IS―再生の在り方   作:時語り

4 / 27
プロローグ 家族&友人編

 

家族編

 

束が千冬にイチカとの事を連絡し、対談の日程調整が行われる。

決定した日付がイチカに伝わり、その日がやってきた。

アジトの中庭で緊張した面持ちで待つイチカ。

そこへ、前回と同じように巨大なニンジンが振ってきた。

気を遣ってか、赤き翼のメンバーは全員出払っているので、誰も騒いで出てきたりしない。

ニンジンの一部が開き、まずは束が、続いて四年ぶりに会う姉の千冬が姿を現した。

 

「一夏……なのか?」

 

四年ぶりに会ったイチカは、以前とは比べられないほど逞しく成長していた。

体つきもそうだが、発する雰囲気が以前と大きく違う。

生き抜いてきた戦士のような気迫が溢れている。

そんな成長した姿を見た千冬は、自分ではここまで育てられなかったと実感する。

 

「あぁ、そうだよ千冬姉」

 

四年ぶりにその呼び方を口にしたイチカ。

若干照れくさい気がしたが、仲直りするならとそう呼んだ。

すると千冬は躊躇いがちな反応を見せた。

 

「まだ私を、姉と呼んでくれるのか? あんなに厳しい態度をとっていたのに……」

 

千冬からすれば、恨まれての罵声も暴言も受けるつもりでいた。

ところが実際に会ってみれば、温かく迎えられて戸惑ってしまった。

 

「俺のためを思ってだろ? ごめんな、気付かなくて」

 

謝るどころか逆に先に謝られ、千冬はもう自制ができなかった。

 

「お前が謝る事は無い! 悪いのは、悪いのは私だったんだ!」

 

拳を握り締める千冬の脳裏に、あの日の出来事が蘇る。

 

一夏が家出をした数時間後、千冬はバイト先から帰宅した。

すると一夏が見当たらないので、もう一人の弟に聞くが知らないと答えた。

不安になって部屋に入ってみると、リュックと着替えの一部が無くなっていた。

さらに詳しく探すと、先日見たときはあった一夏の貯金箱、そして一夏名義の預金通帳まで。

辺りはすっかり暗くなっており、千冬は夕食の事を尋ねるもう一人の弟を放って、必死に心当たりを探した。

束の下、五反田家、学校、よく買い物に行くスーパー、公園にコンビニまでも。

しかし、どこにもいなかった。

心神喪失で家に帰ると、既にもう一人の弟はカップ麺を食べて寝ていた。

そして気付くと、留守番電話が一件入っていた。

虚ろな気持ちでそれを再生すると、テオドラからのメッセージが入っていた。

急いでメッセージにあった連絡先に電話すると、テオドラから事の全てを聞かされた。

家出の原因の一端が自分にもあったという事まで。

涙ぐむ千冬を受話器の向こうで察してか、詳しい話は翌日に織斑家でする運びとなった。

 

『あなたが?』

『うむ、テオドラ・ラカンという。こっちは知り合いの弁護士のゲーデルじゃ』

 

織斑家で顔を合わせた二人は、一夏について話し合う。

最初は千冬も養子縁組に反対していたが、ゲーデルに生活環境や経済状況を突っ込まれる。

さらにゲーデルが調査した、一夏に対するもう一人の弟の態度、周りの一夏への言動。

千冬が付き合い方を変えても、それがある以上、一夏はいつか壊れるだろうと言われた。

それはなんとなく千冬も察していた。

今朝の朝食の席で一夏が養子に出るかもしれないと、もう一人の弟に伝えた。

すると、出来損ないがいなくなって清々する、あいつの部屋は僕の物置にしようと笑っていた。

今も、自分には関係の無い事だと外へ遊びに行っている。

そうした態度から、一夏は自分の目の届いていない場所でどんな日常を送っていたのか、なんとなく察してしまった。

そしてそれがゲーテルの説明で決定的となり、決断を下した。

 

