IS―再生の在り方   作:時語り

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VSセシリア

 

 

イチカがクラス代表に就任した二日後の放課後。

約束通り、同じクラス代表の立場の簪を除く友人メンバーでの訓練を行う事となった。

当然だが、アリーナ内には他の生徒達も訓練に来ており、周囲の視線はおのずとイチカへ集まる。

主に訓練の内容ではなく、イチカの体つきに目を奪われて。

 

「何、あの腕の引き締まった筋肉。あんな腕に抱かれたい」

「腹筋も割れてるよ」

「足腰もしっかり鍛えてある感じだし」

「筋肉ハアハア」

『……いい』

 

制服の上からでは分からなかったイチカの体格に、ほとんどの生徒達が見蕩れる。

一部おかしな生徒もいるが。

イチカの周辺でも、本音が腹筋を指で突き、力を込めた二の腕をシャルロットが触れている。

 

「相変わらず兄様の体は凄いな」

「まだまだ、父さんには及ばないけどな」

「イチカ、ラカンさんは体格からして規格外のチートだから」

 

周囲の視線を気にせず交わしていた会話を終え、イチカ、マドカ、シャルロットがISを展開すると、周囲の生徒達がざわめく。

 

「あれが、白き翼が開発した第三世代のプロトタイプ?」

 

展開された四種類の機体を前に、生徒達はジロジロと機体を眺める。

さすがに束作とも、第四世代とも公表できないので、そういう形で学園にはデータを提出した。

白き翼での極秘訓練で既に一次移行も済んでおり、外見は受け取った時のままだが、内側はより操縦者に適応している。

 

「全身装甲なんて珍しいね」

「何あの猫耳、萌える」

 

聞こえる声の一部にシャルロットは若干恥しくなる。

一応、センサー類の機器が内蔵されているようなので、この猫耳は外せない。

 

「うぅ……。機体名に合わせただけかもしれないけど、どうして猫耳型なのさ……」

「可愛いからいいじゃん、シャルルン」

 

本音の癒しトークのお陰で、シャルロットは落ち着きを取り戻す。

全員が近接用武器を持ち、訓練を開始しようとすると。

 

「あら、ヴァンデンバーグさんにラカンさんに布仏さんじゃありませんか」

「あ、セシリン」

 

つい先ほどアリーナに入ってきた、マドカ達と同じ一組の金髪縦ロールの少女――セシリア・オルコットが話しかけてきた。

 

「ということは、そちらの男性が――」

「私の兄様だ!」

 

少女が言い切る前にマドカが前に進み出て胸を張って宣言する。

張って揺れるほど胸が無いのはご愛嬌だ。

喋っているのを遮られたセシリアは咳払いをして、改めて喋りだす。

 

「こほん。確かに藤島さんと似てますね、さすがは双子。でも見たところ、実力も品格もさほどではなさそうですわね」

 

この発言に、イチカを除く三人から僅かに殺気が漏れる。

 

「大体、絶対防御のあるISで全身装甲だなんて、ナンセンスにも程がありますわ。それとも、攻撃を受けるのが怖いのですか?」

 

なおも続く非難の言葉に殺気が段々と大きくなる。

周りはそれに気付いたのか、ゆっくりと距離を取っている。

特に非難を気にしていないイチカは、そっとセシリアの無事を祈った。

 

「まぁ、そもそも? そんな顔に傷のある男性なんて、碌な事をしな――」

「ねぇ、オルコットさん」

 

今度はシャルロットが言葉を遮る。

 

「あぁもう、なんです――」

 

ようやく喋るのを止めたセシリアの目に映ったのは、殺気丸出しのシャルロットだった。

 

「そんなに言うならさ、イチカと模擬戦したら? 許可は僕が取ってくるからさ」

「ひっ!? ひぃっ!?」

 

全く笑っていない目つきで笑うシャルロットに、セシリアは恐怖を感じて後ずさる。

そこでようやく、マドカ、本音からの殺気にも気付く。

 

「じゃあイチカ、ちょっと行ってくるね」

 

有無を言わさず模擬戦に持ち込むつもりか、シャルロットは足早に教員の下へ向かう。

 

「兄様、頑張ってください」

「軽く叩きのめしてやってねぇ」

 

応援をするマドカと本音だが、発している殺気はより鋭くなっている。

 

「さぁって、戦闘でのデータを取る準備しなくちゃ」

 

既に戦闘をやる前提で準備を進めている本音。

周囲の生徒達は殺気に押されながらも、イチカの戦いが見られると興味津々。

やがて許可が出たのか、アリーナ内に模擬戦のアナウンスが流れる。

 

『これよりセシリア・オルコットとイチカ・ラカンの模擬戦を行います。アリーナ内にいる生徒は、速やかにビットへ退避してください』

 

