ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか【魔を滅する転生窟】 作:月乃杜
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降りた先ではやはりというか、モンスターで一杯なフロアがある。
しかもどうやら今回は、普通の冒険者パーティなら最悪と言っても過言ではないだろうと、ユートは先を見据えて考えていた。
所謂、モンスターハウスと呼ばれるダンジョン型のRPGで見られるトラップであり、DQ外伝トルネコの冒険などで採用されていたものでもある。
尤も、このオラリオではまた別の呼び方であり──【
種々様々なモンスターがフロアの全体に広がって、冒険者パーティを取り囲むであろう状況、通常であれば嬲り殺されるか生きた侭で喰われるかのいずれか。
まあ、それも取り囲んでいる相手がユートでさえなければ……の話。
「おお、金貨の群れだな」
ユートからすればこれは金の生る木くらいの認識に過ぎず、アニールブレードを片手にモンスターばかりのフロアへと突っ込んだ。
一時間も過ぎたろうか? 死ねば入れ替わり立ち替わりモンスターが次々と入ってきたモンスターハウス現象も、湧出の限界を迎えたのか沈静化した。
基本的に一撃必討だから時間が掛からない。
アイテムストレージの方を確認してみれば、魔石の数もドロップアイテムの数もべらぼうなものであり、きっとこれだけでもホームに残るヘスティアが見た事もない金額であろう。
「さて、次に行くか」
何でもない様な口調で、階段を降りるユート。
それから割と何日も掛けて中層から下層まで降り、既に深層とも呼ばれそうな位置まで降りた。
「それにしても……流石は天界でも【神匠】と謳われた鍛冶神。
とはいえ、普通の金属で造ったバックラーだからか既に壊れてしまった、確かゴライアスの次の階層主との戦闘中。
軽鎧は元々が暗黒聖衣を黒鍛聖衣に造り直す為に、新しく造った
勿論、武器にも使えた。
これにパプニカ製の特殊な布──魔法の闘衣などに用いられた──と同じ造りの布で織ってある【コート・オブ・ミッドナイト】を併せて、防御力はそれこそ大魔王にも挑める装備。
武器はアニールブレードと呼んでいるが、その実態はドラクエの【鋼鉄の剣】を更に丈夫に鍛え上げた【鋼鉄の剣+】といった性能でしかない。
単純に形をアニールブレードにしただけであって、何かしら特別な意味合いは持っていない。
この深層まで来るともう力不足でしかないからか、刃毀れをして切れ味も随分と落ちている。
「また階層主が出るだろうからな、新しく武器を装備し直しておくか?」
攻撃力はⅣ準拠となり、四〇の【鋼鉄の剣】より上で五五となっている。
ユートはステータス・ウィンドウを開いて、手にしたアニールブレードを仕舞ってしまうと、新しい剣をタップして取り出す。
見た目にはキリトに売った第五〇層ボスのLAで、名前も【エリュシデータ】となっていた。
攻撃力は【鋼鉄の剣】より遥かに高い一〇〇。
単純な威力だけならば、【奇跡の剣】並であり使った金属は黒鍛鋼。
色に関しては全く弄っていないが故に、本物? の【エリュシデータ】と同様に真っ黒な剣。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第四九階層。
一般に
次々と沸き出るモンスターの一群、ユートはそれをエリュシデータを以て斬り裂いていく。
数が余りにも多すぎて、ソロでの対処は難しい。
元々のユートの能力が、この世界で云うレベル5だったのが、ヘスティアから【
だが、此処までとなればソロではレベル6であっても手に余った。
とはいえ、ユートが持つのは剣だけではない。
「ブー・レイ・ブー・レイ・ン・デー・ド。血の盟約に従いアバドンの地より来たれ、ゲヘナの火よ爆炎となり全てを焼き付くせ!」
暗黒魔法の一種だけど、【精霊契約】の魔法により元が闇に強い適正を持ち、更に強くなったが故にこそ使える魔法。
地獄の最下層、アバドンとゲヘナより喚び出したとされる二万度の超高熱を、自らの肉体に纏い体当たりをする荒業。
「
岩石すら融解する熱を帯びて飛び回るだけ、それだけでモンスターが死んで逝くのが判る。
魔石が砕かれる前に死ぬからか、魔石もドロップアイテムも確りとGet!
