IS―再生の在り方   作:時語り

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入学初日

 

 

新入生や新学期、新入社員を迎える春。

IS学園も例外ではなく、新たに入学する生徒達を迎える入学式が行われていた。

だが、新入生達は現在進行形で喋っている理事長の話はほぼ聞き流している。

彼女達の注目は、初の男子生徒である二人に向けられている。

イチカ・ラカンと藤島冬也の二人に。

彼らを目視できない女生徒は、不満そうに理事長の話を聞き流した。

 

やがて入学式が終わると、我先にと掲示板に張り出された自身のクラスを確認する。

この時、ほとんどの女生徒が自分とは別に、イチカと冬也の名前を探していた。

世界初の男性IS操縦者で、どちらも血縁上は、かのブリュンヒルデ織斑千冬の元弟。

経済的な理由で養子に出ている事は誰もがニュースで知っているため、苗字が違う事は誰も気にしない。

 

「やった! 私と同じクラスだ!」

「そんな、一組と三組だなんて……」

「何で私は六組なのよぉ!」

 

歓喜と悲痛の叫びを背に、自分のクラスを確認したイチカとマドカ、シャルロットは教室へ向かう。

イチカに向けられる好奇の視線を潜り抜け、背後から聞こえるヒソヒソ話も聞こえないふりをする。

 

「マドカ。何でそんなに不機嫌なんだ?」

 

クラスを確認した途端、ふくれ面になったマドカ。

入学に際して髪型に手を加え、サイドポニーで纏めている。

外見が千冬と同じだと色々詮索されそうだから、という事らしい。

髪と目の色がグレーなのもあってか、似ているというだけで騒ぎにはならなかった。

ちなみにふくれ面の理由は。

 

「兄様と違うクラスだからです!」

 

思い切りオープンなブラコン的解答が返ってきた。

この返答にイチカは微妙な表情を浮かべ、シャルロットは苦笑いを浮かべる。

周りで聞いていた生徒達は、妹さんなのかと話し合い、将を射止めるために馬を狙う目でマドカを見た。

 

「仕方ないだろう。普通、兄妹を同じクラスに置くか?」

「……分かっているけど、分かりたくないです。その上、アレと同じクラスなんですよ!」

 

マドカの言っているアレ。

即ちイチカの元双子の兄でマドカにとっても、遺伝子上は兄になる人物。

もう一人の男子生徒、藤島冬也。

 

「書類上はお前とあいつは無関係の他人だからな」

「こうなったら毎日のように嫌がらせをして、かつての兄様への愚行を後悔させてやります」

「その前にお前が退学になるからやめろ」

 

何やら企みだしたマドカの頭を軽く叩き、悪行を事前に回避する。

そこへ、三人の後ろから駆け足の音が近づいてきた。

 

「やっほぉ、イッチー、マドマド、シャルルン」

「ここにいたんだ」

 

やって来たのは、共に入学した簪と本音。

特例で入学したイチカとは違い、この二人とマドカ、シャルロットは正式な試験を突破した。

一応イチカも特別入学試験は受けたのだが、ほとんど形式的なもので中身は誰も気にしていない。

もっとも、ISに乗れると分かった約二年前から、ネギの指示でしっかりと勉強と実技訓練は積んでいる。

その甲斐あって、普通に受験しても文句なしで合格する結果だったので、試験管達は目を丸くしていた。

 

「よっ、二人のクラスは?」

「私は一組。マドマドとシャルルンと同じだよ」

「私は四組。誰とも同じじゃない……」

「奇遇だな。俺も一人だけで三組だ」

 

知り合いがクラスに一人でもいれば気が楽なのだが、現実はそう甘くない。

 

「そういえば、鈴とラウラってどうしたのかな? 見かけないけど」

「鈴は手続きの関係で少し遅れるそうだ。ラウラも、軍で引継ぎとか関係各所への対応、手配とかでしばらく休学してから来るんだと」

 

入学式前日、二人とメールでやり取りしたら、そう書いてあった。

 

「そっか、じゃあ全員集合はもう少し後だね」

「そういえば初めてだな、全員で顔を合わせるのは」

 

イチカを基点に広まった友人関係。

これまではメールや電話でしか交流が無かったが、ようやくほぼ全員が揃う。

休日には弾や蘭、束とクロエにも連絡を取ろうと知り合いの中で話が盛り上がる。

やがて教室の前に到着すると、名残惜しみながら五人はそれぞれの教室へと入っていった。

シャルロットとマドカ、本音は一組へ。

イチカは三組、簪は四組へと。

 

