IS―再生の在り方   作:時語り

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新たな事件

 

臨海学校二日、この日は一日中実習訓練の予定となっている。

現在、千冬の前には専用機持ちと国家代表候補生の十人が横並びで並び、その後ろに他の生徒達がクラス毎に整列している。

 

「では、これより実習を開始する。だがその前に、オルコットはどうしたというんだ?」

 

千冬が鋭い視線を向けるが、当のセシリアは威嚇に怯むどころか気付かない。

というのも、現在の彼女の頭の中はとある人物の事でいっぱいだからだ。

 

「うふふ……。デュナミス様……」

 

今朝出会った仮面の下の顔を晒したデュナミス。

年齢を感じさせない整った顔立ちと年上特有の落ち着いた雰囲気に、セシリアはすっかり虜になっていた。

隣に立つラウラとマドカが肘で小突くが、一向に現実に戻ってこない。

しびれを切らした千冬が横に手を伸ばすと、補佐に付いていたネカネが笑顔で出席簿を渡す。

この流れを見た一組の生徒達はセシリアの末路を察した。

次の瞬間、出席簿が振り落とされ良い音とセシリアの悲鳴が浜辺に響き渡った。

遠くで今日も釣りをしている甚兵衛達にも微かに聞こえるほど。

 

「改めて、これより実習を開始する」

『はい!』

「はひ……」

 

しっかりと挨拶をする中、出席簿で叩かれた際に舌を咬んだセシリアが弱々しく返事をする。

自業自得なので文句は言えなかった。

 

「まずは専用機持ち、及び代表候補生が付き添って空中での訓練を行う。いつもと違って広範囲に飛べるからといって、速度を出し過ぎないように注意しろ」

 

イチカ達をリーダーに班ごとに分かれ、割り当てられた機体で上昇し、飛行訓練が始まった。

普段の授業での訓練は、行動範囲が限られたアリーナ内で行ってきた。

今回はそれがない海上での飛行訓練なので、自由自在に飛びまわる。

激突の心配も比較的無いので、普段はおそるおそる飛んでいる生徒も少し勇気を出して速度を上げる。

 

「あぁ……。こんなに速く飛ぶと、なんか気持ちいい……」

「夜竹さん、気持ちいいのはいいけどそろそろ速度落として。視界がブラックアウトするよ」

「おぉっと。危なかった」

 

飛行中に速度を出しすぎての視界のブラックアウト。

高速機動訓練を受けた者なら誰でも一度は経験するが、初めてなると確実にパニックになる。

それを避けるため、専用機持ちや国家代表候補生が補佐に付いている。

万が一そうなって海中に落下でもしたら、機体が塩分の含まれている海水によって腐食してしまう。

操縦者と機体の両方を守るため、イチカ達だけでなく教員も数名空中で待機している。

 

『藤島班、速度出すぎよ。そろそろ速度落とさせて』

「はい……」

 

こんな事をせず、自分の訓練をしたい冬也は渋々ながら通信してきたアーニャの指示に従う。

 

「ラウラさん、もっと速度出させて平気ですよ」

『りょ、了解しました』

 

人に教えるのに慣れていないラウラに真耶がフォローを入れ、訓練を進めさせる。

こうして全員の訓練が終わると、今度は専用機持ち達の訓練が始まる。

専用機組は順番に機体を展開して海上へ飛行し、新しい装備や普段は使えない武装を海に向けて放つ。

 

「アブソリュートゼロ!」

「二一三丸式サテライト!」

 

マドカとシャルロットは、威力の関係で普段は使えない武器を海に向けて発射。

氷の女王から放たれた冷凍エネルギーの球体は海を広範囲に凍らせ、分厚い氷を作り出す。

さらに空飛び猫の放った高出力ビームが、その氷を粉砕して打ち込まれた場所の海底が見えるほどの威力を発揮した。

続いてイチカは、能力の関係で試合では使わずにいた武器を取り出す。

 

「ひな!」

 

取り出したのはグレビティブレードと共に束が用意してくれた刀、ひな。

この武器の持つ能力は機体強化能力。

刀の柄部分に強化プログラムが組み込まれており、取り出したと同時に発動。

雷天大壮のあらゆる能力が上昇し、これまで以上の性能を発揮した。

だが、この能力は機体と操縦者に少なからず負担がかかるので、イチカはあまり使わずにいた。

たまに使っては束と密かに連絡を取り、白き翼社で負担を軽くするよう改良を重ね、今回のはその最新プログラムで行っている。

 

『いっちー、前よりかは少しマシになったよぉ。乗り手としてはどう?』

 

通信機で解析結果を知らせる本音にイチカは不満気に答えた。

 

「まだちょっと振り回されている感があるな。気で強化すれば話は別だけど」

 

