仮面ティーチャー the NEXT ~交差する幾重の絆~ 作:白宇宙
実家に帰省して仕上げた仮面ティーチャーthe NEXT!
今回のお話はあのブリュンヒルデが大きなカギを握っています!
ということで
前回、キリトの心の闇を払うことが出来た仮面ティーチャー、しかし、まだ桜庭学園の闇は完全に消えたわけではない。
新たな戦いが予感される中、金造の前には謎の新聞部、十文字 隼人が!
果たして、彼が仮面ティーチャーを何故狙うのか!
そんな中、再びこの学校で動き出す者たちがいた!
さあ、生徒指導を始めよう!
“仮面ティーチャー法”。
政府が発足した学校更生プログラムであり、今の教育界を変えるために必要とされている方法。
あらゆる暴力を許され、力によって生徒を制圧する特別教師、仮面ティーチャーを派遣するこのプログラムには様々な規定がある。
絶対的な力を振るう以上、選ばれる人間は限られ、相応の訓練や適性試験が必要とされる、そして仮面ティーチャーとして着任して以降も、彼らは重大な規定によって縛られることになる。
その中にはこんなものがある…。
―――仮面ティーチャーはその正体を生徒並びに学校の重要関係者以外の一般教師に知られてはならない。
―――もし、正体が発覚した場合は担当している学校を退任し、仮面ティーチャー免許を、“剥奪”とする。
「……OVER5の一人、桐ケ谷和人が大人しくなったそうですね」
他の部屋に比べると高貴なイメージがある部屋で、ある男が専用の机と椅子に坐してそう言った。
部屋の中には色あせた人物写真や、様々な種目のスポーツの栄光をたたえるトロフィーやメダルが飾られ、そこが学校の中でも最も重要な物がいるにふさわしいとする雰囲気を漂わせている。
そう、ここは校長室。
学校と言う施設の中で最も重要な役割を担う人物の部屋だ。
そして、その部屋にいる唯一の人物、この桜庭学園高校の校長は目の前の人物をじっと見つめる。
「仮面ティーチャー………いや、武原先生」
「……はい」
この学校に新しく赴任した教師であり、唯一の仮面ティーチャー、武原 金造。
彼が返事を返すと、校長は笑顔であるが満足げではなさそうに重い腰を椅子から上げた。
「しかし、彼一人が大人しくなってもこの学校の平和は訪れません、今も尚この学校は素行の悪い生徒で溢れている…彼らを一刻も早く更生させるためにも、あなたには期待していますよ?」
「………校長、お言葉ですが……俺は……いや、私は無益な暴力を行使するつもりはありません」
期待を込めた眼差しを向ける校長は金造の言葉を聞いた瞬間、短くため息をついた。
「…そう言えばあなたは、初めて私と会った時もそう言っていましたね」
それは数日前、彼がこの学校に赴任して直後のあいさつで校長に言った言葉だった。
自分は確かに仮面ティーチャーです、だが、ただ暴力を振るって生徒を制圧するつもりはありません。
それは暴力と言う決定的な力を酷使する存在である仮面ティーチャーとは思えないような言葉であった。
「あなたはなぜ、そうまでして暴力を嫌うのですか?」
校長が金造にそう問いかけると、彼は鋭くも芯のある強い意志の籠った眼差しを校長に向けた。
「……ただの暴力では、人の心は動かない……私は心で生徒を更生させてみせます」
「……今のこの世の中で随分と珍しいことを言うんですね、あなたは」
「今の世の中だからこそ、心の闇を持つ生徒には力ではなく心で向き合う必要がある、私はそう考えています」
揺るぎない覚悟を胸に、金造は校長と向き合いそう告げた。
それに対し、深刻そうな表情を浮かべながら校長は視線を窓に向ける。
「武原先生、私は今まで長い間この教育界に身を置いていました……そして、たくさんの物を見てきました、なのでこれは私から見た観点での言葉です……今の子供たちは、それだけではだめなんですよ」
校長はそう言うと、窓の方に歩いていき窓から外へと視線を向ける。
