仮面ティーチャー the NEXT ~交差する幾重の絆~   作:白宇宙

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どうも、白宇宙です!

今回のお話は、前回のお話で話題に上がったキリトがなぜこうなったのかについてです。
浮遊城では英雄と呼ばれた彼ですが、今作で不良となったキリト。
彼が荒れてしまった原因に金造が挑む。

それでは、お楽しみください!
どうぞ…


3限目 心の闇

 

 

 

「……タカユキ、知ってる? あの白い仮面の人、仮面ティーチャーなんだって……」

 

「………興味ねぇな」

 

桜庭学園高校の実質トップの座に収まる5人組、OVER5の面々はある一室に集まっていた。

今は未使用となっている多目的教室、そこを溜まり場としている隆行達はある人物について話していた。

 

“仮面ティーチャー”…。

 

突如としてこの学校に現れたその存在はすぐに学校中の話題となった。

そしてその噂はOVER5の中でもすぐに話題として挙がった。

だが、フェイトが話題に挙げたその仮面ティーチャーに対して、興味なしの一言で隆行は一蹴する。

しかし、それに対してその現場に居合わせていたキリトは違った。

 

「そんな悠長なこと言ってられる場合じゃないんだぞ、隆行」

 

無造作に置かれた椅子の上に腰かけるキリトの表情はどこか強張っていた。

 

「……数年前に日本政府が考案した学校更生プログラム……暴力を持ってして素行の悪い生徒を制圧する………その仮面ティーチャーが、この学校に来たんだぞ」

 

何処か焦りを見せるように言葉を連ねるキリト、と言うのも仮面ティーチャーの実力は生半可なものではないと彼自身がよく知っているからだ。

目の前で見せつけられたあの仮面ティーチャーの実力、こちらの攻撃を全く寄せ付けない彼と戦ったとしても勝てるかどうかわからない……。

明らかに只者ではない仮面ティーチャーと言う存在、彼をキリトはひそかに脅威に感じ始めていたのだ。

 

しかし、そんなたどたどしい態度を見せる彼を見て、ひとりの人物がキリトの目の前に立ちはだかる様に現れた。

キリトと同じ、OVER5の一人、一夏だ。

 

「で、キリト……お前はその仮面ティーチャーってやつにビビってあの喧嘩イベントを中止したのか?」

 

「………」

 

「………ざまぁないなぁ、そんなんでOVER5を名乗れると思ってるのか?」

 

「なんだと………!」

 

挑発めいた一夏の発言に、キリトは椅子から立ち上がって食って掛かるが逆に一夏は立ち上がってキリトの制服の胸ぐらをつかんで自分の方に引き寄せた。

 

 

 

「悔しいんだったらさっさと仮面ティーチャーをボコッて来いよ……でなきゃお前をこの席から下ろしちまうぞ?」

 

「………っ!」

 

 

 

一夏の静かな宣告に、キリトは反抗的な目つきから一遍、すぐに動揺した表情を見せた。

一夏はそれを見て、掴んでいたキリトの胸ぐらを乱暴に離すと、荒々しく近くにあった机を蹴飛ばして彼を威嚇する。

 

「オラさっさと行って来い! 下ろされんのが嫌ならあの野郎の仮面を剥いで早くここに連れてこい!」

 

その発言を聞いたキリトは、血相を変えてすぐに近くに置いてあった木刀を手に取り慌てて部屋を飛び出していった。

 

その様子を見て、一夏はにやりと笑みを浮かべるとどかりとキリトが座っていた席に座りこんだ。

 

「………あいつに仮面ティーチャーが倒せると思ってるのか?」

 

そんな一夏に窓際で漫画雑誌を読んでいたキンジが声を掛ける。

 

「あ? 何だよキンジ、まさかお前までビビってるのか?」

 

「ふざけんな、殺すぞ………あいつは確かにそれなりには使えるけど、俺達の中じゃ一番弱い方だ……そんな奴をけしかけてなんになる?」

 

こちらに視線を向けずに言ったキンジの問いかけに、一夏は待っていましたと言わんばかりに凶暴な笑みを口元に浮かべた。

 

 

「決まってんだろ、あいつがそろそろ気に入らなくなってきたからだよ!」

 