アナウンスに従い、イチカとセシリアを残してアリーナ内には誰もいなくなる。

未だに戸惑っているセシリアに対して、イチカは半分諦めたかのように準備運動をする。

 

「おぉい、オルコットさん? IS展開しなくていいの?」

「へっ? えっ、あっ、も、勿論しますわ。あなたに格の違いを見せて差し上げますわ!」

 

ようやく気持ちが落ち着いたセシリアがISを展開する。

青一色に染められた機体、ブルーティアーズ。

イギリスの開発した第三世代機で、中遠距離戦闘を得意としている。

 

「逃げるなら今のうちですわよ」

「冗談。そっくりそのまま返すよ」

 

赤き翼のメンバーとの修行や、実戦を経験してきたイチカは相手の戦闘に関する目利きができる。

イチカの目からすれば、セシリアは実戦経験皆無の、単なる訓練学校での成績優秀者。

いかに軍事に関する学校を主席で卒業しても、実戦は違う。

相手を撃つ覚悟と、銃を撃つという意味の理解が、セシリアからは欠片も感じられない。

まるでシューティングゲームでもやるかのような態度をとっている。

撃たれても、絶対防御で死ぬ事は無いという前提の下で鍛えたからこその態度だ。

 

少なからず実家の裏家業に関わり、修行を重ね実戦を経験している簪。

その専属付き人で護衛として、共に訓練を積んでいる本音。

亡国機業で強制的ながらも訓練と実戦を経験していたマドカ。

ガトウに引き取られてから共に研鑽を積み、絶対防御無しでの戦いを理解し経験しているシャルロット。

 

彼女達に比べれば、セシリアは胸焼けするほど甘い事この上ない。

 

『試合開始』

 

試合開始の合図と同時にセシリアは銃を構え、BT兵器を機動させる。

空中に僅かに浮いたセシリアの周囲を四機のビットが飛翔し、銃口をイチカに向ける。

 

「さぁ、踊りなさ――きゃあぁぁぁっ!?」

 

格好付けて決め台詞を吐こうとしたセシリアだが、それは言い切る前に悲鳴に変わった。

セシリアの胸元に先行放電が走った次の瞬間、向けられたイチカの右手から発せられた雷がセシリアとビットを襲ったからだ。

 

「試合開始、ってアナウンスされたんだぞ。そうやって格好つけるのは、相手に隙を作ってからにしなよ」

 

次いで左手を前に出すと、放出した雷が四機のビットに命中。

高圧電流を二回受けたビットは内部がショートし、火花を散らしながら落下していく。

 

「そ、そんな、これはっ!?」

「そっちがビットを使うように、こっちは放電が使えるんだよ」

 

あまりに突発的な出来事に状況が飲み込めないセシリアに、あえてイチカは説明する。

説明したところで、雷を防ぐのは容易ではないからだ。

防御体勢を取っていればダメージを軽減できたかもしれないが、まともに浴びたブルーティアーズのダメージは大きい。

 

「ほ、放電だなんて、どう防げと」

「先行放電はあるから、それを察知すれば反応はできるよ」

(あとは放電回数を削るとか、距離を取って威力を分散させるとか)

 

対応策を心の中で呟き、今度は雷を全身に纏う。

本来ならパイロット保護の為に絶対防御が発動するが、全身装甲型でその装甲から放電しているので、絶対防御は発動しない。

 

「……を掴め、……を掴め」

 

何かを呟くと、アリーナ内にいる全員の視界からイチカは音も無く消えた。

そして金属がぶつかり合う激しい音が聞こえたと思ったら、雷を纏ったイチカがセシリアに体当たりしていた。

体当たりによるダメージと、接触時に受けた雷による感電。

この二つのダメージを受けたセシリアは後方に吹っ飛び、放物線を描きながら落下して地面へ叩きつけられる。

 

「そん……な……」

 

信じられないものを見ているような表情のセシリアへ、一歩一歩近づくイチカ。

顔だけを上げたセシリアは、その姿に恐怖を覚える。

全身に雷を迸らせながら向けてくる視線に、寒気と吐き気を感じる。

ビットは全て落とされ、銃は体当たりの際に遠くへ落としてしまった。

まだ隠し玉のミサイルが二門と近接武器はあるが、それどころではなかった。

 

「ひ……」

 

実戦を経験しているイチカが放つ空気の前に、セシリアは動けなかった。

 

「どうした? もう終わりか?」

 

直前まで歩み寄り、圧倒的な雰囲気を纏って見下げる。

ここでようやくセシリアは理解した。

自分とイチカの間には、いかんともし難い壁があることを。

そして自身はその壁にすら手が届いていないことも。

この距離でミサイルを撃っても、彼は事も無く対処するだろうと察する。

近接戦などもってのほかだとも。

 