難関を抜けたユートの前に顕れるは階層主。
第四九階層の階層主──バロールと戦い、ユートはこれをナハトとアーベントと更にはソウルゲインと共に撃破をした。
第五〇階層はモンスターが生まれない安全階層。
だけどならば、次の階層は相当なものとなる筈で、ユートはニヤリと笑う。
この辺まで来たならば、如何にレベル6相当であろうとも、ソロでは可成りの負担と無理が生じるとは、前述した通り。
「本っ当に鬱陶しいな……ならば、銀河の星々が砕け散る様を見るが良い!」
勿論、小宇宙が使えないからモドキでしかないが、ユートはエリュシデータを地面に刺し、両腕を天高く掲げて魔力と闘氣を融合させると、スパークさせながら振り降ろす。
「喰らえ、
目の前で襲い来る黒犀や巨大蜘蛛に、まるで銀河が大爆発したかの如く威力が炸裂し、全てを消し去ってしまっていた。
蜘蛛の糸やブラックライノスの角など、ドロップアイテムがアイテムストレージに格納されている。
勿論、魔石もだ。
「フッ、真正ではないけど中々だったな」
エリュシデータを抜き、片手に持った侭で【そして誰も居なくなった】道を、ユートは悠々と進む。
それから暫く経って何処かのファミリアの一団が、この第五一階層へと足を踏み入れた事には、ユートも流石に気付かなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この第五一階層には
凶悪なそのモンスターが守るは、薬品などを作るのに最適な水──カドモスの泉水であり、ユートも薬品は作るから見付けて採らない理由は無い。
当然ながらカドモスとの戦闘となる訳ではあるが、ユートにとってカドモス……竜種は相性が良すぎた。
「呪え、呪われよ我が怒り以て竜蛇を呪え赤き堕天使……神の毒。我が悪意にて全ての竜蛇を呪え呪え呪え呪え呪え……呪い在れ!」
聖句を唱えると周囲が赤朱緋紅と、まるでドロリとした粘性の高い流血の如く重苦しい某かに侵される。
結界型の権能──【
その能力は竜蛇の能力を百分の一にまで落として、更にユートの全ステイタスが竜蛇に対して十倍化し、その攻撃は竜蛇の因子を持つ相手ならば、快復不可能なダメージを与える。
しかも、竜蛇の因子持ちには凄まじい威圧感を与える事になり、今現在の目前のカドモスの様に……
『ガ、ガウ……』
腰が引けてしまうのだ。
【竜蛇】という因子持ちに対する絶対的なアドバンテージ、とある世界で竜蛇を呪う【龍喰者】を喰らって手にした権能。
何処ぞのなんたら空間やなんたら時空より凶悪で、こうなったら最早、竜蛇の因子を持った存在に勝ち目は無かった。
デメリットはユート自身も竜因子を使えなくなる。
つまり、ユートの内に在る神器──【
他にも【竜戦士ルシファー】も使えないだろうし、割かし外から得た能力には影響を及ぼしている。
だけどそも、この権能を使うなら必要が無い。
この権能は飽く迄も竜蛇の因子を持つ相手にしか使えないから、カドモスだけとか竜蛇のみを相手取るのに使う権能であり、竜蛇に対して相対的に千倍も増力しているに等しいならば、わざわざ他の能力なぞ使わなくても勝てるのだから。
「さあ、死の舞いを踊れ──
斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ! 斬っ!
『ギエエエエエエッ!』
何ら躊躇いも情け容赦も無く、ユートは笑みさえ浮かべてエリュシデータによって剣の舞いを踊る。
快復など赦されぬ剣撃、それを連続して喰らってしまったカドモスは、絶叫を上げながら絶命をした。
それを証明するかの如くカドモスは灰化、アイテムストレージにはカドモスの魔石とドロップアイテムのカドモスの牙の名が挙がっている。
「さて、泉水を採取したら次に行こうか」
有言実行、ユートは泉水の採取をした後は再び同じ気配がする方へ進む。
権能は解除してないから二度目のカドモスも無事に斃して、カドモスの泉水を再び採取した。
勿論、魔石とドロップアイテム──カドモスの皮膜も採取をしておく。
カドモスの気配も無くなった事だし、ユートは権能を解除して思考する。
「権能を使えばある程度の神氣が漏れる筈、それなのに神氣は漏れなかったし、何より魔力で権能が発動をしていたな。つまり、得たスキル──【権能発詔】とはこういう意味か?」
スキルに挙がった理由、使い勝手は良くなったと考えるべきか?
