仮面ティーチャー the NEXT ~交差する幾重の絆~ 作:白宇宙
今回は勢いと楽しさと希望を集めて、新作を投稿しました!
原作は、結構マイナーな作品の仮面ティーチャーですが面白かったので今回書いてみようと思った次第です!
多重クロスは完全に作者の趣味です。
でも、キャラだけ、キャラだけですよ!
それでもいよという方は、ぜひご覧ください!
それでは、どうぞ…
とある町のとある学校に通う一人の少女が、今日の学問を終え、帰路についていた時だった。
辺りはすっかり暗くなり、ぽつぽつと光る街頭が申し訳程度に道を照らしている。
多少の不気味さを感じさせるそんな夜道を一人の少女が歩いていた。
藍色のブレザーに身を包み、栗色の髪を横に纏めた所謂サイドポニーと言う髪型をした彼女、“
「すっかり遅くなっちゃったな……」
なぜ彼女がこんな時間までいたのか、それは別に彼女が魔法少女だとか、何とかと言う組織の一員だとか、何か特別な存在と言うわけでは毛頭ない。
ただごくごく普通の女子高校生で、クラス委員を任されている彼女が、たまたま学校の生徒会を務めている友達に頼まれて資料を纏めるのに手こずっていた、ただそれだけである。
ごく一般の高校生として生活を送るなのは、一年間の高校生活も慣れたものだ。
まあ、環境はあまりよくないと言えるが…。
「はやく帰らないと、お母さんも心配するし……それに」
そんな彼女は今、気持ちをはやらせるように駆け足で夜道を進んでいた。
理由は至極単純、怪物や魔力を持つ何者かによる襲撃と言った現実離れしたものに対する恐怖、ではなく…。
“人間に対する恐怖”である。
時は、20XX年。
とある年を境に、学校の教師たちは体罰、そして指導を完全に禁止された。
それにより、学校の治安は凶悪化の一歩を辿った。
教師と言う抑止力が完全に力を失ったのをいいことに、生徒の素行は悪くなり、多くの学校が不良生徒が溢れる無法地帯と化したのだ。
その影響はこの町の学校にも出始めた。
現に、町では至る所に不良生徒の姿が見え、彼女の通う学校でもそう言う素行の悪い生徒が多く確認できるようになった。
治安も環境も昔に比べると悪くなった。
それでも、彼女の通う学校にはまだ普通の生徒がいるし、他の学校と比べるとまだまだ安全で安心のできる治安がいい学校と言えるのかもしれない。
ただし、彼女の身を置くクラスではそうと言いきれない、強烈な“問題児”がいるのだが…。
しかし、自分の通う学校だけが問題ではない。
不良生徒の横行は他の学校でも問題となっている、現に近くにある学校は自分の通う桜庭高校よりもひどい有様だとか……。
故に、彼女は不良生徒と遭遇して絡まれるという事態を避けていたのだ。
だが、今日この時の彼女は運が悪かった。
「あ…」
帰り道で遭遇してしまったのだ。
見るからに素行の悪そうな、髪を染めて制服を着崩し、ピアスなどのアクセサリーを身に着ける不良生徒のグループに……。
不良生徒たちも完全になのはに気付いており、なにやら不敵な笑みを浮かべている。
道端にたむろしていた彼らが立ち上がり、こちらに近づいてくる。
逃げようにも追ってくるのは必須、もちろんなのはには不良を返り討ちにするような能力はない、どうすればいいかとなのはは迷っていた。
「よお、か~の~じょ、夜道の一人歩きはあぶねぇぜ?」
「なんなら、俺達がエスコートしてやろうか? ん?」
5人ほどの集団が彼女に近づいてくる。
なのはは後退りしつつ、いつでも逃げられる体制を取っておく。
よく見るとこの不良たちが着ている制服は、“
このあたりでも素行の悪い不良生徒が集まっている問題校の一つだ。
「………結構です」
そう言ってなのはが踵を返し、立ち去ろうとするがすぐに彼女の後ろに二人ほどが回り込み逃げ道を塞いだ。
下卑た笑みを浮かべる彼らが何を企んでいるのか、なのはは想像するのも拒むほどの嫌悪感を感じた。
「まあまあ、そう言わずにさぁ? せっかくなんだからよぉ」
