その鈴の音に恋をして   作:ふゆい

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 お久しぶりです。


第十二頁

 今日も今日とて鈴奈庵。いつものように小鈴に会いに足を運んだ僕はというと、彼女が淹れてくれた紅茶を片手に新聞を読むという優雅なひとときを送っているところだ。これが天狗が書いたものだというのが少々気に食わないものの、シチュエーションとしてはなんら問題はない。

 

「倉鬼、お菓子はいる? 最近魔理沙さんから美味しいクッキーを貰ったんだけど」

「ありがとう、じゃあ貰おうかな」

「うん、準備してくるから少し待っててね」

 

 そう言って笑顔を浮かべると、軽やかな足取りで裏に引っ込んでいく小鈴。なんだか昔に比べて少々優しくなっている気がする。無縁塚での一件以来、どことなく僕に対して過保護な面が見え始めている小鈴であるが、僕としては嬉しいやら寂しいやら。妖怪……ではなく半妖の僕が人間の小鈴に心配されているという状況場結構情けなかったりするところではあった。

 自分の不甲斐なさに溜息を零す。僕がもっと強ければこんなことにもならないのだろうが……華麗に彼女を守り通して惚れ直してもらうには、ちょっとばかし力量が足りないらしい。

 

「能力も三倍速が精一杯だし、少しは修行でもした方がいいのかね……」

「あら、殊勝な心掛けじゃない。昼行燈の貴女でも少しはそういうのに興味が出てきたのかしら?」

「その辛辣具合はあっきゅんだな。相も変わらず一言目から毒が強いねこんにちは」

「えっと、その……修行とかなら美鈴が打ってつけだから、ウチに泊まり込みとかはどう……?」

「……うん?」

 

 いつも通りの溜息具合なあっきゅんはさておくとして、明らかにこの場に似つかわしくない声がしたような気がする。具体的には年がら年中図書館に引きこもってそうな、そんな陰気な雰囲気が。

 慌てて視線を声の方に移す。口元を「へ」の字に不機嫌そうに腕を組んでいるあっきゅんは一旦スルーしておくものの、その隣で少し居心地悪そうに視線を泳がせているモヤシっ子はもしかしなくても……、

 

「あれ、こんなところに来るなんて珍しいじゃないかパチェ」

「え、えぇ……少しヤボ用でね……」

「しかもあっきゅんと一緒なんてどうしたんだい? 紅魔館は稗田家に弱みでも握られたのかな?」

「おい」

 

 ブーツで脛をがしがし蹴るのはやめてほしいよあっきゅん。

 ところでパチェである。魔女であり紅魔図書館の管理者である彼女が人里に来るのは珍しい。それに、見る限りだとお付きの小悪魔や美鈴もいないようだ。ここまで一人で来たという事実も結構驚くべきことではある。外見自体は人間と変わらないから悪目立ちはしないだろうが……いや、服装自体は結構浮くか。

 隣のあっきゅんがこれでもかってくらいに和服だから、パチェが対象的だ。それに、胸も凹凸が二人でそれぞれ違うんで一粒で二度美味しい。ふむ、眼福。

 

「何を考えているかは知らないけれど、気に食わないから蹴っ飛ばすわね」

「理不尽がすぎる。助けてパチェ、この見かけによらず暴力的な文学少女に虐められちゃう」

「……変態」

「ジト目で言い放つのは必要以上に傷つくからできれば勘弁してほしいかな?」

 

 温度差のありすぎる文系少女達から罵声と暴力を浴びせられてしまい僕の立場が危うい。このままでは鈴奈庵的ヒエラルキーの最下層に蹴り落されてしまいそうだ。元々最底辺だろというツッコミは心の中に留めておいていただきたい。

 僕が理不尽な境遇に咽び泣いている辺りでクッキーを持った小鈴が戻ってくる。が、おそらくは見覚えのないであろうパチェを見かけると少々驚いたように目を丸くした。

 

「いらっしゃい阿求。えっと、そちらの方はお客様ですか?」

「……えぇ、本を借りたくてね。ここには珍しいものが置いてあるって聞いたものだから」

「なるほど、そういうことであれば是非ご覧ください! 普段ではお目にかかれない外来本なども多数取り揃えておりますよ! 倉鬼の知り合いって言うことであれば少しくらいはサービスするので、よろしくお願いします!」

「えぇ、ありがとう」

 

 客と分かるやセールスモードにシフトチェンジする小鈴にも驚くが、軽く微笑みつつ大人な対応をするパチェも見慣れなさすぎる。そういえば二人は初対面であったか、魔女であることも知らないようなので、特段不思議な対応でもないのだろう。

 正体を一応言っておくべきなのだろうか。ちらとあっきゅんに視線をやると首を左右に肩を竦めていらっしゃる。「やめておけ」と言うことらしい。確かに、僕や慧音さんみたいな人里に馴染んでいる半妖ならいざ知らず、吸血鬼の館の魔女とかいう見えている地雷を公にする必要もないだろう。人間側に属している小鈴を無暗にこちら側へ引き込むこともあるまい。

 それはそれとして、何故かニコニコ笑顔のままパチェに話しかけ始めるあっきゅん。こないだの永遠亭では仲が悪そうに見えたが、同じ引きこもり系美少女としてやはり通ずるものがあるのだろうか。見た目は可愛い女の子たちに囲まれながら茶菓子を嗜むなんて、滅茶苦茶贅沢なことをしている気分だ。

 あっきゅんは軽く小首を傾げつつ、気品に満ちた笑顔を浮かべ――

 

「そちらの図書館で見つからないなんて、ご自慢の蔵書も大したことないんですねぇ?」

 

