ミッドチルダ南部、エルセア第9地区にある市立学校に俺は通っている。
この学校には結構な人数が通っていて正直同級生でも覚えていないのが結構いるのは内緒だ。
だが、そんな俺でもある程度覚えている人間はいる。
例えば、今目の前に居る赤い眼と燃えるような赤髪をポニーテールにした奴等がその筆頭だ。
未だに眠気が飛ばないが取りあえず挨拶はする。
「おっす、ハリー。それと不良ズ」
「おう、リヒター。相変わらずお前は眠そうな顔してんな」
「朝なんてこの世から消えてしまえばいいと思わないか?」
「毎朝、物騒なことばっか言ってんな、お前……」
そもそも朝なんていらない。
昼と夜だけでいいはずだ。あれ? そうなると昼が朝になってしまうのか。
……いっそ夜だけでいいかもな。
「そういうお前はいつも朝から元気だな」
「おうよ! 朝は一日の始まりだからな。シャキッとしねーとしまらねえだろ?」
「まあ、リーダーは偶に寝坊しますけど大体はリーダーの言う通りッス! 朝は一日の基本だぜ、リヒター」
「なあ、不良ってなんだっけ? こんな爽やかな連中の事を指すんだっけ。もしかして俺の辞書が間違ってる?」
ハリーの言葉に流石リーダーとばかりにサングラスことルカが頷く。
最近の不良というものはどうやら朝はしっかりと起きるらしい。
というか、不良に生活習慣を注意される俺って……まあ、別にいいか。
俺がだらけているのが悪いんじゃない。毎日朝が来るのが悪いんだ。
「そんなんだから、お前は何も考えていないって言われんだよ」
「失礼な。俺だって常に頭を働かせているぞ。今だって考えている」
「例えば、何だよ?」
「次元世界に永遠の夜をもたらす方法」
「どこの魔王だよ、お前は」
ハリーに軽く、頭を叩かれてしまう。解せない。
俺だって真剣に考えた末にこの考えに至ったというのに。まあ、至ったのは一分前だけど。
それにしても、こいつらは本当に不良なのか?
不良なら俺の野望に「それは俺の仕事だ」位の返事はして欲しい。
第一に前から思っていたがこいつらは本当に不良なのか。ちょっとばかし試してみよう。
「もし、重い物を運んでいるおばあちゃんを見かけたら?」
「荷物を持ってあげるっス」
黒髪ロングで学年でも成績上位者のミアが即答する。
前から思ってたけどなんでこんな奴がハリーをリーダーって呼んでるんだ?
ハリーよりも余程リーダーシップありそうなんだけど。
「道で迷子になっている子供を見かけたら?」
「お母さんを一緒に探すに決まってんだろ?」
さも当然とばかりに喉も悪くないのにいつもマスクを着けているリンダが答える。
不良ならそこは無視だろう。俺なら無視するぞ。
後、この前風邪ひいたときに予備のマスク貸してくれてありがとう。
「並んで歩いている時に人が前から来たら?」
「道を譲ってやるに決まってるだろ」
「お前らいい子すぎんだろ」
あれ? もしかして俺の方が汚れている? やばい、ちょっと泣きそう。
こいつら、悪いのは服装と口調だけで他は全部良い子すぎる。
番長なのに皆勤賞とか、次元世界の不良に喧嘩を売っているのか。
それとも近頃の不良は真面目に生きるのが主流になっているのか?
「大体、お前の方が変なんだよ。居眠りしてるのを起こした奴にラリアットかますとか前代未聞すぎるだろ」
「つい、昔のくせが再発してな。悪気はなかった」
「俺はどんな昔だったのか気になって仕方がねえよ……」
因みにその起こしてくれた奴というのはミアだったりする。
まさに恩を仇で返す行動にしばらく口をきいてくれなかったのは記憶に新しい。
「まあ、お前達が良い奴だというのは良く分かった。というか、お前達はなんでそんな行動と恰好しているんだ?」
「カッコイイからに決まってんだろ」
「ふっ」
「おい、今笑ったろ? 鼻で笑ったよな」
ハリーが顔に青筋を浮かべながら俺の胸ぐらを掴んでくる。
だが、その程度では俺は動揺しない。
ようやく不良らしい行動をしたことに若干の安堵を感じるほどだ。
でも、やっぱりハリーの光り輝く右腕が怖くて仕方がないです。はい。
声を大にして言いたい、暴力反対です。
「リーダー、流石に校舎の中で砲撃は不味いっスよ」
「ありがとう、ミア。愛してる」
「リーダー、全力でやっちゃってください」
「バカなッ!?」
俺の最大級の感謝の言葉はなぜかゴミでも見るような目と共に無視された。
それどころかハリーの右腕がさらに強く光り輝いている。
やばい、俺の人生ここで終わったかもしれん。
だが、こんなところで諦める俺ではなかった。
「ん? なんでこんな所にヴィクターがいるんだ?」
「ヘンテコお嬢様だとぉっ!」
「ふ、馬鹿め! そんなものは存在しないのさ!」
「ちっ、騙しやがった!」
俺は居もしないヴィクターの名前を呼び、反応したハリーが振り返った隙にその手から逃れて一直線に教室に駆けこむ。
はっはっは! 残念だったな。教室に行けば教師がいるからハリーと言えど手が出せない。
むしろ、いい子のハリーだからこそ教師の前では大人しい。
これで俺の勝ちだ!
「レッドホークッ!」
「熱っ!? ちょっと待て、焼ける! 豚の丸焼きのように焼ける!」
「火傷する程の温度は出してねえから安心しろって」
ハリーのデバイスであるチェーン型のレッドホークによって絡めとられてしまう俺。
これは俗に言う絶体絶命という状況なのではないか。
そんなことを考えながら俺は冷たい床と固い抱擁を交わす。まあ、転げているだけだがな。
「くそっ、なんて卑劣な技をっ!」
「十秒前のお前の行動を思い出しながらもう一度言ってみやがれ」
「俺は過去を振り返らない男なんだ」
「決め顔で言ってんじゃねえよ。ただの無責任じゃねえか」
そうとも言う。
でも、悲しいけどこれが現代社会のありさまなのよね。
まあ、現状においては何にも関係ないけど。
「おい、今謝ったら許してやるぜ」
「許して、ヒヤシンス」
「よし、全力でブッ潰す!」
「世界はいつだってこんなはずじゃなかったことばかりだ」
俺の必死の謝罪のかいもなくハリーから俺の死刑宣告が下される。
思わず、この前読んだ管理局員名言集の一節が出てくる。
因みに一番のお気に入りは『少し……頭冷やそうか』だ。
何はともあれ、こうなった以上はすごく良い笑顔で近づいて来るハリーをなだめるには切り札を切るしかない。
使いたくはなかったが仕方ない。行くぞ、これが俺の―――切り札だ!
「ジークのテヘペロ写真が見たくはないか?」
「マジか? 見せろよ!」
すまない、ジーク。お前には尊い犠牲になってもらうぞ。
その後、五人でジークの恥ずかしい写真を仲良く見たのだった。
流石はジーク、次元世界最強の十代女子の名前は伊達じゃなかった。
「ハクシュン! なんや? 誰か
その頃、ランニングをしているジークが大きなくしゃみをしていたのはきっと俺のせいじゃない。
でも、今度あったらおにぎりに雑草を入れるのは止めてやろうと思う。
ジークは犠牲になったのだ……そう、犠牲にな。