『一夏を、お願い……します』

 

あいつの傍に一夏を置いておけない、それが千冬の答えだった。

生活費のため、バイトで家を空けがちな千冬が常に見張る訳にもいかない。

千冬は身が引き裂ける思いで頭を下げた。

同時に、自分がやってきた事が全て裏目だった事を悔いた。

できるはずのない後戻りができるのならば、後戻りしたいと願うほどに。

 

「私が、もっとお前の気持ちを考えてやれば……」

「もういいよ、千冬姉。お互いに相手の気持ちを考えず、悪かったって事で」

 

自分を許せないでいる千冬の手を握り、両成敗の結論を口にする。

 

「……あぁ、そうだな」

 

ようやく千冬は、イチカに見せたいと思っていた自身の笑みを見せられた。

それから二人でこれまでの空白を埋めるように語り合う。

時折、昔やらかした事で千冬が落ち込んだりするシーンもあったが、イチカと束のフォローでなんとか立ち直った。

 

「そうだ、イチカ。一応、耳には入れておいてくれ」

「何を?」

「……冬也も養子にもらわれていった」

 

織斑冬也。

イチカの元双子の兄にして、千冬にとってはもう一人の弟。

自分よりできないイチカを常に見下し、家事やらを押し付けていた。

才能は確かにあるし、勉強も運動も常にトップ。

その上要領がいいので、何事も目立って注目を浴びている。

だが、性格が人付き合いにも出ているためか、腰巾着はいても友人と呼べる存在はいなかった。

本人はそんな事に気付かず、取り巻きを大勢引き連れていい気になっていたが。

 

「そうなんだ……。どこに?」

「藤島家という金持ちの家だ。子宝に恵まれず、前々から冬也に目をつけていたそうだ。話がきた時、私の前では戸惑っていたくせに、これで貧乏生活ともオサラバだ、僕に相応しい社交の場が待っている。と隠れて言っていたのを聞いた」

 

ようやく千冬の気持ちを知れたイチカからすれば、ぶん殴りたい気持ちだった。

どんな気持ちで千冬が必死にバイトをしていたのか、どんな気持ちで育てていたのか。

それを冬也に思い知らせたいとイチカは思った。

 

「お前が引き取られてから、あいつを更生させようとはしていたんだが……」

 

どんなに頼んでも、叱っても、相変わらず家事はしない。

暇さえあれば取り巻き相手に才能を披露し、有頂天になって満足している。

そして本性を知らないか、恋心で盲目的な女子に歓声を浴び、調子に乗り続けていた。

 

「まぁ、お陰で養子の話はイチカと違ってすぐに了承したがな」

 

さすがに千冬としても冬也の行いには呆れ果て、更生の余地なしと見限ったようだ。

と、ここでイチカはある事に気付いた。

 

「じゃあ千冬姉、今は一人暮らしなのか?」

「あぁ、そうだが?」

 

同居していた双子の弟がどちらも養子に出たので、現在織斑家にいるのは千冬しかいない。

 

「……片付けや家事が苦手、いや下手、いや壊滅的な千冬姉が一人暮らし?」

「……そのうち、ニュースのゴミ屋敷特集に映るかもしれん」

 

両手で顔を覆った千冬は、暗い空気を発する。

この様子から、よほど酷いのかとイチカはゴミ屋敷になりそうな元実家を想像した。

 

「近々行くから、頑張って片付けような」

「……あぁ」

「私とくーちゃんも手伝うよ、ちーちゃん」

「……あぁ」

「俺の学校のダチも何人か呼ぶよ。あいつら、俺に借りがあるから断れないだろ」

 

そう言って携帯を取り出したイチカは、そのダチへと連絡を取る。

 

「あっ、もしもし。刀太か? 実はコレコレこういう訳でさ、手伝ってくれ。九郎丸や三太達も呼んでいいからさ」

 

