その鈴の音に恋をして   作:ふゆい

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 お久しぶりです。少し短め。


第十頁

 幻想郷で神社と言えば、ちょっと前までは一つしかなく、住人全員が【博麗神社】のことを指したことだろう。最近妖怪が出入りしている不気味な妖怪神社、という尾ひれも一緒にではあるが。

 そんな中、少し前に新しい神社が妖怪の山の頂上に突如として出現したらしい。「らしい」というのは、妖怪の山なんていう危険しかないような場所に足を踏み入れることなんて有り得ない訳で、たまに人里に新聞配りに来る変な鴉天狗から又聞きしたからに他ならない。僕は一身上の都合で鴉天狗なる種族が大の苦手であるけれど、あちらさんはいい気味とばかりに僕を煽りにやってくる為、嫌でも情報が入る次第である。あの腐れ根性の新聞屋はいつか巫女にとっちめてもらわないといけない。

 懐かしき入院騒動からしばらく月日が流れ、人里に穣子様の恩恵が与えられ始めた頃。僕こと桂木倉鬼はと言うと、どうしてか小鈴と共に稗田家の庭掃除をさせられていた。竹箒を片手にえっちらおっちらだだっ広い庭を駆けまわすその姿は、まさに掃除婦と言って差し支えない。いや、僕は男だからどちらかというと掃除夫か。

 

「まったく。なんで僕があっきゅん家の庭を掃除しないといけないんだか」

「文句言わないの。阿求にはいつも迷惑かけているんだからこれくらい恩返しと思って頑張らなきゃ」

「迷惑かけている自覚は僕には微塵もないのだけれど」

「タチ悪いわねー」

「ほらそこー! イチャついてないでさっさと手動かす!」

『へーい』

 

 あっきゅんの厳しい激にもへこたれずキビキビ働く僕と小鈴。僕としては小鈴と一緒に何かをしているというだけで満足ではあるけれど、それが肉体労働ともなるとさすがに報酬の一つでも欲しくなるのが道理というものだ。しかも僕はバリバリの文系であるからして、張り切って野山を駆け回るようなアグレッシブな体力は持ち合わせていないことを考慮してほしい。作業するにしても、もっとこう頭を使う文明的な仕事を所望する。

 とまぁたらたら文句を言いつつもそれなりに真面目に作業していく僕達二人。落葉した紅葉もそれなりにかき集め終え、後は火をつけ一気にファイアー。そのまま焼き芋大会に移行するというのが今回のスケジュールらしい。僕がなんだかんだ作業していた最大の理由はここにある。秋といえば食物の秋。食物の秋といえば焼き芋だと相場が決まっているからだ。しかも今回使用する芋は人里で今季初めて収穫された、言わば新芋。これで気分が高揚しないほうが嘘だというものだろう。

 

「ふふふのふ。土に塗れながら頑張った甲斐があったというものだよ……さすがに気分が高揚する」

「倉鬼ってそんなに芋好きだったっけ?」

「いや、別にそこまで。しかしだね小鈴、大切なのは僕にとってのベストが焼き芋ではないという点じゃないんだ。この際順番なんてどうでもいい。ただ、秋に焼き芋を食べるというイベント自体が僕の中で大きな地位を占めているんだよ!」

「はぁ、よくわかんない」

「キミももう少し情緒を知れば分かるさ」

 

 未だに花より団子、色気より食い気な小鈴には少し難しかったかもしれない。いや、今回だけを見れば色気より食い気は僕のほうかもしれないが、秋に焼き芋を食べられるという当たり前のようで意外と当たり前ではない状況に感謝しているということさえ伝わってくれれば問題はない。

 呆れた様子の小鈴を他所に想像以上に気分がハイになっている僕であったが、焚火のほうから飛んできたあっきゅんの声にさらなる高揚を迎える。

 

「焼き芋できたわよー」

「あっきゅんありがとう愛してる」

「あきゅっ!? き、急に何意味の分からない戯言放ってんのよこの天然半妖! こここ、小鈴もいるのに、少しは人目を気にしなさいってば……」

「普段いがみ合っている僕にまでしっかり焼き芋を分けてくれるあっきゅんは本当女神だ。大好きだよ!」

「…………」

「いたっ……痛い痛い痛い。無言でローキックは地味に痛いからやめてくれ」

「倉鬼のバカ! 芋食いすぎてお腹壊せばいいのよ!」

「そんなに食べていいのかい? いやぁ悪いなぁ」

「っ――――! こんの……朴念仁~~~っ!!」

「鳩尾ぃっ!?」

 