「教師と言う抑止力が失くなり、子供たちは我が物顔で学校を跋扈する……そして、そんな生徒達とあなたみたいに向き合おうとした人から、酷い目に会っていきました……いいですか、先生、心だけじゃ何も解決しません」
「……しかし」
「必要なのは、より大きな力……上には上がいるのだということを、彼らに教えることなのです」
これが教育界の現実、今の教育界のあるべき姿なのだと言わんばかりにそう告げた校長は金造に近づくと、その肩に手を置いた。
「……あなたには、私だけでなくこの学校の教師たちも期待している……頼りにしていますよ、仮面ティーチャー」
「………」
校長のその言葉に、金造は何も返さなかった。
これが、大人の事情。
力を失った教師たちに変わって拳を振るう、仮面ティーチャーの責務。
金造は自分の思い描くやり方と、その責務との間で思い悩んでいた。
仮面ティーチャーとしての自分のやり方、しかし、現実はそれを許そうとしないのか……そう簡単に受け入れてはくれない。
覚悟はしていたとはいえ、目の前のその現実に金造は思い悩みながら、静かに俯く。
「あと、くれぐれも正体はばれないようにお願いしますね…今あなたにいられなくなっては困りますから」
「……はい」
そう言えば、それ以外にも悩みの種があったとこの時、金造は思い出した。
それから彼は特に何も話すこともなく、校長室を後にした。
金造は校長室を後にし、一人職員室へと向かっていた。
こうしてたまに行われる、校長への現状報告。 彼はあまりこの報告が好きではない。
今の教育界の現実をありありと見てしまうようで、非常に心苦しくもあるしなによりも苛立ちを感じざるを得ない。
かつての自分もそうだったからわかる…。
身勝手な大人がいるから、子供たちが信じる心をなくしていく……故に教師となった金造はそんな子供たちに手を差し伸べるべく、心を伝えるという更生を主体にしてきた…。
自分の恩師である、彼のように…。
「……お前も、こうだったのか……荒木」
人知れず拳を握りしめながら、金造はそう呟いた。
すると、金造の視界にある物が入った。
横を見ると、それは学内の掲示板だった、そこにありありと張り出されているのは一枚の記事。
“桜庭学園高校に現れた、仮面ティーチャーの正体は!?”
大々的につづられたタイトルに、金造は嫌でもどきりとしてしまった。
この記事を書いたのは何者なんか、それは確認せずとも金造にはすぐに察することが出来た。
自分が受け持つクラスの生徒の一人にして、この学校の唯一の新聞部、十文字 隼人である。
キリトとの一件の後、彼の前に現れた一人の男子生徒、隼人。
彼は金造に仮面ティーチャーの正体を探っているということを告げたのだが、金造にとってそれはあまりにも酷な話であった。
なにせ、仮面ティーチャーはその正体を知られたら最後、学校にはいられなくなるうえに仮面ティーチャーとして活動することもできなくなる。
もし、正体を探られるうちに最悪の場合で正体がばれたら、それこそ一溜りもない。
今の金造にとって、隼人は要注意人物に他ならなかった。
「どうも、金造先生♪」
「うおっ!?」
じっと掲示板に張り出された校内新聞を見つめていた金造の真横から、突然その要注意人物である隼人が現れた。
金造は隼人が唐突に表れたことに驚き、後ずさり反射的に両拳を前に出してファイティングポーズをとってしまった。
「じゅ、十文字か……お前、担任を驚かすんじゃねぇよ」
「いやぁ、あまりにも無防備だったからついね、ていうかそんな警戒しないでくれよ先生、なんかあったのか?」
「え? あ…ああ、別になんでもねぇ、驚いたからついな」
十文字に指摘されて慌てて拳を下ろした金造。
危なかった、下手をしたらこういうちょっとしたことでバレてしまうかもしれない。 気を付けようと思っていた矢先にこれだ。
幸いにも隼人はあまり気にしていないようで、今のでバレてはいないだろうと金造はほっと胸を撫で下ろし安堵の息を吐く。
「ていうか、先生、今のボクシングの構え方ですよね、経験あるんすか?」
「え? ……まあ、ガキの頃齧ってはいたが」