 

OVER5の中でも屈指の凶暴さを持つと言われている一夏、それが一体どうしてなのか、理由は彼の目的にあった。

 

「この学校のてっぺんには強い奴が収まって当然だ、そのためには目障りな奴は潰すしかない……あいつもそろそろ調子に乗ってきてたからな、ここで潰しとくのがいいかと思ったんだよ……」

 

「………くだらねぇな」

 

一夏の言ったことに対し、聞いたキンジ本人はそう返すと、漫画雑誌のページを進めた。

そんな彼の様子を鼻で笑うように一瞥した一夏は今度はその隣にいたフェイトと隆行へと視線を移す。

 

「もちろんその中には……お前もいるってこと、忘れるなよ? 隆行」

 

「………」

 

挑戦的な一夏に対し、隆行は何も返さず無言のままだった。

王者としての余裕のつもりか、と一夏は一瞬不機嫌そうな顔を浮かべるがまだ今はその時じゃないと割り切ると、一夏はそれ以上は何も言わなかった。

 

OVER5、その内部では複雑な陰謀が渦巻き始めていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、仮面ティーチャーの話題は生徒間だけでなく、こんな所でも……。

 

職員室、昨日の乱闘騒ぎに颯爽と駆けつけた仮面ティーチャーの存在を知った教師たちは今朝からその話題で持ち切りとなっていた。

 

「いやぁ~、遂に我が校にも仮面ティーチャーが来てくれるとは!」

 

「これで少しでも、学校の空気がよくなるといいですねぇ」

 

半ば都市伝説のような存在と言われていた仮面ティーチャー、教師間の間ではその存在は眉唾物ではないかとされていた。

だが、実際に目にしたとなったら話は別だ、彼こそがこの学校の救世主、政府が自分たちに与えてくれた救いの手なのだと教師は嬉々としてその存在を早くも受け入れていた。

 

だが、そんな彼らの話題を聞いて面白くなさそうな表情を浮かべている教師が一人いた。

 

金造である。

 

自分のために用意されたデスクの上で肘をつき周りにいる同じ職場の仲間であるはずの教師の会話を聞くたびに、金造は反射的に目を伏せた。

と言うのも………。

 

 

 

「まったくです、仮面ティーチャーには早くこの学校のろくでなしの屑どもを掃除してもらいたいですねぇ」

 

 

 

そう、この発言である…。

 

この発言が金造が若干機嫌を悪くしている原因だった。

 

「………どうかしたのか?」

 

機嫌が悪そうに貧乏ゆすりまで始めた金造に突然、横合いから声を掛ける人物がいた。

金蔵は反射的に隣に目をやると、そこには個々の学校に赴任してきてまだ話したことのなかった同じ教職員の姿があった。

 

ぴしりとした黒のスーツ、そしてそのスーツに合った鋭い双眸と凛とした佇まいの女性は金造と同じように自分のデスクの椅子に腰かけて出席名簿と思われる本を片手にこちらを見ている。

 

「いや、何者なんだろうなって考えてまして……」

 

「………仮面ティーチャー、とかいうやつの事か?」

 

「……ええ、まあ」

 

重く、冷たいイメージをこちらに植え付けてくるような女性の声に金造は若干警戒しながらも返事を返す。

女性は金造の返答に対して、何を思ったのか一瞬だけ細くした目を今度はじっと睨み付けるような視線で金造を見つめてきた。

 

「ほう、珍しいな、お前の様な言動を見せる教師は最近ではなかなかいない」

 

「はあ……そうっすか?」

 

「ああ、まわりを見てわかるだろう、他の教師たちはみんな待っていたと言わんばかりにはしゃいでいる……自分たちが何もできないから、余計にはしゃいでいるのだろう……仮面ティーチャーの登場にな」

 

女性は金蔵を捉えていた目線を今度は周りにいる教師たちを見回すように動かしてそう言った。

何か、苛立ちの様な物を感じさせる雰囲気に、金造はこの女性教師に何かほかの教師にはない違和感を覚えた。

 

「……あんたは気に入らないのか? 仮面ティーチャーが」

 

