仮面ティーチャー the NEXT ~交差する幾重の絆~   作:白宇宙

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どうも、白宇宙です!

今回は、第二話!
勢いを止められず、ついここまで書いてしまいました(笑)

よろしければ、見て行ってください!

それでは、どうぞ!


2限目 新たな光

「あっははははははははははは!」

 

モダンな作りと、なぜか落ち着く雰囲気に包まれ、そして周りにはなぜか様々なバイクが置かれたとある喫茶店で、高らかな笑いが響いていた。

その笑い声は、喫茶店のカウンターに両腕を乗せて、項垂れている金髪の男性に向けての物だった。

 

「いやぁ、着任早々にいきなり生徒に殴られて3階から叩き落されたなんて、金ちゃんも災難だったね」

 

「笑い事じゃねぇよ“獅子丸(ししまる)”、おかげでこっちは初日でいきなりボロボロだ……」

 

金髪の男性、武原金造を金ちゃんと呼ぶこの黒髪の男性、どこか幼さを感じさせる彼の名は“獅子丸”。

この喫茶店でバイトをしている、金蔵の昔からの馴染みであり、切っても切れない固い絆で結ばれた義兄弟のような存在である。

 

「でも、金ちゃんも人のこと言えないよ? 金ちゃんだって、高校のころは似たような事あいつにしたじゃんか」

 

「……あれは、もういいだろ……時効だ時効」

 

「いや、結構やばいと思うけど」

 

昔のことを掘り返してきた獅子丸に、金造は苦い顔をしながらため息をつく。

 

桜庭高校に新任教師として配属された彼、金造は今日、さっそくそこの問題児と衝突、初日でいきなり相当な歓迎を受けた。

歓迎と言われても、いい意味での歓迎ではないが…。

 

幸いにも、窓から転落した時、下が芝生だったことが幸いして大怪我とまでは行かなかったものの、おかげで体中が傷だらけだ。

数年前の自分もこんなことをしたのかと、金造は改めて自分を見つめ直し、落胆する。

 

「なってみてわかったが……子供ってのは、めんどくせぇな」

 

「そのめんどくさい子供の面倒を見るためにお前は教師になったんじゃないのか?」

 

そんな金蔵のいるカウンターに一杯のドリンクを差し出す男がいた。

 

スキンヘッドの頭と優しげな瞳が特徴的な、この喫茶店、“カフェホッパー”のマスター、“小林(こばやし) 十兵衛(とおべえ)”。

 

バイク好きの客をメインに開いた、バイクがディスプレイされているこの喫茶店のマスターであり、“金造の恩師”の相談相手だった人物だ。

 

金造は十兵衛が出したソフトドリンクを片手に一口飲む。

 

「そうだけどよ、教師の立場になってみると気付くこともあるんだなって思っただけだ……」

 

「はっはっはっ、良かったじゃないか、これもまた勉強だ」

 

「………なあ、おやっさんよ、“あいつ”も似たようなこと思ってたのか?」

 

人当たりのいい笑顔を浮かべる十兵衛にそう聞くと、十兵衛は微笑み金造の座るカウンター席の隣に座った。

 

「あいつはな、悩んでも悩んでも常に生徒と向き合おうとしていた……それは、お前が一番知っているんじゃないか?」

 

そう言われて、金造はしばらく返答を返さずに黙っていたが、ふと昔のことを思い出していた。

 

あの時も、そうだった…。

まわりの大人が信用できず、がむしゃらに生きていた金造……。

そんな彼に手を伸ばしてきた、風変りな一人の大人……。

 

 

「………鬱陶しかったな、でも……それなのに俺は、この職を目指しちまった……あいつはどうしようもねぇバカだったけど、嫌いじゃなかったぜ」

 

「ははっ、そうかそうか…」

 

 

満足げにそう言って席を立った十兵衛。

満更でもなさそうに金蔵はコップに入れられたソフトドリンクを飲み干す。

すると、それを見て獅子丸が金造の肩を叩き、何やら機体の籠った眼差しで彼を見つめてきた。

 

