藤島家主宰のイベントでIS展示を行い、それに冬也が触れたら起動した。
これが、冬也がISを動かしてしまった経緯である。
報道を見たイチカが、男は自分にしか動かせないはずじゃないのかと、束に連絡を取ると。
『多分、いっくんの生体データとほぼ一致したからだよ。一卵性の双子だから、おおよそ同じでも不思議じゃないもん』
と、不満気に言っていた。
よほど一夏以外の男がISを動かしたのが気に入らないのだろう。
『でもまぁ、いっくんじゃないから完全な力は発揮できないよ。訓練しても7、8割程度が限界だね』
一卵性の双子とはいえ、コアが読み取る生体データともなれば微妙な違いも読み取る。
起動できるレベルで反応しても、その力を完全に発揮するとは限らない。
微妙な違いが、結果として最大限に力を発揮するのを妨げるのだそうだ。
なので、わざわざ設定変更するつもりはなく、そのまま放置しておくらしい。
「ていうか、ISって生体データに反応していたんですか?」
『いっくんに対してだけはね。他は染色体データに反応するようにしているんだ』
前に男はイチカにだけ反応すると言っていたが、ようやくその謎が解けた。
つまりイチカの生体データを削除し、男性の染色体に反応するようにすれば、誰でも乗れるようになるのだろう。
『で、いっくんはどうするの? このむかつくバカのせいで、男のIS適性判定なんてのやるみたいだよ』
束の中での冬也の印象は、一番お気に入りのイチカを苛めるバカ野郎。
その冬也がISを起動させた。
それにより、他にも起動させられる男がいるのでは、という世論が生まれても不思議ではない。
これにより男性操縦者探しの判定が行われれば、間違いなくイチカは起動させるだろう。
現にテレビでは、とある学校の男子生徒を対象とした判定が、生中継で行われている。
「そのことをネギさんに相談したら、夕方くらいに記者会見をすることになりました」
どうせバレるなら、こっちからバラそうと考えて。
『ほうほう、分かったよ。録画準備して待ってるよ』
「いやいや、何で録画するんですか?」
『せっかくのいっくんの晴れ姿を録画しなくて、何を録画するっていうのさ!』
「……もう勝手にしてください」
疲れた表情で電話を切るイチカ。
ふと向けたテレビに映っているのは、冬也についての討論。
まるで、自分が選ばれた人間のように胸を張ってインタビューに応えている双子の兄の映像を見つつ、会見用に服を準備する。
「ワイシャツに皺は無し、ズボンも上着も問題なし」
準備と言っても、学生服の状態を確認するだけ。
そこへ携帯が鳴る。
表示されている名前は刀奈。
「もしもし」
『あっ、イチカ? 今大丈夫?』
「大丈夫ですけど、何か?」
『簪ちゃんから、午後にイチカの事を公表する記者会見だって聞いてね。心配して電話しちゃった』
今の刀奈はロシアの国家代表にして、IS専門の高校、IS学園で一年生ながら生徒会長を勤めている。
最も、仕事からすぐ逃げるため、たまに虚からの愚痴の電話やメールが来る。
さらに実家の裏家業の方を正式に継いだため、学校では刀奈ではなく楯無の名を名乗っている。
「心配するほどでもないと思いますけど」
『そうもいかないのが世の常よ。家に記者とか研究者とか、どっかのスパイが押し寄せるわよ?』
冬也が養子に行った藤島家では、権力を使ってある程度押さえているらしい。
「最強傭兵軍団の住むここへ、乗り込める度胸のあるスパイが何人いるでしょうね」
『……言われてみればそうだったわね。確かに心配する必要は無かったわね』
「でしょう?」
極稀にそんな命知らずが現れるが、悉く返り討ちにあっている。
『でも、学校の方にも押し寄せてくるんじゃない?』
「学校には迷惑を掛けないよう、アルビレオさんやデュナミスさん、ヘルマンさんが手を回してくれました」
『そういえば、そういうの方面に顔の利く人がいたんだっけね』
何かと手広くやっている傭兵団なので、各方面に顔が利くようになっていた。
今述べた三人も、割と各方面に知り合いがいる。
「えぇ、雪広財閥も護衛に動いてくれていますし」
『そっか、そこからの支援もあったわね』
こういう事態に備えての白き翼の対処なので、雪広財閥からも支援の手は届いている。
「なので、心配御無用です」
『分かったわ。じゃあ最後にお姉さんからのお願い。刀奈、愛しているって言っ――』
『見つけましたよ、お嬢様! 仕事放って何をしているのですか!』
電話口の向こうから、突如聞こえた虚の声。
大方サボって電話を掛けてきたんだな、とイチカは思った。
『げぇっ! 虚ちゃん!?』
『何がげぇっ! ですか! ほら、さっさと仕事してください!』
『ちょっ、やめ! 襟引っ張らないで! 首が、首が――プッ、ツーツーツー』
突然切れた電話だが、直前の会話から理由は明らか。
とりあえずイチカは刀奈が無事である事を祈り、IS学園のある方向に合掌した。
その日の午後、白き翼の緊急記者会見が開かれた。