「……さあな、政府がこの学校に寄越したということはそれなりの考えがあっての事だろう……それで少しでも状況がよくなるなら私は何も言わん、ただ……媚びへつらうつもりはないがな」

 

その女性の纏う雰囲気に合った、どこか切れ味のある言動、他の教師には感じさせないその言葉に金造はすぐにその違和感が何なのかを知った。

 

この女性もまた、自分と同じような考えを持っているのかもしれないと…。

 

女性は席から立ち上がり、ドアの方へと向かった。

そして、その後を金造も反射的に追いかけていた。

 

「あ、あの、そう言えばまだ名前聞いてませんでしたけど、先生……名前は?」

 

女性教師の後を追ってそう問いかけた金造、女性はその声に反応し彼の方に振り返るとその冷徹なイメージを与える表情を崩さずに答えた。

 

「……2年C組の、“千冬”だ……そろそろ同じ教職員の名前も覚えておいた方がいいぞ、武原先生?」

 

そう言い残した千冬は履いていたハイヒールを鳴らしながらさっさと廊下の先へと進んでいった。

どんどんと小さくなっていくその後姿を、金造はじっと見つめる。

 

 

「……もしかしたら、あの先生も」

 

 

自分が教師となった理由、なぜ自分がこの職に就いたのか、金造はこの時であった彼女に自分と同じ様な、“思い”があるのではないかと直感的に察した。

 

 

 

「なにしとんの? 武原先生?」

 

「うおっ!? ……って、なんだよ八神か、驚かすんじゃねぇよ」

 

 

 

廊下のど真ん中でじっと立ち尽くしていた彼に丁度その後ろを通りがかったはやてが声を掛けた。

その後ろには彼女の親友のなのはの姿もあった。

急に驚いた金蔵にはやては何やら訝しげな表情を浮かべる。

 

「なんやとは失礼やな、こっちは朝から武原先生のこと探しとったのに」

 

「何? 俺を?」

 

「うん、ちょっと先生に知らせておきたいことがあるってはやてちゃんが言うから」

 

一体何事だろうか、金造ははやての方を見つめながら首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐ケ谷が荒れだした理由がわかるかもしれないだと?」

 

話があると言われてはやての誘いで校舎の外に出た金造はそこで今一番彼の中で気になっていた人物に関する情報をはやてから提示された。

 

「そうなんよ、武原先生はこの前、キリト君がなんで荒れ始めたのか教えてもらったやろ?」

 

「ああ、お前らから大まかにはな……で、分かるかもしれないってのはどういうことなんだよ?」

 

金造がそう聞くと、はやてはブレザーの内ポケットから一冊のメモ帳を取り出した、タヌキのイラストが拍子に描かれたそれをぱらぱらと開き、しばらくしてあるページでそれを止めた。

 

「実は、うちのクラスに1年の頃にキリト君と同じクラスやった子がおってな、今日その子からいろいろ教えてもらってん」

 

真剣な顔つきでそう言ったはやてはさらにメモ帳のページをめくる。

 

 

 

「キリト君……1年の夏ごろから不良生徒の内の何人かからいじめを受け取ったらしいねん……」

 

「いじめ、だと……?」

 

 

 

予想外の情報に、金造は驚きを隠せなかった。

今となっては自分以外の生徒を見下ろす立場となり、乱闘染みた喧嘩ゲームを主催していたあのキリトが、1年の頃にいじめを受けていたということにだ。

 

表情に出ていたのか、金造の反応を見たはやてはこくりと頷く。

 

「この事についてはわたしもなのはちゃんも初めて知ったんや、キリト君その頃はなんやわたし達と会う回数が少なかったから…」

 

「今思えば、それが原因だったのかもしれないね…」

 

どこか申し訳なさそうな表情を浮かべるなのは、それもそうだろう、同級生で身近にいた彼の異変に気付けなかったというのは彼女にとって相当に心苦しいものがあったから…。

だが、それに対して金造はどこか腑に落ちない点を感じていた。

 

いじめ………果たして、本当にそれだけが原因だろうか?