「金ちゃん、ちょっとこっち来てよ」

 

「あ? おい、なんだよ獅子丸……っておい、コラ引っぱんな! おい!」

 

訳も分からないまま、無理矢理獅子丸に引っ張られて、金造は店の裏へと連れ出された。

 

 

 

薄暗い、店の裏に置かれたガレージ。

そこに獅子丸によって金造は連れてこられた、埃っぽいような、油臭いようなこの薄暗い所に呼び出して、一体何がしたいのか。

 

「金ちゃん、これ、金ちゃんの着任祝い」

 

獅子丸は笑顔でそう言うと、近くに白いカバーをかけて置かれていた何かに近づき、そのカバーを思い切り剥がした。

 

 

そして、その下から姿を現したのは………一台のバイクだった。

 

 

「こいつは………」

 

「俺とおやっさんでチューンナップした金ちゃん専用のバイク、苦労したんだよ?」

 

 

白銀のボディに力強いイメージを与えてくる屈強なタイヤ、スマートながらもパワフルな見た目のそのバイクのエンジンは最近では主流になった電機製エンジンを搭載している。

そして、何よりも………。

 

バイクの正面に刻まれた、“K.T.”の二文字。

 

「俺の最高傑作に勝るとも劣らない出来だ」

 

金造の後ろから、十兵衛が現れて満足げな笑みを浮かべてそう言った。

 

「獅子丸も手伝ってくれてな、こいつの努力を無駄にするなよ?」

 

「おやっさん……獅子丸……」

 

「金ちゃん、これを使って頑張ってよ……あいつみたいにさ」

 

獅子丸が拳を握りしめてそう言うと、金造は無意識のうちに拳を作っていた。

そんな彼を見て、十兵衛もまた真剣な顔つきに変わった。

 

 

「金造、今度はお前がこの教育界の“光”になる番だ………めげるなよ?」

 

 

十兵衛の強い願いの籠った言葉を受け、金造は目の前にある白銀のバイクを見つめる。

そして、強く頷くと握っていた右の拳で胸を強く二回叩き、満面の笑みを見せた。

 

 

 

「上等だ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、今日もまた高町なのはは学校に通うために通学路を歩いていた。

ただし、今日はいつも一緒に登校しているはやてがいない。

途中までは一緒だったのだが、彼女がスマホを開いて何かを見た瞬間、彼女は血相を変えて先に行ってしまったのだ。

 

『ごめんなのはちゃん! ちょっと生徒会の用事あるから! 先行くわ! ほんまごめんなぁ!』

 

一体何があったのか、なのはは気になりつつも生徒会の仕事は多忙なのだと割り切って自分は彼女の言った通りいつも通りに学校に向かうことにしたのだ。

そして、今日も何気なく校門を通ろうとすると……。

 

「よう、おはよう、高町」

 

自分に声を掛けてくる人物がいた。

その声に驚き、声が聞こえた方向に顔を向けたなのは、そこには昨日とんでもないタフさを見せたあの新任教師、武原 金造の姿があった。

 

顔には絆創膏が張られているが、元気そうに見える。

どれほど頑丈な体をしているのだろうか……。

 

「お、おはようございます…」

 

「……なんだ、八神とは一緒じゃねぇのか?」

 

「え? あ、はい、今日ははやてちゃん先に学校に来てるらしくって」

 

突然聞かれた問いかけになのはは戸惑い気味に答えた。

いや、それよりも気になる言葉があったのだが……。

 

「あの、先生はなんで私とはやてちゃんが仲良いってわかったんですか? それに、一目で名前も……」

 

そう、この教師は昨日なのはのクラスに転任してきたばかりのはずだ。

それなのに、なぜなのはとはやてが友人であるということを知り、しかも一日にして名前を憶えているのか。

疑いを込めた眼差しを金造に向けるなのは、しかし、金造は少し得意げに笑顔を見せる。

 

「早めにクラスに馴染んどかねぇといけないからな…名前は真っ先に覚えておく様にしてんだ、お前と八神が友達だってわかったのは、仲良さそうに隣に座って話してたからそう思っただけだ」