当初はさほど関心が高くなかったマスコミも、会見理由を知って殺到した。
白き翼で男性IS操縦者を確認しているというのだから。
「では、これより記者会見を開始します。私は進行役を勤めます、フェイト・アーウェルンクスです」
進行役を勤める白き翼の役員、フェイトが壇上に立って挨拶をする。
注目はマスコミの視線とフラッシュを浴びているのは、壇上の席に座っている三人。
雪広財閥の次女で、白き翼のCEOを務めている雪広あやか。
社長のネギ・スプリングフィールド。
そして新たに発見された男性IS操縦者、イチカ・ラカン。
舞台袖では、不安そうにマドカとシャルロットが会見の様子を見守っている。
さらに、有事に備えて赤き翼からナギと甚兵衛、若手の犬上小太郎と灰人が控えている。
「今回は質問形式で行うとの事なので、質問がある方は挙手をお願いします」
すると会場にいるマスコミほぼ全員が挙手をする。
挙手をしていないのは、撮影中のカメラマンくらいだ。
「では、そちらの方」
「はい。白き翼では、いつから彼がISに乗れると知っていたのですか?」
質問に答えるため、マイクを手に立ち上がったのはあやか。
「約二年前、イチカ君が中学一年生の頃です。彼のお義父様の案内で我が社を訪れた際、ISに触れて起動をさせました」
束によってイチカが起動させられるようにコアが設計されていたなど、とても言えるはずが無い。
なので、こういう形で発表する事にした。
勿論、束から許可も得ている。
「何故、その時に発表しなかったのですか?」
「イチカ君の安全を確保するためです。彼の身の安全を考えれば、即座に発表するのは危険と判断しました。それは先日見つかった藤島冬也君の件でも、お分かりいただけるかと」
あやかの言う通り、冬也は通学中や外出時、あらゆる方面の人物から接触された。
解剖させろという研究者、男がISを動かすなという女尊男卑に染まった女性からの襲撃。
さらには他国の工作員による拉致未遂。
いずれも藤島家や政府の手配した護衛により防がれたが、その報道は連日新聞に載った。
テレビやネット上でもその話題は当然取り上げられ、知らないマスコミはいない。
「私達は、彼がISを動かせる事を発表すればイチカ君がそのような目に会うと予想し、これを重要機密としました」
なので、こうした発表をしても記者は誰も不審に思わなかった。
「では、今の彼の安全は?」
別の記者が挙手をして尋ねる。
この質問にはあやかに代わってネギが答える。
「彼はこの約二年のうちに、密かに我が社の企業代表として登録しました。勿論、彼とご両親にも説明をして納得された上での契約です」
契約の書類を見せながら説明するネギに、フラッシュが集中する。
「これにより、彼に手を出すという事は彼の両親の所属する赤き翼だけでなく、我が社も敵に回すという事になります」
さり気なく出した赤き翼の名を聞き、マスコミからはどよめきが上がる。
今や赤き翼の名は情報通のマスコミなら、誰しもが知っている。
人数はさほど多くないが、誰もが腕の立つ達人クラスで構成された世界最強の傭兵団。
ISさえも素手や剣で破壊するという噂がある。
彼らがその気になれば、小国どころかどんな軍事国家も敵わないという都市伝説も。
各国要人とも繋がりがあり、そういった所から仕事を請け負っているという話まで。
「それと、お気づきになっている方もいるでしょう。イチカ君と冬也君が似ている事に」
ネギの口にした事を気にしている記者は大勢いた。
知り合いに頼み、急ぎ調査を依頼している記者もいる。
「いずれ分かる事なのでお教えします。彼も冬也君と同じく養子に出た、かのブリュンヒルデ、織斑千冬さんの弟です」
この発表に、再びシャッター音とフラッシュが集中する。
「加えて、今回の件でイチカ君は来年度からIS学園に通う事が決定しています。約二年、彼の存在を隠していたのは、彼がIS学園に入れる年齢まで待っていたためでもあります」
IS学園は日本に建てられているが、どの国にも所属していない。
どの国からも干渉を受けず、干渉した国は国際IS委員会により罰せられる。
なので、世界初の男性IS操縦者の保護先にはもってこい場所。
イチカも冬也も既に学園側から入学の許可を得て、来年度からの入学が決定している。
「どうでしょう。これだけ条件が揃えば、易々と手は出せないかと」
「は、はぁ……」
質問をした記者は驚きの連続で反応が薄かった。
ISの世界シェアで五本の指に入る大企業、白き翼の企業代表。
企業のバックには世界的に有名な雪広財閥。
本人のバックには、育ての両親が所属している世界最強の傭兵団。
そして元ブリュンヒルデの姉に、どこの国も干渉不可能になっているIS学園への入学。
これだけの条件が揃えば、身の安全はほぼ約束されているようなものだ。
「正直、彼がIS学園に入学できるまで隠し通せてほっとしています」
そうネギが締めくくると、また別の記者が挙手する。