「っ、離して!」
馴れ馴れしく肩を掴んできた一人の手を振りほどくなのは、だが不良たちは完全になの歯を取り囲みもう逃げ道はどこにもない。
「おいおいなんだよ、せっかく人が親切にエスコートしてやるってのによぉ」
「まあ、エスコートが嫌なら、ここで俺達と遊んでもらおうか?」
「ぎゃははは! お前単純すぎ! この前も似たようなこと言ってただろ?」
「いいじゃねぇかよ、この前はいいとこまで行ったのに邪魔が入ったんだ……折角の上玉なんだしよ、楽しまなきゃ損だろ?」
不良たちの欲望に満ちた視線がなのはの全身を上から下までくまなく撫でまわすように動き続ける。
いっそここは強行突破を掛けようか、でも力でいえば男である不良たちの方が上だろう…。
助けを呼ぼうにも、彼らは絶対にそれを許さないはず…。
(……はやてちゃん……)
脳裏には長い時間を共に過ごし、先程まで一緒にいた友人の顔が浮かび上がる。
身を守るために、なのはが反射的に持っていたバッグを抱きかかえるようにしたのと、不良の一人の手がなのはに迫ろうとするタイミングは一緒だった。
「何をしている」
突然、自分の背後から声が聞こえた。
いきなりの声に不良たちも機嫌を悪くしたのか、睨み付けるように声の下方向に振り返り、なのはも反射的にそちらに視線を動かした。
暗い夜道の中、外灯に照らされ、その人物はそこに立っていた。
夜空の様な黒いシャツに黒いコート、そして黒いズボンに黒い革製の手袋で全身を包んだその人物はゆっくりとこちらに近づいてきた。
あまりにも不自然な黒ずくめの人物、だが何よりもなのははその人物の顔に意識が集中していた。
(………仮面?)
そう、“仮面”だ。
漆黒の姿に合わせたのか、その人物は顔をすっぽりと黄色いラインが刻まれた“黒い仮面”で覆っている。
形状もシンプルで、何かのヒーロー物に出てきそうな仮面で顔を覆ったその人物は革のグローブをしっかりと嵌めて、尚もこちらに近づいてくる。
「お、おい……やべぇぞ、あいつだ」
「ど、どうする?」
「どうするっつったって……!」
すると、どうしたことか黒ずくめの仮面を見た瞬間、不良生徒がたじろぎ始めたのだ。
その顔には明らかな焦りと恐怖による表情が浮かびあがっている。
「………お前達にはこの前も“補習”を施したはずだ、なのにまた同じようなことを繰り返すのか?」
黒い仮面は不良たちに向かってそう問いただした。
すると、不良生徒のうちの一人が前に出て機嫌が悪そうに仮面の人物に突っかかり始めた。
「……うるせぇ! 俺達は俺達の好きにする! テメェに邪魔される必要はねぇんだよ!!」
それを合図にしたかのように、他の不良たちもその一人を筆頭にして黒い仮面の前に立ちはだかり、そうだそうだとヤジを飛ばし始める。
だが、仮面の人物は何も言わず、仮面の奥でじっと不良たちを見据えているのか、その場で立ち止まったままだ。
「反省の色は無しか………なら、容赦する必要もないな」
黒い仮面はそう言うと、グローブに包まれた手を握りしめ、拳を作る。
それに反応して、不良たちも身構えた。
「さあ、補習の時間だ……」
そして、次の瞬間。
不良たちが黒い仮面に襲い掛かったのと、その黒い仮面が難なくその拳で不良たちを叩きのめしたのをなのははしっかりと見ていた。
襲い来る不良たちの攻撃を寄せ付けず、黒い仮面の放つ、鮮やか且つ鋭い拳と蹴りが次々と不良たちを容赦なく打ち据え、制圧していく。
そして、物の数分で5人の不良はあっさりと地面に倒れ伏してしまったのだ。
対して、黒い仮面は一撃も攻撃を受けていない。
人間とは思えないような圧倒的な強さを見せつける黒い仮面の人物は最後の一人を蹴りで近くの外灯にたたきつけた後、コートをばさりと翻し、しわを戻した。
彼は何者なのか…。
なのはが黒い仮面を見据えていると、外灯に叩きつけられた不良の内の一人が呻くように呟いた。
「か………仮面………ティー……チャー……」