残念そうなイチカの後ろの上空では、ラウラが新型の遠距離用射撃武器を撃っていた。

二一三丸式サテライトと違って実弾武器なので、飛距離と弾道の計測を行っているようだった。

その奥では冬也が最高速度を出しながら雪片を振り回し、鈴とセシリアも新装備を試している。

そして簪は、白き翼から依頼された品の機動実験を始める。

 

「いくよ、フライマンタ」

 

呼びかけに応えて今までに見たことが無い機体が展開される。

この機体は白き翼が開発した、新型量産機のプロトタイプ。

背中にある幅広の翼が名前に含まれるマンタを思わせ、何かの機器があるのか尾もちゃんとある。

 

「それが白き翼の新型か」

「はい。政府も日本製の新型機だからと、搭乗許可をくれました」

 

簪は白き翼に機体を作ってもらっているだけで、正式な所属は日本政府のIS機関。

なので、機体の提供元の依頼とはいえ政府に話を通さなくてはならない。

日本製の新型のテストということで許可は思ったよりあっさりと降り、こうしてテストを行っている。

 

「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」

 

解析担当の本音と言葉を交わし、簪は飛び立つ。

速度はあっという間に最高速に達し、その速度は誰の機体よりも速い。

さらに機動性にも優れており、方向転換も思いのまま。

燃費の方も良く、全速力で飛んでも消耗は少ない。

 

「すごい、こんなに速く飛べるなんて」

 

白き翼の開発コンセプトは災害や人命救助に役立つIS開発。

前作のアリアドネーはあらゆる状況に対応できる汎用性を求めて作られた。

今作のフライマンタは、そうした現地への物資の輸送や怪我人の搬送を目的に作られた。

そのために速度と機動性、そして何往復でもできる燃費の良さを実現させた。

 

「おぉ、速いな」

「話には聞いていたけど、こんなに速いんだ」

 

イチカとシャルロットがフライマンタの速さに目を奪われる。

この後にはイチカとシャルロット、マドカも機動実験をする予定となっている。

開発者の超曰く、量産機の予定だから誰にでも性能を発揮できるかを確認したいのだそうだ。

 

『かんちゃん、そろそろ戻って』

「わかった」

 

指示に従って着陸し、今度はイチカがフライマンタに乗ろうとしたタイミングで、旅館に待機していた教員の一人が駆け込んできた。

何かあったのか、やけに慌てている。

 

「織斑先生、大変です! ちょっとこちらへ」

 

離れた場所で小声で話し合うと、すぐさま教員は旅館へと戻っていく。

 

「緊急事態だ。訓練は中断、専用機持ち以外は自室で待機。専用機持ちは私と一緒に来い。ネカネ先生、後を頼みます」

「任せてください」

 

急な中断に何があったのだろうとざわめきつつも、早足で旅館へ戻る。

でないと千冬の怒号と出席簿が待っているからだ。

イチカ達も展開していた機体を待機状態に戻し、すぐに千冬の後を追う。

連れて来られたのはあらゆる機材が配置された部屋。

どうやら緊急事態とやらに対応する為、ここを臨時の本部のようなものにしたようだ。

 

「先ほど学園上層部より重要案件が届いた。これは国際IS委員会からの通達でもあるが、極秘事項なため覚悟が無い者は退室して構わない」

 

千冬の話した内容に、ただ事ではないと全員が判断した。

それでも退室しようとする者は一人もいない。

 

「よかろう。本日未明、アメリカとイスラエルによって共同開発された軍事用ISが暴走した。それがこの近海を通る可能性が高い」

 

それを聞いてドイツ軍所属のラウラが驚いた。

 

「教官! それは明らかな条約違反です!」

 

ISはあまりに強力な戦力となるため、軍事利用はアラスカ条約により全面的に禁止されている。

ラウラの所属するドイツ軍でも、IS部隊は量産機にて訓練をするだけ。

国家代表候補生のラウラは専用機を扱っているが、それも国が開発した条約違反に当たらない機体。

日本も同様のスタンスを取っており、軍事利用するISは開発されていない。

 

「その通りだ。今回の件で、国際IS委員会はアメリカとイスラエルに厳しい処分を与えるそうだ」

 

条約を違反して開発したうえに暴走させたのだから、当然の処置と言えるだろう。

そしてIS学園の生徒とはいえイチカ達に伝わっているのだから、当然各国政府にも連絡は行っているはず。

表向きにはできないが、当分の間イスラエルとアメリカは不利な立場になってしまうだろう。

 

「上層部及び委員会からの連絡は、暴走機の上陸を阻止するため、近場にいる我々に対応に当たってほしいという事だ。勿論、お前達は学生だから強制はしない。これが最後通告だ、退室するなら速やかに部屋を出ろ」