 

「ああ、なるほど……」

 

どうやら、タフさだけでなく、教師としてもしっかりしている人物らしい。

金髪と言う見た目と、たまに見せるぶっきらぼうな口ぶりがあれだが……今どきの教師としては本当に珍しいタイプだ。

 

他の教師なんて、生徒と距離を置いて名前なんて覚えているのは問題児として有名な生徒ばかりだというのに…。

 

やはり金造は他の教師にはない、“何か”があるのかもしれない…。

 

「なんだか、すごいですね武原先生って」

 

「………そうか? 教師になりたてだから、わかんねぇよ」

 

何か特別な物を感じさせる金蔵と、そんな彼に少し興味を持ったなのは。

二人が校門前でそんなやり取りを交わしていると………。

 

 

 

ふと、あることに気付いた。

 

 

 

学校の中が妙に騒がしい、複数の声が混ざり合って二人の耳に聞こえてきたのだ。

しかも、何やら荒々しい、喚きたてるようなこの声………。

 

「なんだ……?」

 

「………これって、もしかして」

 

なのはには、その声が何を意味するのか思い当たる節があった。

この学校で時たまに行われる、ある事……。

 

それを察したなのはが急いで学校の中に入って行った。

 

「お、おい、高町!」

 

そして、それを追って金造も学校の中に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

学校の中から聞こえてきた騒ぎ声の出所は中庭からだった。

二人が駆けつけると、そこは学校とは思えないとんでもない荒れようを見せていた。

 

「こいつは………」

 

そこで行われていたのは、複数の生徒による殴り合い。

 

誰がグループで、誰が個人かもわからない喧嘩、いや、これではもう乱闘だ。

10人くらいの生徒が入り乱れ、あたりかまわずに拳を振るっていく。

そして、その様子を騒ぎを聞きつけて駆け付けた複数の生徒が観戦している中、一人、一人だけがその様子をすぐ近くの階段の上で見下すようにして見ている生徒がいた。

 

黒い髪と、右手に持つ木刀がその存在をこれでもかと主張させている。

 

 

OVER5の一人、キリトである。

 

 

「また、キリト君が始めたんだ……」

 

「始めた? おい、どういうことだ? あそこにいるの桐ケ谷だろ? なんであいつはあんなところにいるんだ」

 

 

なのはの呟きを聞き逃さなかった金造がなのはに問う。

すると、なのはは目線を下に向けて見るからに気を落とした雰囲気で答え始めた。

 

「あれは桐ケ谷 和人君……キリト君がたまに学校で行っている、“ゲーム”です」

 

「ゲーム、だと?」

 

「うん………複数の生徒を集めて、敵味方関係なく戦わせる……そして、その中で一人だけ勝ち残った人が、ゲームの勝者になるんです」

 

「……桐ケ谷はなんでそんなことをしてんだ……?」

 

「………キリト君なりの権力の表れです」

 

なのはの言葉に、金造はどこか思いつめたような表情になった。

 

権力、それは学園における不良生徒の力の表れであり、どれだけ他の不良生徒よりも優れているかと言うボルテージの意味を指している。

キリトは、この学園の頂点に近い存在とされる問題児集団、OVER5の幹部であり、その権力も絶大なのだ。

 

そんな彼がその権力を振りかざすこのゲーム、その意味とは……。

 

 

「キリト君はこのゲームに勝った者の商品として、幾らかの賞金と自分への挑戦権を与えるんです」

 

「賞金と挑戦権……だと?」

 

「挑戦権は次のOVER5の席に自分が収まる最大のチャンスなんです……それだけでなく、勝てなかったとしても、キリト君に挑戦したというだけで、そう言う生徒にとっては名前を広げるいいチャンスになる……賞金だけじゃなく、権力も挙げられる、不良の人達にとってはまたとないチャンスなの……」

 

 

権力が上がるということは、より自分の力を証明できるということ。

この学校でも、生徒は自分の存在を主張するために力を鼓舞しているのか………。

 