そう言って気を失った不良生徒。
なのははその呟きをはっきりと聞いていた……。
「………“仮面ティーチャー”………」
これが、何の変哲もない生活を送っていた高校生の少女、高町なのはと、“仮面ティーチャー”の最初の出会いだった。
20XX年、教師による、体罰や指導が完全に禁止された。
力を失った教師達、それによって歯止めをなくした生徒たちの素行は悪くなり、多くの学校が不良生徒達がひしめく無法地帯と化した。
だが、この状況を打開すべく、日本政府は新たに“学校更生プログラム”を始動させた。
荒れた生徒を構成させるため、“力による恐怖”ですべてを制圧する、“特別教師”を全国各地の学校に派遣したのだ。
あらゆる体罰が許され、素行の悪い生徒を容赦なく制圧する、その特別教師を、人はこう呼ぶ。
その名は………。
―――“仮面ティーチャー”
「これが、所謂“仮面ティーチャー”っていう特別教師にまつわる都市伝説や」
隣で得意げに人差し指を立ててなのはにそう言ったのはショートボブの茶髪に髪留めをした、彼女の親友にして生徒会の副会長を務める、“八神はやて”。
なのはとは小学校からの付き合いの長い仲である。
そんな彼女と共に、なのはは今日も学校に登校していた。
朝の陽気に包まれて、学校への道を歩くなのはははやてと並んで、その最中にいつものように談笑にふけっていたのだ。
その際に、彼女は昨日のことをはやてに話した。
最初こそ、心配されてボディチェックと称してセクハラまがいの行為に及ばれそうになったものの、そこは長い付き合いでデコピン一発を彼女にくれてやって制止させた。
そして、同時に黒い仮面の人物。
“仮面ティーチャー”と呼ばれた何者かについて聞いてみた所、はやては先程のことについて話し始めたのである。
「じゃあ、私が見たあの人がその仮面ティーチャーなの?」
「わからへんけど、そうとしたらある意味すごいなぁ……なんせ数年前に日本政府が出したとか言うてる、都市伝説染みた情報やからなぁ、実際にわたしも見たことないし」
彼女自身は仮面ティーチャーについては全く知らなかった、そんな更生プログラムがあること自体彼女は今聞いたばかりである。
今の時代となっては、教師は完全に体罰や指導を禁止されてしまい生徒の好き放題に何も手を出すことが出来ない状態になっているというのに、唯一体罰や暴力が許された教師を全国に派遣するとは……。
「………暴力だけで本当に解決するのかな」
ふとなのはがそう呟いたのをはやては聞き逃さなかった。
「ダメなことはダメって言っても聞かないからって、手を上げて無理矢理分からせようとするなんてやり方………本当に正しいわけないと、私は思うの」
「……なのはちゃんは優しいからな、そう思えてもしゃあないよ」
はやてはそう返すと、一歩先に出てなのはより先に目的地へと向かう。
気付けばいつのまにか自分たちの学び舎に辿り着いていた様だ。
“私立
ここが、なのはやはやてが通う学び舎であり、このあたりでも治安はまだいい方だが、“ある問題”で有名な学校である。
「なのはちゃん、はやてちゃん、おはよう」
「あ、明日菜先輩、おはようございます」
「おはようございますぅ、生徒会長、今日も別嬪さんやね♪」
学校の校門の前で二人に声を掛けたのは、なのはと同じ栗色の長い髪に人が一度は目を止めてしまうであろう美貌を持った彼女は“結城明日菜”。
この桜庭高校の三年生にして生徒会長を務める二人の先輩である。
ちなみに、なのはは明日菜とは中学のころからの先輩後輩の中である。
「もう、はやてちゃんそんなお世辞言っても何も出ないよ?」
「あはは、わかっとるよぉ、挨拶や挨拶」
生徒会として同じ行動をしているはやてと明日菜の二人は仲がいい。
互いに笑いあって談笑する二人の姿はある意味目を引くであろう、なにせ学校でも一二を争う美少女なのだから。
すると、その二人の隣を制服を着崩したいかにもなタイプの男子生徒が二人組が通った。
