IS―再生の在り方   作:時語り

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疑問と転入

 

無人機の襲撃から、あっという間に五日が過ぎた。

騒ぎもようやく収まり、IS学園に平穏な日常が戻りつつあった。

そのIS学園の一室では現在。

 

「では、ラカン君の優勝とスイーツ券の獲得を祝って」

『乾杯!』

 

一年三組一同が祝勝会を開いていた。

無人機・チャチャゼロの襲撃の翌日からクラス代表戦は再開された。

繰り越されたイチカと簪の試合はイチカが勝利し、ココネと弐の試合は弐が勝利した。

さらにそれから数日を掛けて戦った成績は。

 

 

・初戦

 

冬也VS鈴

国家代表候補生と素人の違いを見せつけて鈴の勝利

 

イチカVS簪

山嵐にロックオンされるまえに瞬動を使い攪乱させ、接近戦に持ち込んでイチカの勝利

 

弐VSココネ

双方とも、派手さは無いが国家代表候補生らしい堅実な戦いを展開。最後は撃ち合いの末にラファールを使っていたココネが押し切って勝利

 

 

・二戦目

 

イチカVS弐

白き翼でアリアドネーを知り尽くしているイチカが終始一方的に攻め勝利

 

冬也VSココネ

作戦会議通り、量産型だと侮っているうちに遠距離での長期戦に持ち込んだが、後一歩及ばず薄氷の差で冬也が勝った

 

鈴VS簪

同じ立場で専用機持ち同士、互角の激しい戦いをし、最後は機体スペックの差で簪が辛勝

 

 

・三戦目

 

冬也VS簪

常に距離を取って遠距離から削り、冬也が苛立って零落白夜を使ったらガトリングシールドで受け止め、弾丸と山嵐を至近距離から撃ち込んで簪の勝利

 

ココネVSイチカ

近づけさせまいと開始直後から射撃武器を連射したが、ほぼ全力のラカンインパクトで弾丸もココネも吹き飛ばされココネが気絶し、イチカの快勝

 

鈴VS弐

序盤は互角にやり合えたが、徐々に鈴が押し出し、最後は双天月牙による乱舞で鈴の勝利

 

 

・四戦目

 

鈴VSココネ

序盤は龍咆と射撃武器での撃ち合いだったが、途中から鈴が接近戦に持ち込んで勝利

 

簪VS弐

簪の豊富な遠距離武器に、弐もアリアドネーの特徴である総合力の高さで喰らいついたが、アリアドネーに関する知識もあって簪が勝利

 

冬也VSイチカ

開始前の冬也の悪口にイチカのボルテージが上昇。

開始直後に虚空瞬動からの帯電パンチを浴びせ、千倍のグラビティブレードで吹き飛ばし、必殺技のエターナル・イチカ・フィーバーでイチカの圧勝

 

 

・五戦目

 

ココネVS簪

開始直後から苛烈な撃ち合いになったが、ブラスターシールドとガトリングシールドによる防御の分、簪が逃げ切り勝利

 

冬也VS弐

前日にイチカに完敗して冷静さを欠いているところへ、弐からの挑発もあって零落白夜を連発。

作戦通り早々にエネルギーを消耗させ、試合の主導権を握りかけたが、それでも最後にギリギリで零落白夜の一撃を入れられ、同時にシールドエネルギーが切れて引き分け。

 

イチカVS鈴

双方の合意もあって近接限定での勝負。

グラビティブレードの重さで武装を破壊されながら、鈴も気を使って粘ったがイチカの勝利。

 

 

総合結果

 

冬也:一勝三敗一分

鈴:三勝二敗

イチカ:五勝

簪:四勝一敗

弐:四敗一分

ココネ:一勝四敗

 

という結果になった。

見事優勝したイチカを祝し、最終戦後の表彰式の後に、この祝勝会が催される運びとなった。

 

「あぁもぉっ! 簪にはなんとか勝てると思っていたのにぃ!」

「でも実際、鈴との試合は危なかった。最後のカウンターを浴びた時は負けたと思った」

 

参加費を払えば誰でも参加していい、という主賓イチカの意向で参加費を払った鈴と簪。

お互いがぶつかり合った試合の事を話し、反省会をしている。

他にも三組以外の生徒が多数混ざっており、ほとんどクラス代表戦の打ち上げ会のような雰囲気になっていた。

 

「ていうか、イッチーのエターナルなんとかって必殺技は凄すぎだよぉ。アリーナにおっきなクレーターができちゃったもんね」

 

