IS―再生の在り方   作:時語り

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代表トーナメント開幕

 

 

代表者限定によるトーナメント。

今回のメインイベントの始まりに、来賓の企業や国の関係者は目を凝らす。

特に、自分の国を代表して出ている生徒が、他国や企業の代表とどう戦うのか。

内容によっては非情な決断も辞さない覚悟で、試合開始を待つ。

 

『それではこれより、国家代表、国家代表候補生、企業代表、専用機持ちによるトーナメント戦を開始します』

 

司令室に詰めているネカネのアナウンスを聞き、観客席の生徒達は盛り上がる。

続いてトーナメントの組み合わせが発表され、関係者達は自分の所の代表を探す。

 

「ふむ、まずはシャルロットさんの試合か」

 

組み合わせを見た、白き翼を代表して来たフェイトは対戦相手の資料を手にする。

相手は台湾代表候補生の林弐。

使用する機体が自社で製作した量産機、アリアドネーだと知ると興味深そうな表情になる。

 

「うちの企業代表と自社製機の勝負とはね」

 

空飛び猫も白き翼製ということになっているが、正確には束が作った物。

のなで、自社機同士というわけではない。

 

「ですが、アリアドネーと空飛び猫ではスペックに差が……」

「暦君、それは偏見だ。操縦者次第では、スペックの差なんて関係ないよ」

「あう。も、申し訳ありません、軽率でした」

 

憧れの上司に注意を受け、暦は少し落ち込んだ。

 

「そう落ち込まんと。たまちゃんにはウチがおるやないの」

「月詠先輩は刹那さんでも誘惑しててください!」

 

ハアハア言いながら纏わりつく先輩を一蹴し、ようやく来賓室に静寂が戻った。

一方の会場内、選手控え室では。

 

「普通に考えれば、シャルが有利よね」

 

選手入場前のアリーナ内の映像を見ながら鈴が呟く。

 

「機体かシャルにトラブルが起きなければな」

「とはいえ、油断はできない。弐さんも代表候補生だけあって、腕は確かだから」

 

以前のクラス代表戦で、弐は四敗一分で最下位だったが、内容は悪くなかった。

イチカにこそ惨敗だったが、鈴と簪には負けたとはいえ、ある程度戦えていた。

同じ専用機無しの代表候補生ココネとも、これも負けたとはいえ互角の内容。

さらには、弐に勝ったココネに勝利した冬也とは引き分けている。

同じ機体で純粋に操縦の腕前だけで勝負すれば、どうなっていたか分からない。

 

「さぁて、どうなるかな。この勝負」

 

真剣な表情でイチカが画面に目を向ける。

ちょうど会場内では紹介と共に登場した弐が、観客席の歓声に応えていた。

それが収まると、今度はシャルロットがビットから飛び出す。

 

『続いての登場は一年一組所属、白き翼企業代表のシャルロット・ヴァンデンバーグさん。萌える猫耳機体、空飛び猫でどんな戦いを見せてくれるのか!』

 

今回もアナウンス役となった薫子の紹介で、モニターに頭部の猫耳部分がアップで映る。

 

「これをネタにするの、いい加減にやめてぇ!」

 

誰に向かって言っているのか分からない叫びが、アリーナ内に響き渡った。

同時にアリーナ内は笑いに包まれる。

 

「あうぅ……僕、どっちかっていうと犬派なんだけどなぁ」

「そういう問題なのか?」

 

向かい合う弐は少々気の毒に思いつつも、論点が違う気がした。

だが、目の前にいるのは対戦相手。

同情はほどほどにして、アリアドネーの武器である銃剣を手にする。

見た目は巨大な片刃の剣だが、柄と鍔の間にトリガーがあり、そこを押せば剣先からビームが撃てる。

さらに、もう一本の収納されている銃剣と峰同士を合わせると、二つ広い側面が盾のようになる。

まさに遠近両用、攻防一体。

機体自体も、攻撃、防御、機動性、全てが高いレベルでバランスがとれている。

それがアリアドネーの最大の特徴である汎用性と総合力。

災害時の、どんな状況にでも対応できることを前提に作った、白き翼の代表作だ。

弐が武器を取り出したのに合わせ、シャルロットも七色の銃二丁を選択して両手に持つ。

 

『それでは代表者限定トーナメント一回戦、第一試合……始め!』

「いけっ!」

 

開始の合図と同時にシャルロットは素早く銃口を弐に向け、トリガーを数回引く。

連射された弾丸は一直線に弐へ向かうが、全てが銃剣の側面で受け止められる。

二つ合わされば盾として使えるだけあって、一本でも防御には役立つ。

 

「ふっ!」

 

