IS―再生の在り方   作:時語り

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クラス代表戦説明会

 

間もなくIS学園最初のイベントである、一年生によるクラス代表戦の日がやって来る。

それに先立ち、新しいルールを説明する為に説明会が行われることになった。

説明会当日の放課後、一年生の各クラス代表が会場である生徒会室に集められた。

 

「よっ、簪、鈴」

 

先に到着していたイチカが、日直の仕事で少し遅れた鈴と簪に声をかける。

 

「お待たせ」

「セーフ! まだ始まってなかった」

 

急いで席に着く二人をイチカは温かい目で見るが、冬也は遅れたからだろうか、見下した視線を送る。

 

「全員集まりましたね。では、これより説明を始めます」

 

進行役を勤める虚が資料を配り、説明会は始まった。

この場にいるのは生徒会役員三人、そしてクラス代表六人。

 

生徒会長である刀奈は、余裕の表情で椅子に座っている。

会計の虚は進行役のためか、資料を手に起立している。

いつの間に生徒会に入ったのか、書記の本音は早くも船を漕ぎ始めている。

気付いたイチカは、目にも止まらぬ速さでポケットの中の飴を本音の僅かに空いた口へ放る。

眠りかけていた本音は急に飴が口に入ったので、驚いて目を覚ました。

簪はそんなやり取りの一部始終を見て、本音に溜め息を吐く。

 

「まず、試合形式ですが。これまで通り、総当たり戦で行います。ですが、日程に変化が生じます」

 

モニターを表示させ、映像を使っての説明が始まると、全員が注目する。

 

「これまでは全十五試合を複数のアリーナで同時進行にて進めてきましたが、今回より一箇所のアリーナにて行います」

 

この説明に鈴が挙手して質問する。

 

「それだと一日でやるのは難しくありませんか?」

「その通りです。なので、一日三試合の五日間で行います」

 

質問に対する返答に、クラス代表六人の表情が変わる。

一日三試合ということは、出場選手が戦うのは一日一試合のみということになる。

 

「これは更識会長の発案であり、既に学園長や理事長を含む教職員全員より賛同の声を頂いています」

 

理由としては、出場選手の体調管理と機体の整備にある。

前回までのルールでは、出場選手は一日で五試合を消化しなくてはならない。

当然、試合を重ねるたびに疲労は蓄積していく。

そうなれば、絶対防御で命の危険は無いものの、体調不良に陥ったり怪我をしたりする可能性は高い。

事実、大会後半に体調不良や怪我を訴えたり、大会の翌日に体調を崩したりという報告は少なくない。

加えて、使用する機体の方の負荷も相当なものとなる。

いかに専用機を使ったとしても、一日で五試合もぶっ続けで戦い続けるのは厳しい。

学園に配備されている量産型ISの数も限られているため、試合の度に取り替える訳にはいかない。

学園側にとっては、生徒にISの実習をさせるための教材でもあるのだ。

ISの調整には整備科の生徒も手伝うが、所詮は本職ではない学生。

おまけに整備のできる教職員の数も限られている。

なので、試合の合間にできる整備に限界がある上、学生ゆえに見落としがあるかもしれない。

万が一にも、そんな状態で試合を行うなど言語道断。

それで出場選手に何かあったら、生徒を預かっている学園側の責任問題になるだけでない。

整備した生徒の心と、機体に乗っていた生徒の体に深い傷を負わせかねない。

 

「これらの点から、生徒の健康と機体の保持、双方の安全面から会長の案が採用されました」

 

説明を聞いた六人は納得した表情をする。

安全面もそうだが、一日一試合だけなら初日以降は相手の偵察ができる。

そうなればより高度な戦いが可能となり、試合そのものも盛り上がる。

虚もその点を説明し、これを観戦する生徒達の教材にするつもりだと伝える。

 

「観戦した生徒には、試合に関するレポートを提出してもらいます」

 

レポートの狙いとしては、どこに目を向けて観戦しているか。

選手の試合での戦術、ISの能力、前の試合と比べての状態の良し悪しを見極める。

そういった観点は、一年生にとって今後の進路の参考として使える。

既に進みたい科に進んでいる上級生は、試合の動きから何を学び取れるか。

整備科の生徒なら整備の状態、開発科なら装備やシステム。

それらに対するレポートがあれば、今後の教材や指導に利用できる。

 

「要するに、今回の試合を教材としても利用するんですね」

 

イチカの指摘に、虚が表情を僅かに曇らせる。

 

