルの躍進を気に入らない連中が纏まって動きを見せたけど、ベルは残心にて全く以て油断などをしていないから直ぐに構え直した。
師匠がまともに居なかった原典とは異なって、ユートを始めとする何人かが師匠としてベルへと付いていた為、余りアワアワとする事も無いから割かし冷静に物事を判断する事が出来ている。
ユートはベル対モルド・ラトローの闘いに干渉をしないが、取り敢えずという事で無駄に動いた神を潰すべく動こうとしたが……
「ヤメロォォォッ!」
紐女神がベルの闘いに追い付いたらしかった。
原典程に苦戦をしてはいないが、だけど女神のヘスティアにとってはベルだけではなく全て等しく下界の子供達、出来得る事なら愛しい眷族であるベルが同族争いをしない方が良かったのだ。
全知零能たる
ヘスティアの腰までも伸びている長い髪の毛を結わい付けていた髪飾りが落ち、全身をピンク色に揺蕩う神氣を纏う状態に成っていた。
黒髪は燃えるが如く紅く煌めきを帯びており、瞳もスンと表情を喪った形で前を
地上の子供達に神氣を感じる感知能力は無い、然しながら神氣を纏ったならば神威が放たれるが故に、その余りの威容を受けてかタケミカヅチ・ファミリアの団長なカシマ・桜花もヤマト・命もキサラギ・飛鳥も、前方に敵対者が居るにも拘わらず背後の凝視をしてしまう。
それは彼らに合力をしていたリュー・リオンもそうだし、ヘスティアの傍に居たリリルカ・アーデもその神威に腰が引けていた。
冥界の鉱石で造られたと言われれば納得をしてしまう漆黒の鎧――冥衣を纏うユートの新たなる冥闘士、地劣星エルフのヒタチ・千草だけは直ぐにも膝を付いて平伏している。
仮面付きな兜を脱いで、片脇に持ちながらだ。
『止めるんだ、子供達よ。今すぐに剣を引きなさい……』
神威の乗った声、神威を纏う肉体、それは正しく人類を超克した
「う、うわぁぁぁっ!」
ゆっくり歩む“神ヘスティア”の威容たる姿に、近付かれたチンピラ冒険者は一人また一人と堰を切ったかの如く逃走し、それに慌てたのは一人でベルの相手をしていたモルド・ラトローである。
「テ、テメェら待ちやがれ!」
故に、彼も逃げ出さざるを得なかったのだろう。
文字通り上から目線で観劇をするかの様に眺めていたヘルメス、そして余り良い気分では無かったアスフィ・アル・アンドロメダ。
「おやおや、ヘスティアが神氣を解放したのか。こりゃ、今日の余興は御仕舞いって処かな?」
「で、済むと思うのか?」
「……へ?」
行き成り背後から声を掛けられたヘルメスが振り向けば、其処には威容な雰囲気を纏ってジト目を向けてくるユートの姿が在った。
全く気付かなかったアスフィも、ギョッとした表情で見遣る。
「がっ!? な、何を!」
「ヘルメス、お前の企みだと気付かれないとでも思ったのか? 何なら七年前の“絶対悪”みたいに光の柱を立ち上らせてみるかよ?」
『止めよ!』
咄嗟にヘルメスも神氣を解放し、神威を以て命令をしてみるが……
「だが、断る!」
あっさりと断られてしまう。
何処ぞの神モドキが使った神言とは異なって、間違いなく神威を籠めた本物の神言だったのに。
『なっ!? グアァァァァァァァァァッ! 莫迦な!? 彼は神の力を吸収しているとでも云うのか?』
ほんの僅か、全体で視ればそれこそ一%にも満たないであろう神氣だったが、それをあっさりと吸収してしまうユートに脅威を感じる。
「異世界の地球に於いて、神話から顕現した存在である【まつろわぬ神】を殺害すると、真なる神の二柱が用意した円環の術式によって弑奉られた神の神氣が、殺害した人間へと流れ込んで肉体的には神氣を扱える超越者として転生させるんだが、そうなった人間を人は王者――カンピオーネと呼ぶ」
「は?」
「お前の同郷にハーデスって大神が居るだろ?」
「い、居るが……」
「別の世界の話だが、冥王ハーデスを斬殺してやった訳だ」
「なっ!?」