教室へ入った瞬間から、イチカへ視線が集中砲火する。

この状況は想定済みとはいえ、実際に受けてみると意外とキツイ。

 

(……想像以上だ)

 

赤き翼で経験した戦場とも、ラカン達との修行で手合わせする時とも違う圧迫感。

これまでに感じた事の無いそれに、イチカは戸惑う。

しかも席は出席番号順なので、苗字がラカンのイチカはこのクラスの最後。

窓側後方の隅に席が配置されているので普通は注目されにくいのだが、視線が集まっている。

そんなところへ、このクラスの担任らしき二人の女性が入室してくる。

席を立っていた女生徒達は席に着き、女性の一人がそれを確認して喋りだす。

 

「皆さん、入学おめでとうございます。私が三組の担任、ネカネ・スプリングフィールドです」

「副担任のアンナ・ユーリエ・ココロウァよ。アーニャで構わないわ」

 

自己紹介を聞いたイチカは、前日にネギに聞いた事を思い出した。

従姉と幼馴染がIS学園で教師をしているから、会ったらよろしくと。

その際に名前も聞いたのだが、その二人が揃って目の前にいた。

 

「じゃあ、まずは皆に自己紹介してもらうわね。出席番号一番の人から、どうぞ」

 

ネカネの指示により、出席番号順に自己紹介が始まる。

長い時間を経てトリを勤めるイチカに順番が回ると、より一層視線が集中する。

他の皆は既に自分の順番を終えているので、誰一人視線を逸らしていない。

イチカもイチカで待っている間に腹を括ったので、立ち上がって堂々と自己紹介する。

 

「イチカ・ラカンだ。趣味は鍛錬、好きな性格は素直、嫌いな事は回りくどい事。なので、俺との会話に遠まわしはいらない。ど真ん中に直球を投げ込んでこい! 新聞やニュースで色々と書かれているから気になる事は多いと思うが、時間が無いので気になる人は後で直接俺に聞きに来い!」

 

最後にビシッと親指で自分を指差す。

しばしの沈黙が教室を包み、イチカは何か滑ったかと焦る。

しかし。

 

『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

次の瞬間には、三組の女生徒達の黄色い悲鳴が教室に響き渡った。

 

「今年の私には幸運の神が付いている!」

「ワイルド系男子、モロ好みです!」

「抱いてぇっ!」

「その顔の傷、じっくりねっとり舐めさせてください!」

 

最初の方はともかく、後半は明らかに何かおかしい特に最後の。

イチカの宣言通り、ど真ん中直球を投げ込んでくれているとしたら、少々過激過ぎだ。

 

「はい、皆さん。気持ちは分かるけど落ち着いて」

 

クラスの騒ぎようにネカネが手を叩いて呼びかける。

それでも、なかなかざわめきが治まらないでいると、ネカネが微笑みながら無言で投げたボールペンが教室後方の掲示板に刺さると全員が黙った。

 

「この後は、事前に渡したカリキュラムに乗っ取り、授業が開始されます。休み時間中に教室を出る場合は、時間厳守で戻って来てくださいね」

 

ニコニコ笑顔なのに、背後に見える黒いオーラ。

それを感じ取った女生徒達は、一斉に何度も頷いて応えた。

そしてチャイムが鳴り休み時間になると、イチカの下へ女生徒達が集結する。

 

「織斑先生の弟って本当?」

「白き翼社から専用機を渡されたって噂の真偽は?」

「彼女いるの?」

「その傷はどうしたの?」

 

そして開始される質問攻め。

確かに聞きに来いと言ったが、少し女子高生の好奇心を侮っていた。

 

「千冬姉と血縁上姉弟なのは本当だよ。専用機は確かに貰っているよ、新作の第三世代のデータ取りのために。彼女はいなくて、傷は修行中にできた」

 

とりあえずは聞かれた事には正直に応えておく。

「雷天大壮」が束製作による第四世代という事は伏せておいた上で。

ちなみに彼女がいないという部分で、多くの女生徒が歓声を上げてガッツポーズをしていた。

一夏の中では、まだシャルロットや簪達は友達以上恋人未満止まりなのだ。

そこへ、教室の扉が開いて本音が姿を現した。

 

「おぉい、イッチー」

「あれ、どうかしたのか本音」

 

あだ名と名前で呼び合う二人に、一瞬ざわめきが起こる。

しかしすぐに、彼女いない宣言を思い出し治まる。

おそらくは知り合いなのだろうと、会話に注目する。

 

「ちょっと込み入ったお話があるから、屋上いいかな?」

 