「さすがに五日間もかけて開催するとなると、何かしら学習要素が欲しいと学園長に言われたので」

 

五日間を全て試合と観戦に使うのは、教育の場としては抵抗がある。

授業に使える日数を削る分、何かしらの学習要素を欲するのは当然の対応だろう。

 

「そういう訳で、皆さん。クラス代表に恥じない戦いで頂点を目指してください」

 

虚が締めようとしていると、冬也が鼻で笑った。

 

「違いますよ、先輩。頂点に立つのは、お、れ、で、す、よ」

 

親指で自分を指し、挑発するような言い方がほぼ全員の癪に障る。

特に五組と六組の代表からは睨まれている。

だが、あくまで冬也は余裕そうにして、先日渡された待機状態の専用機をチラつかせる。

白き翼とは別のIS開発企業、倉持技研が開発した最新の第三世代のプロトタイプを。

この機体は日本政府と藤島家から倉持へ依頼し、提供してもらったそうだ。

腕輪のような状態で手首にある白いそれに、専用機が無い五組と六組の代表は奥歯を噛む。

 

「はいはい、そこまで。場外乱闘は無しよ。決着は試合でつけなさい」

 

騒動に発展しそうなので刀奈が機先を制して止める。

間に生徒会長が割って入ったので、どちらも大人しくなる。

 

「それじゃあ皆、試合を楽しみにしているからね。解散!」

 

解散の声を聞くと冬也はさっさと部屋を出て行く。

その背中を忌々しそうに睨む五組と六組の代表は声を張り上げる。

 

「なんだ、あいつのあの言葉と態度は」

 

怒り心頭な五組代表、台湾代表候補生の弐は閉められた扉を未だに睨んでいる。

 

「……許すまじ」

 

椅子に座ったまま、無表情ながら静かに闘志を燃やす六組代表、ブラジル代表候補生のココネ。

様子を見ていたイチカは、原因の関係者として二人に頭を下げた。

 

「ごめんな、元身内が失礼な事を言って」

 

悪いのは向こうなのだから、別に謝らなくてもいいのにと鈴と簪は思った。

勿論、その点は弐とココネも理解している。

 

「別にラカンは悪くない。お前は何も悪い事はしていないだろ」

「そう。悪いのは言った本人。だから責任も本人に取ってもらう」

 

ココネはそう言うが、冬也は自ら責任を取ろうとはしない。

寧ろ、自分は無関係というスタンスを貫いて責任逃れをする。

それを一番理解しているイチカと鈴が説明すると、ココネは首を横に振る。

 

「違う、そういう意味じゃない。今度のクラス代表戦で全敗させて、屈辱を味わわせる」

 

拳を握り締めてそう言うと、イチカと鈴も納得した。

頂点に立つどころか最下位に叩き落せば、とても言い訳はできない。

なにせ今度の大会の形式では、学園の生徒と職員全員が一つのアリーナに集まって見ているのだから。

 

「でもどうやって? 打倒バカ冬也のために一緒に訓練するわけにもいかないでしょ?」

 

鈴の指摘にココネと弐が黙る。

手の内を見せたくないので一緒に訓練はできないが、それはあくまで生徒の自主性。

一緒に訓練してもルール違反ではないし、何も問題にはならない。

だが、同じクラスの生徒の目もあるので、やはり一緒の訓練は難しい。

本人達はよくとも、クラスメイトがどう思うかは別だからだ。

 

「ならこうしよう。あいつの性格と提出された機体のデータから、攻撃パターンを推測して戦略を立てるんだ」

 

イチカが提案したのは情報共有による作戦会議。

一緒に訓練するのが難しいなら、話し合いをしようという訳だ。

屁理屈っぽいが、クラス代表になったイチカと簪と鈴が休み時間に喋っていても、誰も文句を言ったことがない。

 

「それよ! じゃあ早速やりましょう、すぐにやりましょう。場所はどうする?」

「私の部屋でやろう。同室の谷本さんはこっち側(反冬也派)の人だから大丈夫」

「じゃあ全員で簪の部屋に集合。冬也を叩きのめす作戦会議だ!」

『おぅっ!』

 

声を揃えて返事をすると、六人は足早に部屋を出て行った。

残された刀奈と虚は、寝ぼけ眼の本音を起こしながら今の一部始終について喋る。

 

「いいんですか、お嬢様」

「いいんじゃない? 別にルール違反じゃないし、倫理的にもモラル的にも問題無いし」

 

