IS―再生の在り方   作:時語り

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乱入

遂に始まったクラス対抗戦。

栄えある初日の初戦を飾るのは、一組代表の冬也と二組代表の鈴。

新聞部や放送部にて行われているトトカルチョでは、九割が鈴に食券を賭けている。

やはり、国家代表候補生という肩書きが大きいのだろう。

倍率も鈴の方が優勢な数字になっている。

 

「ていうか、トトカルチョなんてやってんのね。しかも食券って」

 

初めてトトカルチョの存在を知った鈴は、若干肩の力が抜けた。

浅からぬ因縁の相手ということで気合いが入っていたが、ちょっと入りすぎていた。

試合前に会いに行ったイチカ達は力を抜かそうと、トトカルチョの事を話した。

知らぬ所で賭け食券が行われていると知った鈴は、狙い通り呆れて力が抜けていた。

何でもIS学園では、こうしたトトカルチョが当たり前のように行われているらしい。

現金によるものではないので教師達も黙認しているそうだ。

それどころか参加する教師までいる始末。

今回のクラス代表戦では、優勝者予想と試合毎の勝敗が賭けの対象となっている。

 

「ともかく鈴サン! 食べ放題券目指して頑張ってくだサイ!」

「まっ、やるだけやってみるわ」

 

応援のためにこっそり来たティナの言葉に頷き、控え室からビットへと向かう。

整備科の学生と教員のいるビット内へ入ると、専用機を起動させる。

中国が開発した最新の機体、甲龍を身に纏い射出台に乗る。

射出台の最終チェックも終わると、チェックをした整備科の学生と教師は退室。

一人きりになった鈴は、射出台の先のアリーナ内を見据えて出番を待つ。

そのアリーナでは、実況を勤める薫子がマイクを手に会場を盛り上げていた。

 

『お待たせ致しました! ではこれより、本日の第一試合を開始します!』

 

ようやくの試合開始に待ちわびた観客は盛り上がる。

 

『第一試合のカードは、世界初の男性操縦者が一人、藤島冬也君と中国代表候補生の凰鈴音さん。双方とも専用機持ちという事もあり、激戦が期待されております!』

 

アリーナから聞こえる薫子の声を聞きながら、鈴は前日に立てた冬也対策を思い出す。

冬也に与えられたのは、千冬が使っていた暮桜を模して製作された機体、その名を白式。

提出されたスペックデータによれば、高機動型の近接戦タイプ。

というより、武器が雪片弐型という剣一本しかない。

その理由は暮桜にもあった強力な単一能力。

勝敗の分かれ目となるシールドエネルギーを攻撃に転換し、相手のシールドエネルギーを大幅に削る能力。

 

『零落白夜』

 

本来は単一能力は第二形態でかつ、搭乗者とISの相性が最高に達した時に発現する。

それでも発現しない方が多いのだが、白式は第一形態からそれが使える。

ベースとなった暮桜もそうだったので、そのまま受け継がれているのだろうと思われる。

容量を大きく使うため、他の武器を登録できないという欠点まで引き継いで。

これに対し、イチカ達が立てた対策は。

 

『対策はある。IS本体に当てさせないことだ』

 

そう言ってイチカは過去のモング・ロッソの映像を映す。

当時の千冬と対戦相手の試合が行われており、千冬は「零落白夜」を発動させている。

激しい猛攻を相手は必死で凌ごうとするが、遂には耐えられなくなり敗北した。

それを巻き戻し、ある部分をスロー再生させる。

 

『ここを見てくれ。相手が防御しているときのシールドエネルギーの残量値』

 

激しい猛攻なので常に減っているように見えるが、スロー再生するとそうでないのが分かる。

 

『ふむ。本体に当たった時は激減しているが、剣で防御した時は減っていないな』

 

気付いた点を弐が指摘する。

確かに数少ない防御成功時は、シールドエネルギーが全く削れていない。

 

『要はシールドエネルギーで守る必要が無い物。本体と繋がっていない武器や盾で防御すれば、「零落白夜」は不発に終わるんだ』

 

実際は不発に終わるどころか、無駄にシールドエネルギーを消耗している。

シールドエネルギーを攻撃力に転換しているのが、完全に裏目に出ている形だ。

それでもブリュンヒルデの名を得たのだから、千冬の能力の高さが余計に分かる。

 

『それにこれ、雪片の刀身部分を当てないと効果は発揮されないみたいね』

『なら、注意すべき点は一つ。刀身部分の動きを見極めることだね』

 