 

自分をいじめていた生徒達への復讐、にしてはやり方が的外れな気がする。

もし、あの喧嘩ゲームがいじめに対する報復による行為だとするならプレイヤーを生徒の中から選ぶのではなくて、自らがプレイヤーとなって生徒に挑む方がよっぽどそれらしいと思える…。

 

一体、キリトは何のために喧嘩ゲームを主催するのか……。

 

考え込むように下を俯く金造。

一体、なにが彼をあのようなゲームを開くまでに至らせたのか……。

なぜ、この桜庭学院高校における不良生徒のトップ、OVER5の席に座ったのか……。

 

 

 

―――自分の力を見せつけるようにゲームと称した喧嘩イベントを開催して……。

 

 

 

その時、金造の脳裏に以前にはやてが言っていた言葉が横切った。

 

 

「……なんであいつは自分が強いってことを見せつけるようなことをするんだ?」

 

 

金造が初めてキリトが主催した喧嘩ゲームに遭遇した時、彼は常に上から見下ろすだけで何もしていなかった。

主催者である自分は戦っているお前達よりも格上だと見せつけるかのように…。

賞品を提示し、自分が座る席、OVER5という立場をアピールするかのような挑発めいた言葉…。

それらは、自分は“強者”だと見せつける行為と見て間違いない。

彼は強者であることに拘っているのだろうか?

だとしたらなぜ? 金造は自分よりも長くキリトを見ていたはやてとなのはに問いかける。

 

「……それに関してはわたし達もわからん……でも、それに繋がる何かがあるんやとしたらたぶん、1年の頃の夏休みに入る前のことが関係してくるんちゃうかな?」

 

「夏休みに入る前……?」

 

復唱するように金造が繰り返すと、はやてに続く様に今度はなのはが金造に告げた。

 

 

「これも、教えてもらったことなんだけど……キリト君、夏休みに入る3日くらい前に、何処かに行こうとしてたんだって、ものすごい必死そうに……」

 

「必死に……?」

 

「でも、キリト君をいじめてた人たちがそれを許さなくて、長い間殴られ続けたらしいんだけど…それでも、行かせてくれって、キリト君は頼んでたらしいの………結局、散々に殴られて、解放されたのはかなり後の時間だったんだって……」

 

「……ほんで、そっから夏休みに入った後の秋、キリト君は今みたいな感じになってしもたんよ……」

 

 

夏休みに入る3日前にキリトがどこかに向かおうとしていた、しかもただ事ではなさそうに……。

 

確定とは言えないが、彼に何かがあったとするのならその時かもしれない…。

 

彼の心が闇に覆われた原因、それははまさにその日に彼の身に何かが起こったからだろう…。

それが何か、突き止められれば………。

するとその時、朝の予冷を告げるチャイムが鳴った。

 

「……っと、いけねぇ……お前ら、先に教室に戻ってろ、俺は後で行くからよ」

 

「あらら……すっかり話し込んでもうたわ…」

 

「そうだね、はやてちゃん、早く戻ろう?」

 

教師が生徒を遅らせてはいけない、金造はすぐに二人に教室に戻るように告げるとはやてとなのはは慌てて教室に戻ろうとする。

だが、その前にとはやてはスカートのポケットから何やら紙切れを一枚取り出すと、それを金造に手渡した。

 

「これ、わたしのスマホの番号やから、なんか聞きたいことあったら連絡してな?」

 

「お、おいなんだよ突然…」

 

「先生なんやあぶなっかしいからなぁ、なにかこの学校のことでわからんことがあったり欲しい情報があったらわたしが出来る限りで教えたるから、気軽に電話してや! 生徒会副会長の情報網は伊達やないで!」

 

そう言い残すと、はやてはそのままなのはと共に教室の方へと走り去って行ってしまった。

こういう場合は教師として、廊下は走るなと言っておくべきだろうが指導や体罰が禁止となっている教師の立場ではそのようなことは気軽には言えない。

金造は黙って二人を見送ると、そっと自分のスマホを取り出して連絡先を開く。

 

「……まあ、情報は大事だからな」

 

決してそれ以外の事では使わない、そう心に誓いつつ金造ははやての番号を自分のスマホの連絡先の中に追加しておいた。

 

そして、金造は彼女から受け取った紙切れをズボンのポケットの中に押し込むとそのままスマホの連絡先の中からある人物の番号を選択し、迷わず通話ボタンを押した。

 