その日の最終戦という事で厳重注意と穴の埋め立てで許されたが、後にあの技の使用禁止が追加で伝えられた。

 

「父さんが俺のために考えてくれた技だからな。技を撃つ前の決めポーズもかっこよかったろ!」

「ゴメン、そっちはちょっと中二っぽかった」

「ちゅ、中二……」

 

本音の本音にイチカは落ち込んだ。

さらに、話を聞いていて、カッコイイと思っていた自分達もそうなのかと、マドカと簪もちょっとだけ落ち込んだ。

 

「ポーズを……ポーズを再考しなくちゃ……」

「ていうか、別に決めポーズぐらい無くても……」

 

ポロッとこぼしたシャルロットの言葉にイチカは過敏に反応する。

 

「何を言っているんだシャル! 決めポーズは必殺技の基本だって、父さんだって言っていたし俺もそう思うぞ!」

 

言い放った内容に、やはりあのラカンの下に預けたのは間違いだったのではないかと、何気に参加していた千冬は思った。

 

「そう……なのかな?」

「当然だ! ダーナ師匠だって決めポーズは重要だって言っていて、考えるのを手伝ってくれたぞ!」

(誰だ、ダーナ!?)

 

初めて聞いた名前の師匠に、思わず千冬は心の中で叫んだ。

こんな感じで盛り上がっていた祝勝会だが、片付けの後の解散前にネカネが告げる。

 

「じゃあ皆さん、月曜日提出のレポートを忘れないようにね」

 

最後の連絡に、代表戦参加者以外の生徒達は嫌な事を思い出す。

後でメモとビデオを見直そうという生徒や、明日集まってやろうと言うグループ。

ただでさえ、襲撃事件で一日予定がズレたので、悠長にやっている暇は無い。

 

「採点、期待しているから」

 

ニッコリと笑ったのに何故か恐怖を感じるネカネの笑顔。

生徒達はレポート作成のため、慌てて寮の自室へと向かうのだった。

 

「さて、じゃあ俺達も帰るか」

 

出場選手だったのでレポートを書く必要のないイチカ、鈴、簪は慌てる事無く寮へと向かう。

その帰路で、件のチャチャゼロの事を話しながら。

 

「そういえば、あの話どう思う?」

「うぅん……」

 

最終日の試合終了後、表彰式前に呼び出された三人は千冬から詳細を聞いていた。

学園でもコアは調べなくてはならないので、束の下にはコアのデータのコピーを送った。

それの解析の結果、いくつかの事実が判明した。

まず、束が入れた覚えの無いデータがあること。

強制停止信号の拒否があったのは、暴走させたのだからまだ分かる。

分からないのは、IS搭乗者以外への攻撃をしないよう、行動を制限したデータ。

暴走させた割にはこんなデータがあるのは、通常では考えられない。

 

「余計な被害を出す気は無かったのか?」

「それとも、搭乗者以外を人質に取るような事はしたくなかった?」

「狙いは私達じゃなくて、使っているISそのものだったとか?」

 

それぞれが憶測を口にして考え込む。

仮に理由がそうだとして、暴走させた犯人は何がしたかったのか。

 

「……やっぱり、アレのテストだったと見るのが正しいのか?」

 

イチカが口にしたアレ。

それは束がコアのデータを調査して、一番驚いた事実。

束が作ったコアネットワークとは別に、もう一つ別のコアネットワークが接続されていた事。

 

「そのネットワークも、途中で分断されて追跡できなかったらしいし」

「やられたと同時に切った、ていうのが正しいかもね」

 

今回の犯人の目的は、襲撃ではなく別のコアネットワークのテスト。

そう考えると、戦闘データ収集の為に搭乗者だけを襲わせたのも説明できる。

動けてもIS相手に戦えなければ、奪っても意味が無いのだから。

 

「他に無人機ってあるの?」

「少なくとも束さんは数体持っているらしい」

 

あの日以来監視セキュリティを強化して、今度奪おうとしたら逆に乗り込んでクラッキングしてやると豪語しているらしい。

 

「にしても、どんな奴だろうな? 束さんのセキュリティも掻い潜って無人機のコントロールを奪うなんて」

 

加えてコアにデータを転送したのだから、下手をすれば束以上の腕かもしれない。

 

「そんな奴、本当にいるのかしら?」

「いるかもな。表に出てきていないだけで、隠れた達人なんて裏の世界じゃ当たり前のようにいるし」

 

赤き翼の仕事を手伝っていた際、時折そういう相手に遭遇して苦戦をした事がある。

そういった経験をしたイチカが言うのだから、鈴も簪もひょっとしたらと思う。

 