簪の言葉に全員で頷いた辺りで、アリーナから歓声が上がり冬也の紹介アナウンスが流れる。

続いては鈴が射出される番。

司令室からの合図に合わせて射出台が起動、鈴は勢いよくアリーナへ飛び出した。

 

『さぁ、続いての登場は二組のクラス代表、中国代表候補生の凰鈴音さんです! その愛くるしい外見と鋭いツッコミで、早くもにゃんこ鈴(りん)という愛称で二組の人気者です!』

 

この説明に呼応するように、一年二組応援団からにゃんこ鈴コールが響く。

全員が猫耳を付け、肉球まである猫の手を模した手袋、頬には猫髭まで書き込んでいる。

 

「だあぁぁぁぁぁっ! やめてやめてやめてっ! ていうか、公衆の面前でにゃんこ鈴って言うなぁっ!」

 

クラスの応援団を指差し文句を言うが、猫が威嚇する姿と重なると他のクラスも納得する。

確かにあれは猫っぽいと。

こうして計らずもにゃんこ鈴という愛称は、学園公認の愛称となった。

恥ずかしがっている本人によって。

 

「くうぅぅ……ホント、言い出したのは誰よ」

 

文句を言いながら飛行して、先に射出されていた冬也と対峙する。

 

「それが甲龍か。悪いけど、そいつのデータは全部ここに入ってるよ」

 

上から目線で頭を指差す冬也。

気にせず双天牙月という青龍刀を一本取り出した鈴は、試合開始前に集中を高める。

得意気に甲龍のデータを喋る冬也の言葉は全て聞き流し、試合に備える。

相手に恨みはあるが、それとこれとは別。

性格はともかく才能は本物なので、油断はできない。

 

『それでは、第一試合! レディー……ファイト!』

 

試合開始の合図とブザーが鳴ると同時に、冬也は零落白夜を発動させ、雪片を振り上げながら全速力で接近する。

 

「くらえぇぇぇっ!」

 

それを目の当たりにした鈴は、呆れた表情をして待ち構える。

ギリギリまで引き付け、振り下ろされた雪片の刀身部分に当たらないよう、右手の剣で受け流しながら背後に回り込み、左手の掌で背中を叩いた。

 

「はいぃぃっ!」

 

威力を受け流され、さらに背中を押された冬也は壁に一直線に向かう。

 

「なんだとっ!? くそっ!」

 

辛うじて壁ギリギリで制止し、壁沿いに上昇しながら鈴の方を向く。

その表情は避けた上に壁にぶつけようとしたので、逆恨みでもするように睨んでいる。

 

(思いっきり、イチカの予想通りの動きだったわね……)

 

睨んでくる眼光をスルーして、事前に聞いていたイチカの予想を思い出す。

 

『あいつの行動理念の根本は目立つ事にある。だから、国家代表候補生の鈴相手でも真っ先に突っ込んで、速攻で決めようとするはずだ。格好良く見せるためにな』

 

本当に試合開始と同時に突っ込んできたので、鈴は呆れてものも言えなかった。

格上相手に速攻を仕掛けて自分のペースに引きずり込む、という戦略自体は悪くない。

だが、それはあくまで主導権を得るための手段。

初手から決めに行くための手段ではない。

特に冬也の白式は近接武器しかないので、初手から決めに行くというのは無謀に近い。

相手が白式の事を全く調べていないならまだしも、そんな可能性は極めて低い。

戦う相手の事を調べるのは戦術、戦略においての基本なのだから。

国家代表候補生の鈴が、そこを怠るはずが無い。

 

(あいつ、私の事どこまで馬鹿にしてんのよ)

 

下調べもしない怠け者扱いされた気分になった鈴に怒りが湧いてくる。

同時に、これまでの冬也に対する個人的な怒りもふつふつと溢れ出る。

 

「……やってやる」

 

左手にも双天牙月の一振りを手にすると、構えをとって冬也を睨む。

見た目は怒りに燃えているが、頭の中は冷静そのもの。

感情に流されるようでは、国家代表候補生にはなれない。

 

「いけっ!」

 

掛け声と共に両肩部に装備されている武器を使う。

空間に圧力をかけて砲身を作りだし、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲、龍咆。

砲弾も砲身も目に見えないので、回避するのは困難だ。

しかし、放たれた龍咆を冬也は軽く回避した。

 

「なんだ、こんなもの!」

 

