俺と乞食とその他諸々の日常   作:トマトルテ

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十四話:プライムマッチと日常

 なのはさん イズ ゴッド。

 

 何を言っているのかと思うかもしれないが俺にとってはなのはさんはそれ位の存在となったのだ。

 気前よく支払いをしてくれたばかりか、しっかりと返すという俺に対して笑いながら奢ると言ってくれたあの人を神と呼ばずに何と呼べばいいのか。

 流石にただというのは気が引けたので何とか半分の額を返すという契約で落ち着いたがあの時の感動は一生忘れないだろう。

 将来管理局に入ろうかと思ってきた位だ。流石はエースオブエース。

 

「なぁ……さっきから誰のサイン見とるん?」

「敬愛すべき神」

「なんで、神様がサインなんて書いとんのや」

 

 週末となりハリーとエルスのプライムマッチが開かれることとなったので観戦に向かう為の準備をしている最中にジークがいつものようにベランダから入ってくる。

 いつものことなのでもはやツッコまない。

 

「で、結局誰なん」

「高町なのはさん、お金を貸してくれた命の恩人だ」

「……もしかして、(ウチ)のせいでお金足りんの?」

「いや、お前の分は元々確保してあるから問題はない。今回は……おっぱい侍のせいだ」

 

 俺は端末を操作してあの忌々しい写真とボイスを再生する。

 これは証拠として取っているのであって、決して可愛くて捨てるのがもったいないから取っているわけではない。

 

『お支払いはお願いしますにゃん♡』

 

 再生されるミカにゃん。

 ジークはその姿に目を点にしたまま無言でそれを見続ける。

 俺も無言で見つめる。やはり、ネコは可愛―――ゲフン、ゲフン、憎たらしい。

 

「この言葉を最後に俺はなのはさんを神と崇めるようになった」

「つまり借金を背負ったわけなんやね」

「そうとも言うな」

「それにしても、ミカさんってこんなハッチャケとったんやね。なんか、意外やわ」

「俺にとってはこっちの方が普通なんだがな」

 

 若干、苦笑いをしているジークに軽く溜息を吐いて返す。

 なんであいつは俺の前では仮面を投げ捨てて自分を解放してしまうのか。

 以前の真面目で礼儀正しい性格ならこんな事で悩むこともなかったのにな。

 

「でも、ミカさんもいきなりそんなことせんと思うんやけど、リヒターがなんかしたんちゃうの?」

「……心当たりがあり過ぎて困るな」

 

 以前からのおっぱい侍と呼ぶことへの恨みなのか。

 はたまたあいつのテヘペロ写真を門下生の『ハァ…ハァ…お姉様の生写真ッ!』という女性に高額で売ろうとしていたのがバレたからなのか。

 それとも、俺達の関係を邪推する双子におっぱいだけの関係ですと冗談を言ってしまったのが不味かったのか……分からないな。

 

「なんか、碌でもないことをやってそうやね」

「そんなことは無いぞ、ジーク。俺は無実だ。だからこそ、ミカヤに復讐をする」

「さっき心当たりがあるゆーたよね? で、何する気なん?」

 

 呆れたようにこちらを見るジークに俺は大きく息を吸い込んでどこまでも真面目な表情で宣言する。

 

 

「復讐としてあのおっぱいを揉んでやる!」

 

 

「アウトやぁーーーッ!」

 

 どこからか取り出したハリセンで頭をしこたま叩かれてしまう。

 一体どこに隠し持っていたのかと問い詰めたい所だが今はそれどころではない。

 

「止めるな。俺にはもう……復讐しか残されていないんだ」

「そないなことあらへん。リヒターには(ウチ)がおる!

 ……ってなんでこんな真面目な話になっとるん!?」

「俺は至極真面目だぞ」

「ただ単にスケベえなだけやんか!」

 

 頬を赤らめたジークから再びハリセンの強烈な一撃をくらう。

 傍から見れば漫才のように見えるかもしれないが俺達は大真面目だ。

 絶対にあのたわわに実った果実を揉みしだくのだと覚悟を決める俺に、何としてでも阻止しようとするジーク。

 死闘が今始まろうとしている。

 

「なんで、おっぱいなん。他の事じゃダメなん」

「おっぱいの前では全て物は等しく無価値だ。他の物じゃダメなんだ」

「それでも(ウチ)は認めんよ。ミカさんの(・・・・)おっぱいを揉むなんておいたは許さへん」

「やはり、相容れないか……仕方ない。所詮、俺達はこれでしか分かり合えないらしい」

 

 スッと腕を差し出して構える。

 ジークも交戦の意志を受け取って構えを取る。

 肌に突き刺さるような闘気が俺に向けて発せられるが俺とておっぱい侍のおっぱいを揉むためには引くわけにはいかない。

 永遠とも思えるほどの静寂の後、俺達は同時に動き出す。

 

 

 

『じゃんけん、ぽん!』

 

 

 

 ジークがパーで俺もパー、あいこだな。

 お互いに譲れないときはいつもこれで決めている。戦闘?