 唐突に怒り出したあっきゅんの鋭い右ストレートが僕の鳩尾に炸裂する! って、め、めちゃくちゃ痛い……。

 正直な話、いつかの妖怪に負わされた手傷よりもえげつない激痛が僕の全身に走っている感が否めない。お腹を押さえて地面をのたうち回る僕は文句の一つでも言ってやろうと思うものの、あっきゅんの妖怪すら動けなくなるであろう冷徹な視線を真正面から受けて口を噤むしかなかった。あれは、一言でも放てば、殺される。

 助けを求めて隣の小鈴に目をやると、呆れたような怒ったような、様々な感情が綯い交ぜになったよく分からない表情で僕を見下ろしていた。

 

「な、なんだい……?」

「……別に。ただ、なーんか今の倉鬼が気に食わなかっただけー」

「ぐはぁっ!?」

 

 なんでもない一言ではあるが、確実に僕の精神にヘヴィなダメージを与えてくるあたり小鈴は凄い。ずっとあっきゅんの傍にいたからか、最近の()撃力の高さには目を見張るものがある。できれば覚醒してほしくない能力ではあったけれど。

 既に味方は一人もいないことを察した僕は寂しくも立ち上がると、いつの間にかあっきゅんに握らされていた焼き芋を片手に溜息を一つ。この場にパチェがいなくて良かった。これ以上の攻撃は僕の精神衛生上よろしくない。輝夜は……あれはあれで面白がって傍観者気取りそうだからやっぱりいなくていい。敵と中立が増えても何の解決にもならないのである。

 とまぁ色々あったけれど、ようやく念願の焼き芋タイムである。既に香ばしい秋の匂いがムンムンと僕の鼻腔を刺激している。二つに割ると姿を現したのは黄金色の果肉。もうこれは、完璧に美味しいことを自ら主張しているじゃないか。思わず涎が垂れそうになるのをグッと堪えて大地の恵みに感謝。穣子様には感謝してもし足りない。

 ……よし、準備は整った。ごくんと一つ生唾を呑み込むと、目の前で黄金の光を放つ財宝をゆっくりと口の中へと誘い――――

 

「見つけましたよ桂木! いざ、必殺神風人攫い!」

「へ?」

 

 凄く腹立たしい声が聞こえたかと思うと、先ほどまで足の下にしっかり存在した大地の感触が覚束ないものになったことに気付く。視界に広がっていた世界も、愛しい小鈴とあっきゅんがいたはずが、いつの間にか豆粒ほどに小さくなっている稗田家の屋敷と人里の一望。おかしいな。地面にいたら確実にあり得ない光景に素っ頓狂な声をあげてしまう。

 嫌な予感に冷や汗が止まらない僕はとりあえず現状確認のために視線を背後に動かす。何者かに俵のように担がれているということだけは感覚で理解したから、犯人だけでも把握しておこうと思ったのだ。まぁ、だいたい見当はついているけれど。 

 ふわりと鼻を擽る黒い翼。白基調の服に紅葉を凝らしたデザインの服を身に纏い、一本下駄をアレンジした靴を履いたそのくそったれな存在に、身に覚えがありすぎた。

 そして何より、僕は気づいた。気付いてしまった。

 さっきまで手に持っていた物。何よりも楽しみにしていた大地の恵み。黄金に輝く財宝。

 

 それが、ない。

 

 おそらくは飛翔した勢いで手から離れてしまったのだろう。もしかしたらこのクサレ妖怪のことだから、それも狙ってあえてあのタイミングで僕を攫った可能性もある。というか、たぶんその説が濃厚だ。

 すべてを理解した僕にできることはただ一つ。腹いっぱいに息を吸い込むと、無性に腹立たしい鼻歌を鳴らす鴉に向けて盛大に叫んだ。

 

「しゃ、め、い、ま、るぅうううううう!! きっさまぁあああああああ!!」

「どうも! 今日も元気に清く正しい新聞記者、射命丸文です!」

「今更名乗りなんていらないんだよ焼き芋返せぇええええ!!」

「あやや。これは失敬。でもそれは無理な相談というか……それより、少し騒がしいのでちょっと手を放しますね」

「はっ?」

 

 とんでもないセリフを耳にした気がするのは気のせいか?

 瞬間、全身を襲う疾走感と落下感。

 

「おまっ、ちょっ……クソガラスぅううううう!!」

「はっはっは! 鴉天狗に逆らう恐ろしさを身に染みて知りなさい!」

「いいから助けろこの鳥頭ぁああああ!!」

「はいはい。仕方ないですねぇ」

 

 こいつは、後で、絶対に殺す。

 なんとかキャッチしてもらい一命を取り留めた僕は、史上最高レベルの怒りをもってそう決心した。

 

 

 

 

 

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