その鈴の音に恋をして   作:ふゆい

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 お久しぶりです。ようやく色々とひと段落したので更新です。お待たせいたしました。


第三頁

 幻想郷に住んでいる人妖の中で、【紅魔館】と言われてピンとこない人はおそらくは外来人くらいのものだろう。年がら年中霧に包まれた湖、そのほとりにでんと佇む真紅の館。建造した人は精神でも病んでいたのかと心配になるカラーリングをお持ちの西洋風の館が、その紅魔館とやらである。

 純日本系文化が主流の幻想郷に置いて、唯一と言っていい欧州文化の総本山。明らかに周囲とは浮いているその館を見上げながら、僕はぽつりとこんなことを呟いてみる。

 

「趣味わっる」

「それお嬢様の前で言ったら失血死不可避なんで絶対に言わない方が良いですよ」

「おや紅さん。今日も門番に精が出ますね」

「精も何もこれが仕事ですから。倉鬼さんもお変わりないようで何よりです」

「まぁ一応、無病息災だけが取り柄の半妖ですので」

 

 明らかに失言を漏らした僕をやんわりと諫めつつも、そのまま会話を続けてくれる中華風の衣装に身を包んだ長身の女性。名をば、紅美鈴となむ言いける。

 僕より頭一つ高いイケメェンな背丈と、武闘派らしく引き締まった肉体。そして常に絶えないニコニコとした美しい笑顔。幻想郷イケメンランキングを集計すればおそらくはぶっちぎりでトップを飾るであろう彼女は、ここ紅魔館における門番の役職を務めている。能力は【気を使う程度の能力】……とまぁ、色々と拡大解釈ができそうなふわっとした能力だ。先程僕と繰り広げていたふわふわ感まっしぐらな会話からも察してほしい。とにかく、常に当たり障りのないいたって良心的な妖怪だと言っておこう。

 紅さんは相も変わらず暇そうに門柱に身体を預けていたが、僕が門を潜ろうとすると不意に視線を遮るように目の前に佇む。

 

「はて、門前払いを喰らう覚えは無いのですが」

「そんなことしませんよ。せっかくなので館までご一緒させてくださいな」

「門番が門を離れるとは、業務放棄でしょっぴかれるのでは?」

「どーせ最初からガバガバな警備体制ですから、今更どーってことないですよ」

「十六夜さんから怒られても僕のせいにしないでくださいね」

「それは私の命運次第ってやつです」

「すっごく心配だ」

 

 飄々とした態度でのらりくらりと言葉を交わす僕と紅さん。この会話をせっかちな博麗御大辺りが聞けば「いいからさっさと必要最低限の話題だけ言いなさいよ!」とブチぎれること請け合いなのだが、そこは基本的にのらのらとした僕達である。無駄な会話こそ人生のスパイスであり、単刀直入なんてのはそれこそ人生の半分は損していると胸を張って言えよう。なお、本人に言うのはおそらく弾幕ぶつけられるので控えておく。博麗の巫女は怖いのだ。

 門から館まではそれなりに距離があり、その間には紅さんが世話をしているらしい花畑が並ぶ。相変わらず器用な人だ、と感心せざるを得ない。

 

「もっと褒めてもいいんですよ。えっへん」

「そう言われると褒めたくなくなるのが人間の性ですが、ここは大人しく賞賛の言葉を向けておきましょう。よっ、紅さん凄い! 流石! カッコイイ!」

「やーやー、それほどでもありますかね? ありますかね??」

「うっわ今ちょっとイラッとしましたよ僕」

「いやー、やっぱりできる女は違いますよねぇ」

「なんか調子に乗り始めた」

「何やってんのよ貴方達……」

「あ、噂をしてはいないけれど十六夜さん」

「何よその面倒くさい枕は」

 

 そんなくだらないやりとりをしている間にどうやら館についていたらしい。中から僕が来るのを窺っていたのか、既に扉を開けて待機していたらしいメイド服姿の女性。そこそこ若く、そこそこにも見えるが、以前年齢を聞いたところ無数のナイフで半殺しにされかけたので詳細は不明だ。人間の女怖い、とは同じく一緒にいた新聞屋な天狗の言葉である。あの時の射命丸さんは天狗とは思えない程に真っ青な顔をしていた。いやぁ懐かしい。

 

「いつの話をしているのよ倉鬼」

「いつの話でしたっけねぇ。ところで実際は二十歳の程を越えて――――」

「あら、前も言わなかったかしら? レディに対して年齢と化粧の話はご法度だって♪」

「すっかり忘れてはいなかったけれども、貴女の恐ろしさは身に染みて思い出しました十六夜さん」

「次言ったら問答無用でお嬢様のディナーに出すわよ」

「素直に怖い」

 