「やっぱりかぁ、俺、けっこう格闘技とか好きなんすよ、あ、そう言えば…仮面ティーチャーのことを調べてるうちにわかったんだけど、あの仮面ティーチャーもなんかボクシングに近い動きをしてるんですよね」
前言撤回、こいつの観察眼は鋭い…。
「そ、そうか?」
「間違いない、あれは相当場数を踏んでないとできない動きだった」
「お、おお……」
確かに、金造は高校時代、ボクシングの基礎を学び、それを独自でアレンジしたスタイルを使って喧嘩に明け暮れていた。
それファイトスタイルは仮面ティーチャーとなった今でも反映されていて、彼の独特の持ち味となっている。
よもやそれに気づくとは、やはり今の咄嗟の動きは仇となったか…下手をしたら今ので正体がばれたという可能性も考えられる。
「………」(じ~…
………いや、十分にあり得る。
「な、なんだよ俺をそんなに見て……」
「いえ、別に~」
「………そんなに見んなよ」
「いや~、お構いなく~」
………まずい、このままでは正体がバレるのも時間の問題だ。
仮面ティーチャーとしてこの学校に赴任してきた矢先にやっかいなことになってしまった。
冷や汗を流しながら、金造は彼に悟られないように必死に表情を取り繕う…。
―――おらぁ!! 仮面はどいつだぁ!!
―――き、君たちやめなさい!
―――うるせぇ! 早く仮面出せっつってんだよ!!
「………なんだ?」
そんな時、突然あたりが騒がしくなった。
怒号と共に聞こえる何かを壊すような音、そして悲鳴にも似た声。
恐らく聞こえてきた方角からして職員室で何かあったようだが…。
「あら、なんか事件みたいっすね……これはスクープの予感か?」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ……何があったんだ一体」
隼人が興味津々にカメラを取り出したことに軽くツッコミを入れ、金造はすぐさまその声が聞こえた方に走って行った。
廊下を走るな、とよく言われるだろうが緊急事態だと自分で割り切りまっすぐに職員室へと向かう金造。
だが、走り去っていったのは金造だけで、興味を示していた隼人はその場に残っていた。
「……さて、また動き出すかな? 仮面ティーチャー」
なにかを企んでいるような意味深な微笑みを浮かべながら…。
金造が職員室に駆け込んだ時、そこは阿鼻叫喚が渦巻く場所となっていた。
「テメェが仮面か? おい、何とか言ってみろよ!」
「ち、違うと言っているだろう……!」
「正直に白状しろやコラァ!!」
「ひぃっ!?」
数人の生徒が職員室に足を踏み入れ、片っ端から教師を威嚇しているのだ。
そして、生徒が教師を脅す内容はすべて共通していた。
仮面はどこだ、仮面はどいつだ、仮面を出せ…。
どうやら彼らは仮面ティーチャーを探している様だ。
しかし、一体なぜ、金造は疑問を抱きながらもとにかく今は生徒を止めるのが先決だと職員室に入ろうとする。
「やめとけよ、武原」
だが、それを止める人物がいた。
振り返ると、そこには彼が受け持つクラスの生徒の一人にして、OVER5の一人、キリトが壁に凭れながら金造にそう告げた。
「桐ケ谷……どういうことだ、お前は何か知ってんのか?」
「ああ、一応な……この騒ぎは俺と同じ、OVER5の一人、織斑 一夏が仕向けたことだからな」
「……織斑が?」
織斑 一夏、その名前は金造の中でも深く印象に残っている名前だった。
そう、彼が赴任してきてそうそうに殴られた生徒が、彼だったのだから。
しかし、その一夏がどうしてこの騒動を起こしているのか、金造の疑問はますます深まるばかりだった。
それに、今職員室で教師を威嚇している生徒たちは…。
「あいつらは一夏がリーダーのチーム、“インフィニット・ストライカーズ”……通称、“I.S”だ」
その疑問に答えるように、キリトは今職員室で教師を脅かしている生徒達が何者なのかを伝えた。
「I.S……?」
「あいつらは一夏が集めた、所謂特攻チームってやつでな……腕に自信がある奴らが集まった、要は喧嘩好きな奴らの集まりってわけだ」