「あの、イチカ・ラカンさんに質問してもよろしいでしょうか?」
ある若い女性記者の問いかけに、フェイトはイチカへ視線を向ける。
イチカが頷くと、フェイトは質問の許可を出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます。イチカ・ラカンさんにとって、この二年はどういう思いでしたか?」
記者が尋ねたのは、イチカの心境だった。
マイクを手に立ち上がったイチカは、この質問に答える。
「正直、少し辛かったです。何の拍子に俺がISを動かせる事がバレて、どこからか狙われるんじゃないかと」
狙われても今のイチカなら、自力で切り抜けるのは容易い。
だが、一応は普通の学生のような感じで答える事にした。
「なので、俺のために尽力してくれた白き翼、雪広財閥の皆さんには感謝しています」
「イチカさんはISについてどうお思いですか?」
「……いずれ、俺がある人と交わした夢を叶えてくれる物、夢そのものだと思っています」
「その、ある人とは?」
「すいません、それはちょっとノーコメントで」
その後もイチカやネギ、あやかへの質問が次々と飛ぶ。
約二時間に渡る記者会見は、テレビで生中継され、それをイチカの知り合いも見ていた。
家庭の問題で中国に帰った鈴は、中国の国家代表候補生として、仲間達と会見を見ている。
「あいつ、やっぱり凄い奴じゃない」
弾と蘭は、呆然としつつも心の中で祝福していた。
「イチカ。お前、ちゃんと自分の居場所を掴んでいたんだな」
「イチカさんの周りの人、皆に感謝しなくちゃね。昔の私とお兄ができなかった事をやってくれたんだから」
シャルロットとマドカは、舞台袖で堂々と会見に挑んでいるイチカに見惚れる。
「兄様、やはり格好いいです!」
「イチカ、凄いなぁ。僕じゃあんな堂々とできないよ」
刀奈と虚は生徒会室にて携帯で会見を見ている。
仕事をしながら。
「ほらお嬢様、仕事の手が止まっていますよ」
「うぅぅぅぅっ。いいじゃん、少しぐらい見ててもさぁ」
簪と本音は裏家業を半分隠居した九十九と恵理と共に実家で会見を見ている。
「かんちゃん、来年にはイッチーとクラスメイトだね」
「それはまだ分からないよ、本音」
束とクロエは、電話での宣言どおり録画をしながら会見を見ていた。
「くーちゃん、録画した後の事は分かるね?」
「はい。観賞用、保管用、予備用、編集用にコピーしておきます」
ラウラは黒ウサギ隊の仲間達と共に食堂で会見を見ている。
「さすがは師匠だ。こうしてはおれん。クラリッサ、確か私宛にIS学園へ入学しないかという通達が届いていたな」
今通っている中学の友人、刀太、九郎丸、三太、夏凛、小夜子も会見を見ていた。
「凄ぇな、イチカの奴」
「うん、凄いね。僕や刀太君、三太君はまるで反応しなかったから」
「これであいつ、来年はハーレム生活だな」
「元々女子高だったのが共学になって、最初の男子生徒といった感じね」
「まるでエロゲかギャルゲのシチュエーションみたいだね、三太君」
千冬は少し散らかったリビングをさらに散らかしながら、酒を片手に寝転んで会見を見ている。
「イチカ、安心しろ。今度の場所にも、お前の居場所はあるぞ」
藤島冬也もまた、自室で会見を見ていた。
「ちっ。出来損ないが生意気な。まぁいいさ、IS学園では格の違いってやつをみせてやるよ」
そして、束の妹に当たる篠ノ之箒も。
「ふん、こいつが入学しようと関係ない。こんなゴミ、私と冬也で踏み潰してやる」
あらゆる思惑が絡み合い、IS学園を舞台とした物語が始まろうとしていた。
おまけ
会見を終えたイチカは、ようやく緊張感から解放されて大きく息を吐く。
舞台袖にいたマドカとシャルロットが戻ってきたイチカを出迎える。
「お疲れ様です、兄様!」
「お疲れ、イチカ」
二人の笑みを見て、強張り気味だった表情が緩む。
さらにそこへ、会見を見ていた弾達から次々にメールが届く。
バッチリ録画できたという束とクロエ、海外にいる鈴やラウラ。
同中の刀太達に友人関係に戻った弾と蘭ついでに数馬。
そして千冬や刀奈達からも。
届いたメールを見ていると、イチカはふと思い出した。
自分の人生の分岐点となった、義父のラカンとの出会いを。
『お前は自分の手で居場所を掴めるぜ』
あの時にそう言われ、居場所を提供してもらった。
まだ明確に自分で掴んだかどうかは分からない。
でも、自分の事を待っていてくれる人のいる場所はできた。
『まだお前が出会っていない、味方のお姉さんや友達以外の大切な人も、たくさんできるぜ』
刀奈、簪、本音、虚、マドカにシャルロット。
鈴や数馬、ラウラ、クロエ、刀太達に赤き翼と白き翼の人達。
そして仲直りした千冬。
束、弾、蘭以外の大切な人も大勢できた。
(……ありがとう、父さん)
この場にはいないラカンにこっそり感謝すると、マドカとシャルロットに腕を引かれながら会見場を立ち去った。
次回から、IS学園入学です。