迫り来る一年生の臨海学校。
主な予定はISによる野外演習だが、到着初日は海で遊ぶ事ができる。
そのため、一年生の生徒達は休日に外出許可を得て買い物に繰り出していた。
「という訳で、水着選び手伝ってよね。アンタに見せるために買うんだから」
「ストレートな理由をありがとう」
軽めの自主トレを終えて部屋へ戻ろうとしていたら、いきなり外出許可を取らされ、鈴に手を引かれて駅へ向かうイチカ。
他を出し抜いたつもりなのか、やけに上機嫌な鈴だったが、駅が見えると徐々に表情が引きつる。
やがて歩みが止まったので、どうしたのかとイチカが進行方向を見ると。
「待っていたぞ兄様」
「鈴、連れて来てくれてありがとう」
「師匠、お供いたします」
「遠慮なく僕達の水着を選んでいいからね」
仁王立ちのマドカ、鈴にお礼を言う簪、敬礼をしているラウラ、満面の笑みのシャルロットがいた。
「私達もいるよぉ」
さらに本音と一組繋がりで相川、谷本、夜竹、鷹月まで後方に控えていた。
本音はいつもの事なので普通にしているが、後ろにいる四人は気まずそうにしている。
「アンタらいつの間に……」
せっかくイチカと二人で出かけようとしていた出鼻を挫かれ、鈴はどこに手抜かりがあったのかと落ち込む。
「私に兄様センサーを甘く見るな!」
ブラコン全開の発言に妹の将来を不安視したイチカは、とりあえずデコピンを一撃入れておいた。
その後、マドカ達の勢いに負けて大所帯で買い物に行く事になり、全員でモノレールに乗り込んだ。
車内で空いている席に座ったイチカが、鈴とマドカ達が何か言い合っているのを眺めていると、相川達四人が申し訳無さそうに声をかけてきた。
「ごめんね、ラカン君。こんなことになって」
「私達は一緒じゃなくていいって言ったんだけど」
「本音のペースに巻き込まれちゃって、つい」
「ここはハーレムデートということで一つお許しを」
別に気にする事じゃないと思うイチカだったが、ハーレムデートは悪くないと思った。
イチカも年頃の少年だけに、異性に囲まれるのは決して悪い気分ではなかった。
「女の子に囲まれるのは大歓迎だ」
「年頃の男の子らしい発言いただきました。よし、じゃあ全員分の水着を選んでもらおうか」
その発言には、さすがのイチカも戸惑いを隠せずにいる。
鈴一人のでさえ、選ぶまでに色々ありそうだと思っていたのに、全員分となるとどうなることか。
下手を踏めば間違いなく血の雨が降りそうだとイチカは思った。
「……できるだけ努力はする」
この時に少しでも否定の言葉を言っておけば良かったと、後にイチカは語るのだった。
目的の商業ビル内のベンチにて、イチカはぐったりとしていた。
体力的にはまだ全然大丈夫なのだが、大勢の水着選びをした精神的疲労が重なっていた。
「ふふふ……女子の買い物を舐めていた……」
決して侮っていた訳ではないが、予想を遥かに超えていた。
半分水着ショー気味の水着選びは一時間半を過ぎてもまだ続いている。
ただでさえ、大勢の女子に囲まれての買い物という状況なので、周囲の男性客の鋭い視線も飛んでくる。
途中で女尊男卑な女性客との少々トラブルもあったものの、学生証を見せたら相手は黙り込んで走って逃げた。
野次馬の何名かは、入学前の会見でイチカを覚えていたのか、逃げた女性客に哀れみの視線を送っていた。
「イッチー、これどう?」
「本音……。その著作権的に不味い、夢の国のネズミはやめてくれ。ていうか、夏場に着ぐるみなのもやめろ」
「えぇぇぇぇ。可愛いのに」
先ほどチョイスしていた水着も、某電気ネズミを思わせるようなものだったので、皆が呆気に取られていた。
「でもさ、私って背はちっこいけどこっちが大きいから、サイズ合うのがなかなかないんだよね」
そう言って小柄な割に育った胸を自分の手で持ち上げてみせる。
疲れた中で眼福なものを見たイチカは、心の中で本音にグッジョブと呟く。
「だからこういうダボダボなのじゃないと、上と下で同じ柄のをサイズ違いで買わなきゃいけないんだよぉ」
「本音のダボダボ趣味には、そんな隠された秘密があったのか」
「そうなんだよねぇ。可愛いからいいけど」
こんな話をしながら、イチカは思った。
制服の袖がダボダボなのも、改造したのではなく胸囲に合わせたサイズを買っただけなのではと。