この世界にもギリシアはオリンポス三大神であるゼウス、ポセイドン、ハーデスは存在している訳だが、ヘルメスも同じくオリンポス神の一柱であるからには無関係では居られない。
寧ろ、オラリオから追放されたゼウスとは今も繋がりを持っており、ベルが嘗ての最強と最凶のゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアの謂わば末裔的な存在だと知っている神でもあり、しかも彼の“静寂”のアルフィアの甥でもある“
「だけどな、それとは無関係に僕はエネルギーを吸収する事が出来る。カンピオーネに転生前では使えなかったが、カンピオーネ化してからは神氣を権能に変換して扱えるのさ」
「な、何だって!?」
「僕が“神の恩恵”を刻まれる前の修業の推奨をしているのは、予め強く成っておけば恩恵を受けた後の能力にも反映されるからだ。即ち今の僕みたいに……だな。恩恵を刻まれた後だと、どうしても“神の恩恵”の影響が出てしまうからな」
「うぐっ!」
今現在のヘルメスは、謂わばオルフェノク形態の木場勇治に首を掴まれ宙吊りにされた草加雅人な状態で、ユートの思惑一つで簡単にボキッと首が逝ってしまう事に成る。
「本当はこの侭で詰問タイムといきたかったが、残念ながらヘスティアに加えて己れの神氣を感じたダンジョンが御怒りみたいだな」
地震と共にダンジョンの天井が罅割れるかの如く軋む、それはまるでダンジョンに於ける謂わばモンスターの誕生を言祝ぐ様だったとか。
顕れたのは漆黒の肌を持ち、二つの頭を持ち、その一つは巨大な一つ眼、竜の如く鱗に鎧われ、巨大な漆黒の剣を片手に持ちながら邪骨兵としか思えない兵隊を王の如く率いるモンスター。
「ゴライアスの中に、アンフィス・バエナとウダイオスとバロールの要素が混じるモンスター?」
モンスターの気配からLV.5処か、下手したらLV.7には至っているのではなかろうか?
「チィッ、ゴライアスの潜在的なLV.は4程度の筈なのに、どう考えてもアレはLV.7だ! 嘗ての“絶対悪”が深層でやらかした時の奴よりも単純な強さは上っぽいな」
“
原典では単に肌の色が漆黒で、潜在的なLV.が5というだけだったからベルの“英雄願望”込みの攻撃……それで何とか成ったのに、あのキメラは明らかに潜在LV.7は確実な力が有る。
余りと云えば余りのの強さ故に、LV.が低い冒険者があっという間に地面の染みに変わった。
ヒト種のLV.7とモンスター、取り分けて云うと“
少なくとも
「チッ、命拾いをしたなヘルメス。今はあのキメラを斃すのが先決だ」
手を放すとドサリ、音を立てて尻餅を突いた
「痛たた、まさか神氣を浴びて平気な処か吸収をされるとはね」
「ヘルメス様の自業自得です」
「そう言うなよ、アスフィ」
ヘルメスはヘラヘラしながらも、嫌う憎む警戒をする処か俄然興味が湧いたのだとばかりに目を細める。
嘗て、双子座のサガ――ユートに言われた事があった科白、それは『世界は英雄を求めている、然しそれは人造の英雄でも無くば神造の英雄でも無い。自らの意志を以て泥を啜りながら倒れては立ち上がる事を繰り返した天然の英雄だ』と。
その真髄は師が導いて強くなるのは良いけど、神が偶然を装おって干渉するのは意味が異なる。
故にユートは今回のイレギュラーを利用して、ベルのステイタスを上げる事を目論んでいた。
上手く遣れば偉業も溜まる。
ランクアップしたばかりだし流石に今回は無理でも、それにしたって或いは次のランクアップの短縮には繋がるかも知れないからだ。
それをするにはちょっと強過ぎる敵だけれど。
既に戦闘は始まっている……というよりかは、ゴライアス・キメラによる虐殺が始まっていた。
この第一八階層のリヴィラの街で顔役をしているLV.3、ボールスはあの異様としか云えないモンスターにチビる程の恐怖を感じる。
