2015年10月18日投稿。
――司令官が、この映像を、観ているということは。私はもう、そこにいないのだろうな。
まったく、何をやらかしたんだろうな、私は。慢心していたか、それとも純粋な力量不足か、あるいはたまたま運が悪かったか。まあ精々、若い命を散らした馬鹿な奴だと笑ってくれ。どうせ私は、もう何も言い返せん。
……さて。こうして司令官へ言葉を遺しているのは、色々と伝えておきたいことがあるからだ。最期の際に、長々と喋っている余裕はないだろうからな。
まず、一つ目。こいつが一番大事だが――
――馬鹿なことを考えるなよ、司令官。
まかり間違っても、私の後を追おうなどとは決して思うな。あんたはまだ、こっちに来なくていい。しっかりと、司令官の役割を果たし、戦いに終止符を打ち――後は、静かに暮らせ。
そうして、普通に歳を取って、普通に死んで――それからでいい、私に会いに来るのは。
二つ目だ。――司令官、自分を責めるな。
あんたのことだ、最善の策を講じ、何一つ自分に非がなかったとしても、自責の念にかられるだろう。だが、過ぎたことに囚われるな。反省は人を成長させるが、後悔は人を縛るだけだ。もし失敗があったなら、次に活かせ。聞き手もいない謝罪を繰り返されるよりなら、そちらの方がずっと良い。
次は……ええと。他には、何があるかな。
ああ、そうだ。私の後任として、別の『長月』が着任するかもしれない。今のうちに釘を刺しておくが、そいつに私の姿を重ねて、私の代わりにするようなことはするなよ。そいつにとって、私はただの他人だからな。別に、そいつをそいつ個人として愛する分には、あんたの自由だが。
……さて、そろそろ、本当に話すことがないな。どうせ最期になるのだから、言えることは言っておきたいんだが、いざ考えても思いつかん。
まあ……そうだな。あんたが今、どんな表情で、これを観ているかは分からないが――少なくとも、笑顔じゃないだろう。それは、困るな。
別に、今すぐ笑えとは言わない。だが、これを観終わって、気持ちの整理がついて、それからでも良い。――どうか、笑っていてくれ。司令官が不安げだったり、まして泣いていたりすれば、艦隊の士気にも関わる。
……後は、なんだろうな。さすがに、仕事の引き継ぎや、補償金の分配なんかは、勝手に手続きされるだろうし――まあ、そのくらいか。
それじゃあ、司令官。達者でな。
……ああ、それと。
――愛していたぞ。心からな。
◆
長月が、最後にそう呟いたと同時に、映像が途切れた。
プレイヤーのオープンボタンを押して、ディスクメディアを取り出す。表面に、手書きの文字で、『司令官へ、何かあった時の為に』と書かれている。
「……こんなもん、いつの間に用意してたんだ、あいつ」
長月の部屋の、机の中から見つかったケースに収められていたそれを、興味本位から再生してみれば――まったく、こいつは、心に来る。
「……泣いてるじゃないかよ、お前こそさ」
――長月の声は、段々と震えていって。最後の方など、目から涙がこぼれ落ちていた。あんな表情の長月なんて、滅多に見れない。勿論、見たくもない。
「……はあ」
やるせなくなって、一つため息をつき――
「――司令官、まだ終わらないのか?」
――ほぼ同時に、廊下から声がした。
「いや、もう終わるよ」
返事をして、プレイヤーから抜き取ったディスクメディアを、『不用品』と書かれた段ボール箱に放り込んだ。
「そうか。司令官の部屋は、片付け終わったぞ」
「さすが、長月だ。掃除も上手いとは」
「司令官が、掃除下手で片付け下手なだけだ。司令官の部屋に比べて、私の部屋には殆ど物なんてないのに、どこにそんなに時間がかかる」
「いやあ、ははは……」
――こいつが必要になる機会は、もう来ない。
「立つ鳥跡を濁さず、と言うだろう。掃除くらい、しっかりしろ」
「はいはい、分かってる分かってる」
長月は、今も僕の隣にいて。
戦いはもう、終わったんだから。