IS学園の制服は許可さえあれば手を加えられるので、てっきり本音もそうなのかと思い込んでいた。
「というわけでイッチー、こっちが駄目ならこっちは?」
次いで取り出したのは、破壊神とも呼ばれる某怪獣らしき着ぐるみ水着だった。
「……ここの水着売り場はネタに走っているのか?」
「さあね」
商品を改めてよく見てみれば、水着とは思えないものが何着か混じっていた。
そのうちの一着を鈴が試着している。
「イチカ、どうこれ!」
公開しているのはチャイナドレス風の水着。
普通のスクール水着に長い布を前後に縫い合わせただけなのに、スリットが入っているように見える。
というか、あの長い部分が邪魔で泳ぎにくそうだと思うイチカだった。
他にも機能性や見た目よりも、ネタに走ったような水着をシャルロットや簪がどうかと聞いてくる。
ここまでくると、メーカーが何を目指しているのか本気で気になってきた。
「さて、無事に水着は買い終わった訳だが」
「次は夏物の私服ね」
次に連れて来られたのは、通常の衣服売り場。
ここでも時間がかかるのかとうんざりしていると、知っている声が聞こえた。
「なんや、イチカやないか。こないなところで何しとんねん」
声の主は一見すればチンピラのような黒髪の青年。
隣にはソバカスのある小柄な女性がいる。
「小太郎さんに夏美さんじゃないですか、奇遇ですね」
男の方は犬上小太郎。
赤き翼に所属する若手で、好戦的かつ硬派な性格をしている。
女性の方はその恋人で白き翼の事務職員、村上夏美。
脇役人生だと自虐していた学生時代を乗り越え、現在は小太郎にとってのヒロインとして公私ともに充実した日々を送っている。
「ひょっとしてお前も荷物持ちかいな」
「半分正解です。残り半分は、俺に見せる水着を選んで欲しいと連れて来られました」
「なんや、俺と同じやな。俺も夏美が水着選べって――ぶほっ!」
笑いながら喋っている最中、小太郎の脇に夏美の肘撃ちが炸裂した。
見ていただけのマドカ達も完璧に入ったので、感心しつつ痛そうだと心配していた。
「ここ、小太郎君。何も言う必要はないじゃんか」
「べ、別にえぇやないか。本当のことや――ぐはっ!」
今度は容赦なく脛に蹴りが入った。
痛さで言葉を発せない小太郎は、蹲って脛と脇腹を押さえている。
「小太郎君、世の中には言わなくていい事もあるんだよ?」
「わ、分かった。分かったから」
一見すれば情けないが、これでも小太郎は赤き翼の次代のホープ。
油断さえしなければイチカにも勝てるほどの実力者である。
「相変わらず尻に敷かれていますね、小太郎さん」
「よ、余計なお世話や」
どうにか復活して立ち上がったものの、まだ痛むのか若干脚を引き摺っている。
その間に夏美はマドカ達と共に、夏服選びに興じていた。
次々と気になったものを手にとっては、イチカや小太郎に似合うかと聞いてくる。
買い物開始からまもなく二時間に達しようとしており、二人の気分は盛り下がっていた。
「ホンマ、女の買い物は時間がかかるな」
「予算が限られていますからね、少しでも絞りたいんでしょう」
「なるほどなぁ。ところで噂に聞いたんやけど、そっちじゃだいぶ厄介な事件が起きているそうやないか」
小太郎から振られた話にイチカの表情が引き締まる。
「えぇ。束さんも調べているんですけど、何故か足取りが掴めないそうなんです」
「実はこっちも、最近似たような事件に関する依頼を受けとんのや」
小太郎によると、最近世界の数箇所でほぼ同時にISが暴走している事件が起きている。
開発中の無人機が勝手に動き出したり、テスト中の機体が操縦者の指示に従わず動いたり。
どちらの事件も死者は出なかったが、軽症者や体を痛めた操縦者が出たらしい。
これに不安を感じた発生国から、最悪破壊していいからと、しばらく警護に付いてほしいと依頼を受けていたそうだ。
事件の内容に思い当たる節のあるイチカは、IS学園での二つの事件の事を、周囲に聞こえないように小声で伝える。
「ほぼ同じような事件が各地で起きとるんか。何か嫌な予感がすんな」
「そっちでは原因を調べていないんですか?」
「外部のもんにISのシステムは見せられへんからって、見せてもらえんかったんや。まぁ、見たところで俺には分からんけどな」
とはいえ、こうした事態を受けて各地では調査が始まっているらしい。