 開口一番に途轍もない喧嘩を吹っ掛け始めていた。

 

「……あら、そんな下品ないちゃもんをつけてくるなんて、稗田家当主も存外下賤なのかしら?」

「いえいえ、貴女ほどでは。いつもはこんなところに来ることはない癖に、どうして倉鬼がいる日に限って鈴奈庵に来店したのかなぁ、不思議だなぁとか思ったりもしていないですし、こんな普通の本が置いてあるだけの店よりもそちらの不思議な(・・・・)本で事足りているんではないですか?」

「ウチの本だと効果が出なかったから、こうして外来本を求めて来ていることは先ほど説明したと思うのだけれど、完全記憶能力というのは飾りということでよろしいわね?」

「…………ふふふ」

「…………おほほ」

 

 なんだこの冷え切った空気は。

 二人とも上品を装って笑い合ってはいるものお、目が完全に据わりきっているので冷や汗が止まらない。外見的には非力そうなのも相まってか、真ん中に挟まれている僕へのプレッシャーが尋常ではなかった。これは下手に口を出そうものなら絶対に痛い目を見るやつだ、僕は経験則から知っているんだ。

 

「あの二人、仲良いのねぇ。倉鬼と阿求の知り合いなんでしょ? 私にも紹介してよ」

「……それはいいんだけど、頼むから小鈴だけは向こう側には行かないでくれ」

「はぁ? 何の話しているのさ」

「こっちの話です」

 

 事情を何一つ知らない小鈴からしてみればそら意味不明ではあるだろう。というより、あの二人がなんで喧嘩しているのか僕ですら分からない始末だし。ほんとキミらどうしてそんなに仲が悪いのかね。

 しばらくいがみ合っていた二人を茶菓子でなんとか諫めつつ、ひとまずは卓を囲むことにした。隣に小鈴、向かい側にあっきゅんとパチェの座席順である。珍しくも小鈴が僕の隣を譲ろうとしなかったから人知れず浮かれているところだ。えへへ、嬉しいねぇ。

 

「えっと、本居小鈴って言います。鈴奈庵の娘で、阿求や倉鬼とは幼馴染です」

「パチュリー・ノーレッジよ。倉鬼とは……まぁ、腐れ縁みたいなものかしらね」

「そんな寂しいこと言わないでくれよパチェ、いつもお茶を淹れてもらう仲じゃないか」

「貴方が無理やり押し入っているだけでしょうが……嫌では、ないけど」

「あ、えっと、もしかして……倉鬼と深い仲だったり、するんですか……?」

「む、むきゅ!? あ、いや、別にそんなことは! そんな風であればいいなぁとか思うけれど全然迷惑だし馬鹿だしあぁでもそういうわけでは」

「落ち着けパチェ。それと勘違いしないでね小鈴。僕とパチェはただの友達だから」

「そ、そうなんだ……」

 

 何やら滅茶苦茶な誤解をしかけていた小鈴を慌てて説き伏せる。危ない……まさかこんな方向から僕の恋路が終焉を迎えかけるとは思わなかった。パチェにも迷惑だろうし、変な認識が定着する前に対処しておかないと。

 僕の言葉になんとか落ち着いてくれたらしい小鈴。どこか安堵した表情をしている気がするが、どうしたのだろうか。まぁ、僕が考えたところで乙女の思考回路なんてわかるはずがないので、ひとまずは置いておく。

 

「ほら、混乱していないで探しに来た本の種類とかでも聞いたらどうなんですか」

「むきゅっ!? あ、そ、そうね……」

 

 未だに顔を真っ赤にしてぶつぶつ呪文を唱え続けているパチェの後頭部に手刀をぶち込むあっきゅん。毎回思うがあの子も結構過激な部分があるよなぁとはここ数年。本人に言うと何をされるか分かったものではないから言わないけれど。

 紅茶をぐいと煽りようやく落ち着いたらしい。何度かの深呼吸の後、何故か少々頬を染めながらちらちらとこちらに視線を送ってくる。どうしたんだろう。僕が二枚目すぎて目が離せないのだろうか。

 

「勘違い乙」

「蹴りながら言うんじゃないよ」

 

 あっきゅんのブーツ攻撃は結構痛いということをそろそろ学んでほしい。

 もじもじと中々言い出さないパチェに助け舟を出す意図もあってか、小鈴が口を開く。

 

「ウチの品揃えはそこまで良くはないかもしれないですけど、お力にはなれると思いますよ。外来本は幻想郷にはない知識の宝庫ですし」

「え、えぇ……ありがとう」

「いえ、ある程度は取り寄せとか、探したりとかもできるかもしれないので」

 

 小鈴の言葉にパチェも表情を綻ばせる。相手が誰であっても「本」のことであればこうして分け隔てなく対応できるのは小鈴の強い部分だ。パチェのことを「妖怪」だと思っていないからというのはあるだろうが、こういったところに自分も助けられているところはある。やっぱり好きだなぁ。

 パチェもようやく落ち着いてきたらしい。多少視線を泳がせつつではあるが、求めている書物を口にする気になったようだ。

 さてさて、紅魔館の蔵書をもってしても足りないという本はいったい何なのか……。

 

「い、異性の心を射止める技法書、みたいなのを探しているのだけれど……」

「……はい?」

「はぁ!?」

 

 恥ずかしそうに漏らすパチェ。

 笑顔のまま固まってしまう小鈴。

 目を見開きながら立ち上がるあっきゅん。

 三者三様の反応を目にしつつ、僕はというと誰も手をつけようとしない抹茶クッキーに舌鼓を打つのだった。

 

 




 東方ロストワードのおかげでようやく続きが書けそうです。
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