「ま、参り……ました……」

 

ガタガタと震えながら、呆気なく降参を口にするセシリア。

それをアリーナの機械が捉え、ブザーが鳴る。

 

『セシリア・オルコット降参。勝者、イチカ・ラカン』

 

アナウンスと同時に響き渡る歓声と黄色い悲鳴、そして拍手。

中には男のイチカが圧勝した事に呆然とする女生徒もいる。

 

「兄様、さすがです!」

「やっぱり放電って厄介だね」

「うん、しっかりデータは取れたよぉ」

 

マドカ、シャルロット、本音が次々にイチカの下へ向かうため、バリアの解除されたビットを飛び出す。

この時には既にイチカの雰囲気は戦闘前の状態に戻っており、鋭さの欠片も無い。

あまりの変わりぶりに、未だに座り込んでいるセシリアは目を丸くしている。

 

「あ、あの……」

 

ISを待機状態に戻し、ようやく立ち上がってイチカに声を掛ける。

 

「何?」

「えっと、その……。先ほどの態度と発言は、大変失礼致しました」

 

本能的にイチカを上位者に感じ、早口で謝罪の言葉を告げると、そそくさと退散した。

その態度に首を傾げつつも、イチカはビットから飛び出してきたマドカ達の下へ向かった。

 

「……」

 

足早にイチカの下を離れ、ロッカールームへ駆け込んだセシリア。

乱暴に扉を閉めると、部屋の隅の壁に寄りかかってズルズルと体を下ろす。

やがてしりもちをつくように座り込むと、先ほどの戦いを思い起こす。

放電に関しては頭の片隅に追いやり、脳裏には最後の光景が繰り返し浮かぶ。

電撃付きの体当たりを浴びた後、自分を見下ろすイチカの姿。

 

「ふっ、うぅ……」

 

一瞬過呼吸になりかけたが、辛うじて持ちこたえる。

あの時にセシリアが感じたのは、絶対的な力の差の恐怖。

もしもあのまま続けていれば、どうなっていたのだろうかと考え、頭を振って考えては駄目だと言い聞かせる。

それでも浮かぶ、手も足も出ずに蹂躙され、ボロボロになって地に叩きつけられる姿。

何度頭を振って霧散させようとしてもそれは蘇り、セシリアの心を支配する。

 

(こわ……い……)

 

彼女の父親はいつも母親の機嫌を取って、頭を下げてばかりだった。

そんな父親に母親も呆れていた。

だからセシリアにとって男とは大した価値の無い弱い存在だった。

両親が列車事故で死んだ時に一緒にいた理由は分からない。

それでも、セシリアは家を守るために強くあろうと思った。

情けない父親のような男には負けない、圧倒的に強い存在である女の自分がやるんだと。

ところがそれは打ち砕かれた。

見下していた男という存在に何も出来ず、恐怖を感じている。

感じ取った力の差は、一生かけても辿り着けそうにない。

弱い存在だったはずの男にそれを感じ、初めて実感する本当の恐怖。

セシリアは訓練を終えた生徒に声を掛けられるまで、部屋の隅で小さくなって震えていた。

 

一方でイチカ達は時間いっぱいまで訓練をし、下校するために廊下を移動していた。

その道中、前からメガネを掛けた教師だが教師らしくない雰囲気の女性に出会った。

 

「あっ、山田先生」

 

女性に気付いたシャルロットの声に、山田と呼ばれた教師は反応し振り向く。

 

「ヴァンデンバーグさん。それにラカンさんと布仏さんも。訓練の帰りですか?」

「はい。兄様、こちらは私達の副担任の山田真耶先生です」

 

初対面だろうとマドカが紹介するが、実はイチカは真耶と面識があった。

 

「うん、知ってるよ。俺の特別入試の際の実技試験担当だったから」

 

それを伝えると、真耶はどこか罰が悪そうな表情になる。

というのも、実技試験の内容が内容だったからだ。

一人で試験を受けに来たイチカは、筆記試験後に実技試験に挑んだ。

試験用のアリーナ内で、共にアリアドネーを纏ったイチカと真耶が対峙。

開始のブザーと同時に両者が揃って飛び出し接近。

双方とも近接武器を展開していたので、そのまま接近戦かと誰もが思っていた。

寸でのところでイチカが方向転換し、真耶の突撃を回避しなければ。

実は真耶は、これが初の実技担当の試験官だった。

初めての実技試験官としての相手が、話題の男性IS操縦者の一人という事でテンパッていた真耶は、オーバースピードしてそのまま壁に突っ込んでしまった。

 

『あぶろぽあぁっ!?』

 