学園内での情報通と思われる彼女との今後のコンタクトは得られた。

 

次は、“学園の外での情報通”だ。

 

 

 

「……おう、“ボン”か? ……いきなりで悪いんだがよ、ちょっと調べてほしいことがあるんだ」

 

 

 

金造は桐ケ谷の心の闇に立ち向かうべく、本格的に動き始めた…。

 

そう、彼が教師と言う職に就いた理由………。

それは、生徒の心の闇を払うこと………。

 

それが教師としての彼の務めであり、彼のもう一つの目標に通じる道なのだ…。

 

 

 

 

 

放課後、今日も今日とて学校内は騒がしいことこの上なかったが、特に目立つようなことはなく金造は放課後を迎え、今日の自分の職務を終えることが出来た。

そんな彼は今、行きつけの店、カフェホッパーを訪れ、ある人物と待ち合わせをしていた。

 

待つこと数十分、カウンター席に座る金造の耳に店のドアが開く音が聞こえてきた。

金造がドアの方を向くと、そこには昔のなじみの一人であり、待ち合わせの相手の姿があった。

 

黒髪に合わせたのか、黒のビジネススーツに身を包んだどこか幼さの残る顔つきの男性。

彼は金造を見つけるなり、笑顔を浮かべて右手を上げてきた。

 

 

 

「よっ、久しぶり、金造」

 

「……お前、だいぶ変わったよな? 昔は俺や獅子丸に媚びてたくせによぉ」

 

「なっ!? 別に媚びてなんかないよ! ていうか、久しぶりの再会なのにいきなりそれってひどくない!?」

 

「別に気にすんな、とりあえず座れよ、ボン」

 

 

 

“ボン”、と呼ばれたその男性はどこか不満げな表情を浮かべながらも金造言われて彼の隣の席に座った。

 

「いきなり朝から電話かけてきて、頼み事したと思ったらさっそくこの扱いって……金造今は教師だろ? そんなんでいいのかよ?」

 

「お前は生徒じゃないから、気を使う必要もねぇだろ」

 

「うわっ、ひでぇ!?」

 

何処かショックを受けた様なリアクションを見せるボン、そんな彼の目の前に一杯のソフトドリンクが出された。

眩い山吹色の液体が注がれたそのグラスを差し出したのは、この店の店長である十兵衛だった。

 

「まあまあ、とりあえずお勤めご苦労さん」

 

「おっ、ありがとマスター」

 

ボンは出されたソフトドリンクを一口飲むと、一息つく。

そんな彼に今度はこの店のバイトの獅子丸が声を掛けた。

 

「ボン、今は経営コンサルタントの仕事してんだってね、どうなの? 実際大変?」

 

「……まぁね、高校の頃とは違って金の使い方を考えなきゃいけないからね」

 

「………お前ら、高校のころと比べるとよく話すようになったな?」

 

「「え? そう?」」

 

完璧なハモリで金造に答えた二人、金造は半ば呆れるようにため息をつく。

 

この二人は昔は今ほど仲がいいわけではなかった、それが今となってはこうだ、時間の流れとは人の関係すらも変えてしまうから恐ろしい。

 

本当にこの二人が“華空学園最強の不良”と呼ばれた者たちなのかと、かつての自分たちを知る者がいたら疑うだろうな、と金造は思った。

 

今、金造の目の前にいる彼、ボンはかつて金造が通っていた高校で彼と共に学園生活を共にしてきた同級生にしてクラスメイトだ。

そして同時に、自分と同じように“恩師”の教育を受けた者の一人でもある。

 

彼もまた、かつては相当荒れていた、心の中に深い闇を持っていた。

だがその闇に、金造の恩師は立ち向かったのだ………心をぶつける、彼なりのやり方で。

その結果、ボンは心の闇から脱却し、今はこうして一社会人としての人生を全うしている。

 

 

「……それよりもよ、ボン……頼んでたことはわかったのか?」

 

 

そんなかつての同志であるボンに単刀直入、金造は今朝に頼んでいたことを聞いた。

すると、ボンもそれに反応して表情を真剣なものに変えると一枚のメモを金造に手渡した。

 