「………ならなんでそいつらが教師を……」
「一夏が仮面ティーチャーをぶっ倒して、正体をあばこうって考えているからだよ…」
「何だと?」
「だから今、こうして教師たちを片っ端から恐喝して仮面をいぶり出そうって考えらしいぜ?」
まさか、隼人とは違う形で正体を明かそうとする生徒がいたとは…。
しかも、完璧な実力行使で行動しているからタチが悪い、このままでは関係のない教師にまで被害が及んでしまう。
そうなれば、教師と生徒の間にできた溝はさらに深みを増してしまうだろう…。
教師は体罰や指導が禁止されているが故に生徒は好き放題、このような事件が起きてしまうのも数年前に教師の体罰や指導が禁止されたがため…。
でも、だからこそ、これ以上生徒と教師の絆が無くなるようなことはあってはいけない。
今の世の中だからこそ、学校の生徒達には、自分たち教師と言う存在が……手を差し伸べられる存在が何より必要なのだから……。
思いつめた表情を浮かべ、職員室の中を覗く金造の後姿を、キリトはじっと見つめてる。
(……仮面ティーチャーの正体……まさか……あんたが……)
以前の彼が自分に向けて行った仕草を見て以来、キリトは仮面ティーチャーと金造の姿が重なって見えて仕方がなかった。
もしかして、あの仮面を被っていたのは…。
キリトが心の内でそう考えていると……。
「貴様ら、何をする……」
「オイあんた、仮面がどこにいるのかさっさと教えろよ」
彼らがいた廊下の横から、少し鋭さを感じる雰囲気を持った女性の声と男子生徒がその声の主であろう女性を脅す声が聞こえてきた。
「知らんと言っているだろう、これ以上バカな真似はやめろ」
その声の主は、金造の隣の席に座る、2-C組の担任の女性教師、千冬だった。
数人の生徒に囲まれながらも、彼女は凛とした姿勢を崩さずに鋭い眼差しを生徒たちに向ける。
恐らく、彼女を囲んでいる生徒達もI.Sのメンバーなのだろう。
仮面ティーチャーの情報を得るために、千冬にも迫った、そう考えて間違いはなかった。
「ああ? 指図すんじゃねぇよセン公がよぉ!」
「女だからって俺らが手ぇださねぇと思ってたら大間違いだぞ?」
「ちょっと痛い目に会って貰おうか!!」
彼女の物言いが気に食わなかったのか、三人の男子生徒の内が千冬の肩を掴み、拳を彼女の顔に目がけて振るった。
「っ! 千冬先生!!」
彼女が殴られると悟った瞬間、咄嗟に金造が前に出ようとする。
時間差になって響く音、だがそれは彼女が殴られたことによる音ではなく、パシッと言う軽快な音だった。
それは千冬が男子生徒の拳を片手で受け止めてしまったことを証明する音だった。
「な、なんだ、こいつ…!」
「やめろと言っているだろう……それとも言葉ではわからんのか?」
男子生徒に怖気づくこともなく、鋭い目つきで目の前の生徒を睨む千冬。
片手で受け止めた拳を強く握りしめ、牙を剥こうとする獅子を思わせる雰囲気を放つ彼女の姿に金造を含め、男子生徒は言葉を失った。
だが突然、千冬は何かに気付いたようにハッと目を見開いた。
そして、それを合図にしたかのように視線を伏せ、持っていた男子生徒の腕から手を離し、数歩後ずさった。
一体どうしたというのか、今の彼女には先程までの強烈な威圧感を感じない…。
生徒達から視線をそらし、唇を噛むようにして口を閉ざしている。
「………」
「な、なんだよ驚かすんじゃねぇよこのアマ…!」
「そりゃそうだよな、いくら教師でも俺達を殴ったらやべーもんなぁ?」
「わかってるんだったら、余計なことしてんじゃねぇよ!!」
大人しくなった千冬の姿を見て、再び勢いを取り戻した生徒たちは再び彼女に迫ろうとするが…。
「おい、やめろお前ら、こんなことしても意味ねぇだろ!」
今度こそ危ないと感じた金造が男子生徒と千冬の間に入って制止した。
だが、突然の乱入者である金造の制止など、今の生徒が聞くわけもなく…。