「な、な、な、何じゃありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ボールスのLV.から鑑みても、リヴィラの街が在る第一八階層より下は碌に探索もしていないだろう、少なくとも二五階層より下には行ってない可能性も高い訳で、ウダイオスは於ろかアンフィス・バエナでさえ直に見た事が有るか否か。
況してや、バロールなぞ言わずもがなである。
其処へアスフィが現れた。
「ボールス!」
「アンドロメダ!? てめぇ、今どっから現れやがった?」
「そんな事はどうでも宜しい!」
ボールスからの疑問など切って捨てて本題に。
「それより直ぐに街の冒険者と武器を有りったけ集めなさい、あの不気味な姿をした階層主らしき怪物の討伐をしますよっ!」
「と、討伐だと? 莫迦を言ってんじゃねーよ、アンドロメダ! 俺らの財産をはたいてまであのデカブツを相手にする必要が何処にある? こんなんどう考えてみても、逃げの一手に決まってんだろうが!」
「退路など既に絶たれています! 南の洞窟は崩れており、私達は事実上この階層からの脱出が最早不可能なんです! 急ぎなさいっ!」
「くそったれ! マジかよ!」
有無を言わさぬとばかりにアスフィから言われてしまい、“迷宮の孤王”を切って貼ったみたいなモンスターを隻眼の
何をどうしたって間に合わない、討伐をしなければ死ぬだけだ。
それがありありと解る。
LV.4、しかも高名な魔導具技師でもあり、オラリオにも数名しか居ない“神秘”の発展アビリティを発現、そんなアスフィ・アル・アンドロメダの言葉を重く受け止めないなんて、ボールスとしても有り得ない事であると当然理解していた。
だからと云って、唯々諾々と従えるのかと言われれば否である。
なので、何とか反論を試みるも正論にて却下。
已むを得ずモルドはリヴィラの街の全体を動かす決意をした。
それこそ、此処で逃げ出す輩は二度とリヴィラの街の利用をさせないのだと言い放ってまでだ。
問題のモンスター、仮にレックス・キメラとでも名付けられたソレがLV.7相当な事だろう。
ボールスが顔役なのは、基本的に彼がリヴィラの街で実力者であるからに外ならない訳だけど、そんなボールスのLV.は3である。
ボールスに付き従う連中はLV.2が殆んどだったし、魔導士の連中はLV.3なんかも居るけど圧倒的なまでに実力不足は否めない。
はっきり云って、原典ので方では“
それでも勝てたのは漆黒のゴライアスの実力がLV.5相当であり、ベル・クラネルが放った未完成な“英雄の一撃”が有ったればこそ。
この世界線のベルは、完成度という意味で原典のベル・クラネルより高いが、敵対をしているのが明らかにLV.の幅が超越をしている。
ユートの存在がこの
いずれにせよ、ベルにだけ任せてはおけない。
少しだけプラスの要素が有るのだとしたなら、それはロキ・ファミリアが未だ帰還していないという事で、ユートが見遣ればアイズやティオナやティオネやベートの一軍前衛組がレックス・キメラと戦闘中だったし、LV.7に至ったフィンとガレスも奮闘をしている様だ。
後衛では魔導士組、ロキ・ファミリア三巨頭の一人たるリヴェリア、その後継者最有力候補なレフィーヤを中心にして陣形を組んでいる。
ラウル・ノールドの率いる二軍は中衛を担い、使われずに残されていた魔剣で攻撃をしていた。
放たれている魔法の火球は正直ショボ過ぎる、然しながら数により牽制くらいには成っている。
「あれなら僕が【DQ】世界で手に入れた魔法具の方が使えるな。回数制限なんかも無い訳だし」
それこそ、魔剣で放たれる火の玉はメラにも劣る威力でしかない。
「若しかしたら、魔剣が壊れるのは内包していた魔力が尽きてしまい、それで形を保てなくなっているからなのかも知れないな?」
この世界の人間は誰でも少しは魔力を持っているが、魔力を扱わないと魔力の基本アビリティは全く増えない訳で、鍛冶師達も魔剣を造る為には魔力を用い意識的か無意識に、魔力を素材に籠めて魔剣と成しているのだと思われる。