「あ、コラ! そこの二人! アクセサリーを身に着けるのは校則違反だって言ってるでしょ!」
イヤリングやネックレスをつけたその男子生徒に明日菜が果敢に注意をする。
だが、その二人はちらりとだけ明日菜を一瞥すると舌打ちをして、無視を決め込みその場を去って行った。
「もう……この前も注意したのに」
「あの、明日菜先輩はああいう人たちが怖くないんですか?」
ふとなのはが明日菜にそう質問した。
確かに、生徒会長と言う建前でそう言う注意するのは今でも需要な生徒会の職務だ。
だが、やはり相手は男子生徒で不良、怖くない方が自然である。
「うん、まあ、怖いと言えば怖いけど……私がここでめげるわけにもいかないの、私には……これ以上、“彼”みたいな人を増やしたくないから」
「あ………」
「それに、先生たちが出来ないことを、せめて私たちみたいな生徒がやるべきなんだと私は思うの……だから、怖がってなんかいられないよ」
凛とした佇まいでそう言った明日菜の表情はどこか悲しげに見えた。
その理由を、なのはは知っていたから…。
「あ、そうだ! なのはちゃん、キリト君は元気? 最近はどうしてる? 何か変化あった?」
話題を変えようと明日菜がなのはにそう問いかける。
それに対してなのはは若干戸惑いつつ、苦笑いでこう返すしかなかった……。
「い、いつも通りです……あはは……」
校門前で明日菜と別れたなのはとはやては構内に入り、階段をのぼりながら自分たちの教室へと向かっていた。
道中の廊下では、朝から耳に響く生徒のけたたましい下卑た笑い声や、どこかで喧嘩でもしているのか汚い罵り言葉が聞こえてきていた。
朝からよくやるな、となのはは若干呆れ気味に感じながら廊下を進む。
まあ、仮にも一年間この高校に通っているのだ、嫌でも馴れるというものである。
だが、それでも自分がこれから入ろうとしている部屋。
“2年D組”の教室だけは、どうしても入りづらい…。
「………はあ」
「朝から明日菜さんに聞かれたから、若干入りづらいん?」
「まあ、それもそうなんだけどね……」
はやてとそう話しつつ、なのはは仕方なしに2年D組の教室のドアを開けた。
途端に聞こえる、生徒たちの様々な声。
着崩した制服に染めた髪、様々な特徴で自分を不良へと組み上げた不良生徒の笑い声や話し声、そしてその中で不良たちに目をつけられないようにグループを作り、会話をしているごく普通の生徒。
二つのタイプが入り混じり、微妙な均衡を保つこのクラス、2年D組はある大きな問題を抱えており、それがなのはを悩ませる大きな原因でもあるのだ。
“OVER5”。
そう呼ばれる、この高校でも強力な権力を誇る問題児が、このクラスに集まっているからである。
ふと視線を教室の後ろの方に向けると、今日もまたそのOVER5のメンバーが集まっていた。
OVER5、それは5人の生徒で構成されたこの学園でも最強を誇る不良生徒の集まり…。
そのメンバーを順になのはが見ていく。
まずは、机の上に座っている黒髪に白いメッシュを施して、ブレザーの上着を脱ぎ、灰色のタンクトップ一枚でいる彼は“織斑 一夏”。
獣の様な凶暴な目つきと、鍛え上げられた屈強な肉体がタンクトップによってより強調されている、実力派の不良の一人だ。
話によれば、複数の生徒に対して喧嘩を挑み圧倒的なパワーで屈服させたという噂がある、喧嘩主義者の男子生徒だ。
そして、その隣で机に両足を乗せて気だるそうに漫画雑誌を読んでいるのは、“遠山キンジ”。
髪を金髪に染め上げて、制服のボタンを全開にし、右手には黒いグローブを嵌めている彼もまたOVER5の一人である。
彼は謎が多く、普段から寡黙な男だが何かと悪い噂の耐えない問題児だ。
万引きの常習犯、強盗をやった、暴行罪で逮捕されかけたとか、良くない噂が後を堪えない。
その後ろの壁に凭れかかり、一人イヤホンをつけて携帯ゲーム機にいそしんでいる男子生徒もまたOVER5の一人であり、なのはの悩みの種の一つである人物。