“華空学院”のように…。

 

 

 

「おい、どうした! お前たちはOVER5の席に座りたいんだろ! なら早くケリをつけて俺にかかって来いよ! 他の奴らを叩き潰してなぁ!」

 

 

 

キリトがはやし立てるようにそう言い放つ、すると生徒たちのテンションはさらに上がり乱闘の勢いもどんどん飛躍してきた。

このままではいずれ怪我だけじゃすまない……。

 

「………やめろ!」

 

それを危惧した金造は、いてもたってもいられなくなり乱闘が繰り広げられている中庭へと飛び込んだ。

 

「あ、武原先生!?」

 

なのはの制止も聞かずに、入り乱れて殴り合う生徒の波の中に入った金造は生徒に止めるように呼びかけるが、聞き入れる様子はない。

 

「お前らやめろ! こんなことしても何にもならねぇぞ!」

 

「うるせぇ!!」

 

「邪魔すんじゃねぇよセン公が!」

 

遂にはその多数の生徒に殴り飛ばされて、乱闘の波の中から放り出されてしまう。

だがそれでも、金造は諦めずにその中に飛び込んでいく。

たとえ何度殴られても、彼は何度でも立ち上がった…。

 

 

 

「お前ら、いい加減にしやがれ!!」

 

 

 

金造の渾身の叫びがあたりに黙礼する。

それに反応してか、他の生徒たちの動きが止まった。

だが、その眼は乱入した邪魔者に対する、嫌悪の念しか籠っていない。

 

そんな乱入者を見下ろし、キリトは眉を潜めた。

 

「………あいつは、昨日の………」

 

金造の姿を見たキリトが階段を降り、金蔵に迫ろうとする。

 

 

 

「キリト君!!」

 

 

 

そんな彼の名を呼ぶ、一人の女子生徒がいた。

栗色の髪を撥ねさせながら中庭に駆け込んできたのは、生徒会長の明日菜である。

その後ろには息を切らせた様子のはやての姿もあった。

 

「………またあんたか」

 

「お願いキリト君……もう、こんなことやめて……」

 

懇願するような明日菜の言葉、だがキリトはそれに対して不機嫌そうに舌打ちをするとその場を離れた。

 

 

 

「興ざめだな……ゲームの結果は無効だ、仕切り直しの連絡は折り入ってする……参加したい奴はその時にまたここに来い! それと、お詫びとして……勝ち抜きの勝者は三人に増やし、賞金のレートを3万に引き上げる!」

 

 

 

そう言い放った瞬間、まわりの不良生徒たちが歓喜の声を上げた。

3万、高校生にとってはそれは思ってもいない収入であり、勝利者の数が三人と言うことだけでも可能性が出た様な感覚に陥ったのだろう。

自分も参加する、自分もと名乗りを上げ始める生徒達。

 

そんな中、キリトは金造と明日菜を交互に見て木刀を肩に担いだ。

 

「………今度邪魔したら、教師だろうが……生徒会長だろうが、ぶった斬る」

 

不機嫌そうなその言葉を言い残して、キリトは階段を上っていきその場を後にした。

その後姿を、明日菜はどこか悲しげに見つめる。

 

「………キリト君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝の騒ぎから数時間後、金蔵は休み時間になのはと共に明日菜とはやてに話を聞くことにした。

生徒会室にお邪魔することになった、金造となのははどこか緊張した面持ちで生徒会室に用意された椅子に座った。

 

部屋の中は学校の荒れようとは裏腹にきれいに整備されていた。

 

長机二つを合わせ、正面には立派なホワイトボード。

資料もきちんと整頓されており、花瓶に入れられた花もみずみずしさを感じさせるほど生き生きしている。

 

「今の学校がこんなだから、せめて私たち生徒会だけでもしっかりしないといけないので」

 

部屋の中を見回す金蔵に明日菜がそう言って正面の生徒会長専用の席に座った。

人柄と言うのは、内面だけでなく外側にも出てくるようだ。

金造はそう感じつつ、生徒会長を務めている彼女と向き合った。

 