「は? なんだよ、テメェ」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
「ぐっ!?」
容赦なく横薙ぎに放たれた拳が金造の顔面を打ち据えた。
助けに入ったはいいが、あっさりとやられ、金造は見事な放物線を描き、横に吹っ飛ばされてしまった。
「武原先生……!」
「……おい、もう行こうぜ、こいつらにばかり構ってたら埒が明かねぇ」
「ああ、そうだな、早く見つけねぇと一夏さんから大目玉喰らっちまう…」
今日が覚めたのか、金造を殴り飛ばした生徒たちは千冬に絡むのもやめて、また別の場所へと去って行った。
その姿をキリトは見送りながら、軽くため息をつく。
もしやと思って金造に興味を持っていたが、さっきの不良の攻撃をあっさりと受けて吹っ飛ばされたのを見たためである。
「……やっぱ考えすぎか、あいつ、見た目の割に弱いしな」
「無事か、武原先生!」
自分の思い違いだったかと落胆するキリトの耳に千冬が金造を気に掛けるような言葉が聞こえてきた。
「……武原先生?」
しかし、すぐにその声が何やら不思議そうなイントネーションを含んだ発音になった時、キリトが金造が吹っ飛ばされた方向に顔を向けると……。
そこには金造の姿はなかった。
「……あいつどこまで吹っ飛ばされたんだ?」
最初の時と言い、彼は良く吹っ飛ぶと思いながらキリトが眉を潜める。
すると……。
―――おい、いたぞ!! 仮面ティーチャーだ!!
突然、外が騒がしくなり学校の中で響いていた生徒の怒声が校庭の方へと集まり出した。
そして、それに混じって聞こえる、電気エンジンの駆動音とモーターの音。
それを聞きつけた千冬とキリトがすぐさま外に出て、校庭の方に目をやると……。
そこには既に、仮面ティーチャーと男子生徒が壮絶な追いかけっこをしている光景が広がっていた。
白銀のバイクに跨る白の仮面ティーチャーが追いかけてくる生徒を尻目に校庭をバイクで走り回る。
それを必死に走って追いかけるI.Sのメンバーである生徒達、しかし、バイクと走りではやはり速さに違いがありすぎる、必死に追いかけ、回り込んで挟み撃ちにしようにも仮面ティーチャーはバイクを巧みに操り生徒の強襲を次々と躱していく。
すると、仮面ティーチャーが一度、生徒達からかなり距離を離した位置でバイクを止めた。
これを好機と見たI.Sのメンバーたちは一気に仮面ティーチャーに襲い掛かろうと迫る。
「さあ、生徒指導の時間だ…」
生徒達が十分な距離に迫ったところで、仮面ティーチャーはバイクを足場にして思い切り飛び出す。
空中で体を翻しながら着地した仮面ティーチャーは持ち前の身体能力を生かして、迫りくる生徒達の攻撃を次々と受け流していく。
殴りかかってきた生徒の拳を払い、カウンターで顎に寸止めで素早く拳を放ち。
飛び掛かってきた生徒には掴まれる前にその腕を取って足払いを掛け、地面に押さえつける。
そして、次々と鮮やかな回し蹴りを威嚇で放ち、仮面ティーチャーは生徒を一切寄せ付けようとしない…。
覚悟はしていたとはいえ、実際に彼の身体能力を目の当たりにした生徒たちはやがて、戦意を失っていった。
「や、やべぇ……やっぱ近づけねぇよ!」
「い、いったんずらかるぞ!!」
完全に戦意を喪失したI.Sのメンバーたちは一目散にその場から逃げ出す。
その様子を仮面ティーチャーはじっと見つめ、臨戦態勢を解くと再びバイクに跨る。
(………どうやら今度の相手は、あいつらみたいだな)
新たに現れた問題児たち、そしてその元締めである一夏を思い浮かべながら、仮面ティーチャーは再びバイクを走らせてその場から去って行った。
こうして、白昼の事件はひとまず幕を引いたのだった…。
しかし、事件自体はまだ水面下で動いている…。
その首謀者、チームI.Sのリーダー、織斑 一夏を中心にして…。
放課後、空が夕暮れ時を迎え、鮮やかなオレンジ色に染まる時間帯の桜庭学園の屋上で今回の事件を引き起こしたチーム、I.Sが集まっていた。
屯する男子生徒の中、その中心にいる一夏は周りにいるメンバーを順に睨んでいく。