続けて放たれる龍咆を避けると、冬也の表情に余裕が戻る。

 

(馬鹿め、目線で撃つ場所が丸分かりだ)

 

冬也は鈴が向ける目線から、撃つ方向を読んで回避していた。

それが罠とも知らず。

 

「これでっ!」

「そんなもの当たら――づあぁぁぁっ!?」

 

視線を読んで回避できるはずの攻撃が直撃し、壁に叩きつけられた。

というのも、視線とは全く違う方向に撃ってきたからである。

勿論、偶然ではない。

 

(やっぱあいつ、私のこと馬鹿にしてるわ)

 

先ほどまでの視線は、そういう癖があるように思わせる誘い。

同じ候補生同士での訓練では、相手に警戒させる牽制くらいにしか使えない。

だが、所詮は素人に近い冬也には通じた。

 

(性格はアレだけど、頭は悪くないから罠だと考えるくらいはすると思ったけど……)

 

命中したところを見ると、罠だとは微塵も考えていなかったようだ。

 

『おまけに常に相手を見下すところがあるから、単純な手にも引っかかるはずだ。最初はな』

 

見下すまでは鈴も分かっていたが、本当に単純な手に引っかかるとは思っていなかった。

わざと熱くなったフリをして、視線による癖があると思わせてのトラップ。

ありがちな手段に引っかかってくれたので、白式のシールドエネルギーは激減していた。

 

「よくもやったなぁ、暴君鈴!」

 

立ち上がって怒りを露にし、雪片を構える。

鈴に対する呼び方に、二組のにゃんこ鈴応援団がブーイングする。

 

「うるっせぇ!」

 

観客席に悪態をつき、瞬時加速を使って距離を詰める。

 

「はっはっはっ! 俺が瞬時加速を使えるとは思っていなかったろ!」

 

半ばキレかかった目をギラつかせ、一直線に鈴へ向かう。

しかし、所詮は素人の瞬時加速。

回避にならともかく、攻撃時の接近に使用するなら、ある程度の経験が必要になる。

その理由は。

 

(だからって、有利とは限らないわよ)

 

慌てること無く、落ち着いて相手の動きを読む。

そして動きに合わせ、双天牙月でカウンターの一撃を腹部に叩き込んだ。

 

「ごっ!?」

(瞬時加速は使うのに慣れていないと、移動距離は短いし相手の動きも見えにくくなるのよ。それに使っている間は方向転換できないしね)

 

見事なカウンターを浴びた冬也は落下するが、途中で再度浮遊。

いいところが全く無いので、忌々しそうに鈴を睨んでいる。

何も悪い事をしていない鈴は、溜め息を吐いて告げる。

 

「どう? できればいいってもんじゃないのよ。何事も相応の努力と経験を積まなくちゃね」

 

鈴もまた、短期間で国家代表候補になるまで血の滲む努力をした。

激しい訓練で経験を積んできた。

さらにはISと中国拳法を教えてくれる、良い師にも巡り会えた。

だからこそ、ここまでに上り詰める事ができた。

ところが、才能だけで常に頂点に立っていた冬也は、それを認めようとしない。

 

「うるさいうるさいうるさい! そんなのは、凡人がやっていればいいんだぁ!」

 

頭に血が上りきった冬也は、試合展開や自分の状況を考えず零落白夜を発動。

一つ覚えの全速力で接近して、鈴を倒そうとする。

回り込もうとも、フェイントを仕掛けようともしない。

本当に一直線の突進。

 

(こんなのにこれ以上、龍咆や武器を使うのも馬鹿らしいわ)

 

落ち着いてやれば、もう少しマシな戦いだったのに。

そう思いながら双天牙月を二振りとも収納すると、拳法の構えを取る。

 

「たあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

振り上げた雪片での、気合いを込めての渾身の一振り。

鈴はその雪片を持つ手に向かって、タイミングを合わせて足を振り上げた。

 

「ふうっ!」

 

ほぼ垂直に上がったのではと思うほど開脚しての蹴り上げ。

蹴りは的確に狙いの箇所、雪片を持つ手を直撃した。

 

「ぐぅっ!?」

 

振り下ろしと蹴り上げでちょうどカウンターの形となり、凄まじい衝撃が襲う。

実はこれも、対策の一つ。

零落白夜の効果が発揮されるのは、あくまで雪片の刀身部分だけ。

雪片を握っている柄の部分は通常のまま。

ここを攻めて雪片を手放させれば、もうこっちのもの。

別の武器は無い上に、雪片無しでは零落白夜も使えない。

後は拾われる前に叩きのめすだけなのだが、ここで鈴の仕返しスイッチが入る。

 