名前は“桐ケ谷和人”、あだ名は“キリト”である。
彼は明日菜とかつては友人だったらしいが、今の姿を見る限りやはりそうは思えない。
無造作な黒髪に合わせたのか、黒のピアスを耳に開けて、近くには彼がいつも喧嘩で使うという木刀が置かれている。
言っておくが、彼もまた喧嘩が強いらしい…。
そして、四人目。
これがなのはにとっての一番の問題であり、クラスに慣れない大本の理由。
“フェイト・テスタロッサ”。
OVER5の唯一の女子メンバーであり、なのはの幼馴染。
ある時期をきっかけに彼女は荒れた道を進み始め、今ではOVER5の一人になった。
それが何によるものなのか、なのはは良くは知らない、ただ、彼女が荒れ始めたきっかけに彼女は関わっていた。
だからこそ、彼女はこのクラスに馴染めずにいた。
その大本の悩みの種は、金髪の髪を今日も後ろに流しブレザーのリボンを外し、壁に凭れかかって教室に入ってきたなのはに視線を送ることもなく赤い瞳を気だるそうに下に向けている。
その表情は徹底した無表情で、感情がないように見えた。
そして、最後の一人…。
OVER5の元締めであり、この学校で“最強”を誇る問題児。
男にしては長めの髪を後ろで縛り、ブレザーを着崩して、黒いシャツを見せつけるように着て、今日もふんぞり返るように椅子に座る彼の名は……。
“
彼こそがOVER5の実質リーダーであり、この学校の不良の中で最強の権力を有してる問題児だ。
彼の問題点はたった一つ、喧嘩が強すぎること。
実際に喧嘩でもっぱらの有名人である一夏をたった一人で叩きのめしたという唯一の人物であり、他校の生徒との喧嘩も負けなしの有力者なのだ。
その彼の強さを求め、取り巻きとして集まったのがOVER5。
この学校始まって以来の最強最悪の問題児集団である。
そんな彼らがいる教室になのはは今日も足を踏み入れた。
遅れてはやても入り、自分たちの席に着く、幸いこの教室は不良たちの素行が悪いおかげで席順なんてあってないようなものであり、なのはとはやては隣同士の席に座れた。
今日もまた居心地がいいかどうか微妙な学校生活が始まるのか…。
なのははそう思いながら、鞄を作の横に掛けた。
と、ここではやてがあることに気付いた。
「あ、そう言えば……今日、授業どないなんねやろ」
「え? ………あ」
そう言えばと、なのははここであることに気付いた。
つい先日、この教室である出来事があったのだ、それは何人かの不良生徒による担任の教師への暴行。
それによってこのクラスの担任が肉体的にも、精神的にもダメージを負って教師をやめたのだ。
昨日そのことが彼女たちのクラスに伝えられて、その時は代理として他のクラスの教師が来たのだが、それもいつまで続くか……。
二年生としての学校生活が始まって一か月半、こんな状態で自分たちは無事に学校生活を終えられるのだろうか……。
そう考えていると……。
突然、なのはたちのいる教室のドアが開いた。
自然とその音に反応して生徒たちが教室の前の方に視線を向ける。
そして、そのドアを潜り抜けて、ある一人の人物が中に入ってきた。
見る限り新調されたこぎれいなスーツに、身を包みきちんとした格好をした男性、ただ目を引くと言えばその男性の髪が金髪だということだろうか。
すると、その教師は教室の黒板の前に立つと持っていたいくつかの本とプリント類を教卓の上に置いて、チョークを手に取り、黒板に四つの文字を書いた。
“
白いチョークが黒板にそう文字を刻むのを、なのはとはやては見ていた。
どうやら名前の様だ。
「今日から、このクラスの新しい担任を受け持つことになった……武原 金造だ、お前ら、よろしくな」
ぶっきらぼうな口調ながらも笑みを浮かべてサムズアップを見せる彼は、見た所自分たちの新しい担任とのことだった。
「先生で、金髪って言うのは……珍しいな?」
「うん、地毛……なのかな?」
なのはとはやてが小声で互いの感想を交換する。