電話の先にいるであろう友人と楽しそうに会話する姿に、千冬はほっとする。

あの時イチカを預けたのは間違いではなかったと、今のイチカの表情からそれを感じ取った。

 

「よぉし、じゃあ束さんも張り切っちゃうよ! お掃除ロボ、五十体くらい引き連れて行くよ!」

「それはやめろ」

 

 

友人編

 

特に予定も無い日曜日、五反田家二階の一室でゲーム大会が開かれていた。

予定が無いからこそ、友人で集まって遊んでいるのだと言わんばかりに。

 

「ちょっ、数馬! なんだ、そのえげつねぇコンボはっ!?」

「いや、ちょっと使ってみたくてな。お前相手なら出しやすいと思って」

 

テレビの画面の中では数馬と呼ばれた少年――御手洗数馬のコンボにより、弾の使用キャラの体力がガンガン削られていた。

 

「お兄、相変わらず弱いね。なんかもう、コンボを練習しているだけみたい」

「ちょうどいいサンドバックよね」

「ちっくしょぉぉぉぉっ!」

 

対戦している二人の後ろにいる少女。

弾の妹の五反田蘭と、弾と数馬の同級生の凰鈴音。

彼女達の発言と相手の体力を半分も削れずに負けた事に弾は叫んだ。

直後、食堂のある下の階から祖父の厳がうるせぇ、とお玉を片手に乗り込んできて弾に叩きつけた。

 

「痛ぇ……」

 

お玉を叩きつけられた後、なんとなくで外出した四人。

弾は額にあるお玉の痕を擦りながら歩いている。

 

「自業自得よ。あんなに騒ぐから」

「全く、アホな友人を持ったもんだ」

「これが私のお兄だなんて……」

 

容赦の無い友人と妹の言い分に、弾は半泣きで叫んだ。

 

「お前ら最近、俺の扱い酷くね!?」

『だって弾(お兄)だし』

 

きっぱりと言われた上に意味が分からない弾は、がっくりと膝を着く。

その弾を放って、三人はスタスタ歩いていく。

やがて置いていかれたのに気付いた弾が全速力で走って追いつき、息を切らす。

 

「頼むから、置いていくのはやめろよ」

「断る」

 

弾の頼みをきっぱり断る数馬。

ここまでくると、いっそ清々しささえ覚える。

そんなやりとりをしながら歩いていると、弾と蘭の目にある家が映った。

 

「あっ……」

「どうかした? 蘭」

「えっ、いえ、ちょっと……」

 

二人の目に入ったのは織斑家。

かつてあそこには弾にとっては親友、蘭にとっては初恋相手がいた。

しかし彼はどこかへ養子に出て、以来一度も会えていない。

たまに連絡が来るが、不定期な上に期間が開くときは結構開く。

半年以上連絡がつかなかった時も。

引き取り先が傭兵家業なため、何の拍子に迷惑が掛かるか分からないからと、今の家の住所も教えてくれなかった。

 

「そっか、あの家が前にお前が言っていた……」

 

事情を聞いた事がある数馬が、その家に注目する。

今いる位置からは屋根と二階部分しか見えない。

 

「元あいつの家でもある場所ね」

 

事を理解した鈴が忌々しい表情をする。

彼女は弾とは小五で転校して来てからの付き合い。

だが、転校当初は外国人なのと日本語がまだ上手く喋れない事、慣れない環境に戸惑っている事から虐めを受けた。

 

「あぁ、もう! 冬也のバカを思い出しちゃったじゃない! 腹立たしい!」

 

その主犯格でリーダー的存在だったのが、織斑冬也。

ISの件で仲の良かった箒が転校してしまったのと、憂さ晴らし相手の双子の弟がいなくなった彼にとって、鈴は格好のターゲットだった。

 

「鈴さん、落ち着いて」

「そうだよ。それにあいつはもういないんだし」

 