 

最後通告を受けたイチカ達は一言も発さずに座り続ける。

相手は軍事用だけにスペックも相当なもののはず。

現在日本にある軍事用の枠を越えていない量産機では、足止めにもなるかは分からない。

ならばと、乗り手は学生だが高スペックな専用機を扱うイチカ達に白羽の矢が立った。

それを理解しているかいないかはともかく、誰も部屋を出ようとはしない。

全員が本当の実戦に身を投じる覚悟だ。

 

「よし。では、これより情報を開示する。この情報については箝口令が敷かれ、今後二年間は委員会の監視がつくと理解しておけ」

『はい』

 

開示されたされた情報によると、暴走した機体は「銀の福音」という白銀の機体。

軍事機密レベルのスペックデータから見るに、広域殲滅攻撃を主体とした高機動型砲撃機体。

砲撃そのものの威力もかなりのもので、まともに浴びれば数発でシールドエネルギーがなくなってしまう。

 

「軍事用とはいえ、ここまでやるか……」

「亡国企業の違法改造が可愛く思えてくるな」

 

現在は超音速で移動し、一時間後には日本上空へ到達すると計算されている。

 

「近接戦のデータは無いんですか?」

「未だにデータが収集できないと回答が来た」

「二国が出し渋っているだけですわよね、それって……」

 

理由はどうあれ、データが無いなら無いで対応しなくてはならない。

飛行速度から計算しても、アプローチが可能なのは一回。

それ以上のアプローチは、相応のダメージを与えて退却し、向こうが自己回復している間を狙うしかない。

何にしても、最初のアプローチが重要となっている。

可能ならばそれで仕留め、無理でも相応のダメージは与えなければならない。

 

「それが可能な者となると……」

 

千冬の視線が二人に向けられる。

まずはこの中で圧倒的な力を持つイチカ。

次に高い機動性と零落白夜を使える白式を持つ冬也。

相手の攻撃を掻い潜って、大きなダメージを与えられそうなのはこの二人。

残りの機体では攻撃力以前に機動力で劣っている。

 

「ラカン兄、藤島。いけるか?」

 

問い掛けに対する二人の反応は違った。

冬也は当然とばかりにニヤリと笑い、イチカは難しい表情をする。

 

「ラカン兄、何か問題でもあるのか?」

「……これを見てください」

 

イチカは待機状態の雷天大壮に機器を接続し、現在の状態を表示させた。

そこにはバーニアの一部が赤く点滅し、その箇所を整備するようにと表示されている。

 

「これは?」

「さっき「ひな」を使った影響です。「ひな」の能力で強化された推進力に、機体の方が耐えられなかったみたいです」

 

説明を聞いた千冬の表情が僅かに曇る。

彼女としては不安要素の大きい冬也ではなく、実戦経験もあるイチカに戦ってもらいたかった。

幸い破損やデータに異常が出ている訳ではないので、整備して調整させすればすぐにでも動ける。

だが、今は一分一秒が惜しい。

なので千冬は致し方ないと決断した。

 

「ならば藤島に行ってもらう。ラカン兄はこのミーティングが終わったらすぐに機体の整備をしろ」

「分かりました」

「俺に任せとけよ!」

 

出番が回ってきてやる気満々の冬也だが、誰もが不安だった。

他にいないとはいえ、彼で本当に大丈夫なのかと。

 

「さて、問題はどうやって接触をかけるかだな」

 

いかに機動力が優れている白式とはいえ、銀の福音の場所まで単体で飛んだら零落白夜が使えない。

強力な攻撃能力も、エネルギーが無くなっては意味が無い。

そうなると運搬役が必要になってくる。

しかし残念ながら、ここにいる全員の機体では上陸されるギリギリの位置でないとアプローチができない。

イチカの雷天大壮なら問題無いのだが、整備が必要な箇所がバーニアなので無理はさせられない。

そう考えていると、セシリアが挙手する。

 

「織斑先生。実は国から高機動用パッケージが届いています」

「確かオルコットが受けた高機動下での訓練時間は、十八時間だったな」

 

訓練時間としては問題無い。

ならば後の問題はすぐに使えるかどうかだ。

 

「すぐに使えるのか?」

「先ほどの訓練の合間に準備していましたが、まだ途中なので後三十分は必要です」

「三十分か……」

 

ギリギリとまではいかないが、かなり際どい計算になる。

上陸まで一時間を切っている以上は、三十分も待っている余裕は無い。

どうしようかと悩んでいると、何かを思いついたのか鈴が発言する。

 

「ねぇイチカ。さっき試してたフライマンタって使えないの? あれって高機動の物資輸送用でしょ。量産機用に調整してたからセシリアがそれに乗れば」

 