国際IS委員会も各地に人員を派遣し、事件の詳細を調べている。
「けどな、何かあるかもってアリカはんとテオドラはんが少し調べとるみたいや」
「束さんも無人機を乗っ取られたからって、継続して調査はするみたいです」
とはいえ、あの束がここまで相手を掴めないとなると厄介事になるとしか思えない。
「相手の目的は何なんやろな」
小太郎の呟きはイチカだけでなく、この事件に関わった全員が一度は思った事。
目的さえも分からず、見えない相手と戦うとなると、後手にならざるを得ない。
次は何をしてくるかさえも分からずに。
「ともかく、またIS学園で何かあったら対処はするつもりです」
「こっちもそれしかなさそうやな、情けない話やけどな」
行動派の小太郎にとって、後手しかないという状況は不満を募らせる。
かといって動ける状況でもないので、仕事が入らない限りは大人しくするしかない。
「また何かあった時は情報交換しようや。今後の為にもな」
「分かりました」
「ほな、堅い話はここまでやな。ところでイチカ」
堅い話はここまでと言ったばかりなのに、未だに真剣な表情の小太郎。
今度は何の話かと身構えていると。
「お前ハーレム願望あったんか?」
「ふんっ!」
異性を大勢連れているので勘違いした一言に、イチカは小太郎の鳩尾に一撃を入れる。
完全に油断していた小太郎はその場に蹲り、痛みを堪える。
「や、やるようになったやないか」
「おかげさまで」
この三十分後、ようやく買い物の終わった夏美と共に小太郎は去って行った。
「さて、俺達はどうする?」
時間的には昼を少し過ぎた辺りなので、ここらで昼食にしようという案が出る。
だが、この人数では入れる場所が限られてしまう。
とりあえず一度外に出てファミレスでも、というタイミングで悲鳴が施設内に響き渡った。
同時に射撃音も聞こえたので、イチカ達は一階まで吹き抜けになっている通路まで様子見に行く。
「大人しくしろ。馬鹿な事をしなければ、命まではとらん」
一階の広場では銃を持った十数名の男女が銃口を周囲へ向け、リーダーらしき男が先ほどの威嚇射撃をしたのか、銃口を天井に向けていた。
続けて他のメンバーが二階以上にも姿を現し、客に向けて警告をして銃口を向ける。
イチカ達のいる三階にも四名ほどが現れていた。
「おいおい。こんな場所にこんな襲撃をして、脱出はどうするつもりだよ」
様子見をしていたイチカが、犯人グループの手段に疑問を覚える。
侵入方法は置いておくとしても、こんな派手なやり方ではすぐに警察が駆けつける。
そうなっては脱出方法など限られた手段しかできない。
長期休みの際に赤き翼でバイトをしていたイチカからすれば、このグループの手段が信じられなかった。
一階にいた警備員も同じ事を犯人グループに叫んでいるが、リーダーらしき男は余裕の笑みを浮かべている。
「そんなもん、我らがリーダーがいれば解決だ」
どうやら男はリーダーではなかったようだ。
そして男の後方から、二つの大きめな何かが歩いてきた。
「そういう事かよ」
それを見たイチカは、こんな派手な手法を用いた理由を理解した。
姿を現した真のリーダーは金髪の外国人女性で、ISに乗っているのだから。
しかも別にもう一体おり、この二人で防衛線を突破して逃亡しようと計画していたのだろう。
「さすがにISが二体もいたら、警察の包囲網なんて楽に切り抜けられるもんな」
対処には国のIS部隊が動く必要があるが、相応の手順を踏む必要があるのですぐには来られない。
おまけに彼らの情報が伝わっていなければ、動く頃には全て終わっている可能性もある。
「早ク、売り上げ持ってコイ。貴金属モ、一緒ダ」
リーダーの女性の言葉を、もう一人のIS操縦者がカタコト交じりの日本語で通訳する。
銃を突きつけられて連れて来られた責任者の男は、犯人の要求に頷くしかなかった。
さすがにIS相手では手の打ちようがないので、こればかりは仕方のない判断だった。
「それにしもあの機体、どこから持って来たんだ?」
「イチカ、多分これだと思うよ」
右隣にいるシャルロットが、スマホでニュースを見せてきた。
その記事によると、とある国のIS部隊の隊員二名がISを二体強奪し、脱走したそうだ。