お返しとばかりに、今度は弐が剣先を向けてトリガーを引く。

放たれたビームをシャルロットは回避し、右へ回り込みながら二丁の銃を撃ちまくる。

 

「なんのっ!」

 

元々持っている銃剣で弾丸を防御しながら、もう一本の銃剣を取り出し剣先を向けトリガーを引く。

 

「おっと」

 

カウンター気味に放たれたビームを回避して、七色の銃の弾丸を変更する。

先ほどまでは通常の弾丸だったのを、今度は貫通力に特化した形状の弾丸へ変える。

 

「これならっ!」

「甘い!」

 

弾丸を変えた事に気付かない弐は、先ほど同様に銃剣の側面で受け止めようとする。

しかし、変更した弾丸は先ほどまでのように防げず、銃剣に突き刺さった。

弾丸の先端が反対側まで貫通しており、もう少し勢いがあれば弾丸が貫通した上で弐に命中していただろう。

 

「何っ!? くそ!」

 

ここでようやく弾丸の変更に気付いた弐は、続けて放たれる弾丸を受けずに回避する。

 

「逃がさない」

 

右手の七色の銃を収納し、左手の一丁だけで撃ち続ける。

その間に右手を右脚の付け根の辺り、ズボンでいうとポケットの位置にある拳大のスペースへ入れた。

どういう理由かは知らないが、銃が一丁減ったので回避がしやすくなった弐は、どうにか立て直そうと回避しながら様子を窺う。

 

(どうにか反撃しない――とっ!?)

 

隙を窺っている最中、急に弐は腹部に衝撃を受けた。

次いで左腕と右手、さらによろけたところへ左手に衝撃を受ける。

 

「あうっ!?」

 

両手に衝撃を受けたことで銃剣を二つとも手放してしまい、無防備になる。

放たれた弾丸を避けようとするが、やはり衝撃を受けて動作が鈍る。

そこへ弾丸が降り注ぎ、シールドエネルギーを大きく削る。

 

(どうなっている!?)

 

弐はどうしても分からなかった。

衝撃が来る瞬間、相手は何の動作も見せていないのだから。

銃から放たれている訳ではないのは察したが、どうやって衝撃を放ったのかが分からない。

鈴の龍咆のような武器は外見的には見当たらず、使っている素振りも予備動作も無い。

今の弐にできるのは、常に動き回って弾丸と衝撃から逃げ続けることだけだった。

 

『おぉっと、今のはいったい何でしょう? ヴァンデンバーグさんは何もしていないのに、林さんの体勢が崩れ、シールドエネルギーが減っています』

 

同じような違和感を、放送室の薫子も察していた。

でも、何が起きているのかが理解できない。

そこで彼女は、手の空いている放送部員をある人物の下へと走らせる。

 

『ではここで、何が起きているかを知っていそうなイチカ・ラカン君に聞いてみたいと思います。』

『っておい! この放送部員、そういう理由で来たのかよ!』

 

既に音声は繋がっているのか、イチカの声が流れる。

 

『突然現れたから、何かと思ったぞ』

 

控え室で一緒にモニター観戦しているラウラの声も流れた。

 

『そういう訳で、解説をお願いします! あれはどういう武装なんですか?』

『仕方ないな……。あれは武装じゃなくて、無音拳。別名、居合い拳とも言う体術です』

 

特に隠す理由も無いので、あっさりとイチカは技のことを口にした。

だが、それによる波紋は大きかった。

てっきり龍咆のような見えない攻撃を放つ武装だと思っていた観客達は、一斉にざわめきだす。

 

『た、体術とはどういうことですか?』

 

動揺しつつも、リポートを続ける薫子。

 

『居合い斬りは知っていますよね?』

『刀を鞘から抜くと同時に斬る、っていう技ですよね?』

『居合い拳はそれの拳版。シャルは今、拳を刀に、ポケットのような箇所を鞘に見立てているんです』

 

イチカの解説と共に、モニターでスロー映像が流れる。

一番遅い速度にして、ようやくシャルがポケットの部分から拳を抜き、弐へ向けて突き出しているのが分かった。

 

『超高速でそれを行う事によって、抜いたと同時に突き出した拳の拳圧を飛ばしてるんですよ』

『け、拳圧ですか……』

『そう。今のシャルは超スロー再生にすれば動作が見えるけど、これの達人になると超スロー再生でも動作が見えません』

 

今でさえ見えない動作なのに、これ以上があると知りざわめきは大きくなる。

特に龍咆を開発した中国からの関係者は、体術で同じような事をされて唖然としている。

しかも使い手が自分達の代表候補生と同い年の少女なのだから。

 