「っ! 人の気配?」
ユートが振り返ると……
「あれ〜? カドモスが居なくなってるよ?」
短髪でオパール色な瞳、褐色肌に胸が無い少女が大きな声で叫ぶ。
次々と入ってくるのは、同じ顔でありながら長髪で胸が大きな少女、亜麻色のロングヘアーを銀色の髪飾りで纏めた耳が長くてターコイズブルーの瞳の少女、金髪金瞳で白を基調に蒼いラインの服を着て、その上に銀色の胸当てを身に付けた細剣を持つ少女。
「っ!? これは……!」
感じられるのは地下からの気配。
「其処の一団! 入って来るなっっ! まだモンスターが居るぞ!」
「は?」
訝しい瞳で視てくるのは褐色肌のロングヘアー。
まるで何を言っているんだと云わんばかりであり、どうやら未だに気付いていないらしい。
「チィッ!」
盛大に舌打ちする。
ボコッ!
「なっ!?」
「モンスター?」
原作の話をしよう。
原作とは、ユートの大元の世界にて発刊、放映などがされているサブカルチャーの事であり、この世界もユートが識らないだけで、何らかのサブカルチャーとして発表されている筈。
その原作に於いて彼女らがこのルーム──カドモスの泉に来た際にモンスターは現れない。
だが然し、ユートが介入した事によって時間軸的な部分に狂いが生じる。
結果、本来ならカドモスの魔石を喰らっていたであろうモンスターは、少しばかり遅れて現れたが故に、真っ正面から少女達は遭遇する羽目に陥った。
そしてこのモンスター、魔力を持つモノを優先して狙うが故に、真っ先に襲われたのは高い魔力を持ったエルフの魔術師……
「「「レフィーヤ!」」」
三人の少女が叫びながら戦闘準備に入る僅かな間、レフィーヤと呼ばれる少女の襲撃をモンスターが成功させるには充分な刻。
だけど、此処でも存分にイレギュラーっ振りを発揮するユート。
縮地による刹那の移動、レフィーヤというエルフの少女を抱えると、すぐにもカドモスの居たルーム内へ退避をした。
目標を見失ったモンスターが一瞬の躊躇をした隙、それを見逃す程にこの階層まで降りた冒険者は甘くも弱くも無く、三人は攻撃をモンスターに当てた。
ゾクリッ!
拙い! あの場に居てはいけないとユートの戦闘者として、カンピオーネとしての勘が警鐘をガンガンと喧しいくらい鳴らす。
「すぐに此方へ退避を! 其処に留まるな!」
先の警告が効いていたのだろうか、三人は疑いもせず文句も言わずにユートの言葉に従ってルーム内へと駆け出した。
瞬間、ズガン! 生命力を喪ったモンスターが爆発したかと思うと、体内から溶解液らしき何かを噴き出したのだ。
「な、何よあれ!?」
そこら辺がジュージューと音を鳴らし、煙を吹きながら溶かされていた。
褐色肌のロングヘアーな少女が正に戦慄をした声色で呟き、他の二人もやはり冷や汗を流して視る。
尚、エルフのレフィーヤはお姫様抱っこ状態となって男に抱き締められている所為か、それ処では無いといった心情らしい。
この世界のエルフは潔癖が過ぎてか、自身が認めた相手以外から触れられるのを忌避するきらいがある。
だけどレフィーヤは異性に抱き締められたからか、変に胸が高鳴る事はあっても嫌とは思わない事に驚愕しており、そうなると高鳴る胸の鼓動と自分を抱き締める男性の真面目な表情が相俟って、顔が紅潮をして熱くなってしまう。
見た目には明らかに種族がヒューマン、だけど何故かレフィーヤには同族の匂いを感じられた。
それは当然でもある。
ユートは精霊王と契約をした
エルフはどの世界であれ大抵が精霊とは不可分で、故にレフィーヤはヒューマンとは思えない精霊の気配を感じている。