お願いと言っているように、両手を合わせている。

よほどの事があったのかと思い、頷いて二人で屋上に向かう。

屋上に到着すると、マドカとシャルロット、四人の見知らぬ女生徒がいた。

その四人のうち二人は、イチカを視認するとシャルロットの後ろに隠れてバツが悪そうに俯く。

 

「何かあったのか?」

 

とりあえずはマドカに尋ねてみると、俯いていた二人の背中を押してイチカの前に押し出す。

 

「この二人が、兄様に言いたい事があるそうだ」

 

押し出された二人は、顔を見合わせた後にイチカに視線を向ける。

 

「え、えっと……久し振り……」

「覚えている、かな? 鷹月と夜竹っていうんだけど……」

 

オドオドしながら告げられた名前に、イチカは思い出した。

まだイチカの苗字が織斑だった頃。

苛めの対象になるのが怖くて、人前では何もしなかった二人のクラスメイトの女子。

散々殴られた後に誰もいなくなると、ハンカチを出して唇を切った出血を優しく拭ってくれた。

掃除を押し付けられて一人で掃除をしていると、当番でもないのに手伝ってくれた。

仕返しや標的にされるのが怖くて、他に何もしてあげられないからと毎回謝りながら。

 

「うん、今思い出した。久し振――」

『ごめんなさい!』

 

再会を喜び合おうと思った瞬間、二人は揃ってイチカに頭を下げた。

 

「怖くて、五反田君みたいに表立って助けてあげられなくて」

「蘭ちゃんみたいに寄り添って傍にいてあげられなくて」

『本当にごめんなさい!』

 

その姿を見て、イチカは重ね合わせた。

弾と再会した時の事を。

あの時も弾から、結局何もしてやれなくてすまない、と土下座で謝罪された。

かつての一夏からすれば、友人でいてくれるだけで、隠れながらでも味方でいてくれるだけで。

それだけでかげがいのない大切な存在だった。

なのに、弾も目の前の二人もそれ以上にイチカの事を大切に思っていた。

よほど当時の自分の状態は酷かったのだろうと、イチカは改めて感じた。

 

「顔を上げてくれよ、二人とも。俺自身は、あのくらいの助けでも凄く嬉しかったんだから」

「でも……」

「私達がちゃんと助けていれば、お別れすることも無かったかも、ってずっと思ってて」

 

子供ゆえに加減をしらない罵倒や暴言、暴力。

傍から見れば恐怖でしかないそれに、当時の夜竹も鷹月も震えていた。

助けに入ったら、自分達も同じ目に遭うと想像しながら。

 

「養子に出て転校した後になって、皆で一念発起して反冬也派として堂々と立ち上がったんだけどね」

「……知らなかったな。そんな派閥が存在する事も」

 

当時のイチカにすれば、周りのほとんどが敵に見えていた。

なので、反冬也派など見分ける余裕は無かった。

 

「さすがは兄様です! あの自意識過剰とは大違いです!」

「何がさすがなのか分からないけど、あいつ早速何かやらかしたのか?」

「自己紹介が自慢と自己主張と、ISを動かした事に対する顕示欲の塊」

 

シャルロットからの説明を聞いて、以前と変わっていないと溜め息を吐く。

本音からの補足によると、クラスの女子の印象もあまり良くないらしい。

ほんの一部を除いて。

 

「ともかく、夜竹さんと鷹月さん。昔の事を悪いと思っているなら」

 

緊張が夜竹と鷹月に走る。

何を言われても受け止める覚悟はあるし、お詫びを求められれば応えるつもりだ。

だが、イチカが求めたものは。

 

「今度は本当に、堂々と俺の友達になってくれよ」

 

そう言って笑顔で手を差し出すイチカ。

返ってきた内容に二人はポカンとする。

だが、じわじわと何かが溢れてきた。

狙われるのが怖くて、何もしてあげられなかったのに、まるで気にしていない。

それどころか、友達になろうと手を差し伸べてくれている。

あの頃とは比べ物にならないほど、明るい笑顔で。

周りを見れば、そんな彼の友人達と義理の妹が笑っている。

付き添ってくれたクラスメイトの二人も、背中を叩いて返事を促している。

溢れてきた何かは目じりに溜まり、ボロボロと零れる。

それを拭う事無くイチカの手を取った二人は、ようやく過去の呪縛から解放された。

 

「ありがどう……」

「今度は絶対、逃げないがら……」

 

しゃがれた声でイチカにお礼を告げる。

周りも、もらい泣きのようにホロリときたのか目元を拭っている。

そこへ聞こえる始業チャイム。

 

「あっと、時間だ。じゃあ皆、話はまた後だ」

「急ぐぞ皆! でないと千冬姉様の出席簿クラッシュが頭上に振り落とされる」

 