「結局、お前らも仮面にビビってのこのこ帰ってきたって訳かよ」
「で、でも一夏さん、あいつ本当に強ぇんだ、そう簡単に倒せるような奴じゃねぇよ…」
「……で? もうやめようってか?」
一夏に仮面ティーチャーの実力を報告したその男子に、彼は近づくと射殺さんばかりの鋭い眼差しで睨み付け、その男子の鼻先に思い切り頭突きを繰り出した。
「ぐぎゃっ!?」
鈍重な痛みに驚き、その場に倒れ伏す男子。
さらに一夏は周りにいた他のメンバーにも容赦のなく襲い掛かり、次々と重い拳を繰り出して殴りつけていく。
唐突もなく殴られたメンバーたちはその場に倒れ込み、完全に怯えた様子で一夏を見ると、彼は怒りに満ちた表情でチームメンバーたちを見下す。
「舐めんじゃねぞ! 俺達があんなふざけた奴にビビってどうすんだよ? 俺達はな、この学校の頂点に座る、そのためにもあいつをぶっ潰して俺達の実力を見せつけなくちゃいけねぇんだよ!!」
「……でもよ一夏、あいつは確かに相当強ぇぞ、なんせこいつらが束になっても近づけなかったくらいなんだからよ」
怒声を上げる一夏にこのチームI.Sのサブリーダーを務める、一夏の昔なじみ、“五反田 弾”が一夏にそう呼びかけるが、一夏はそんな彼の注意を聞く様子もなく彼にも鋭い眼差しを向ける。
「なら仮面の奴がへばるまで殴ればいいだけだろうが! 仮面ティーチャーって言っても人間と変わりないんだ…俺達が大人数で掛かればどうってことねぇよ!」
「………だといいんだけどよぉ」
「オラ分かったらとっとと他の奴らにも伝えて来い! 早く仮面の野郎を見つけろってな!!」
一夏の命令に、メンバーたちは蜘蛛の子を散らすようにその場を後にする。
そして、残された一夏は弾と共にその場に座り込み不機嫌そうな表情を浮かべて舌打ちをする。
(奴は必ず俺がぶっ潰す……そして、俺がこの学校の頂点だってことを知らしめてやるんだ……!)
一方、所変わって職員室では…。
「いやぁ、今回も仮面ティーチャーが大活躍でしたなぁ」
「まったく、彼には一刻も早くこの学校のろくでなし共を掃除してもらいたいものです」
あの事件も仮面ティーチャーによって終息したと上機嫌に教師たちは職務を終えて帰路につき始め、残された金造もまた帰路につこうとしていた。
しかし、表情はやはりどこか不機嫌だった。 というのも、仮面ティーチャーを担ぎ生徒を見下すような態度を見せる教師たちが気に食わないという理由だ。
「ここも結局は同じかよ……」
自分たちが手を下せない、だから唯一生徒を力によって制圧できる仮面ティーチャーはヒーロー。
彼がいれば何も怖くない、そう示すかのように教師たちは仮面ティーチャーを祭り上げる。
自分たちは生徒と向き合おうとせずに……。
こんな状態が続けば生徒だけじゃなく、この教育界そのものがだめになっていく…。
(………子供を救えるのは俺達大人だってのに)
思いつめ、その場で俯く金造。
今の教育界の現状が作り出した、生徒と教師の間の溝は思っていたよりも深いと彼は改めて痛感した。
かつての自分もそうだったように、今の子供たちは誰かを信じる気持ちを失いつつある。
だというのに、教師がそれから目を反らしていては何も解決はしない…。
この現状をどうにかできない物か……。
金造が一人、帰りの身支度を整え考え込んでいると……。
「武原先生」
ふと、誰かが背後から金造を呼んだ。
もうほぼ他の教師たちは家路につき始めているのに、何だろうかと金造が振り向くと、そこには同じく身支度を整えた千冬がいた。
「……千冬先生、どうかしたんすか?」
「いや、特に重大なことではないのだが……この後時間、空いてるか?」
「え? ……まあ、はい、空いてますよ?」
突然の質問に金造がそう答えた。
確かにこの後は特に用事もないし、残業もない、時間には余裕がある。
しかし、なぜ彼女が突然そんなことを聞いてきたのか彼にはわからなかった。
やけに視線をそらして小恥ずかしそうにしているが、何かあったのか?