要は使い切り電池内蔵型みたいな代物だろう。
しかも、【機動戦士ガンダムSEED】で云う処のバッテリー機が魔剣で、核エンジン機がユートの持つ魔法具と言っても過言では無い。
正しく威力も保ちも段違いだ。
「仕方が無いか」
その時、ラウルの使っていた魔剣が壊れる。
「しまったっス!」
「ラウル、これを使え!」
「え、これは?」
「破邪の剣改、ベギラマ級の閃熱エネルギーを使える魔法具だ!」
「べ、ベギラマっスか?」
「兎に角、撃て!」
「はいっス! やぁっ!」
気合で放なたれた破邪の剣改からの閃熱エネルギーがレックス・キメラを襲う、然しながら確かに今までラウルが使っていた魔剣より遥かに強力な攻撃となるものの、それでも大ダメージとはいかないらしい。
「あんま効いて無いけど、スッゴい威力っス!」
「中層までのモンスターくらいなら屠れるんだ、大事に使ってくれ」
「了解っス!」
ギュッと破邪の剣改を握り締め、笑顔でラウルは答えるのだった。
「それから他の二軍達はこれを使ってくれるか」
「これは?」
「氷雪の短剣、ヒャダルコ級の吹雪きを吹き荒らす事が可能だ」
ヒャダルコというのが何なのかは判らないが、兎にも角にも渡されたロキ・ファミリアの二軍のメンバーは“氷雪の短剣”を使ってみる。
氷雪の短剣はユートがこの世界で御試し製作をした魔法具、割りと量産が利く為に
「わ、凄いっ!」
猛吹雪が吹き荒れ、その中の氷の粒は鋭利な刃の如くでレックス・キメラの肌を凍結させつつ、刃の様な氷の粒で傷を増やしていった。
再生力が高いから余り効果を実感が出来ない、然しながら普通のモンスターなら即死だろう。
「今の凍気の状態ならば……
複数人が発動させた氷雪の短剣、ヒャダルコの発動によって周囲の温度が極端に下がった処へと放たれたのは、同じ中級氷結呪文ながらも効果の範囲がフィールド全体に及ぶヒャダインである。
その時、吹き荒れた凍結をする大嵐がレックス・キメラのみならず、奴腹が
問題は死んだ人間を生き返らせる手段が限られている事、ユートに出来るのは冥王の力を以てして冥衣を与えて下僕にする事。
如何なる甦生呪文を使おうとも、パーティ扱いに無い人間を生き返らせる事は性質上叶わない。
回復呪文とて、パーティ扱いに無かったら効果が駄々下がりだ。
「まぁ、けど遣るしか無いんだろうだがなっ!
本来の効果は
「無いよりはマシだろう」
何故ならば、ユートが使う回復呪文は基本的に倍のMP消費だから。
ベホマラーにしか成らないベホマズンでありながら、消費MPはベホマズンの倍とかちょっと有り得ない消費量だと云えるであろう。
昔は回復呪文も普通に使えていたのだけれど、いつの頃からか回復量が落ちて消費が上がった。
回復呪文だけが適性駄々下がり、いまいち訳が解らない状態に成っているのが少し解せない。
まぁ、単体ならばベホマでベホイムに成るから余り困ってないけど、こういう場合には不便。
あの程度のモンスターなどユートからしたなら簡単に屠れるのだが、それを遣ってしまえばベルの成長には繋がらないから遣らない。
勿論、人死にが余り出る様なら仕方がないからとユートが一人で殺るが、然しながら冒険者とは死を覚悟してその仕事としている者達。
ならば、こうしたイレギュラーが起きて場合によっては死ぬのだとしても、それで文句を言われる筋合いなど一切合切無いのである。
実際、二〇人を越えるLV.2の冒険者達が既に死亡していた。
ユートからしたならばどうでも良い人間だし、死んだ処で全く痛くも痒くも無い存在である。
とはいえど、ベルが気に病むから仕様が無い。
(多少は守ってやるしかないか)
ロキ・ファミリアもダンジョンアタックを共にした準仲間枠、特にレフィーヤとかティオナなど仲良しよりも上位な仲好しであり、況してやティオナの場合は肌を重ねた可成りの特別な仲でもあるのだから。