『一体、ヴァンデンバーグさんは誰にあんな技を……』

 

既に戦いの実況も忘れている薫子。

戦況は銃で弐を誘導し、無音拳を的確に当てるシャルが優勢。

アリアドネーのシールドエネルギーはもう三割も残っていない。

一方の空飛び猫は、時折飛来する反撃で一割ほど削られている。

 

『赤き翼の一員でシャルの養父、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグさんからです。先ほど言った無音拳の達人の。俺も厳しく教わりました』

 

さらりと自身も無音拳を使えると暴露するイチカ。

だが、アリーナ内は驚きの連続でもう驚き疲れていた。

逆に、赤き翼にいる養父の教えなら当然か、という空気になっている。

 

『なるほど! 前に私との勝負で使ったのも、その無音拳だったんですね!』

『あぁ、そんなこともあったな』

 

前に一度、無音拳を浴びたラウラが目を輝かせて割り込んでくる。

 

『あの時の兄様の戦いも見事でした!』

『なにそれ! 楯無お姉さんも見たかった!』

『私も』

『ていうか、何でアンタらが戦ったの?』

 

後から後から増えていく、割り込んでくる声。

これ以上はキリが無いと判断した薫子は、放送部員に引き上げるよう指示。

通信を切って実況へと戻る。

 

『さぁ、判明しました技、無音拳によって林さんを追い詰めるヴァンデンバーグさん。このまま決まるか?』

「そうはさせない!」

 

仮にも台湾代表候補生。

このまま大したこともできずに負けるわけにはいかない。

ブースターを最大出力にして弾丸の雨と無音拳を回避すると、銃剣を構えて瞬時加速を使った。

 

「うわっ!」

 

クラス対抗戦の後に身に着けた弐の瞬時加速は、見事にシャルの裏をかいた。

接近戦に持ち込み、二本の剣を操り攻め立てる。

近距離では無音拳は使えず、手にしていたのは七色の銃が一丁だけ。

一方の銃剣は銃で防いでも、もう一方は裏をかかれて反応が遅れたため、回避も防御もできなかった。

 

「っつ!」

「まだまだぁ!」

 

やや浅かったが、胴体部分に一撃が入った。

この時を逃すまいと弐はさらに激しく攻勢をかける。

それに押されてか、シャルロットは徐々に後退していき、壁が間近に迫る。

減り続けるシールドエネルギーの値に、台湾から来た関係者の応援に熱が入る。

だが、これはシャルロットの誘いだった。

微かに笑うと瞬時に体勢を変え、壁に垂直に立つ姿勢になる。

 

「足場さえあれば!」

 

壁を足場に瞬動を使い、ほぼゼロ距離での体当たり。

さらに瞬動を使うのに合わせ、バーニアを最大出力で加速。

アリーナの中央まで弐を押し返し、急停止すると、勢いを止められない弐は体勢を崩しながらシャルロットから離れていく。

 

「上手い。瞬動をあぁ使うなんて」

 

思わぬ瞬動の使い方に、モニターを見ているイチカも感心する。

そのモニターには、左手の七色の銃も収納し、両手で無音拳を放ち続けているシャルロットが映っている。

距離を開けられた弐はこれ以上なす術がなく、そのまま試合は終了した。

 

『アリアドネー、エネルギーエンプティー。勝者、シャルロット・ヴァンデンバーグ』

 

勝者を告げるアナウンスで、アリーナ内に歓声が湧き上がる。

結果を聞いたシャルロットも、大きく息を吐いて肩の力を抜く。

隠していた瞬時加速で裏をかかれたとはいえ、終盤の反撃には正直焦っていた。

どうにか対応したとはいえ、シールドエネルギーもそれなりに削られてしまった。

もっと上手くやれば、削られる量はもっと少なかったと反省する。

 

「完敗だ。でも、次は負けない」

 

敗北した弐が歩み寄り、シャルロットを睨みながら宣言する。

ならばと、シャルロットも笑顔で宣言する。

 

「返り討ちにしてあげるよ」

 

そんな二人のやり取りをモニターで見ていた控え室では、次の試合の出場する二人が準備に入る。

 

「生徒会長さん、よろしくお願いします」

「よろしくね。学園最強たる生徒会長の実力を見せてあげるわよ」

 

余裕綽々と書かれた扇子を広げながら刀奈は言うが。

 

「楯無さん、学園最強ってことは千冬さんより強いんですか?」

 

鈴からの指摘に、表情と体が固まる。

さらに追い討ちをかけるように。

 

「兄様の方が強いと思うんだが」

「そうです! 師匠こそ学園最強」

 