「……この話はここまでにしよう。何も分からないのに話し合っても不毛だし」

「そうね」

「同感」

 

簪の提案にイチカも鈴も乗っかる。

ちょうど駅も近くなり周囲に人も増えてきたので、ちょうどいいタイミングだった。

 

一方で寮の冬也と箒の部屋では、冬也が恨めしそうに枕を殴っていた。

 

「くそっ、くそっ、くそっ! 何で俺があんな雑魚と暴君なんかに!」

 

八つ当たりを受けている枕は布が千切れ、殴られた衝撃で中身が溢れ出ている。

それでも構わず冬也は殴り続けている。

 

「落ち着け冬也。あいつらの事だ、何か卑怯な手を使ったに決まっている」

「そんなの当然だ! でなきゃ俺が全勝だったはずだ!」

 

二人はそう言っているが、イチカ達は卑怯な手など使っていない。

やったのは白式のスペックを調べ、冬也の性格を分析して戦略を立てただけ。

勝負の世界では当たり前の傾向と対策を練っただけだ。

対して冬也がやったのは、相手の機体のスペックを覚えたぐらい。

相手操縦者のことは何一つ調べていない。

さらに言えば、冬也がISを動かせる理由にも敗因はある。

冬也がISを動かせている理由は、イチカの生体データと似ていたから。

あくまで似ているだけなので、機体の能力をフルに引き出せる訳ではない。

それは以前に束がイチカにも言った事。

(*ラストプロローグ参照)

そんな状態で一勝しただけも、彼の才能のほどが分かる。

ところが冬也自身の中では、全ての試合に圧勝しているはずだった。

唯一勝った試合も薄氷の勝利で、引き分けもかなりギリギリで持ち込んだ形。

とても彼のプライドが許せる内容ではなかった。

 

「見てろよ。次にやる時は軽く捻り潰してやる」

 

真実を知らずにそう呟いて、中身がスカスカになった枕を丸めてゴミ箱に叩き込んだ。

 

翌日の日曜日。

生徒達は一様にレポート作成に追われ、ほとんどの生徒が部屋に籠もっている。

数少ない籠もっていない生徒であるイチカは、鈴と簪と共にグラウンドの片隅で修行をしていた。

 

「ほらほら、簪。まだ抜きが甘いぞ。だから着地の時に体勢が崩れて、こうなる!」

「うっ!」

 

瞬動の抜きで体勢が崩れた簪の目の前には、寸止めされたイチカの拳。

このまま続けていれば、間違いなくクリーンヒットしている。

 

「参りました……」

 

観念して敗北を受け入れる簪にイチカも拳を引く。

 

「とりあえず、三分はもつようになったか」

「まだ三分しかもたないんだよ。もっと頑張らなきゃ」

 

拳を握ってさらなる努力を誓う簪。

その簪にアドバイスをするため、イチカは靴を脱いで裸足になる。

 

「前にも言ったけど、抜きの瞬間に足の指をこうクイッと一曲げするんだよ。あくまでソフトに、だけどその一瞬の踏みしめが大事なんだ」

 

足の指を曲げて実演してみせるが、これが簡単そうで難しい。

 

「それができれば苦労はしないんだけどね」

「九十九のおじさんからは教わらなかったのか?」

「足先が手の指くらい器用じゃないといけないからって、お父さんが昔やっていた特訓方法を教わったんだけど……。無理、とてもじゃないけどできない」

 

よほどの特訓方法なのか、遠い目をする簪。

近くで中国拳法の型の練習をしていた鈴も、話が聞こえて気になった。

 

「どんな特訓なのよ」

 

質問に対して簪は、少し言い辛そうに答えた。

 

「……半年間、手を使わず足だけで生活する」

『うわぁ……』

 

それだけやれば、確かに足先は器用になるだろう。

だが、年頃の娘に勧める練習方法ではない。

何せ扉を開けるのも食事をするのも、全て足でやるのだから。

家でならともかく、学校でやれば間違いなく友人を失ってしまう。

下手をすれば生活指導部からの指導も入る。

 

「九十九のおじさん、そんな特訓してたんだ……」

「キツイのは練習そのものより、周りの視線だったって」

「でしょうね」

 

その光景を思い浮かべながら、三人はしばし沈黙した。

沈黙を破ったのは、メールの着信音だった。

 

『いっくん、メールだぞぉ!』

 

いつの間にか束により登録されていた着信音。

消しても何故か次の日には元に戻っているので、諦めてそのまま使っている。

 