「これは昔の苛めの分!」

「ぐっ!?」

「これはさっき暴君鈴って言った分!」

「づっ!」

「これは説明会であたし達を馬鹿にした分!」

「おぶっ!?」

 

流れるような動きで恨み言を口にしながら拳を叩き込む鈴。

込められた怒りは本物なので、加減は一切無い。

 

「そしてこれがっ!」

「ううぅっ……」

 

連打を浴びた白式の残りシールドエネルギーは僅か。

防御の姿勢をとっていた冬也が閉じていた目を開けて見た先には、気を溜めた事により、光る拳を振り上げている鈴がいた。

 

「イチカを馬鹿にした分よぉ!」

 

今日一番の怒りと気が練りこまれた一撃で、冬也は吹っ飛ぶ。

一直線に後方に吹っ飛んで観客席を守るバリアに激突。

そのまま地上に落ちて、零落白夜の使用で減少していたシールドエネルギーはゼロになった。

 

『白式、シールドエネルギーエンプティー。勝者、鳳鈴音』

 

勝者が決まり、アリーナ内は歓声に包まれる。

特に一年二組は大喝采で、にゃんこ鈴コールを繰り返している。

すっきりした表情をした鈴をモニターで見ながら、イチカは呟く。

 

「おいおい、鈴も気を使えるのかよ」

「そういえば、中国拳法の師匠にそれっぽいのを教わったって言っていたような……」

 

一緒に控え室でモニターを見ていた簪の呟きに、イチカは苦笑いする。

 

「マジか。これは強敵が現れたな……」

 

イチカにとってこの試合での強敵は、共に修行した簪だった。

次いで鈴だったのが、気が使えるという点を考慮して簪と同列になった。

 

「まぁ、お陰で試合は楽しくなりそうだけどな」

 

手ごたえのありそうな相手の出現に、右拳で左の掌を叩く。

そして楽しそうに、鈴を迎える為ビットへ向かった。

 

「そう思うのはイチカだけだよ……」

 

思わぬ強敵の出現に簪は肩を落とし、イチカの後を追う。

一方のアリーナでは、勝者の鈴が観客に手を振り終え、ピットに戻ろうとしていた。

その瞬間だった、何かがアリーナに張られているバリアを破って会場が煙に覆われる。

 

「なに!?」

 

煙が徐々に晴れて鈴の目に映ったのは、両手に剣を持っている人型のISだった。

 

『ケケケケケケケケケッ!』

 

アリーナ内に、侵入したISから発せられる無機質で不気味な声が響き渡った。

 

 

おまけ

 

束とクロエは困惑していた。

試合を録画させるため、IS学園上空に待機させていた機体が突如暴走したのだ。

 

「そんな、コントロールが取り戻せない!?」

 

どうにか止めようとしている束だが、どうやっても画面にはエラーとしか表示されていない。

 

「駄目です、束様! プロトタイプ無人機「チャチャゼロ」は、完全にコントロール不能です!」

 

クロエが開いている画面には、チャチャゼロのコアの状態が表示されている。

どういう訳がコントロール不能になったコアの内部は、異常な状態を示す真っ赤な色に染まっている。

 

「コアネットワークからの強制停止信号は!?」

「……っ! 駄目です、受け付けません」

 

強制停止も受け付けないと聞き、束は最後の手段に出ることにした。

 

「仕方ない、チャチャゼロのコアをコアネットワークから分離!」

「承知しました!」

 

指示に従い、チャチャゼロのコアをコアネットワークから分離する。

それでも画面内のチャチャゼロは止まらず、アリーナのバリアを破った。

その様子を見ていた束は信じられない表情をする。

 

「そんな、コアネットワークから分離したのに……。どうなっているのさっ!」

 

事前のチェックではなんともなかった。

それなのにこんな事態になり、束は画面から目を逸らしたくなった。

そんな気持ちをぐっと堪え、携帯を手に取る。

 

「ちーちゃんに、伝えなきゃ!」

 

だが、司令室に詰めていた千冬を携帯を手元に置いていない。

何度かけても、呼び出しのコール音と留守番電話サービスの音声がするだけ。

致し方なくメールで事態を伝え、返事を待つことにした。

不安そうな束が眺めている画面には、暴走したチャチャゼロから送信されている映像が映っていた。

 

 

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