「……結城、だったな……お前はあいつを、桐ケ谷の事を知ってるのか?」

 

金造は単刀直入で明日菜にそう問いかける、すると明日菜は申し訳なさそうに顔を伏せてしまった。

だが、黙っていても何も意味はないと思ったのだろうか明日菜は重く閉ざされた口を動かし始めた。

 

「……キリト君は中学の頃から私の後輩でした……」

 

「後輩、か……仲良かったのか?」

 

「………はい、その時は私もキリト君もよく遊んだり、一緒に出掛けたりしてました……」

 

明日菜とキリトの関係について明かされ始めたために、自然とその場に居合わせたなのはとはやてにも緊張にも似た感覚が走った。

 

「いつも勉強ばかりだった私に、彼は余裕を与えてくれたんです……切羽詰ってばかりで、余裕のなかった私に………でも、今のキリト君は………」

 

「その時のキリトは今とだいぶ違ったのか?」

 

「はい、すごく前向きで……ちょっとひねくれたところもあったけど、純粋で、楽しむ気持ちにはとても素直でした」

 

今のキリトとはだいぶ違うイメージだ。

だが、そのことについてはなのはもはやても知っている。

何せ、クラスは違っていたが中学時代はキリトとは同級生だったのだ、何度かあったこともあるし明日菜に誘われてゲームで遊んだこともあった。

 

思えば、あの時のキリトはとても楽しそうな笑顔を見せていた…。

 

 

「………それなのに……キリト君は……」

 

辛そうに手を強く握りしめて、徐々に声を震わせ始めた明日菜。

金造は彼女とキリトの間には切っても切れない何かがあったのだと、直感的に理解した。

だが、それがなぜ今のような状況になったのかがイマイチわからない。

 

やはり、何か決定的なきっかけがあるはずだ…。

 

 

思えば、自分が高校生だった時、似たようなことをしていた同級生がいた……。

 

そいつは家が裕福と言うことを傘に、金によって学院を支配しようとした。

 

彼がそのような荒れた道を進み始めたのは、一体何が原因だったか……。

 

思い出すように金造が考え込んでいると、今度ははやてが明日菜の後ろに回り込んで話を続けた。

 

「キリト君があんなんなったのは、去年の……1年の頃の秋頃やったんよ」

 

そう言うと、はやては何かの思いを込めた意味深な瞳で窓を見つめた。

 

「その時はわたしもなのはちゃんもクラスが違っとったから何があったかまでは知らへんねん……でも、キリト君はその時から周りの人たちをゲームに使う“駒”としか考えんようになった……」

 

「駒……だと……?」

 

「………自分の強さを見せつけるために、実家の剣道を自分なりにアレンジして喧嘩強くなって……そして、自分の力を見せつけるようにゲームと称した喧嘩イベントを開催して………いつの間にかOVER5になってもうた」

 

「………キリト君はOVER5になってからも、自分の力を証明するためにゲームを開いている………そんなことしても、意味ないのに……」

 

沈んだ様子で俯く明日菜とそれを労しそうに見守るはやて。

 

暴力による負の連鎖、力による証明、それによる影響はここにも出ていた。

 

このままではキリトは今よりも大きな犠牲を払うことになる…。

そうなれば、彼の未来も………彼女たちの心も、暗闇が包み込まれてしまう。

 

金造は今の自分にできることは何かを考え始めた…。

 

「………桐ケ谷」

 

 

 

その時、急に学校の中が騒がしくなり始めた。

まるで、朝の時のあの乱闘の様な騒ぎ方だ、それを聞いた金造達は何事かと立ち上がる。

 

「この声は……!」

 

「あかん……始まってもうた!」

 

慌てたようにはやてがスマホを取り出して、その画面を三人に見せる。

そこにはSNSを通した一つの書き込みが載せられていた。

 

 

 

『これより、ゲームを開催する。 参加するものは中庭に集合せよ、なお今回の参加人数に制限はない、思う存分その力を見せつけ、OVER5への道を切り開け』

 

 

 