マドカとラウラが未だに敵わないイチカの名前を挙げる。

 

「イチカ、生徒会長=学園最強ってルールなら、試合でお姉ちゃんに勝てたら生徒会長だよ。そうなったら、副会長には私をお願いね」

「別に俺、そんな地位に興味はないんだけど……」

 

密かにイチカの隣を確保しようとしている簪だが、生憎と当の本人にその気が無かった。

だが、妹にまでこう言われた刀奈のダメージは予想以上に大きかった。

一度閉じて再度開かれた扇子の文字は意気消沈に変わり、がっくりと肩を落としている。

 

「ごめんなさい、調子に乗りました。元生徒最強です……」

 

落ち込みながら訂正する姿に他の二、三年生は驚く。

いつも自信に満ち溢れている刀奈の初めて見せる姿に、今年の一年生は恐ろしいと感じた。

 

「大丈夫ですわ。生徒会長さんは充分にお強いのだと思います。あの方々が、ちょっと特殊なだけです」

「……私も同じような修行しているけど、まだイチカに勝ったことないの」

「そ、そうでしたの」

 

悲しそうに告げられた事実に、これ以上セシリアにフォローはできなかった。

すっかり落ち込んでしまった刀奈の様子に、少し悪かったかなとマドカ達は反省する。

そこへイチカが立ち上がり、刀奈に歩み寄って耳打ちする。

すると。

 

「うおっしゃあぁぁぁぁぁっ! やってやるわよ!」

 

突然気合いを漲らせて立ち上がった刀奈。

そのままビットへと走り去ってしまった。

事態を飲み込めない他の面々はポカンと呆けており、何を囁かれたのか気になった。

 

「兄様、いったい何を言ったんですか?」

 

率先して尋ねたマドカへ、イチカが返したのは。

 

「普段の自信満々な楯無さんが俺は好きだって言ってあげたんです」

 

それはやる気が出るだろうと思う反面、ここにいないシャルロットと刀奈を除くイチカ好きメンバーは一斉に詰め寄る。

 

「お姉ちゃんだけズルイ。私にもお願い」

「兄様! 私もぜひお願いします」

「だったら私も頼もうかしら」

「師匠、まだまだ不出来な弟子ですが、なにとぞお願いします!」

 

全員が同じ事を言えと詰め寄り、イチカはかける言葉を間違えたと頭を抱える。

そこへシャルロットも戻ってきて話を聞き、自分にも言ってほしかったと詰め寄る。

やってしまったなと思うイチカだが、既に時遅しだった。

ちなみに試合は、やたらハイテンションの刀奈がセシリアを序盤から圧倒。

セシリアも俺との勝負以来腕を上げており、負けじと必死にくいついていた。

どうにか刀奈の機体、ミステリアス・レイディのシールドエネルギーを四割ほど削ったが、そこで先にブルー・ティアーズのシールドエネルギーが尽きた。

 

『ブルー・ティアーズ、シールドエネルギーエンプティー。勝者、更識楯無』

「勝ったわよ、イチカァ!」

「な、なんですの、イチカさんほどではありませんが、あの理不尽な強さは。まだまだ精進が足りませんわね」

 

がっくりと落ち込むセシリア。

イギリスの関係者達は今の試合を見て、ロシア代表のあの強さじゃ仕方ないと割り切っていた。

逆に、よく四割も削れたものだと好評価している。

 

「さて、次は私か」

 

次の第三試合に出場するラウラが席を立つ。

同様に部屋の隅でこちらを睨んでいた冬也も立ち上がる。

 

「せいぜいあがくんだね、ドイツへ送り返されないように」

 

よほど自信があるのか、現役軍人のラウラ相手に大口を叩く。

しかし、ラウラはこの程度の挑発には乗らない。

逆に鼻で笑ってやりながら、何も告げずに出て行った。

 

「なんだあいつ、俺の忠告を無視しやがって!」

 

不機嫌になった冬也はわざと足音を大きく立てながら、控え室を出て行った。

間もなく、その第三試合が始まる。

再び騒動が起きるとは誰も知らずに。

 

 

おまけ

 

某所の暗い空間内。

いくつも並ぶ液晶画面の一つが表示され、文字を紡ぐ。

 

 

――計画第一段階・実験β準備完了

 

侵食率……現在九十パーセント

 

コアへの介入……完了

 

第二コアネットワーク接続……完了

 

データ採集準備……完了

 

外部よりの第二コアネットワークへの干渉対応……緊急時は実験を中断し強制分離

 

敵対IS搭乗者への過剰な攻撃不可機能……現在は正常に作動

 

 

侵食ガ修了次第、タダチニ実験βヲ開始スル

 

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