 瞬きすら許さない速度で喉元につきつけられたナイフに問答無用で本能が悲鳴を上げている。やはり余計なことは言うものではなかった、と何度目になるか分からない後悔。でもたぶん僕が彼女に対してこの絡みをやめることはおそらくはないだろう。人間弄れるところはどれだけの命の危機に瀕しても弄るものである。好奇心とはあな恐ろしや。

 相変わらず色々と人間離れした彼女のポテンシャルに恐怖すら覚えるが、僕は知っている。彼女が実は無類の小動物好きで、夜な夜なコレクションしたアルバムを眺めていることを。まさにギャップ萌えとはこのことよ、と言わんばかりの落差だが、そんなだから嫁の貰い手が見つからないんだとは声を大にして――――

 

「そんなだから嫁の貰い手が見つからないんですよ」

「もう許さないここで姿造りにしてやる!」

「さ、咲夜さん落ち着いて! いくら相手が倉鬼さんでも、さすがに殺しちゃうのはマズイですよ~!」

「えぇい離しなさい美鈴! この馬鹿は一刻も早く幻想郷から消滅させないと色々と危険なのよ! 主に妙齢少女の立場的な意味で!」

「自分で妙齢とか言ってたら世話ないですね」

「コロス!」

「倉鬼さんもいちいち煽らないでくださいー!」

 

 ギャースカ目を三角にしてナイフを片手に狂人化している十六夜さんと、彼女を必死に止める紅さん。普段は居眠りしまくる紅さんを十六夜さんが叱る光景ばかり見ているからか、こうして立場が逆になっているのを目の当たりにするのは新鮮味を感じる。小鈴とあっきゅんもたまにこういう感じの光景に発展したりはするが、ここまで激しい感じにはならない。体力的に。

 さてさて。本来ならここで従者二人組としばらく井戸端会議とでもしゃれ込んでもいいのだが、今回は残念ながら図書館に用事を持つ身だ。ここで無駄に体力を消費して読書中に寝てしまうのもよろしくない。ここは紅さんに任せて、半妖はさっさと屋敷の中にお邪魔させてもらうとしよう。

 

「紅さん。あでゅー」

「もぉ早く行って下さ~い!」

「待ちなさい倉鬼! せめて貴方の喉笛をかっ裂いて声帯を潰すまでは行かせないわよ!」

「端から端まで淑女っぽさの無い発言は本当に怖いからやめてほしい」

 

 この人本当に人間なのかたまにすっごく心配になる。吸血鬼になりましたとか告白されても微塵も違和感ないぞ。

 とにもかくにも、ドタバタ騒ぎに興じている二人に手を振り、心の中で紅さんに十字を切って冥福を祈りつつ、僕はふっかふかの赤絨毯に足を埋めながら目的の図書館へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

 

「というわけでやってきました紅魔館内設図書館。いやー今日も今日とてどこか暗い雰囲気の絶えないスポットですね。それではまずはこの図書館の館長であるパチュリー=ノータイムさんにお話を伺いましょう。今日はよろしくお願いします」

「パチュリー=ノーレッジよ。人の名前を忙しない雰囲気に変貌させないでちょうだい」

「うん、相変わらずキレッキレだねパチュリー」

「誰よこのバカ入れた奴は……咲夜仕事しなさいよ……」

 

 顔を合わせるや否やゴミを見るかのような表情を向けてきた魔女にカウンターを喰らわせるのは桂木倉鬼の嗜みだ。やられっぱなしは性に合わない。

 ナイトキャップを被った全身紫色のこの少女。筋肉なんて微塵もないような体型しているくせに、胸だけは無駄に実っている変則的もやしっ子。名前はパチュリー=ノーレッジ。この図書館の主、と言うべき立場の魔女だ。性格的とか雰囲気という意味ではなく、正真正銘の魔女。白黒の魔法使いとは根本的な部分で違うが、説明が難しいのでとりあえず魔女だという事だけ覚えておいてもらいたい。

 パチュリーは心底気怠そうな表情で僕を睨むと、図書館の扉を指で示した。

 

「帰れ」

「図書館利用者に対して随分な物の言い方だな」

「私はこの図書館を一般開放した覚えはないわ」

「まぁまぁそんなに言うなよパチュリー。僕と君の仲だろ?」

「他人ですが何か?」

「普通に傷つく」

 