これでも自分たちは普通の生徒だ、一応マナーは守るのが主義と言うもの。
だが、その必要はすぐになくなった。
さっきまで沈黙していた教室がまた騒がしく、談笑に包まれたのだ。
素行の悪い生徒にとっては新しい教師には興味などないらしい。
対して、自分たちと同じ普通の生徒は、ああ、また犠牲者が来たと言いたげな憐れみを込めた目を向けている。
(これだと、第一印象最悪だろうな…)
心の内でなのはがそう呟くと、それに合わせたように新任教師の金造は一瞬だけ戸惑いを見せていた。
だが、それでも新任教師としての意地なのか、見るからに慣れない手つきでプリント類を手に取ると自分たちのいる席に近づいてきた。
「とりあえずよ、まだ来たばかりだからまずはお前らのことを教えてくれ、プリント回すからそれに名前と好きな物を書いて各自提出だ、なんでもいいからな!」
若干声量を上げてクラスにいる生徒にそう言う金造。
どうやらそう簡単に折れる性格ではないらしい、律儀にも一枚一枚生徒の机に置いていく金造、確実に生徒に行渡る様にと言う配慮なのだろう。
「おう……よろしくな」
「は、はい…」
「よろしくな」
「お、おおきに…」
なのはとはやてにもプリントを回して、後ろの方に向かった金造。
最近の教師にしては珍しい積極性である。
でも、このクラスの有様を見ればそれもすぐに呆れに変わるだろう、せめてもの情けかもしれないが、なのははそのプリントに自分の名前と好きな物の欄に、とりあえずゲームとだけ書いておく。
子供の頃からゲームは得意なのだ、その分勉強もするのが彼女が優等生たる由縁だが…。
そうしていると、全員にプリントを行渡らせたのか、金造が前の教卓に戻ってきた。
「よし、じゃあ、出来た奴からプリントを…」
彼がそう言った瞬間だった。
どこからか、丸められた紙屑が金造に向けて投げられたのである。
それが誰によるものなのかなのはが辿って後ろを向くと……。
「さっきから、あんたウザいんだよ」
OVER5の一人、一夏が立ち上がって金造にそう言ったのだ。
どうやら投げたのは彼らしい、一夏はそう言って自分の席に戻ろうとした。
恐らくこれがきっかけでこの教師もこのクラスの現状を理解するだろう。
なのはが少し申し訳なさげに視線をそらす。
「………まあ、そう言わずによ……書いてみろって、長い付き合いになるかもしれないんだからよ」
だが、今回の彼はやはり諦めが悪かった。
丸めて自分に投げられたプリントだったものを再び開いて、一夏を呼び止めてプリントを渡そうとする。
だが、それがいけなかった……。
「だから、ウゼぇって言ってるだろ!!」
喧嘩っ早い事でも有名な一夏の強烈な右の拳が、金造の顔面を捉えた。
鈍い音があたりに響き、金造が床に倒れ伏す。
途端に周りからは歓声に似た声が上がり、一夏も舌打ちをしながらまた席に戻ろうとする。
恐らく今度こそ……。
なのはが憐れみを込めて目を反らす。
だが、
「………いい、パンチじゃねぇか…なかなか効いたぜ?」
立ち上がった。
普通なら今ので心が折れるてもおかしくないのにこの教師は立ち上がった。
どれだけあきらめが悪いのだろうか…。
若干驚きながら彼を見るなのは、そしてはやても同様に驚いた眼差しを向ける。
「………一夏の一発を喰らって、立ち上がっただと?」
ふと彼女の耳に後ろでゲームをしていたキリトの驚きにも似た声が聞こえてきた。
同様に、諦めの悪いこの教師の行動にOVER5の面々はさっきまでと違ってそれぞれの視線を金造に向けた。
「なあ、いいからよ……書いてみろって、な?」
「……うるせぇんだよ!!」
諦めずに、一夏にプリントを渡そうとする金造。
だが、一夏は再び拳を振るい、容赦なく金造を打ちのめす。
鳩尾、顎、胸部、次々と拳や膝蹴りが金造を打ち据えていく、朝から一触即発だ。
しかし、何度打ちのめされても金造は諦めずに、一夏に喰らい付くように立ち上がり、その肩に手を置いた。