どうやら、一組の担任は千冬のようだった。

ギリギリ間に合ったイチカの耳に、何か叩く音が二回聞こえたのは数分後のことだった。

後で聞いたら冬也と、同じく一組になった篠ノ之箒への遅刻の御仕置きだったそうだ。

 

昼休み。

周囲の視線に耐えながら、イチカは前の休み時間に屋上で会ったメンバーに簪を加え、昼食を摂っていた。

 

「ところで、そちらの二人は誰? 完全に初対面なんだが」

 

時間が無かったので、休み時間に名前を聞きそびれた二人。

マドカ達と共に夜竹と鷹月に付き添っていたのだから、同じ一組なのだろう。

 

「新しい友達だよぉ」

 

名前を聞きだす前に関係を口にする本音。

基本的に人畜無害で常にのほほんとしている彼女は、どこでも友人を作ってくる。

中学時代は修学旅行先で他校の友人を作ったという話もある。

さらには言葉の通じない外国人と身振り手振りだけで仲良くなった、という逸話まで。

 

「一年一組出席番号一番、相川清香です! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」

「同じく一組の谷本癒子です、よろしく」

 

元気よく自己紹介をする相川と、軽く会釈する谷本。

予想通り、同じ一組の生徒だった。

 

「知っていると思うけど、初対面だから言っておく。イチカ・ラカンだ、よろしく」

 

箸を置いて軽く頭を下げるイチカ。

 

「本音の幼馴染で四組の更識簪です」

 

同じように箸を置き、名前に本音との関係を添えて会釈する。

全員の名前が知れると、食事中の会話も盛り上がる。

周囲の席にいる席にいる女生徒達は、どんな事を喋っているのかと聞き耳を立てている。

そんな事を気にせず楽しく食事しているイチカ達に、複数の影が近づく。

それを目視したマドカと夜竹、鷹月は渋い表情になる。

背後からの気配を察していたイチカは、三人の表情を見て誰の気配かを察した。

 

「よう、雑魚一夏。こんなところで何してんだ? さっさと薄汚いゴミ溜めに帰りな」

 

かつての呼び名を口にした、旧姓織斑。

現藤島冬也。

傍らには偉そうに腕を組んでいる束の妹、篠ノ之箒。

そしてIS学園で再会した、かつての一夏を苛めていた側の女子数名。

鷹月と夜竹がいたのだから、他にもかつての知り合いがいても不思議ではない。

なにせ、IS学園には全国どころか世界中から入学希望者が殺到するのだから。

三組で見た顔がいないので、余所のクラスにいたのだろう。

 

「何をしているのか、見て分からないなら眼科に行く事をお勧めするぞ」

 

この一言を切っ掛けに、周囲に不穏な空気が流れる。

 

「おい、誰にそんな生意気な口をきいているんだ?」

「今、俺が喋っている相手のお前だよ。そんな事も判断できないとはな」

 

振り向きもせず、挑発するようにわざと大げさに溜め息を吐く。

すると冬也は昔の記憶のままのイチカだと思い込んでいるせいか、昔のように力で従えようとする。

 

「雑魚が俺に逆らうなぁ!」

 

後頭部に向けて振り下ろされる拳に、様子を見ていた女生徒達から悲鳴が上がりかける。

だが、その悲鳴が食堂に響く事はなかった。

なぜなら、振り下ろされた拳は受け止められていたからだ。

振り向きもせず、右手に箸を持って食事を続けているイチカの左手によって。

 

「なっ!?」

 

受け止められるとは思っていなかった冬也は驚き、思わず拳を引く。

すぐにまぐれだと思い、再度拳を打ち込もうとする。

大丈夫だろうと見守っていたマドカ達も、二回目となると割って入ろうと席を立ちかける。

そこへ、第三者が介入する。

 

「そこまでよ」

 

真横からの声と同時に冬也の喉下に扇子が触れた。

突然の事に冬也の動きは止まり、視線だけ声の聞こえた方向へと向ける。

そこには刀奈が鋭い目つきをしながら、扇子を冬也の喉元に押し付けていた。

 

「なんだ、お前は!」

 

リボンを見れば先輩だと分かるのに、気付かぬ箒は怒鳴る。

だが、彼女はそんな程度の事など気にしない。

分からなければ分からせるだけだからだ。

 

「私はIS学園生徒会長、二年の更識楯無よ」

「せ、生徒会長!?」

「一部始終は見させてもらったわ。藤島冬也君、暴行の現行犯ね。この事は生徒会から担任へ報告させてもらうわね」

 

生徒会長という立場の人物からの通達に、冬也は焦る。

 