その時に最初に救いの手を差し伸べようと思ったのが、弾だった。

日に日に暗くなっていく鈴が、あまりにも一夏に被って見えたから。

そこで蘭と数馬にも話をし、反冬也派の男子と女子の協力を取り付けて鈴を守ってきた。

さらに鈴自身も周りに支えられ、変わらなきゃと決意。

鈴が一人でいるタイミングを狙って暴言を吐き捨てるいじめっ子に、ドロップキックをかました。

他のいじめっ子にも、日本に来る前に齧った程度の中国拳法でなぎ払い、返り討ちにしてみせた。

それが翌日には友人達に伝わり、一躍クラスの反冬也派のヒーローとなった。

ちなみに冬也は、自分の子分が負けるやいなや舌打ちをしてその場から去ってばかりいた。

 

「そういえばアイツ、どこに引き取られたんだっけ?」

「藤島っていう金持ちの家だよ。あいつの本性知らずに、能力だけで判断したんだろうな」

「てことは、千冬さんはあの家で一人暮らしなのか」

 

ふと弾が呟いた後、四人に沈黙が流れる。

そこへ、後ろから声が掛けられた。

 

「すんません、ちょっと道聞いてもいいっすか?」

 

フランクな口調に振り向くと、同い年くらいの男女が五人いた。

 

「実はここに来いって、ダチに言われたんすけど」

 

五人の中のツンツン頭に八重歯の少年――近衛刀太が携帯に表示させた地図を見せる。

それを見た弾と蘭は驚いた。

そこに表示されている家こそが、たった今見ていた織斑家だったからである。

 

「えっと、あの屋根の家です」

 

戸惑いつつも屋根を指差す蘭。

少年はお礼を言うと他の四人を引き連れて歩き出す。

その際、長髪をした少女のような少年――時坂九郎丸の話を聞いて弾と蘭は耳を疑う事になる。

 

「それにしてもイチカ君、前はこんな所に住んでいたんだね」

 

弾と蘭は、彼らの方を振り向いたまま固まった。

彼が今、何を言ったのか。

耳に届いた名前は本当なのか。

同名の別人じゃないのか。

それでも確かめずにはいられなかった。

 

「あ、あのさ、今言ったイチカって、ひょっとしてイチカ・ラカンかっ!?」

 

電話で聞いたことのある、今のイチカの名前。

織斑の姓を捨て、新たな姓を名乗る親友の名前。

弾が目に隈がある少年――佐々木三太に尋ねると、その少年はオドオドしながら答えた。

 

「そ、そうだけど……。アンタ、イチカの知り合い?」

「あそこに呼び出したのもイチカかっ!?」

「あ、あぁ……」

 

肯定の返事を聞くや否や、弾は駆け出す。

あの別れの電話以来、近くは通っても立ち寄ることはなかった親友の家へ。

それに続くように蘭も駆け出す。

最後に見た彼の姿は、ギリギリで踏みとどまっているような危ない雰囲気。

電話の向こうでは月日と共に声色が変わり、段々と明るくなっていた。

彼がそこへいるという確信は無いが、今の彼を直にこの目で見たい、ただそれだけの想いで駆け出した。

 

「はぁっ! はっ……」

 

全力疾走で最後の角を曲がると、家の前で携帯を眺めているイチカの姿があった。

あの日から四年の間に随分と逞しくなり、顔には二箇所傷ができている。

しかし、前のような危うい雰囲気は無い。

元実家の掃除の手伝いに呼び出した刀太達を待ちかねているかのように、鼻歌を歌っていた。

 

「一夏……さん?」

 

思わず声に出してイチカを呼ぶ蘭。

その声に振り向いたイチカは、四年ぶりに親友とその妹を目にして驚く。

 

「弾……蘭……」

「一夏さん!」

 

わき目も振らずにイチカに駆け寄り、胸へ飛び込む蘭。

突然の再会に戸惑いながらも、イチカはしっかりと受け止める。

感動からか嬉しさからか、蘭の目からは大粒の涙が流れている。

そして弾は。

 

「一夏! すまなかったぁ!」

 

