長月はかわいい   作:萩鷲

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『睦月型版深夜の真剣創作60分』で書いたものです。お題は『ホワイトデー』。
2015年3月14日投稿。


お返しの意味

「重要な任務を任せたい」

 

 いつになく真剣な面持ちで司令官に告げられ、私は身構える。

 

「……頼めるか?」

「当然だ」

 

 内容を確認するまでも無く、私は即答する。

 他ならぬ司令官が、そうまで言うのだ。断る理由はどこにも無い。

 

「ありがとう。では、着いて来てくれ」

 

 司令官は席から立ち上がり、執務室を出る。私も、その後に続く。

 しかし、一体何だろうか。大規模作戦――では無いだろう。だったら、全員に通達すべきだ。すると、私一人に任せれば済む要件なのか? それとも、内密に進める必要がある話か?

 そんな事を考えている内に司令官がある一室に入り、私も続く。

 ――うん? 待てよ? ここ、調理室だぞ?

 

「――司令官」

「何だ?」

「一応、訊いておきたいのだが――頼みとは何だ?」

「ああ、そうだな。話しておくべきか」

 

 司令官はそう言いながら、付近の椅子に掛けてあった物を手に取る。

 

「――今日は、ホワイトデーだろう? お返しのクッキーを焼くのを、手伝ってくれ」

 

 ――どう見ても、エプロンだった。

 

    ◆◆◆

 

「――司令官、焼けたぞ!」

「よし、あと少しだ!」

 

 紛らわしい言い方をした司令官の事は一発殴っておいたが、しかし引き受けた以上はしっかり全うすべきだろう。そういう訳で、私は司令官と二人でひたすらクッキーを焼いていた。一人五枚と仮定しても、うちには百では下らない数の艦娘がいる訳で――相当の数を用意する必要がある。

 

「しかし、別に手作りじゃなくても良かったんじゃないか! クッキーを焼くという行為がここまで重労働になるとは思いもしなかったぞ!」

「正直見積もりが甘かったのは認める! しかし、全て市販品で返すと手作りチョコをくれた子に申し訳ないし、かと言って手作りしてくれた相手にだけ手作りで返すというのも、些か不平等の様な気がしてな!」

「だったらせめて、間宮さんか伊良湖さん辺りを呼んだらどうだ!」

「何を言う! お返しの対象に手伝わせたら意味が無いだろう!」

「私はどうなんだ、私は!」

「長月は特別だ!」

 

 叫びあいながら、生地を作り型を抜いて並べてオーブンで焼く。その繰り返し。幾ら大人数に食事を支給する事を目的とした調理室とは言えど、数百数千ものクッキーを一度に焼けるオーブンも、そもそもそれだけの生地を一度に作れるボウルも何も無い。

 

「ああ全く、忙し過ぎるぞ! というか、何故当日に作るんだ!」

「どうせなら出来立てをとな!」

「正直馬鹿だろう、あんた!」

「すまん、否定出来る材料が無い! お菓子作りなだけに!」

「下らん事言ってないでさっさと焼くぞ! 生地が出来た!」

 

 慌ただしく調理室を駆け巡りつつも――何とか、日が落ちる前には全員分のクッキーの用意を完了する事が出来た。

 

「……はあ。疲れた」

 

 バンダナを取り、結った髪を解いて床にへたり込む。下手な出撃より疲労した気がする。

 

「しばらく、クッキーは見たくない……」

「奇遇だな、僕もだよ……こんな気持ちは、グランマ達と共に毎秒数億枚のクッキーを製造して以来だ……」

 

 司令官も、私の隣に座り込む。正直、話の内容に突っ込むだけの気力は残っていない。

 

「だが、まだ梱包作業が残っているし、そもそも渡す所まで行かなければ何の意味も無いからな……」

「それは、流石に司令官の仕事だろう。私はもう手伝わんぞ」

「ああ、勿論だ……と、そうだ」

 

 司令官は思い出した様に立ち上がって、電子レンジの横に置かれた何かの包みを手に取る。

 

「はい、長月の分」

「おお、忘れられているのかと思ったよ」

「まさか」

 

 軽く笑い合って、包みを受け取った。

 

「……開けてみても?」

「勿論」

 

 丁寧にラッピングされた包みを開き、中を確認する。

 

「これは……キャンディーか?」

「ああ。と言っても、殆どべっこう飴だがな。一応、手作りだぞ」

「ふうん……」

 

 透明な包み紙を剥がし、口に放り込む。どこか懐かしい甘さだった。

 

「まあ、正直今はクッキーを口にしたい気分では無いから、クッキーじゃないのは嬉しいんだが……何故キャンディーなんだ? 手作りするにしても、もっと楽な物があるだろうに」

「ん、それはだな……まあ、何だ」

 

 司令官は、少し照れくさそうにして――

 

「――『あなたが好きです』、と。そういう意味があるらしい。キャンディーの、お返しは」

 

 目を逸らしながら、小声で呟いた。

 

「……そ、そうか」

 

 ――こっちまで恥ずかしくなり、じっとしていられなくなって立ち上がる。

 

「で、では、私はこれで失礼する」

「あ、ああ、助かったよ」

 

 お互いにやや挙動不審になりながら、私はそそくさと調理室のドアに手を掛け――

 

「――その。私も、好きだぞ」

 

 振り返らずにそう言い残して、廊下に飛び出した。

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