 俺が勝てるわけがないだろ。仮にも相手はチャンピオンなんだぞ。

 

『あいこでしょ!』

 

 ジークがグーで俺がチョキ……俺の敗北だというのか。

 ガックリと膝をつく俺にガッツポーズを決めるジーク。

 この日俺達は間違いなく暇だった。

 

「ちくしょう…ッ! ちくしょうッ! ちくしょーーッ!!」

「そ、そない悔しがらんでもええやん。う、(ウチ)のおっぱいなら揉んでもええから」

「キャベツ食って出直して来い」

「リヒターのアホッ!」

 

 顔を真っ赤にしたジークに後ろから羽交い絞めにされて『当ててんのよ』状態にされる。

 だが、ジークのおっぱいなどおっぱい侍のおっぱいの足元にも及ばない。

 

「おっぱいがゲシュタルト崩壊してる件について」

「さりげなく俺の心が読まれていた件について」

 

 取りあえず、このままだとプライムマッチに遅れてしまうのでお遊びをやめて家から出て行く。

 そう言えば、復讐の件は前の案が却下なら何をするか。

 折角なのでジークに聞いてみるとしよう。

 

「画像と音声を知り合い全員に配信するのはどうなん?」

「流石は“黒のエレミア”。腹まで真っ黒だ」

「セクハラしよーと、しとった人には言われとうないわ」

 

 悔しいけど言い返せないの、ビクンビクン。

 

 

 

 

 

 大歓声と共にハリーが現れる。

 その人気ぶりはジークにも引けを取らないだろう。

 一方のエルスは控えめな歓声で何とも物悲しい。

 そして二人の戦いの火ぶたが今切って落とされる。

 しかし、素直すぎる性格が仇となってか開始早々にハリーが手錠と鎖に拘束されてしまう。

 

「拘束されて身動きできない不良生徒……これは薄い本が厚くなるな」

「転送と遠隔操作……上手いなぁ」

 

 その後、ハリーは自分の腕を撃つという荒業で拘束から逃れることに成功してエルスを砲撃魔法で吹き飛ばしたが、クラッシュエミュレートが発生したために目に涙を溜めてプルプルと震えている。

 

「不良が涙目で痛みを耐える姿……ギャップ萌え狙いか?」

「番長、ようけクラッシュするなぁ」

 

 二人の試合は、激しくなり俺が見た中でも一番の激戦となっていった。

 心情的には同級生であるハリーに勝って欲しいと思っていた所でエルスがカウンター気味に拘束するが、逆にハリーはそれを手繰り寄せることでエルスを引き寄せてしまった。

 

『うそぉーーーッ!?』

 

「こんな時でもツッコミを忘れないとは……やはり天才かッ!?」

「番長って毎回おもろい発想するんよね」

 

 最後は傷ついた右腕での渾身のストレートという予想外の攻撃でエルスを沈めて見事にKO勝利を納めていた。

 ……それにしてもさっきから思っていたがジークの奴は俺の話を一切聞いていないじゃないか。

 ボケがスルーされるというのがどれだけ辛い事か分かっているのか。

 ふ、いいだろう。そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ。

 

「面白い試合も見れたし、帰ってトレーニングやな」

「ジーク……愛してる」

「じゃ、帰ろ―――って、な、ななな何言っとるんッ!?」

「何だ、聞こえなかったのか。愛しているよ、ジーク」

 

 俺的に男前な顔をしてもう一度言い直してみる。

 ジークは真っ赤な顔であわあわとしながら目を白黒させている。

 ずっと無視されていた恨みはこれで晴らせた。

 

「ほ、本気で言っとるん?」

「勿論冗談だ」

「そか、ほな、これでお相子やね」

「ぐほっ! 見事な上段突きだ」

 

 冗談だけに上段で返して来るとは流石は家の乞食だ。

 ツーンとした態度で歩き去って行くジークを苦笑いで追う俺。

 しばらく歩いていると、何かを見つけたジークが急に立ち止まって振り返る。

 その顔は何かを決心したようにも、今から起こる羞恥に耐えるようにも見えた。

 

 

 

「お、お支払いはお願いしますにゃん!」

 

 

 

 恥ずかしげにモジモジしつつ猫のポーズで若干上目遣いをしておねだりをしてくるジーク。

 結論から言えば屋台のフランクフルトは俺のサイフに痛いダメージを与えたのだった。

 




タイトルの割に試合描写が圧倒的に少ない件。
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