追いついた鈴や数馬達の目の前でイチカに土下座した。

 

「俺、お前の親友のつもりだったのに! お前の味方だったのに! 何にもできなかった! 許してくれ!」

 

てっきり急にいなくなった事を責められるかと思っていたが、逆に謝られてしまった。

弾も弾で、イチカがいなくなったのは自分が守れなかったからだと思っていたようだ。

 

「お前が勝手にいなくなった時は怒ったよ! でも、冷静になったら、俺がもっとお前の為に動けていればとも思ったんだよ! そんでちゃんと考えてみたら、結局俺はお前の為に何もしてやれなかったんだって気付いたんだ! でなかったら、お前養子に出なかったし転校もしなかったろ!」

 

普段はあまり真面目でなく、軽い性格の弾。

それが親友のために天下の往来にも関わらず、土下座しての謝罪。

そしてここまで真剣にイチカという友人の事を考えていたのかと、鈴と数馬は初めて気付いた。

 

「謝って済まないなら、何発でも殴ってくれていい! でも、お前さえよければ、また友達としてやり直させてくれ!」

 

言いたいことを言い切ったのか、静寂がその場を包む。

急に大声が聞こえたので、家の中にいた千冬が様子を見に来た。

話から大体のことを察して何もしてこないが、イチカにアイコンタクトを飛ばしている。

イチカは蘭を千冬に預け、土下座したままの弾に歩み寄る。

 

「……やっぱお前、バカだな」

「っ!」

「友達でもない奴に連絡するかよ、バカ」

 

片膝を着いてそう言うと、弾は顔を上げる。

 

「また会えて嬉しいぜ、親友!」

 

そう言って拳を突き出す。

幼い頃に親友の証だと決めた二人の約束。

弾もそれを思い出し、自分の拳をイチカの拳と合わせる。

 

「ぐすっ。俺もまた会えて嬉しいぜ、親友!」

 

浮かんできた涙を拭い、最高の笑みを見せてやる。

それが弾なりの、再会した親友への感謝の表れだった。

そんな二人のやり取りを、鈴と数馬は感心して見ていた。

四年という空白の歳月を経ても途切れなかった、二人の友情に。

 

「あいつにあぁいう一面があるとはな」

「アイツはアイツなりに、真面目に考えていたのね」

 

こうして友情を確かめ合った二人なのだが。

 

「ところでお前達、人の家の前で何をやってくれているんだ?」

 

千冬からの怒気を含んだ声に、二人はゆっくりと千冬の方を向く。

 

「お前達の友情は分かったが、ご近所の評判とか周りの目とか考えているか? ん?」

 

指摘されてイチカも弾も始めて気付くが、時既に遅し。

明日には何かしらの評判がご近所さんに広まっているだろう。

 

「この、バカ共が!」

 

制裁を加えるために飛び掛る千冬。

弾は避けられず脳天に一撃を浴びたが、イチカは余裕を持って回避した。

ラカン達に四年も鍛えられ、傭兵としての仕事を経験しているイチカにとってこれくらい造作でもない。

 

「待て、イチカ!」

「誰が待つか!」

 

追いかける千冬を瞬動術で引き離すイチカ。

いくら千冬でも瞬動相手では追いつけない。

 

「ちょっ、待てお前! なんだ、その瞬間移動っぽいのは!」

 

文句を言いながら追いかける千冬と、連続瞬動で逃げるイチカ。

その二人の背中を見送りながら、鈴と数馬と蘭は呆然と立ち尽くしていた。

 

「何? アイツのあの動き……」

「一夏さん、しばらく見ない間に随分アグレッシブに……」

「アグレッシブってレベルか? あれ……」

「というか、誰かあの赤毛野郎の心配してやれよ」

 

刀太に突っ込まれるまで、三人揃って蹲っている弾の事を忘れていた。

 

 

蘭SIDE

 