勿論それだけではなく、ユートは今までにエルフやハーフエルフと交わる機会が割とあって、魂の髄にまで染み込んでいてもおかしくないレベルで気配が在ったりするし、レフィーヤはそれを以て異種族より同族みたいに感じたのだ。
しかも、相性が良かったのか触れても忌避感を感じなかった。
だからこそ、実際には違うと認識はしているけど、レフィーヤはまるで恋愛に陥った乙女のドキドキみたいに感じ、ユートをポケーっと見つめていたのだ。
「大丈夫だったか?」
「へ? あ、はい! 大丈夫です……助けて頂いて、ありがとうございます!」
抱っこされた侭ではあったが、レフィーヤは頭を下げて御礼を言う。
「そうか、怪我が無いなら良かった」
毀れ物でも扱うかの様にソッと降ろす。
「処で、貴方は何処のファミリア? 仲間とかは?」
「ちょっと、ティオネさんってば……唐突に過ぎますよ?」
「一応は確認しとかないといけないでしょ? どうやら彼がカドモスを斃して、更には私達にとって目的だった泉水も採取しているみたいだしね」
「……あ」
確かに、カドモスは居ないし泉水も枯れている。
いずれはまた沸くけど、少なくともすぐではない。
「こうなると、クエストは失敗してしまうわ。なら、彼とは交渉するなりしてでも泉水を貰う必要がある。違うかしら?」
「そ、それは……」
ティオネと呼ばれた褐色肌のロングヘアー少女に言われた事は正論、レフィーヤ達がそもそも此処まで来たのは【カドモスの泉水】を別のファミリアが出したクエストとして引き受けたが故であり、採れませんでしたとはいかない。
「まあ、それは責任者との合流を果たして安全な場所まで退避をしてからだろ。さっきみたいなモンスターがまた出たら大変だ」
「……そうね」
パサリと長い髪の毛を払うと、ティオネはユートの意見に同意をした。
「一応、名乗っておくわ。私はロキ・ファミリア所属のティオネ・ヒリュテよ、アマゾネスね」
「私はティオナ・ヒリュテだよ。見ての通り、ティオネとは双子の姉妹♪」
「双子?」
ユートは余りにも対称的なお胸様を視る。
「う゛! 私のはティオネに吸われたんだよ!」
真っ赤になって貧な乳を押さえて言うティオナ。
「私はエルフで、レフィーヤ・ウィリディスです」
「……アイズ・ヴァレンシュタイン……だよ?」
アイズは見るからにヒューマンである。
「やれやれ、自己紹介はするしかないか。ヘスティア・ファミリアに所属してる柾木優斗」
「マサキ・ユート? 極東の人かしら?」
「ん、そんな感じかな?」
ティオネの言う【極東】に聞き覚えは無いけれど、言葉的に自分達の世界では日本を意味していたから、取り敢えず頷いておく。
まあ、期せずして名前を知れた美少女四人。
名前と所属くらいの露出は構うまいと、相変わらずなユートであった。
走りながら話している訳だが……
「──あああああああああああああああっっ!」
先の方から男の絶叫が響き渡ってくる。
「今の声!」
「ラウル!?」
すぐに声がした方へ向かって走る五人、ユートとて流石に無視は出来ない。
勘頼りで進み、現れてくるモンスターは強引に押し退けて走る走る走る。
「何、あれ!」
「さ、さっきの芋虫?」
先程も襲ってきた、黄緑色を基調とした何処か芋虫っぽいモンスター。
それに追われるのは金髪の小人族、他に何名か……恐らくは四人の仲間であるロキ・ファミリアの一員。
「団長!?」
ティオネの悲痛な悲鳴、それがダンジョン内へ宝かに響き渡った。
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尚、ベル君はユートが遠征に出ている間に眷属入りをしました。