「ん、俺のか」

 

スマホを取り出して誰からのメールか確認すると、イチカの表情に笑みが浮かぶ。

 

「簪、鈴。やっと全員集合できるみたいだぞ」

 

最初はどういう意味か分からず、二人は首を傾げる。

しかし、すぐに理解して誰からのメールなのか察した。

 

「ラウラから?」

「明日から来るの?」

「正解」

 

見事に正解した二人にメールの文面を見せる。

そこにはラウラから、明日からIS学園に通う旨が書かれていた。

これから手続きのために学園の事務室に顔を出す事、久々の再会を待ち望んでいる事も。

さらにはこんな事まで。

 

「ねぇイチカ、ここの必殺技ってどういう事?」

「ん……? あっ、そうだ! 気を習得できていたら、瞬動と一緒に必殺技も教える約束だったんだ」

 

ISに乗れることを発表して以来、何かとドタバタしていたのですっかり忘れていた。

文面には、気を習得できたと思うので、会ったら念のため確認して欲しいとある。

もしもそれが気ならば、約束通り瞬動と必殺技を教えて欲しいとも。

 

「あんた、忘れてたわね」

 

図星を突かれたイチカは、視線を外してどうしようかと悩む。

 

「まぁ、なんとかなるさ!」

 

腰に手を当てて高笑いするイチカ。

その姿が逆に不安になる、鈴と簪であった。

そして夕方頃。

待ち侘びた人物がやって来た。

 

「以上で手続きは終了です。ラウラ・ボーデヴィッヒさん、ようこそIS学園へ」

 

事務所での手続きを終えたラウラは一礼し、寮への地図と部屋の鍵を手に校舎を出る。

 

「さて、師匠はどこの部屋におられるのだろう」

 

荷物は全て寮に送ってあるので、手荷物は必要最小限の物を詰めたリュックのみ。

それを背負って寮へと向かう。

日没前にどうにか辿り着いたラウラは管理人室で手続きをし、割り当てられた部屋へと向かう。

 

「ここか」

 

部屋の名札にはラウラとは別に、同室となった相川清香の名前がある。

初対面は第一印象が大事だと、軍服の襟元を直しながら自分に言い聞かせる。

 

「失礼する。今日からこの部屋で――」

 

軍人らしく声を張り上げて扉を開けた途端、室内からクラッカー音が複数鳴り響く。

 

「のわぁっ!?」

 

予期せぬ事態に思わず驚きの声を上げ、後ずさって閉まった扉に背中を貼り付ける。

そんなラウラの目の前にいたのは。

 

「ようこそ、ラウラ」

「待っていたぞ!」

 

かつて再会の約束を交わしたイチカとマドカ。

そして二人に写真やメールで教えてもらった友人達が、クラッカー片手に笑みを見せていた。

 

「し、師匠! 驚かせないでください!」

 

驚きで大きく鼓動を打つ胸に手を当てて叫ぶ。

決して怒っているわけではないのは、イチカ達も分かっている。

もう彼女は、出会った頃の彼女ではないのだから。

事実、かつて発していたの他人を寄せ付けない鋭い空気は、微塵も発していない。

 

「さっ、さっ。上がった上がった。簡単にだけど歓迎会の準備はできてるぞ」

「早く上がれ。レポートを仕上げてマッハで買いに行った私の特選スイーツが並んでるぞ」

「あのぉ、お二人とも? 一応部屋の主は私なんだけど?」

 

置いていかれた感を覚える清香を放置して、消灯ギリギリまで歓迎会は続いた。

放置されてしばらくの間、清香はちょっとだけいじけていた。

 

翌日。

無事にレポートを作成した学生達が開放感に包まれる中、遂にラウラが転入してきた。

転入先の一組では、小柄な銀髪少女の転入にどんな子なのかと、ヒソヒソ小声で喋る。

 

「では、自己紹介をお願いします」

「了解しました」

 

軍人らしい反応と立ち方に、数名の生徒が少々の怖さを覚える。

だがそれも、ラウラの自己紹介で吹っ飛ぶ。

 

「ドイツ軍より来た、ラウラ・ボーデヴィッヒだ! 引き継ぎ等の関係で入学が遅れたが、どうかこのクラスの一員として仲良くしてもらいたい!」

 

口調はともかく、思ったよりも柔らかい自己紹介に、張り詰めていた空気が緩む。

良い方向へのラウラの変化を目の当たりにし、担任の千冬は嬉しく思った。

のも束の間。

 

「ちなみに一年三組のイチカ・ラカンの弟子で嫁でもあるから、くれぐ――はぶっ!?」

 