久々会えた初恋の人は、とても逞しくなっていました。

よくある筋肉ムキムキのマッチョじゃなくて、引き締まった男――というより漢の体に。

思わず抱きついた時に感じた胸板の硬さは、しばらく忘れられません。

 

「一夏さん……」

 

私の中にあった一夏さんは、いつも辛そうで、笑ってもどこか作っている感がありました。

勿論、その原因は分かっていますが、私は報復が怖くて何もできませんでした。

一夏さんが養子に出ていなくなってからは、毎日その事ばかり悔いていました。

でも、今の一夏さんは心から笑顔でいます。

私やお兄からすれば辛かったですが、一夏さんにとっては養子に行ったのは無駄ではなかったみたいです。

 

「今度こそ、放しませんよ」

 

手に入れた今の一夏さん、いえ、イチカさんとの再会。

住んでいるところは離れていても、私はあなたと共に生きたいです。

 

 

鈴SIDE

 

弾と蘭の話を聞いて想像していた一夏という人物の印象は、大した奴。

優秀な姉と双子の兄にもめげず、堕ちずに踏み止まる姿を聞いて。

どんなに蔑まれてもくじけず、周りが敵だらけでも決して壊れない。

並大抵の精神力じゃ、そんな環境で壊れずにいられるはずがない。

私は弾達が手を差し伸ばしてくれなければ、堕ちて壊れていたかもしれない。

気付けば、話だけに聞くそいつに会いたいと思うようになった。

昔の写真を見せてもらい、今はどんな姿に成長しているか想像して顔が熱くなった。

私の初恋相手は未だ会った事もない、むかつく冬也の双子の弟。

一夏を知る反冬也派の話によると、取り巻きや腰巾着をやりたいなら冬也、友達になるなら一夏だそうだ。

そいつらも、冬也グループからの虐めや報復が怖くて、弾以上に一夏に何もできなかったらしいけど。

 

「なんとなく、それが分かるわね」

 

むかつく冬也の周りにいたのは、おべっかやお世辞を言う輩ばかり。

でも、イチカの周りには、ゴミ屋敷のような家の掃除を手伝わされているのに、笑っている顔ばかり。

久々に会った弾と蘭、呼び出した刀太って人達だけじゃない。

私同様に初めて会った数馬も、仲違いしていたという千冬さんも。

何か乱入してきた篠ノ之博士と、助手のクロエとかいう子も。

誰もが心の底から笑ってイチカと交流していた。

勿論、私も。

 

「私の選択は間違ってなかった……」

 

会った事もない相手に初恋なんて、思春期の幻想だと思っていた。

でも、私の勘は間違っていなかった。

あいつ、イチカは恋するに値する男だ。

冬也なんて比べ物にならない、イチカは人として大事な物をたくさん持っている。

何の才能も全く無いだなんて誰が言ったのよ、こいつは凄い才能を持っているじゃない。

人間として必要な物を持っているという、簡単には手に入らない才能を。

 

 

おまけ

 

掃除開始前に弾から鈴と数馬を紹介され、イチカも刀太達を紹介。

その際に弾は、九郎丸を女と勘違いしたり、結城夏凛を口説こうとして睨まれたり。

三太の彼女の水無瀬小夜子も口説こうとして、三太以外の男には興味が無いとあっさりフられた。

そして全員で取り掛かった織斑家の清掃作業。

久方ぶりに見た家の中は、これでもかとばかりに混沌と化していた。

助っ人に呼んだ刀太達だけでなく、久方ぶりに会った弾達も呆気にとられるほど。

 

「やっほー! ちーちゃん、いっくん!」

 

さらに掃除中、束が本当にお掃除ロボを大量に引き連れてきた。

織斑家内は混乱し、余計に手間がかかってしまった。

昼食時に五反田食堂に行くと、イチカは弾と蘭の母親の蓮に泣きながら抱きつかれ、祖父の厳にはお玉で数回頭を殴られた。

 

 




UQの若手+αは中学の同級生にしてみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。