文面からそれはキリトが催していたゲームに関する書き込みだとすぐに金造は理解した。

まさか、昼休みに入ってすぐに再会するとは……。

しかも、制限がないということは朝よりも数が多くなる可能性がある。

そうなれば、朝以上の惨劇が繰り広げられ、最悪の場合は取り返しのつかないことが起こるかもしれない。

 

「朝もゲームの開催の書き込みがあったから明日菜さんに慌てて知らせたんよ、でも、さすがにあんなことになる思わんかったから……今度のはほんまあかんことになるかもしれん!」

 

焦る気持ちを抑えられない様子のはやてに、連れられて金造達三人もただ事ではないという事態を再確認する。

すると、その中でいち早く明日菜が生徒会室を飛び出していった。

 

「あ、明日菜先輩!!」

 

「あかん! 今行ったら、ほんまにキリト君何するかわからんのに!!」

 

それを追ってなのはとはやても部屋を飛び出していく。

残された金造もその後を追いかけようと部屋を出るが、その途中で足を止めてその拳をぎゅっと握りしめる。

 

 

「………そろそろ、出番って訳かよ………」

 

 

覚悟を決めた金造は踵を返し、中庭とは反対の方へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜庭高校の図書室、そこは普段から足を踏み入れる生徒が少ない場所であった。

不良が屯するこの学校では、図書室を利用する生徒自体がそもそも少ない。

そんな図書室に、一人、金造は足を踏み入れた。

 

人がいないのを確認して、金造は図書室の奥へと歩を進めていく。

 

なぜ、金造が中庭でなく、ここに訪れたのか……。

 

それは、彼がこの学校に来たもう一つの“役目”に由来する……。

 

図書室の一番奥、そこにある少し大きめの本棚。

その前に来た金造はその中にある一冊の本、特に目の引く特徴も何もない一冊の本に手を伸ばすと、それを取り出すのではなく……“押し込んだ”。

 

すると、本棚の奥でかちりと不可思議な音が鳴ったと思ったら、どういう仕組みになっているのか本棚が横にスライドし、その奥に見覚えのない真新しい通路が現れたではないか。

金造はその奥に躊躇うことなく進んでいく。

ここは、金造にとって、“もう一つの職務”を全うするための部屋に繋がる通路なのだ…。

 

通路を突き進み、その先にある一枚のドアを開けて中に入った金造。

その中は古ぼけたロッカーが一つと、白いカバーが掛けられた何かが置かれているだけの部屋だった。

まわりは蜘蛛の巣や埃でいっぱいだが、なぜかそのロッカーとカバーが掛けられた何かだけは埃をかぶっていない。

そんなロッカーに、金造は手を掛ける。

 

「………うっし」

 

気合を入れ直して、それを開け放った金造。

 

ロッカーの中には、いささか学校とは不釣り合いな、ある衣服と、ある物が置かれていた。

 

 

眩しいくらいの上下共に純白のジャケットとズボンと革製のグローブ。

 

 

そして、一番の存在感を放つ……“白と金の仮面”。

 

 

彼はそれを手に取ると、近くに置かれていた白いカバーに包まれた何かにも手を掛ける。

それは、昨夜獅子丸と十兵衛から授けられた、彼のバイクだった。

 

金造は再度、それを見つめ直し、その仮面をじっくりと見つめる。

 

 

 

「………見てろよ、“荒木(あらき)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜庭高校の中庭には、既に朝よりも大多数の生徒が集まっていた。

数はざっと見る限りでも、30はいるかもしれない。

しかも、中にはどこから持ってきたのか、木材や金属バットを手にしている生徒も確認できる。

もう、生徒たちのテンションは最高潮にまで上がり、ゲームの開催を今か今かと待ちわびていた。

 

そこへ、ゲームの主催者であるキリトが、階段の上に現れた。

 

 

 

「………さあ、ゲームスタートだ………報酬が欲しけりゃ……殺し合え!!」

 

 

 

その宣言と同時に待ちわびていた生徒たちが咆哮にも似た歓声を上げる。

 

 