 

 

「……ほら、頼まれてた場所、突き止めといたぜ?」

 

「………場所って、お前ここ……」

 

「まあ、詳しい話はこれからだ………去年の夏、桐ケ谷和人って高校生がどこに向かおうとしていたのか、何が目的だったのか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、キリトは日が傾き始めた通学路を一人、歩いていた。

背中に竹刀袋を背負い、教科書なんて碌に入れてない鞄を肩に掛けつつ一人あることを考えながら歩き続ける。

その表情は、なにか焦りを感じさせる鬼気迫ったもので……。

 

「………仮面ティーチャー……どうすればあいつに勝てるか………」

 

うわ言のように悩みの種を呟きながら、キリトが一人で歩いていると不意に自分の肩に正面から歩いてきた何者かの肩がぶつかった。

 

「ってぇな! おいコラ! テメェどこ見て歩いてんだよ! あん!」

 

三人ほどのグループで構成された不良だ、制服からして桜庭の生徒ではなく、近くにある尼寺工業の生徒だろう。

尼寺工業の不良は自分にぶつかってきたキリトに食って掛かると、三人がかりで彼を取り囲んだ。

相手は一人、こちらは三人、数では有利と思ったのだろう…。

 

「………邪魔なのはお前らなんだよ」

 

「あ? てめぇ今なんつったんだよ? はっきりい―――」

 

キリトの正面に立った不良が不自然なところで言葉を区切った。

いや、無理矢理区切らされたと言った所か、キリトが背中に合った竹刀袋から素早く自分の得物である木刀を取り出し、刺突を顔面に見舞ったからである。

 

 

 

「……何度も言わせるな……邪魔なんだよ、弱者が……」

 

 

 

そこから先はキリトの独壇場だった。

三対一と言う不利な状況でありながら、キリトは持っていた木刀を巧みに使い、残りの二人の不良を瞬く間に叩き伏せてしまった。

仮にもOVER5、その実力は並大抵の不良とは違う。

彼は力を得るために去年の夏に実家の剣道を自己流で強化し、その身に叩きこんだのだ。

弱者より上に立つために、自分が強者であるために……。

 

だが、こんな小物を倒したところで自分の強さを証明できはしない。

 

OVER5を名乗る者として、このくらいの実力は持ち合わせて当然なのだ。

 

 

「………時間の無駄なんだよ………」

 

 

気を失い、地面に倒れた三人の不良にそう言い捨てるとキリトは再び帰路に付こうと鞄を持ち上げた。

 

 

 

「いやぁ、お見事お見事! さすが桜庭学園高校OVER5の一人、桐ケ谷和人君だ」

 

 

 

突然どこからか声が聞こえてきた。

拍手を交え、こちらをたたえるようなその言動を耳にしたキリトはあたりに目を凝らすがどこにもその声の主と思われる人間の姿は見えなかった。

だが、代わりに自分の目の前、数歩先に歩いた先にある曲がり角から不自然な影が伸びているのは見えた。

 

「なんだ、お前は?」

 

「おっと、これは失礼……俺は別にあんたをどうにかしようってわけじゃない、ただちょっとばっかしお話をしに来ただけなんだ」

 

「話……だと?」

 

「ああ、桜庭学園に現れた……仮面ティーチャーについてね?」

 

その発言に、キリトは反応した。

姿は見えないが、この人物は桜庭学園に仮面ティーチャーが現れたことを知っている、そして自分の存在を知ったうえで接触してきた。

 

恐らく、この人物は桜庭学園の関係者、いや、もしかしたら自分と同じ生徒かもしれない……。

 

「……だったらなんだ?」

 

仮面ティーチャーの話題を出して一体何が目的なのか、ブラフを兼ねて、キリトはそう返すと曲がり角の先にいる何者かは手だけを伸ばし、こちらに向けて何かを投げつけてきた。

 

くるくると回転しながらキリトの目の前に落ちたそれに彼は目を落とす。

 

どうやらそれは、カードの様だった。

そっとそれを手に取ったキリトは、裏面を向けて伏せられていたカードの表面を裏返してみる。

すると、そこにはこの近くにある雑貨ビルの裏手を示す小さな地図がプリントされていた。

 