金造は彼女の行動に疑問を抱き、首を傾げる。
そして……。
「そうか、なら………付き合ってくれないか?」
「………はい?」
あまりにも唐突な言葉に、金造はしばらくその場でフリーズした。
「すまないな、突然……」
「いえ、俺は別にかまいませんが……本当に、俺でよかったんですか?」
「ああ……君じゃないと、私は満足できそうにないからな」
「は? それはどういう……」
「………君は鈍いな、せっかく私から誘ってやったのに」
「は……はぁ、すんません……」
「……そんなに硬くならなくていい、気楽にほら、もっとこっちに寄れ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「よし、それじゃあ……何から始めようか」
「えっと、じゃあ、それは千冬先生の好きなように……」
「………いや、君の好きなようにしろ、遠慮はいらん」
「え!? いいんすか!? ほ、ほんとうに!?」
「ああ、遠慮はいらん……だから、君の好きにするといい……」
「………わ、わかりました……じゃあ……
………とりあえず、グレープフルーツサワーとネギまと鶏皮で」
千冬に言われた金造は目についた飲み物と自分の好みの当てを注文する。
目の前に立つねじり鉢巻きが特徴的な男性が景気のいい返事と共に早速注文に応じた料理と飲み物を作っていく。
そう、ここは居酒屋。
仕事に疲れた社会人が訪れる、憩いの場の一つである。
「なんだ、君はチューハイで満足なのか? せっかくならもっと欲張ってもいいのだぞ? あ、親父、私は生と枝豆を頼む」
「いや、俺あんまり酒強いわけじゃないんで……」
「そうか、まあ、今回は助けてくれたお礼も兼ねてる、存分に飲むといい、武原」
なぜ二人がこの居酒屋にいるのか、それは今日起きた事件で自分を庇い、殴られた金造に千冬がお礼と謝罪を兼ねてここに誘ったのだ。
最初は何のつもりかと焦った金造だが、理由を聞いて少し残念だったようなありがたいような微妙な気持ちになりつつもその誘いを受けてこの場に同席したというわけだ。
ちなみに、すべて千冬の奢りである。
「…そんじゃ、お言葉に甘えますよ、千冬先生」
「おい、ここでは先生と言うのはやめろ」
「え?」
「プライベートでは仕事の関係は気にするな、気兼ねなく飲んでこそ酒はうまいというものだ」
千冬に注意された金造はなるほど、と頷きその教えを胸に叩きこんだ。
社会人として、そう言う心得も重要な場合もあるということだ…。
まだ教師として未熟な手前、こういうことを教わるのも大切なことなのだ。
そうこうしているうちに、注文したものが千冬と金造の座るカウンター席に運ばれてきた。
時間もあってか空腹の胃袋を焼き鳥の香ばしいにおいが刺激し、渇いた喉に癒しを届けるジョッキの輝きが食欲をそそる。
「来たな……それじゃあ、武原」
千冬が料理が来たのを確認すると、彼女も頼んでいたビールが注がれたジョッキを手に取り、金造に差し出す。
それが何を示すのか、金造はすぐさま理解し、自分も飲み物が注がれたジョッキを持ち上げる。
「今日は、すまなかったな……これはそのお礼だ、存分に飲んでくれ」
「……うっす……千冬さん」
「「乾杯」」
ジョッキ同士がぶつかる景気のいい音、それを合図に二人だけの飲み会が始まった…。
数時間後………。
「うぅ…ん…わたしは、よってなど~……ひっく……」
「いや、相当酔ってますから! ちょっと千冬さんしっかりしてくださいって……」