そう言い残して刀奈は、楽しそうな表情で扇子を広げて扇ぐ。

バレてどうなっても知らないと心で呟いた虚は、再び夢の世界に行きそうだった本音を叩き起こし、生徒会の仕事を始めた。

 

そして時間はあっという間に経ち、遂にクラス対抗戦の日がやってきた。

レポートを提出するため、アリーナに向かう生徒はメモ用の手帳やノート、ノートPCを手にしている。

全生徒が一箇所のアリーナに集中する為、座席は教職員により決められた場所にクラス毎で分けられている。

 

『織斑先生、一組の全員出席を確認しましたわ』

 

クラス代表代理のセシリアが出席を確認し、千冬に通信を飛ばす。

セシリアはイチカに負けた日以来おとなしくなり、先日の非礼をクラスメイトに謝罪した。

幸いにも受け入れられ、どうにかクラス内でも孤立せずに済んだらしい。

そのセシリアからの連絡を受け、司令室にいる千冬は新たな指示を出す。

 

「了解した。真耶も司令室の担当になってしまったから、そちらは頼んだぞ」

『わかりましたわ』

 

簡潔な通信を終えると、今日の対戦組み合わせに目を向ける。

 

第一試合

 

一組代表 藤島冬也 機体:白式

      VS

二組代表 凰鈴音 機体:甲龍

 

 

第二試合

 

三組代表 イチカ・ラカン 機体:雷天大荘

      VS

四組代表 更識簪 機体:アリアドネーブラストカスタム

 

 

第三試合

 

五組代表 林(りん)弐 機体:アリアドネー

      VS

六組代表 ココネ・ファティマ・ローザ 機体:ラファール・リヴァイヴ

 

初日の今日は単純にクラス順での組み合わせ。

だが、そのお陰で初日の初戦から何かが起きそうだ。

何せ冬也と鈴の間には浅からぬ因縁がある。

 

「何の因果かな、この組み合わせは……」

「どうかしましたか? 織斑先生」

 

千冬と同じく司令室での仕事を割り当てられた真耶が尋ねる。

 

「ん? あぁ、この初戦の組み合わせがな……」

「藤島君と凰さんですね。仲が良くないと噂を聞きましたけど、どうなんですか?」

 

実のところ、千冬はそれを身を持って経験している。

小学生時代の二人は何かにつけて争ったため、数回学校に呼び出された。

先に仕掛けたのは冬也の方なのだが、当人はけしかけただけのため注意を受けるのみ。

一度鈴の両親とも話し合い、どうにかしようともしたが無駄に終わった。

千冬は申し訳ないと鈴に謝ったこともあった。

当人は、自分が負けなければ関係ないからと笑っていた。

その際に恨みを込めながら、庭先でクンフーをしていたが。

 

「面倒ごとが起きなければいいがな」

 

ポツリと呟いた言葉が、千冬の予想とは違う形で実現されるとは、この時はまだ誰も知らなかった。

 

 

おまけ

 

学園上空にて、アリーナの様子を見ている一体のISがいた。

未だ報告例の無い、搭乗者がいない無人型のその機体は、何をするでもなく空中で停止している。

 

「ふっふっふっ。カメラは良好! これでいっくんの晴れ姿はバッチリだね」

「束様、録画準備も完了です」

 

無人型ISを開発し、クラス代表戦を機体のカメラから覗く二人の女性。

満足そうに映像を眺めている束。

映像を録画する準備の為にカーソルを叩いていたクロエ。

二人はイチカのクラス代表戦での勇姿を見ようと、無人機を使って上空から試合を覗き見しようとしていた。

 

「束さんのゲットした情報だと、今日のいっくんは二番目の試合だよ」

「他の試合はどうします?」

「そうだねぇ……。最初の試合も一応しておいて。ツインニャールがあいつをボッコボコにしていたら、おやつの時間にポテチ食べながら大笑いしてやるから。してなかったら即刻消去ね」

 

ツインニャールとは、束が認識した鈴の呼び方だ。

束曰く、ツインテールと猫っぽさを合わせて呼んでいるそうな。

 

「承知しました」

 

束の指示に従い、クロエは録画の準備をする。

その際、ほんの一瞬だが画面がブレた。

 

「ん?」

 

それに気付き、気になったクロエはすぐさまウィルスチェックとシステムチェックをする。

束が開発した二つのソフトによるチェックをしたが、結果は問題無し。

ならば、機器の劣化だろうと判断したクロエは、後で詳しく確認しておくことにした。

今からチェックしていたら、イチカの試合が録画できないからだ。

この判断が、後に大事を引き起こすとも知らずに。

 

 

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