その衝撃でシールドエネルギーが大きく削られ、衝撃で目を回してフラフラ浮遊しているうちに近接武器で数回切られて試験は終わった。

 

「……あの後、どうでしたか?」

「……他の試験官の先生方にものっそい怒られて、もうしばらく試験官は筆記だけだと言われました」

 

その時の事を思い出し、悲しい表情をする真耶。

話を聞いたイチカを除く一同は、内容が内容なのでフォローのしようがなかった。

 

「普段の実技授業では問題ないんでしょう? どうか頑張ってください」

「うぅ……。ありがとうございます」

 

涙目になりかけていた真耶は肩を落として去ろうとする。

 

「あっ、そうだ。ヴァンデンバーグさん、ラカンさん、布仏さん」

 

何かを思い出した真耶はハンカチで目元を拭いながら、自分のクラスの生徒三人に伝達事項を伝える。

 

「先ほどオルコットさんからクラス代表辞退の申し入れがありました」

「えっ? 何でですか?」

「なんでも、自分の小ささを思い知りました。一からやり直したいので、今回は辞退させていただきます。と、織斑先生に申し出たそうです」

 

それを聞いて、全員に心当たりがあるので苦笑いを浮かべる。

どう考えても原因は、先ほどの模擬戦にあると。

 

「元々オルコットさんは自推だったので、受理されました。よって代表決定戦は無しになって、一組の代表は藤島君に――どうかしましたか?」

 

説明中にイチカ達が微妙な表情をしていたので、どうしたのか尋ねる真耶。

返答に困ったイチカ達は、正直にアリーナでの模擬戦の事を喋った。

データ解析用に取っておいた映像を、本音のノートPCで再生させながら。

戦いの様子を見た真耶はすぐに納得した。

 

「こここ、こんな風に負けたら誰でも落ち込みますよ!」

「ですよね」

「第一、何ですかこの瞬間移動っぽいのは! 放電はともかく、瞬時加速でもない、この瞬間移動は何ですか!」

 

よほど気になるのか、瞬間移動を強調している。

体を揺らしながら詰め寄るので、顔に似合わない大きさの女性特有の箇所が揺れる。

ついそっちに目が行ってしまったイチカは、背後のマドカに抓られ、右からシャルロットに足を踏まれ、左から本音の肘鉄を脇腹に浴びた。

 

「お前らな……」

 

脇腹を押さえ、片足立ちしながら抓られた箇所の痛みに耐えるイチカ。

攻撃を浴びせた四人は軽く睨みながら、口々に文句を告げる。

 

「兄様が悪い!」

「イチカのエッチ……」

「エロイッチー」

 

それを聞いて、何故イチカが攻撃を受けたのか理解した真耶。

恥ずかしくなった彼女は、これ以上戦闘については言及せずに走り去ってしまった。

オーバースピードで曲がり角を曲がれず、壁に激突しながら。

 

「あぷろぽあぁっ!?」

「あっ、なんかデジャヴ」

 

 

おまけ

 

生徒会室にて、生徒会長である刀奈は近々行われるクラス代表戦の概要を纏めていた。

 

「ねぇねぇ、虚ちゃん。クラス対抗戦、今年からこんな風にやるから」

 

上機嫌に、纏めた概要の原案を虚の使っているパソコンへ転送する。

それを見た虚は驚いた。

 

「こ、こんな内容を急に言われても、手続きや関係各所への連絡が」

「既に根回し済みよ。去年から動いて、各方面や先生方からも承諾を得ているわ」

 

承諾を得た書類を見せながら、満面の笑みを見える。

普段からそれくらい熱心に仕事をしてください、という虚の愚痴は聞き流して。

 

「という事で、説明会よろしくね。会場は押さえてあるから」

「はぁっ!? 発案者はお嬢様なんですから、説明もお嬢様がやってくださいよ!」

「説明会の日は頭痛になる予定だから」

 

視線を外してサボる気満々の予定を口にすると、虚の中で何かが切れた。

 

「そうですか、えぇそうですか」

「……虚ちゃん? 何、その巨大なトンカチは。どこから出したの?」

「説明会の日とは言わず、いますぐ頭痛にしてあげますよ。物理的に」

 

刀奈でさえ怯む威圧感を発しながらトンカチを構える虚に、思わず逃げ腰になる。

 

「やめて、頭痛どころじゃないから! 頭がトマト的になるから!」

「ご安心を、骨はちゃんと拾ってあげますから」

「いやあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

悲鳴を上げた刀奈は一目散に逃げ出した。

当然、虚も後を追うために走り出す。

巨大トンカチを担いだまま。

その光景に周囲の生徒達は避けるしかなく、先生方が止めるまで追いかけっこは続いた。

これが後に語り継がれる、生徒会会計ご乱心事件である。

 

 

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