存分に飲めと言っていた千冬が逆に存分に飲んでしまい、アルコールで完全に出来上がってしまった彼女を肩に担ぎながら金造は夜の道を歩いていた。
呂律が若干まわっておらず、ふらふらな彼女を一人にするのは危ないと判断し、金造は彼女を家まで送り届けることにしたのだ。
ちなみに、彼はそれほど飲んでいないのでまだまだシラフである。
というか、彼はそれほど酒を飲む主義ではないのだ。
しかし、それに対して千冬は相当な量を飲んだためにこの状態で支えるのも一苦労だ。
結構長身な割に軽いのが唯一の救いだろうか。
「ほらしっかりしてください、次どっちですか?」
「んっ………すぅ……」
「ん? 千冬さん? 千冬さーん? ……ちょ、おい、こんな所で寝るな! こっちはあんたの体支えてんだぞ!」
立ったまま寝ようとする千冬の体を慌てて支える金造、何とか彼女を起こそうと体を支えて必死に呼びかける。
「う~……ん? なぜ武原がここに?」
「いや、あんたを家に送り届けようとしてんだよ!」
「ん? おお、そうか……なら家は、そこをまがってすぐだ……ひくっ」
酔いが完全に回っていながらも道は覚えていたらしく、若干寝ぼけ眼な千冬の指示通り、彼女が示した先には一軒の家が建っているのが見えた。
「……なら、もう少し頑張ってください、ほら立てますか?」
「ん……」
彼女に手を差し伸べ、立ち上がらせようとする金造。
千冬はまだうつろな目つきだが、その差し出された手を掴むとそれを支えに身を起こす。
しかし、一人で立つのはまだきついのかそのまま金造の方に凭れ掛かってきた。
―――ふにゅん…。
「っ!?」
その際に彼女の教員用スーツの上からでもわかる豊満な胸が彼の体に押し当てられ、金造は否が応でもその感触に驚き、僅かにたじろいでしまった。
「んぅ………もう無理……」
「い、いや、無理とかそんなんじゃなくて!! ……あぁぁぁ! もう仕方ねぇ!!」
そんな事とはつゆ知らず、駄々をこねる千冬に痺れを切らした金造は最終手段に出た。
彼女の体を支えていた腕の位置を膝の裏と肩の位置に移すと、力なく彼の体に身を任せていた千冬の体の向きを変えて、一思いに持ち上げる。
所謂、お姫様だっこだ。
家まであと少し、こうなればこのまま家まで送り届けようという算段だ。
まさかこんな状態になっていると彼女は理解していないのか、特に抵抗の意志も見せないまま彼の腕で今にも眠りそうになっている。
そして、その状態のまま金造は彼女が先程指示した家へと直行する。
距離もそんなにないし、なにより彼女自体が意外と軽いので案が宇すぐに辿り着くことが出来た。
玄関先へとたどり着いた金造はとりあえず家の人を呼ぼうと、泥酔した千冬を壁際に座らせてインターフォンを押そうとする。
だが、そこで、彼の指が止まった。
「………これは?」
インターフォンの近く、家の主を示す表札に刻まれた名前が目に入ったからだ。
そこには白地の板に、こう刻まれていた。
織斑 千冬。
織斑 一夏。
同じ名字の二人の名前が、並ぶその表札が指し示す意味を金造は理解した。
一件関係がなさそうに見えた自分が受け持つクラスの生徒、一夏、そして自分の隣に座っていた同じ教師である千冬が……。
姉弟であるということを……。
如何でしたか?
次回、千冬と一夏の関係を知った金造は……?
そして、頂点を狙う一夏にある出来事が起こる。
それではまた次回でお会いしましょう!