「なっ!? これはこの雑魚の暴言に対する粛清で」

「そ、そうです! 冬也は何も悪くは」

 

冬也を擁護しようと箒が口を挟む。

しかし、刀奈は強い口調で反論する。

 

「一部始終を見たと言ったでしょう。彼に対して挑発と暴言を吐き、喧嘩腰でいたのは君よ」

「それ加えて、暴力行為の現行犯です。目撃した以上は生徒会として見逃すわけにはいきません」

 

生徒会で会計に所属している虚も加わり、勧告を続ける。

両手にトレーを持っているが、おそらく片方は刀奈の昼食なのだろう。

 

「なお、イチカ・ラカン君は受け止めただけですので、防衛行動と受け取らせていただきます。ただ、挑発をされたからといって、口でとはいえやり返すのは止めるように」

 

一応は公平な立場の生徒会役員なので、イチカの挑発と取れる言葉に注意を促す。

 

「分かりました。どうもすみませんでした」

 

イチカはそれに返事をし、起立して刀奈と虚に頭を下げる。

だが、冬也は何もせずにイチカと刀奈を睨んでいる。

なので、生徒会長として刀奈は容赦なく通告した。

 

「藤島冬也君、君は後で担任からのお説教、それと反省文か課題くらいは覚悟しておきなさい」

 

扇子を喉下から放し広げると、有罪判決という文字が出る。

それを見た冬也は、忌々しい表情をして食堂から足早に出て行く。

付き添って一緒に出て行く箒達も、憎らしい表情をしていた。

 

「助かりました、か――楯無さん」

 

思わず本名を言いそうになったが、どうにか楯無の名を口にする。

後を継いでからはこっちの名前になったそうなので、人前ではこっちで呼ぶようにと言われていた。

 

「気にしなくていいのよ。イチカ君の奥方として当たり前の事をしただけよ」

 

さらりと述べた発言に、辺りが悲鳴と驚きの声に包まれる。

 

「ちょっ、人前で何を――」

「そうです! 兄様には本妻の私がいます!」

「僕が奥さんなんです!」

「お姉ちゃんでも、伴侶の座は渡さない!」

 

次々と名乗りを上げるマドカ、シャルロット、簪。

その度に辺りから黄色い歓声が上がり、所々から修羅場という言葉と好奇の視線が飛ぶ。

 

「イッチー、私は愛人で大丈夫だからね」

「……そういう問題じゃない」

 

睨み合う四人を放置し、蹲って頭を抱えるイチカに本音が声を掛ける。

それはそれで同席している一組の四人は驚いた。

もはや慣れた上に自分は無関係だと割り切った虚は、黙って席に着いて食事を始めた。

ちなみに冬也は放課後、千冬による説教を一時間ほどされたが反省の色が見えないため、今日の授業の復習課題が与えられる運びとなった。

 

 

おまけ

 

騒がせたお詫びにと刀奈がジュースを奢ってくれるというので、自販機の前に来た。

しかし、並んでいる品を見て相川、谷本、夜竹、鷹月の表情が曇った。

なぜなら、自販機の品というのが。

 

抹茶コーラ

トマトミルク

豆乳オレンジ

カルピスココア

エスプレッソジンジャー

なしミルク

肉汁ソーダ

ラー油マスカット

Etc…

 

どれもこれも変な飲み物ばかりだからである。

二年生や三年生は慣れているのか、普通に買っている。

だが、一年生はチャレンジャーな生徒がチラホラ買っているだけだ。

四人が顔を見合わせて困っていると。

 

「へぇ。このメーカー、IS学園にも納品してたんだ。私、ウーロンカプチーノ」

「私はヴァイオレットアップルだぁ!」

「僕は飲む紅茶ヨーグルト」

「私はトマトミルクにしよっと。兄様は?」

「じゃあ、グレープコーヒー」

 

簪、本音、シャルロット、マドカ、イチカの順で普通に飲む品を選んで購入してもらう。

購入した刀奈にそれを渡されると、ストローを差して普通に飲みだす。

 

「えっと……ラカン君達、この飲み物をどうとも思わないの?」

 

おそるおそる相川が聞くと、同じメーカーが白き翼にも納品していると返ってきた。

白き翼の自販機は全て、こんな感じの品揃えだそうだ。

 

「最初は驚いたけど、慣れちゃったよね」

「飲んでみるといけるよ?」

「たまにハズレがあるけどね」

「初心者には抹茶コーラがお勧めだ」

 

この後、お勧めに従って抹茶コーラを飲んだ四人は奇妙で不思議な味だが、意外な旨さに驚くのだった。

 

 

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