彼女達はかの亡国企業に所属していた過去があったらしく、今回は組織復活のためにISを強奪したのではと推測されている。
「しつこいな、あいつらも」
全ての拠点を赤き翼と各国の軍に潰され、建て直しのためになりふり構わずやっているようだ。
「どうしますか、師匠」
左隣にいるラウラが、銃を手に見回りをしている犯人の一人を睨む。
できればすぐに制圧したいのだが、ここには一般人も大勢いる。
下手に動いて巻き込む訳にはいかない。
「ラ、ラカン君……」
こんな事件に遭遇し、涙目になっている夜竹が震える声でイチカを呼ぶ。
鷹月は頭を抱えて蹲り、谷本と相川は抱き合って震えている。
「ラカン君なら、あいつら倒せるよね?」
「……今は無理だ。下手に動けば、犠牲者が大勢出る可能性が高い」
一般客が広い範囲にいるので、銃弾を避けた際に流れ弾が当たる可能性がある。
一箇所に集められていれば、そこの直線上さえ避ければ攻められるし、人質も一塊なのでマドカ達にそっちの対応も頼める。
だが、今の状況では被害が大きくなる可能性のほうがずっと高い。
「その辺りはなんとかなりそうだ、兄様」
マドカの言葉に下を覗き込むと、犯人達は人質を一箇所に集め始めていた。
この階にもその指示が出たらしく、見回りをしていた犯人達が一箇所に集まるように客を銃で脅して誘導している。
イチカ達もそれに従い、一旦他の客と一緒になる。
これでこの階と一階は対応できるが、問題は二階と地下だ。
この建物は地上三階建てで、地下は駐車場になっている。
二階はまだなんとかなるとしても、地下にも犯人グループがいれば人質もいる可能性が高い。
そこへ、救いの手が伸べられる。
突如メールが届いてスマホが振動したので開いてみると、小太郎が地下駐車場で銃を持った怪しい奴らをぶっとばしたけど、何かあったのかと連絡してきた。
(よし、これならいけるかも)
イチカは犯人達にバレないよう、マドカ達に壁になってもらい小太郎へメールを打つ。
現状と犯人グループのおおよその人数、そしてISの事も。
すぐに返信が帰ってきて、一階の方の情報と援護は任せろとあった。
さらに赤き翼のツテで、日本のIS部隊の管理者にも連絡をするとも。
「小太郎さんが手を打ってくれた。俺達で犯人を制圧するぞ」
それを聞いてマドカやラウラだけでなく、シャルロットと簪と鈴、さらには本音まで頷く。
「俺と小太郎さんで一階をやるから、シャルとマドカで二階、あそこの四人はマドカ達で頼む。終わったら簪は二階の援護な」
『了解』
「合図は小太郎さんにメールを送ると同時に俺が出すからな」
しばらくすると、一階の現状と管理者と連絡が取れたから、合図があればいつでも動くとメールが届いた。
合図用の返信を準備して、タイミングを計る。
犯人達が余裕の笑みを浮かべ、僅かな油断が生じていると判断し、イチカは合図を出す。
「GO!」
その合図と共にイチカとシャルロット、マドカは吹き抜けに走り出す。
急に人質が動いたので、犯人達は撃とうとしたが、一人はラウラに取り押さえられ、もう二人は分身した簪に驚き動きが止まる。
驚いている隙に鈴が犯人の銃を蹴り飛ばし、拳を連打して倒す。
もう一人は瞬動で接近した簪に銃を叩き落されて、顔面と腹部に気を込めた一撃を浴びて倒れる。
最後の一人は、本音がダボダボの右袖から飛ばした鎖分胴で銃を弾き飛ばされ、左袖の鎖分胴で縛られて戻ってきた右の分胴が頭部に直撃。
痛みで倒れてそのまま悶絶する。
「いけ!」
吹き抜けから飛び降りたイチカは、自分を足場にさせてシャルロットとマドカを二階へ移動させ、自分は一階まで落下。
二階に移動したシャルロットは、すぐさまポケットに手を突っ込み、無音拳で人質の周囲にいる犯人達の銃を落とす。
犯人達は銃を拾おうとするが、マドカのラカン直伝ダブルラカンパンチで二人が沈む。
もう二人は無音拳で足止めされている間に、三階から移動してきた簪に背後から手刀を落とされて倒れた。
そして一階は。
「どうりゃあぁぁっ!」
人質周辺にいた犯人達を小太郎が一蹴。
突然の事態に驚いて振り返った他の犯人達の背後にイチカが着地し、連続瞬動しながら倒していく。
さらに小太郎も気を飛ばして数名を吹き飛ばし、残るはISに乗っている二人だけとなった。
『くそっ、なんだお前らは!』
どこかの国の言葉を喋りながら一人が銃を向ける。