「お、おい……もう、いいだろ……そろそろ、これを…」
息も絶え絶えにプリントを見せる金造、今までにないタイプの教師の登場に一夏もたじろぎを見せる。
だが、彼なりのプライドなのか再び拳を振るおうとしたその時…。
不意に一夏の拳を止めた人物がいた。
隆行だ。
彼は片手で一夏の拳を止めると、一歩前に出て金造が一夏の肩に置いていた手を握り、それを離させるように払う。
そして………。
「しつけぇんだよ………」
冷徹な無表情と、声がクラス全員の耳に響いた瞬間。
金造が横に大きく吹き飛んだ。
隆行が鋭い回し蹴りを金造の顔面に叩きこんだからである。
それにより、横に飛ばされた金造は偶然開けてあった窓から、外へと投げ出される。
運が悪いことに、ここは3階。
窓の外にベランダは、ない。
なのはとはやて、そしてごく少数の生徒が息を飲んだが、予想通り金造はそのまま下に落ちて行った。
「………教師風情が、俺らの領域に入ってくるんじゃねぇ」
隆行がそう言った瞬間、まわりから再び歓声があがった。
不良生徒の隆行に対する、ここぞとばかりのゴマすりだろう。
だが、隆行はそれに少しの興味も示さずに不機嫌そうに自分の席に戻った。
「………さすがだね、タカユキ」
「………くだらねぇ」
席に座ると、近くの壁に凭れていたフェイトが隆行にそう話しかける。
ちなみに、取り巻きの中でも隆行とフェイトは仲が良いとされており、OVER5
のトップとナンバー2である、二人には妙に親密な関係が出来ているのだとか…。
そんな二人を一瞥した後、なのははふと自分たちの新しい担任が落下していった窓を見やる。
これは、無事では済まないだろう。
いくら諦めが悪かったあの先生でも、これだけのことをすれば大怪我と共に今度こそ心が折れたはずだ。
最悪の事態にはなっていないだろうかと、多少の心配を含めつつなのはは細やかな無事を祈って、クラス委員として心からの謝罪の念を送る。
………しかし、これで終わりではなかった。
ガラリと再び、教室の扉が開いたのだ。
そして、そこには………。
「おいコラ、テメェ………!」
さっき窓から外に蹴り飛ばされ、落ちて行ったはずの金造が戻ってきたのだ。
さっきとは打って変わった見幕で戻ってきた金造に、クラスメイト達は驚きを隠せずに目を見開いた。
なのはもまた同じように驚きに溢れていた………。
(な、なんて先生なの……!?)
諦めの悪さもここまで来ると、称賛ものだ。
金造は中に入ってくると、おぼつかない足取りで教卓に手を掛けた。
「殴る蹴るならまだしも…教師を外に放り出すとは、どういうつもりだ……あぁ?」
やはり落ちたのだろう、一帳羅のスーツは所々が汚れ、金造自身ももうすでに傷だらけである。
よくこんな状態で戻ってこれたものだ…。
さすがの事態に隆行を含め、OVER5の面々も驚いている様だ。
そんな中、金造は顔を上げて隆行を睨み付ける。
「いくらなんでもなぁ……やっていいことと……悪い事、が……あ………」
だが、その言葉を最後に、金造は再び床に倒れ伏しそのまま意識を失った。
いや、というかそれが当然である。
ここまでされて諦めずに戻ってくる方が不思議なくらいだ…。
今までにない教師の登場でざわつくクラスの中、なのはは床に倒れた金造を見つめ続ける。
「………あかん、なんか面白いわ、この人」
「え? はやてちゃん…?」
約一名、面白がっている節が見られるクラスメイトがいたが………。
そして、これがすべての始まり……。
問題児を抱えるこのクラスに現れた謎の教師、武原 金造。
この出会いをきっかけに、なのは達の暗闇に包まれた学園生活に、変化が起き始める…。
いかがでしたか?
初めて学園系の作品に手を出したけど、主軸は仮面ティーチャーなので、結構シリアス多めだったりするかも…。
まあ、それでも、この作品が面白いと感じた方は是非とも次回も見て行ってくださいね!
それと、感想もお待ちしております!
それでは、また次回でお会いしましょう……。