 

「そこに、あんたにとって邪魔な存在である仮面ティーチャーを潰すために用意した“特別な駒”と“アイテム”を用意しておいた……既に話は付けてあるから、好きに使いなよ………それじゃ、ご健闘を……」

 

 

そう言い残した何者かは、そのままその場から立ち去ったのか気が付けば曲がり角の先から伸びていた不自然な影はもうなくなっていた。

果たしてこれは、罠か、それとも……キリトは少し考えたが……。

 

「………?」

 

地図がプリントされたカードの下、そこが不自然にめくれ上がっていることに気付いた彼はそれを手でつまみ、シールをはがすように引っぺがした。

すると、その下には………。

 

 

 

「………なるほどな」

 

 

 

カードの下に記された内容を見たとき、キリトの中である考えが浮かんだ。

今までにない、大イベントをキリトはこの時、考え付いたのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その翌日のこと……。

今日は学校が休日と言うこともあり、金造は朝早くにある人物と共にある場所に向かっていた。

まだ朝の陽気が心地いい時間帯、金造は隣にいるその人物に視線を向ける。

 

「悪いな結城、休みの日に呼び出しちまって」

 

「いえ、いいんです、気にしないでください! どうせ私も暇だったので…」

 

そう言って気を使ってか金造に笑みを向けるのは桜庭学園高校生徒会長、結城明日菜だ。

何故、金造が彼女を呼び出したのか……それはこれから向かう場所には、彼女も同行してもらわなければ意味がないからだ。

 

………おそらく、キリトの心の闇を払うには彼女の協力も必要となる。

それに彼女自身も自分と彼の今の関係に決着をつけたいと思っているはずだ、今までの彼女の行動、何度もキリトを止めようとして起こした行動が何よりの証拠だ。

 

彼を今包み込んでいる心の闇を撃ち払う、そのためにも……。

 

「……結城、お前は桐ケ谷が一年の頃にいじめにあっていたのは聞いたのか?」

 

「………はい、昨日、はやてちゃんから………」

 

明らかに沈んだ表情を浮かべる明日菜、その瞳は今にも泣きだしそうなほどにうるんでいるように見える。

 

「………おかしいですよね、これだけキリト君のことを気にかけているのに……1年の頃、彼がそんな目に会っているなんて全然知らなくて……」

 

消え入りそうな声が徐々に震えはじめていた。

彼女の手もまた、無意識の内なのかきつく握りしめられている、それが彼女が今どれほど後悔しているか、どれほど辛く感じているかを物語っていた。

 

「……私、キリト君の事全然わかってなかった……見てるようで、ぜんぜん見てなかった……私……悔しいです……キリト君が辛い思いをしているのを、気づいてあげられなかったことが……!」

 

やがて彼女の目から一滴の涙が零れ落ちる。

 

自分に安らぎを、楽しいという気持ちを教えてくれた彼、自分に手を刺し伸ばしてくれた彼に自分は何もできなかった。

彼が自分を見限るには十分すぎる理由だ、彼を守ることが出来なかったのだから……。

 

 

「お前だけが悪いわけじゃねぇよ…」

 

 

だが涙ぐむ明日菜に、金造はそう言った。

 

「どういうことですか……武原先生……」

 

「………お前が泣いても、あいつの心は晴れない……あいつの心の闇を払うのは、あいつ自身だ………これから行くのはあいつが心を閉ざした理由……それがわかる場所だ」

 

金造はそう言うと、自分の腕に巻いてある腕時計を確認する。

その表情はどこか険しいもののように明日菜は感じたという。

 

「……説明する時間も、もうあまりねぇ……何があるのかは自分で確かめろ……お前がまだ、桐ケ谷を救いたいと思ってんならな」

 

金造が言うキリトの心に闇が生まれた原因、それはいったい何なのか明日菜は疑問を感じながらも彼についていく。

そして、やがて二人は並木道を抜けた……。

 

 

その先にあったのは………。

 

 

 

「………ここって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日の学校、平日の様に生徒の多くが登校しているわけではなく、ごくわずかな人間しか学校に訪れないため、本来ならいつもよりも物静かであるはずだ。