しかしイチカも小太郎も慌てず、すぐさま瞬動で接近。
その速さに犯人達が驚いている隙に一撃を腕に叩き込む。
「せいっ!」
「はぁっ!」
攻撃を受けて銃口が上を向いているうちに、二人はISを破壊できるほどの気を拳へ練り込む。
「犬上流・空牙!」
小太郎の放った気の爪がISの腕部を貫いて火花が散る。
さらに続けて放たれた同じ攻撃でISは剥がされていき、やがて操縦者の腹部にトドメが命中して気絶する。
「父さん直伝・羅漢萬烈拳!」
イチカは目にも止まらぬ連続拳を繰り出し、ISを破壊し操縦者にも打撃を当てる。
最後の一撃が決まった時には、操縦者はボコボコにされて身動きが取れなかった。
『な、何者だ、お前達……』
ボロボロになった犯人のリーダーの言葉に、二人は声を揃えて答えた。
「「通りすがりの赤き翼だ」」
返答を聞いてリーダーの女の表情は驚愕に包まれた。
自分達の組織を壊滅させた傭兵団のメンバーが、偶然にしてもこの場に居合わせたのだから。
これでは失敗して当然かと理解したときには、既に意識が落ちていた。
「じゃあ小太郎さん、後は任せていいですか?」
「別に構へんで。お前達は学生やから、騒ぎになるのは勘弁したいんやろ?」
「その通りです。じゃあ、お願いします」
「任せとき。なんとかしとくわ」
後のことを小太郎に任せたイチカはマドカ達を連れ、避難を始めた人々に混じって外へ出て行った。
「いやぁ、大変な目にあったな」
「その割には、ラカン君達は落ち着いて行動していたよね」
「ていうか、本音ってば袖にあんな物を入れてたの?」
犯人を攻撃する際に使用していた鎖分胴の存在を初めて知った谷本が、ダボダボの袖に注目する。
「そうだよぉ。結構便利なんだよ。殴れるし縛れるし、勢いつければ非力でも威力出るし」
そういう問題なのかと、一般人側の相川達四人の表情が引きつる。
普段は生徒会の仕事や整備などの裏方仕事があるため、あまり参加はしていないが本音もイチカ達と共に修行する間柄。
簪の護衛にも役立つという理由で研鑽を積んでいる。
「さてと、ちょっと遅れたけど昼飯にするか」
「あっ、じゃああそこの中華ファミレス希望」
視線の先にある中華ファミレスチェーンの店を指差す鈴。
なんとも鈴らしいセレクトに笑いが起こり、そのまま店へと雪崩れ込んだ。
なお、翌日新聞の一面には小太郎と赤き翼の名が大きく載っていた。
おまけ
解析が終わったので返却された白式を手に冬也と箒は倉持技研へと足を運んでいた。
そこの第二研究所所長の篝火ヒカルノにより状態チェックを受け、性能向上できるかを調べる。
「どうなんだ、白式はもっと強くなれるのか?」
「できなくはないけど、これ以上やったら操縦者のアンタが大変な目にあうよ」
「強くなれるならやってくれ。これ以上、負けるわけにはいかないんだ」
歯軋りをしながら告げる冬也は、少し焦っていた。
ここまで実戦では大した活躍も無く、負けが先行している状況。
もう少しすればセカンドシフトするから、それからの方がというヒカルノの言葉にも耳を貸さず、改良を推し進める。
「分かったわよ。その代わり、後で文句言わないでよね」
「強くなるのに、文句なんてあるもんか」
そう言い残し、冬也は箒と共に研究室を出て行った。
直後にヒカルノは大きく息を吐き出す。
(まったく、あのガキは。上も上ね、データのためとはいえ、あの子の我侭をここまで許すなんて)
仕方無しに改良のための準備をしながら、ヒカルノは周囲の研究員に聞こえないように呟く。
(例の話、受けちゃおうかしら)
ヒカルノの脳裏に数日前のことが浮かぶ。
研究所からの帰り道で声を掛けられた眼鏡の男の話。
道端での話だったが、その内容は引き抜きの話だった。
真壁源五郎と名乗り名刺を手渡したその男は、白き翼の関係者。
近くの店で詳しく話を聞くと、新型機の開発の為、腕の良い技術者を雇いたいそうだ。
白き翼の機体の評判を知っているヒカルノとしては、すぐにでも飛びつきたかった。
しかし、その場での決心ができずに保留という返事をした。
以来、どうしてもこの職場の粗さが目に付くようになり、少し嫌気が差してきた。
(最後の義理で、この仕事くらいはちゃんとやりますかね)
白式の改良を終わらせたら連絡を取ってみようと、ヒカルノは急ぎキーボードを叩いた。