アイズはロキと同じ理由であり、『御気にだから』というやつだ。
リヴェリアやアリシアを始めとする彼女達は、ユートがエルフを好むという癖からであろう。
それを言ったら
「マジに壊れねぇんだ。あれだぜ、俺が目指すべき魔剣の頂は!」
ヴェルフはユートがロキ・ファミリアの二軍へ渡した魔法具を視て、正しく担い手を置いてきぼりにして壊れる魔剣の頂点を見たのだ。
ヴェルフが自身の背中に背負うっている代物は“クロッゾの魔剣”で、精霊の怒りを買って一族は魔剣を鍛てなくなっていた中で、何故か自分だけは魔剣を鍛てていた事から魔剣を鍛つのを強要されてしまい、ほとほと一族も魔剣にも嫌気が差した。
だけど、ユートの魔法具――正しくは魔剣では無いけど大雑把な括りで同様――を知った事で、それこそ自分の目指すべき頂きだと考える。
今回はそれが証明されたのだ。
「あの滅茶苦茶な“迷宮の孤王”モドキの相手は、僕達ロキ・ファミリアが中心となって行う! 他の者は周囲に沸いたモンスターを討て!」
輝く槍を手に、フィンが指示を飛ばしている。
LV.2がレックス・キメラを相手にした場合は瞬時に虐殺されてしまう、それ故に下手に突つけば死体が量産されるだけにしか成らない。
正直、LV.3もレフィーヤ以外は要らない、どうせ魔導士も大して役には立たないだろうし。
ボールスもリヴィラの顔役として逃げ出そうに逃げれず、涙目になりながら両手斧を持って雑魚狩りの為にモンスターを斃していた。
「くそっ! 何だって俺がこんな目に遭う!?」
繰り言を呟きながら。
「リリは頑張って武器を御届けしますよ~!」
今はランクアップもしてLV.2と成ったが、それでも未だ能力が低いので配達屋をしている。
ベルもLV.2に過ぎないけど、元より最大限に基本アビリティを上げられるだけ上げてきた為、実質的にLV.3の下位の能力に近い。
それに紙装甲ながら素早さで躱し続けていた。
とはいえど、幾らベルであっても“
近付けば足下を斬って、離れればファイアボルトで牽制をする
取り敢えずは基本に忠実だ。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々 。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】」
【疾風】の二つ名が轟く、リューがレックス・キメラの攻撃を躱しながら詠唱をしている。
「あれは、並行詠唱!?」
レフィーヤが驚きの声を上げるのも無理は無い話で、集中を要する魔法の行使は基本的に足を停めての詠唱が常となり、謂わば魔導士というのは固定砲台である。
然し、中には激しく動き回る最中に詠唱を口ずさむ事が出来る者も居るもので、リューが遣っているのが正しく並行詠唱という技術。
「ルミノス・ウインド!」
翡翠に輝く風を纏う光球がリューの周囲に出現すると、彼女の放つ為の謂わば“力在る言葉”により解放されてレックス・キメラへ降り注ぐ。
その攻撃に併せる様に、アスフィがタラリアと名付けられた空に浮く魔導具で浮きつつ、バースト・オイルと名付けた所謂、爆薬に近い魔導具の複数をレックス・キメラへと投げて爆発させた。
更にユートがそれに併せ……
「
膨大な熱量を秘めた、他の魔法使いが使ったら
大魔王バーン風に言うと――『これはギラグレイドではない、ベギラゴンだ』であったと云う。
流石に大魔王バーン程にダイナミックでは無かったが、ユートの魔力強度も魔力純度も魔力量も常人を遥か彼方へ置き去りな程に高いが故。
「っ! 其処までのダメージに成らなかった? 僕のベギラゴンを喰らって? リューとアスフィの攻撃まで併せて喰らったのにか!?」
どうやら魔法防御も物理防御もべらぼーな高さらしくて、ベルと同じくLV.2とはいえ元々の能力が高いユートの魔力強度でコレだとは?