だが、今日は……今日だけは違った……。

 

学校の校舎裏、資材置き場となっているその場所に数十人の生徒が集まっていたからである。

今までの喧嘩イベントで集まった人数とは比べ物にならないその数はざっと見て50はいてもおかしくない。

そして、この騒ぎを聞きつけたのか、野次馬の生徒達もその場に集まってこれから何が始まるのか興味深そうに見ている。

 

その中にはなのはやはやての姿も見られた。

 

「はやてちゃん、これって……」

 

「………状況は最悪やな」

 

野次馬の中に紛れているはやてがスマホを取り出してSNSを開く。

そして、間もなく画面に映し出されたのはとある一軒の書き込みだった。

 

 

 

―――ボーナスイベント開幕。

 

 

 

―――土曜日午前10時、桜庭学園高校裏に集まれたし。

 

 

 

―――今回のゲームは今までとは違う、クリアの報酬は次期OVER5の座の獲得。

 

 

 

―――そして、賞金“10万円”。

 

 

 

この書き込みを見た生徒たちが一斉に休日の桜庭高校に集まったのだ。

そして、同じく噂を聞きつけた二人がまっさきにこの書き込みを載せた人物が誰なのか、反射的に理解できた。

 

そして、今か今かとひしめき合う不良生徒達。

 

その生徒たちの前に、一人の生徒が現れた。

 

桐ケ谷和人、そう、このゲームを主催したのもまた彼である。

だが、今日の彼はいつもと様子が違う、傍らには屈強な肉体を持つ大人の男性を二人付き従えている。

そして、即席で用意された壇上の上でキリトは集まった生徒たちを見下ろす。

 

「………これから、ボーナスステージを開始する……書き込みを見て知ってるやつもいると思うが、今回の報酬は次期OVER5の座と、賞金……10万だ」

 

彼はそう言うと、懐に手を忍ばせそこから束になった1万円札紙幣を見せつけるように取り出した。

一体高校生の彼がどこからそんな金を持ってきたのだろうか…。

だが、不良たちはそんなことを気にせず本物の10万円を前にしてさらにテンションを上げる。

 

「ボーナスステージの内容は………おっと、説明する前にどうやらもう“ターゲット”が来たらしいな」

 

早速説明が入るかと思われたその瞬間、キリトの視線が資材置き場のさらに奥へと向いた。

その言葉と彼の視線に、不良生徒達と野次馬も一斉のその方向を向く。

 

 

 

そこには………。

 

 

 

 

「仮面ティーチャー……!」

 

 

 

 

そう、突如としてこの学園に現れた特別教師、仮面ティーチャーが立っていたからである。

 

仮面ティーチャーは不良生徒たちを見据えた後、壇上の上にいるキリトに視線を移す。

 

対して、仮面ティーチャーを見下ろすキリトは、にやりと口の恥を吊り上げて持っていた木刀を仮面ティーチャーに向けた。

 

 

 

「ボーナスステージのルールは、あいつを………仮面ティーチャーをぶっ潰すただそれだけだ! それを成しえ、奴の仮面を剥いだ奴に………今回の報酬をやる!」

 

 

 

キリトが高らかに宣言したと同時に、不良生徒たちは木材や鉄パイプなど事前に持っていた武器や自分の拳を構える。

対する仮面ティーチャーもまた、手に嵌めているグローブをきつく締め直した。

 

 

 

「さあ! ゲームスタートだ! 奴を………仮面をぶっ潰せぇぇぇぇぇええええええええ!!」

 

 

 

叫ぶようなキリトのその言葉を合図に、不良生徒たちが怒号を上げて仮面ティーチャーに向かっていく。

 

今、桜庭学園高校で仮面ティーチャーとOVER5の一人、キリトとの戦いの火ぶたが切って落とされたのだ!

 

 

 

「………そこで大人しく待ってろよ、桐ケ谷」

 

 

 

彼の生徒指導が、今始まる!

 




いかがでしたか?

今回はちょっと場面の移り変わりが激しかったかなと反省…。

次回は、仮面ティーチャーとキリトが真っ向勝負!

そして、金造と明日菜が知ったキリトの心の闇の真実とは!!

それでは次回でお会いしましょう!
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