長月はかわいい   作:萩鷲

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『睦月型版深夜の真剣創作60分』で書いたものです。お題は『ひな祭り』。
2015年3月3日投稿。


甘酒程度の

 三月三日。桃の節句、所謂雛祭り。

 

「なあ、皐月」

「何? 長月」

「……雛祭りとは、どんちゃん騒ぎをする日だったか?」

 

 午後九時をまわった食堂は、喧騒に包まれ宴会の様相を呈していた。

 

「別に良いんじゃない、楽しければ」

「騒がしいだけだ」

「まあまあ、たまにはこういう息抜きも必要だって」

 

 そう言って、甘酒の入ったカップを呷る皐月。

 

「確かに、そうかも知れんがな……」

 

 私も同じく、甘酒に口を付ける。

 鳳翔さん謹製との事だったが、そもそも甘酒なんて殆ど飲んだ事が無いので出来が良いのかどうかは分からない。が、単純に甘くて美味しいとは思った。

 ちらし寿司にも手を付ける。ぷりぷりとした海老と、口の中で弾けるイクラの食感が面白い。

 

「……うーん」

 

 確かに、甘酒は美味しいし料理も美味しい。それだけでも、この場に居る理由としては十分かもしれない。

 だが――

 

「やっぱり居ないな、司令官」

 

 ――どこにも、司令官が見当たらない。

 その事が、私にとって一番の不満だった。

 

「あー、さっきからきょろきょろしてると思ったら、司令官の事探してたの?」

「そうだ。人が多くて判断に時間が掛かったが……居ないな、これは」

 

 司令官の服装や背丈は艦娘に混じれば浮く。しかし、それらしき影は見当たらない。

 

「うーん、執務室に居るのかな?」

「かもしれんな」

 

 そう言って私は立ち上がり、トレイを取ってきてちらし寿司と甘酒を二人分乗せる。

 

「ん、司令官のとこ?」

「ああ」

「そっか。行ってらっしゃい」

 

 皐月と簡単なやりとりをし、トレイを持って食堂を後にして執務室へ向かう。

 

「――居るか、司令官?」

 

 甘酒が溢れない様に気を遣いながら階段を昇って廊下を歩き、執務室の扉の前で呼び掛ける。

 

「うん? 長月か。入って良いぞ」

 

 一拍置いて、司令官の返事。

 

「済まないが、今手が塞がっている。開けてくれないか」

「分かった」

 

 しばらく待つと、扉が内側から開かれた。

 

「……おや。持って来てくれたのか」

「ああ。一緒に食べよう」

 

 執務室の中に入り、司令官の席の隣に置かれた椅子に座る。

 司令官が机の上の書類を片付けたのを確認し、ちらし寿司と甘酒に乗ったトレイを机上に置いた。

 

「落ち着いた頃に、貰いに行こうと思ったんだが」

「別に、こういう時くらい仕事なんて後回しにしても良いだろうに」

「そうも行かないし、そもそも僕が参加しても興醒めするだけだろう」

「そんな事は無いだろうさ」

 

 言いながら、食べ掛けのちらし寿司に手を付ける。司令官も、甘酒に口を付けていた。

 

「まあ……正直な事を言ってしまうとな。あんまり、騒ぐのは得意じゃないんだ」

「そう、か」

 

 確かに、今までも何度か宴会めいた物はあったが、司令官はずっと不参加だった。

 

「実はな、私もだ。今回は、皐月に誘われたから参加してみたが――やはりどうも、肌に合わない」

 

 つまらない、訳では無いが。

 特別楽しい訳でも無い。

 強いて言えば、疲れる。

 

「あれよりだったら、こうやって司令官と二人でいる方が良い」

「そう言って貰えるのは嬉しいね」

 

 甘酒を飲み干す。少し、頭がぼーっとして来た気がする。

 そう言えば、甘酒にも一応アルコールはあるんだったか。まあ、気にする程じゃないだろう、うん。

 

「僕も、大勢で騒ぐよりも、長月と二人一緒に居る方が良いな」

「そう……か」

 

 少し気恥ずかしくなって、顔を伏せたまま黙々とちらし寿司を口に運ぶ。

 

「そう言えば――そもそも、雛祭りとは女子の健やかな成長を祈る行事だそうだな」

 

 あえて司令官の言葉を無視し、ちらし寿司を口に運び続ける。

 

「となれば、僕は君達艦娘が健やかに成長を――いや。人類が暁の水平線に勝利を刻むその日まで、無事で居てくれることを祈ろう」

 

 そう言って、司令官は視線を私からずらす。その先には、特製の雛人形が飾られている。

 

「仮にも伝統ある行事だ。多少の御利益くらいはあるだろうさ」

 

 ――ちらし寿司を食べ終わった。顔を上げるしかない。

 顔を上げて、司令官の方を向く。

 やけに距離が近く感じた。

 

「……ええと」

 

 ――言葉に詰まる。上手く頭が回らない。

 おいおい、本当に甘酒程度で酔ってしまったのか私は?

 いやでもこれは、どちらかというと――

 ――ああ、もう。

 

「……長月?」

「眠い。膝を貸せ」

 

 司令官の椅子に私の椅子を寄せ、司令官の膝に頭を乗せた。

 

「え、え?」

「良いから貸せ。私は寝る」

 

 困惑する司令官をよそに、瞼を閉じる。

 ――司令官も、とっくにちらし寿司を平らげてしまった様だし。このままだと、戻るしか無いのだが。

 今は、一緒に居たかった。

 こんな事をしてしまうのは――多分、甘酒にやられたからだ。

 そういう事に、しておこう。

 

「……全く」

 

 司令官の、少し呆れたような声と、膝の感触。

 ――何だか、本当に、眠く、なって。

 

「――おやすみ、長月」

 

 頭を撫でられている感触を感じながら――私は、そのまま眠りに付いた。

 心地よい、眠りだった。

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