 眉一つ動かさない真顔で淡々と言うのは心にクるから是非とも勘弁してほしい。

 あからさまに不機嫌さをアピールしてくる引き篭もり系魔女からの視線をスルーしつつも、図書館の隅にある彼女の生活スペースに向かう。ベッドやら簡易キッチンやら食器棚が並ぶそこは図書館に本来あってはならない空間なのだが、無駄な移動を嫌うパチュリーが我儘を言って設置したのだ。出不精もそこまでいくとプロフェッショナルと言わざるを得ない。

 食器棚からティーカップを2セット取りながら、彼女に声をかける。

 

「レモンティーとミルクティー、どっちがいい?」

「……ミルクティー」

「あいあい」

「ミルク多めの砂糖マシマシ。それ以上は認めないわよ」

「分かってますよっと」

 

 ぶすっと不貞腐れた様子ながらも注文だけはしてくるのだから可愛らしい。というか、ここまで僕に好き勝手させときながらも最終的に追い出さない辺り、優しいよなぁとわりに思う。普段から小鈴に振り回されているせいか、パチュリーが相手だとつい振り回したくなるのだ。あまり周りにいないタイプだからだろうか。

 彼女の注文通りに作ったミルクティーを持ってテーブルへと向かう。ここの書物はパチュリーの魔法によってコーティングされているので、飲食をしても問題はない。魔法ってのはつくづく便利だ。

 

「ほいさ」

「…………小悪魔が淹れた方が美味しい」

「従者と比べるなよ」

「でもこっちの方が私の好みね。美味しすぎないって感じ」

「好きなのか嫌いなのか微妙だね」

「アンタのことは嫌いよ。うるさいし」

「そりゃどーも。僕はパチュリーのこと割と好きだけど」

「ふん……」

 

 ぷいっとそっぽを向いてカップを傾けるパチュリー。心なしか顔が赤らんでいるのは照れているからだろうか。相手が友人と言えど、こういうことを言われるのはやはり恥ずかしいらしい。魔女なんて百戦錬磨だろうに……初々しいやつだ。

 

(そういうところがずるいのよ……)

「ボソボソ何言ってんだよ」

「茶菓子が足りないわ。お茶を用意したならお菓子も用意するのが礼儀ってものでしょう?」

「客人にどこまで用意させるつもりだい?」

「勝手知ったる人の図書館で今更何言ってんの。いいから早く持ってきなさい。その間に何冊か見繕ってあげるから」

「お、それは願ってもない」

「なーにが願ってもないよ。毎度の事でしょーが。何が嬉しくて他人の恋愛指南書を私が探さないといけないのか……」

「恩に着ますぜパチュリー様」

「うっさい」

 

 ぴしゃっと言い放つとハンドサインで急かされる。本来部外者の僕にあちこち探らせていいのかと思わないでもないが、もう数年来の仲である。今更感は推して知るべし。腐れ縁とは斯くあるべきか。

 よいしょと年寄り臭い掛け声とともに腰を上げる。確か食器棚の引き出しに以前マーガトロイドさんから貰ったクッキーがあったはずだ。ミルクティーとかいう優雅な飲み物にはうってつけだろう。多少喉は乾くが、まぁ文句は言われまい。

 一応確認だけはしておこうと、彼女に視線を向ける。

 

「なぁパチュリー。お菓子はクッキーでも……」

「…………」

 

 何故かじぃっと僕の方を見つめていた。

 

「……パチュリー? 何見てるんだい?」

「なんでもないわよ」

 

 そう言い残すと重い腰を上げてすたすたと本棚の方へと歩いて行ってしまう。なんだったのだろうか。もしかしたら先程の十六夜さんとのドタバタで傷の一つでもついていたのかもしれない。だとしたらこれは恥ずかしい事態だ。身だしなみに疎い男は好かれない、と以前読んだ恋愛指南書にも書いてあったし。これは気を付けておかないと。

 とりあえず明日から手鏡を持ち歩くようにしよう、とどことなく思春期の少女染みた決意を新たに胸に秘める僕。女々しさフルスロットルだなと我ながら若干ヒいた。またあっきゅんの笑いの種になってしまうこと請け合いだが、小鈴に好かれるためには仕方がない。多少の犠牲は覚悟しておかないと、人生はそうそう甘いものではないのだから。

 そんなことを考えていると、背後からパタパタと足音が聞こえてきた。どうやら見繕い終えたらしい。コホンとわざとらしい咳込みも聞こえてくる。これはいけない。急いでお菓子を用意しよう。

 何やら視線を感じながらも、僕はキッチンにクッキーを取りに行った。

 

 

 ちなみに恋愛指南書の効果は、未だに出ていない。

 

 

 

 

 

 

 




 ヒロインが出ない謎。
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