さっそくやらかそうとしていたので、千冬の出席簿が頭頂部に振り下ろされた。

 

 

おまけ

 

ラウラの転入初日は概ね良好だった。

周りに群がるクラスメイトの質問に答え、時折反応に困って戸惑う姿が可愛いと好評。

早くもクラスのマスコットキャラになりつつあった。

さらに、昼休み中に確認した気の習得具合も、充分なレベルに達していた。

その翌日の早朝。

相川清香はジャージ姿で趣味のジョギングをしていた。

グラウンド付近を通りかかった時、ふとグラウンド内を見るとそこにはトレーニングウェア姿のイチカがいた。

 

「ラカン君? 何しているのかな?」

 

複数ある自作っぽい的の一つから距離を置き、自然に構えているイチカ。

トレーニングか何かかと、見ていると。

 

「覇王!」

「!?」

 

突然叫び、妙なポーズをしだした。

 

「炎……熱……轟竜咆哮」

 

次々とポーズを繰り出しながら気を右腕に溜めいてく。

 

「爆裂閃光魔神斬空羅漢拳!」

 

技名と共に拳を突き出し、溜めいていた気を放つ。

命中した的は木っ端微塵となり、跡形も無くなった。

その光景を見ていた清香は、色々な意味でポカンとしていた。

 

「くっ。駄目だ! 技名が長すぎるし語呂も悪い!」

(そういう問題!?)

 

悔しそうにするイチカの発言に、思わず心の中で突っ込んだ。

 

「タイムリミットは近いっていうのに。よし、ここはもっとシンプルに名前だけで」

 

別の的に標的を変えると、再度気を溜めた拳を放つ。

 

「ラウラパンチ!」

 

今度の一撃でも的は砕け散ったが、イチカは納得しない。

 

「駄目だぁ! 短すぎてポーズをとっている暇が無い!」

 

膝を着いて地面を叩く姿に、本当に何をしているんだろうと清香は思った。

 

「どうするどうする! 迷っている時間はあまり無いぞ。だけど燃えてきたぜ!」

 

足元の棒を拾い、グラウンドに何やら書き出すイチカ。

これまでに書き溜めた技名や発想がいくつもあり、書き終えると腕を組んで考えながらウロウロする。

 

「っていうか、ただの右ストレートってのも味気ないだろ。もっと他に何か……。俺みたいに全身から気を出すとか、目からは……視力に影響が出ちゃうか。ないか、何か。こぅ……一箇所に集めてドカンって感じで……」

 

ふと呟いた言葉で、イチカは何かを思いついた。

 

「一箇所に溜めてドカン! これだ!」

 

今度は何をするつもりなのか、もはや清香は少し恐ろしさも感じ始めた。

 

「グランド」

 

低い体勢で握り拳を地面に着け、気を拳へと集めていく。

 

「ラウラ!」

 

前方へジャンプして、抱え込み宙返りをしながら的へと接近していく。

タイミングを見計らい、抱え込みを解いて右腕を大きく振り上げるポーズを取る。

 

「ハンッ……マー!」

 

宙返りの勢いを利用し、的へ右腕を振り下ろす。

振り落とした拳と解放した気により、爆風がグラウンド内に立ち込め、辺りは土煙に覆われる。

それが晴れると、的を粉砕するどころか、グラウンドにクレーター状の大きな穴が空いていた。

 

「おぉ……まさかこれほどの威力の技になるとは」

 

一部始終を見ていた清香は、既に開いた口が塞がらなかった。

 

「ともかく完成だ! ラウラに授ける必殺技が!」

(それをボーデヴィッヒさんに教えるのっ!?)

 

この練習は、クラスのマスコットになるうるルームメートに教える技の練習だと知り、衝撃を受けた。

 

「師匠おはようございます。今、何か轟音が聞こえましたけど……って、このクレーターはっ!?」

 

ちょうどそこへラウラが現れ、クレーターを見て驚く。

 

「よく来たラウラ。ちょうどお前に教える必殺技ができたところだ。これはその威力を示している」

 

クレーターから上がってきたイチカは、窪んだ地面を指差して説明する。

するとラウラの表情が驚きから興奮へと変わる。

 

「こ、こんな威力の技を教えていただけるのですかっ!」

「そうだ! 技名はグランド・ラウラ・ハンマーといってな」

 

説明を始めるイチカに、清香は駆け出した。

 

「駄目ぇっ! ボーデヴィッヒさん! その技覚えちゃだめぇぇぇぇぇっ!」

 

 

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