その様子を、二階の窓から見下ろす者たちがいた。

 

キリトを除いた、他のOVER5の面々である。

 

「キリトの奴、よくもまあ、あんな人数揃えたもんだな」

 

「………まあ、おかげで暇はしないがな」

 

一夏とキンジの二人が窓から下の様子を見てそう言葉を交わす。

隣の窓ではフェイトと隆行の二人が同様に下を見下ろしている。

 

「タカユキ………タカユキは行かないの?」

 

「………興味ねぇよ」

 

「じゃあ、私が行っていい……?」

 

「お前が言ったら、ゲームになんねぇだろうが……」

 

「………そっか、それもそうだね」

 

隆行とそう言葉を交わしたフェイトは、また視線を下に向ける。

すると、彼女の赤いルビーの様な瞳がある人物を捉えた。

同じ、2年D組のクラスメイトである、高町なのはと八神はやて、そして生徒会長の結城明日菜の三人である。

 

「………何をしても意味ないのに……偽善者め……」

 

その中にいるかつての幼馴染を見つめて、吐き捨てるようにそう言ったフェイトは再び視線を今にも乱闘が起きそうな中庭へと移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、なのは達は中庭に到着していた。

今は今にもその中に飛び込んでいきそうな、明日菜を止めるのにはやてと共に四苦八苦している最中だ。

 

「あ、明日菜先輩落ち着いて!」

 

「でも、このままじゃキリト君は……前のキリト君じゃなくなっちゃう!」

 

「そんなん言うたかて、今明日菜さんが行ったら、今度は明日菜さんが危ないんや! 今は堪えて!」

 

二人で何とかして明日菜を抑える二人。

悲壮に満ちた彼女の表情はなのはにも痛いほどわかる、でもそれでもこれ以上彼女には傷ついてほしくなかったから…。

 

 

 

そんな彼女たちの様子を尻目に、キリトは持っていた木刀を振り上げて今にも始まりそうな乱闘の様子を見下ろし、同時に集まってきていたギャラリーの様子も確認していた。

生徒だけではない、この学校にいる教師たちも、この騒ぎを聞きつけて様子を見に来ている。

 

(これでまた、俺の強さを証明できる………俺は強い、ここで容易く情報に踊らされてつぶし合おうとしてるバカとは大違いなんだよ……俺は、強者だ……このゲームの、ゲームマスターだ!!)

 

凶暴な笑みを浮かべて、キリトが思い切り木刀を地面に振り下ろし、叩きつけた。

 

それを合図に、テンションが最高潮に上がった生徒たちは敵となった周りの生徒に掴み掛り、殴り合いを始めようとする。

 

また、無意味な暴力による暴走が、起きようとしていた………。

 

 

 

その時だった………。

 

 

 

―――ブゥゥゥゥゥゥゥゥウウン!

 

 

 

あまりにも唐突に聞こえてきた、この場所とは不釣り合いな音。

そして、それが何なのか、キリトを含めたその場の全員がすぐに理解した。

 

バイクのエンジン音だ。

 

耳をつんざくような荒々しいものではなく、電機製エンジン独特の落ち着きがありながらも疾走感を感じ察せる物。

 

 

 

「おい、あそこだ!」

 

 

 

ふと、生徒の一人がキリトとは反対方向にある階段の上を指さした。

その先に、キリトは視線を向ける。

そこには、見慣れない姿の何者かが、白銀のボディのバイクに乗ってこちらを見下ろしていた。

 

ジャケット、ズボン、グローブ、全身を白で覆ったその人物、その頭には………。

 

 

 

「仮面、だと…?」

 

 

 

異質な存在感を放つ、白と金の仮面がその人物の頭を覆っていた。

 

 

 

「意味のない暴力は……そこまでにしておけ……」

 

 

 

仮面は少し籠った声で生徒たちにそう告げた、だが、生徒たちは突然現れた邪魔者に対して敵意をむき出しにしている。

これから始まる所だったのに、邪魔をされたのでは気分も悪くなるというものだ。

 