それは信じ難い強さだった。
「ユートさん!」
「リュー」
困った表情に成りリューが傍に近付いてくる。
「いったい、あれは?」
「単純に魔法防御や物理防御が高いのか、或いは熱に対して防御が高いか、それに再生力が莫迦みたいに高いのは見ての通りだろうな」
「詰まり、一時に致命のダメージを与えねば堂々巡りであると?」
「そうなるな」
余りの出鱈目っ振りに青褪めてしまうリュー、ユートはそんな彼女に美しくも艶かしい翠玉色の指環を嵌めてやると、慌ててそれを視た。
「え、これ? え!?」
「何か勘違いしてるみたいだけど、それは魔導具の一種だからな?」
「魔導具……ですか……?」
風の精霊王の力を封入した翠玉、この宝石を選んだのは彼女の魔法の色に併せたからである。
「確かにこの宝石は、凄まじい力を感じますね」
「リューの魔力強度を倍にしてくれるだろう」
「ば、倍ですか?」
ユートは頷くと更に言う。
「風属性の魔法の威力を更に数倍にまで引き上げるだろう、詰まりは魔力強度が二倍に成った上で風の魔法を使えば更なる向上が見込める」
「素晴らしい効果ですね」
漸く話し合いも終わって、ユートとリューは再びレックス・キメラに向けて戦闘を再開した。
「右手にイオラ、左手にベギラマ……合体呪文イオギラマ!」
態々、中級呪文の合体呪文にしてるのは極大だと極限の威力に成る、下手に遣ると周りの連中を巻き込んで逆に死なせてしまうだろう。
単体攻撃呪文もその威力から周囲を巻き込む、メラゾーマでも危険なのにメラガイヤーは使えないし、中々に強力な呪文は使えなかった。
まぁ、カイザーフェニックスにすれば危険性は低くなるのだけれど、何ならマヒャドやらマヒャデドス、これらをインペリアルドラグーンにするのもアリなのかも知れない。
インペリアルドラグーンとはカイザーフェニックスに倣ったモノで、大魔王バーンがメラゾーマを不死鳥の形で扱っていたのを識るが故に、氷結系呪文で龍の姿を模してみたモノを構築した。
先のベギラゴンは収束率を上げたモノであり、更にリューとアスフィの攻撃に備え周りが離れていた為、ユートも遠慮無く放ったのだ。
ギラの収束に関してはポップが遣っていた事の模倣だが、元から爆発力故に全体攻撃なイオ系て違って力が分散させられる閃熱呪文は、収束させる事も確かに可能だったからこそのものだった。
イオ系も収束自体は可能だけど、それをやったら着弾点から本来以上の爆発力が生じてしまい、ユートは危うく死にそうに成っている。
イオナズンを拳に収束させて放つのは、普通の人間が遣れば間違いなく腕から木端微塵だろう。
ユートは小宇宙で自身を守れるから可能だが、ヒートナックルやライトニングバスターは神剛鋼の戦士だからこそ可能な技と云えた。
「
右拳にイオナズンを収束、更にそれを拳の形にして超速回転させる。
「ブロークンバスターッッ!」
超速回転しながら放たれた拳型のイオナズン、それがレックス・キメラに当たり体内にめり込んだ瞬間、解放されて大爆発を引き起こす。
ある程度なら、冒険者達も離れた位置に居るから巻き込まないで済むし、体内で爆発させたから爆発力も外には向かわずに済んだ。
「流石に魔石に届かない……か」
それでも再生をするレックス・キメラに辟易としてしまった。
「ベルじゃ無理か……」
原典の通りなら問題は無かったのかもだけど、矢張りレックス・キメラではベルには討伐するのは不可能、ユートは已むを得ずバックルを取り出すとカードを装填、シャッフルラップが伸長して腰へと装着されたのを確認してハンドルを操作。
「変身っ!」
《TURN UP!》
オリハルコンエレメントが顕れ、それを潜ると龍を人型に模した白亜の全身鎧を纏う姿に成る。
《Vanishing Dragon Balance Breaker!!》
変身後、電子音声が鳴り響いた。
左腕に装着されたラウズアブゾーバにユートは更にカードを装填、其処にはQのカテゴリーである事を示すマークが刻まれている。
《ABSORB QUEEN》
更に【A】カテゴリーのカードをスラッシュ。
《CHANGE ACE!》
使ったのは本来なら変身に使っているカード、それは赤い龍を人型にした鎧を纏う為の物だ。
《Welsh Dragon! Vanishing Dragon ! High end final fusion Balance Breake Evolusion!!》
それは二天龍の魂を封じた神器、本来なら相反する赤い龍と白い龍だったけどユートは交わる筈の無い力、それを融合させる事が可能。
超越神器化したその姿は赤を越え、白を越え、その全ての力を超越した水晶黄金として纏められており、“白龍皇の光翼”と“赤龍帝の籠手”を持っている形として、まるで最終青銅聖衣が神聖衣化を果たしたかの如く、豪華絢爛に装飾を成された鎧兜を纏っている状態に。
夢幻を以て無限を制する事ですら生易しい耀きが燦然と主張し、嘗てユートが滞在した世界にて存在していた“無限の龍神オーフィス”と“赤龍神帝グレートレッド”という二つの『むげん』の力を借りる事も無く『むげん』を体現。
「“天魔真龍皇帝の鎧”!」
即ち、至高も究極も極限ですら越えた超越神器と成るのだった。
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