この発言に全員が目を見開いた。

鈴の言う通り、フライマンタはここにあるどの機体よりも速く、物を大量に運ぶ為の出力も備わっている。

加えて量産機用に調整しているので、セシリアでも操縦する事は可能。

問題があるとすれば白き翼に許可を取る必要があるくらいだ。

 

「ラカン兄、すぐにスプリングフィールド社長に連絡を取れるか?」

「やってみます」

 

用意されている設備を借りてすぐさまネギに連絡を取る。

イチカが連絡したお陰でスムーズに電話は繋がり、音声だけで直接千冬と話すことになった。

音声オンリーの画面に向かって千冬がネギに重要な箇所を隠して状況を伝える。

 

『分かりました。非常事態ですので協力しましょう』

「ご理解いただき感謝する」

 

協力を得られた事に安堵する一同だが、まだネギの話は終わっていない。

 

『ですが、一つだけ忠告しておきます』

「なんでしょう」

『そちらにあるフライマンタは、機動力のデータを取る為だけの状態です。なので、武装が一切付いていません』

 

武装無しという忠告に、乗る予定にあるセシリアの背筋に寒気が走る。

高火力を持つ相手の下へ行くというのに、乗り込む機体に武装が無いのだから。

 

『それでもよろしいのでしたら、お使いください』

 

この返答に千冬はすぐに返事ができずにいた。

乗り込むのが軍人か自分なら即決できたが、乗るのは預かっている生徒。

武装が無い機体に乗せて軍用機の下へ行かせるのは、どうしてもためらってしまう。

なかなか決断が下せないでいると、マドカが手を挙げる。

 

「私が乗ります。私なら、武装が無くとも戦えます」

 

握り拳を前に出し、これで戦えるとアピールする。

それに待ったをかけたのはイチカだ。

 

「待て、拳でやるんなら俺が乗った方が」

「兄様は自分の機体の整備を。でないと、多分あいつには勝てない」

 

暗に冬也が負けると決めている言い回しに、冬也がマドカを睨む。

だが、マドカはまるで気にせず自分が乗ると千冬に告げる。

 

「お願いです。どうか許可を」

 

言い分は千冬も理解はしている。

しかし、それとこれとは話が別だ。

武器が無くとも戦えるからといって、はいどうぞという訳にはいかない。

千冬は必死で思考を巡らせ、策を練って決断した。

 

「分かりました。機体をお借りします」

『了解です。ご武運を』

 

ネギとの通信は切れ、室内が静寂に包まれる。

大きく深呼吸をした千冬は練った策を告げる。

 

「十分後、作戦を開始する。フライマンタにはラカン妹に乗ってもらう」

 

この決断にセシリアはほっとした反面、武装が無くとも乗ると言えなかったのが悔しくなった。

 

「さらにフライマンタの護衛役としてボーデヴィッヒも同行。二人は輸送後、戦闘圏より離脱。藤島がやられたらボーデヴィッヒが相手を牽制しているうちに回収し、即座に撤退だ」

「はい!」

 

護衛役を任されたラウラが返事をする。

軍で隊長としての経験があるラウラなら、多少の現場判断も任せられると判断しての采配だ。

 

「オルコットとラカン兄はすぐさま作業に入れ。更識は二人のサポートに付いてやれ」

「「「はい!」」」

「整備が終了次第、鳳とヴァンデンバーグも伴って第二陣として出撃してもらうぞ」

『はい!』

「その前に終わらせてやるさ」

 

拳を掌に叩きつけて息巻く冬也だが、あいにく周囲の期待は弱い。

倒してくれたらラッキー程度にしか思わないほどに。

これまでの試合の内容からして、軍事用の機体には勝てないという現実的な判断で。

それを理解せずに夢を見ているのは冬也本人と、自室で冬也の活躍を期待している箒だけ。

 

「では十分後、藤島とボーデヴィッヒとラカン妹は海岸に集合。作業をする三人も急げ!」

『はい!』

 

駆け足で部屋を出て海岸へ向かうマドカとラウラと冬也。

それをロビーで寛ぎながら見かけたダーナは呟く。

 

「おやおや、あの二人。何やらよくない相が出ているねぇ……」

 

 

おまけ

 

薄暗い部屋の一角で映る二つのモニター。

表示されているのは暴走している銀の福音のデータ。

そのデータを採取した報告書のようなものが、隣のモニターにまとめられていく。

書き綴られていく報告書の題名にはこう記されていた。

 

コアへの直接アクセスによる外部からの強制操縦実験

 

表示されているデータは直接アクセスによるコアへの負担。

強制操縦による機体、及び操縦者への負担。

そして各種機能の作動具合。

それらのデータを纏めている者は願った。

誰でもいい。

早く止めに来て戦闘時のデータを取らせると。

 

 

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