そしてそれは、キリトも同じだった…。

 

「………ゲームを続けたければ、まずはふざけた格好したあいつを……ぶちのめせ!」

 

下にいる生徒たちにそう言うと、不良たちは標的をその仮面へと変えた。

それぞれに荒々しく叫びを上げながら、階段を上っていく不良たち。

だが、仮面の人物はそれに対して、臆することも逃げることもなく……。

 

 

 

 

「さあ、“生徒指導”の時間だ……」

 

 

 

 

思い切りバイクのアクセルを回し、そのまま階段をバイクで降りて行った。

 

躊躇なく生徒の波の中に突っ込んでいった仮面の行動に、向かっていった生徒たちはバイクに轢かれることを予見し、左右に散らばる。

そのままその間を通り抜けた仮面に、生徒たちが踵を返して追いかける。

 

だが、仮面は中庭をバイクで駆け回り、ウィリーなどのバイクテクニックを見せつけるように披露し、生徒たちを牽制する。

 

近づくに近づけない状況、どうしたものかと生徒たちが様子を見始めた時、仮面はバイクを止めて自分から降りた。

そして、悠然と生徒たちに近づいていく。

 

「ざけんじゃねぇぞコラァ!!」

 

好機と見た生徒の一人が拳を振り上げて仮面に攻撃を仕掛ける。

 

「………!」

 

だが、仮面はそれに対して、素早い動きでその拳を己の突き出した拳で弾き、もう片方の腕から鋭いストレートを繰り出した。

 

その拳は、生徒の顔面の中央、鼻に寸分の狂いなくまっすぐに放たれたが、当たる数センチ手前で止まり、遅れてきた拳による風圧がその生徒にその拳の威力がどれほどの威力を物語らせた。

 

「遅ぇんだよ……」

 

仮面が静かにそう告げると、生徒はその拳に込められた威嚇に動揺し、後ろに後退った。

 

「この野郎!!」

 

それを見て、後ろに回り込んでいた他の生徒が木材を振り上げて仮面に殴りかかろうとする。

 

完全な不意打ちだ。

 

だがそれに対し、仮面は驚きの行動を見せた。

 

すぐさま振り返った仮面は振り下ろされる木材に対して、戸惑うことなく鋭い右フックを放ったのだ。

横薙ぎに放たれた右の拳は、振り下ろされた木材が当たるよりも先に、いとも容易く叩き折ってしまった。

 

「………なかなかいい判断だな、だが、そんな攻撃じゃ俺は倒せねぇ」

 

人間離れした強さを見せつける仮面の人物に、他の生徒たちは動揺どころか恐怖を感じ始めた。

 

だが、その中で突然現れた仮面の人物に対して、驚きにも似た目を向けている人物がいた。

 

なのはである。

 

「あれ……あの仮面の人って……」

 

「もしかして、なのはちゃんが見たのって……?」

 

「いや…でも、私が見たのは、全身真っ黒の人だった………でも、あの白い人も……」

 

白い仮面を被るその人物を見つめ続けるなのは。

 

そして、同時にキリトも突然の乱入者と、その乱入者が見せた恐ろしいまでの強さの前に焦りを見せていた。

 

「なんなんだ………お前……なんなんだよ!?」

 

上ずった声でキリトがその白い仮面に問いかける。

すると、仮面はキリトの方に顔を向けた。

 

 

 

 

 

「………“仮面ティーチャー”だ」

 

 

 

 

 

この日、この桜庭高校で行われたゲームイベントに待ったをかけた人物がいた。

 

 

それにより、このイベントは急きょ中止に追い込まれた。

 

 

生徒とは格が違いすぎる、圧倒的な力の差を見せつけたその人物の名は………。

 

 

 

“仮面ティーチャー”。

 

 

 

政府が発令したプログラムの特別教師が、この桜庭高校に姿を現したのである。

 

 

 

―――さあ、生徒指導を始めよう。

 




いかがでしたか?

次回は、キリトがなぜこうなってしまったのか、金造がその謎に挑む!

それでは、次回でお会いしましょう…。
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